進撃の鋼龍   作:かずwax

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特に意味のない探究力がクシャル君を襲う!



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2話 鋼龍、奇行種に出会う

「貴方が私を助けてくれたの?あ、ありがとう‥」

 

 

ライトノベル(通称ラノベ)を読んだ事がある人なら分かると思う。

 

チート、もしくは人外に転生した主人公がピンチに陥ったヒロインを助ける場面を。そして当然のようにヒロインは自身を救ってくれたヒーローに対して頬を染めて感謝をするのだ。ベタ惚れ必須。

主人公の目の前には涙を流して頬を染めた美少女なヒロインが一人ないし複数。

ラノベを読んだ事がある男(俺含む)にとっては一度は体験してみたいシチュエーションである。

 

しかし所詮それは物語の中のお話であって、必ずしも現実と比例しないものだ。

 

 

「君が私を助けてくれたんだよね!?いやーありがとう!まさか君みたいな未知の生物に助けてもらえるなんて私はなんて幸せものなんだろう!ところで相談なんだけど‥君という生物に大いに興味があるんだ。実験していい?」

 

 

俺の目の前には涎を垂らして興奮しきった表情をする性別不詳な変質者が一人。

ゴーグルとポニーテールが特徴的な変質者のそいつは先ほど俺が全身犯罪匂漂う露出狂の巨人から助け出した奴だ。

 

 

うん、知ってた。所詮現実はこんなもんだって。

 

でもさ夢くらい見ても良いじゃない!俺だって男だもの!

今の俺の姿である鋼龍の身体は雄か雌か分かんねえけどさ!

 

 

「むふふ、どんな実験をしようかなぁ‥?」

 

 

気持ち悪い笑みを漏らすゴーグルを死んだ魚のような目で見つめる。

 

恐怖で頭がおかしくなっているのか、はたまた元からこんな性格なのか分からないが、クシャルダオラというこの世界ではどう見ても未確認生物な龍に向かって物怖じせずにマシンガントークかましてくるコイツは只者ではない。というかまともじゃない。

 

 

ひょっとしたら俺はとんでもない奴を助けてしまったのではないだろうか‥?

 

 

「そういえば、まだ名乗っていなかったね」

 

 

現実逃避をする俺を引き戻したのは逃避の原因であるゴーグルポニーテールだった。

どうやら暴走は沈静化したらしい。

さっきまでマシンガントークしまくってた奴と同一人物とは思えない程、優しげな表情で俺の見上げていた。

 

 

「!」

 

 

ゴーグルはいきなり俺に向かって、ビシッと背筋を伸ばし、胸に拳を乗せている。

どうやらこの世界の敬礼らしい。とてもカッコいいが‥あれ?なんかどっかで見た事あるぞ。

なんだっけ?そういやコイツが身に着けてる緑マントもどっかで見た事あるな?どこだっけ?

 

 

「初めまして、私はハンジ・ゾエ。調査兵団って分かるかな?私はそこで第四分隊長を任されているんだ」

 

 

‥‥‥‥は?

 

 

若干のキメ顔で名乗ったゴーグル。

俺は咄嗟に反応できず、お互い見つめ合う形で沈黙が続く。

 

 

ゴーグルの言った事を理解するまでにかなり時間が経った気がする。

 

 

今コイツ『調査兵団』って言わなかった?

え?ちょっと待って?え?え?

 

 

『調査兵団』ってあれじゃん、『進撃の巨人』に出て来る組織じゃん!

じゃあここはやっぱり進撃の世界なのぉ!?

通りで人を喰おうとする全裸の巨人に出くわす訳だよ‥。

 

 

知りたくなかった残酷な現実。

ようやく現実を理解した俺は思わず地面に顔を項垂れる。

 

 

 

『進撃の巨人』

 

巨人に奪われた自由を取り戻すため、人類が巨人に戦いを挑んでいくストーリー‥らしい。らしいと言うのは俺原作知らないから。

知ってるのは主人公が巨人化する事と、登場人物が死にまくる事、それと主人公が所属する組織が『調査兵団』という名の組織という事だ。それ以外ほぼ知らない。

 

 

元の世界で流行っていたけど俺は漫画を読んだ事ないし、せいぜいアニメを見たくらいだ。まあそれでも一話分しか見てないけど。

あまりにグロくて鬱な展開に早々にリタイアしてしまったのだ。

おかげさまで当分肉が食べられなくなったのは悲しい思い出。

 

 

それ以来俺は『進撃の巨人』と縁はなかったんだが、噂はある程度耳に入っていた。

なんでも伏線回収がヤバいとか、ストーリーが壮大だとか、敵は巨人だけだったら良かったのに、とか。

 

‥最後のは何かな?巨人よりもっとヤバい敵でもいんの?

ただでさえ、陰鬱な世界に来てしまったのに勘弁して欲しいんだけど。

 

 

どうやら俺が思ってるよりも『進撃の巨人』という世界の物語は複雑らしい。

予想していたよりもかなり厄介な世界に放り込まれてしまったのは間違いなさそうだ。

しかもクシャルダオラという人外の姿で。気分が滅入りそうだ。

 

 

うわー‥マジかよ。

いくら今は鋼龍だと言えどマジで生き残れる気がしないんだけど。これからどうすればいいんだ?

こんな事になるならどんなにグロくてもちゃんと原作見とけば良かったかも‥。

 

 

「大丈夫かい?」

 

「…」

 

 

受け入れがたい現実を前に悲観的な気分の俺を心配そうに見つめるゴーグルポニーテール改めハンジ。地面に突っ伏した俺と目線を合わせるようにしゃがんでいる。

 

 

「もしかしてさっきの戦いで身体を痛めちゃったのかな?それとも消耗しちゃった?それならごめんね、私を助けるために無茶をさせてしまったようだ」

 

 

項垂れる俺を見て何か勘違いしてしまったらしく、申し訳なさそうに眉を下げるハンジに心が痛む。

 

 

ごめんなさい。アンタの存在忘れてました。

 

 

過酷な現実を前に、こんなキャラの濃い奴が目の前にいる事を頭からごっそり抜けてた。

 

そうだ。今は現実に項垂れている暇はない。

変質者と言えど目の前にいるコイツは俺にとっての㊗進撃世界のファーストコンタクトなのだ。出来ればこんな変質者じゃなくて可愛い女の子の方が良かったなという本音はこの際置いておこう。

 

何とかしてハンジとコミュニケーションを取りたいところだが、生憎俺は喋れない。

喋れないかなぁと思い、試しに何度も言葉を出そうと口を開いてみたものの、出て来るのは「グルル」と唸り声だった。流石に人外の姿で都合よく話せるなんて展開はないようだ。

 

 

さて、どうしたものか。

 

目の前にいるハンジは今もなお心配そうに俺を見つめている。

地面に項垂れてしまったのが自分のせいだと思い込んでるからだろう。

 

 

これについてはぶっちゃけハンジは悪くない。

でも俺は喋れないから動作で伝えるしか方法がないので、ここは一つ大丈夫アピールでもしておこう。

 

 

首に力を込めて地面にうつ伏せていた上体を起こし、ハンジを見下ろす格好になる。

そして首を縦に大きく振り、翼を力いっぱい広げる。

 

これがクシャルダオラなりの元気アピールだ。多分。

 

 

大丈夫だよ。俺は元気だから気にしないでー。

 

 

驚いた表情で俺を見上げているハンジに向かって俺流元気アピールをお披露目する。

ちょっとでも元気になってくれればと願いながら。

 

 

「ええ!?何その動き!?ひょっとして私とコミュニケーションを取ろうとしてる!?ふおおお!ヤッベ、興奮してきたぁ!」

 

 

元気爆発じゃねえか!

もうやだこの人!発言がなんか変態じみてるもん!

 

 

てか、こんな奴があのドシリアスな『進撃の巨人』の登場人物だとか信じられないんだけど。

本当にいたのコイツ?しかもただの兵士じゃなくて分“隊長”とか名乗ってた気がするんだけど。コイツの部下とかメチャクチャ苦労してそうだ。

 

そもそも何でその『分隊長』様がこんな巨人がうろつく場所に一人でいるんだよ?

うろ覚えだけど確か壁の外に出る場合は、集団行動じゃなかったっけ?仲間はどうした?

 

 

「ん?どうしたの?ひょっとして私の仲間を探しているのかい?」

 

 

ハンジの仲間が近くにいないかキョロキョロ見渡していたら下から声がかかる。

俺の動作で何をしているのか察したらしい。

ハンジは興奮状態を抜け出し、落ち着いた様子で口を開いた。

 

 

「今は一人だよ。本当はさっきまで仲間たちといたんだけどね。拠点を作ってる最中に、過去に例がない奇行種の巨人が出現した可能性があったから私はそれを調べにきたんだ」

 

 

ふーん、なるほど。

見るからに好奇心強そうだもんなハンジは。学者肌ってやつ?

やっぱゴーグル含めたメガネキャラは研究者のイメージが強いな。

人食い巨人がうろついて危険なのに、リスク承知で単独で調べに行くとか学者の鑑通り越してサイコパスだけど。

 

 

冷めた感想の俺とは対照的にハンジはその時の事を思い出しているのか、整った顔が崩れる程の顔芸を披露しつつ早口で捲し立てて来る。

 

 

「なんせ今まで聞いた事ないような巨人の叫び声だったからね!『ギャオオオオオオオ!!』って、まるで未知の生物が発したような声だったよ!かなり大きな声でね、我々がいる拠点にも聞こえるぐらい凄まじい声量だった!それも一度じゃなく何度も聞こえてきたんだ!」

 

へー、ってそれ俺!

クシャルダオラになってるという驚きで反射的に叫んじゃったやつ!

うっそ!聞こえてたの!?そんなにうるさかったですか俺!?

 

 

「叫び声はすぐに聞こえなくなった。皆は警戒しつつも声の正体を調べようとはしなかったんだ。だけど私はどうしても気になってね!これはきっと新種の巨人が現れたんだと!居ても立っても居られなくなってエルヴィンの制止を振り切って叫び声が聞こえた方向に向かって馬を走らせた!すると湖にたどり着いたんだ!そこで何を発見したと思う?まるで何かが暴れたように辺り一帯の地面が荒らされていたんだ!」

 

それも俺!現実を受け入れられなくて頭突きしまくったやつ!

そのまま種まき出来そうなくらい見事な畑仕様になったと自負してるよ!

 

 

「詳しく調べる必要があると判断した私は荒らされた地面を観察した!そこで足跡を見つけたんだ!巨人の足とは思えない、まるで鋭い爪を持った動物の足跡を!それもかなりの重量があるみたいで、地面に残った足跡は中々の深さだったんだ!」

 

だからそれ俺だって!

クシャルダオラ重いからくっきり足跡残っちゃうの!

 

それにしてもなんてこった!

つまりハンジが巨人に喰われそうになってたのって巡り巡って俺のせいって事じゃねえの?

なんかコイツ俺を調べに来たみたいだし。

 

 

内心ビクビクしながらクライマックスを迎えつつあるハンジの話に耳を傾ける。

大方俺の残した痕跡を頼りに森に入って巨人を捕まったとかそんなところだろう。

 

 

「どうやらこれは想像を絶する奇行種の巨人がいる!そう確信した私は捜索範囲を広げてこの森に入った!そしたら偶然近くを巨人が通りかかってね。とても興味深い対象だったから何とか捕獲出来ないかと近寄ったら、うっかり捕まちゃってねー。いやぁ予想よりも動きが素早かったから不意を突かれちゃった。で、喰われそうになった所に現れたのが君って訳さ!」

 

うん、俺のせいじゃないですね。

最終的にコイツの自業自得でしたわ。すげえバカバカしい。

 

 

それにしても俺のやらかした黒歴史にハンジが引き寄せられて、(間接的とはいえ)ピンチに陥ったハンジを俺が助けるとかどんな因果だよ。何か寒気するわ。

 

 

あと気になったんだけど話の途中で出てきた『エルヴィン』って誰?

唐突に名前出されても進撃キャラ知らないから分からないんですけど。

というかなんか話の内容から察するにコイツ仲間の制止振り切って単独行動したっぽいな。

今頃ハンジの仲間は相当頭抱えてそう。うん、気持ちは分かる。

初対面の俺でさえコイツのぶっ飛んだ生態にドン引きだもの。

 

 

‥駄目なんだって分かってる、分かってるんだけど。

ハンジと会ってからほとんど時間経ってないのに、コイツを助けた事に早くも急激に後悔してきた!

どうしてくれようかコイツ!?

 

 

 

 

 

 

 

薄暗い森の中、ズシン、ズシンと巨大な何かが地面を踏みしめる音がする。まあ、俺の足音なんだけどな。

 

 

「ふーん、足音と踏みつけられた地面の足跡の深さから察するに君は相当な重量をほこっているね。だとするとますますどうやってあれだけ素早く動けるのか、ましてや空を飛べるのかについて疑問が湧いてくるよ。実は中身が空洞とか!?すっごく気になるからちょっと解剖させてくれないかな!?」

 

 

‥コイツ、黙るって事知らないのかな?

さっきから俺の周りをハエのようにウロチョロ動き回って鬱陶しいんだけど。踏み潰されたいのか?

 

 

太陽の光さえほぼ届かない森の中を俺はハンジをお供にして出口を目指し歩いている。

 

本当はこんな奴置いてさっさと退散してしまいたかったが、自業自得とはいえ巨人がうろつく森で置いてけぼりにするのは気が引けた(乗ってきた馬は巨人に捕まった際にどこかに走り去ってしまったとか)。

 

なので嫌々、物凄く仕方なしにコイツを仲間(=保護者)たちの下へ降り届けてやろうとしてる訳だ。

今の俺は超問題児を引き連れた引率の先生の気分である。

 

 

本当は空を飛んで送り届けてやった方が最も効率が良い。真っ先に思いついた事だ。

だけど想像してみて欲しい。初見の俺の姿を見て無防備に突っ込んでくる好奇心が具現化したような存在のコイツだ。この世界では未だ到達していないであろう空を飛ぶという経験した時の反応を。

 

 

 

 

「ひゃっほおおおおおおおおおおお!空飛んでるうううううう!!巨人が豆粒に見えるぜぇ!もっとよく見たい!あっ」

 

 

大はしゃぎで身体を乗り出し、空から落下する展開しか思いつかない。

冗談抜きで有り得そうだから怖い。というか実際何をしでかすか分からないのが一番怖いのだ。

ここは時間ロスとなっても安全を選んだ方が良い。

 

 

故に俺は歩く。それが一番確実で安全な方法だ。

 

 

前を向いて歩く。よそ見をしてはいけない。ただひたすら歩く。

いずれこの森のように俺の行く先にも、光が届く出口があると信じて、ただ真っ直ぐ前を向いて歩くだけだ。

なんか「ちょっと私を乗せて空飛んでみてよ」とかほざくゴーグルの声が下から聞こえてくる気がするけど決して目を合わせてはいけない。

 

 

 

 

 

森を歩いて数分、足を動かす度に俺の気分はどんどん暗くなっていく。

理由は簡単。これから会うであろう『調査兵団』の事を考えると、うん。

 

 

調査兵団がハンジみたいな奴ばっかりだったらどうしよう?すっげえやだ。

 

 

これに尽きる。

 

 

俺のイメージでは『調査兵団』は、人類のために命がけで巨人と戦う勇敢な兵士の集まりだったんだけど、ハンジを見る限り、そのイメージが崩壊の一途を辿っている。

 

蓋を開ければ実はハンジみたいな変人オンパレード集団だったりして。

ハンジ一人を相手するだけでもこんなに疲労が溜まるのに調査兵団には複数、いやハンジ以上の変人がいたとしたら俺の精神は崩壊してしまいそうだ。

 

いやその前に俺殺されない?

生身で巨人と戦う連中なんだから、人外そのものであるクシャルダオラを目にしたら躊躇なく攻撃してきそうで怖い。そんなのは御免だ。

 

 

ハンジを送り届けたら速攻で空飛んでトンズラしよう!

 

 

そう決めた俺だが実は初めからこの世界に関わるつもりなんぞ毛頭ない。

 

人間だったら生存権の事もあるからきっと関わっていたかもしれないが、生憎今の俺は人外。鋼龍クシャルダオラだ。正直この身体なら人と関わらなくても生きていけるし、実態はコミュ力低めの半引きこもり。おまけに喋れないときた。

 

それも踏まえると間違いなく面倒事しか待っていないであろう進撃世界と関わるなんざ御免だ。

 

 

原作は原作で進んでいってくれ。

その間、俺は元の世界に帰る方法と人間に戻る方法をのんびり探しながら傍観しとくよ。

まあ、心の中では応援くらいするよ。大丈夫、この世界の主人公が何とかしてくれるって。

 

 

「?」

 

 

ひとしきり考えを纏めた俺はある違和感に気づく。

 

やけに静かだ。さっきまで下が騒がしかったというのに。

おかしいと思って下を向いても足元をウロチョロしていたハンジの姿が見当たらなかった。

 

 

アイツどこいった?

あれだけ五月蠅かったのに何して‥てぇ!?

 

 

 

「あはは!君、随分と大きな口だね!そのまま私を飲み込めるんじゃないかい!?」

 

 

声がする後ろを振り返ってみればいつの間にか現れたハゲの巨人に鷲掴みにされ、口に突っ込まれそうになっているハンジの姿。

 

 

何やっとんじゃこらああああああああああ!?

 

 

荒ぶる内心そのままにすぐさま巨人に突進をお見舞い、その隙に嬉々として捕らわれていたハンジを回収する。巨人は俺のタックルにより随分遠くまで吹き飛んだが、やはりというか何事もなくむくりと起き上がり、こちらに向かってきた。

 

 

くそ!やっぱり無傷だ!ほんとにどうなってんだよ!?

 

 

「おお!やっぱり君の体当たりは凄い威力だねえ!障害物がなかったら巨人をどのくらい吹き飛ばせるのか是非実験したいよ!」

 

 

コイツ全然学習してない!

さっきも同じ目に遭ってたのに一向に懲りる様子がないぞ!

 

 

俺の掌で興奮気味にはしゃぐハンジを思わず握り潰したくなったが、なんとか思い留まった。

今はそれ所ではない。こちらに近づいてくる巨人を何とかしなくては。

 

ここはもう一度風ブレスをお見舞いして‥!

 

 

「うほおおお!向こうから来た子も可愛いね!」

 

 

‥‥え? !?

 

俺の掌で歓喜の声を上げるハンジと同じ方向を向くとそこには、これまた髭が濃ゆいおっさん顔の巨人がこっちに近づいてきていた。

 

 

げえ!挟まれた!最悪じゃん!

 

 

俺達を挟み込むように近づいてくる全裸な巨人のおっさん×2。

ただでさえ一体でも滅茶苦茶厄介だというのに複数なんて俺の手に余る。

 

まずい!まともなダメージを与える方法なんて知らないのに、二体同時に相手なんて難易度高過ぎる。これは詰んだかも‥。

 

 

「興味深い巨人が二体も!ああ!どっちも捕獲したい!徹底的に調べ尽くしたい!」

 

 

喜んでる場合か!

お前のせいで絶賛ピンチに陥ってるんだけど、どうしてくれるんだよ!

 

 

焦る俺とは対照的にものすごく余裕な表情でいや、興奮した表情で迫りくる巨人を見つめるハンジに泣きたくなってきた。一緒に怖がってくれた方がまだ心強かった‥。

 

 

ど、どうしよう?また戦う?勘弁してくれ!

もうあんな恐怖を味わいたくないんだけど。

 

‥これはもう飛んで逃げた方が良いかもしれない。

 

そうしたいのは山々だが、問題は巨人との距離だ。

俺との距離が一メートルもない。今羽ばたいたら掴まれる可能性が高い。

最悪掴まれて地上に引き戻されるか、俺を掴んで一緒に空を飛ぶ羽目になる可能性がある。

 

 

逃げるにしろ戦うにしろ、距離を離さないとだめだ。

 

 

よし、なら一つ試してみるか。

 

 

作戦を閃いた俺は片手にハンジを掴みながら低く姿勢を保ち、その場で動かずじっと息を潜めていた。ゆっくりとだが確実に近づいてくる巨人たち。その手が俺を掴もうと伸ばされ、今にも届きそうな距離に迫っている。

 

 

今だ!

 

 

巨人の手が甲殻に触れるその直前、俺はその場で地面を強く踏み込んで大きく半回転を行った。巨体を振り回す勢いにつられて繰り出される尻尾は鞭のようにしなり、覆いかぶろうとしてきた巨人どもを薙ぎ払う。

 

 

見たか!これがホントのアイアンテールだ!

 

 

リアルアイアンテールを叩きつけられた巨人は地面を滑るように吹き飛んでいく。

当たり所が悪かったのか起き上がった二体の巨人の内、髭の濃い方の腕が胴体と切り離されて地面にボトリと転がった。

 

 

あああああああああ!ごめんなさい!

わざとじゃないんです!先に変質者が襲ってきたので正当防衛です!

決して過剰防衛ではありません!俺はか弱いまとも(?)な人を守っただけなんです!

 

 

「おぉ!すっげえ!一撃で巨人の腕を捥いじゃったよ!」

 

 

心の中で謝りまくる俺の掌で無邪気に声を上げるハンジに軽く殺意を覚えるも、悲しいかな、あんまり褒められた経験がない俺は満更でもないと思ってしまった。

 

 

ただ上げては落とすという言葉を体現するならきっとこの事だ。

 

褒められ、若干浮かれる俺にハンジが「だけど‥」と真剣な表情になる。

何だ?と疑問に思う俺をよそにハンジは至って真面目な様子で口を開いた。

 

 

「あれじゃあ、あの子たちは倒せないよ」

 

 

‥? げ!?

 

 

ハンジの見つめる先、起き上がった巨人の様子に俺は目を疑った。

 

 

再生してる‥?

 

 

千切れた腕からもくもくと蒸気が立ち込めており、ものの数分もしない内に腕が元通りに治ってしまった。瞬きをしても、目を擦ってみても千切れた腕は何事もなかったかのようにそこに生えている。

 

 

はああ!?なんじゃそりゃ!?

まさかの再生!?お前滅尽龍ってキャラじゃねえだろうが!

寄こせ!その再生能力!俺だって欲しいわ!

 

 

出るだけの罵倒を心の中でするも、もはや俺に戦う意思なんてなかった。

攻撃しても再生するのでは勝ち目なんてない。これはもう逃げるが勝ちだろう。

幸いこの二体の巨人共はさっき戦った陸上選手巨人と違ってノロマみたいだ。

それに吹き飛ばした衝撃で距離が出来た。今なら飛び立てる。

 

 

ゆっくりとした歩みで迫って来る巨人どもを交互に睨みつつ、翼を大きく広げる。

 

 

逃げるなら今だ。今のうちに戦線離脱を、ん?

 

 

羽ばたこうとした俺の視界の端に緑が映り込み、横目で正体を確認する。

 

 

「あの子たちを倒したいなら、うなじを攻撃するんだ。巨人の弱点はうなじだからね」

 

 

ハンジだ。

 

いつの間にか掌から抜け出し、俺の顔によじ登って目元を覗き込みながら話しかけている。

どうやって登ってきたのか気になる所だが、それよりもさっき言った事の方が重要だ。

 

 

‥うなじ?巨人の弱点がうなじ?何でうなじ?

アイツらだって一応生き物なんだし、そこは普通脳みそとか心臓とかじゃないの?

うなじが弱点って聞いた事ねえぞ。

 

 

疑っているのを雰囲気で感じ取ったらしい。

俺に向かって「まあ、見てて」と言い残し、ハンジが動いた。

 

腰からワイヤーのようなものが飛び出し、髭の濃い巨人の背後にある木に突き刺さる。

そのワイヤーに引っ張れる形でハンジの身体が宙に浮いた。

 

 

速い。瞬きをする暇もなく巨人の背後に回っている。

ハンジの両手にはいつの間にかカッターのようなものが握られており、それが巨人の背後に向かって大きく振り上げられた。

 

 

「よいしょっ!」

 

 

その掛け声と共にハンジの周辺に赤い液体が飛び散る。

より正確に言えば、ハンジの剣によって切り付けられた巨人の首元から溢れ出る血。

 

全ては一瞬で決まった。

 

うなじを斬られた巨人は痛みからか大きく口を開けながら前のめりに地面に倒れ込む。ズシンと大きな振動が伝わった。また起き上がってくると身構えていたが、倒れた巨人は身動き一つ動くことはなかった。どうやら死んだらしい。

 

 

‥マジか。マジでうなじが弱点なのか?

どんな身体の構造してんだよ。そこに心臓でもあんのか?

 

 

 

「ね、言った通りでしょ?」

 

 

一仕事終えたハンジは再びワイヤーを駆使して俺の下に戻り、顔の覗きこむ形で問いかけてくる。

 

 

ああ、よく分かった。有益な情報をありがとよハンジ。

だから早く俺の頭から降りろ。何ちゃっかり乗ってんだ。

 

 

「うお!?ちょっと!急に頭を揺らさないでよ!落ちる!」

 

 

おう、落ちろ落ちろ。

 

 

生意気にも俺の頭に着地したハンジを振り落とそうとしてみるが思いのほかしぶとい。

角にしがみついたまま降りようとしない。腹立つ。

 

 

「あ!ほら!もう一体の子がこっちにむかってきてるよ!こんな事してる場合じゃないって!」

 

 

指をさしてそう告げるハンジ。

その先にはハゲの巨人が近づいてきていた。

 

知らせてくれたのはありがたいが、若干気を逸らそうとした感じがするなコイツ。

まあいいや。別に俺が守らなくても大丈夫みたいだし、どうせもう一体の方もハンジが倒すだろうから何もしなくて問題ないだろう。

 

 

「よし、じゃあ次は君の番だ。あの巨人を倒してごらん」

 

 

……は?

 

 

にっこり笑ってそう告げるハンジに俺は一瞬言葉を理解出来なかった。

 

 

え?倒す?誰が?俺が?誰を?巨人を?何故に?

 

わざわざ俺が戦う必要あんの?

素人な俺と違ってお前間違いなく巨人倒しのベテランっぽいからそんな事しなくてもよくない?

 

 

俺の思っている事を読み取ったのか分からないが、やれやれと言った感じでハアとため息をつくハンジ。何だその顔は?ものすごく腹立つ。

 

 

「弱点を知ってるのと弱点を突くのとじゃまるで話は違うよ?これから先、また巨人と戦う事になるんだろうし、今のうちに弱点を突ける様に練習しておいた方が良いんじゃないかと思うんだけど、どう?」

 

 

出来の悪い教え子を諭すような口調だ。腹立つが一理ある。

確かに現状元の世界に帰る方法が分からない以上、この世界に長く滞在する事になる。そうなると必然的に巨人と戦う事もあるだろう。それに備えて今のうちに練習しておくのは悪くないが‥でもなぁ。

 

何だろうか。上手く言いくるめられた感じが否めないんだよなぁ。

 

 

胡散臭げな視線を向ける俺。

しかしハンジは全く動じていない。渋る俺を説得するように「それに」と言葉を続けている。

 

 

「今の我々は言わば運命共同体だ。ここはお互い力を合わせてピンチを乗り切ろうじゃないか」

 

 

何勝手にお前の運命に俺を組み込んでんだ!お前と心中なんて御免被るわ!

そもそも今ピンチなのお前のせいだろうが!

力を合わせてっていうかほぼほぼ俺しか力出してないぞおい!

 

 

「来るよ!」

 

「!」

 

 

手を伸ばし俺に覆いかぶさろうとするハゲの巨人。

この状況では文句を言ってる場合ではないのは一目瞭然だ。

 

内心舌打ちしつつ、地面を蹴って回避。そのまま巨人の後ろに回り込む。狙うはうなじ。が、しかし巨人はすぐさま後ろを振り返ってしまいうなじが見えなくなってしまう。

 

 

くそ!ならもう一度!

 

 

何度も後ろに回り込もうと試みるも、すぐさま巨人は首を捻ってこちらを振り向くからうなじが隠れてしまう。いくら素早く動き回れてもこの巨体ではハンジのように小回り出来ない。

 

 

イライラする心を宥めつつ、これからどうするか必死に頭を回転させる。

 

 

落ち着け俺。そもそも巨体のクシャルダオラは見た目割によく動くがハンジのような機動力や小回りはない。同じようなやり方で倒すなんて無理だしマネ出来ないのは分かってる。

 

 

なら、どうするか?

簡単だ。俺は俺のやり方をするまでだ。

 

 

身体を低く構え地面を強く蹴る。

宙に浮いた巨体は巨人の頭上を覆いかぶさるように影をさした。

 

俺は腕を大きく振り上げ、勢いのまま巨人の頭に振り下ろす。

 

 

 

うらぁ!滅尽拳ならぬ鋼龍拳!

 

 

巨人の頭を掴み、そのまま地面に叩きこむ。

落下の重力とクシャルダオラ自身の重量の相乗効果により、叩きつけた地面は大きく振動し派手な土煙を巻き起こした。

 

 

前のめりに地面に顔がめり込む巨人。

見るからにさぞ痛そうだが、あっという間にダメージが回復したのか起き上がろうともがくがビクともしない。

それはそうだ。なんて言ったって俺が腕に体重を乗せて後頭部を押さえ込んでいるから。

 

 

フハハハ!どうだ?さぞ重かろう!

諦めろ!貴様にもう自由はない!

 

 

悪役気分もそこそこにそろそろトドメを刺さなくてはいけない、がぶっちゃけどうしようか悩んでいる。

 

簡単にブレスでトドメを‥といきたいところだが生憎俺、もといクシャルダオラのブレスは風ブレスという名の空気の塊。甘く見積もっても殺傷力はほぼない。

 

となるとやっぱり物理攻撃という事になる訳だが‥。

 

爪?なんかやだ。

牙?論外。

 

 

「‥‥」

 

 

じっと目の前に揺れる尻尾を見つめる俺。

通常のクシャルダオラよりも長い気がする尻尾。

意を決してそれを巨人のうなじの前に突き立てる。

 

 

俺はエ〇リアン。俺はエ〇リアン。

映画で背後からプ〇デターを尻尾で貫いた如く俺も尻尾で巨人のうなじを貫くんだ!

 

 

 

うおりゃああ!!て、熱っつぅ!?

 

 

勢いよくうなじを貫いたは良いが、直後に感じた予想外の熱に慌てて尻尾を引き抜く。

先端についた赤い液体を見てグロッキーになりつつ、近くの木に念入りに擦りつけて汚れを落とした。

 

うう‥グロイ。

 

 

気分は悪いがどうやら上手く倒せたらしい。

蒸気を立てるハゲの巨人の身体はピクリとも動かなかった。

 

 

「なるほど、機動力を捨てて持ち前の重量で押さえ込んだか。自分の性質を良く理解しているみたいだね‥むふ。随分と頭が回るようだ。いいね、滾るねぇ‥むふふふふ」

 

 

すいませんお巡りさん、なんか気持ち悪い笑い声が聞こえるんで連行してもらえませんか?

俺の心はそろそろ限界です。

 

あと、いい加減俺の背中から降りろハンジ。

戦闘中ずっと人の背中にしがみつきやがって。

動きづらくてしょうがなかったんだぞ。

 

 

ギロリと背中にいる奴を睨んでみるも、どこ吹く風なコイツは特に気にした様子もなく俺の背中から降りてもうもうと蒸気を立てている巨人の死体に近づいていく。

 

 

「うーん、ここまでの実力があるなら討伐なんて言わずに捕獲を頼めば良かったかも。残念な事しちゃったね」

 

 

黒こげになった巨人の死体の前にぶつぶつ呟くハンジはどことなく不気味だった。

 

なんかしれっと「ま、次の機会に頼めばいっか」って言ってるけど次なんてねえから!

お前との縁は今日でお終い!二度と会う事なんてないぞ!

 

 

「仕方ない。死体の一部だけ持って帰ろうか」

 

 

そう言って腰に付けてる箱っぽいものからカッターを取り出し、じっと刃を見つめている。

しばらくそのままだったがやがて足を踏み出し、歩き出した。‥俺の下へ。

 

 

え?何で俺に向かって歩いてきてんの?

巨人の骨はいいのか?何してんのコイツ?

 

 

訳が分からずそのままじっと様子を見ていると、俺の脚のすぐ傍に立ち止ったハンジ。すると突然何を思ってか手に持っていたカッターを俺に向かって振り上げた。

 

 

 

「!?」

 

 

―ガキィンー

 

 

 

金属の割れるような音が鳴り響き、飛び散ったカッターの破片が太陽の光に当てられてキラキラ光っていた。一瞬何が起こったのか分からなかった。状況が理解出来ないまま下から陽気な笑い声が聞こえて来る。

 

 

「あはは!折れたぁ!凄いや、ブレードは粉々になったのに君は無傷のままだ!」

 

 

コイツ‥‥!

 

 

折れたカッターを見ながら笑っているハンジに猛烈な怒りが湧きおこる。

 

 

 

 

「GYAOOOOOO!」

 

 

 

 

怒りのままハンジに向かって咆哮を浴びせた。

加減したとはいえ、距離が近かったからかハンジは耳を塞いだまま身動きが取れずにいる。

そんな奴の前に俺は身体を低く構え、戦闘態勢に入り足元に風を巻き起こす。

 

 

コイツの奇行を今まで何とか大目に見てきたが流石に攻撃されたとあっちゃ我慢の限界だ。

もう許さん!今すぐそのムカつくゴーグルを叩き割ってやる!

 

 

「あ‥あはは、ひょっとして怒っちゃった?ごめんね、つい出来心で」

 

 

雰囲気からして俺が怒っているのを察したのだろう。

乾いた笑みを浮かべながら降参ポーズするハンジ。

しかしそれがまた余計に俺の怒りを煽るだけだとはコイツは分からないだろう。

 

 

この野郎!何が出来心だ!

出来心で攻撃されてたまるか!ちったあ痛い目にあって反省してもらうからな!

 

 

安心しろ、怪我はさせな !?

 

 

「!」

 

 

 

突如目の前に迫る光の一閃。考えるよりも先に身体を動いていた。

反射的にそれを避けるように後ろに飛び退き地面を滑るように着地する。

 

 

 

 

「チッ、外したか」

 

 

 

? 何だ?男の声?

 

 

ハンジとは違う第三者の声が聞こえ、地面に向けていた顔を上げた。

 

男が立っている。

ハンジと同じ緑マントの身に纏ったその男は両手にカッターが握られていた。

 

 

目の前を通り過ぎた光の一閃

突然現れた男と手に持ったカッター

そしてさっきの「外した」うんぬんのセリフ

 

 

‥ひょっとしてさっき俺、攻撃された?

危ねえ!鋼龍の反射神経で奇跡的に躱せたけど、全く見えなかった!

 

 

 

何だアイツ!?

 

 

 

身体が強張っているのが嫌でも分かる。

クシャルダオラの本能か分からないが、目の前に立つ男はヤバいとずっと警鐘を鳴らしまくっている。

 

 

突然の男の登場に俺だけでなくこの場にいるハンジもポカンとした表情で、男を見つめていた。

 

 

 

「え?‥あれ?リヴァイ?何でここにいるの?」

 

 

 

戸惑うハンジの声などガン無視。

見たもの全てを射殺せそうな鋭い眼はただじっと俺を捉えたまま逸らそうとしない。

 

 

 

 

「オイ、クソメガネ。何だあれは?」

 

 

 

その眼力に俺の身体は震えるばかりだ。

 

 

 

ふおおおおお‥!

な、なんかヤバそうなのが来た‥!




という訳で前回の答え!
人間の奇行種ことハンジさんでした!
皆さんとっくに分かっていたみたいでしたけどねw

ハンジさんでかなり大変な目に遭ったのに今度はリヴァイ兵長の登場。


次回、マジでシャレにならない戦闘力がクシャル君を襲う!



奇行種の次が人類最強ってクシャル君ホントついてないですわw
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