英雄伝説 異能の軌跡Ⅱ   作:ボルトメン

13 / 53
名前

「それなりに面白かったが、この程度じゃな……」

 

マクバーンは燃え盛るフェンリールに背を向けた。

 

フェンリールは少しずつ熔解し、ゆっくりと崩れ落ちる。

 

「さて、灰色の小僧んとこに行くとするか「ガタン!」………!?」

 

突如聞こえた音にマクバーンは急いで振り向く。

 

そこには焔に包まれた何かが立っていた。

 

その右手にはアーマーマグナムが握られていた。

 

「てめ……がっ!?」

 

だが、それさえ遅かった。

 

放たれた弾丸は正確にマクバーンの右足に着弾し、マクバーンは片膝を付いた。

 

「………………………」

 

焔に包まれた何かはそのまま一歩一歩マクバーンの方向に進む。

 

「ちいっ!」

 

マクバーンは高密度の焔を右手に生成する。

 

「………………………」

 

焔に包まれた何かは立ち止まり、アーマーマグナムを構える。

 

「燃え尽きろ!」

 

マクバーンは高密度の焔を放とうとした。

 

「ストップ!ストップ!そこまでだってば!!」

 

二人の間にカンパネルラが慌てて入る。

 

「とりあえず………えいっ!」

 

カンパネルラが手をかざし、焔を消す。

 

焔を消された何か──キリコはそのまま前に倒れる。

 

「邪魔すんじゃねぇよ……」

 

「これ以上やったら工房の方がもたないって」

 

「……チッ………!」

 

「それにしても、凄いよ。熔解した機甲兵の中から立ち上がって、あの焔を浴びながら生きてて、しかも反撃までするんだから……っと、治療もしなくちゃね」

 

カンパネルラはキリコに回復アーツをかける。

 

「ホント、異能者って規格外にも程があるよ」

 

「………ッ!…………」

 

回復を終え、意識を取り戻したキリコがゆっくりと立ち上がり、ヘルメットを脱ぐ。耐圧服に守られたためか、火傷はほとんどなかった。

 

「気分はどう?」

 

「……………………」

 

「やれやれ……」

 

だんまりを決め込むキリコにカンパネルラは呆れた。

 

カンパネルラがフィンガースナップを鳴らすと、キリコの耐圧服緑の光に包まれた。

 

耐圧服は汚れ一つない新品同様になった。

 

「これはサービスだよ。ここまでの大健闘に免じてね」

 

「……………………」

 

キリコは軽く体を動かす。

 

「おい……」

 

「……………………」

 

マクバーンがキリコ近づく。

 

「次はねぇ。覚えとけ」

 

「……………………」

 

キリコはそのまま中枢へと向かおうとした。

 

「待った」

 

カンパネルラが待ったをかける。

 

「いくら何でもそのままは無謀過ぎない?」

 

「……先を急いでいる」

 

「とりあえず、持ってきなよ」

 

カンパネルラはフィンガースナップを鳴らし、緑色の機甲兵を出した。ただし、右肩が血のような暗い赤色に染まっていた。

 

「……………………」

 

「フルメタルドッグで良かったんだよね?」

 

「……何でもいい」

 

「フフ。それとキリコ……」

 

カンパネルラはキリコにあることを耳打ちした。

 

(………本当か?)

 

(彼、イプシロンから聞いたよ。工房長があの教授と似たような思考回路だからって、勇み足にも程があるでしょ)

 

(……間違いないんだな?)

 

(勿論)

 

(………………)

 

キリコはフルメタルドッグに乗り込み、中枢へと向かった。

 

「……………………」

 

「何話してたんだよ?」

 

「んー?」

 

カンパネルラは頭の後ろで手を組んだ。

 

「彼を怒らせた以上、工房長もジ・エンドって話」

 

「???」

 

マクバーンにはわからなかった。

 

 

 

「この程度とは……見込み違いだったかな?」

 

一方、中枢では決着がついていた。

 

「………クッ……!」

 

「そんな………」

 

「これが……百式軍刀術の達人………!」

 

リィン率いる二代目Ⅶ組はオズボーンの実力に圧倒されていた。

 

「……………………」

 

「マスター……!」

 

「星光陣が通じないとは……」

 

「クッ……!」

 

鉄機隊の面々も、リアンヌの絶技の前にひれ伏すしかなかった。

 

「ハァーハッハッハ!お前たちごときが、このゾア=バロールにかなうものか!」

 

「と、父様……」

 

「強い……」

 

黒のアルベリヒは初代Ⅶ組に対して、尊大に振る舞う。

 

「…………………」

 

「本当に変わっちまったんだな、ええ?ジョルジュ」

 

ナグルファルの攻撃を捌きながら、クロウは銅のゲオルグを睨み付ける。

 

「これ以上時間をかけるのは愚策。主よ、この場で彼奴らを皆殺しにしてもよろしいか?」

 

「……構わん」

 

オズボーンは新旧Ⅶ組殲滅の許可を出した。

 

「フフフ……」

 

黒のアルベリヒはフィンガースナップを鳴らす。

 

すると、黒のアルベリヒの頭上に円錐形の物体が数機現れた。

 

「あれは……」

 

「ハーメルの跡地で見た……」

 

「確か、スクエアだったか?」

 

「神機の武装ではなかったのか!?」

 

「フッ、死ぬ前にそんなことを聞いてどうするのかね?」

 

黒のアルベリヒはⅦ組の前に手をかざした。

 

数機のスクエアの先端が輝き出す。

 

黒のアルベリヒが冷酷な笑みを浮かべた。

 

「死ね──」

 

『ッ!』

 

新旧Ⅶ組が身構えた……次の瞬間

 

ズガガガガッ!

 

突如、銃声が鳴り響いた。

 

その直後、スクエアは全て撃ち落とされた。

 

「なっ!?」

 

「フッ……」

 

黒のアルベリヒが大きく動揺する横で、オズボーンは笑みを浮かべる。

 

「来ましたか」

 

リアンヌも銃声の響いた方向を向く。

 

そこには右手にへヴィマシンガンを構えた一機の機甲兵が立っていた。

 

「フルメタルドッグ!?」

 

「な、なんでここに……?」

 

「い、いやそれより……」

 

「乗っているのってまさか!?」

 

「嘘……だろ………!?」

 

新Ⅶ組は突然のことに動揺を隠せなかった。

 

「待っていたぞ」

 

オズボーンが一歩前に出る。

 

「歓迎しよう。異界より来たりし不死の異能者……

 

 

 

キリコ・キュービィー!」

 

 

 

【……………………】

 

偶然か必然か。

 

世界の運命を動かす者たちが一堂に会した。

 

 

 

「キリコ……さん……?」

 

「異界より来たりし……」

 

「不死の異能者……?」

 

オズボーンが発した言葉の意味をⅦ組は掴みそこねていた。

 

「ふ、ふざけるな!たかが一人の人間に何ができる!」

 

激昂した黒のアルベリヒは更に多くのスクエアを展開した。

 

「死ねぇ!」

 

スクエアは一斉に攻撃を開始した。

 

【……………………】

 

フルメタルドッグはローラーダッシュを駆使して攻撃を回避。

 

「かかったな!これで……!」

 

黒のアルベリヒはスクエアをフルメタルドッグの頭上に展開した。だが……

 

【遅い】

 

異能者を止めるには不足過ぎた。

 

現れたスクエアはほとんど動かずに撃ち落とされた。

 

 

 

「速い!」

 

「スピードとかじゃない。ほとんど反応速度で対処してる」

 

「スクエアが現れるのを見てから反応してるってこと!?」

 

「そ、そんなことが人間に可能なのか!?」

 

「奴の言葉を聞く限り、キリコは普通の人間ではないということらしいが……」

 

「そんなはずありません!!」

 

ミュゼはユーシスの考察を一心に否定する。

 

「ミュゼ……」

 

「キリコさんは……キリコさんは普通の人間です!偶然が重なっただけに決まってます!」

 

「……教え子や後輩、共に学ぶ者が不死身の力を持つ化け物であることがそんなにも恐いか」

 

オズボーンが新旧Ⅶ組らに語りかける。

 

「貴方は………!」

 

「それはミルディーヌ公女、そなたとて同じはず。物事の全てを完全に見通せるなど普通の人間では到底不可能。それを容易く行えるそなたも同類ではないのかな?」

 

「ち、違……」

 

「まあ彼は皇族は勿論、四大名門、魔女、地精、騎神の起動者など遥かに及ばない特別な存在。信じがたいのも分かる」

 

「キリコさんは……キリコさんは……!」

 

「それはそなたの感傷に過ぎん」

 

オズボーンはミュゼの言葉を切る。

 

「彼と君たちでは住む世界が違い過ぎる。だからこそ、君たちと袂を別ったのではないのかな?」

 

「き、決めつけないでよ!」

 

「事実、彼は君たちに銃口を向け引き金を引いた。ミシュラムの湿地帯でな」

 

『!?』

 

二代目Ⅶ組は言葉を失った。

 

「それも彼からのメッセージだろう。これ以上関わるなという、な」

 

『……………………』

 

「さあ、そろそろ決着が付く」

 

オズボーンはフルメタルドッグに目を向ける。

 

 

 

「バカな……!?」

 

黒のアルベリヒは信じられなかった。

 

フルメタルドッグの周りには、撃墜されたスクエアが瓦礫の山を築いていた。

 

さらに、フルメタルドッグはほとんど無傷だった。

 

「こんな……こんなことがっ!?」

 

【……………………】

 

フルメタルドッグはゆっくりと黒のアルベリヒに狙いを定める。

 

「くっ、ならば……!」

 

黒のアルベリヒはリモコンのようなものを取り出す。

 

【……………………】

 

その瞬間、へヴィマシンガンの銃撃が放たれる。

 

「ぐわっ!?」

 

黒のアルベリヒは寸での所でゾア=バロールで防御するが、リモコンは黒のアルベリヒの手を離れる。

 

リモコンは銅のゲオルグの足元に滑り込む。

 

「ゲオルグ!早く起動するんだ!」

 

「し、しかし……まだ起動テストも済ませていないのに……」

 

銅のゲオルグは、言い知れぬ不安を感じ取っていた。

 

「早くしろ!」

 

だが今の黒のアルベリヒには手段を選んでいる余裕などなかった。

 

「くっ!」

 

銅のゲオルグはリモコンのスイッチを押し、作動させた。

 

オズボーンらの背後に何かがせりあがってくる。

 

「ククク……テストにはうってつけだ。この究極のホムンクルスのな……!」

 

「究極のホムンクルス!?」

 

「ホムンクルスの製造は終わっていたんじゃないのですか!?」

 

アルティナは必死に問いかける。

 

「この工房が造りあげた完全な戦闘型ホムンクルスだ。モルモット同然のOzシリーズとはわけが違うのだよ」

 

黒のアルベリヒは狂喜的な表情を浮かべる。

 

「ククク……さあ、《F》の御披露目だ!」

 

黒のアルベリヒの背後に巨大な水槽のような物がせりあがった。中には成人女性と思わしきホムンクルスが眠っていた。

 

「あ、あれって……」

 

「先ほど見た……」

 

「あれが究極のホムンクルス……?」

 

【……そうか………】

 

「え?」

 

キリコの発した言葉にミュゼは思わず振り向く。

 

【……間違いであってほしかったが………やはりお前なのか………】

 

コックピットの中のキリコは静かに見つめる。

 

 

 

【フィアナ………】

 

 

 

キリコが発した名前。

 

それは、かつてキリコが唯一愛した女の名前だった。

 




次回、第二章は終わりです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。