進撃の鋼龍   作:かずwax

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なんとか今日中に投稿出来て良かった!
お気に入り登録してくれた皆様ありがとうございます!


見切り発車だけど精一杯投稿してきますよ!



1話 鋼龍、進撃の世界を飛ぶ

俺はクシャルダオラである。

名前は‥人間のがあるけどこの身体じゃミスマッチなのでないと言っておこう。

 

色々とツッコミどころ満載だと思うが、まずは『クシャルダオラ』について説明しておきたいと思う。

 

 

『鋼龍クシャルダオラ』

 

説明不要の超人気ゲーム『モンスターハンター』に登場するモンスター。

中でもこのクシャルダオラは“古龍種”と呼ばれる他のモンスターとは一線を画す災害とも呼ぶべき強いモンスターである。風を操り、嵐を起こす龍。

 

ビジュアルも西洋のベーシックなドラゴンといったデザインだから人気が高い。

ただし狩りをする場合はその面倒な性能のせいで、クソモンス(=クソモンスター)という不名誉な称号を持っているアンビバレントな感情を向けられるモンスターだったりする。

 

 

そんな人気なのか不人気なのかよく分からない存在が現在の俺の姿だ。

どういう経緯でクシャルダオラになったのか俺も分からん。

気づいたらなってたとしか言いようがない。

原因だと思われるのは謎の少年の声だ。ていうかあれしかないだろう。

 

 

どうしたら俺は元の人間に戻れるのか皆目見当がつかない。

手がかりがない以上、これからどうするか考えなくてはならない。

 

・・とまあこう落ち着いた感じを醸し出してはいるが実はさっきまではそうじゃなかった。

 

 

 

 

ホント大変だったよ…。

 

 

 

 

 

「ギャオオオオオオオオオオオ!」

 

 

自分がクシャルダオラになっている事実が受け入れられなくて悲鳴、もとい咆哮すること数分(体内時計換算)。

 

 

 

夢だ夢だ夢だ!これは夢なんだ!

 

 

そう自身に言い聞かせ、何が何でも目覚めようと地面に頭を打ち付ける事数十分(体内時計換算)。

 

 

辺り一帯が畑に耕された頃、ようやく俺は現実を受け入れる事が出来たのだ。

・・・内心今でもこれは夢という望みは捨てきれてないが。

 

 

しかしいつまでも現実逃避している場合ではない。

一先ず先にここがどこなのか把握した方が良いだろう。

 

 

なら、やる事は一つだ!早速実行しよう!

 

 

俺ははやる気持ちを抑えつつ、背中に力を込める。

バサァという音ともに翼が大きく広がった。

 

クシャルダオラと言えばそう、この翼!せっかく今は翼が生えてるんだ!

飛ばなきゃ損損!空を飛ぶことは古来より人類の夢なんだから!

 

 

大ぶりではためかせる翼。

飛べるかな?という心配は杞憂だった。

 

すぐさま足が地面から浮き上がり、あっという間に地上から飛び上がっていった。

目の前に広がる青空はどこまでも続いていて実に壮大な光景が広がっている。

 

 

 

ひゃっほぉ!俺は今空を飛んでるぜ!

何者にも囚われない!俺は自由だ!

 

 

 

空を飛んでいる事実にテンションが上がり過ぎて大はしゃぎで動き回るも、そこは公式で飛翔能力が高いクシャルダオラ。バランスを崩してしまって墜落‥なんて事はなく、優雅に空中を飛んでいる。

 

 

空を飛ぶってこんなに気持ち良いなんて知らなかったな!

あー、最初はマジかよって思ったけどこれはこれでありかも!

 

 

 

しばらくハイテンションののまま空中で身を翻したり急降下したりと遊んでいたが、やがて気分が落ち着いてきたので意識を眼下へと向ける。地上を観察するためだ。

 

俺がいるここは一体どこなのか知らなくてはならない。

そのためには飛びながら様子を見るのが一番。

 

 

どこまでも続いていきそうな草原は少なくとも日本ではなさそう。

てか、もしここが日本だったら俺の姿を見た日本人が大騒ぎするって。

最悪戦闘機がやって来て爆撃・・やめよう。考えただけでも恐ろしい。

 

 

仮にここが地球ではないのなら一番の可能性があるのはやっぱ『モンハン』の世界だろう。

だって俺今クシャルダオラだし。‥でもなあ、それはそれでイヤだわ。

 

もしここが『モンスターハンター』の世界なら間違いなく俺は殺される。

だって俺クシャルダオラだから。身体は強くても中身が俺じゃあ化け物のようなハンターに瞬殺されるだろう。

半引きこもりがいきなり命を懸けたガチバトルとかホント勘弁してほしい。

 

 

‥ある程度地上の観察を終えたら、人(=ハンター)に見つかる前にどこかに隠れよう。

 

 

ハンターに見つからないかビクビクしながら、しばらく空から観察していると違和感を覚える。ハンターどころかモンスターの姿さえ見ない。その事に俺は首を傾げた。

ランポスくらい見かけてもおかしくないと思うんだが。

 

 

 

ていうかそもそもここ『モンハン』の世界じゃないのかも。

 

 

…だってさぁ。

 

 

翼を休めるため地上に降りた俺の前を何かが横切る。

 

‥全裸のおっさんである。

それの存在自体ヤバいんだけど、それを上回る更にヤバい事実があるのだ。

 

 

なんか・・あのおっさん、俺と大きさあんまり変わらなくない?

 

 

そう、これなのだ。

空を飛んでいた拍子についに人を見つけたと思ったらこれだよ。

ただでさえ見た目が通報ものなのに、大きさが洒落にならん。

 

おかしいな。俺、クシャルダオラだよ?

クシャルダオラと言えば、『モンハン』の中でも大型モンスターに分類されるはずなのに、さっき目の前を通り過ぎた露出狂のおっさんと大して大きさ変わらないとか地味にショックなんだけど。

 

いや、変質者なおっさんだけじゃない。

散策中に見つけた人間(?)は、個人差があれどサイズ感半端なかった。

 

あまりにデカいんで最初サイズが小さめのクシャルダオラに俺がなったのかと思ったけどそうじゃないらしい。全裸の野生人共以外に見かける動植物は露出狂や俺よりはるかに小さかったので、むしろあの変態共がデカ過ぎるんだと気づいたのだ。

 

 

やはりここは俺が元いた世界とは違うらしい。

 

さっきの露出狂のおっさんといい、ここにいる変質共はひょっとして巨人族か?

じゃあこの世界ワ〇ピース?

 

 

そう思ったがすぐさま首を振って否定する。

 

いや違うだろう。巨人族服着てたし。

少なくとも俺の知ってる巨人族は野を駈ける石器人みたいな生活してないから。

 

てか、巨人族が全裸で外闊歩してたらある意味大災害じゃん。

すぐさま海軍あたりがすっ飛んできそうだ。

 

結論。ここはワ〇ピースの世界でない。てか、俺が信じない。

全裸の巨人が太陽の空の下歩いてるとかロマンも欠片もあったもんじゃないわ。

 

 

なら結局ここはどこなんだろうか?

 

 

うーんと首を捻りながら記憶の片っ端から心当たりを探っているとある事を思い出した。

 

 

全裸の巨人が蔓延る世界。

俺の記憶の中でそんな事がありえた世界は一つしか思い浮かばない。

 

 

この世界ひょっとして『進撃の巨人』だったりします?

‥いやこれも違うだろう。というより違っていてほしい。

 

 

だって俺は原作を知らない。一度アニメ見た事あるけど、二度と見たいと思わない。

あんなグロくて陰鬱な世界で生き残れる気がしません。

 

どうかここの世界が進撃の世界ではありませんように!

お願いしますよ神様!

 

 

ひとしきり頭の中で祈った俺は、再び翼を羽ばたかせる。

 

 

まだまだ分からない事だらけだが、幸いな事もあるにはある。

この世界にハンターはいなさそうという事と全裸の巨人は気味が悪いが、俺に興味がないのか襲ってくる事も近づいてくることもない事だ。

まあ、仮に襲ってきたとしても、この身体なら戦えるし、最悪空飛んで逃げればいい。

 

とにかく今はもう少し情報を集めよう。

 

即興の方針を固め、再び空を舞う。

この感覚は癖になる。おかげで落ち込んでいた気分が底上げされていくようだ。

 

 

 

ん?あれは?

 

 

現実逃避も兼ねてしばらく空の散歩を楽しんでいた俺は、やがて大きな木々が生い茂る森にたどり着いた。かなり深い森らしく空中からはほとんど森の様子が見えない。

 

ここは降りて森の中を散策するべきだがあいにく俺は降りる気が全くない。

何があるか分からないのにそんなリスクを冒せるほど俺は勇敢ではないのだ。

 

 

んーどうしよっかな?

お、あそこからなら下の様子が見えそうだ。ラッキー。

 

 

俺が滞空している場所から少し離れた先には穴が空いたように木々生い茂っていない部分があった。そこに向かって、飛んでいき森の中を見下ろす。

 

 

「!」

 

 

覗き込んだ森の光景に目を疑う。

 

そこにはたたずむ一人(?)の巨人がいた。

手に何かを掴んでおり、大きく口を開いている。

 

 

人だ。深い緑色のマントを身に着けた人。

 

 

その人は巨人の大きな手に握られて身動きがとれないらしく、動く様子がない。

それを良い事に巨人は大きく口を開いて掴んでる人を突っ込もうとしてる。

 

 

完全なるお食事中の光景!勘弁してください!

あの巨人どう見ても人食べようとしてるぞおい!

ガチで『進撃の巨人』みたいな事しないでくれ!心折れそうになるから!

 

 

どうしようどうしよう!?助けるべきだよね!?

 

 

流石に目の前で人が食われそうになってる所を助けず見殺しするのは後味が悪すぎる。助けに行くのが筋だろう。が、いくら今はクシャルダオラと言えど、中身は俺。

 

現代でのほほんと生きてた半引きこもりがいきなりガチバトルなんて無理!

そもそもあの巨人はどれくらい強いか分かんない。

最悪返り討ちに遭う可能性だってなくはないわけだし‥。

 

 

! そうだ!咆哮だ!

 

 

いくら露出狂の未確認生物といえど相手は生き物。聴覚があるはずだ!

なら、咆哮で怯ませた隙に、喰われそうになってる人を助ければ万事OK!

 

 

これなら戦わなくて済む!俺にしてはナイス作戦だ!

 

 

よし、いくぞ!

 

 

目一杯大きく息を吸い込み、口を限界まで開く。

 

 

「GYAOOOOOOOOOOOOOOO!!」

 

 

本日一番の咆哮が森に響いた。

もしこれをハンターに浴びせていたら怯む事間違いなし。

 

 

さてと、さすがに変質者な巨人と言えどこれなら怯んで‥ない!?え!?

 

 

あれだけの大音量の咆哮を浴びせたというのに巨人は怯むどころか何事もなかったかのように、口に人を押し込もうとしていた。

 

 

あくまで食欲最優先ですか!?ウソだろ!?

巨人って聴覚ないの!?その顔についてる立派な耳は飾りですか!?

 

 

どうしようどうしよう!?マジでどうしよう!?

咆哮が効かないとなるとやっぱり直接助けにいかないとダメじゃん!

ああ、でもでも!怖い!戦えるわけない!俺には無理だ!

 

 

頭の中で葛藤してる間にも巨人の口と緑マントの人との距離が縮まっていく。

このままではすぐに緑マントの人は喰われてしまうだろう。

分かっていても俺はオロオロするだけだった。

 

 

「‥!」

 

 

その時、巨人に掴まれている人が俺の方を見上げた。

顔はフードに隠れていて分からなかったけど、角度からして俺を見てるのは確実だ。

 

 

表情なんて周囲が薄暗くて分からない。

でもきっと、その顔は恐怖と絶望に塗りつぶされているだろう。

そこに訳の分からない存在の俺が現れた。きっと想像を絶する怖さだろう。

 

 

‥だけど、

 

 

死にたくない。生きたい。

 

 

その一心で、藁をも縋る思いで俺を見ているとしたらどうする?

俺に助けを求めていたらどうする?

 

 

通りすがりの未確認生物なこの俺に。

 

 

それでも俺は見殺しにしてもいいのか‥!?

 

 

「!」

 

 

ついに緑マントの人が巨人の口に突っ込まれそうになっている。

それを見た瞬間、俺の視界が真っ赤になった。

 

 

 

うおおおおおおおお!

こうなったら自棄じゃあああああああ!!

 

 

「GYAOOOOOOOOOOOOOOO!!」

 

 

気合を入れるため再び咆哮をあげた俺は、翼を折り畳み、一気に下降する。

狙いは巨人。その巨体に向かって渾身の体当たりをお見舞いする。

目の前に巨人が迫った直後、身体に衝撃が受けた。

しかし思ったより衝撃は弱く、そして思った以上に巨人が吹っ飛んで呆気に取られそうになるも、視界の端にさっきの体当たりの衝撃で解放されたであろう緑マントの人が宙を舞っていたので慌てて両手で優しくキャッチした。

 

 

セ、セーフ‥。お?良かったー!生きてるよ!

 

 

俺の掌で身じろぎする緑マントの人に安堵の息が漏れる。

見た所怪我らしい怪我もないみたいだ。本当に良かった。

 

 

そっと地面に下ろしてやると思いの外しっかりとした足取りで緑マントの人は立ち上がった。

目深にフードをかぶっているし、森が思ったよりも薄暗くて顔が見えないが俺の方を見上げているのは分かる。

 

その緑マントの人が何か喋るつもりなのか口を開きかけていたが、途中で止まる。

先ほど体当たりした巨人が何事もなかったかのように周りの木々に寄りかかりながら立ち上がっているのだ見えたからだ。

 

 

「ウゥ‥」とうめき声を上げる巨人に俺は内心動揺する。

 

 

この巨体のまま急降下でぶっつかっていったんだ。死んだだろうと思っていた。

いや死んでなくても無傷ではないと思ってた。

 

しかし現実はどうだ。渾身の体当たりだったのに巨人は傷一つついてない!

なんつう頑丈さだ。あんなおっさん顔でチートとかやめてくんない!

 

 

すっごい怖い!どうやったらアイツ倒せるんだよ!?

 

 

勝てる気がしないが‥それがなんだ!

 

 

今の俺は人間じゃなくて『鋼龍クシャルダオラ』!

モンスターの中でも最強格『古龍種』の一角だ!

たかが全裸のド変態巨人にビビってたら『鋼龍』の名が泣く!

 

 

 

自分を鼓舞しつつ、緑マントの人を守るようにその前に進み出て巨人と対峙する。

のっそりした足取りでこっちに向かってくる巨人に対して戦闘態勢に入った俺は、周囲に風を巻き起こす。

 

 

クシャルダオラの能力は『風』。

この能力は嵐さえ発生させることが可能な凄い能力だ。

本来のクシャルダオラはその身に風のバリアーを纏って身を守る。俺もそうしたい。

だけど正直あの巨体に風が通用するのか不安でしかない。

 

それに今は俺の近くに人がいる。

風バリアーなんて起こしたら、うっかり巻き込みかねない。

だめだ、風は使えないかも。どうしたものか‥。

 

 

考えてもしょうがない。乗りかかった船だ。

何とかして後ろにいる緑マントの人は守ってみせる!

 

 

活き込んだ俺は身体を低く構え、いつでも動けるようにスタンバイする。

幸いあの巨人は動きが鈍そうだし、攻撃されたって難なく避けられるだろう。

 

 

巨人なんてなんぼのもんじゃい!

かかってこんかいオラァ!

 

 

それが合図だったのかは分からない。

心の中で挑発した直後、のそりとした動きだった巨人が急に立ち止り、そして何故か頭を下げた。

 

 

…?何だ?謝ってんのか?

 

 

不思議に思いつつ様子を見ていると、両手を地面につけて低い体勢で構えている。

まるで陸上選手のスタートダッシュの構えに見える。…まさか。

 

 

「!」

 

 

次の瞬間、陸上選手顔負けの激しいフォームで巨人が俺に向かって迫って来た。

俺と大差ない巨体で手を大きく振り上げながら無表情で迫って来るその姿は恐怖以外の何物でもない。

 

 

ぎゃああああああああああ!!怖い怖い怖い怖い!!

こっち来ないでええええええ!!

 

 

巨人の予想外の動きと恐怖に冷静さを失った俺は半ばパニック状態。

あまりの恐怖に目を瞑り、あまりの慌てぶりに何を思ったのかそのまま巨人に向かって突っ込んでいく。

 

暗闇の中で全身に感じる衝撃、しかしそれはあまりにも軽かった。

そして遠くで聞こえるバキバキと言う何かが割れる音。

 

 

一体何が起こっているんだ?

 

 

不思議に思った俺は恐怖半分、好奇心半分でそっと目を開けた。

すると巨人が木々を巻き添えにしながら倒れ込んでいる。

 

 

え?何で?俺のせい?

がむしゃらに突っ込んだだけよ俺?

 

 

疑問に思いながら再度立ちあがる巨人の足元を見て俺はある事に気づく。

 

 

地面に足跡がそんなについてない?何でだ?

俺なんて博物館に飾られそうな立派な足跡が地面についちゃってるのに‥ひょっとしてあの巨人、見た目の割に軽い?それなら二回体当たりした時の軽い衝撃も納得だ。

 

 

いくらあんな勢いよく突っ込んできても体重が軽かったら、クシャルダオラのような超重量級を吹き飛ばすなんて不可能だ。

 

あくまで俺の予想でしかないがこれは朗報だ。

体重がどのくらい軽いか分からないが、クシャルダオラの風も通用するかもしれない!

 

 

よし、なら最大出力でさっさと吹き飛ばしてしまおう。

二度と俺の目の前に現れないように!

 

 

あれを使う時が来たようだ!

 

 

グッと口に力を入れる。

口内で空気の渦が巻き起こるのを感じた。

 

俺がしようとしているのはクシャルダオラの攻撃の一つ『風ブレス』だ。

ぶっちゃけると空気の塊なんだがそこはご愛嬌。

 

本当は竜巻を発声させたかったけど近くに人がいる。

上手くすれば巻き込まないだろうが、まだクシャルダオラ初心者の俺が風を上手く使いこなせるか怪しいから避けた方が良いだろう。

 

 

という訳でここはブレスだ。

 

 

侮るなかれ。空気の塊だと言えどクシャルダオラの吐く『風ブレス』は強力だ。

軽く掠めただけでもハンターを吹き飛ばせるのだ。‥俺何回あれ食らった事か‥。

きっと巨人を直接吹っ飛ばせるだろうし、後ろにいる人を巻き込んだりしない。

 

 

口内に収めておくには限界に近い程大きな空気の塊が出来上がっていく。

巨人が再び陸上選手の構えをしているがもう遅い。俺が先だ。

 

 

巨大な足が地面を踏みしめた瞬間、口を大きく開く。

 

 

食らえ!風ブレス!

 

 

吐き出した空気の塊は巨人の腹に直撃し、ねじり込む。

地面を踏みしめて踏ん張ろうとしていたようだが無駄だ。

あっという間に後方に吹き飛ばされて木々をなぎ倒しながら後退していく。

やがてその姿が見えなくなった。

 

とはいえ油断は出来ない。

またケロッと戻って来る可能性があるのでしばらくの間、警戒するも戻ってくる様子がなかった。

 

 

どうやら戦いが終わったようだ。

 

俺は全身に込めていた力を抜いて、そっと息をつく。

 

 

お、終わった‥よかった‥終わったんだ‥ふぅ怖かった。

まさか初めての戦闘があんな全裸の巨人になるなんて夢にも思わなかったが、一先ず難は去ったようだ。とりあえずは安心‥。

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」

 

「!?」

 

 

!? なんだ!?

 

 

突如聞こえた大きな叫び声。

声は俺の後ろから聞こえてくる。助け出した緑マントの人が叫んだのであろう。

解いていた戦闘態勢に再び戻り周囲を警戒する。

 

 

巨人か!?さっきの巨人が戻ってきたのか!?

もしくは新手の巨人とか?第二ラウンドとかめっちゃ嫌なんですけど。

 

 

しかし周囲の薄暗い森を見渡してみてもどこにも巨人らしきものの姿なんてなかった。

 

 

? おかしいな。見た限り巨人の姿なんてない。

なら何で叫んだんだ?あ‥ひょっとして俺のせいで叫んでる?

 

考えてみれば当然の事かもしれない。

いきなり目の前にこんな得体の知れない未確認生物が現れれば誰だって恐怖で叫びたくなるだろう。

 

 

「すっげえ!今の何!?口から空気の塊出した!?超すっげえ!」

 

 

‥‥。恐怖で叫びたくなる…よね?

 

 

ゆっくり後ろを振り返ると緑マントの人がいつの間にか目深にかぶっていたフードをとってその顔を晒している。

 

こげ茶色の髪をポニーテールにしており、ゴーグルをかけたその目は何故かキラキラと輝いてる。見た感じ男とも女ともとれる中性的なその顔は何故か頬を染めて興奮した面持ちである。

 

整った顔だというのに、恍惚としたその表情は心なしか鳥肌が出て来そうな薄ら寒いもの感じるのは俺の気のせいだろうか?クシャルダオラは鳥肌とは無縁だろうけど。

 

 

何だ何だと身構えていたら、ゴーグルポニーテールは興奮した様子で口を開いた。

 

 

「空気の塊も凄かったけど、体当たりも本当に凄かったよ!確かに巨人は見た目の割には軽いけど、それを差し引いてもあんなに遠くまで吹き飛ばしちゃうなんて信じられない!しかもあれだけ激しく巨人にぶつかっておいて見た感じどこも傷を負ってない!とっても頑丈な甲殻だね!一見重そうに見えるけど身のこなしはとても重さを感じさせない軽快なものだった!ひょっとして君も巨人と同じで見た目より体重が軽かったりするの!?」

 

 

…何だコイツ?

咳が切ったように喋り倒してるぞ。

 

巨人に喰われそうになった恐怖と俺という未知のモンスターで出くわした恐怖で可笑しくなったのか?

 

 

若干引いている俺をよそにゴーグルポニーテールは勝手にヒートアップして奇声を発していく。

 

 

「ああああ!触りたい!その身体に触れたい!触り心地はどうなの!?見た目通り硬いとか!?体感はどう!?巨人みたいに熱いの!?もしくは冷たい!?すっごい興味あるぅ!ねえ触ってもいいかな?いいよね!?触るだけだからあああああああ!!」

 

 

!? うおい!こっち来んな!近寄んな!

 

 

奇声を発し、両手を上げて迫って来るゴーグルポニーテールは巨人とはまた違った恐怖だ。当然、俺は迫りくる発狂者から身を守るため後ずさりして接近を阻止する。

 

しかし、俺の些細な抵抗なぞお構いなしのゴーグルポニーテールはどんどん距離を詰めて来る。速攻で逃げたいがこの巨体だ。下手に動けばあの発狂ゴーグルを巻き込みかねない。

 

仕方ないので身をよじって避ける俺。

そして意地でも俺に触れようとする奇声ゴーグル。何だこれ?

こうまでして俺に触れようとするゴーグルポニーテールの執念が凄い。

なんか本能的な恐怖を感じるんですけど。

 

ていうかそんな勢いづいたらあぶな‥「いっ!?」あーあ、ほら言わんこっちゃない。

 

 

 

俺の目の前には両手で顔をおさえてうずくまるゴーグルポニーテール。

 

 

さぞ、痛いだろうな。

 

まさかこの鋼鉄の身体に向かって無防備に顔から突っ込んでいくとは‥。

いい歳した大人が何やってんだか‥。

 

 

自業自得とはいえ、流石に顔面衝突は心配だ。

鼻とか折れてないと良いけど。もしくは鼻血。

 

 

様子を伺うため、今もうずくまるゴーグルポニーテールに向かってそっと顔を近づけた。

 

 

あのー、もしもし大丈夫ですか?

 

 

「…たい」

 

 

ん?何か言ってる?

 

 

「かったい!」

 

「!?」

 

「見た目通りクッッソ硬いぜえ!これすっげえ硬いいいいいいいいいいいいい!!」

 

 

何この人怖い。

 

やっと喋ったと思ったら今度は天を仰いで訳の分からん事を叫んでるよ。

 

 

マジでこの人怖い!ぶつけた時に頭打った!?

そ、そうだ!きっとそうだ!ただでさえこの人は恐怖で精神がおかしくなってるんだ。

その上、さっき俺とぶつかった衝撃でついに正気を失ってしまったんだろう!そうに違いない!

 

これが平常運転なんて俺は信じないぞ!

 

 

「ねえ!」

 

「!?」

 

 

急に呼び掛けられ、ビクッと身体が震える。

声のした方に目を向けるといつの間にか復活していたゴーグルポニーテールが鼻息荒く俺を見上げていた。

 

 

「その身体はまるで鉄のように硬いね!見た感じは鉄に見えるけど何で出来てるんだい!?もしその身体が鉄だったら時間が経つと錆びちゃうの!?全身鎧で覆ったように見えるのに動きがとてもしなやかだ!関節とかどうなってるの!?ていうか君最初空飛んでなかった?!」

 

 

‥ホント何なのコイツ?

 

マシンガントーク全然止まらない。止まる気配がない。

いつ息してんのかって疑問に思うくらい次から次に話しかけてくるんだけど。

 

 

「本っ当に信じられないよ!その巨体で空を飛ぶなんて!普通その大きさで空を飛ぶなんて無理だ!空中でその巨体を支える事が難しいからね!なのに君ときたら、飛ぶだけに飽き足らず滞空までしていた!例外はあるけど鳥なんかの種類は移動のために空を飛ぶんであって滞空するようには出来ていない!この短時間で私の中の知識が悉く覆されていくよ!君は一体何者だい!?」

 

 

ふん!と鼻の穴を大きくして見つめて来るゴーグルポニーテールに対して、俺はすっと目を閉じて天を仰ぐ。

 

 

この世界は分からない事だらけだ。

 

頭のおかしい全裸の巨人が歩き回っていたり、俺がクシャルダオラになっていたり。

元の世界へ帰れるのか?俺は人間に戻れるのか?

分からない。何もかも分からない。

 

 

ただそんな中で一つだけ分かる事がある。

 

 

目を開いた俺はじっと下にいる奴を見つめた。

 

 

 

俺‥ドえらいの助けちゃった‥。




という訳でクシャル君、記念すべきファーストコンタクト来ました!
ここから彼の冒険譚は加速します!多分!


さて、ここで問題です。
Q:クシャル君が助けたこの人は誰でしょう?


答えは次回のお話にて!
・・ほとんど答え出てますけどね。

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