クライムは現在、王都の冒険者が多く泊まる宿に向かっている。
兵士長と別れた後、ラナーの部屋でアダマンタイト級冒険者『蒼の薔薇』のリーダーであるラキュース、ティナとの話し合いに同席させて貰っていた。
彼女ら蒼の薔薇は、ラナーからの個人的な依頼ーー本来なら組合を通さない依頼を受ける事は許されていないーーを受けて八本指を撲滅するために動いていた。
その一環として、先日黒粉を栽培していた生産拠点を焼き払ったのだ。
その生産拠点には暗号化された指令書が残されていたが、ラナーの天才的な頭脳によって解読に成功。内容は7つの部門の情報だった。ラナーが言うには、他の部門に目を向けさせる事で一時的に逸らす狙いがあるそうだ。
続いて、王国に今現在も残っている唯一の悪質な娼館な話だ。ラナーの働きによって奴隷売買が違法となったが、八本指の息のかかった娼館はそう易々と潰れない。そうして唯一残っている裏の娼館がその娼館というわけだ。
そんなわけで、これから動く事になるということを他の蒼の薔薇のメンバーに伝える役割を仰せつかったというわけだ。
蒼の薔薇のメンバーは5人。ラキュース、ティナの他にはティナの双子のティア、戦士ガガーラン、そして魔法詠唱者であるイビルアイだ。ティアは任務があるとのことなので、これから会うのはガガーランとイビルアイということになる。
今向かっている宿屋は王国でも最高級の宿屋なので、それだけ高位の冒険者は多い。もしかすると、今まで会ったことがない『白銀』にも会えたりするかもしれない……と少しだけ気分が高揚する。
宿屋に入ると、屈強な冒険者が何人もいた。
目当ての人物は……と姿を見つけると、あちらもこちらに気付いたようで、手を挙げてハスキーな大声を上げる。
「よう、童貞!」
そんな声をかけてきたのは女とは思えないほど太い体を持つ戦士、ガガーランだ。
「お久しぶりです、ガガーラン様ーーさん。それにイビルアイ様」
「おう、久しぶりだな、なんだ?俺に抱かれたくて来たのか?」
クライムは無表情に首を横に振る。
どう考えてもセクハラだが、これはいつもどおりの挨拶のようなものだ。まぁ、もし首を縦に振れば即座に食われるのは間違いないが。
「いえ、違います。アインドラ様に頼まれまして」
アインドラ…とは、ラキュースの事だ。本名はラキュース・アルベイン・デイル・アインドラ。因みに貴族である。
「ん?リーダーに?」
「はい。伝言です。大至急動くことになりそうだ。詳細は戻ってから。ただ、即座に戦闘に入れるよう準備を整えておいて欲しいとのことです」
「おいよ。ふーん、それっぽっちのためにご苦労なことだな」
「おや、蒼薔薇か。久しぶりだな」
「ん?おぉ、白銀じゃねぇか」
白銀!?と、クライムは後ろから聞こえてきた声に振り向く。
白い髪に銀色に輝くプレートアーマー。そして胸にぶら下がるアダマンタイトの印は、彼らが本物の白銀であることを示している。
「聞いたぜ?
「ま、成り行きでな」
「霜の巨人を倒したことを誇る様子もない。さっすがアダマンタイト冒険者だねぇ」
「アンタらも同じだろうが……。ところで、そっちの坊ちゃんは?」
本物の英雄を前に固まっていたクライムだったが、自分の話だと分かり咄嗟に我を取り戻す。
「初めまして!自分はクライムと言います!白銀の方々のお噂はかねがね伺っておりまして…」
「ほぉー、俺達の事を知ってくれてんのか」
「当然です!」
この王国で、白銀を知らぬ者などいないだろう。それは朱の雫にも蒼の薔薇にも言えることだが。
「……で、少年は蒼薔薇とはどうゆう関係で?」
そう聞かれて、クライムは咄嗟に詰まる。
蒼の薔薇がラナーの個人的な依頼を受けているのは秘密だ。今回来たのはラキュースからの伝言を伝えるためであるが、それを一介の兵士である自分が行なっているというのは不自然だ。
どうにか言葉を探していると、ガガーランが代わりに答える。
「あぁ、たまにコイツに稽古つけてやってんだ」
普通に良い機転だと思った。嘘はついていないし、それほど怪しくもないだろう。
「稽古…………え、
不思議に思ってガガーランの方に目を向けると、ガガーランの方も少しキョトンとしていたが、意味を理解したのか猛獣のような笑みを浮かべた。
「あぁ、
「え?え?え?」
「………………………小僧、とにかく否定しておけ」
今まで話さなかった仮面をつけた小柄な少女、イビルアイがようやく口を開いた。
全くどうゆうことなのか分からないが、他ならぬイビルアイの言うことだ。聞いておいた方が賢明だろう。
「ち、違います!」
「なんだよクライム、照れなくても良いんだぜ?」
照れる…?
そこまで言われて、ようやく意味を理解した。
「ちが…!ほんとに違いますから!ただ剣の稽古を受けただけです!」
顔が赤くなるのを感じるが、それはしょうがないことだろう。
「………中々純粋な少年のようだな。しかしガガーラン程の戦士が稽古をするほどの…………いや、良い。分かっていてやっているのだろうからな」
彼が言っているのは才能の話だろう。
クライムには才能が無い。確固たる事実として。
どれだけ剣を振るおうとも、どれだけの時間をトレーニングに費やそうとも、技能の上達は亀のように遅く、そこらの兵士には勝てても高位の冒険者には及ばない。
それでもクライムは諦めない。ラナーの為に、ラナーを守るために、ひたすら己を鍛え続けるのだ。
「折角だ。少年よ、アドバイスをしておこう」
「は、はい!」
「強くなりたければ戦え。剣を振るうよりも、一度斬られて学べ。1万回の素振りより、たった一度の死線の方が得るものは多い」
一度言葉を切った後、こちらに背を向けながらこう続けた。
「もし本当に……本当にどうしても、どうしても強くなりたくなったなら、文字通り死ぬほど強くしてやる」
そう言って白銀のリーダー、ロゼル・ラジリアは去っていく。
その背中を、クライムは憧憬のこもった眼差しで見つめていた。
「へっ。さすがは白銀だな。良いこと言うぜ」
ガガーランは素直に称賛の言葉を口にする。
「なぁ?イビルアイ」
「……まぁ、やつの言うことは真理の一つではあるな」
「どうよクライム、憧れの白銀に会えた気分は?」
クライムは密かに英雄譚を集めるという趣味を持っている。
当然アダマンタイト級冒険者である白銀の英雄譚などの話も集めており、それはファンの領域にある。
隠しているつもりかもしれないが、白銀を気にする素振りの多さからガガーランにはバレバレだったのだ。
「……まだ、信じられない気分です」
一介のファンである自分が話せたというだけでなく、名前まで覚えてもらったのだ。
……嬉しくない筈がない。ついつい広角が上がってしまう。
未だ興奮冷めあらぬクライムの様子を、二人は微笑ましそうに見ていた。
「あのクライムって…確かラナー王女の側仕えだったよな?」
そう口火を切ったのはロゼルだ。
ある部屋で、白銀と呼ばれる冒険者チームの3人が集まっていた。
「あぁ。ジルケットによればな」
次に口を開いたのは、シルクと名乗っている男だ。
白い法衣を着ており、信仰系の魔法詠唱者ということになっている。
「少し不自然だな……」
「八本指の畑を襲撃したのは青薔薇なんだろう?」
自分達はやっておらず、朱の雫は今王都にはいない。
ならば答えは自ずとアダマンタイトの残り一つに絞られる。
「ラナー王女が青薔薇と繋がっているということじゃないのか?」
「ラナー王女とラキュースは友人関係だったな…」
「そうだ。因みに今日も何やら会っているみたいだぞ?」
それに答えたのはソリットと名乗っている男だ。比較的軽装で、盗賊ということになっている。
「無関係とは考えにくいな」
「監視をつけるか?」
「………青薔薇の方はリスキーだな。イビルアイが気付く可能性がある」
「隠密部隊がそう簡単に気付かれるか?」
「御庭番衆の方々ならいざ知らず、50レベル前後では少し不安だろう?」
ま、それもそうかとソリットは納得する。
「となるとあのクライムという少年の方か?」
「……まぁ、念のためにな」
そう言うと、ロゼルは〈伝言〉を飛ばした。
ナザリック地下大墳墓にて、主人であるアインズ・ウール・ゴウンに忠義を尽くしているセバスは、一仕事終えて道を歩いていた。
成り行きで、例の八本指の娼館を襲撃することになってしまい、その帰りだ。
大きな失敗をしたセバスだったが、なんとかこれで少しの間時間を稼げるだろうと一息吐く。
あのクライムという少年は非常に好感が持てる。人柄もそうだが、絶対の忠誠をあるお方に捧げているという意味での親近感を持たずにはいられない。
そんな風に考えながら、自分達が借りた家の方への近道を通る。人通りは少なく暗い。安全とは言い難いが、セバス程の力があれば闇討ちなど早々される事はない。
一瞬。
直感が危険を察知。直感に従い咄嗟に防御すると、腕に一筋の切り傷が刻まれた。
尾行されていることすら気づかなかった……それほどの敵!
咄嗟に戦闘態勢に移行するセバス。
それを見届けたからか、下手人は姿を見せる。
「……………何者ですか」
「やはり貴様……」
セバスは問うが、それに答える様子は無い。
ならば戦闘か…?最悪の場合は、万が一の場合にと渡された〈転移〉のスクロールを使う必要があるかもしれない。
「仕方ないですね……」
ザリッと、土を踏み締める音が鳴った。
完全な踏み込みの態勢だ。
だがその態勢は次の瞬間に崩れることとなる。
「……知っているか?アインズ・ウール・ゴウンを」
それを聞いた瞬間、顔が驚愕に彩られる。
そしてその次に自らの失態を自覚する。これだけ顔に出せば、答えを言っているようなものだ。
さらに次には、この失態をどう取り返すかを考えるが、殺して口止めを図る以外の選択肢が思いつかない。
ここで一番最悪なのは、情報を持ち帰られることだろう。
自分が死んだとしても、この者だけは殺さなくてはならない。
実際、あの不意打ちの初撃さえ躱したのだから、正面からの戦いなら負けはしないはずだ。
そう戦闘の意思を固めていると、敵が新たに二人増えた。
新手である。
1対3は流石に不利だ。
これは転移を使うしかないか……と思ったところで、セバスに初撃を仕掛けた男が頭を下げた。
「試すような真似をして済まなかった」
思わず呆気に取られてしまいそうになるが、隙を作らないように細心の注意を目の前の敵に払う。
男は頭を上げて続ける。
「こちらから仕掛けておいてなんだが、戦闘の意思は無い。君達の主人に手紙を届けてもらいたくてね」
「…………手紙、ですか?」
「そうだ。我々は神の国。君達が中々尻尾を見せないものだから、多少強引に掴ませてもらった」
もう何度目かはわからないが、セバスは己の失態を自覚した。やはり目立ち過ぎたか…と。
「コレがその手紙だ」
そう言って、セバスの足元に落として来た。
これはバカにしている訳ではなく、此方が罠を警戒すると見越してのことだろう。手渡しになるとどうしても距離が近くなってしまうからだ。
だが、セバスはまだ手紙を拾わない。
「念のために言っておくが、その手紙を届けなかったとしたら何度でも君達に接触を図る。それだけ重要な手紙ということだけは分かっておいてくれ。好きなように鑑定してくれて構わないから」
新たに現れた二人は去って行ったが、仕掛けて来た男はまだ立ち去らない。
「最初に接触することになった子達にも言ったが、我々は敵対する気はない。それも伝えておいてくれ」
そう言って、残った男も去って行った。
そしてセバスは安全を確認した後、手紙を懐にしまい、また家の方へと歩き出した。
クライムに50レベルぐらいの隠密部隊の監視をつける→セバスを発見する(隠密特化なのでセバスにも気づかれはしない)→流石にセバスがヤバい事を察した隠密部隊は王に報告→御庭番衆派遣
って流れになってます。
コレ、厄介事引き起こして、さらに正体までバレたセバスは生き残れるんですかね?
俺は原作通り殆どお咎め無しにする気やったんですけど無理っぽかったりします?