魔法少女リリカルなのはStrikerS protect one wish.   作:イツキ

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第四話 迷子探しの中で

「ん~っ! やっと着いた~っ!」

 

「もう、スバル。恥ずかしいからそんなに大きな声を出すのは止めなさいよ」

 

 移動手段として用いたバスから降りた後、ぐっと背筋を伸ばしながら大きな声を発することで周囲から多少なりとも注目されることになったスバルに対してティアナが注意の言葉を口にする。

 

ランクB昇格試験から数日が経ち、はやてが設立する機動六課への配属を間近に控え部隊長から最後の準備時間として本来のシフトは別に二日間の休暇をもらう事となったスバルとティアナの二人は、初日に新たな生活の場となる宿舎への引っ越しを済まし、息抜きを兼ねた最後の買い出しを目的として中央地区のクラナガン近くにある商業地区へと訪れていた。

 

 今日は世間一般的にも休日であるということもあって商業地区は賑わいを見せており、周囲を見回せば結構な数の人や車が周囲を行き来しているのが見える。そんな街の中を二人は色々な物へと視線を奪われながら進むスバルが結果的に先導する形で歩き始めた。

 

そしていくつか店舗を回った後一度休憩を取ろうという話になり、それに適したスペースが確保されている大型の広場の方へと足を向けていた。

 

 

「結構お店を回ったけど、もうティアは欲しいものは全部買えた?」

 

「そうね。一応予定してたものは買えたと思う。やっぱり一度実際の場所を見てからじゃないと分から「リカーっ! どこにいるのーっ!」

 

 

 スバルの問いかけに対して予め用意していたリストを見ながら話していたティアナだったが、少し離れたところで周囲を見回しながら歩く女性の大きな声が耳に入ってきたことでそれを中断する。

 

先程の大声と一見して分かり焦った様子からある程度の予測ができた二人は一度互いの顔を見合わせて意見を一致させた後にその女性の方へと走り寄った。

 

 

「あの、急に話しかけてすいません」

 

「さっき誰かに呼び掛けているような声を出していたと思うんですけど、もしかしてお子さんが迷子に?」

 

「そ、そうなんです。さっきまでは一緒にいたんですけど、遠くのところで何かしら大きな音が鳴った際に娘が手に持っていたお菓子を落としてしまったので、それの処理をしていたらいつの間にかリカがどこかに行ってしまったのか何処にもいなくて……初めて来た場所で一瞬でも目を離してしまった私が悪いんです……」

 

 

 その時の自分の行動を思い出して後悔しているのか、落ち込んだ様子の女性を心配そうに見ていたスバルは少し考えるような仕草を見せた後にティアナの方へと視線を向ける。

 

少ししてその視線に気がついたティアナはすぐにその視線の意味を察したのか、首を縦に振る。そしてそれを確認したスバルは声こそ発しなかったが「ありがと」を口を動かした後に女性の方へと向き直って改めて口を開いた。

 

 

「リカちゃんのお母さん、良ければ私達にもリカちゃんを探すのを手伝わせてください。そうすればきっとすぐにリカちゃんを見つけることが出来ると思います」

 

「ここに来たのは初めてっておっしゃっていましたね? 一応この広場、大きいだけあって管理会社の待機所があるんです。もしかするとそこに行けば何かしらわかるかもしれませんし、宜しければ私が案内します」

 

「……本当ですか! とても助かります、本当に、本当にありがとうございます!」

 

 

どうするべきか悩んでいたところでの助けとなったスバル達の言葉に感極まってしまったのか、少し間を置いた後に女性は目元に涙を見せながら感謝の言葉を口にした。

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

「ちょっとだけ煩くしちゃったけど、あれで今日の目的は達成っと」

 

 

 数日前にクラナガンからの道を歩いていた少年が、その日と同じようにパーカーを深めに被りながら多目的広場の一角をゆっくりと歩いていた。

 

ただ、先日と異なるのはそのパーカーが軽く埃をかぶっているのか暗めの色ながらも白く見える部分がある事と、頬には小さくだが煤のような黒いものがついている事だった。

 

 

「この後は特に急ぐ用事も無いし、少しぐらいは寄り道しても……ん?」

 

「うえぇぇぇん! お母さん、どこぉぉぉっ!」

 

 

 パタパタと軽くパーカーの頭頂部を払いながら少年が周囲を見渡していると、少し離れた場所に大粒の涙を流しながら泣いている一人の女の子の姿を見つけた。

 

動きやすそうながらも少し着飾ったかのように見える服装の女の子はその場に一人座り込んで泣いていて、先の言葉と状況からおそらく母親と逸れてしまったのであろうことが容易に想像することが出来た。

 

 

「………………」

 

 

 今少年と女の子が居るところは広場の中でも人が来ることが少ない箇所に位置しており、こうして女の子が泣いていても周囲に人の気配を感じる事は出来ず、少年は少しの間その場に佇んでいたが口元に僅かに笑みを浮かべた後にゆっくりと女の子の方へと歩み寄っていった。

 

そして女の子の目の前まで到着すると同じように腰を下ろし、極力女の子が自分のことを見上げる必要がないように目線を合わせた後に声をかけた。

 

 

「急に話しかけてごめんね? お母さんのこと呼んでたけど、もしかしてお母さんと逸れちゃったのかな?」

 

「ふぇ?」

 

 

 少年に声をかけられた女の子は泣くのを止めて視線を少年の方へと向ける。ただ反応こそしたが、女の子からすると初対面の人から突然声をかけられたせいか不安そうな表情でどうするべきか悩むような仕草を見せる。

 

だが少しして少なくともその場から離れるという選択肢は取らなかったようで、少年の問いかけにゆっくりと首を縦にふった。

 

 

「あのね、お母さんとここまで一緒に来たんだけど、途中でリカのお菓子がこぼれちゃってお母さんがそれを見てリカの手を放しちゃったの。だけどリカ、歩くのやめないでずっと歩いちゃってて、気がつくとお母さんと離れちゃった……」

 

「そっか……多分、落ちたお菓子を片付けようとしてたのかな? そうなるとこの後どうするべきか……安易に管理局に通報する訳にもいかないし……」

 

 

 女の子の言葉からこのような状況になった理由に何となく目星をつけた少年は迷子となっているこの女の子をどうするべきか考えるようにポリポリと頭を人差し指で軽くかき始める。

 

こういう時、本来ならすぐにこういった広いところで迷子を見つけた際には管理局に連絡を入れて保護してもらうことが一番なのは少年も分かっていたが、その行動は選択肢から外していた。

 

 そうなると妥当そうなのはこの女の子を連れて母親を探すことだったが、それは下手な動き方をしてしまうとその母親とすれ違いになってしまい、本来見つけてもらえる筈だった機会を逃してしまった結果会えない可能性も生まれてきてしまう。

 

 

「……それじゃあ誰かがリカちゃんを見つけてくれるまで、お兄ちゃんが一緒に居てあげるね。そうすれば少しは寂しくなるなるかな?」

 

 

 考えた結果、少年はこの場に留まることを選択して女の子へこのまま一緒に居てよいか確認の言葉をかける。その問いかけに女の子は先程と同じように少し悩むような仕草を見せた後に先程と同じようにうなずいた。

 

 

「……うん、お兄ちゃんが一緒だったら、リカきっと寂しくないよ」

 

「そっか、それなら良かった……お母さん、早く見つけてくれると良いね」

 

 

 女の子から一緒に居ることに許可をもらえた少年はとりあえずこれからの事が決まったことに満足したのか、一度安堵の表情を見せた後に女の子の頭をあやすように何度か優しくなではじめた。

 

その優しい手つきに最初は驚きからか少し強張っていた女の子だったが、じきに警戒心を解いて嬉しそうに目を細めるようになっていた。

 

 

 

――――――――――

 

 

「リカちゃーん! 何処にいるのー! 聞こえたら返事してー!」

 

 

 待機場の方へと向かうティアナとリカの母親と別行動をとって先行してリカを探すことにしたスバルは、一人声を張りながらその姿を見つけるべく周囲を見回しながら走っていた。途中で人とすれ違った際にはリカのことを見かけなかったか母親から預かったリカの写真を見せながら聞き込みも行っていたが、運の悪いことに人通りの多い場所には行っていないのか、特に有力な情報を得ることが出来ずにいたため、広い敷地内でも人通りが少なそうな範囲まで足を運んでいた。

 

 

「こんなに探してもいないなんて……こういう時、広域用の探知魔法とか使えれば良いんだけど私そういうの苦手なんだよね。こんな事ならティアにコツとか教えてもらうんだったよ……ん?」

 

 

 訓練学校や部隊での訓練で学ぶ機会のあった探知魔法だったが、あいにくスバルはそこまで得意としてなく現状で有効に活用できるレベルではなかった。

 

その為、現在進行形で行っている地道な捜索になってしまっていることに一度足を止めて後悔の言葉を口にしたスバルだったが、僅かに乱れていた呼吸が整ってきたところで今居る場所から更に奥の方から僅かに子供が笑うような声が聞こえてきたように感じた。

 

 

「もしかしてこの声っ!」

 

 

 こういった人が来ることが少ない筈の場所で子供の声が聞こえてきたことに一つの希望を感じたスバルは、すぐにその声が聞こえてきた方向へと再度走り、少し開けた場所へと到着すると同時に周囲を見回すことでちょうどスバルの居る位置からは少し木の陰に隠れるようになっていたベンチに座るリカだと思われる女の子の姿を見つけることが出来た。

 

また更に目を凝らして見てみると、ベンチの前にはパーカーを来た誰かが立っていて何かしらジャグリングのような事をしてベンチに座る女の子の興味を引いているようで、スバルは万が一その女の子がリカでない可能性を考えて逸る気持ちを抑えながらその二人の方へと歩み寄っていった。

 

 

「あの、すいません。もしかしてその女の子は……っ!?」

 

 

 そしてベンチの側まで歩いてきたところで、スバルはまずパーカーを着た人物に向けて女の子が自分の探している子ではないか確認の言葉を口にしようとしたが、それは近づいたことで視認できるようになったその手に持ったジャグリングに使用していた物を認識した際の驚きで口が動かなくなり、言い切られることがなかった。

 

 

「え? お姉ちゃん、リカのことを知ってるの?」

 

「……そっか。無事お迎えが来たんだね。それじゃあリカちゃん、サヨナラだ」

 

 

 彼女の立場からすると初対面であるスバルから自分の名前が出てきた事に不思議そうな反応を見せる女の子ーーリカに対して、状況を察したのか対面に立っていた誰かは近くに来たことでスバルからも見えるようになった口元に軽く笑みを浮かべた後にリカへと小さく手を降りながら振り替えることなく後退り始める。

 

それに対して先程の驚きからまるで人形のように動きを止めていたスバルが気がつき、改めて口を開くがその言葉は先の物は異なるものになっていた。

 

 

「あっ、あの! ちょっと待って! 私、貴方に聞きたいことが!」

 

「申し訳ないけど、多分僕は君の問いかけに答えることが出来ない」

 

 

 スバルの問いかけの言葉に回答を返すつもりがないことを示したパーカーの少年はその足を止め、ジャグリングに使用していた銀色に光る球体から一つを改めて手に取る。

 

 

「それじゃあリカちゃんの後の事は君に任せるよ。じゃあね」

 

 

 そしてそれを強く握りしめたと思うと、少年の足元に銀色の魔方陣が描かれたのを見たスバルは改めて呼び止めようと動いたが、それより先に少年の姿はその場から消えてしまっていた。




なかなか六課設立までたどり着かないですが、ペースとしては六課が設立されれば多少は早くなるかもです。

また、今後の活動の参考にしたくアンケートを用意させていただきました。良ければ回答いただけると幸いです。

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