一週間ほど前、新たな勇者の誕生が探知され急遽、女性冒険者限定の募集が始まった職がある。
勇者専属の使用人。
一流の冒険者であれば、その報酬は【レベル上限上昇】なのだとすぐに察するであろう。
勇者には4つの専用スキルがある。
【クラス能力の強化】【レベル上限の解放】【経験値上昇】、そして【他者のレベル上限上昇】である。
『魔力を込めた体液を与えることで、低確率で他者のレベル上限+1』というこのスキル。
体液とは、男性勇者であれば命の源である精液を指している。
つまりこの募集は新勇者の夜伽の相手の募集であり、若き勇者の懐柔を兼ねたものなのだ。
そして集められたのは、レベルが上限かそれに匹敵する強さを持ち、かつ少年を懐柔するに適した美貌の持ち主である5名の女性冒険者。
これより勇者のメイドとして、交代で日々の世話と夜の性交を担うこととなる。
『それにしても、変な話ね』
女性使用人の1人は、かねてよりそう考えていた。
レベル上限の突破という、まるで精霊の泉にでも宿っていそうなこの加護が、何故か『勇者の陰嚢』にしか宿っていないという現実。
『この世界の“レベルを司る神様”は馬鹿なの? それとも世界を創造したときに居眠り運転でもしていたの? 随分と滑稽な場所に宿ったものね』
しかもこのジオラル王国に勇者は3人しかおらず、うち2名は女性。
では“祝福されし金玉”をお持ちの男勇者はというと・・・ガチムチの少年趣味のゲイという。
『この国は本気で魔族と戦う気があるのかしら?』
少なくとも、勇者以外のレベル上限突破のために金策でも何でもいいから他の国のマトモな男勇者をスカウトしておこうという発想は無いようだ。
そうでなければ、よっぽど国レベルで勇者に嫌われているとしか思えない。
という国の施策の話を一冒険者が悩んだところで意味は無い。
いよいよ件の勇者がジオラル王国に到着するのだ。
メイド服を身にまとい、勇者の到着を待つ。
『勇者に覚醒したばかりだから、成人したての14歳ね。どんな子かしら、お姉さんが美味しく手厚く導いてあげないと』
話が違う。彼女は一瞥してそう感じた。
勇者ケヤル、14歳と7日。と聞いている。
彼女が歴代のパーティで組んできた大男の戦士に匹敵するほどのゴリゴリが、そこには立っていた。
『・・・発育の暴力。だけどまぁ、あのくらいの“サイズ”なら、むしろ楽しめるかも』
玉座の間へと入っていくケヤルの背を見送り、彼女は舌なめずりした。
それから勇者ケヤルは国王への謁見、簡単な勇者としての心構えの勉学、礼儀作法の講習と実践と。忙しい1日を過ごしようやく、あてがわれた自室でリラックスしていた。
そんなケヤル室の前に、今宵の夜伽の相手である使用人の彼女は立った。
『あの巨体に抱かれるだけでレベル上限突破。たまらないわ』
はやる気持ちを抑えつつ、扉をノックして入室する。
口説き文句は決まっている。見た目・体格はどうであれ中身は14歳の少年。大人の女の一途で健気な押しには抗えまい。
「勇者様、私。勇者様を一目見た時から、恋に落ちてしまいましたの」
あっ、これ無理だ。
リラックスしたケヤルの姿を見た彼女は一目で察した。
彼女だけではない。フレアと彼女の護衛の騎士以外、“それ”を知る者は王都にはいない。
ケヤルはずっと全身に力を込めて、“普通サイズ”に身を縮こまらせていたのだ。
そして今、王都に入って初めてリラックスして力を緩め、本来のトゥルーフォームである巨人サイズに戻っているのだ。
そんなケヤルに“恋に落ちる”のなら、それは絶対に外観ではなく中身に惹かれたとしか言い訳できず、“一目見た時”は成立しない。
「ん? どうかされましたか?」
ムクッと体を起こしたケヤルに見下ろされ、『嘘をつけば殺される』と彼女の脳裏に警告がよぎる。
「え・・・いや・・その、勇者様が・・・えっと・・・」
勇者の童貞を奪いに来ました。なんて正直に言っても殺される。逃げ道は無い。
絶望する彼女に、巨人ケヤルは静かに口を開いた。
「分かっています。勇者の精液を摂取しレベル上限突破がご所望なのでしょう。切迫したご事情のところ申し訳ありませんが、我とて貞操は守りたいもの。ご理解頂きたい」
『恥ずかしい。いい大人が清純な少年(?)に何をしようとしているの』
彼女は顔を真っ赤にしてうつむいた。
一応ではあるが、ケヤルは前の人生で既に経験済みであり、童貞ではない。
「そもそもレベル上限解放の勇者スキルですが、体液なのでしょう? 汗では駄目なのですか?」
「えっ? それは・・・『魔力を込めた体液を与える』ですので、魔力が込められていないと・・・」
彼女も自分で口にして初めて不思議に思った。
そもそも精液に魔力を込めるとは? 込める意味が無い場所に?
もし仮に『勇者の体は無意識に精液に魔力を込めてしまう』のだとしても、それなら汗の方にも自然と魔力が込められていて不思議ではない。
むしろ手から魔法を放つのだから、手汗とかのほうがバンバンに魔力が込められていそうだ。
逆に何処の世界に尿道から放つ魔法があるだろうか? そんなもので倒される敵が可哀そうであろう。
「汗でよろしければ、明日の剣術指南の際にでも差し上げます。いかがでしょうか?」
夜這いの咎を逃れられるだけでなく、より可能性の高いレベル上限突破の機会を頂けるのであれば、彼女に反対する理由は無い。
ただ一つ、彼女が見落としているものがあるとすれば、明日のケヤルの訓練後に彼の手の平をペロペロと舐める羞恥プレイに至ることだけだろう。
翌日。
前日と同じようにケヤルは勉学と講習を、そしてこの日から王宮騎士から剣術指南を受けることになった。
が
『剣術を教えるべきなのか?』
今まで数々の兵士を育て、剣聖にすら指導したこともあるベテランの王宮剣士長は、ケヤルの訓練を前に悩んでいた。
ケヤルの体が昨日より大きくなっている気がするのもその1つ。剣士として、一度見た者の体格を失念するとは耄碌したものだと。
だがそれ以上に、ケヤルに試しに持たせてみた剣に問題であった。正確には、試しにケヤルに剣を持たせてみたことが問題であった。
いくら訓練用の小さめの木刀とはいえ、まるで爪楊枝。人の倍以上の体躯を持つケヤルは、剣を手で握っているのではなく、指で摘まんでいる。
剣術とは、非力な人間が編み出した“実戦闘力以上の力”を引き出す触媒である。1を3にも10にもするものだが、人体のあらゆる関節を駆動させることが前提で開発されている。
『棍棒でいいんじゃないか?』
そうも思いながらも、一応は王からの勅命。抗うべきではない。
剣士はそう思い直し、ケヤルに「適性を見たい。試しに振ってみてくれまいか?」と提案した。
パキッッ
ケヤルが剣を振ると、そもそも込めた握力・ピンチ力で木製の剣の柄が潰れて折れた。
『棍棒でいいんじゃないか?』
剣士は頭を抱えながら、一応は木製武器が選択ミスだと考え、鉄製の本番用の剣をケヤルに与えた。
ブンッ
ケヤルが腕を振ると、凄まじい遠心力によって、剣は柄から折れてしまった。
『棍棒でいいんじゃないか?』
剣の鉄では薄く細い。そんな風に考えたことは生まれて初めてである。
剣士は部下に命じて、製鉄前の分厚い鉄の塊を持ってこさせた。
3人がかりで運び出された丸太ほどの鉄の棒を、ケヤルはむんずと掴み上げるとブンと振り回して感触を確かめた。今度は大丈夫そうだ。
「どうですかケヤル殿?」
「この通りです」
そう言ってケヤルは鉄の棒を放し、持ち手部分を剣士たちに見せた。手の跡で凹んでいた。
『素手でいいんじゃないか?』
剣士は即座に武闘家師範の招集を決め、ケヤルは汗を一滴も流すことができず、約束をたがってしまったことを使用人に詫びた。
それから5日後、王宮に3名が足を踏み入れる。
1人は無用の武闘家師範。彼がケヤルに教えることは何もない。
もう1人は鑑定紙職人。ケヤル用の絨毯・・・ではなく鑑定紙を携えていた。
そして最後の1人
この世界でもっとも美しい剣技を持った少女【剣聖】クレハ・クライレットである。