やめて!ヤルダバオトがちょっと殺す気になったら、クソ雑魚ナメクジのイビルアイが消し炭になっちゃう!
お願い、死なないでイビルアイ!あんたが今ここでここで倒れたら、ラキュース達はどうなっちゃうの?ライフ(HP)はまだ残ってる。ここを耐えれば、きっと王子様が助けてくれるんだから!
それで……私の敵はどちらなのかな?と、イビルアイと悪魔の間に降り立ったモモンが声を発した。
どうやら、そのままイビルアイを助けるためにその悪魔と対峙するらしい。
どうなってる?悪魔もプレイヤー側じゃないのか?
まさか、二つ目のギルドがあるということか?それはあり得ない事ではない。今回来た訳では無くとも、前回前々回にこの世界に来ている可能性はなくも無い。
ただ、完全にこの2人が敵対しているわけではない可能性もある。
目的は分からないが、コレが自作自演という可能性がある。というのも、俺もそれは何度か考えたからだ。仮想の敵を作って軍事力を示したり評判を上げるというものだが、敵を作るのも金が必要になるので諦めた。それに当てはめて考えれば、王都でのモモンの評判を上げる為の自作自演という線もある。
俺がロゼルに指示を出している間に、モモンと悪魔の間で情報交換があったらしい。
悪魔の名前はヤルダバオト。目的は強大なアイテムの回収。
式尉は、2人の会話は互いの情報の確認のように感じたらしいが、それだけでは判断がつかない。五分と言ったところだろう。
そして、戦闘が始まった。
先程までの一方的な蹂躙とは違い、ちゃんとした戦いになっている。なってはいるが、些か攻撃が軽いように思える。
互いに様子見をしているのか、そもそも互いに戦う気がないのか……。
式尉から見ても、命のやり取りをしているような戦いではないとのことだ。
…やはり自作自演という可能性の方が高いか?
しばらく攻防が続くが、ヤルダバオトは去って行った。
目的はモモンを殺すことではないので、アイテムを探す為に王都の一部を炎で包むそうだ。
本当に目的がアイテムだけなのかは知らないが、わざわざこちらから接触する必要は無いだろう。
「蒼紫」
『はっ』
「3人いるな?」
『はっ』
「なら蒼紫はモモンに付いて、2人は炎の結界の内側を探索だ」
『はっ』
「ただ、結界内に侵入する者達を認識出来るスキルを持っていればやっかいだから冒険者達に紛れて侵入するようにしろ」
『了解致しました』
「これまでとは次元の違う相手だ。最大限警戒するように」
『はっ!』
ある程度の戦力分析が出来れば良いな。
いや、敵対する気は無いんだけどさ。
王都の一部を炎の壁が包んだという事件を受けて、王城の一角に王都中の冒険者が集められていた。
初めに、組合長である女性が口を開く。
「皆さん、まずは非常事態時に集まってくれたことに感謝をいたします。本来であれば冒険者組合は、国家の問題への介入は認めておりません。しかし、今回の件は別です。冒険者組合は王国を全面的にバックアップし、早急に問題を解決するべきだと判断しました。詳しい作戦内容については王女からお話があります。皆さん、御清聴願います」
「ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフと申します。今回の非常事態に集まっていただきありがとうございます。本来ならもう少し感謝の言葉を述べるべきなのでしょうが、時間がないのでただちに説明に入ります」
王女の説明で、事件の概要が伝えられる。
一部を包んでいる炎は幻のようであり、触れても何ら害は無く、行動を阻害されることもないということ。
敵の首魁はヤルダバオトと言う強大な悪魔ということ。
その悪魔によって一瞬でガガーランとティアが殺されたということ。
さらにそのヤルダバオトと対等に戦える戦士、漆黒のモモンが居るということ。
そして、作戦の説明に移る。
「まず、皆さんにしてほしいことは弓の役割です」
「弓?」「盾ではないのか?」と訝しげな声が上がる。
「盾では勝てません。まず、冒険者の皆さんにはラインを形成していただきます」
要は、ラインを作り、ある程度まで押し込んだら後退することで敵を引きつけ、敵の守りが薄くなったところにモモンという矢を放つ。故に盾ではなく弓なのだ。
作戦については概ね納得したところで、1人の冒険者が問いかける。
「では蒼の薔薇と白銀の面々はどうされるんだ?モモンさんに同行するのか?」
「……二人を失った私たち蒼の薔薇は戦力的に大幅ダウンしています。私とティナはラインを構成するための戦いに参加します。イビルアイはちょっと違ってーー」
「ーー私はモモンさ……殿に同行するために、今から魔力の回復に入る」
白銀は?…と視線が集まると、リーダーであるロゼルが答えた。
「俺達はまだ未定だな。後で決まることになる」
「ならば別の質問だ。そちらにいる、かの戦士長殿にお聞きしたい。貴族たちの私兵や戦士たちはどうなさるんだ?」
「答えよう」
ガゼフが一歩前に出る。
「貴族の私兵は主人の館を守り、兵士は王城の守りに入っている。私直轄の戦士たちは王族の守りだ」
兵士も守りに入る…つまり、兵士長も前線に出ないということを指す。
当然、非難の声が上がる。
国に所属するというのは、詰まるところ庇護下に入るということである。安全を保障する代わりに税を寄越せという関係によって成り立つ。
なのに民を守らないというのは……となっているわけだ。
もちろん、理性では仕方のないことだと分かっている。貴族はともかく、王族の守りであれば仕方の無いことだ。だが、命を懸けて戦う彼らは感情では理解出来ない。
それをどうにか抑えようと、ラキュースか口を開く。
「皆の不満は分かるわ。でもその前にこれだけは覚えておいて。今回、皆を集めた費用は王家から出ているのではなく、ラナーの個人的資産からよ。それにモモン殿をお連れ出来たのは貴族であるレエブン侯のおかげ。確かに私も皆と同じ感情を貴族や王族に対して抱いている。でもそんな者ばかりてはないということも知っておいてほしいの」
そんなラキュースの言葉に空気が沈静化した。
作戦の説明を終えると、リーダー格が集まって作戦の最終確認を行う。
「………で、俺達はどうするんだ?」
ロゼルが問いかける。
「そこなのよね……ライルの構成に戦力も欲しいところだけど、露払いの戦力もある程度は欲しいのよね……」
「なぁ、イビルアイ。俺達ならその蟲メイドと戦えばどうなんだ?」
「……勝てるだろうな」
イビルアイは少し考えてから答えた。
イビルアイにとって、彼ら白銀の評価は非常に高い。全員が高い水準で纏まっており、蒼薔薇全員と白銀が戦えば白銀が勝つだろうと予測している。
実際には白銀の1人対蒼薔薇全員でトントンぐらいなのだが、イビルアイはそれを知る由もない。
「でも蟲メイドはイビルアイでも対応出来るんでしょう?ナーベさんだって居るし、あまり必要無いと思うんだけど……」
「それもそうだが、そもそもその蟲メイド級の敵が一人だと決まっているのか?」
「それは……そうね。じゃあ、イビルアイ達と露払いをお願いして良いかしら?」
「心得た」
「イビルアイも、それで良いわよね?」
「……………あぁ」
イビルアイにとって同行者(邪魔者)が増えるというのは好ましくは無いが、背に腹は変えられない。
「じゃあモモン殿と同じタイミングで鏃として突撃すれば良いのか?」
「できれば少しの間でもラインの構成に入って欲しいんだけど……」
「鬼リーダー、流石にそれは無理がある」
「そ、そうよね」
仲間を失って弱気になってしまったのを、ティナが咎める。
悪魔一体一体は大した問題ではない。しかし、数の力の偉大さはよく分かっている。戦力が欠けている今、少しでも戦力が欲しいと思ってしまうのは仕方のないことではある。
しかし、イビルアイ達が苦戦した蟲メイド級の敵と戦うのだから、少しでも体力や魔力を温存しておかなければならない。だからラインの構成には参加できないだろう……。
「いや、構わないぞ。じゃあ、俺達が3人でラインの構成に入りながらモモン殿が突撃するタイミングで俺達が合流すれば良いんだな?」
「……良いの?」
渡りに船と言ったところだ。同じアダマンタイトとは言え、白銀が自分達よりも上であるということはわかりきっている。その彼らが自分から『やる』と言ってくれたんだから、乗らない手はないだろう。
「もちろんだ」
「じゃあ……お願いして良いかしら?」
そんな訳で、白銀はラインの構成に入っているのである。
アダマンタイト級冒険者である彼らがいるからか、彼らが率いる班の士気は非常に高い。
さらに、目の前から現れる悪魔を切り捨てる度に士気はうなぎ登りになっていく。
ボロい商売とは良く言ったもので、こんな風に冒険者としてそこそこの敵を倒して行けば金も名声も湯水のように得られる。
60レベル近い彼らにとって見れば、この程度の悪魔は文字通り屁でもない。何の危険も冒さずに金を受け取り名声も得られる…これほど素晴らしい仕事は無いだろう。
しばらくラインをキープしながら戦っていると、後方から合図が上がった。モモン突入の合図だ。
今からモモンが突入するところへと向かう必要がある。
「…よし。それじゃあ、俺達はモモン殿と合流する。此処は任せたぞ」
「はい!!!」
アダマンタイトからの激励のお陰か、非常に大きな返事が返って来た。
モモン達と合流してから中心部へと進んで行くと、首魁であるヤルダバオトが堂々と待ち構えていた。
そして例の蟲メイドの他に、四人のメイド服を来た敵が現れた。
「ではそちらの五人は任せる」
そう言ってモモンはヤルダバオトに斬りかかって行き、互いに攻撃をしながら徐々にここから遠ざかっていく。
……さて。敵は五人で、こちらも五人。普通に考えれば一人一殺なんだが、どう割り振るのか。
正直、白銀にとってこの戦いはどうでも良いことだ。誰も見ていないのならずっとお喋りをしていたって良いとすら言われている。
とは言え、このまま睨めっこをしているわけにはいかないのでロゼルが問いかける。
「で、どうする?」
「私が二人です」
ナーベが素っ気なく答えた。
「じゃあ俺達3人で二人を相手しよう」
「なら私は一人だな。とっとと倒して、お前達の支援に向かってやるから死なない程度に押さえ込んでおけ」
「………では、二人は私の相手をしてほしいのだけど、誰が来るかはそちらに任せます」
ナーベが歩き出すと、ロングヘアのメイドと蟲メイドがナーベについていった。
「それじゃ、俺らもよろしく」
白銀の三人が歩き出すと、三つ編みをしているメイドとロールヘアのメイドがついて来た。
残っていた髪を結い上げたメイドとはイビルアイが戦うことになる。
少し歩くとさっきまでいた場所から戦闘音が響き始め、ちょうどそのあたりで、二人のメイドも歩みを止めた。
「私はベータって言うっす」
「…イプシロン」
「へぇ…自己紹介してくれるとは思わなかった」
「じゃ、そろそろ始めるっすかねー」
白銀達の戦闘が始まった。
『ロゼル達が戦闘を開始しました』
「了解。イビルアイの方は?」
『五分……といったところですね』
「…ナーベの方は?」
『あの女は……見失いました。探しますか?すぐ見つかるとは思いますが…』
「いや、必要無い。万が一ロゼル達が殺されそうになったら割って入れよ」
『かしこまりました』
癋見との〈
「俺だ。モモンの方はどうなっている?」
『民家に転がり込んでからは、動きがありません』
「物音も無しか?」
『特別なマジックアイテムやスキルを使っていなければ…ですが』
じゃあ戦闘は行っていないということだろう。やっぱりグルだったな。
後は成り行きに身を任せれば大丈夫だろう。
「よし。じゃあ引き続き監視だけしておいてくれ」
イビルアイの激しい戦闘とナーベ達の雑談が行われている中、白銀とベータ、イプシロンはそこそこ真面目風に戦っていた。
「〈
シルクは魔法を放つが命中させず。
「ふっ……ほっ……」
ロゼルは剣で受けるだけで何も攻撃せず。
「ほいっ」
ソリットは明後日の方向にナイフを投げる。
そこそこのスピードで行われているために、側からみれば真面目に戦っているようには見えるのだ。
白銀は、とにかく殺さないように言われているだけに攻撃をする気もない。対するルプスレギナとソリャシャンもモモンとしての名声を高める為に殺してはならないと言われているので、互いにのらりくらりと戦っているこの状況は互いが望んでいる状況ではある。
が、そんな事を知る由もない者からすれば不気味に写るのは当然のことだ。
一度互いに距離を取り、呼吸を整える(フリをする)。
「どういうつもりだ?」
白銀からすればある程度情報があるために、推察を立てることが出来るので本気で戦闘しない理由は思いつく。
「それはこっちのセリフっすよ」
しかしメイド達からすれば全く見当もつかない。アダマンタイト級冒険者が自分達を殺そうとしない理由なんて知り得ないのだ。加えて言えば、レベル的に判断しても彼らの方が上なことは間違い無いので、殺そうと思えば殺せるのは間違い無いのだ(もちろん抵抗するし殺される気はないが)。
「俺達の目的は時間稼ぎだ。殺す事は命令に含まれていない」
「はぁ…?」
ベータは間の抜けたような声を上げる。
「………………」
「………………」
そのまま睨めっこが続く。
先程も言ったように、これでも時間稼ぎという互いの目標は達成出来ているのだ。メイド側が不審がっているということを除けば。
睨めっこを続けていると、地震が起こった。
メイド側が何やら二人で話しているが、邪魔をする気は無い。ただただこうして睨めっこを続けているつもりだ。
どれだけの時間睨めっこを続けていただろうか。
炎の壁が消えると同時にメイド二人も去って行った。
続けて雄叫びが上がり、王都を襲った未曾有の大事件は幕を閉じたのだった。
これ前書きのやつ前回の後書きに入れたら良かったね。思いつかんかったわ。