賑やかな星   作:彼岸花ノ丘

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賑やかな星07

 勇ましく突撃するモモ。彼女の存在を目にしたミリオンは、悠然とした歩みで前へと進む。

 二人の手により百体のネガティブは十分と経たずに残らず潰されたが、左程間を置かずに二百体のネガティブが地上に到達する。ここまで大規模だと戦力の逐次投入ではなく、波状攻撃と呼ぶべきだろう。

 此度のネガティブ達は包囲ではなく、前面に展開していた。ずらりと並んだ黒い靄の壁。もしも人類がネガティブと相対したならば、きっとこの光景だけで戦意を挫かれただろう。

 しかしこれでもモモとミリオンの表情が曇る事はない。むしろにやりと不敵な笑みを浮かべ、より強く闘志を燃え上がらせていた。

 彼女達は確信しているのだ。この程度の数で自分達を止めようなど、片腹痛いと。

 

「そんじゃあワンちゃん、援護よろしく」

 

「ふふん。援護だけじゃなくて、私だけで倒しても良いんでしょ?」

 

「あらー、随分と自信たっぷり。どれだけやってくれるか、楽しみね」

 

 互いに軽く言葉を交わすや、二人は前へと進む。一切の躊躇いがない、力強い歩みを以てして。

 ――――ところが、二人は同時に立ち止まった。

 継実達からは、モモ達の背中しか見えていない。だから二人が今どんな顔をしているかは分からないが……僅かに上向いた頭から、空を見ている事が窺い知れた。そして継実も、無意識に空に視線を移す。

 そうすれば()()()()()()()()()()が幾つも見えた。数は恐らく数百。しかも高度は高くなく、間もなく地上に降りてくる。

 アレらがネガティブなのは明白。されど継実は狼狽える。

 数が予定よりも多いからだ。フィアが最初に告げた数は、第一陣が三百体。先程来た分と既に着地済みの分を合わせれば、三百体になる。そして第二陣到着は三十分後……なのに第一陣の直後に何百と現れるのはおかしい。

 

「ふぃ、フィアちゃん! あれは……!」

 

 おかしさには花中も気付き、情報源であるフィアを問い質す。

 肝心のフィアは、自身の顎を擦りながらじっと空を見上げていた。焦り一つ感じさせない、冷静な立ち振る舞いで。

 

「ふむ。どうやら他の地域に向けて進んでいた連中が集まってきたようですね」

 

 それは答えを告げる時でも変わらない。

 あたかもフィアは大した事でないかのように語ったが、その情報は継実のみならず花中の顔色も悪くさせる。花中はフィアにしがみつくや、揺さぶるように力を込めながら問い詰める。

 

「か、数は!? どれだけ此処に降りてくるの!?」

 

「んーたくさんあるのでなんとも……近くにいるのが五百。離れた位置の連中を含めればざっと数千でしょうか。すぐにでも降りてくるのは大体五百以上ですかねー」

 

「ごひゃ……す、数千……!?」

 

 ただでさえ莫大な三百という数が、何十倍にも膨れ上がるとは。しかもそれ以下とはいえ、五百もの大群が間近に迫っている。信じたくないという想いが込み上がるも、フィアが冗談を言うとは思えない。

 恐らくネガティブ達はこの場所の戦局が良くない事を察知し、戦力の集中を試みたのだろう。仲間同士の遠隔通信能力があるようだ。声も交わさずに仲間同士の連携が取れていたのも、その通信能力のお陰か。

 フィアの言葉は継実達だけでなく、モモ達にも届いている。後ろ姿から表情は窺えないが、竦めた肩の動きから呆れているのは感じ取れた。

 

「あらあら、それは流石に多いわね」

 

「なんとかならない?」

 

「倒すだけなら私一人でなんとか出来そうだけど、流石に誰かを守るのは難しいわ。私並の力の持ち主があと何人かいれば、簡単なんだけど」

 

「そんな化け物がほいほい集まっても、逆に困るわねぇ」

 

 ボケたりツッコミを入れたりしながら、二人は警戒心と闘争心をどんどん高めていく。

 ネガティブ達も力を高めていく。花のように咲いている頭を蠢かし、不気味な声色……或いは音色と呼ぶべき音を鳴らしていた。睨み合いはしばし続いたが、時間が味方しているのは戦力がいくらでも集まるネガティブ側。

 短期決戦を求めるモモとミリオンの方が、先に動き出した。

 

「兎に角、空の奴等が降りてくる前に出来るだけ片付けるわよ! 私にコイツらを投げ付けてきなさい! 手が届けばすぐに消してやるわ!」

 

「りょーかいっ!」

 

 ミリオンの指示を受け、モモはネガティブの一体に跳び掛かるように突撃。

 ネガティブはモモを捕まえようとするが失敗し、頭の上にモモが乗るのを許す。直後モモはネガティブの頭を蹴飛ばすように跳んだ。蹴られたネガティブはつんのめり……ミリオンの腕の射程内へ。

 

「はいご苦労さま。まず一体」

 

 ミリオンは即座にそのネガティブを握り潰す。

 仲間の『死』を前にして、ネガティブ達は本格的に動き出した。狙うのは主にモモ。ネガティブ達もミリオンが危険な存在だと理解しているらしい。

 無数の腕がモモへと伸びる。しかしモモの動体視力とスピードはピカイチだ。攻めではなく避けに徹すれば、ネガティブ達が束になろうと簡単には捕まえられない。それどころかモモは隙を見つけてネガティブを蹴り、ミリオンの方へと転ばせる。

 最初は難なくこなしているように見えた。だがネガティブは凄まじい速さで学習するし、数も多い。仲間がやられていくほどネガティブの動きは洗練されたものとなり、コンビネーションもどんどん上達していく。身体能力は上がっていないのでモモはまだまだ捕まらないが、それでも囲うようになったり、逃げ道を誘導するように陣取ったり。最初はリラックスしていたモモの身体に、確かな緊張が滲んできた。

 ましてやパワーはあれども動きの鈍いミリオンは、徐々に翻弄され始める。

 

【イギロォアアッ!】

 

「この……芸がない!」

 

 跳び掛かるネガティブに、ミリオンが手を伸ばして捕まえる。顔面から掴まれたネガティブはこれまで通り捕まり、そのまま握り潰されて消滅した。

 その僅かな時間を突いて、他のネガティブが変形しながらミリオンの足に巻き付く。

 一体だけならミリオンは構いやしない。しかし二体三体と絡まれば、ただでさえ速くない動きが更に鈍ってしまう。そして動けなくなればまた新たなネガティブが纏わり付く。変幻自在、更に自他の融合分離さえも可能な身体を持つネガティブに、仲間がたくさんいるからといって作業の邪魔になる事はない。

 何十という数のネガティブが一塊となり、ミリオンの身体を包みこんだ。下半身は完全にネガティブに飲まれ、出ている上半身は腕が束縛されている。それでも強引に歩み、腕も動かせるミリオンだが、今まで以上に鈍くなっていた。ミリオンの顰めた顔は相手の『目的』に気付いたようだが、身体が動かなければ止められるものではない。

 ネガティブの大群は大きく左右に別れた。殆ど動けなくなったミリオンを間に置くような形で。

 

「ちっ! やっぱ避けるか……ミリオンは右の方を止めに行って!」

 

 勝てない相手と無理に戦う必要はない。そう言わんばかりの反応をネガティブが見せた事により、モモはミリオンに新たな作戦を提示する。が、ミリオンは首を横に振った。

 格下の命令なんて聞かない、なんてつまらない理由ではない。ミリオンは自分の足で追い駆けても、ネガティブの大群を捕まえる事は出来ないと判断したのだ。

 

【イギギロロロロギィイイッ!】

 

【イイィィィイイイイギィィイロオオオッ!】

 

 ネガティブ達が叫びながら向かうは、継実達の方。

 単純にミリオン以外を狙ったのか、モモ達の仲間と判断したのか、それともこちらの企みに勘付いたのか。いずれにせよ何百もの数のネガティブが継実達に迫る。

 継実が相手出来るネガティブは精々一〜二体。花中も相性の悪さを思えば一〜三体が限度だ。フィアなら数十体と互角に戦えるが、此度の数はその十倍。

 死なないように立ち回れば、この数を相手にしてもなんとか出来る自信はある。しかし体力は大きく消耗するだろう。そうなれば宇宙に飛んで惑星ネガティブに乗り込む、なんて芸当をする余裕がなくなってしまう。

 だがいくら愚図ったところで状況は変わらない。構えを取り、接近してくるネガティブに一発拳を叩き込んでやる……と意気込んだ、そんな時だった。

 

「ゴロロガアアゴオオオオオッ!」

 

 大気を震わすほどの大声量が、辺りに響き渡ったのは。

 この声に、継実は覚えがある。

 覚えがあるが、少なくとも友達なんかじゃない。むしろ危険で身の毛がよだつ、出来ればお近付きになりたくもない生命体。

 継実達に迫っていたネガティブ達は、声に反応して足を止めた。次いで辺りを見渡すが……声の主は何処にも見られず。

 近くには何もいないのか? と思ったのか、相当数のネガティブが意識を再び継実達の方に戻した

 瞬間、数多のネガティブ達が纏めて()()()()()()

 

【イギッ!?】

 

【ギ、ロオォ!?】

 

 いきなり、なんの予兆もなく仲間を潰されて、ネガティブ達がどよめく。そしてそのどよめきは終わらない。

 またしてもネガティブ達が突然叩き潰された。叩き潰された、と先程から継実は感じているが、それはネガティブ達がぺちゃんこになって消滅しているからに過ぎない。何が潰しているのか、何がそこにいるのか、全く見えない。気配すら感じられない。

 それこそが、『奴』がそこにいる証。

 ゆらゆらと空間が揺らめく。羽毛に覆われた身体が、鱗に覆われた頭部が、地面に叩き付けられた尻尾が……全てが突如として姿を現す。あたかも、最初から此処に居たのだと訴えるように。

 現れたのはかつて継実達を襲った、あの肉食恐竜だ。しかも十五メートル級の親サイズ。

 近くに子供の姿がないので、以前継実達を襲ったのとは別個体だと思われる。なんにせよとびきり危険な生命体なのは間違いない。何故こんな化け物がやってきたのか?

 その理由を考えた時、ふと気付く。

 『彼女』がいない。一応は継実達の見送り要員として来ていた彼女が。彼女の索敵能力でも肉食恐竜の姿や痕跡は見えない筈だが、しかしもしかすると大気の流れなどから間接的に存在を把握する事は出来たかも知れない。

 そうだ、きっと彼女が肉食恐竜を連れてきたのだ。モモとミリオンだけでは抑えられないと判断し、自分の命を賭けてまで。

 

「お、おう、応援! 連れてきましたぁ!」

 

 そんな予想が見事的中していたと、彼女――――ミドリ自身の叫び声で継実は確信する。

 

「ミドリ! アンタほんとに最こ……」

 

 継実は満面の笑みでミドリの声の方へと振り返る。そこにはニコニコと自慢気に微笑むミドリと、

 彼女の腕に齧り付くヒョウアザラシの姿があった。

 ……ヒョウアザラシはもぐもぐとミドリの腕を噛んでいる。ぶしゃぶしゃと血が吹き出していたが、ミドリは全然気にしていない様子だ。むしろヒョウアザラシを見ろとばかりに肘を継実達の方に突き出す。継実がちらりと横目で見たところ、花中も呆けていた。

 どうやら幻覚やらなんやらではないらしい。

 

「……応援って、そのヒョウアザラシ?」

 

「はい! コイツを使えばあたし達三人分以上の戦力ですよ!」

 

「あ、うん……噛まれて痛くない?」

 

「恐竜に身体の半分を噛まれた時に慣れました! 意外と我慢出来ますね!」

 

「あ、うん……ちなみに、あそこにその恐竜がいるんだけど、アレについて何かある?」

 

「え?」

 

 継実が肉食恐竜を指差すと、ミドリはキョトンとした顔でその方角を見遣る。

 

「ぎょえーっ!? なんであの恐竜がいるんですかぁ!?」

 

 ……それから心底驚いていたので、全く関与していないようだ。

 よくよく見ればネガティブを叩き潰した恐竜は、首を捻って不思議そうにしている。恐らく獲物がたくさんいると思ってきて、その獲物を仕留めたら何故か消えてしまったので混乱しているのだろう。つまり奴は完全に漁夫の利狙いで現れた部外者だ。

 やっぱりミドリはミドリだなぁと、呆れたと言うべきか安心したと言うべきか。とはいえ結果的に戦力が二つも増えた。確かにこれは心強い。

 

「んじゃコイツは向こうに投げときますかね」

 

「いだーっ!?」

 

 フィアがヒョウアザラシを強引に引っ剥がし、ネガティブ達の方へと投げ飛ばす。ヒョウアザラシはネガティブ達の真ん中に落ち……襲われたのだろう。巨大な白煙が舞い上がるほどの衝撃で、暴れ始めた。

 モモとミリオンに加え、肉食恐竜とヒョウアザラシまでもがネガティブを襲う。特に肉食恐竜のパワーは凄まじい。尾を振るえば何十という数のネガティブが粉々に砕け、踏み付けで一〜二匹纏めて潰し、噛み付けば数体纏めて吹き飛ぶ。ヒョウアザラシも凶悪な顎の力で一匹また一匹と噛み千切り、着実にその数を減らしていく。

 そうして二百体のネガティブが壊滅した頃、新たなネガティブが続々と空から降りてきた。

 フィアが事前に観測していた、数千もの大群の一部。それでも先の二百体を大きく上回る大群だ。恐らく五百体はいるだろう。たった一体で一つの、地球以上の文明を持つ星すら消してしまう悪魔が五百。銀河規模の巨大文明すら難なく根絶やしにしてしまうに違いない大群だ。

 力だけでなく数すら破滅的な規模になるとは、正しく宇宙の厄災。だが、地球の生命は災厄を凌駕する。

 

「あっははははは!」

 

 ミリオンは高笑いしながら次々とネガティブを掴み、片っ端から消していく。

 

「がぁっ! ぬぅりゃあ!」

 

 モモは素早さでネガティブを翻弄。倒すつもりはなく、ネガティブを転ばせたり足止めしたりを目的にしていた。動きの止まったネガティブはミリオンが次々と仕留める。

 

「グゴロガアアアアアアアッ!」

 

「キャオオオオオオオ!」

 

「きゃああああああっ!?」

 

 巨大恐竜とヒョウアザラシはただ暴れ回るだけ。咆哮を上げながら不可避の尾を叩き付け、雄叫びと共に胴体を食い千切る。一名悲鳴ばかりで戦っていないが、大きな戦力を持ってきたのだからチャラというものだ。

 何千という数のネガティブがどんどん減っていく。周りから増援が続々と集まるものの、それ以上の速さで消し飛んでいた。星一つ滅ぼす存在が、儚い花が如く散る。

 戦局は圧倒的な優勢だった。

 とはいえモモ達の体力は有限だ。今は圧倒的なパワーで大群を蹂躙しているが、永遠に続けられるものではない。またネガティブ群団もこれが倍、更に倍と増えれば、戦局がひっくり返る事もあり得るだろう。

 そして何より、最大の脅威がいよいよ迫っている。

 

「あと五万キロ。あのデカブツがそろそろ地上に到達します」

 

 フィアが空を、そこに浮かぶ惑星ネガティブを指差す。

 今や見た目の直径が四センチほど。大空にハッキリとした穴が空き、じりじりと巨大化している。

 そろそろ出発しなければ惑星ネガティブが地球に到達してしまう。

 しかし花中もフィアも動かない。猶予が刻々と迫っているのに、特段焦った様子すら見せずに。

 花中の友達とやらを信じているのか。だがその友達は何時動く? 大体何をどうすれば星一つに匹敵する存在を止められる――――悪態混じりの考えが脳裏を過った、そんな時だった。

 ミュータントである継実達すら足を止めてしまうほどの、巨大な地震が起きたのは。

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