それからオレ達はかなりの時間を海で過ごし、気がつくと日が落ちかけていた。
「わあ、僕達こんな時間まで遊んでたんだね……」
「メル……」
「それにしても、楽しかったわね! また来ましょ、ガッシュちゃん!」
「ウヌ、楽しかったのだ!」
口々に感想を言い合い、微笑み合って。
――楽しかった。
こんな時間は、オレとは一生無縁な物だと思っていたから尚更だ。
「あっ、ゼオンが笑ってる♡」
「なっ……!?」
わ、笑っ……オレが!?
どうやらオレは、自分でも気づかないレベルの自然さで笑っていたらしい。それを指摘したパティはニンマリという効果音が最適な笑みを浮かべて、
「ゼオンが笑ってるところ、あんまり見た事なかったから新鮮! ガッシュちゃんとはまた違った美しさがあるわね」
「ば、バカにするなっ! 誰が笑って……」
「笑ってた笑ってた。私も見たわよ、ゼオン」
「お前まで……ッ」
遂にはティオまでが話に入り、続いてキャンチョメ、ガッシュも話に入ってくる。
「ゼオンはあんまり笑わないからかな、ゼオンが笑ってる所を見たら自然と僕まで笑顔になっちゃうんだ。分かるかい?」
「メル! メルメルメ~!」
「そうなのだ! ゼオンは、凄く優しい笑い方をするのだ……」
「ガッシュ、キャンチョメ、お前らまで……。ウマゴン……は、何を言っているのか理解出来ん」
「メルメルメ~!!」
「ヌアアア、ゼオンを噛むでないウマゴンッ!」
「オレを噛むとは、上等だなクソウマ……!」
「ヒイイイ、喧嘩はやめてよー!」
笑いあって、ふざけ合って――そんな初めての遊びは、たった今、幕を閉じた。
――かに、思えたのだが。
「……あれ? ねえみんな、アレ、何か分かる?」
「「え?」」
「メル?」
不意にティオが声を上げ、海を指さした。
釣られてオレ達も海を見ると、
「な……」
――海が、渦を巻いていた。
竜巻のように綺麗な渦が、海水面全体に広がっていたのだ。
「なんなのだ、あれは……ゼオン、あれが何か分からぬか?」
「さあな……オレにもよく分からんが……」
「――何か、不吉な感じがする。でしょ? ゼオン」
パティはオレの言葉を先取りし、オレに向かって微笑みかけた後、再度海に目をやった。
「私……お父様から、聞いた事があるの。この海のウワサ」
「ウワサですって?」
「そうよ。私の一族は水の術を使うから、水に関する伝説とかそういうのには詳しいのよね。でもって、この海に伝わる伝説があって――」
――ザパアァァァァン!
段々と荒さを増してきた波が岩にぶつかり、衝撃音を響かせた。
「この海の底にはね、すんごいお宝がある遺跡があるらしいのよ」
「い、遺跡……? で、でもそんな話、僕聞いたことない……」
「そりゃそうよ、あるかどうか分からない、幻の遺跡らしいから。で、その遺跡はね……」
ザパアァァァァン、もう一度波が岩にぶつかったかと思うと、大きく引いた。
……嫌な予感が脳裏を掠めた直後、パティは冷や汗を垂らしながらも満面の笑みを浮かべ、
「巨大な渦と共に現れるらしいのよ!」
ザパアァァァァン、今度の波は真っ直ぐオレ達目がけて突進してきた。
「「「それを早く言ええぇぇぇ!!」」」
その異様に巨大な波は、そんなオレ達の身体を悲鳴ごと飲み込んで、
――そこで意識が途切れる。
☆
「ん……」
目が覚めると、ぼんやりとした岩の色が視界を満たし――その光景の異様さに、遂に意識が覚醒した。
「こ、ココは……」
そうだ、オレはさっきまで海で遊んでいて……海が渦を巻いて、大きな波に飲み込まれて……そうだ、ガッシュ達は!?
バッと身体を起こして辺りを見回すと、さっきまでオレが遊んでいたメンバー全員がちゃんと横たわっていた。位置などはバラバラであるものの、全員がいたという事実に安堵する自分がいる。
しかし――これは一体どういうことだ?
辺り一面、ゴツゴツした岩だった。正確に言うと、謎の模様が描かれた岩壁に、かなり高い天井。床も、謎の模様が描かれていたり、規則正しく色が変わっていたり……この場に最適な言葉があるとすれば『遺跡』だろうと何となく思った。
遺跡……遺跡だと?
その単語で思い当たったことがひとつ。
そういえば、波に飲み込まれる前……パティが、『この海には幻の遺跡がある』とか言っていたような気がする。
もしかして、ココがその……?
「んん……アレ、ここはどこ……?」
オレの閃きを遮ったのは、ティオの眠たげな覚醒の第一声だった。
くそ、何もこんなタイミングで起きなくても、と内心で舌打ちをすると、それに追い討ちをかけるように次々と魔物達が目を覚ます。
「あら……ここってもしかして、遺跡!? やったわー! これでお母様たちにも自慢出来る……!」
「メル……メル!? メルメル~!?!?」
「う……ヒイイイ、こ、ここどこだよ~! 助けて、フォルゴレ~!」
「ウヌゥ、ここは一体なんなのだ……ゼオン、何か知っておらぬか?」
「……はあ。オレも今目覚めたばかりだ。分かっていることは、ココが恐らくパティがさっき言っていた『幻の遺跡』かもしれんということくらいだ」
改めて辺りを見回してみると、やはり雰囲気的にも遺跡っぽい。『っぽい』で物事を決めるのはオレとしては非常に避けたいのだが、今回は特殊だ。何より情報が少なすぎる……。
その時、オレの視界に、遺跡の奥へと続く道が目に入った。
「……おい、お前ら。目覚めたばかりで悪いが、少し歩けるか?」
「? いいけど……どうしたんだい、急にそんなこと訊いて」
首を傾げるキャンチョメに、他の魔物達もそれと似たような反応を見せる。
「イヤ、そこに、奥に続く道が見えた。奥に進めば、この遺跡から出る方法も分かるかもしれないんだが……」
「当たり前だよ!」
「!」
キャンチョメが突然大きな声をあげた。
「こ、こんな所早く出ないと……だって、この遺跡、海底にあるんだろ? なら、海の水がここに入ってきたら、僕達おしまいだよ!! 早く出なきゃ……!」
「「「……(そんなことあるわけないだろ……)」」」
海底遺跡なのに、なんで海水が入ってくるんだよ。大体、そんな脆い遺跡なら、水圧に耐えられてないだろ。
キャンチョメの馬鹿さ加減に、一瞬一同が静まり返った。しかし、直ぐにガッシュが声をあげる。
「ま、まあ、キャンチョメの言うことはともかくとして、一刻も早くここから出ねば、皆の者が心配するであろう。というわけで、皆で一緒に奥に進もうぞ!」
「「おー!!」」
……なんて張り切ったものの、そこから暫くは退屈な道が続いた。
罠があるかと思いきや、そんなものはまるでなく、ただ分かれ道や曲がり角が続いているだけ。最初の内は「罠がなくてよかったわ!」などと安心していたものの、こうも何も無い道を歩き続けていると体力以前に精神的に疲れてくる。
「も……もう駄目……」
最初に音をあげたのは、この中では戦闘力的にも体力的にも精神力的にも最も劣るであろうパティだった。
パティは弱々しい声を発した後、崩れ落ちるようにしてその場に座り込む。
「パティ! 無理は良くないのだ。私がおぶるから、頑張って私に掴まっておくのだ」
「……! ありがとうガッシュちゃん!」
しかし、ガッシュのその提案を聞いた瞬間、暗く沈んでいた瞳が輝きを取り戻し、それどころか飛び跳ねるようにしてガッシュの背に飛びついた。この女、下心が丸出しすぎていっそ清々しいくらいである。
「ガッシュ、大丈夫か? その女、重いんじゃないのか?」
「怨怒霊~!! 誰が重いですって~!?!?」
「大丈夫なのだ。私も、ゼオンと戦った時より随分力がついたのだぞ!」
ガッシュは自分の背中にいるもののけ女に気づいていないようで、ニッコリ笑ってそう言った。そういえば、どうしてガッシュの周りにはこんな女しかいないのだろう。……運かもしれないな。
オレがほんの少し……否、かなりガッシュに同情したその時、遂に退屈なただの道が終わりを迎えた。
「メル! メルメルメル!」
「見て、道を抜けたわ!」
ウマゴンが歓喜の声をあげ、ティオがはしゃいだその光景は――
「大広間……?」
そこは、大広間だった。
しかも、ただの大広間ではない。崩れた柱や机らしきもの、椅子らしきものまであった。そして、奥には幾つもの道が伸びている。
「……全部で十二……この中から正しい道を選ぶのは面倒だな……」
「そうだのう……私の鼻でどうにかできないかのう……」
言いながら、ガッシュは石でできた古い椅子にパティを座らせた。
「それか、魔力を探ってみるのはどうだい?」
「ええ、こんな所に魔力を発するモノなんてあるの? ここ、見たところ私達以外誰もいないわよ?」
「奥の部屋にいるかもしれないわよ、ティオ。じゃあ、念の為魔力を探ってみようかしらね……」
口々に自分なりの改善策を言い合ってワイワイと騒ぐ魔物達。
魔力を探る、か……それもいいかもしれんな……。
「……ん?」
と、思わず声をあげてしまったのには理由がある。十二に分かれている道の内のひとつから、足音らしきものが迫ってきているのをオレの耳がキャッチしたのだ。
「……ヌ?」
「メル?」
どうやら、他の魔物よりも身体器官の性能が良いガッシュとウマゴンもその音を感知したらしく、音のする道――左から六番目の道に顔を向ける。すると、
「――やっ、やだやだやだぁぁぁ!! 誰かっ、誰か助けて――!!」
「ヘッ、逃げてもおせぇんだよ女ァ!! 第一、こんな所に魔物がいるわけねーんだっつーの!」
「最初は何からいくか!? 胸か!? 尻か!? 脚か!? 恨むなら自分の性別とカラダを恨みな!」
「いやぁぁぁぁぁァっ!!」
まず、悲鳴と共に大広間に飛び込んできたのは、桃色の髪をツインテールにして、パステルカラーのヒラヒラした衣装を着ている女だった。続いて、緑色の髪を逆立てた長身の男と、スキンヘッドの小太りの男が駆け込んできて、必死に走っている女を背後から押し倒した。
「「なっ……」」
突然の光景に、流石のオレも頭が真っ白になった。
「お? 何だこのガキども? ……まあいい、まぐれでここに入れただけだろう。観念しろよ、お前は大人しくやられてりゃいいんだ!!」
「やっ、ちょ……!」
長身の男はオレ達を一瞥したが、無害だと判断したらしい。まるでオレ達が存在していないかのように、痴漢と同等かそれ以上の卑劣な凌辱を女に強い始める。
「あっ、や、やめてええぇぇ!!」
「もうおせえんだよぉ!!」
あまりにも過激な行動に、オレは思わず目を逸らしたくなった。
そんなオレの背後では、
「ちょ、ガッシュちゃんは見ちゃダメよ!」
「キャンチョメも、見ないでっ! ……ウマゴンはまぁ、いいか」
「メル?」
パティがガッシュの両目を手で多い、ティオがキャンチョメの両目を手で覆う。そもそも種族が違うウマゴンは無視された。
……しかし、この状況を黙って見ていられるのならそれはある意味ですごいと思う。
そんなわけで、
「――おい、お前ら。このオレの前で堂々と弱い者イジメとは、面白いジョークだな。下手な芸人より笑えるぜ?」
男二人の背後に瞬間移動し、長身の背中を殴り、スキンヘッドには後頭部に蹴りを入れた。
「ぐおっ!」
「グハッ……!?」
一瞬で気絶する二人。
「ふえ……あ、貴方は……?」
衣装がはだけて露わになった肌を必死に両腕で覆いながら、ツインテールの女は視線をさまよわせた。
「……それより先にオレの質問に答えろ。お前は誰だ? なぜここにいる?」
「……私は、ミモザ。アイドルグループ『フローラ★エナジー』の、ボーカルをやってますっ。なんでここにいるかっていうと……」
女――ミモザは、一瞬オレ達全員を眺めた後、首を傾げて怪訝そうな顔をした。
「分からないの。私、さっきまでテレビに出てて……で、帰る途中、海に寄ったら、いつの間にか……」
どうやらミモザも知っていることはなさそうだ。
「あ、あの……でも、少しなら、分かることはあるから……お願い。私も、貴方達と一緒に行動させて!」
最近、感想をいただけることが増えて、非常に嬉しく思っております。
皆様も、もしご意見や疑問などがありましたら、是非感想欄からお伝えください。できる範囲での返信を必ず行いたいと思います。
これからもよろしくお願いします(*´︶`*)❤︎