白と七人の歌姫   作:火の車

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戦い

実況『__おーっと?佐渡選手、競技場の中心から動きません!』

 

 スタートから少しすると

 

 そんな実況の声が会場に響いた

 

 それもそのはず、

 

 燈はスタートと同時に競技場の中心を陣取ったのだ

 

 そして、何かを今か今かと待っている

 

燈(__来い、早く来い......!)

咲「待ち合わせに早く来るのは良い心がけだね。」

燈「......!」

 

 会場に漂う異様な雰囲気

 

 その中を悠然と少女は歩き

 

 待ちわびる燈のもとに現れた

 

燈「待ってたぞ、最強女。」

咲「私は戸山咲。」

燈「......?」

咲「名前くらい覚えなよ。」

燈「......気が向いたらな。」

 

 会場内は競技中にもかかわらず静まり返っている

 

 2人の持つ独特の雰囲気が空間を支配してるのだ

 

燈「早く始めようぜ......!」

咲「そうだね。さっさと終わらせよう。」

 

 燈と咲は同時に構えを取った

 

 燈はほぼノーガード

 

 咲は木刀を大きく前に出す構え

 

 2人はタイミングを伺っている

 

燈(行くぞ......!)

咲「......」

 

 咲に仕掛けたのは燈だ

 

 一気に間合いを詰め、自身の距離にした

 

 そして、数発の拳を咲に放った

 

燈「!!」

咲「......甘い。」

燈(ちっ!)

 

 燈の鼻先を木刀が霞める

 

 ブン!と言う木刀を振った音が遅れて聞こえた

 

 それほどに咲の攻撃は速かった

 

 ファーストタッチは咲になった

 

燈(なんて威力だ。しかも音もやべぇ。)

 

 燈は低い姿勢を取り、咲に突進した

 

 その速さもまた人間に出せるものではない

 

燈(こいつにモーションのデカい技はリスクがデカい。だったら、細かく当てる。)

咲(......意外と考えてるんだ。)

 

 燈は物凄い速さの拳を出し続ける

 

 咲もこれを全て捌くことは出来ず

 

 数発被弾した

 

咲「無駄が多い。」

燈「っ!!」

 

 咲はそう呟くと

 

 木刀を一回振った

 

 燈はそれをたやすく受け止めたように見えたが

 

 後ろに飛びのいた

 

燈(マジか。一発で左を持っていきやがった。)

咲「初めてでしょ。たった一回の攻撃でそこまでダメージ食らったの。」

燈「あぁ。流石上物だ。」

 

 燈はどこか嬉しそうに咲を見てる

 

 だが、咲の表情は反対に冷ややかだ

 

 まるで、格下の相手を見下すような

 

 そんな目をしてる

 

咲「ダメダメだよ。君。」

燈「!!(なっ__!)」

咲「これで終わり。」

 

 一瞬の出来事

 

 咲の木刀がまるで無数にあるように見え

 

 次の瞬間には......

 

燈「がはっ......!!」

 

 燈の身体は満身創痍になっていた

 

 攻撃を受けた本人ですら何も理解出来ない

 

燈(な、なんだ今の?)

咲「意外といまいちだね、君。」

燈「......なに?」

咲「そんな薄っぺらくて軽い攻撃、なんの意味もないよ。」

 

 咲は淡々と言葉を連ねる

 

 その声はひどく冷たくて

 

 聞くものを凍り付かせるようだ

 

咲「君には積み上げてるものがないんだよ。」

燈「積み上げてるものだと......?」

咲「君の拳には誇りも責任もない。ただ、自身の力をひけらかすだけ。そんな拳に力は宿らない。」

燈「説教垂れてんじゃねぇぞ、クソが......!!」

 

 燈は満身創痍の身体を無理やり立ち上がらせた

 

 そして、余裕の表情を浮かべる咲を睨みつけた

 

燈「責任がないだと?だったら、お前らはなんだ......」

咲「......?」

燈「お前らは知ってるのか?普通に生きてるやつの下にある犠牲を......!」

咲「いったい、何の話をしてるの?」

燈「俺は確かに無責任この上ない、クズだ。だが、俺は自分だけをクズだとは思わない......!」

 

 燈の目は血で真っ赤に染まっている

 

 人間に見えない、咲はそう思った

 

 今の燈はまるで野生動物

 

 凶暴で今にも襲い掛かってきそうだ

 

燈「ぶっ殺してやる......!」

咲「......下らない。」

燈「っ!!」

咲「今の君、まるで獣だよ。醜悪だね。」

燈「......」

 

 咲は高速の突きを溝に突き刺した

 

 燈の身体はくの字に折れ

 

 膝は完全に折れた

 

咲「もう終ろう。首折れても文句言わないでね。」

燈(く、クソが......!!!)

翼「__やめなさい!咲さん!」

咲「......翼?」

翼「全く、また暴れましたね!」

 

 木刀を振り下ろそうとした咲に

 

 水色の髪の少女が声を張り上げた

 

 咲は木刀を止めそれを背中に隠した

 

咲「......暴れてない。」

翼「嘘を言わないでください!」

咲「......」

翼「もういいでしょう。下がりなさい。従姉妹の方も来てますよ。」

咲「え?」

香澄「__佐渡君!?」

 

 競技場に香澄とましろが降りて来た

 

 後ろにはレイとこころもいる

 

ましろ「さ、佐渡さん、大丈夫ですか!?」

燈(ま、負けた?俺が......?)

香澄「だから、流石に咲ちゃんは無理だよ!」

こころ「医務室に行きなさい!」

レイ「喧嘩もいいけど、ほどほどにするんだよ。」

燈(負け?負け?負け?)

 

 燈は4人に囲まれ

 

 そして、傷だらけの身体を心配される

 

燈(弱い、俺は......)

ましろ「さ、佐渡さん......?」

翼「咲、戻りますよ!今回はゲンコツと反省文です!」

咲(......私、悪くないのに。)

蘭「__避けて!木刀の人!!!」

咲「え?__」

 

 咲はその声と同時に後ろに振り返った

 

 そこには......

 

燈「......」

咲「!!!」

 

 目が大きく開かれ

 

 殺気に満ちた顔をしてる燈だった

 

 だが、振りだした拳が咲に届くことはなかった

 

翼(と、止まってる......?)

咲「......気配を全く感じなかった。」

翼「え?」

咲「もし、意識があったらマズかったかもね。」

翼「意識って......まさか!」

咲「こういう事。」

 

 咲はそう言って燈の身体を押した

 

 すると、燈の身体は力なく競技場の芝に倒れた

 

咲(ここまでの執念、どこから?)

翼「何が彼をここまで......?」

咲「......さぁね。」

 

 咲はそう呟いて歩を進めた

 

 翼はそれについて行った

 

咲「現時点で自分より弱い人間に興味ない。」

翼「こら、待ちなさい!」

 

 会場は静寂に支配され

 

 少しすると、今度は

 

 燈をタンカで運ぶ声で騒がしくなった

__________________

 

 ”燈”

 

 弱い俺なんていらない

 

 俺に強さがなかったら何の価値もない

 

 今まで、そう思って生きて来た

 

 だが、俺より強いやつがいた

 

 そいつは圧倒的な力で俺を倒した

 

 俺は敗北した

 

燈「__ん......」

 

 目を覚ますと、

 

 そこは白が目に多く入ってくる部屋だった

 

 俺はそこのベッドで寝かされていたのか、

 

 白色のベッドには赤い血がべっとりついている

 

彩「あ、目を覚ましたね!」

燈「......丸山?」

彩「うん!調子はどう?」

燈「......最悪。」

 

 自分が吹っ掛けた喧嘩であの負け方

 

 格好悪いことこの上ない

 

 気分は最悪だ

 

燈「......なんで、ここにいる。」

彩「香澄ちゃん達がみんな競技に出てるから、暇で面識のある私が来たんだよ!」

燈「......そうか。」

 

 時間はそこまでは経ってないらしい

 

 まだ昼休憩前、そんなに寝てないんだな

 

彩「それにしても、なんであんなことになったの?」

燈「......俺が吹っ掛けた。」

彩「えぇ!?」

燈「......あいつは俺の想像よりはるかに強かった。完敗だ。あれは人間じゃない。」

彩「う、うーん、咲ちゃんだからなー。私もすごいって聞いたことはあったけど。」

 

 住んでる世界が違い過ぎる

 

 あれは、俺の手に負える相手じゃなかった

 

燈「......そうか。」

 

 俺は天井をボーっと眺めた

 

 何も考えたくない

 

 もう疲れ果てた

 

彩「大丈夫?」

燈「......」

 

 天井を眺めてると

 

 丸山が俺の顔を覗き込んできた

 

 なんというか......

 

燈「お前、可愛いなぁ......」

彩「えぇ!?///」

燈(単純に顔がいい。)

 

 テレビ出てるだけの事はある

 

 未だにどうやって入ってるのか知らないが

 

 取り合えず、顔がいい

 

彩「ど、どういう事かなぁ......?///」

燈「なんとなく、近くで見てそう思った......それだけ。」

彩「そ、そっかぁ......///」

 

 さっさと戻らねぇと市ヶ谷に怒鳴られる

 

 午後の競技も出ねぇといけねぇし

 

 起きないと......

 

燈「よいしょ......っと。」

彩「わっ!起きたらダメだよ!傷もひどいんだから!」

燈「市ヶ谷に怒られるから、行く......」

彩「だ~め~!!」

燈「おい、引っ張んな__!」

彩「きゃ!」

 

 俺はベッドから降りて靴を履くと

 

 丸山に腕を引っ張られバランスを崩した

 

 結果、丸山を押し倒す形になった

 

彩「!///」

燈「危ねぇって。俺だって体に力はいらねぇんだし。」

彩「う、うん、ごめんね......///」

燈「......」

 

 なんで、こいつ小さく震えてるんだ?

 

 顔も赤いし、風邪でもひいてるのか?

 

燈「......ともかく、俺は戻る。怒られたくないし。」

彩「う、うん......///」

 

 俺は丸山の上からどいて

 

 寝てた部屋から出て行った

 

 まぁ、普通の人間相手なら出来るだろう

 

 ”彩”

 

彩(な、なんだろう、すごくドキドキしてる......///)

 

 彩は医務室で胸を抑えた

 

 初めての感覚で戸惑ってる様子だ

 

彩(佐渡君、顔、良かったなぁ......///)

 

 彩はそんな事を思いながら

 

 しばらく、医務室でボーっとしていた

 

 

 


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