「ふむ………」
白い法衣の男…魔導爆撃部隊の男は声を漏らす。
今回与えられた指令は『指定の線までにいる獣人の殲滅』。それと出来る限り人間を助ける事。ただし蘇生などを行う必要は無いとのことだ。
人間を巻き込まないのであれば広範囲の魔法も使ってよいとも言われているので、人間を巻き込まないようには注意しなくてはならない。
探知魔法で殲滅すべき獣人と救うべき人間は区別出来ているが、問題はどのように殲滅していくかだ。
『ど派手に頼む』という要望をされている以上、それに応えなければならないが方法は我々に一任されている。
〈
さて……どうしたものか…。
村が襲われた。
竜王国の村だ。
獣人に襲われた。
獣人は強い。身体能力は人間の十倍。冒険者ならいざ知らず、農作業しかしてこなかった農民に勝てる筈も無く…。
瞬く間に蹂躙された。
ある者は戦った。
自分自身や愛する者を守るために戦った。そして食われた。
当然だ。武器も無ければ防具も無い。精々が農耕用の鍬なのだから、勝てる筈も無い。あったとしても変わったとは思えないが…。
またある者は逃げだした。
獣人に一農民が勝てるわけがないことは、獣人の国と隣接する竜王国の民なら誰だって知っている常識だ。ならば、勝てない相手に戦わずに逃げるという判断は非常に利口だ。
だが相手は獣人。文字通り身体能力の桁が違う。どんなに村で足が速くても、獣人に比べれば何という事は無い。
すぐさま追いつかれ殺された。
隠れた者もいた。戸棚、地下室、森の洞。どの家にも人が隠れられるほどのスペースはあった。
だが、彼らもすぐに見つかった。
なぜなら獣人は嗅覚も鋭い。臭いを落とす間など無かっただろうし、見つかるのにそう時間はかからなかった。
命乞いをする者だっていた。戦っても勝てず、逃げても追いつかれ、隠れても見つかるのだからこれもまた利口な判断だ。
だが、相手は獣人。獣人は人を食う。
人間を動く餌としか思っていない獣人が、人間の命乞いに耳を貸す筈も無い。
さて、村が瞬く間に蹂躙されたわけであるが、なぜ私がまだ生きているのか……という疑問に答えておこう。別に逃げ切ったわけではないし、そもそも助かったわけでもない。
娯楽のためだ。私は面白おかしく殺すために生かされているのだ。私一人ではない。他に何人かいる。
生きたまま炙られ、焼かれ、捌かれ、齧られる。
私に待っているのはそんな運命だ。
抵抗など出来ようはずもない。
ただその時を待ち続けるしかないのだ。
「おら、次はお前だ」
どうやら私の番が来たらしい。
いままで何人もの人間が死ぬところを見せられた。どれもが吐き気を催すものではあったが、何人も見せられれば嫌でも慣れる。
生きることなどとうに諦めた。私が願うのはただすぐ死ぬこと。
出来る事なら一思いに殺してほしい。
「〈
そう思った時であった。
空から声が聞こえたかと思えば、雷が獣人を撃ち抜いたのだ。
「無事かね?」
唖然としながら焼け焦げた獣人に目を奪われていたが、空から降ってきた声にあわてて顔を上げる。
「………ぁ」
「む?声が出せんのか?困ったな…殲滅と人間を出来る限り助けるよう指令は頂いているが治療の指令は頂いていない…」
目に入ったのは純白の法衣だ。所々の金色の刺繍から相当な高級の衣服であることが分かる。
「困ったな」と言った後からは小声で聞き取れなかったが、私を案じていることは分かる。
…いや、その前に礼を言わねば…。
「…ぁ、ありがとうございます!」
「なんだ、出せるじゃないか。良かった良かった」
うんうんと頷く法衣の男。
彼は…この人はいったい何者なんだろうか。
「あ、あなたは…?」
「私か?私は神の国の部隊の一人だよ」
神の国…聞いたことがある。数か月前に突如現れたという国だ。
「それじゃ、私は仕事があるのでね」
そう言うと法衣の男は飛び上がって行った。
そして飛び上がって行った男の周りに火の玉が現れた。一つではない、三つだ。前に冒険者が火の玉を出す魔法を使うのを見たことがあるが、その時は一つしか出していなかったはずだ…。
そんな風に考えている間にも火の玉が撃ち出されており、撃ち出された先からは物が焼け焦げるような匂いがしてくる。
その着弾場所と思われるところに行くと、”凄惨”という言葉が相応しい光景が広がっていた。
地面にこびりついた血、骨、内蔵、肉、髪の毛、頭。獣人達がどれだけのことをしていたのかが一目でわかるほどの凄惨な光景だ。
そして焼け焦げ、いまだにプスプスと煙が上がる肉塊。おそらく獣人だろう。
「助かった……のか……?」
「ハッ…ハッ…」
一つの影が息を切らし走っていた。
影の正体は獣人。竜王国の村を襲っていた獣人のうちの一匹だ。
「なんでこんなことに……!」
つい30分ほど前までは捕食者だった。村を襲い、人間を殺した。そして食った。久しぶりの肉は非常に美味だった。
皆で人間の肉の味に舌鼓を打ち、泣き叫ぶ人間の様を楽しんでいた。
そんな至福のひと時は突如として終わりを迎えた。
炎ーーいや、炎弾が降り注いだのだ。
突然のことで誰もが動けない中でも関係なく、容赦なく炎弾が降り注ぎ何人かが丸焦げになった。
そして我を取り戻したやつから我先にと逃げ出した。炎弾の出所を確認する暇もない。
一目散に森に飛び込んだのだ。
もう誰がどこにいるのか、生きているのかどうかもわからない。
はぐれてしまったこともそうだが、いつもならば獣人が生まれ持っている嗅覚で仲間の方向を調べることが出来るのに、森の焼け焦げた臭いでかき消されてしまっている。
…ほら、今もすぐ後ろに落ちたように、魔法の炎弾が自分を追って降り注いでいる。
今のところはまだ捉えられていないが、時間の問題だろう。
しばらく必死に走っていると、森の切れ目が見えた。
森で姿を隠せないのは痛いが、ここを抜けなければ本国へと帰れない。イチかバチか駆け抜けて向こう側の森に入るしかない。
覚悟を決めて、駆け抜けようと森を抜けた…………ところで立ち止まってしまった。
「な、なんで………」
そしてがくりと膝をついた。
「なんで…
そう。駆け抜けて入ろうとしていたはずの向こう側の森からも黒煙がモクモクと立ち昇っており、炎が赤々と燃えがっていた。
「おい……どうなってんだよ……」
後方から聞こえた声に振り向くと、そこには一緒に襲撃しに来た仲間が居た。どうやら彼も
周りを見渡せば、他にも何人かがここの木の無い平原にたどり着いているのが見える。
爆撃も止んでいるので、今のうちに状況確認をしなければならない。
「……この場にいないのは?」
彼らを指揮していたのは自分だ。自分が話さなければだれも話そうとはしないだろうから、自分が率先して聞くしかない。
「……レラグとウォルビス、ガロルグ、ハンガー兄弟がいないようだ」
「……そうか。……とにかく、この場にいる者だけでも帰還しなくては……」
竜王国がこれほどの戦力を持っているということはなんとしても本国に伝えなくてはならないのだ。
「ふむ………これで生き残りは全員か」
「っ!!??誰だ!!」
突然声が聞こえた。俺たちの中の声ではない。
辺りを見回すが、それらしき者は見つけられない。
「お、おいあれ!!」
一人の仲間が上を指さした。
「あれは……人間か?」
上に浮いている人影は20程。全員が白いローブのような服を着ている。
浮いているということは〈
不味いな…と獣人の男は思う。現状の戦力では空を飛ぶ人間に攻撃する術はない。〈飛行〉や魔力が切れるまで耐えきるしかないだろうが、人間の魔法が動き回る獣人に当たることなど殆ど無い。事実殆どの獣人は当たらずにこの場まで逃げ切っている。これだけ魔法を連発して森を焼き尽くしたのだから、魔力だってほとんだ無いはず。
ならばこちらが有利…と歯をむき出しにして笑う。
「すまんな」
「…なに?」
「君らに恨みは無いが……これも主の命」
「一体、何を……?」
「わざわざ一カ所に集めたのだ。一思いに殺してやろう」
先程まで喋っていた男と別の男が言うと、全員が「然り」と返した。
………………今、「一カ所に集めた」と言ったか?
つまり、我々は逃げていた、逃げきれていたのではなく、追い込まれていたということ。
「どうかやすらかに………………「「「「「「「〈
ゾワリ……と毛が逆立つ。嫌な予感だ…それもいままで感じたことがないほどの。
「逃げろ!!」……と叫ぼうとしたが声が発せられることもなく、消し炭となった。
ふむ……と
彼らのとった戦法は、〈
爆撃部隊の名に相応しいやり方で、絨毯爆撃かと言われると少し微妙だが爆撃という目標は達成したと言えるだろう。
ただ、一つ気になることがある。
これ………………戦争じゃなくね?
だってこれただの蹂躙じゃん。いや、別にいいんだけどさ。もっと戦略をどうにかこうにかして………みたいなことを想像していたのになぁ…………。
まぁでも、爆撃部隊の試運用は出来たので得るものはあったと言えるだろう。
「よし。これで獣人の殲滅は完了だな」
「う、うむ」
「あとは壁を作れば万事解決だな」
「そうだな……」
「費用も頼むぞ?」
「はぁ……あぁ。………………なあ」
「ん?」
「……仲良くしような」
「…?あぁ、もちろんだ。なんたって友好国だからな」
「そう…だな…。ユーコーコクだものな……」
何を気にしているんだろうか。
別に変な事をしなければ敵対する気も無いし、領土が欲しいわけでもないのだから安心して欲しい。
ドラウディロン「ふぁっ!?火球三つ!?何発撃ってんのこいつら……え、なにあの魔法、知らないんですけど!?」