おかしな点があるかもしれませんが、ご容赦ください。
部屋の半分をガラス板で遮った空間—
刑務所内にある面会室で、数枚の書類を交えながらキッドと一人の男性が向かい合って会話をしていた。
「——武偵校についての説明は以上です。何か質問はありますか?」
「いや、問題ない」
キッドは書類に目を通しつつ、目の前にいる男性を観察する。
しかし、いかに男性を観察してもこれといった特徴は見出せない。
何もかも平均過ぎるのだ、この男性は。
顔・動作・声のどれをとっても平均的。
他人に全く自分の印象というものを与えない。
それがこの男性—
東京武偵高校校長 緑松(みどりまつ)武尊(たける)だ。
現にキッドは緑松校長と会うのは今日で二度目になるが、この男について何か聞かれても間違いなく名前しか答えられないだろう。
「それではコレを」
「コレは・・?」
緑松校長から鞄から取り出したのは首輪のような装置。
ガラス板越しに確認するが、コレが何なのかまるで検討がつかない。
「コレは最新型のGPSです。貴方の座標を常に把握するためのものであると同時に、貴方が制限されたエリアから出ると知らせる装置です」
「コレを付けろと?」
「はい。ベルトようになっていますので足首に付けてもらいます。あっ、重さはほとんど感じないハズですのでその点はご安心を」
「・・・オキヅカイドーモ」
キッドの端正な顔が見るからに引きつる。
誰だって自分の動きを把握される首輪・・・実際には首にではなく足なのだが、どちらにしろそれを付けろと言われて良い顔をするのは無理だろう。
「制限されたエリアから出るには任務の場合。もしくは教務課(マスターズ)に所属する教員の許可・または一人に同伴してもらう必要がありますので」
保護者(カンシヤク)が必要とか子供か俺は、と内心ぼやく。
書類の方も確認してみると、移動制限エリアと書かれた項目があり、読んでみると自分が自由に行動出来る範囲は保護観察者から半径3キロ圏内のみ。
これでは何処にも行けないのと変わらないだろう。
「それと、もう一つ」
「ま、まだあるのか?」
言われて気付く。
まだ目を通していない書類が後1枚あるということに。
背中から嫌な汗が流れるのが自分でも分かる。
だが制限されているとはいえ自由を手にするためだ。
これは聞かずには通れない道だ。
「貴方の武装についても制限させてもらいます」
「せ、制限?武偵なのにか?」
慌てて最後の書類を確認すると、武装についてと書かれており、そこには目を背けたくなるような内容が書かれていた。
先程説明された武偵高の校則の中に『武偵高の生徒は、学内での拳銃と刀剣の携帯を義務付ける』とあったのに、入学する前からそれを敗れと学校側から指示されるとは。
「銃を装備するのは認めますが、発砲にはこれも教務課教員及び保護観察者の許可が必要です」
武偵とは危険と隣り合わせの仕事。
それを育成するための学校とはいえ、危険は間違いなく存在する。
下手したらその内部ですら危険だろう。
なのに、その武装を制限するとは正気の沙汰とは思えない。
「き、緊急事態の場合はどうしろと?」
「その時は諦めてください」
「・・・・・・」
「また以上の制限を破りましたら逃走行為と見なし、貴方を拘束します。その場合はまたここに入れられる事になりますので」
唖然・・・唖然としか出来ない。
いくら自分が犯罪者だからといって、この措置は厳し過ぎるのではないか。
これでは行動範囲以外は刑務所にいても変わらない。
キッドは交渉しようかと思うが、目の前で胡散臭い笑みを浮かべている男を見たら無理だろうなと思い、諦める。
「今回の件は書類上は司法取引とはいえ、かなり異例の事です。なにぶん、初めてのケースですので問題は多くあると思いますが・・・」
確かに通常の司法取引ならば確かにこんな厳しい内容ではなかっただろう。
この司法取引というのは、犯罪者が犯罪捜査に協力したり共犯者を告発することで罪を軽減。
または無かった事にできる制度だ。
アメリカでは馴染みの制度だが、これは法の公正さを損ない、偽証や冤罪などを生みやすくするリスクのある制度だ。
だが、日本は増加する犯罪に司法が対応しきれなくなったため、近年この制度を導入した。
今回キッドはその制度を使い自身が知っている犯罪者達の情報を売ったが、如何せん今まで犯した罪は重かった。
多少、罪が軽減される事になってもそれが無罪にまではならない。
そこでキッドはいくつかの捜査に協力する代わりに刑務所の外に出ることを許可してもらった。
なので、今回の場合キッドは釈放ではなく、仮釈放という扱い。
目には目を、犯罪者には犯罪者というわけだ。
だが、それはキッドの手綱を御す事が出来なければ意味がない。
万が一、逃走でもされたらただの失態では済まない。
これらの条件は全てそのためのものだ。
「・・・わかった、わかったよ。その条件で構わない」
「ええ、これでもこれが上からの最低限の譲歩です。私としても貴方を学校に入学させる以上、慣れているとはいえ生徒を危険に晒したくはないので」
心外だとキッドは思う。
いくら自分が法を守らない無法者だとしても無条件で誰かを傷つけるような真似はしないというのに。
「では、貴方の東京武偵高校への入学を許可します——————ロス・キッド君」
彼女の話に安易にノッたのは早計だった。
――ああ、もしかしたら俺の自由は彼女に盗まれてしまったのかもしれない。
まだ短いです。
次からはもっと長くなるはずです。