本編とどっちが先になるかは筆の進み次第。
白い鎧を着た少年、クライムはリ・エスティーゼ王国の宮殿を歩く。
クライムは第三王女であるラナーに仕える兵士だ。
誰もが羨むような立場にいるのだから妬み嫉みも……あるにはあるが、それは立場だけが原因ではない。
クライムは平民なのだ。それも、どこの誰とも知らない浮浪児だった。
本来、王国における兵士は貴族の推薦が必要だ。
王城を警護する立場の者には、貴族が身元を保証していなくてはならないのだ。
ただのド平民では兵士になれない…つまり、兵士というのはある程度上流階級の者に搾られる。
そうなると、ド平民であるクライムに対する風当たりが強くなるのは必然だろう。
さらにそれに拍車をかけるのが、クライムが並の兵士よりも強く優秀な点だ。平民に負けているというのは兵士達のプライドが許すはずもなく、推薦した貴族からしても自分が推薦した兵士よりも強いというのは許されざることだ。
結果として、兵士達から疎まれ、孤立する状況が生まれるというわけだ。
もちろん、全員がそうというわけではない。
精鋭である騎士や、戦士長や戦士長が選抜した兵士である戦士や、兵士長なんかは普通に接してくれている。
とは言え、王城内を歩けば自分を疎む人間の方が多いというのは事実のために精神をすり減らしながら歩かなければならないことに変わりは無い。
メイド達の敵意の篭った視線を受け流しながら歩いていると、正面から二人の男が歩いてくるのが見えてクライムは通路の端に寄って背筋を張り、胸に手を当て敬礼する。
一人はレエブン侯爵。王国七大……いや、六大貴族の一人だ。
そしてもう一人の小太りの男は第二王子、ザナック・ヴァルレオン・イガナ・ライル・ヴァイセルフ。王位継承権第二位で、ラナーの腹違いの兄だ。
「おや、クライムあの化け物のところに顔を出しに行くのか?」
ザナックが“化け物”と呼ぶのは、自分が仕えている主人でもあるラナーの事だ。
「殿下。恐れながらラナー様は決して化け物などではありません。心優しく美しい、王国の宝とも言えるお方です」
平民のためになる政策を提案し、平民の暮らしがよりよくなるような心優しい提案をする彼女を、宝と言わず何と言うのか。
確かに、大半の提案が神の国が先んじている事を後追いしているだけかも知れないが、だからと言って貴族達のくだらない体面のせいで潰されて良いような提案では無い。
「俺は何もラナーの事を化け物と呼んだわけじゃないぞ。お前が心の中ではそう思って……なんてベタな事を言うのはやめておくか。しかし、宝ねぇ。あいつは本当に自分の提案が受け入れられるって思って持ち出しているのかねぇ?俺にはあいつは無理だと承知のうえで行動しているような気がしてねぇ」
「そのようなことは決してないと」
そんな筈がないだろう。提案が却下される度に涙を流すあの少女が、無理だと承知で提案しているなんてある筈が無い。
「ふふふふふ。やはりお前にはあいつが化け物には見えないのか。お前の目が節穴なのか、それともあれが巧妙なのか。……少しは疑ってもいいんじゃないか?」
「疑うなど。ラナー様は王国の宝。それは決して私の中では揺るぎません」
「そうか。そうか。非常に面白い。ではあの化け物に言ってくれないか?……兄はお前を政略の道具に考えてはいるが、俺に協力するなら廃嫡してーーー」
「ーーーこれはこれは、ザナック王子にレエブン侯。それにクライムまで。こんなところでどうされたのですか?」
「兵士長!」
兵士長ジルケット・メロリアル。
先代の領主になってから、その手腕と人徳で七大貴族と呼ばれるほどにまでなったシスヴェル侯爵の推薦によって兵士となった人物だ。御前試合の出場時には決勝まで勝ち上がったが、相手方の準決勝でのガゼフ・ストロノーフとブレイン・アングラウスの名勝負を受けて、決勝戦を辞退したらしい。
“兵士長”という立場は元々無かったのだが、周辺最強である戦士長にも匹敵するとされるような人物が一兵卒では格好が付かないという事で、新たに作られた役職だ。
「……いやいや、大したこと話じゃないとも。…行こうか。レエブン侯」
そう言って、ザナックはレエブン侯を連れて歩いて行く。
「ありがとうございました。兵士長」
ザナック達が離れた所で、まずは感謝を告げた。
あの後に続く言葉はある程度予想がつく。自らの主人を貶される所を助けて下さったのだろう。
「気にするな。これからラナー王女のところか?」
「はい。そうです」
「残念だな……今日は時間があるし稽古をつけてやろうと思ったんだが」
そう言われて少しドキッとした後、安心する。
何せ、彼の稽古は厳しいのだ。
確かに身になっているのは分かるが、内心どうしてもナーバスになってしまうのは避けられない。
つい先程戦士長であるガゼフと稽古をした事で満身創痍なこの体であの稽古を出来るかと言われれば答えは否だ。
だから、これから用事があるので稽古ができないというのに少しだけ安心してしまった。
「…まぁ、用事があるなら仕方ない。また今度時間がある時にやろう」
「はい!」
そう言って、ジルケットはクライムが歩いて来た方向に歩いて行く。
おそらくは訓練所の方へ行くのだろう。
ふと、クライムは考える。
今日初めてガゼフに稽古を受けた。ジルケットにも稽古を受けている。二人に稽古をつけてもらったが、どちらも自分なんかとは次元の違う強さを持つ存在だ。
ならば、あの二人ならどちらが強いのだろう。
戦士長ガゼフ・ストロノーフは、御前試合の優勝者という箔があるために最強と呼ばれている。
兵士長ジルケット・メロリアルは、御前試合での決勝までの戦闘の様子からガゼフに匹敵すると考えられている。そこは賛否両論で、『決勝を辞退したのはガゼフに勝てる気がしなかったから』という人も居れば、『あれだけの名勝負に心を打たれ、戦士として敬意を表すために辞退した』という人もいる。
二人と剣を交えた事のある自分としても、どちらも甲乙つけ難い。
ただ、強いて言うなら…強いて言うなら、感じる力量は兵士長に軍配が上がる。もちろん、戦士長が手心を加えるのが上手いという可能性もあるので、一概に実力もそうだとは言えないが……。
「では揃ったことだ。定例会を始めよう」
円卓に座った9人の男女の内の一人の男が口を開く。
彼らは“八本指”と呼ばれる、王国を裏で牛耳る犯罪組織ーーその各部門の長達だ。
八本指はその名の通り八つの部門に分かれており、奴隷売買、暗殺、密輸、窃盗、麻薬取引、警備、金融、賭博とすみ分けている。と言っても、互いの利益が食い合う事も多々あるために部門間の仲は非常に悪い。敵対することはなくとも、足の引っ張り合いは日常茶飯事だ。
そんな彼らがこうして顔を突き合わせているのは、この会議に出席しない者は裏切りの可能性があるとして粛清されるためだ。
絶大な影響力を持っており、貴族だけでなく王宮とですらパイプを持っている。そのため法に裁かれることもほとんど無く、裁かれたとしても裏で根回しして釈放なんてことはザラにある。
「幾つかの議題があるが、最初に片づけるべきものはーーーヒルマ」
「はいよ」
まとめ役である男が名を呼ぶと一人の女が答えた。
彼女はヒルマ・シュグネウス。
麻薬取引部門の長で、肌は病的なほどに白い。
ヒルマはわざとらしくあくびをしてから続ける。
「もっと早い時間になんないのかね?」
「……お前の麻薬栽培施設が何者かの手によって襲われたという話だが?」
「そうだね、襲われたね。生産施設にしていた村が。とんだ出費だよ」
そう言ってヒルマが目を向けたのは一人の男だ。
「何か?」
金融部門の長、テリー・モーデス。
今回の襲撃によって得をしたのは金融部門だ。
八本指では、同じ組織であっても傭兵を雇うには金が必要だし、金を借りるのにも利子がつく。
足りない損害を利子付きで貸すことで大きな利益を得ることができるという点において、今回の襲撃によって得をした部門と言える。
「……まさかとは思うけど、ウチの情報を売ったんじゃないだろうね?」
本来なら、自分の部門の重要拠点は他の部門にはバラさないため、知っているはずがない。足の引っ張り合いが日常茶飯事なこの組織では、機密情報は毒になりうるからだ。
しかしこのテリーは、どうやってかは知らないがあらゆる機密情報を手にしている。そしてそれを脅しに金を借りた際に利子をぼったくるのだ。
ある意味では、八本指の中で最も力が強いとも言えるだろう。
「やめないか」
険悪な雰囲気が流れるが、進行役の男が口を挟む。
「「…………………」」
互いに黙ったが険悪な雰囲気が途切れることはない。
進行役の男は、会議を進めようと口を開く。
「その相手の情報は何か持っていないのか?」
「……無いね。完璧だよ。……だからこそ想像出来なくも無いけどね」
「どの色だ?」
その問いかけだけで、この場にいる者は理解出来る。
「知らないよ。判明したのはさっきだよ。そこまで手が回るもんかね」
「そうか。では各員、そういうことだ。何か情報を持っている者は手を挙げよ」
返答はない。知らないのか、知っていても答える気がないのかのどちらかだ。
「では次のーー」
「ーーおい」
進行役の言葉を、低い男の声が遮る。
声の主は警備部門の長、闘鬼ゼロ。筋骨隆々と言うにふさわしい体格で、顔の半分に入れ墨を彫り込んである禿げた男だ。
その戦闘力は八本指最強。アダマンタイトに勝るとも言われている。
そんな男がヒルマを見据える。
「俺たちを雇わないか?お前の集めている雑魚では碌に守れまい?」
「いらないよ。あんた達にまで重要拠点を知られるわけにはいかないしね」
ヒルマがゼロの提案を一蹴すると、ゼロは興味を無くしたように目を閉じる。
警備部門は用心棒から護衛までこなす部門だが、その分機密に触れる機会も多い。それがテリーの情報源になっているのでは…とヒルマは考えているのだ。
警備部門自体には機密事項が無いため、テリーが握る弱みすらも無い。そのため、警備部門と金融部門との仲はそれほど悪くないという事もある。
「じゃぁ、その話、私が代わりに受けたいわん」
口を開いたのはなよっとした感じの男だ。
「ゼロ、あなたのところの者を雇いたいのよ」
「なんだ、コッコドール。払えるのか?」
ヒルマの麻薬取引は“黒粉”により隆盛傾向にあるが、対照的にコッコドールの奴隷売買は斜陽傾向にある。
“黄金の姫”ラナー第三王女によって奴隷売買が違法となったことによって、かなり落ち目になってしまっているのだ。
「大丈夫よ、ゼロ。それも出来れば六腕クラス、精鋭中の精鋭を一人は雇いたいのよ」
「ほう……それほどの厄介事ということか。よかろう。大船に乗った気持ちでいるといい。俺の最強の部下たちがお前の財産の安全を保障しよう」
「がぶりえる王」
会議を終えた男ーー“テリー」ーーが〈
『…どうした?』
「一人、隠密部隊をお借りしてもよろしいでしょうか?」
『構わんが……厄介事か?』
「いえ。まだわかりませんが、どうやら何事かあったようです」
この場合の『厄介事』とは、任務に差し支える異常事態というのを指している。支障は無いが、何かしらの問題あったということだ。
『ほう?…一応詳しく聞いておこうか』
「はい。奴隷売買のコッコドールの処分する予定だった女に問題が生じたようです。六腕を雇うぐらいなので、調べた方がよろしいかと思いまして」
『ふむ………よかろう。好きに使ってくれ』
「はっ!ありがとうございます!」
テリーくんはどうやって他の部門の情報を得たんだろうねー。
前回モモン攻略する言うてたけど、まだもうちょっと回収しないんでそこんとこヨロシク。