英雄伝説 異能の軌跡Ⅱ   作:ボルトメン

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ようやく第一章が終わります。


訣別②

「失礼します」

 

「入りたまえ」

 

ユウナたち二代目Ⅶ組はセシルと共に特別病棟へと足を運んだ。

 

病室には気の強そうな女医とユーゲントⅢ世が待っていた。

 

「そなたらか」

 

ユーゲントⅢ世は微笑みを浮かべる。

 

「君たちが患者の言っていたトールズ第Ⅱ分校の生徒たちか」

 

「貴女は?」

 

「こちらは陛下の執刀医を務めるセイランド教授よ」

 

「セイランドだ、見知りおき願おう」

 

(あれ?セイランドって確か……)

 

(レミフェリアにある有名な医療機器メーカーですね)

 

「……面会なら15分までだ。それ以上は認めん」

 

セイランド教授は病室を出ていった。

 

「廊下で待ってるわ」

 

セシルも病室を出た。

 

 

 

「さて……」

 

ユーゲントⅢ世は二代目Ⅶ組の方を向く。

 

「改めて、よく来てくれた」

 

「陛下……」

 

「ご無事で何よりです」

 

「お元気そうですね」

 

「うむ。まだまだ本調子には程遠いがな」

 

ユーゲントⅢ世は次にミュゼを見る。

 

「ミルディーヌ公女もよく来てくれた。非公式ではあるが、カイエン公爵就任を祝わせてもらおう」

 

「もったいない御言葉……」

 

ミュゼは深々と頭を下げる。

 

「そして……」

 

「………………………」

 

アッシュは顔を伏せる。

 

「そなたも無事であったか」

 

「……なんでだ…………」

 

「?」

 

「俺は……あんたを……殺そうとしたんだぞ………」

 

「それはそなたの意志ではない。古来よりこの帝国を蝕む呪いのせいなのだ」

 

「それに俺は……あいつを………!」

 

「……キュービィーか………」

 

「あ………」

 

「キリコ………」

 

「…………………」

 

ユウナは顔を上げる。

 

「どうか、教えてください。どうしてキリコ君が貴方を撃ったのかを」

 

「ユウナさん……」

 

「不躾ではありますが、僕からもお願いします」

 

「お願いします」

 

「頼む……教えてくれ……!」

 

アッシュも頭を下げる。

 

「……良かろう。心して聞くがよい」

 

 

 

ユーゲントⅢ世はあの夜の出来事を、キリコと呪いの根源たるものとの因縁を、そして呪いの強制力に動かされたアッシュの身代わりとして贄の役目を自ら引き受けたことを二代目Ⅶ組に語った。

 

 

 

「そして彼は余を撃ったことで贄としての役目を全うした。その後については断片的ながら聞いている。最期は悪足掻きの末に処刑されたそうだ……」

 

「そ……んな………!」

 

「バカな……!?」

 

「ありえません………!」

 

(キリコ……さん…………)

 

ユーゲントⅢ世から語られた衝撃的な内容に二代目Ⅶ組は茫然自失となった。

 

「なんだよ……そりゃあ………」

 

アッシュは拳を真っ赤になるまで握りしめる。

 

「そなたらの気持ちはよく分かる。余や宰相も初めて聞いた時には耳を疑った。だがこれらは事実だ。余が血を流したことで黒キ星杯が顕現し、黒の聖獣が討たれたが故に世界に黄昏が訪れた」

 

「全て黒の史書原本に記された通りにな」

 

「そんなんじゃねぇ!」

 

アッシュが吠える。

 

「予言だか何だか知らねえが、あんたに銃を向けたことは俺がやったことだ!なのに俺は……あの場にいたあいつに全部押しつけちまったってことじゃねぇか!」

 

「俺は……こんなにムカついたことはねぇ……!」

 

「アッシュさん……」

 

「……陛下………」

 

ミュゼが切り出した。

 

「キリコさんは……本当にご自分の意志で……?」

 

「うむ。汚れ役は己一人で良いと言ってな。全ては、そなたらを守るためにしたことだと思う」

 

「守る………」

 

「そうだ。それが……む………」

 

ユーゲントⅢ世の顔色が悪くなる。

 

「ッ!?陛下!?」

 

「そろそろ面会は終わりだ」

 

セイランド教授が病室に入って来た。

 

「もう時間ですか……」

 

「やむを得ない、出よう。アッシュ」

 

「……ああ」

 

二代目Ⅶ組はセシルに連れられ、特別病棟を出た。

 

 

 

一方、ミシュラム湿地帯

 

「ぐはっ!?」

 

「悪いな」

 

キリコは衛士隊員の一人を気絶させ、拘束した。

 

(ルーファス総督はまだ来ない。今のうちにやれることはやっておかなくてはな)

 

「どうやらそちらも片付いたようだな」

 

「テイタニアか」

 

奥から衛士隊の隊服を着たテイタニアが歩いて来た。

 

「作戦の邪魔が入らぬよう押さえておく。後はお前次第だ」

 

「…………………」

 

キリコはゆっくりと牙を研ぎ始めた。

 

 

 

「落ち着いたかしら?」

 

二代目Ⅶ組は医科大学に隣接する寮のセシルの部屋にいた。

 

「はい……ありがとうございます……」

 

「落ち着くまでここにいてもいいわ。悪いけれど、これから他の患者さんの所に行かなくちゃ行けないから……」

 

「いえ、お忙しい中ありがとうございます」

 

「……無理しないでね」

 

セシルは医科大学の方の方に向かった。

 

「呪いの根源たるものとの因縁、ですか」

 

「正直、頭の整理が追い付かないな……」

 

「もしかして、ミュゼは気づいてた?」

 

「いえ。そもそもキリコさんには異能の力を用いても視えないんです」

 

「視えないとは?」

 

「先日話したように私は物事の現在の局面、そこに至る過去と無数の未来の局面。さらにその背後に何者かの狙いがわかるという異能を持っています」

 

「内戦の結末もその異能で知っていたんでしたね」

 

「ホント、すさまじいわね」

 

「ですが、なぜかキリコさんに関してはまるで暗闇がかかったように何も視えないんです」

 

「……なあ」

 

今まで黙っていたアッシュが口を開く。

 

「お前の異能ってやつならよ、あの日どうなるか知ってたんだろ?」

 

「……はい。バルフレイム宮に入る前までは、アッシュさんが陛下を撃つことがわかっていました。ですが、バルフレイム宮での祝賀会を皮切りに盤面が大きく変わりました。何かによって歪められたように」

 

「キリコにそんな力が……?」

 

「分かりません……」

 

ミュゼは顔を伏せる。

 

「今となってはもはや確かめられませんか……」

 

「クソ……」

 

アッシュが爪を噛む。

 

「……みんな、そろそろ行こうよ」

 

「え?」

 

「確かに、あたしだってどう受け止めていいかわかんないよ。でも、あたしたち何のためにクロスベルまで来たの?」

 

「……そうだね」

 

「霊脈を静めるためにここまで来たんでしたね……」

 

「もういない人のことにばかり気を取られてもいられません。参りましょう……」

 

「……………………」

 

二代目Ⅶ組は無理やり気持ちを奮い立たせ、出発した。

 

 

 

「ここが霊場か……」

 

ミシュラム湿地帯に突如として精霊窟が出現。その調査のため、ルーファス総督は湿地帯にまで足を運んだ。

 

「この先にあるという金の騎神。その力を持って、"父"たるあの方を超えてみせよう」

 

【……………………】

 

「では行ってくる」

 

ルーファス総督は精霊窟に入って行った。

 

【ルーファス・アルバレア。どうやら一筋縄ではいかぬようだな。キリコと言えど、油断は禁物か】

 

魔煌機兵に乗ったテイタニアはルーファスの底知れぬ覇気に不安を抱いた。

 

 

 

「ここがMWLですか」

 

「思っていた以上に大きいんだな」

 

「つーか、普通に観光客とかいんだな」

 

「さすがにいつもよりは少ないけどね」

 

ユウナたち二代目Ⅶ組は聖ウルスラ医科大学からスタークが手配したボートで保養地ミシュラムに上陸していた。

 

「とりあえず、お父さんを探さなきゃね」

 

「確か、ユウナのお父さんはここに勤めているんだったか」

 

「うん。リゾート開発部門の課長よ。お父さんなら湿地帯に出る方法を知ってるはずだしね」

 

「とにかく、行ってみようぜ」

 

ユウナたちはMWLへと向かった。

 

その後、ユウナたちはMWL内を探し回り、最終的にみっしいステージ付近でユウナの父親であるマシュー・クロフォードを見つけ出した。

 

最初は渋っていたが、ユウナたちの言葉を聞いたマシューは持っていた鍵を渡した。

 

そしてユウナを抱きしめ、必ず帰ってくるように約束させた。

 

ユウナも涙ながらに約束し、クルトたちも決意を新たにした。

 

『いってきます!』

 

「気をつけてね」

 

マシューと別れ、二代目Ⅶ組は湿地帯に足を踏み入れた。

 

 

 

【いくつか手を加えろとは言ったが、ロッチナ……】

 

キリコは湿地帯に隠されていた青黒い機動兵器に乗っていた。

 

また、所々に魔煌機兵のパーツが加えられており、初見では魔煌機兵のような見た目になっていた。

 

【まあいい。後はあいつらが来るのを待つだけだ】

 

キリコは頭を切り換え、集中する。

 

【あいつらと戦う以上、もう並んで歩くことはないだろう】

 

【たとえ悪魔に魂を売ってでも、ワイズマンを殺す……!】

 

突如、青黒い機動兵器のセンサーに複数の反応が出る。

 

【来たか】

 

決戦は近い。

 

 

 

【止まれ】

 

『!?』

 

ユウナたちの目の前を、青黒い機動兵器が立ち塞がる。

 

「これって!」

 

「機甲兵!?」

 

「いえ、この感じは……!?」

 

【魔煌機兵】

 

青黒い機動兵器から変成器を通したようなくぐもった声が響く。

 

「魔煌機兵?」

 

【既存の機甲兵と内戦中に顕れた魔煌兵とのハイブリッド機。お前たちごときが敵う道理はない】

 

「んだと、コラ!」

 

「余裕のつもりか?」

 

【命までは取らない。さっさと引き返して母親の胸にでもすがりついているといい】

 

「なめられたものですね」

 

「そんな大口、叩けなくしてやるわ!」

 

「クラウ=ソラス」

 

アルティナの背後にドラッケンⅡ、シュピーゲS、ヘクトル弐型、ケストレルβが顕れる。

 

ユウナたちはそれぞれの機甲兵に乗り込んだ。

 

【………………】

 

青黒い機動兵器は持っていたライフルを構える。

 

【後悔するなよ】

 

哀しき戦闘が始まった。

 

 

 

[キリコ side]

 

【バ、バカな……!】

 

【避けた……きゃあああっ!?】

 

【ク、クソがっ!】

 

【何なの……何なのよ、いったい!?】

 

【………………】

 

クラフト技に移ろうとしたシュピーゲルSにライフルの銃撃を撃ち込む。

 

その間を縫ってケストレルβの狙撃が放たれるがそれをかわして反撃。

 

ヘクトル弐型の武器をアイアンクローで叩き落として戦力を削ぎ、さらに蹴りを入れる。

 

ドラッケンⅡの懐に接近し間合いを潰す。後退しようとする瞬間を狙って頭部を殴り付ける。

 

相手が動き出す寸前に行動に移すことで初動を完全に封じ、連携のタイミングを崩す。

 

ユウナたちからすれば驚異的に見えるのだろう。

 

だが機体の特性と乗り手のクセさえ知っていれば何てことはない。

 

加えてリミッターを最初から外している分、機体の性能を100%引き出せる。おそらくフルメタルドッグでも結果は同じだろう。

 

【確かに以前より強くなっているな】

 

だが俺は攻撃の手は緩めない。

 

【悪いがここでリタイアしてもらう。だから……】

 

俺は操縦捍を握りしめる。

 

【簡単に死んでくれるなよ】

 

[キリコ side out]

 

 

 

【はぁ……はぁ……はぁ………!】

 

【攻撃が悉く当たらない……】

 

【というより、何もさせてもらえません……】

 

【このままじゃ埒が開かねぇ。俺が押さえる。その間にあいつをブチのめせ】

 

【危険だけど、それに賭けるしかないわね。アル、援護をお願い】

 

「分かりました」

 

【んじゃ、行くぜ……!?】

 

ヘクトル弐型が動こうとした瞬間、青黒い機動兵器から苛烈な銃撃が襲いかかる。

 

【ずいぶんと余裕だな】

 

【へっ、かかったな!】

 

青黒い機動兵器の背後の三方向からドラッケンⅡ、シュピーゲルS、ケストレルβが襲いかかる。

 

【もらった!】

 

【…………………】

 

青黒い機動兵器は慌てることなく、機体を回転させる。

 

思わぬ反撃に三機の攻撃は遮られた。

 

そのまま青黒い機動兵器は接近してケストレルβを殴り付ける。

 

【きゃあああっ!】

 

ケストレルβは後方にはじき飛ばされる。

 

【ミュゼ!?】

 

【遅い】

 

動きが止まったドラッケンⅡとシュピーゲルSに集中砲火が浴びせられる。

 

【ぐあっ!】

 

【…………………】

 

結果、四機全てが倒されていた。

 

【強……すぎる………!】

 

【四対一でも、まるで歯が立たないなんて……】

 

【チク……ショウ………!】

 

【………まだよ】

 

ドラッケンⅡが立ち上がる。

 

【こんな……所で……諦めてたまるもんですか!】

 

【…………………】

 

【あなたたちがこのクロスベルで何を企んでるかは知らないけど、あたしが、ううん、あたしたちⅦ組が止めてみせる!】

 

【ユウナ……】

 

【ヘッ……!】

 

【ええ。まだ敗けていません!】

 

シュピーゲルS、ヘクトル弐型、ケストレルβも立ち上がる。

 

「回復します」

 

アルティナが機甲兵用の回復アイテムを使う。

 

【……そうまでしてなぜこの地を守る?クロスベルが塵と化すことは確定しているのだが】

 

キリコは敢えて鬼になることにした。

 

【…………え?】

 

【どういう意味だ!?】

 

【わからないか?我ら帝国と憎き共和国との全面戦争。ならその戦場となるのはどこだ?】

 

「まさか……」

 

【クロスベル……】

 

【そうだ】

 

【そ、そんなことさせるもんですか!】

 

【お前の意志など関係ない。来る9月1日に戦いが始まる。両国に挟まれたクロスベルはゼムリア大陸から消える。永遠にな】

 

【あなた方は……!】

 

【……クロスベルの住民には多少なりとも同情している】

 

【ふざけるなっ!】

 

シュピーゲルSが斬りかかる。

 

【遅い】

 

青黒い機動兵器はシュピーゲルSの足元にマシンガンを撃ち込む。

 

ぐらついた所でアイアンクローがシュピーゲルSの腕をはね飛ばす。

 

止めにシュピーゲルSの背部エンジンにライフルを撃ち込んだ。

 

【ガハッ!?】

 

シュピーゲルSから煙が吹き、火花を散らし倒れた。

 

【クルト君!!】

 

【余所見をするな】

 

続けて青黒い機動兵器はヘクトル弐型に襲いかかる。

 

青黒い機動兵器はアイアンクローを何度も何度も叩きつける。

 

ヘクトル弐型は装甲はおろか、フレームをも斬り裂かれる。

 

止めに背部エンジンを抉られ、ヘクトル弐型は小規模ながら爆発し、動けなくなる。

 

【嘘……だろ……!?】

 

【アッシュさん!】

 

【次】

 

青黒い機動兵器はケストレルβに接近する。

 

ケストレルβは必死に抵抗するも、焦りからか攻撃はかすりもしない。

 

マシンガンでケストレルβの武器を撃ち落とし、頭部をはね飛ばす。

 

ケストレルβは後方に倒れた。

 

【あ…あ…あ……!】

 

【ミュゼ!このぉ!!】

 

【…………………】

 

青黒い機動兵器は大破したケストレルβを一瞥すらせず、ドラッケンⅡに狙いを定める。

 

【…………………】

 

青黒い機動兵器はドラッケンⅡの両手足をライフルで撃ち抜き、だめ押しとばかりにコックピット付近を抉る。

 

ドラッケンⅡはその衝撃で地面に叩きつけられ、動かなくなる。

 

ここまではわずか15分の出来事である。

 

「皆……さん……」

 

アルティナは膝を落とすしかできなかった。

 

【……許せとは言わない……恨むなら好きなだけ恨め………】

 

キリコは虫の息のユウナたちに心の中で詫びた。

 

 

 

【【【【…………………】】】】

 

ユウナたちは圧倒的、ひたすら圧倒的な力の前に完全に屈していた。

 

【…………………】

 

青黒い機動兵器は一歩一歩近づく。

 

それは死神の足音にも似たものだった。

 

【今楽にしてやる】

 

青黒い機動兵器は動かないドラッケンⅡにライフルを向ける。

 

「う……ぐぐぐ………!」

 

アッシュはヴァリアブルアクスを支えに立ち上がろうとする。

 

「ユウ……ナ………!」

 

クルトはおぼつかない足取りでユウナに必死で呼びかける。

 

「いけない!」

 

アルティナは感情を爆発させ、クラウ=ソラスを向かわせる。

 

(女神様……!!)

 

ミュゼは無力な自分を呪い、祈ることしかできなかった。

 

【……………………】

 

ユウナは眼を瞑り、歯を食いしばる。

 

青黒い機動兵器のマニピュレータがトリガーに指をかけ、引き金を引く───

 

 

 

「うおぉぉぉっ!!」

 

 

 

瞬間、湿地帯の奥から何かが突貫してきた。

 

【え…………】

 

突貫してきた何かは青黒い機動兵器のライフルを弾く。

 

「エリアルダスト!」

 

さらに風属性のアーツが青黒い機動兵器を襲う。

 

【くっ!】

 

青黒い機動兵器は後退を余儀なくされた。

 

「ユウナ!大丈夫か!?」

 

「ロイド……先輩………?」

 

ユウナを救ったのは、クロスベル警察特務支援課のリーダー、ロイド・バニングスだった。

 

 

 

「あの人は……」

 

「みんな、大丈夫?」

 

ロイドと同じく特務支援課メンバーのエリィ・マクダエルがクルトたちに駆け寄り、回復アーツをかける。

 

「あ、ありがとうございます……」

 

「特務支援課の皆さん、ですね」

 

「良いタイミングじゃねぇか……」

 

「私たちだけじゃないわ」

 

エリィは青黒い機動兵器に目をやる。

 

「そりゃあああっ!」

 

青黒い機動兵器の頭上から棒が振り下ろされる。

 

【!】

 

青黒い機動兵器は右腕でガードするが、それは罠だった。

 

「今よ、ヨシュア!」

 

「わかった!」

 

ヨシュアと呼ばれた青年が青黒い機動兵器の真横を駆け抜ける。その際に、双剣で斬りつけられる。

 

「ふふ、隙を作っちゃダメじゃない?」

 

奥から歩いて来たスミレ色の髪の少女が手に携えた大鎌で青黒い機動兵器に奇襲をかける。

 

「すごい……!」

 

「あの二人はリベールの……。それにあの方は……」

 

【…………………】

 

青黒い機動兵器は三人の連携にダメージを負う。

 

「ロイド先輩、あの人たちってもしかして………」

 

「ああ。エステルにヨシュア、それにレン。リベールから来てくれたんだ」

 

ユウナを救出したロイドは三人を見ながら答えた。

 

【……さすがに分が悪すぎるか………】

 

青黒い機動兵器はマシンガンで牽制しつつ、さらに後退した。

 

「っと!」

 

「一旦下がろう」

 

「仕方ないわね」

 

エステルたちも距離を取る。

 

【………この場は引こう】

 

『………………』

 

【この地での俺の役目は終わった。トールズⅦ組、お前たちはどこかで大人しくしているといい】

 

「ふ、ふざけないで!」

 

【警告してやる。これはもう、普通の人間の手には負えるものではない】

 

「何を言っている?」

 

「普通の人間……?」

 

「……まるで、あんたが普通の人間じゃないように聞こえるんだが?」

 

ロイドは青黒い機動兵器を見据える。

 

【………………………】

 

青黒い機動兵器はユウナたちに背を向けて去ろうとした。

 

「おっと、それは問屋が下ろさないわ」

 

「拘束させてもらうよ」

 

【………………………】

 

青黒い機動兵器からカチッという音がし、光出した。

 

「なっ!?」

 

「まさか……!」

 

「自爆!?」

 

「クラウ=ソラス!」

 

アルティナが障壁を張る。

 

その瞬間、青黒い機動兵器は爆発した。

 

「きゃあああっ!?」

 

「なんてことだ……」

 

「とにかく、調べないと!」

 

ロイドとエステルは残骸調べると、驚くべきことにコックピットは空だった。

 

「既に脱出していたのか……」

 

「ここまで計算ずくってわけね」

 

『…………………』

 

ユウナたちは呆然としていた。

 

「どうかしたの?」

 

「え?い、いえなんでも……」

 

「大丈夫です……」

 

「そう……?」

 

エリィは首をかしげる。

 

(あの一連のアクション……どこかで………)

 

(……この……感じはいったい………?)

 

ミュゼは胸を押さえた。

 

 

 

「機甲兵四機だけならまだしも、リベールの遊撃士に特務支援課まで加わったか。さすがにてこずったようだな」

 

自爆する寸前で脱出したキリコはロッチナと合流した。

 

「……………………」

 

「まあいい。暫し休むといい」

 

「……………………」

 

キリコは一瞥すらせず歩いて行った。

 

「はは……マジかよ」

 

キリコの前からレクター・アランドール少佐が歩いて来た。

 

「総督殿の見届けに来たら、とんだサプライズゲストがいるなんてな」

 

「……………………」

 

「まあいいや、ごくろーさん」

 

「……………………」

 

キリコは無視して歩き出す。

 

「おい貴様!いったいどういうつもりだ!」

 

 キリコの態度が気に障ったか、軍人がキリコの肩を掴む。

 

「いいからいいから。ほら、疲れてんだろ?後はやっとくからよ」

 

「フン!たかだか士官学生を足止めしたくらいでいい気になりおって。まあ、反逆者同然のガキ共なん…………!?」

 

突然キリコは軍人の喉を掴み、締め上げる。

 

「うご、ごえっ………きさ……!」

 

「……………………」

 

キリコは殺意を剥き出しにし、さらに力を加える。

 

「ぐ……ぁぁ……っ………!」

 

ギリギリと締め上げられ、軍人から声にならない声が漏れる。

 

「ストップストップ!それ以上やったら死んじまうって!」

 

「……………………」

 

レクター少佐が慌てて駆け寄るも、キリコは意に介さなかった。

 

「そこまでだ、キリコ」

 

見かねたロッチナが止めに入る。

 

「それ以上はいくらお前でも見過ごせん。その馬鹿者の処遇は私に任せろ。ここは引いてくれ」

 

「……………………」

 

キリコは乱暴に軍人を離し、去って行った。

 

「フー、助かりましたよ、ルスケ大佐」

 

「今のキリコには近寄らん方が賢明だ」

 

「確かに。にしても、機械みたいな印象だと思ったんですがねぇ」

 

「肉体面では破格の資質を持っているが、精神面は普通の人間と何ら変わりない。いくらあいつでも思う所はあるだろうさ」

 

「なるほど(難儀なもんだな、異能者ってのは)」

 

レクター少佐はキリコが去って行った方向を見つめる。

 

 

 

一方、ロッチナらと別れたキリコはルーファス総督と対峙していた。

 

「フフ、久しぶりだね」

 

「………………」

 

キリコはいつでもアーマーマグナムを抜ける体勢を作る。

 

「いや、今ここで君と戦う気はないよ。それはまたいずれ」

 

ルーファス総督は一瞬微笑み、直ぐに真顔に戻る。

 

「キリコ君、私と手を組まないか?」

 

「?」

 

「私の最終的な目的は父たるあの方を越えること。君にとっても利害は一致していると思うが?」

 

「くだらん」

 

キリコはルーファス総督に背を向ける。

 

「っ!」

 

その瞬間、ルーファス総督は騎士剣を抜き、斬りかかる。

 

「!」

 

キリコもアーマーマグナムを抜き、ルーファス総督に向ける。

 

「「………………」」

 

ルーファス総督は騎士剣を首に触れる寸前で止め、キリコはアーマーマグナムを撃たず眉間に突きつける。

 

互いに殺気を放ち、微動だにしなくなる。

 

「…………フッ」

 

先に折れたのはルーファス総督だった。

 

「眉一つ動かさない鋼のごとき精神力。その力、弟や仲間たちを助けるのに使うといい」

 

ルーファス総督は騎士剣をしまい、優雅に去って行った。

 

「………………………………………………」

 

残されたキリコにあるのは、虚無感だった。

 




次回、第二章黒の工房篇になります。

青黒い機動兵器で統一したのは純粋な機甲兵でも魔煌機兵でもないからです。

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