回復術士の筋肉鍛え直し   作:三柱 努

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筋肉よ 永遠に

黒い力・プローム王の消滅により、闇の支配影響下から解放されたジオラル王国。

4人の勇者は崩壊した王宮に立っていた。

「終わりましたね、皆さん」

「さすがですコーチ」「やったな兄貴!」「師匠、ついに僕たちやったんですね」

ケヤルの腕や足に抱き着く3人の勇者たち。

するとケヤルは片膝を地面についた。3人の重みに耐えられないほどに消耗していたのだ。

「大丈夫ですかコーチ」

「ええ、なんとか。もし今、毒入りの紅茶でもいただいたら、流石に死んでしまうでしょうけどね」

ケヤルがフォフォフォと笑うと、前科のあるフレアは顔を真っ赤にして「いやですわコーチ、そんな悪い冗談!」とケヤルの肩を叩いた。

「姫様・・・いえ、女王フレア様」

するとブレイドとブレットはその場で跪いた。

「女王殿下におかれましては、此度の僕ら・・・我らの愚行への恩赦を頂きたく。どうか、我らの身を存分に使役願います」

「先王の遺した悪しき慣習、王宮、王国の復興が山積しております。我ら勇者、殿下の一助にすらならぬやもしれませぬが、全力でこの身を捧げる次第でございます」

地面に接するくらいに頭を下げる2人に、フレアは優しく微笑みかけた。

「お二人とも、面を上げてください。私とて愚行は同じこと。筋肉の導きが無ければ踏み外していた道。コーチの導きによって目を覚ますことができた仲間です」

そう言うとフレアは2人と共にケヤルに顔を向けた。

「コーチ、いえ勇者ケヤル殿。王国復興、奴隷解放のため、どうか私たちにお力添えをいただけませんか?」

フレアがマントをふわりとなびかせ跪く。

だが、ケヤルは静かに首を横に振った。

「いいえそれはできません。我は筋肉しか能がない男。かつてはインナーマッスルになるなどと大望をほざいておりましたが、今となっては身の丈に合わぬ妄言だったと反省しているくらいです」

「そんな、コーチの筋肉は皆を救う素晴らしいマッスルです! ご謙遜なさらず」

「それに、我がおらずともフレアさん。貴女にはこの国を導く力があります。素敵な仲間も、胸に残る失いながらも残り続ける仲間も」

ケヤルはそう言うと素足になった右足を大きく持ち上げた。

「不要の筋肉に安らぎを。我に隠居をお許しください。自分で作り上げた安息の地・【聖筋肉領域】へと、我はこの身を封じたいと思っております」

「そんな兄貴! そこに入ったら、筋肉量を5%も増やさなきゃ出て来られない」

「いえ、自分自身にかけると効きすぎてしまうので、ざっと50%です」

「師匠の筋肉量はもう限界を突破している。そこからさらに50%なんて・・・」

「ええ、おそらく一生出て来られないほどでしょう。ですがそのほうが綺麗さっぱり、あと腐れなく済むお話ですよ」

そう言うとケヤルは自らの肩に足を回した。

「さようならです。フレアさん」

「さようなら、コーチ」

そう言い残し、ケヤルは王宮から姿を消した。

 

巨大な肉の塊が抜け落ちた広間。心までポカンと穴が開いたような寂しさが漂っていた。

だが、彼女は笑っていた。

「あははははははははは! やっと消えてくれたわ。全て計画通り!」

フレアのニヤついた笑い声が廃墟に響き渡る。

「さすがですフレア様。まさかプローム王だけでなく、ケヤルまで排除するとは」

ブレットもまた邪悪な笑みを浮かべフレアを称賛する。

「ええ。【聖筋肉領域】なんて厄介で不便な魔法も、ようは術者次第よ」

「さすがは僕らの【術】の勇者だ。敵を強化するだけで、解除も自在にいかない不便すぎる魔法が、こうも全てを円満に収めるなんて」

腹を抱えて笑うブレイドに、フレアは「笑いすぎよブレイド。兵たちに見られたらどうするの?」と軽く揶揄した。

「さあ、ここからが忙しいわよ。新しいジオラル王国が、私たちが世界を支配するの」

そう宣言したフレアに従い、ブレットとブレイドは兵たちの元へ闊歩していった。

残されたフレアは王座にドカッと座り込む。

 

その懐の中に入れた手には、氷狼族のお守りがギュッと握られていた。

 

 

 

 

こうして新生ジオラル王国は始動した。

以後1万年以上も続く世界統一国家の始まりの物語・・・

その真実は誰の口からも語られることはない。

 

 




=後日譚=

・【砲】の勇者ブレット

 救国の勇者として人々から讃えられ、ジオラル王国の発展に大きく貢献する。
 後に孤児救済や児童福祉、大人からの虐待から子供たちを守る活動に尽力し、残る人生の全てを子供のために捧げ、【ジオラルの父】と後世まで語られる存在となった。


・【剣】の勇者ブレイド

 救国の勇者として人々から讃えられ、ジオラル王国の発展に大きく貢献する。
 特に女性への暴力を厳しく取り締まり、女性の権利と女性活躍の活動に尽力した。
 浮いた噂話は無かったが、その周りには男女問わず彼女を慕う人で溢れたという。


・【術】の勇者フレア

 新生ジオラル王国を世界統一国家に育て上げる。
 魔族との相互交流、亜人奴隷の解放運動、全世界の人権民主運動、少数種族の保護と活躍分野の開拓など、その功績は数えきれない。
 1万年経った後にも聖女として語り継がれ、その名に並ぶ者は現れていない。












・【癒】の勇者ケヤル

 【聖筋肉領域】発動から1日後、「聞こえていますよ」の一言と共に復活。
 ジオラル王国の中枢から、王国の要人に平均10回の洗脳(聖筋肉領域)を施行し、国の正常化に大きく、あまりにも大きく貢献する。
 その後、統一ジオラル王国初代国王となり、人間、エルフ、妖精、獣人、魔族に妖怪、天使に悪魔。あらゆる種族が混在する世界を作り上げ、その発展に人生の全てを捧げた。



~Fin~
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