英雄伝説 異能の軌跡Ⅱ   作:ボルトメン

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長くなりそうなので分けました。


潜入②

[Bチーム side]

 

「これって……」

 

「機甲兵、よね……?」

 

ユウナたちの目の前には、ドラッケンⅡとケストレルβに酷似した機甲兵が鎮座していた。

 

「どうして機甲兵が?」

 

「あちらには既に魔煌機兵があるはず。今さら機甲兵建造するとは思えん」

 

「罠?」

 

「調べてみましょう」

 

エマは魔導杖を掲げ、機甲兵を調べる。

 

「……霊的なものは一切感知しませんでした。魔煌機兵のように精神汚染されることはないでしょう」

 

「なら、ここはあたしが」

 

ユウナはドラッケンⅡに酷似した機体に乗り込む。

 

「僭越ながら、私も」

 

ミュゼもケストレルβに酷似した機体に乗り込む。

 

【中は……ドラッケンⅡと変わりないわね。ええっと、これで起動ね】

 

ユウナは機体を起動させる。

 

コックピットのディスプレイには、《ドラッケンⅢ・プロトタイプ》と表示された。

 

【ドラッケンⅢ・プロトタイプ……。ミュゼ、そっちはどう?】

 

【はい。こちらには《ケストレルβⅡ》とあります】

 

「アリサ」

 

「ええ。二体とも、試作機もしくは実験機ということかしら?」

 

アリサが思案する横で、ユウナとミュゼが機体から降りる。

 

「二人とも、なんともないのだな?」

 

「はい、大丈夫です」

 

「なんともありませんわ」

 

「なら良いのですが……」

 

……prrrrr……prrrrr………

 

突然、ユウナのARCUSⅡに通信が入る。

 

「もしもし?あっ、クルト君?」

 

『………………………』

 

「うん。こっちにもあったよ」

 

『………………………』

 

「わかった。そっちも気をつけてね」

 

ユウナは通信を終えた。

 

「クルトさんからでしたか」

 

「向こうにもあったのね?」

 

「はい。向こうにあったのはシュピーゲル系とヘクトル系だそうです」

 

「シュピーゲルとヘクトル?」

 

「向こうにはクルトとアッシュがいるが……」

 

「偶然にしては出来すぎだね」

 

「……今は置いておくわよ」

 

サラはラウラたちを切り換えさせる。

 

「時間が惜しいわ。機体をどうするかは任せるけど、何か異常があったら早めに報告すること。わかったわね?」

 

「「はい!」」

 

「では、クラウ=ソラス」

 

アルティナはドラッケンⅢ・プロトタイプとケストレルβⅡを収束させる。

 

「そろそろ中枢も近い。乗り込むわよ!」

 

『イエス・マム!』

 

ユウナたちは駆け足で進む。

 

[Bチーム side out]

 

 

 

[Aチーム side]

 

「そうか、わかった。そちらも気をつけてね」

 

クルトは通信を終える。

 

「どうだ?」

 

「はい。向こうにも機甲兵があるようです。ドラッケンタイプとケストレルタイプだそうです」

 

「そうか……」

 

マキアスたちは二体の機甲兵を見上げる。

 

「両方とも、クルトたちが乗ってたものとは別物なんだね?」

 

「はい。僕が乗ったのは、《シュピーゲルSS試作型》とありました」

 

「俺は《ヘクトル弐型・改》だったぜ」

 

「従来の機甲兵を元に造られたということか?」

 

「やはり、黒のアルベリヒが関わっているのだろうか?」

 

「元々機甲兵はアリサの父親が設計したという話だが」

 

「疑うとキリがないね……」

 

「とりあえず、動かしてみようぜ」

 

アッシュはヘクトル弐型・改に乗り込もうとした。

 

「い、いきなりだな」

 

「あの二人も乗ったんだろ?なら問題はねぇだろ」

 

「……そうだな。乗ってみよう」

 

クルトはシュピーゲルSS試作型に、アッシュはヘクトル弐型改に乗り込み、動作を確認する。

 

「どう?」

 

【……不思議な感覚です。ものすごく馴染む】

 

【まるで俺に合わせて造られたみてぇだな……】

 

クルトとアッシュは自分に合った操作性に驚きを隠せなかった。

 

「どういうことだ?」

 

「最初から二人を乗せるために造ったのか?」

 

「だとするなら、一体何のために?」

 

「フン、造った奴に聞けば良いだけのことだ」

 

ユーシスが鼻を鳴らす。

 

【こちらは正常のようです】

 

【とりま、行こうぜ】

 

「では、行こうか」

 

「お前が仕切るな」

 

ユーシスたちは先を急いだ。

 

[Aチーム side out]

 

 

 

[Cチームside]

 

「こいつは……」

 

先行するリィンを追うクロウたちは、大量の武器が造られていく光景に足が止まる。

 

「そうか……Sウェポンとか言う武器。ここで造られていたのね」

 

「私も初めて見ましたわ」

 

デュバリィもあちこちを見渡す。

 

「ここで造られた武器が赤い星座や西風の旅団なんかに卸されているんだろうな……」

 

「間違いないでしょうね」

 

「あくまで噂ですが、猟兵団以外にも提供先があるとか」

 

「やれやれ。武器だけで戦争をコントロールするってわけか。いよいよワイズマンとやらが怪しいな」

 

「……貴方もその名前をご存知ですの?」

 

「まあな。そういうあんたも?」

 

「ええ。私はユミルで彼から聞きました」

 

「ちょ、ちょっと!あんたたち、あのキリコと会ったの!?」

 

「おう。東リーヴス街道でゾルゲ乗り回して、敵の魔煌機兵百機をブッ潰してたな」

 

「私はアイゼンガルド連峰に顕れた精霊窟の調査に協力していただきました。その翌日、黒竜関襲撃に向かったそうです」

 

「…………………………」

 

セリーヌは放心状態に陥った。

 

「まあ、気持ちはわかるぜ……」

 

「共闘した私たちでさえ、信じられませんから……」

 

「……生きていたの……処刑されたって聞いてたのに………」

 

「処刑されたのは身代わりらしい。本人も薬で仮死状態にされて連れ出されたそうだ」

 

「何者かが裏で糸を引いているのは明白ですわね」

 

「…………………………」

 

セリーヌは黙りこむ。

 

すると奥から何かを斬り裂く音が響く。

 

「チッ、話し込んでいる時間はねぇか!」

 

「行きますわよ!」

 

「え、ええっ!」

 

クロウたちは再びリィンを追いかける。

 

[Cチーム side out]

 

 

 

[キリコ side]

 

「やあ、キリコ♪」

 

「………………………」

 

探索を続けていると、道化師カンパネルラが俺の目の前に現れた。

 

「やっぱり来たね」

 

「……邪魔しに来たのか」

 

「まさか。プレゼントを持って来たのさ」

 

カンパネルラのフィンガースナップと共に、フェンリールが現れた。

 

「………………………」

 

「ついでと言ってはなんだけど、あの四機も送っておいたよ」

 

「四機?」

 

「君はロッチナに頼んだはずだ。魔煌機兵に立ち向かえるように新しい機甲兵の設計を。わざわざユウナ、クルト、アッシュ、ミルディーヌ公女の戦闘データと一緒にね」

 

「……ロッチナがしゃべったのか」

 

「ボクが知ったのは本当に偶然だよ。それに面白そうだから協力したのさ。シュミット博士にコンタクトを取ったり、結界を張って工房長に勘づかれないようにしたりね」

 

「………………………」

 

「ちなみに名前は全て博士が命名したらしいよ」

 

心底どうでもいい。

 

「それで、執行者はお前一人か?」

 

「いや?マクバーンも来てるよ……」

 

すると、遠くから爆音が響く。

 

「……わかった」

 

「やれやれ。目を離したらこれだもん。ま、灰色の鬼になった彼がいるなら無理ないか」

 

「鬼、か」

 

呪いの根源がワイズマンだとするなら、教官も奴の被害者ということになるのか。

 

「彼らも健気だよねぇ~。わざわざ毒蛇の巣穴に入り込んで来たりしてさ」

 

「……大人しくしていればいいものを」

 

「……矛盾してるねぇ~」

 

「何?」

 

「キリコ、心の中では彼らのことを思ってるでしょ?」

 

「…………………」

 

「クロスベルで彼らに銃口を向けて、立ち直れなくしようとしたでしょ。本気の君なら命を奪うことは造作もなかったはず」

 

「…………………」

 

「なのに君はしなかった。利用価値?増援が来たから?面倒くさい?どれも違うよね?」

 

「…………………」

 

「仲間、だからでしょ」

 

「…………………」

 

俺は何かを言おうとした。だが、言葉が出てこなかった。

 

「なら、キリコがこれからすることは一つしかないよね?」

 

「……なぜだ」

 

「?」

 

「仮に俺があいつらと手を組めば、お前たちが不利になるだけだ」

 

「さっきも言ったけど、そっちの方が面白そうだからさ」

 

「…………………」

 

俺は無言でフェンリールに乗り込む。

 

【行かせてもらう】

 

「どうぞ、ご自由に」

 

【……最後に教えてほしいことがある】

 

「何?」

 

【最近、黒のアルベリヒは何かしたのか?】

 

「工房長?そうだなぁ……何でも、究極のホムンクルスが完成するとか」

 

【究極のホムンクルス?】

 

「詳細はわからない。ただ……」

 

【ただ?】

 

「もうじき世界に炎がくべられる、そう言っていたよ」

 

【炎…………】

 

心にズキリとしたものを感じる。

 

「えっと、キリコ?」

 

【……………………】

 

俺は黒の工房中枢めがけてフェンリールを走らせる。

 

[キリコ side out]

 

 

 

「行っちゃったよ」

 

カンパネルラはフェンリールの背中を見つめる。

 

「どうやら、工房長はとんでもないことをしでかしたみたいだね?」

 

「ええ、許しがたい愚行を」

 

カンパネルラは背後から歩いて来た男に問う。

 

「イプシロン、だったね」

 

「はい」

 

「君は出ないの?」

 

「……出動命令が出ていないので」

 

「ふーん?」

 

「道化師殿こそ、キリコを止めなくて良かったのですか?」

 

「止める気はさらさらなかったからね。本音を言えば、結社の計画遂行のために必要なのさ」

 

「なるほど……」

 

イプシロンは完全には納得しなかったが、それ以上の追及はしなかった。

 

「さっきの答えなんだけど、なんなの?工房長がしでかした許しがたい愚行って……」

 

「……少々長くなりますが」

 

「いいよ。それじゃ……」

 

カンパネルラはフィンガースナップを鳴らし、周囲に聞かれないよう結界を張る。

 

イプシロンはカンパネルラに真相を語り始めた。

 

 

 

「よくぞ己を取り戻したな、灰の起動者よ」

 

「…………………」

 

「そして歓迎しよう。トールズⅦ組の諸君」

 

『………………』

 

呪いの強制力から解放され、黒髪から白髪になったリィンと、それぞれの障害を突破してきたⅦ組の前にギリアス・オズボーン、リアンヌ・サンドロット、黒のアルベリヒ、銅のゲオルグが立ちはだかる。

 

「デュバリィ、アイネス、エンネア。やはり来てしまいましたか」

 

リアンヌは鉄機隊の面々を真顔で見つめる。

 

「マスター……!」

 

「ええ」

 

「最初で最後の命令違反、お許しください」

 

鉄機隊は主の視線を受けても、怯まなかった。

 

「クロウ……」

 

「よう、ジョルジュ。少し痩せたか?」

 

「その名は偽名だよ。かつて君がCを本分としていたようにね」

 

「……チッ」

 

「そこまでだ、銅のゲオルグ。時は無駄にするものではないよ」

 

クロウと銅のゲオルグのやり取りを黒のアルベリヒが止める。

 

「それにしても、一杯食わされたな。まさか我々の知らない所で機甲兵を手に入れているとは」

 

「えっ?」

 

「こ、この機甲兵はそちらが造ったのではないのか!?」

 

「ああ」

 

オズボーンは横目でカンパネルラに視線をやる。

 

カンパネルラは肩を竦める。

 

「まあいい。主賓の到着まで少しかかる。それまでは……」

 

オズボーンは禍々しい大剣を取り出す。

 

「あれは!?」

 

「まさか……《終末の剣》……!?」

 

「そうだ。根源たる虚無の剣とは違い、外の理により造られた剣。女神の加護を受けたものを屠る魔剣、とでも思えば良い」

 

オズボーンは終末の剣を手に構える。

 

「その構えは……!」

 

「百式軍刀術の……!」

 

「父上から聞いたことがある。現役時代のオズボーン宰相は百式軍刀術の達人で知られていたと」

 

「フフ……今なお、だがね」

 

オズボーンは微笑みを浮かべる。

 

「…………………」

 

リアンヌも騎馬槍を携える。

 

「出でよ、ゾア=バロール」

 

黒のアルベリヒは奇怪な戦術殻を呼び出す。

 

「来い、ナグルファル」

 

銅のゲオルグも赤銅色の戦術殻を呼び出す。

 

「総員、戦闘準備!」

 

リィンは太刀を抜く。

 

「相手は百式軍刀術の達人に槍の聖女……油断するな!」

 

『おお!』

 

『はいっ!』

 

「私たちも参りましょう」

 

「応!」

 

「マスター……お覚悟!」

 

「来な、相手してやるぜ」

 

Ⅶ組と鉄機隊、そしてクロウはそれぞれの得物を手に、オズボーンらに挑む。

 

 

 

[キリコ side]

 

【この音……既に始まっているようだ】

 

「よう、来たのか」

 

【!】

 

声のする方にカメラを向けると、そこには劫焔のマクバーンが立っていた。

 

「ちょっと小耳に挟んだんだがよ、お前不死身なんだってな?」

 

【悪いが先を急いでいる】

 

さすがに相手取るには厄介だからな。

 

「オラッ!」

 

マクバーンは右手から火球を投げつけてきた。

 

【くっ!】

 

かろうじて避ける。火球はフェンリールの立っていた背後の壁を焦がす。

 

「やるな。なら……!」

 

今度は連続で火球を放ってきた。

 

【問答無用か。なら!】

 

俺は照準をマクバーンに定め、引き金を引く。

 

「そうこなくちゃな!おらっ、いくぜ!」

 

マクバーンは狼を象った焔を放つ。

 

【速い!だが……!】

 

ローラーダッシュで強引に回避し、マクバーンめがけてマシンガンの集中砲火を撃ち込む。

 

【これなら………なっ!?】

 

放たれた銃弾は一発も当たらなかった。

 

それどころか、マクバーンのかざした右手の前で一つ残らず熔けていた。

 

【……焔の高熱で銃弾を一気に熔解させたのか………】

 

「まーな」

 

マクバーンは至極面倒くさそうに頭を掻く。

 

「そろそろ終いにするか」

 

マクバーンはかざした右手をにぎりこむ。

 

「燃え尽きろ……!」

 

その直後、フェンリールの足元から業火が吹き上がる。

 

【しまっ……!】

 

フェンリールは焔に包まれた。

 

そして地に伏した。

 

[キリコ side out]

 




次回、また一つに……

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