緋弾のアリア 繋がれた犯罪者   作:童帝王

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久々の更新です


04「手に入れたいもの」

非常に好ましくない状況だ、とキッドは思う。

 

ただでさえ狭い学生寮で見知らぬ相手と、加えて男と一緒に暮らすだなんてありえない。

相部屋相手が女性なら考えなくもないが、それでもキッドはいい顔はしないだろう。

 

確固として確立された自分だけのプライベート空間。

それがなくして本当に心休まる家になるだろうか。

 

答えは否だ。

 

誰にも気遣うことなく自由に使える部屋。

それこそがキッドが求める部屋としての最低条件だというのに。

もし刑務所において、誰かと同じ牢に入れられたのならまず耐えられなかった。

それほどキッドにとって自分だけの空間というものは大切なのだ。

 

更に、正直に言ってしまえば共同生活になると足首に付けられた装置がバレてしまう。

まあ、バレたところで特に罰則はないのだが、それでは自身にとって色々と不都合を生んでしまう。

 

「家を買うにもキッドにはお金がないもんね。大人しく諦めなよ」

 

金を稼ぐとして思いつくのは任務での報酬金。

だが教務科(マスターズ)からの連絡はまだ来る気配はない。

自分で任務を見つけようとも武偵ランクEの自分に任せてもらえるような仕事など高が知れている。

 

「・・・理子」

 

「お金なら貸さないよー?」

 

先読みされてしまった。

これはもしかすれば今までにないほどの危機かもしれない。

 

「ぼんびーぼんびー、キッドはぼんびー!」

 

業界用語まがいの言葉でキッドを馬鹿にする理子。

キッドはこめかみを引きつかせるが、事実なので反論できない。

やはり世の中は金というわけか。

 

「……いいさ。自分の事は自分でするさ」

 

そう言って今度こそキッドは屋上から立ち去る。

その後ろ姿を理子はただただ愉快そうに見つめていた。

 

 

◆◆◆

 

 

キッドは屋上から去った後、学生向けに教務課から用意されている任務の内容が張り出されている掲示板の前にまで来ていた。

掲示板には他にも教務課からの連絡事項として追試の知らせや再検査の知らせの用紙なども張られている。

 

やはり現状で金を得る手段は任務での報酬と考えたが、案の定Eランクである自分が受けられる任務は難易度が低い分報酬も低い。

これではいくつ任務を受けようが無駄だ。

安いアパートですら部屋を借りられない。

 

せめて高ランク武偵との共同任務なら可能性はあるが、今日転入してきたばかりのキッドに一緒に任務を受けられるような高ランクの武偵の知り合いはいない。

唯一の相手である理子はAランクではあるが、つい数分前に自分の事は自分でするといった手前協力を申し込むのは癪だ。

 

どうしようもなく掲示板の前で途方にくれていると、1人の女子生徒がこちらに向かって歩いてきた。

 

「あれー、キッド君?」

 

「やあ」

 

女子がキッドに話しかけてきた。

その顔には見覚えがある。

先程クラスで積極的にキッドに質問してきた女子生徒の一人だ。

確か探偵科の子だったと記憶している。

 

「任務受けるの?」

 

「そう思っていたんだけどね、どの任務も俺には手に余りそうなんだ」

 

「えー?キッド君って何でも出来そうな感じがするんだけどなあ」

 

当然嘘だ。

だが、ここで高額の報酬が出る任務を探してると言ったら、自分に興味を持ってるこの子は間違いなくあれこれ詮索してくるだろう。

ただでさえ相手は探偵科の子だ。

情報は出来るだけ話さないに限る。

 

「・・・情報か」

 

「えっ、なに?」

 

「ああ、いや、なんでもないよ」

 

柔らかな笑みを浮かべて誤魔化す。

キッドは今更思い立った考えに内心溜息を吐くが、表情には臆面にも出さず、探偵科の子に質問する。

 

「知り合いに情報科の子・・・もしくは通信科の子っていないかな。出来るだけ優秀な子だとありがたいんだけど」

 

「いるにはいるけど・・どうして?」

 

「まだこの学校の事がまるで分からないからね。情報科の子なら色々教えてもらえるかと思って」

 

当然これも嘘だ。

この学校の事は事前に調べ上げてあるため、何処に何があるかは全て把握している。

だが、キッドが知るのはそれだけだ。

 

これから先、学校内で自由に行動するためには誰がどの学科で優秀であるかは知っておく必要がある。

そして人間は調べれば弱みの一つや二つは出てくるもの。

命のやり取りをする武偵にとって、そういった情報は売れるものだ。

 

自分で調べるのも構わないが、他にもすべきこともあるため情報収集だけに時間を取られたくはないので、キッドはその専門の人間を見つけることにした。

 

情報科は言うまでもない。

その手のプロだからだ。

通信科でもいいのは彼らは通信機材の扱いに長けているため。

勿論その中には盗聴器などの機械も含まれる。

 

学生とはいえ、ここにいるのは武偵。

その彼らを利用できれば簡単に情報は手に入る。

 

「案内なら私がしてあげよっか!どうせ暇だし」

 

だからこのような返事をされると正直面倒に感じてしまう。

が、優等生としての仮面を被っていくと決めたからには模範的な解答をしなければならない。

 

「嬉しい提案だけど、二人っきりで歩くならもっとムードがあるところがいいかな」

 

「えっ、そ、それって」

 

はっきりとは言葉にせず、キッドは片目で軽くウィンクする。

キッドは自分の容姿が人並み以上だと自覚している。

こういうとナルシストかと誤解されてしまうが、客観的に見てもそれは事実だ。

男は美しい女に弱いが、それは逆もまた同じだ。

だからこそ、こうして出会って間もない女の子を利用できる。

 

「それで教えてくれないかな?これから任務を受ける時には他の学科の子の協力は不可欠だしね」

 

「う、うん。情報科の子には心当たりないけど、通信科の子なら一人凄い優秀な子知ってるよ」

 

「本当かい?」

 

「あっ・・・でも」

 

名前を聞き出そうとしたら突然女子生徒が言い淀んだ。

そして少ししてから遠慮がちに口を開いた。

 

「その子、隣のクラスの子なんだけどね。男の子が苦手なんだ」

 

「苦手?男性恐怖症ってことかい?」

 

「うーん・・それもあるみたいだけど、その子かなりの恥ずかしがり屋なの」

 

通信科の子が恥ずかしがり屋でやっていけるのかと疑問に思ったが、優秀な子を紹介してくれと頼んだのだから、その点は大丈夫だろう。

問題なのは男性恐怖症気味という件。

だが―

 

「好都合だ」

 

キッドは女子生徒に気づかれることなく笑みを浮かべた。

実際の会ってみなければ分からないが、予想が正しければ簡単に済ませられる。

キッドはそう確信して女子生徒にその子の名前を聞いた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「あの子か・・・」

 

先程の女子生徒からクラスと名前・特徴などを教えてもらった後、まずは教室から当たってみたのだが、どうやら早速あたりのようだ。

1人ポツンと残った教室でゆっくりと掃除をしている。

確かこういうのは何人かの当番がいるものだと思うが、聞いた性格から考えるに押し付けられたのかもしれない。

 

周りに誰もいないことを再確認してからキッドはその子に話しかけた。

 

「ちょっといいかい?」

 

「は、はひっ!?」

 

通信科2年、中空知(なかそらち) 美咲(みさき)。

それが女子生徒から紹介され、今目の前にいる子の名前だ。

 

長い黒髪・・というか長すぎる。

後ろ髪はともかく、前髪は長すぎて完全に目を隠してしまっている。

かろうじて眼鏡をかけていることはわかるが、あれでは本人も何も見えないんではないだろうか。

せめて髪を分けるなりすればいいものを。

 

武偵ランクはB。

優秀というには少し物足りないランクかもしれないが、通信機を介さないと男性とはまともに話が出来ないためとのことらしい。

そのためキッドはあらかじめ自分の携帯番号を記した紙を用意していた。

 

「お、おと!お、おおおとこと・・!」

 

「はい、とりあえずこれで」

 

キッドはその紙を面白いほど慌てる中空知の手に握らせる。

そして、そのまま教室から退出し、廊下の壁に寄り掛かる。

すると数十秒経ってからキッドの携帯の着信音が誰もいない廊下に響き渡った。

番号は非通知。

 

「はい、もしもし」

 

『先程はお見苦しいところをお見せして申し訳ありません』

 

その流れるような喋りに思わずキッドは呆気に取られる。

話には聞いていたが、この声の人物がつい先程まで慌てていた人物と同一人物だとは思えない。

まるでアナウンサーのような滑舌に良さだ。

つい教室の中に入って確認したくなるが、なんとか我慢する。

 

「中空知さんで間違いないかな」

 

『はい。私が中空知で間違いありません。貴方は今日転校してきたロス・キッドさんですね』

 

「知ってたのか」

 

『学校中の噂ですので』

 

それならば自己紹介の手間が省けて助かる。

キッドは早速本題に入ることにした。

 

「君に頼みたいことがある」

 

『それは任務ということでしょうか』

 

「任務・・とは、ちょっと違うかな」

 

『それはどうい―』

 

中空知が何か言い切る前にキッドは電話を切った。

そして、そのまま迷うことなく再び教室の中に突入した。

 

「えっと、あの!ここ、これはいき、いきなり・・・・!」

 

顔を真っ赤にして慌てる中空知。

こうしてまた見ても、あの声がとてもこの女の声だとは信じられない。

 

それでもキッドは中空知に近づく。

その勢いを殺すことなく慌てる中空知の腕を掴み、壁に押しやる。

 

お互いの顔の距離は数センチしかなく、互いの吐息がはっきりと聞こえる。

キッドが中空知の顔に手を伸ばそうとすると、中空知は真っ赤な顔をギュッと引き締めるが、構うことなくキッドは手を伸ばした。

そして、ゆっくりと前髪をかき分け、眼鏡を取る。

 

「あひゃっ!?」

 

「なんだ、綺麗な顔してるんじゃないか」

 

前髪に隠れてしまっていたが、こうして見てみるとかなり綺麗な顔をしている。

普段髪で隠してしまっているのが勿体ないと感じてしまうほどだ。

 

これは嬉しい誤算だ。

どうせ傍に置くなら綺麗な方がいいに決まっている。

 

「中空知」

 

耳元でキッドが囁く。

その声に感じたかのように中空知の身体がピクッと動いた。

 

「---俺の女になれ」

 

 




逃げてー!マジで逃げて中空知ー!
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