×東京23区と神奈川県の一部
〇保護観察者から半径3キロ圏内
・・・あれ?めっちゃ厳しくなった?
――妙な事もんだ。
フリルやレースを大量に付けたヒラヒラ改造制服で久々に教室に現れた理子にクラスのアホどもが歓喜しているのはまだいい。
理子は外見美少女だし、明るい性格のためクラスの人気者だからな。
それに昨日のうちに理子の帰還を知っていた俺とアリアからしたら驚くことではない。
だけれどもコレは別だ。
「今日はこのクラスに転入生がやってきました。しかも男の子よー、やったね女子」
武偵高では比較的まともである教師 高天原の一言で更にクラスの熱気があがる。
転入生?この時期にか?
このクラスにはアリアが4月に転入してきたばっかだぞ。
高天原が「入ってきて」と一言告げると、教室の扉が静かに開かれた。
現れた転入生の姿を見て、さっきまで馬鹿みたいに騒いでいてクラスが静まり返った。
(外国人・・・か)
まず何よりも目を引くのは輝かんばかりの金色の髪。
そして、その人形のように整った顔。
不知火と同じタイプの美形だな。
人の良さそうな顔をしているが、どこか謎めいた雰囲気を感じさせる男だ。
ああいうのがいいんだろうな、女子は。
案の定、ミーハーな女子どもは転入生に黄色い声援を送っている。
その声援にニッコリと笑顔で返す転入生を見て、俺は何となくだがコイツとは仲良くなれない気がした。
「アメリカの武偵高から転入してきた、ロス・キッドです。気軽にキッドと呼んでください。転入してきたばかりで至らぬ点があるとは思いますが、どうぞよろしくお願いします」
お手本のような自己紹介を終えた奴――
キッドに女子どもが矢継ぎ早に質問を投げつけている。
「どこ出身なの!?」「日本語上手だね!」「彼女は!?」などと。
つくづく俺があの中心にいたらキツかっただろうな。
ヒステリア的な意味で。
まあ、俺があんな状況になるとは思えんが。
(ん・・・?)
呆れながら周囲の様子を見てみると、珍しく騒ぎに傍観に徹しながらも、一人でニヤニヤしている理子が目に付いた。
アイツなら一番に騒ぎの中心に飛び込むかと思ってたんだがな。
「アイツ・・どこかで・・」
すると今度は隣のアリアから呟き声が聞こえてきた。
アリアはキッドを射殺さんばかりの視線で睨んでいる。
「確かめなきゃ」
「あっ、オイ、アリア!?」
アリアは椅子から立ち上がり、キッドの周りに気づかれた包囲網の中に遠慮なく突撃する。
無理矢理に女子を押しのけたアリアはキッドの真正面に立ち、クラス中が注目する中こう言った。
「アンタ、どっかで私と会った事ある?」
・・・オイ、アリア。
いったいそれはいつの時代のナンパだ。
しかも性別的に逆だぞ、その台詞。
「いや、初対面のはずだよ。第一、君みたいな可愛い子に会っていたなら忘れるはずがない」
「か、かか可愛いってアンタ!いきなり何言ってんのよ!?」
・・・平然とヒステリアモードの時の俺みたいな台詞を吐きやがる。
コイツ、相当女に慣れているな。
それにアリア、なにナンパされ返されてんだ。
「ダメだよアリアー。転入生とは仲良くしないとー」
今まで黙っていた理子が急に転校生を擁護するような事を言った。
もしかして知り合いなのかコイツ?
「・・まあ、いいわ。アンタ、学科は?」
「ふふふ、キッドはねぇ、なんと―」
「俺は車輌科(ロジ)だよ。ちなみにテストは受けてないからランクはE」
「・・・・えっ?」
学科を告げたキッドに理子が驚いている。
この様子じゃやっぱり二人は知り合いのようだが、お互いの間で何か齟齬があったようだ。
というよりランクを聞いて急に親近感が湧いてきたぞ。
「俺も車輌科なんだ。よろしく頼むぜ」
「ああ。こちらこそよろしく」
同じ車輌科と聞いて、早速武藤がキッドに握手を交わす。
このクラスに車輌科の男子は少ないからな。
同じ学科の奴が増えて素直に嬉しいんだろう。
「ん?」
ずっと俺が視線を向けている事に気が付いたようで、キッドは女子に向けていた爽やかな笑顔を向け、俺に近づいてきた。
「君もよろしく頼むよ」
「あ、ああ・・・」
俺は胸に妙なつっかかりが出来たような感じがしつつも、転入生と握手を交わした。
◆◆◆
「まさか車輌科なんてね・・」
昼休みになって、金髪の二人組。
キッドと理子は人気のない屋上にいた。
「てっきり理子は強襲科(アサルト)か諜報科(レザド)かと思ってたんだけどなあ」
「発砲出来ないのに強襲科にいても仕方ないだろ。諜報科は・・俺が入ってもつまらないだろ」
溜息交じりに話す理子にキッドは笑みをこぼす。
だが、その笑みは先程までクラスにいた連中が見たら違和感を覚えただろう。
今のキッドの笑みは三日月のように歪められた笑みなのだから。
「でも何で車輌科なの?」
「どうせ学ぶなら知らない知識で実用的な事を学びたいからね」
「ふーん」
自分で訊いたくせに対して視線をそらして素っ気なく返事をする理子。
その視線はキッドの左足首に向けられている。
そこは制服のズボンの裾で隠されているが、その視線に気づいたキッドは左のズボンの裾を上げる。
「あはっ。ちゃんと付けてるんだ」
「約束は守るさ。これ以上警戒されるのは俺も望まないし」
「うんうん。なら約束通り理子からも離れちゃダメだよ」
心底嬉しそうにしてキッドの腕に抱き着く理子。
喜ぶそぶりも嫌がるそぶりもせずキッドはただただ理子の頭を撫でる。
――保護観察者。
それがキッドにとっての理子だ。
司法取引で決められた条件の一つ。
外に出る代わりにランクA以上の武偵を観察者として付ける。
そしてキッドはその観察者の半径3キロから出られない。
更にキッドは銃を手にしても観察者が許可しなければ発砲できない。
言うならばキッドは首輪をされた犬で、保護観察者がその飼い主だ。
探偵科(インケスタ)に所属している理子のランクはその姿からは信じられないがA。
条件を満たしている。
もっとも今回の司法取引の件を考えたのは理子なのだが。
キッド一人ではこうもスムーズに取引は成立しなかっただろうし、最悪取引に応じてもらえなかったかもしれない。
そう考えると彼女には感謝すべきなのだが、彼女がただの善意で自分を助けるとは思えない。
「それで、俺を刑務所から出した目的は何なんだ、理子」
「まだ教えないよ。ただキッドは保険なの」
これだけの情報では理子の目的は分からないが、いずれ分かるというならその時を待とう。
キッドはそろそろ時間だと気づき、未だ腕に抱き着いている理子を引き離し教室に戻るとする。
今の自分は転入してきたばかり。
学校では優等生でいようと決めているのに、早速遅刻するのは避けたい。
「そうだ。キッドはこれからの宿泊先がどうなってるか知ってる?」
「いや、そういえば聞いてないな」
最悪ビジネスホテルにでも泊まろうかとも思ったが、外に出たばかりなので金は持ち合わせていない。
そもそも自分は理子から3キロ以上は離れられないのだ。
そう考えると宿泊先は限られてくる。
「・・理子の部屋には泊めてもらえないのかな?」
「ぶっぶー残念ー!理子のお部屋は男子禁制なんだよ!でも安心して!」
安心してと言われたのに、まるで安心できないキッド。
こういう時の彼女の言う事は大抵自分にとっていい事ではないと経験上分かっている。
「男子寮で名前は・・・忘れちゃったけど、相部屋だってさ!」
「寮で・・相部屋・・!?」
その事実にキッドはこれまでないほどに嫌そうな顔を浮かべるのであった。
まだまだ短いですね・・頑張らなければ。
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