ヘルサレムズ・ロット
元・
一夜にして崩落・再構成され、異次元の租界となったこの都市は今、異界を臨む境界点でとなり、地球上最も剣呑な危険地帯となった。
霧烟る街に蠢くは、奇怪生物・神秘現象・魔道犯罪・超常科学……一歩間違えれば人界は瞬く間に浸食され、不可逆の混沌へと呑まれていってしまう。
そんな街で世界の均衡を守る為日夜暗躍するのは超人秘密結社『ライブラ』。
これはその構成員たちの戦いと日常の記録である。
一言で表すなら、それは異常だった。
重力に逆らい大量の瓦礫が下から上へと上昇したり、さらにその上ではビル群が観覧車のように回り続けているものが複数浮かんでおり、加えて宙に浮かんでいない大量の瓦礫の山があちこちで大量に築かれている街中には堕落王の暇つぶしの副産物のグールの群れが闊歩しており、さながら悪夢のような遊園地であった。そんな悪夢の真っ只中で迷わずまっすぐに向かって走っている少年──レオナルド・ウォッチがいた。
レオが目前に存在するグールの群れに眼を向けて開いた瞬間、両眼の幾何学模様──神々の義眼が蒼く輝いた。
その瞬間、レオに向かってくるグールたちの視界にも幾何学模様が輝いた。それはレオの眼によってこの場にいるグールたちの視界は、自らの支配下に置かれた証拠である。後はただ一言放つのみ。
レオが言い放つと同時にグールたちの視界がめちゃくちゃに入れ替えられた。視覚に頼る以上、見える景色と意識と感覚、それらをすべて乱雑に混ぜ返されてしまえば、まともに立っていられるはずもなく、グールたちは一斉にバタバタと倒れていく。
「悪いけど急いでるんだ、通らせてもらうよ!」
レオは倒れてるグールたちにはもう目もくれず全速力でこの場を走りきろうしたその時、
「ブモァァァァ!!」
「なっ!?」
突如レオの真上から、倒れてるのとは別のグールが襲い掛かってきた。
「(やばい……!)」
このままでは死体の仲間入りになる。少年は再び両眼を輝かせて視界を奪おうするが、僅か1、2秒程足りない。だが
「それでも……僕は! まだ!!」
「伏せて
あきらめないレオに聞き覚えのある声が耳に入った瞬間、迷わず頭を抱えながらその場に伏せる。今そんなことをすれば即座に少年は頭からガブリと喰われてしまうがそんな事は起きないと確信していた。何故なら、
そんな不安を吹き飛ばしてくれる、頼もしい後輩が助けてくれるのだから。
襲い掛かろうとしたグールは、空中で横腹辺りに強烈な打撃を叩き込まれるのと同時に、身体の内側から青白い氷が生えるように出現し、瞬く間に氷のオブジェと化しながら落下してそのまま地面に激突してあっけなく砕け散った。
グールだったモノを踏み砕きながら、癖っ毛のある黒髪に第一ボタンを開けた白Yシャツに黒ジャケットを腰に巻きつけている少年──
「俺、参上! ってね。ケガはない、先輩?」
「うん、おかげさまで。ありがとう夕夜君」
差し伸べられた手をとって立ち上がりながらレオは助けてくれた後輩に感謝の言葉を告げた。
「お礼を言うのは全部終わった後で! ほら、ホワイトさん待ってるよ。大切な人でかつそれが女の人だったら尚更急がなきゃですよ」
「それは、チェインさんとの経験談?」
「ちょっ、こんな時に茶化さないでくださいよ先輩……てか今の本人に聞かれてたら問答無用で心臓発作の刑待ったなしじゃないですかねー」
「うわ、それはマジで勘弁! 心筋を直に撫でられる感触なんて感じたくない知りたくない味わいたくない!」
「デスヨネー。と、雑談してる場合じゃなかったですね、ほら」
夕夜は後ろを振り返りながら言い、続いてレオも視線を同じ方向へと向けると先程とは別のグールの群れがこちらに向かっていた。
「あの団体様のお相手は俺に任せて、先に行ってください! ……うーん、ここは俺に任せて的なセリフ一度言って見たかったんですよねー」
「最後の一言がなかったら素直に感動してたよ僕」
「まあまあ、とにかくこの一件終わったらダイナーで打ち上げしましょう! もちろんライブラメンバーだけじゃなくてブラックさんたちも一緒に」
「それはいいね。なら、それを少しでも早く実現できるようにしなくちゃね……いってくる!!」
「うん。行ってらっしゃい、先輩」
そう言ってレオは迷いを感じぬ足取りで行くべき場所へと走っていった。
そんなレオの背中を見ながら夕夜は小さく呟いた。
「うーん、前から思ってたけど真っ直ぐ向かって進んでるところやっぱり似てるなあ、だから先輩って呼びたくなっちゃうのかなぁ……さて、と。そういうわけでお前らの相手は俺だ。今日はハロウィンだから大はしゃぎしてトリックオアトリートしたくなるのはわかるぜ? そんなにいたずらしたきゃ俺にしていきな。まあ……」
再び群れの方へ振り返りながら先輩を慕う後輩から戦うものへと銃の弾を新しく装填するかのように意識を切り替え、引き金を引くように自分の中にある戦う力を顕現させる。
「できるならの話だけどな」
わずか一瞬で彼の容姿が変貌した。夜と同化してしまいそうな黒髪は雪のように白く、青空のように蒼い瞳は鮮血を浴びたかのように赤く染まっていた。そして、銀の十字架の装飾の入った赤と黒のグローブを付けた右手の周囲には大量の血を固めて作り出されたかのような不透明な赤い
さらに彼の口より紡がれし
「お菓子代わりに血と氷の輪舞をくれてやるよ。そんじゃあ……いくぞいくぞいくぞぉ!!」
勢いよく刀を振りかざしながら迷いなく敵の群れへと突っ込んでいった。
なぜこんな状況になっているのか。少し時を遡ることにしよう。
──数か月前
ふと、突然目が覚めた。薄暗い寝室のベットへ横になっていた夕夜は目をパチクリしながら近くにある時計で時間を確認するとまだ深夜2時過ぎであった。何か忘れてる気がするが、睡魔には抗えず再び眠りにつこうとした時、廊下の方から固い何かが落ちる音と、着崩れする音がした。そして、
おえ〜
盛大に嘔吐してる音が耳に入り、睡魔は一瞬にして消え去ったのと同時に忘れかけていたことも思い出しながら意識を覚醒していく。完全に目が覚めた夕夜の動きは迅速で、すぐさまベットから起き上がり、寝室から廊下へと向かった。
床には黒いジャケットとズボンに女性特有の上に着ける下着などの衣類や革靴一式が散乱していた。それらを回収して衣類はリビングに持っていきシワにならないように畳んでからテーブルの上に、靴は玄関に揃えて置いてから、汚い音が発せられている洗面所に向かった。
そこにはYシャツ一枚のみの姿で顔をトイレの中に向けてオロオロと吐き続けている黒髪のボブカットの女性──チェイン・
色々と話さなければならないことがあるが、今はそれが出来るような状態ではないので夕夜は気づかれないように彼女へ近づき、そっと背中をさすってあげた。少し楽になったのか、嘔吐の勢いが弱まった気がする。
次第に音は小さくなっていき、漸く音がやみ、トイレの中から頭が上がった。出すものあらかた出せたからなのかとてもいい顔をしていた。
「楽になった?」
「うん、全部出たと思うー」
「どの位飲んできたの?」
「人狼局のみんなでお店にあったのはあらかた飲んじゃったかなー」
「お代は?」
「足りない分はツケてきたーもちろん割り勘でー」
「へー。暫く飲みすぎないよう控えるって約束を破った上にツケまでしたと」
「だってしかたないじゃーん……おつまみも美味しかったし飲めば飲むほどお酒が出てくるんだ、から……?」
チェインは一体誰と会話していたのに気づいたか、ギギギと錆びた歯車が回るような音を出すように顔を話し相手の夕夜の方へと向けて、先程まですっきりしていた顔が急激に真っ青となっていた。
「あ、その、夕夜……これには……」
「よっぽど美味しかったんだろうね、お酒とおつまみ。夜一緒に家で夕飯食べる約束を忘れるくらい」
「ご、ごめんなさい……っ!!」
本気でまずいと感じたのか、顔だけではなく身体もこちらの方へ向けながら謝ってきたため、前ボタン全開のYシャツとそこから見える豊満な胸部(なぜか中の下着も外されていたため少しでもシャツがずれたら見えてしまいそうでいろんな意味で危ない)に、セクシーな黒い下着と、すらりとした綺麗な生足が目に入ってしまった。
約束をすっぽぬかされた事によって生じた怒りは、チェインから漂う女性の色気と最近お酒関連に関して少々制限をかけ過ぎてしまった自分にも非があったかなと思ってしまった自身の甘さにいとも簡単に大敗した。扇情的な姿を見せれば許してくれるかもとこちらに振り向いた可能性もなくはないが、顔の蒼白さから見るとそのような考えに至ってない様子だったので余計にたちが悪い。これも惚れた弱みを持った男の悲しい
普段立っている時にこれをやると、身長差で彼女の胸に顔が埋まってしまう人前では見せられない嬉し恥ずかしな図になってしまうが、今はしゃがんでいるので彼女の肩に上手く顎を乗せながら背中に手を回せることができた。
結構力を入れて抱きしめたので、彼女のぬくもりと女性特有の甘い香り、そして豊満な胸部が自身の胸板で潰れるように当たっているため、感触がほぼダイレクトに伝わってきてしまい、理性が空気が抜けた風船のように飛びそうになったが、本能に負けてそんなことをすれば、どこぞの救いようがない銀髪糞猿の仲間入りしそうな気がするから(ここ重要)
そしてこの行為でやばくなっているのは彼女の方もである。熱があるかどうか測る時に異性の手を額に当てられるだけで動揺して顔を真っ赤に染めてしまう彼女にこんな事をすれば、蒸気が出そうになるくらいに紅潮してしまうのは確定事項であった。
「へっ!? ちょ、夕夜!?」
「ごめん、最近お酒関連に関して制限かけすぎたよね」
「あ、いや今回は私がちゃんとしていればよかったことだし……約束破って本当にごめんなさい」
急に抱きしめてきた年下の彼氏の方から謝ってきたからなのか、少しばかり羞恥心が治まったチェインも改めて謝罪しながら抱きしめ返し、そのまま2人はお互いの体温と感触に浸っていた。
そんなささやかな幸せな時間を楽しみたいところだが、このままだと本能を抑えている理性の枷が外れてしまいそうなので、そうなる前に夕夜は少し惜しみながら本題に入るために言葉を紡いだ。
「とりあえず、ご飯食べよっか。実は夕飯の支度し終わったあとからさっきまでずっと寝てたもんだから俺もまだ食べてないんだ」
「あっ、そうだったの?」
「うん、もしまだ起きてられるなら……一緒に食べない?」
抱きしめたままなので彼女が今どんな顔をしているかはわからない。だがそこに不安はなかった。なぜなら、きっと今の彼女は赤みが入ったまま幸せそうな表情を浮かべながら、
「うん、いいよ……一緒に食べよ」
嬉しそうに返事を返してくれている筈なのだから。
とある血界戦線関連のssを読んでハマったのがきっかけで自粛中で時間あるからアニメ血界戦線一期まとめ借りして一から視聴して最終回にガチ泣きしました。Hello,World!最高だった……こうして見事に沼落ちしてそのまま原作のコミックとノベライズも買って履修しながらそのまま勢いで借りてきた一期を再履修しながらコレを書きましたー。自粛に見てた他作品のネタもちょいちょいいれてますが(笑)
久々に執筆したのもあったのか上手い下手関係なく楽しくかけた気がする……