金色のガッシュ!! ~ゼオンの奮闘~   作:友希那

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第4話 ~ゼオンの休日~

 久々の祝日だった。

 ……と言っても、祝日だろうがなんだろうが王宮に籠っているオレには関係ないのだろうが、最近――ガッシュの学校に潜入するようになって疲れが溜まっていたので、学校に行かなくていいと言うのはかなりのストレス軽減剤だった。

 

 朝珍しく早く目が覚めたので、布団でうだうだすることなく真っ直ぐ大広間に向かうと、なんということかガッシュがソファに座っていた。

 

 「ゼオン、おはようなのだ!」

 「ガッシュ……起きるの早くないか? いつもはもっと――」

 「ヌ、そういえばそうだの。今日は何だか早く目が覚めてしまったのだ。まあ良いことだから大丈夫なのだ!」

 

 言っていることは正論だが、オレとしてはいつも「あと少し! あと少し寝かせてほしいのだ!!」と駄々をこねてくるガッシュがオレの助け無しに、しかもオレより早く起きているということは明らかに異質で不気味ですらあった。

 ……まあいいか。確かに早起きしても悪いことはないし。

 

 どうにもモヤがかかったようにボヤける思考を早起きのせいにした時、

 

 「はーい、朝食ですよ、王様! ゼオン様!」

 

 食事係がいつも通り朝食を運んできた。今日はガッシュのリクエストで「清麿の家のご飯」が再現されている。見た目こそ見事な日本食だが、味はどうか分からない。

 

 「いただきますなのだー」

 「……いただきます」

 

 昔はオレもこんなことはしていなかったが、魔界に帰ってきてからはガッシュにつられて食事をとる前に手を合わせる習慣がついてしまっていた。……まあ、これも良い変化なのだろう。

 

 ガッシュは「美味しいけど、何かが違うのだ……」と首をひねっていたが、オレにはそんなことは分からない。分かったのは、ただ美味いということだけだった。

 

                   ☆

 

 今日は珍しく王の仕事をしなくてもいいとアースに言われたらしく、ガッシュは元気良く「ティオ達と遊んでくるのだ!」と言って王宮を出て行った。勿論、その数十分前にはオレも誘われているのだが、当然の如く却下した。……気まずすぎる、無理だ。

 

 ――……あんたが悪いヤツなら、私は――私達は、あの時殺されてるわ。

 

 脳裏にふと蘇ったのは、昨日のティオの言葉だ。

 そういえばアイツは、ガキらしい陳腐なボキャブラリーで何とかオレを罵倒しようとして、失敗していた。なのに――その一言にだけ、オレの心に何かが刺さったような気がしたのだ。

 

 ……分からない。

 今更仲直りなんて、

 

 自分の中の妙なプライドが邪魔だ。いっそただの魔物の子になれたなら、たった一言の謝罪の言葉ぐらい言えたのかもしれないが。

 

 「――ガッシュちゃーん、遊びに来たわよー!」

 

 真面目な考え事をしている時にふざけた声が響き渡ったので激怒しそうになったが、大広間のドアを開け放って飛び込んできたその人物にオレは思わず目を丸くしてしまった。

 

 「……って、あれ? 貴方は……ガッシュちゃんのお兄様の……ゼオン様?」

 「お前は……」

 

 名前が出てこない。コイツは、ガッシュが特に親しくしている魔物の中で、唯一オレと接点のない女だ。水色のショートヘアと、アーモンド形の大きな瞳をもつ――コイツの名前は何だったか。

 

 「あ、私、パティです♡ よろしくお願いします、ゼオン様!」

 「様はつけるな。ゼオンでいい」

 「え、でも……」

 「ゼオンと呼べ。命令だ」

 

 埒が明かなさそうだったので命令口調で言い放つと、流石のガッシュ大好きパティもムッとした顔で口を噤む。

 というか、コイツはなんでここにいるんだ。ガッシュと遊ぶ予定があるんじゃないのか?

 

 そう問うと、パティはキョトンとした表情で首を傾げて、

 

 「え? 今日は確か王宮に集合って……」

 「勘違いじゃないのか。ガッシュは今朝、学校の前に集合とか言いながら出て行ったぞ」

 「……」

 

 パティは無言で崩れ落ち、床に膝を着いた。

 

 「な……なんてこと……私とした事が……まさか、ガッシュちゃんの言葉を……聞き間違える……な、んて……」

 「――はあ。お前が良ければだが、オレが瞬間移動で連れて行ってもいいぞ」

 「……いえ、いいんです。寧ろ好都合」

 「はぁ?」

 「だって――滅多に会えない、ガッシュちゃんのお兄様との時間ですもの……♡」

 

 どこか悪巧みでもしているようなその笑みに、オレは思わず表情がひきつるのを感じて後ずさりする――

 

 

 

 「――きゃーっ、王宮でのガッシュちゃんも可愛いんですのねぇ!! ああいいわあ、私も王宮に住みたい!」

 

 と、オレのする『王宮でのガッシュ』の話に興奮して鼻息を荒らげたのは、ついさっきまで大広間で話していたがこのままだと他の魔物に迷惑になると思ってオレの部屋に連れてこなければならない程の大声をもつ女・パティだ。

 こんなことを言うのはアレだが――正直、好意がここまで来ると怖い。こいつは恐らく、ガッシュが自分に振り向かないと分かると鬼と化すタイプだろう。

 

 「それでそれで、他にガッシュちゃんの武勇伝はっ?」

 「武勇伝というか、日常だろ……それに、オレばかり話していては喉が疲れる。お前も話せ」

 「……私、も?」

 「当たり前だ、オレばかり話していては割に合わん。例えば――なぜガッシュと仲がいいのか、だ。ガッシュはお前と会った時点ではまだ魔界の頃の記憶を取り戻していなかったハズ」

 

 そのせいで二人の話が食い違い、パティが激昂する光景が脳裏に浮かんでくるようだった。……まあそれもオレのせいなので、あまり軽く話せるものではないが。

 パティはオレの問いに、あからさまに表情を曇らせて――苦々しげに吐き捨てた。

 

 「そうよ。あの時の私は、ガッシュちゃんが私のことを忘れたって勘違いしてて。ガッシュちゃんを消す為に色々動いてたのよ」

 

 どこか自虐的な意味を孕んだその言葉に、いつかの自分の姿が重なる。……イヤ、"まだ"オレはこんな感じなのかもしれない。

 

 「ゼオン、千年前の魔物の騒動、知ってるでしょ?」

 「ああ。オレは遭遇しなかったがな」

 

 恐らくオレの魔力を恐れて近づいてこなかったのだろう。オレもわざわざ雑魚と戦って体力を消耗したくなかったので、アイツらとは戦っていない覚えがある。

 

 「私はね……千年前の魔物を操って王になろうと企んでた魔物、ゾフィスの一味に取り込まれて……その内、私自身も進んで千年前の魔物を引き連れて現代の魔物を倒すようになっていたのよ。しかもその時は、勘違いでガッシュちゃんのことが凄く憎らしかったから、尚更荒んでたわ」

 「……」

 

 その話にどこかデジャヴを感じた。

 

 「でも、ガッシュちゃん達と戦っている内に、気がついたのよ。ある千年前の魔物が、発作みたいものを起こして……私はすぐに戦うように命じたの。それを見てガッシュちゃんが、こう言ったのよ――今でも覚えてる」

 

 切なげに両手を胸の前で組んだパティは、一言一句を噛み締めるように、ガッシュのその『言葉』を呟いてみせる。

 

 「『――お主、まだ自分のやってることがわからぬか!!? お主達がレイラ達にやってることが、どれだけ酷いことかを!!!』って。その時に、思ったの。やっぱり私、間違ってたんだってね……」

 「……そうか」

 

 お前も……ガッシュに、救われたんだな。

 そして、今は改心して仲直り、か……。

 

 「……オレも、それ程素直になれたら良かったのかもしれんな……」

 

 「ゼオンは……ティオから聞いたわ。神の試練の時、ファウードっていう化け物の中で――ガッシュちゃんと大喧嘩したんだって」

 「……」

 

 大喧嘩。そんな生易しいものならどれほど良かったか。

 その単語を聞いた瞬間、オレの脳裏にあの時の光景が瞬時に蘇る。

 

 ……喧嘩では、済まされないことをした。

 

 日本を壊す光景を見せつけるために、一人一人痛めつけて柱に閉じ込めて。

 ガッシュには、普通なら精神が壊れてもおかしくないような罵詈雑言の嵐をぶつけてしまった。

 ――自身の持つ、激しい憎しみの感情と共に。

 

 「――ゼオン。自分が許せない時って、大抵周りは許してるのよ」

 「それは……」

 「あ、時間だわ♡ じゃあね、ガッシュちゃんのお兄様!」

 

 そう言い残して、パティは軽い足取りで王宮を後にした。

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