俺を辱めるのヤメロォ…(本音)いいぞもっとやれ(建前)
「「「ようこそいらっしゃいました、がぶりえる王!!」」」
町に降りた俺を出迎えたのは、あふれんばかりの民衆と歓声だった。
な、なんで俺こんなに歓迎されてるんだ?そんなに歓迎されるようなことした記憶ないぞ…。
この世界に来るまでは週1ぐらいで来ていたが、ここ2週間は町に降りてないので好かれる理由はないはずだ。
まさかこれが市民NPCのデフォルトなのか?これデフォルトだと流石にやばくないか?
「………これは一体…?」
「皆さん、寂しがっていたんですよ」
「え?」
一緒に馬車に乗っていたエリカが寂しがっていたと言った。どうゆうことだろうか。
「毎週顔を出されていたのに、ここ二週間がぶりえる王が顔をお出しにならなかったので皆さんが大層心配しておりましたよ?」
「………そうゆうことか」
毎週来ていたのに二週間音沙汰が無くて寂しがっていた、というわけか。
この世界に来てからは色々忙しかったからなぁ…。確かに顔を出していなかった。
外からは「がぶりえる様ー!!」と俺を呼ぶ声がそこかしこから聞こえてくる。
やべえ、俺こんなにチヤホヤされるの人生初めてだ…。なんか偉くなった気分………あ、実際偉くなったんだった。
手とか振った方が良いのか?王様的にはどう応えるのが正解なんだろうか………一応聞いておいた方が無難か。
「………応えたいんだがどうすればいい?」
「手を振って差し上げれば喜ぶかと思います」
あ、そうなの?
適当に手を振り返していくと段々歓声が大きくなっていく。
どうやら市民NPCにも俺に対するリスペクト?のようなものは存在するらしい。
ただ気になるのは、NPCが好感度が高いにもかかわらず『蜂起』…とまではいかなくとも、反乱を起こすという事は無いのだろうかということ。少なくとも格差は生まれないから内的要因では起きないと思うが、外的要因によって引き起こされる可能性はある。
だが、それに関しては正直どうしようもない。そもそも国民全員が一枚岩で国王大好きっ子であるほうがおかしいのだ。
外と交流を持つ以上は外から全く違う価値観の人間が入ってくるのは仕方のない事だから、俺に出来る事と言えばとにかく好感度を高く保っていく事ぐらいだ。
もはやパレードみたいになってしまったが、一応の目的は工業地区の視察だ。
馬車を進めながら手を振り返していく。
途中テンションが上がってしまい投げキッスをしたのだが「キャーー!!!!」と歓声が上がった。……どっちのキャーだろうか。
工業地区はものすごい活気に満ち溢れており、出迎えのテンションは住宅地の住民となんら変わらなかった。
例によって手を振り返していくと、男が多いせいか野太い声歓声が上がる。なんか、ちげぇんだよなぁ……女の子に黄色い歓声を貰いたいんだが?。
気になっていた製造過程だが、どうやらユグドラシルと同じようにブラックボックスになっているらしい。そもそも工場に入る事も出来ないので、どうやって作っているのかが全く謎だ。
これは製造技術が隠匿されているということなので、技術の流出を阻止しているという点で見れば良い事だが、ここに他国の人間が入って来ると厄介ごとを招く可能性がある。秘匿事項という次元の話ではなく、ここで働いている者ですらが製造方法を理解出来ていないというのは中々不味い事なのでは無いだろうか。
………よし。コレ、機密にしよう。なんかヤバイ気がする。
流出はしないだろうが、製造方法自体がよくわからないというのは問題だろう。
帰ったらすぐにここの工場を全部一カ所に纏めて囲ってしまうことにしよう。
工場はとりあえず秘匿に決定したから次は農業地区も確認しておこう。
農業に関してはユグドラシルでも肥料と水を与えることで種から成長していたから、割と現実的のはずだ。少し収穫までのスピードが早いことは否めないが…。
農業地区は温室に押し込まれている。温室の効果としては、収穫量増加、植物成長速度倍化、温度調節などがあげられる。
温室に入ると、自分にとって快適な温度に感じられる。これは気温自体が変動しているのではなく、体感温度がその生物にとって快適な温度になるよう調節されているのだ。
温室では、どうやらユグドラシルの時と同じように問題無く栽培出来ているらしい。
ただ、国内の食糧生産をこの広大な温室の中で賄っているほどの重要施設にも関わらず警備が薄いことが気になる点だ。ユグドラシルでは万が一温室が壊れたとしてもすぐに修復すれば問題無かったが、この施設が壊れることで起きる食糧問題は計り知れない。
ぱっと見では兵士が見当たらないが警備をしどうしているんだろうか。
「エリカ、ここの警備はどのようになっているんだ?」
「?他の場所と同じように攻撃された際は反撃できるシステムになっていると思いますが………」
ふむ。つまり後手にまわってしまうというわけか。
………一つ問題に気付いたが、それは後に考えよう。
一先ずここの防衛設備を整える必要がある。
将軍の誰かに防衛責任者を任せるのが安心かな?となると……騎乗兵団の指揮権も持っているライオネルなら安心して任せられるだろう。
「………ライオネルにここの防衛責任者を任せたいと思うんだが、どうだ?」
「御心のままに」
…おk。
これでもう町でやることは終わったな。
あとはさっき見つけた問題についてだ。
さっき見つけた問題というのは、軍事力についてのことだ。
軍事力が足りない…という話ではなくて、他国に対する牽制として軍事力を示す必要があると考えたのだ。
例えば、先程も言ったが温室は国の食糧事情を一手に担っており、そこが攻撃されて破壊されれば国を揺るがすほどの大損害を被る。つまり弱点なわけだ。
それに他国が気付いた時、温室が狙われる可能性は十分に考えられる。
だがその国が圧倒的なまでの軍事力を持っていればどうだろうか。
たとえ大損害を与えられるとしてもその報復で国が一瞬で滅ぼされるなら、メリットとデメリットを考慮してそんなバカな事をする人間はいないだろう。
もちろんそうさせないためにライオネルを配置するんだが、いつでも想定外の事は起こりうる。
軍事力を周辺国家に示すことで牽制にもなるし、国交において軍事力というのは重要なファクターの一つだ。交渉をする際にも優位に立つことが出来るだろう。
だが問題がある。軍事力を示す方法だ。
軍事演習という手段だと、たとえ強大な力を見せても証拠に弱く信じられない可能性がある。
だが『戦争に圧勝した』というのは証拠に残る。歴史としても残せて後世にも伝わりやすくなるはずだ。
だからサンドバッグが必要なんだが、如何せん相手がいない。
使者を送って友好関係の構築を進めているので法国、竜王国、王国、帝国は除外。少し遠くには聖王国や評議国なんかがあるが、戦争をするための理由が無い。さすがに大義名分も無しに戦争を吹っ掛けるのは印象が悪いだろう。
人類共通の敵でもいれば問題無くサンドバッグに出来るんだがなぁ…。
数日後。
カルロスが将軍の中から使者の選抜を終えたと報告してきた。
どうやら、帝国にはムサシ、王国には八神を派遣するようだ。
意外だったのはムサシだ。八神は知的な喋り方をしていたから分からないでもないが、ムサシにいたってはなんとなくバカなイメージがある…………ない?
まあ、カルロスが選抜したんだから大丈夫だろう。
そしてそれぞれの国にムサシと八神を送った。
後は帰還を待つだけだな。
「がぶりえる王」
「ん?どうしたカルロス」
実務作業を行っていると、カルロスが執務室に入ってきた。
「はい……竜王国の件で少々問題がありまして………」
「問題?」
断られるのは別に良いと伝えていたはずだが、手間取っているということは交渉が難航しているということだろうか。
「はい。国交の条件に有事の際に軍を派遣することを提示されています」
ふむ………軍の派遣か………。軍事力を神の国に頼ってくれるならば、竜王国は神の国に依存せざるを得なくなるから悪くない条件に思えるんだが…。有事というのが何を指しているのか…というところが気になる。
「有事…というのは?」
「はい……それが……
「………なに?」
獣人とは、ライオンや熊などを二足歩行にしたような亜人で、大陸の中央に国を構える種族の一つらしい。
そしてその獣人の国は竜王国と隣接しており、たまに獣人が竜王国に侵攻してくるらしい。今のところは侵攻といっても大規模なものではなく小規模なもののようだが。
「現状では周辺の4国以外の国に関わる予定はたてておりませんでしたので、獣人とは関わらない方向で話を進めようとしているのですが……」
「……なかなか折れてくれない…と」
「そういうことです」
うーん……どうなんだろう……。こちらの戦力が割かれることになるが、金貨を使えばいくらでも増やせるのでそこは問題無い。
獣人と戦争になる可能性を考えると……うん?待てよ?
獣人って、人を食うんだよな?
で、亜人の脅威はどの国でも共通認識のはずだ。こんな隅っこに追いやられていながら亜人を舐めているやつはさすがにいないだろう……いないよね?
さらに『人類を守るため』という大義名分も用意されている。
「サンドバッグ……みぃつけたぁ!!」
「……え?」
「……条件を呑むように伝えろ。正式な書状が届き次第軍を派遣し常駐させるんだ」
「よ、よろしいのですか?」
「あぁ」
兵士は文字通りいくらでもいるからなぁ。
こういうと悪役っぽく聞こえるが、金貨を少し使えば増やせる兵士なので間違いではない。まあ、捨て駒のつもりは毛頭ないんだが。
もし兵士を送った後に侵攻してくれば、自国の兵士が傷ついたことを理由に戦争を吹っ掛けられる。
まさに僥倖といったところだ。
「…理由をお聞きしてもよろしいですか?」
「今ちょうどサンドバッグが欲しかったんだよ」
「サンドバッグ…ですか?」
「あぁ。…どれだけパンチ力があっても、何かを殴らなければその威力が知られることはないだろう?」
「……なるほど。周辺国家に軍事力を見せつけるわけですね?」
「そういうことだ」
「かしこまりました。すぐ彼らに伝えます」
思わぬ収穫だ。
まさか竜王国がサンドバッグをわざわざ提供して下さるとは…。
まったく、竜王国様様だな。
帝国にムサシくん…ムサシくんは魔法を全く使えないから……?