コルルを連れて店を出ると、オレは早速"ある場所"を目指して歩き出した。
「え、あの……ゼオン、どこに行くの?」
「いいから、黙ってついてこい」
「う、うん……」
さっきまでは堂々としていたコルルだが、オレと二人きりになった途端少しずつ怖くなってきたらしい。チラチラとオレの様子をうかがいながらついてくる。
「そういえば……ガッシュが言ってたんだけど、ゼオンってすごく強いんだよね?」
「……まあ、否定はしないが。それがどうした?」
「うーん、どうやってそんなに強くなったのか知りたくて。私は戦いとか嫌いだけど、ゼオンも別に好きで戦ってるわけじゃないでしょ? どうしたらゼオンみたいに強くなれるかなって……」
「……」
我ながら大人気ないとは思ったが、思わず口をついて出てきた言葉を止める術はなかった。
「戦いが嫌い? 好きで戦ってるわけじゃない? ……その言葉をオレの前でもう一度吐いてみろ、一瞬でお前を灰にするぞ」
「……! ご、ごめん……」
だが、コルルの言葉に腹が立ったのも事実だ。
……オレだって、出来ることなら普通の家に生まれて、普通に育ちたかった。ただ環境が悪かっただけだ。
戦いが好きではなくとも、やらなければならない状況だっただけだ。
この――やさしい王様などを望んだコイツには、オレの苦労は一生分からないのだろう。
「……」
「……」
その時から、オレ達の間に会話はなくなった。
ただオレが目指す場所に進み、コルルがついてくるだけ。
そして――
「着いたぞ」
「……え、こ、ココ!?」
オレがやってきたのは、魔界でも有名なファッションデザイナーの経営するファッションショップだった。
老若男女に人気があるらしく、ガッシュの通う学校でもココで服を仕立ててもらう奴は多くいるとかなんとか。
「ぜ、ゼオン……ゼオンがココに何をしに……!?」
「いいから。黙ってついてこい」
「ウ、ウン……」
心做しかコルルが青ざめているように見える。まあ、こんな店はオレとは一生縁がないだろうからな。
店のドアを押し開けると、店内にいた客達が一斉にこちらを見て、同時に表情を強ばらせた。
「――あ、ああ! 俺、用事思い出したわ!」
「わっやばっ、約束の時間過ぎてる! 行かなきゃ!」
客達はそれぞれ好き勝手なことを呟きながらオレ達の真横を通り過ぎ、ウマも真っ青なスピードで店から出て行った。
ココに来るのは数回目だが、毎度毎度この反応だと流石のオレも傷つくぞ……。
はぁ~と思わず零したため息に、背後から店内の様子を伺っていたコルルがクスリと笑う。
「……何がおかしい?」
「……ううん。ゼオンがこんなに怖がられてるのがおかしくって」
「お前は怖くないのか?」
「怖いというよりは……いや、なんでもないっ♪」
「はぁ……?」
気にはなるが、……気にしている場合でないのも事実だ。
オレはそれ以上の追及を諦め、カウンターへと向かうと店員に話しかけた。
「何か御用でしょうか?」
「この店のロイガーにこう伝えてくれ。"雷帝が現れた"と」
「……ああ、そちらの御用ですね。かしこまりました」
店員は一礼し、カウンターの奥に引っ込んだ。すると代わりに、いい体格の中年の男――ロイガーが姿を現す。
「ゼオン様じゃないですか。"雷帝が現れた"ということは……」
「ああ。ちょっと用があってな」
オレがそう言うと、ロイガーは全てを悟ったらしく、カウンター横の壁に取り付けられた姿見を、ドアのように開いて見せた。
「えっ!?」
「……お嬢ちゃん、ゼオン様のお連れかい? 珍しいね、ゼオン様が誰かを連れてココに来るなんて。きっと、よっぽどお嬢ちゃんを守りたいんだろうねえ」
「……?」
「おい、無駄口叩いてんじゃねえ! さっさとついてこい、お前がいないと分からんだろうが」
「はいはい」
ロイガーは姿見の向こうの空間にオレ達を招き入れると、再び姿見を閉じて向こうとの繋がりを完全にシャットアウトした。
「えっ……あ、あの、ゼオン……ここはなんなの?」
「この店は表向きは普通のファッション店だが、本業は別にある。……特殊な魔材を使用した戦闘用衣服の製作・販売だ。オレが着ているこのマントは父上が特別に作ってくださったものだが、製造法などはこの店の商品を元にしていると聞いた」
「その通りだよ、お嬢ちゃん」
突然話に入ってきたのはロイガーだ。
「あっちとこっちは別のお店だと思って貰って構わない。あっちのお店とこっちのお店で同じものを販売することは絶対にないよ。あっちのお店もこっちのお店も一定数の顧客がいるから、どちらかを潰すこともできないし、お店を合わせることもできないんだ」
「でも、なんで急にココに……?」
「ストーカーを倒すんだろう? それなら当然、ストーカーはお前を狙うわけだから、オレがストーカーを潰す時もお前は少なからず至近距離にいることになる。その時にオレの術が掠りでもして致命傷になったらどうするんだ」
つまり、オレが遠慮なく戦う為の下準備でもある。まあ、オレが全力で相手しなければならないような魔物など、魔界に数体いるかいないかだがな。
「さあゼオン様、製造室は奥です。行きましょう」
「ああ」
ロイガーの背中についていくと、やがて広い部屋に辿り着いた。
いくら戦闘用とはいえ、衣服を販売している店とは思えないメカニックなデザインの部屋だ。
壁も床も灰色で、緑色やら赤色やら様々なコードが張り巡らされている。また、電極のついた怪しげな椅子が置いてあったり、豆電球が転がっていたりもした。
「相変わらず汚いな」
「違います、俺は掃除しましたよ、ゼオン様。多分、ついさっき来た二人組の魔物に荒らされたのだと……」
「魔物だと?」
珍しいな、オレが来る時はいつも誰もいなかったのに――と思いながら部屋の奥を見ると、
「ハーッハッハッハッ!! キースよ、貴様中々私の話が分かるではないかァ!!」
「ハッハッハ!! なら一曲踊るか!?」
「そうだな、それではベリーメロン――」
「ザケル!」
何となくアホそうで邪魔な魔物が暴れていたのでザケルで一掃すると、「オギャーーーーーン!」とか「ブルアァァァァ!」とか言いながら吹っ飛んでくれた。
「ゼオン……」
「ゼオン様……」
「よし、まずは使う素材から決めるぞ。何か使いたいものは?」
二人の視線を受け流してそう問うと、コルルはうーんと言って首を傾げた。
「素材とかそういうのよく分からないんだけど……ゼオンの術が当たっても平気なようにしたいなら、電気に強い素材を使えばいいんじゃない?」
「それもそうだな……ならアラル魔鉱石を使うか。あれは電気にしか耐性をもたないが、安いし量産できる」
「なら、他の素材と組み合わせて調整しますよ。ベースはアラル魔鉱石で――」
「きっ、きさ、貴様!! ガッシュか!? いや、違う!! ガッシュに似ているが……ザケルを遠慮なく撃つところといい、その威力といい、全く違ぁぁぁぁぁう!! 貴様ァ、一体何者だっ……!」
「そうだ!! 何より、ガッシュは私のVの体勢&ベリーメロンを邪魔することなど……!」
ほう、威力を弱めたとはいえオレのザケルであれだけピンピンしているとは……と考えつつも決して返事はしない。
訳の分からないV字の魔物とそれに似た三日月頭のチビは無視して、オレ達はさっさとコルルの"対オレの雷"用の服の構成を決めた。
「……よし、これなら今すぐ作れますよ! 十分ほど待っていてくださいね」
「頼んだぞ」
「わあ、楽しみ~!」
ロイガーが消え、部屋にはオレとコルル、アホ二人だけになった。
……当然、アホ二人は突っかかってくる。
「貴様ァ、返事をしろぉぉぉぉぉぉ!!」
「私のメロンを侮辱した罪は重いぞ……!」
「黙ってろ。灰になりたいのか?」
「「スイマセンデシタ……」」
しかし、オレが軽く魔力を解き放つと、身体を縮こまらせて何も言わなくなった。そのまま黙っていろ。
「ところで、ストーカーの大体の外見は?」
「えっと、全員黒のスーツ姿で、色は違うけど星柄のネクタイを締めてた……」
知らないな……全員がそんな格好をするということは、何か特別なチームでも組まれているのだろうか?
オレが考えようとしたその時、口を開いたのはまさかの馬鹿だった。
「黒のスーツ……星型のネクタイ……おい、それはもしや、私が憎む"クロススター"じゃないのか?」
口を開いた魔物――Vの形をしたそいつは、そう言ってキラリと目に不穏な光を宿した。
メロンさんといも天さんが登場です(。ᵕᴗᵕ。)