「冒険者ねぇ………」
冒険者。
冒険者組合に来た依頼を受けて、達成する事で報酬を得る者達だ。
依頼の内容はモンスターの討伐や採集、護衛などがあり、組合が事前に精査して難易度毎に振り分けてあるので安心安全だ。
冒険者はモンスターと戦う事が多いので強い人間も多い。中でも最高位であるアダマンタイト級冒険者は人類の切り札と呼ばれる。冒険者に強い人間が多いのは経験値的なものが多く得られるからだと思っているが、実際どうなんだろうか。
因みに、冒険者には国家間の争いなどには参加しないという決まりがある。
これが無いと冒険者同士による戦争になってしまい相互の被害は拡大し、その戦争の後にモンスターなどを倒せる人間が減る事にもなるからだ。
一見オーソドックスなファンタジーの夢のある職業に思えるかもしれないが、実際はそんな事はない。
本当の意味で命の危険が付き纏うし、稼ぎも悪いからそれほど夢のある仕事でも無い。ミスリルを超えるような上級冒険者であれば余裕も出来てくるが、冒険者もピンキリだ。実際最下級である銅の冒険者は殆どただの荒くれ者だ。
そんな冒険者だが、冒険者組合が無ければ存在し得ない。
つまり、冒険者組合の無いウチには冒険者が居ないという事だ。
冒険者組合が無いのには理由がある。
それは『冒険者の仕事が無いから』だ。
まず、都市部は全て壁で囲っているのでモンスターによる被害が出ることもない。だからモンスター討伐の依頼が来ることはない。
育てられる植物は基本的に温室で育てているので採集が必要なものもほぼ無い。
護衛にしても、ウチの兵士がやれば事足りる。なんならウチの兵士の方が強いまである。
そんな訳で、この国では仕事が少な過ぎるのだ。
だが、もちろん冒険者組合を作るメリットはある。
まず単純に人の出入りが増える事で交易の促進が期待出来る。
そしてもう一つ、冒険者のアンダーグラウンドを作り出せる。適当に30レベルの兵士数人でチームを組めば、あっという間に英雄級のアダマンタイト冒険者が作り出せる。ウチでアンダーグラウンドが出来れば他国に行ってもアダマンタイト級冒険者として活動出来るようになるという訳だ。
後々の事も考えれば作った方がメリットは大きいんだが、仕事が無いというのは死活問題だ。討伐すべきモンスターが居なければ、冒険者なんて無職と変わらないのだ。
視点を変える必要があるかもしれない。
何も国内での依頼である必要は無いのだから、ここから行った方が早い依頼についてはこちらに回すように言っておけば良い。そうすれば、ここに近い色々な都市の冒険者組合から依頼が集まって冒険者も集まるだろう。
加えて言えば、ウチのマジックアイテムは超高額だ。他国で売られている値段はここでの価格の数倍以上。つまりここなら安く高品質なマジックアイテムが手に入るので、より冒険者も集まりやすいだろう。
……よし。少し手間がかかってしまうが、冒険者組合は作れるな。
まあ、冒険者組合は国からほぼ独立している機関なのでノータッチでも大丈夫だろう。最初はある程度補助するけどね。
お、エリカが帰ってきた。
間話(のようなもの) エリカの1日
メイドであるエリカの朝は早い。
起床後、身嗜みを整えてすぐに部屋を出る。
主人であるがぶりえるが出てくる前に紅茶とコーヒーを熱々で用意しておき、猫舌の主人が口にする時にはちょうどいい温度になるように調整する。因みに、主人が猫舌というのはこの世界に来てから分かった事だ。
主人の起床時間になった。
主人に挨拶をした後、紅茶かコーヒーかを聞く。今のところは全て紅茶と答えられているが、念のためだ。どちらを選んでも良いように用意している。残った方が自分用だ。
そして朝食。
オーダーがあればそれを作るし、オーダーが無ければランダムで作る。
初めは至高の御方が召し上がるものを自分が作るのは恐れ多いと断ったのだが“エリカに作ってもらいたい理由”を力説されて、渋々了承してしまった。「エリカは実質娘。娘にご飯を作って貰いたいと思うのは親心として当然」と言われてしまっては反論など出来ようはずもない。
因みに今日のメインはフレンチトーストだ。
そういえば以前初めてホットドッグを作った時に、「次作るときはマスタード抜きで頼む」と言われたのをふと思い出した。コーヒーよりも紅茶を好むようだし、(こう思うのも不敬かもしれないが)意外と子供舌なのかもしれない。なんでも完璧にこなす方だと思っていたから、そういう面があるというのは少し意外だった。
朝食が終われば、主人は仕事を始める。
特に外からの報告書を読んでいる事が多い。
いつもなら私は作業を手伝ったり、お茶やお菓子を用意している。
しかし今日は少し違った。
チェスを主人とやることになったのだ。
どういう意図か聞いてみると、次はコレを広めようと考えているそうなのだ。折角だしエリカとやってみようという感じらしい。
チェスがどういうものかは知識として知ってはいるが、実際にやってみた事はない。
がぶりえる様に勝てるだろうか………。
……勝ってしまった。
やった!とついつい小躍りしてしまった。
冷静になって考えてみれば、私如きが勝てるはずがないのに……と思っていたが、主人が「…戦闘脳め」と悪態をついていたので本当に本気に勝ったということなのかもしれない。
この後は、影武者のゲンガーを呼んで3人で交代しながらチェスを楽しんだ。
因みに私は全勝だ。…いぇい。
今日はチェス大会が始まってしまったが、いつもなら仕事は一旦休憩し、昼食の時間だ。
昼食はガッツリ食べたいとの事なので、今日はハンバーグだ。
少し時間がかかるが、その了承は頂いているので問題無い。
昼食を終えると午後の仕事だ。
午後の予定を伺うと、どうやらチェスを広めに向かうそうだ。と言っても、実際に行くのはゲンガーなんだが…。
…………え?私もゲンガーについて行け?
ど、どうしてですか?
た、確かに私はがぶりえる様のお付きですが……。
お付きが付いていないと怪しまれるというのは分かりますが、御身のお側を離れるというのは……。
……何のために影武者を立てた?って……それは……。
分かりました………。
こちらは単純にがぶりえる様の近くにいたいだけだったので、論理的に説得されてしまえばなす術はない。
不承不承ではあるがゲンガーについていくことになった。
町に降りると、すぐに人が集まってきた。
前々回のオセロ、前回の五目並べと回数を重ねる毎に人は増えていき、一大イベントとなっている。
ここまで人が集まるのも、主人である王の人徳の賜物だろう。
心の中で自らの主人を自慢していると、チェス大会が始まった。
ルールの説明をして、一度では覚えられない人間にはその都度指摘してチェスをしていく。
何人か後になってくると、少しずつ良い手が増え始める。前の人やゲンガーを見て学んだのだろう。最後の方の人は良い勝負になることもあった。
こうして笑顔で楽しむ市民達を見ていると、王の素晴らしさを実感する。
娯楽が必要だと言われた時は半信半疑だったが、こんな風に楽しそうな顔が見られるのは素晴らしいことだと思う。
何度か他の国に行ったこともあるが、ここまで人々の顔が明るくはなかった。
王城に戻ると、主人が「おかえり」と迎えてくれた。
「ただいま戻りました」と返して、今日の報告をする。
今日自分が思った事を伝えると、とても嬉しそうな顔をした事が印象的だった。
午後は何をしていたのか聞くと、冒険者について考えていたそうだ。冒険者なんて必要無いと思っていたが、主人がこう言うんだから必要なのだろう。きっと私には想像もつかないような計画などがあったりするに違いない。
今日の夕飯はクリームシチューだ。
ここ最近はパスタが食いたいと言っていたが、今日はなんでも良いとのことなのでシチューを作らせて貰った。そろそろ寒くなってきましたし、暖かくてちょうど良いでしょう?
夕飯を終えると、今日は後はゆっくりだ。
まだ仕事があれば仕事をしていることもある。
仕事が無ければ、至高の方々の話を聞いたり、がぶりえる様自身の話を聞いたり、何かしらのゲームをしたりして過ごす。ゲームなら最近だとオセロや五目並べが多いが、今日はチェスをやった。因みに全勝だ。…ブイ。
しばらくすると就寝の時間がやってきた。
この世界に来て最初の日、あれ以来体を求められるような事はない。夜伽の心の用意は出来ているのに……。
娘のように思っていると言っていたが、女としては見られていないということなのだろうか。
もちろん娘と言われて嬉しい事には変わりない。しかし、女としては少し思うところはある。偉大な方の夜伽の相手になりたいなど不敬なのかもしれないが、思わずにはいられない。
そんな事をじっくり考えていると、主人に心配されてしまった。
もう1日の終わりだ。最後まで気を引き締めていかないと!
「では、おやすみなさいませ」
「あぁ、おやすみ」
これが、将軍兼メイドであるエリカの1日である。
原作時間軸まで飛ばすって言ったけど未だに展開決まってないのヤバい……。まあ、書きながら考えますわ。