有咲「__あ、佐渡!」
競技場に戻って来ると、
市ヶ谷が駆け寄ってきた
この顔、マジで怒ってやがるな
有咲「あの人に喧嘩売るなって言ったよな!?」
燈「......すまん。」
有咲「え?」
燈「仕事はする。今は勘弁してくれ。」
俺がそう言うと、市ヶ谷は首を振った
何を示してるんだ、この動き
有咲「お前はリタイヤだ。その体じゃ動けねぇだろ。」
燈「......別に動ける。」
有咲「何言ってんだ。出血多量に脳震盪、しかも倒れ方もやばかったから大事を取って休め。」
燈「......」
市ヶ谷はそう言ってから、
俺に体操服の替えを渡して来た
あ、そう言えば血だらけ何だった
有咲「これに着替えてもう休め。(咲さんが死ぬ気で働くらしいし。)」
燈「......あぁ、分かった。」
俺は市ヶ谷から服を受け取り
上の血だらけの真っ赤な服を脱ぎ捨てた
有咲「こ、ここで脱ぐな!__っ!!!」
燈「......気持ち悪いから。」
有咲「そ、そうか。」
俺は受け取った新しい服を着た
そして、市ヶ谷に背中を向けた
燈「俺は行くぞ。」
有咲「あ、あぁ。」
”有咲”
佐渡はフラフラ歩いてどこかに行った
私は茫然とその背中を見送った
あいつの席はそこだし、引き留めないといけない
でも、止める事を忘れちまった
それほどに衝撃なものを見たんだ
有咲(な、なんだ、あの身体?)
佐渡の身体には無数の傷があった
切り傷とか鞭で打たれたような傷
私には到底判別できねぇ
有咲(喧嘩でできた傷?いや、佐渡だぞ。あいつをあんなにできる人間はそんなに多くないはず......)
香澄「__有咲ー!」
有咲「!」
香澄「佐渡君、戻ってきた!?」
有咲「あ、あぁ。服着替えてどっか行った。」
私は動揺を抑え、何とかそう答えた
香澄は胸をなでおろしてため息をついてる
香澄「有咲?どうしたの?」
有咲「......なぁ、香澄?」
香澄「?」
有咲「い、いや、なんでもねぇ。」
駄目だ、何を言えばいいか分からねぇ
私にはあれを表現するポキャブラリーはない
てか、そもそも人に言っていいものなのか?
有咲「わ、私はちょっと委員の仕事に行ってくる。」
香澄「あ、有咲!?」
私は若干速足で迷いを振り払うように
生徒会用のテントに歩いて行った
__________________
”燈”
俺は当てもなく歩き、
気づいたら全く知らない場所に来てた
人通りがほとんどない静かな場所だ
燈(__ここで休むか。)
俺は近くの台?に腰を下ろした
疲労が溜まってるのか、足が震えてる
頭の中もグルグルしてる
やっぱ、かなりダメージが残ってるな
燈「......」
戸山咲
正直、あいつは化け物だ
音が遅れて聞こえるほどの速度
一本の木刀が何本もあるように見える連撃
何よりも純粋な力だけで俺を倒した
燈(まさか、あんな奴がいるなんて......)
レイ「__あれ、佐渡君?」
燈「......和奏。」
考え事の途中、向こうから和奏が歩いてきた
俺が気づくと、和奏は俺の横に座ってきた
レイ「こんな所で何してるの?」
燈「......休んでる。」
レイ「やっぱり、さっきの喧嘩で負けて拗ねてるの?」
燈「拗ねてない。」
俺がそう言うと、和奏は首を傾げ
その瞬間、俺の脇腹を通いて来た
燈「つっ!!!」
レイ「あ、やっぱりダメージあったんだ。」
燈「お、鬼め......っ!」
和奏、こいつ結構イタズラ好きか?
てか、想像以上にダメージがありやがる
戸山咲、あいつどんなパワーしてやがるんだ
レイ「まぁ、あの人、すさまじかったね。」
燈「......あぁ。」
レイ「私から見れば、天賦の才を持った者同士って感じだった。でも、結果はああなった。」
燈「......」
レイ「あの差はどこから出たか、分かる?」
燈「......あぁ、戸山咲に言われた。積み上げてるものがないってな。」
レイ「うん、そうだね。」
和奏は俺の言葉を聞き、頷いた
こいつは俺と奴の差をよくわかっている
レイ「やっぱり、自信なくしちゃった?」
燈「......自信、か。」
レイ「?」
燈「自信なんて、いつから持つようになったんだろうな。」
俺はボーっと遠くを眺めながらそう言った
和奏は不思議そうに首をかしげている
レイ「どういう事?」
燈「最初は人を殴るのが怖かった。喧嘩なんてしたくもなかった。」
レイ「え?」
燈「だが、あの日、全てが変わった。」
レイ「あの日?」
燈「あれは確か、14の時。夜の公園でのことだった。」
俺はぼやくように話し始めた
和奏は興味深そうに耳を向けている
燈「散歩中に俺は誘拐されそうな女を見つけてな。」
レイ「うん。」
燈「その時、俺はその誘拐犯3人を倒した。これが、初めての喧嘩だった。」
レイ「へぇ、意外と喧嘩始め遅かったんだね。」
燈「いや、喧嘩始めってなんだよ。」
レイ「あはは。」
俺は少しため息をついた
そして、話を続けた
燈「まぁ、その時に自分が強いと思っちまって、自信を持つようになって、強いやつを求めるようになった。」
レイ「その結果が今日か。」
燈「あぁ。唯一の自信もズタズタになったよ。」
レイ「......!」
ほんと、あんな奴反則だよ
久しぶりに喧嘩したくないって思った
自分が強くないって初めて思った
燈「......ついに、俺の価値がなくなった。」
俺はそう呟いてベンチから立ち上がった
足の疲労があまり抜けてないけど
まぁ、歩いてるうちに抜けるだろう
レイ「佐渡君?」
燈「俺は行く。じゃあな、和奏。」
レイ「うん、またね。」
燈「......あぁ。」
俺は静かなその場所から離れ
何のあてもないまま歩いた
”レイ”
純粋な子供
佐渡君への印象はそれだった
ますきに怖がられたときも少し傷ついてたし
勉強が分かった時の嬉しそうな顔も、
その後のお礼の内容も、まるで子供
レイ「......」
でも、今日は彼の全く違う顔を見た
喧嘩をしていたときは野生動物
もう一つ、さっきの顔は......
レイ(捨てられた、小犬......?)
佐渡君に似合う言葉じゃない
でも、私にはそう見えた
価値がない、あの言葉も......
レイ(やっぱり、引っかかる。)
彼は日頃の言動、態度の割には、
自分への評価があまりにも低い
一度喧嘩に負ければ価値なし
それは自分には喧嘩しかないと言ってるに他ならない
レイ(彼には何があるんだろう......)
私はその場で少し考えながら
休憩時間をすごした
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”燈”
会場に戻って来ると相変わらず騒がしかった
うるさすぎて傷が痛む気がする
俺はそんな事を思いながら歩いている
燈(......暇だな。)
リタイヤになっちまったし
やることが全くない
瑠唯「__ここにいたんですか。」
燈「......お前は、睨み女。」
ボーっとしながら歩いてると
後ろから睨み女が真顔で立っていた
燈「何か用か。」
瑠唯「何か用か、ですか。」
睨み女はまた俺を睨んできた
なんだこいつ、目つき悪いな
俺も人のことは言えないんだが
瑠唯「久しぶりに会ったのでご挨拶に。」
燈「......?(何言ってんだ?)」
瑠唯「イギリス会った以来でしょうか。」
燈「!!」
市ヶ谷が言ってた
月ノ森はお嬢様学校だと
つまり、外国に行ってても不思議じゃない
瑠唯「随分と見た目が変わりましたね。」
燈「......うるさい、黙れ。」
俺は睨み女に近づいて行った
そして、逆に睨みつけた
燈「お前、俺をあざ笑いにでも来たのか?」
瑠唯「......?」
燈「......ちっ。」
俺は舌打ちをして睨み女の横を通り過ぎた
そして、こう言った
燈「俺の事は忘れろ、そして関わるな。クソ金持ちが。」
瑠唯「......」
俺はそう言って急ぎ足で奴から離れた
クソ、気分が悪い、最悪だ
俺は激しいいら突きを感じながら
自分の席の方に戻って行った