血界戦線〜GlaciesEdge〜   作:蒼穹の命(ミコト)

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氷血刃と神々の義眼

 僕にはかつて大切な人が2人いました

 

 1人は僕の妹。好奇心旺盛で、亡くなった母さんにつけられた名前に恥じない夜明けを照らす朝日のように美しい笑顔を浮かべながらこんな僕を慕ってくれてました

 

 もう1人は、学校で会った同性の親友。小学一年の入学式の後に一年間過ごす教室での席決めで二人が僕の席の隣りになったのがきっかけで、よく話したり妹も交えて一緒に遊んだりしとかして、とても楽しい時間を過ごせることが出来ました

 

 みんなから出来損ないと言われ、何もなかった僕に初めてできた繋がりだった

 

 この2人と楽しく過ごせるなら、どんなに辛くても大丈夫だと信じてた

 

 だからこそあの日の僕は、この美しくて残酷な世界に絶望して心の底から呪ったのだろう

 

 なんで僕がいまだにここにいるのだろうと不思議に思った

 

 早く自分の命が尽きて欲しい、楽になりたいと毎晩寝る度にそう願っていた

 

 そんなどうしようもない僕を助けてくれた人たちと出会うまでは

 

 いまでも、ふと思い返せばすぐに思い出せるだろう

 

 出会いに関しては本当に恵まれていると思った

 

 だからこそ、自分が何のためにここにいるのか。その答えを自分で見つけたいと思った

 

 何年たってもその答えはいまだ見つからない。もしかしたら、死ぬまで一生見つからないかもしれない

 

 だとしても、それは探さない理由にはならない

 

 だから僕は/俺は

 

 今はこの霧に包まれた混沌の街で

 

 答えと言う名の光を、ずっと探し続けている

 

 でも、最近そんな自分自身を疑い始めていた

 

 今まで自分のやってきたことは、答え探しではなく

 

 あの日からただ逃げているだけなんじゃないかって

 

 探していると錯覚してるんじゃないかと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空を眺めているうちにいつの間にか寝落ちしていた夕夜は目を大きく見開いてから冷たい地面から立ち上がり、スマホで現在の時刻を確認した。最後に時間を確認したのがチェインとの通話を切った時にチラッと見た時なのでそこから今の時間まで脳内で簡単に計算すると一分程度だったのでそんなに寝ていたわけではなさそうだった。にもかかわらず長時間寝ていたような気がするのはなぜなんだろうか。

 内容はよく覚えていないが、自分にとって何か大切な、それでいて欠けた夢を見ていたような気がした。

 

 

「さて、と。この辺りにはもう残敵はいないみたいだし、他の地区を軽く見回りながらチェインたちと合流かな。っとその前に」

 

 

 夢の事は置いておいて、夕夜は周囲を探索して先程交戦した人であった怪物と酷似した肉片と体液をを見つけた。それを冷凍保存して解析班に連絡して先程の現象を調べてもらうよう保存したサンプル回収と調査を依頼するために連絡を行なってから移動を開始する。

 ブラッドエッジを発動して血の塊を出し、それを形状変化させてそれなりの長さのある縄になり、それをぶんぶんと勢い良く振り回してビルの方へ投げる。

 うまく屋上にある広告の看板の支え棒に絡まったので後は体内に血を戻すことで血の縄の長さが縮まり上の方へと引き上げられていくような構図になった。

 

 上手く屋上に上がった後はパルクールの要領でビルから別のビルへと飛びながら移動し、ある程度地区を見回ったがどの地区でもHLPDとライブラのメンバーたちの奮闘で徐々に鎮圧されていた。

 中で一番容赦ない鎮圧をしてたのは、ギルベルトのオープンカーとパトリックとニーカが乗る車による挟み撃ちからの両車の全武装一斉掃射によるえげつない殲滅と黒こげアートが出来上がった大通りの惨状は見てドン引きしたが。

 このぐらいやらなければいけなかったのかもしれないが、それでも無慈悲すぎることには変わりなかった。

 次あった時にこれを思い出して変な表情を当人たちの前で顔に出さないようにしようと思いながら地区の見回りからザックリ切られているビルや道路を頼りにチェインたちを探す方針へと切り替えた。

 派手に辺りが切られまくっているが故にどっちにむかっていったのかある程度絞れたので邪神の攻撃によってオープンカフェになってしまっているところのテーブルに見慣れた姿を無事見つけたのでそちらへ向かう。

 

「おお、夕夜君か。暴動鎮圧ご苦労だった」

 

 夕夜の接近に気づき声をかけたのは、鋭い三白眼と眼鏡に、下顎の犬歯を覗かせている側から見ると恐ろしい顔と外見をしていながらも繊細で良識人かつ紳士であるライブラのリーダー──クラウス・V・ラインヘルツであった。

 

「いえいえ、こっちはそんなに苦戦したわけではなかったんで。そちらこそお疲れ様です。チェインもお疲れ様」

 

「ありがとー夕夜。はあ、疲れたぁ……」

 

 座っていたチェインは立ち上がって夕夜の方へと向かい、倒れるように抱き着いてくる。そんな彼女を受け止めながら肉ではないうごめいてるナニカを挟んだバーガーを食べている白ジャケットを銀髪褐色の男──ザップ・レンフロにも一応労いの言葉をかけた。

 

「あとついでにそこの銀色の人型のなにかさんもお疲れ様でした」

 

「ついでとはなんだこの赤パンダ!!」

 

「そのふざけた呼び方やめてくれませんかカテゴリ人間の恥」

 

「髪がパンダの身体の色みたいに黒と白になったり目が赤くなってんだからてめえは赤パンダなんだよバーカ」

 

「うわあ、バカにバカ言われた上にあだ名の由来もなんかむかつく」

 

「ちょっとそこのSS、いい加減あたしの彼氏をそんなふざけたあだ名で呼ぶのやめてくれない?」

 

 

 呆れた目をした夕夜と抱き着いていたチェインがゴミ見るような目をザップへと向けながら負の感情が籠った発言をぶつける。

 

 

「てめえら揃いも揃って俺に喧嘩売りやがって!! 文句でもあんのかぁこの動物夫婦!! そのカラチェンする髪とデカ乳毟り取ってやろうかアアン? ──どわぁ!?」

 

 

 侮辱とセクハラ発言をしたザップに二つの拳が飛んだが、間一髪の所で回避した。当たっていたら顔面が言葉にならないほど歪められた筈なのにと残念がりこういう時の勘は良いのが本当にムカつくなーと夕夜とチェインは同時に思った。

 

 

「なにすんだてめえら!?」

 

「世界の歪みの修正」

 

「存在していること自体が罪な糞猿を裁こうと」

 

「よーし、俺怒っていいよな、怒っていいよな……目の前のクソリア充動物カップル叩き潰していいよな!?」

 

「落ち着きたまえザップ。夕夜君とチェインもそこまでにしたまえ。今回ザップがレオナルド君と一緒に行動して邪神と戦ってくれなければ今回の一件は解決できなかった。ここは今日の彼の功績に免じて許してあげたまえ」

 

 

 乱闘しかけた3人の間に割って入り仲裁したクラウスに免じて夕夜とチェインはすごすごと引き下がる。

 

 

「……わかりました。今日の所はこれまでにしておきます」

 

「あなたみたいなのでもこうして助け船してくれるんですから、これを機に常日頃クラウスさん襲うの控えた方がいいと思いますよ」

 

「うるせえ! それとこれとは別だ! 旦那を襲うのは俺にとっては欠かせない習慣なんだよ!! やめる訳ねえだろうが!!」

 

「最低の習慣を堂々と胸張って言うとかホントあり得ないわー」

 

「諦めなさい夕夜。そのクソモンキーが何言っても手遅れなんて今に始まったことじゃないでしょ」

 

「てめえら息吐くように俺を蔑まなきゃ気が済まねえのかよ、あぁ!?」

 

 

 収束したかと思いきや、再び3人の間に険悪な空気が漂い始めていた。クラウスは無事止められたかと思ってホッとした途端にまた不毛な争いが勃発しかけてしまっている光景を見てしまい、一体どうすれば止めれるのか胃に穴が開きそうな位にキリキリさせながら表情をこわばらせ、頭の中で必死に考えを巡らせていたその時だった。

 

 

「クラウスさん、どうかしたんですか?」

 

 

 暗闇の中に一筋の光が差し込むかのように、破壊されたお店の手伝いをしていたレオが声をかけてきた。

 

 

「レオナルド君、店の手伝いはもういいのかね?」

 

「はい、後はこっちでやっておくからって言われていしまいまして……あのーあちらが何か不穏な空気が流れてるんですけど大丈夫なんですか? てゆうかチェインさんが抱き着いてる人誰ですか?」

 

「そうか君はまだ彼とは会っていなかった紹介しよう。夕夜君、こちらにきたまえ」

 

 

 嫌な空気を流している3人に指を指しているレオに、夕夜を紹介しようとこちらに呼び寄せた。

 クラウスに呼ばれた夕夜はザップを視界から外し、チェインを椅子に座るよう促してから2人の元へ向かった。抱き着いていた恋人が離れた原因の新入りに鋭い視線を向けながらチェインは再びテーブルに突っ伏した。自分から視線を外した2人に何かを言いかけたがバーガーに挟まっているナニカが再び動き出したことによりそれと格闘に入り結果的にレオの登場により不穏な空気は払拭されてクラウスの胃とメンタルの危機は消え去った。

 

 

「彼が今回の事件解決に貢献してくれた我々の新しい同士、レオナルド君だ」

 

「どーも、僕はレオ、レオナルド・ウォッチ。色々あって今日からライブラに入ることになりました」

 

「こちらこそどーも初めまして、神薙夕夜だ。年は今年で18になる。ようこそ、このくそったれな街とライブラへ」

 

「えっ嘘!? 年下なの君!?」

 

「あ、年上だったんですか!? すいません、同い年かなと思ってちょっと砕けた感じで話しちゃって」

 

 

 お互いなんとなく同じ歳だと思っていたため一つ違いだった事に驚いた。

 

 

「(一つ違いとはいえまだハイスクール通ってるくらいの年でこの街に、しかもライブラ所属なのか……)大丈夫、気にしないで。僕は今年で19だから一つ上だね、よろしく夕夜君」

 

「改めて、こちらこそよろしくお願いします。…………」

 

 

 一通り簡単な挨拶を済ませた後、夕夜は観察するかのように無言でレオを(主に彼の両目を)ジッと見始めた。視線に気づいたレオは少しビビッて後退りながら夕夜に質問する。

 

 

「えっと、急に僕の事そんなにジロジロ見てどうしたの?」

 

「え、ああすいません。見たところ一般人にしか見えなかったんでなんでこの物騒な街に来たのかなーとか、どうやって邪神騒ぎ解決に貢献したのかなって思いまして。さっきチェインとの通話で目がどうのこうのって言ってたんですが、その両目に何かあるんですか?」

 

「ああ、僕の眼は……色々と見えすぎちゃうんだ」

 

 

 そう言いながらレオは糸目だった両目を開くと、そこには幾何学模様がされている蒼く輝く眼があった。

 

 

「その眼……」

 

「これのおかげで邪神を捉えることが出来たんだ。神々の義眼って言ってさ、これを押し付けてきた奴と僕の不甲斐なさの所為で、妹が視力を失ったんだ……」

 

「え……」

 

『兄様』

 

 

 妹と聞いた瞬間、あの日が来る前の彼女の笑顔と自分を呼ぶ声が脳裏に掠めたのと同時に、辛い事を言わせてしまったような気がして申し訳なく思った夕夜はレオに謝罪した。

 

 

「この街なら、妹の視力を治せるんじゃないかなって思ってさ……」

 

「すいません……嫌な事、言わせちゃって……」

 

「ううん、気にしないで。まだ来て間もないけど、ここでなら妹の眼を治せる手掛かりかもって思ってるからさ」

 

 

 そんな笑いながら話す彼がどこか無理しているように夕夜には見えた。そんな妹の為にここに来たレオを出来る限り手助けしたいと思った。

 

 

「俺にできることがあるなら手を貸します! 絶対に妹さんの眼を治せる方法見つけましょうレオ先輩!!」

 

 

 夕夜は後にこう語った。妹に何にもしてやれず■■■にしてしまった自分とは違い、目の前で妹を救えなかった悲しみと苦しみを抱えながらもここに訪れたレオの強さに尊敬したのがキッカケで先輩と呼ぶようになったと。

 そして、自分のように妹を失う悲しみを味合わせたくない思いから彼を全力で助けたいと望んだのだと。

 

 

 

 ハロー、ミシェーラ

 

 元気ですか? 

 

 けっこう大変な事件に巻き込まれたけど、兄ちゃんは元気です。

 

 突然ですが僕に後輩が出来ました。

 

 僕の一つ下で、この街では希少なまともで優しくていい子です

 

 そんな彼をこの目で見た時、一瞬妙なものが映りました

 

 本来1つしか見えないはずのオーラがその子からもう2つ見えたんだ

 

 1つは、彼を今でも喰らいそうな怪しげな黒紫のオーラ

 

 もう1つは、そのオーラと彼を纏めて優しく包みこむ蒼いオーラ

 

 蒼いオーラを見た時、ミシェーラ、なぜか君の事が頭に浮かんだ

 

 だからかな、僕がこの街に来た目的を自分から直ぐに打ち明けたのは

 

 




日曜に投稿予定だったんですが、メンタル面にちょい色々来たのと執筆難航のため本日投稿しました……申し訳ない。リアルも少しずつ忙しくなってきたので今後は週一、または週二に一回投稿になるかもしれません。まだ出ていない他のライブラメンバーと夕夜君との絡みはめちゃ書きたいのでこれからも是非本作を読み続けてくれると嬉しいです。
今回でレオ君ライブラ加入編が終わったので本格的に本編を交わせていきます。
では次回もまたよろしくお願いします

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