「アストラギウス。俺は所謂異世界から転生してきた」
『…………………………………』
キリコの言葉にⅦ組は言葉を失った。
「だが教官、なぜそう思った?」
「黒の工房で宰相が言っていたこの地の人間ですらないという言葉。そして異界より来たりし不死の異能者という言葉さ」
リィンは一つ一つ話し始めた。
「まず、この地ですらないという言葉。最初に思ったのはこの大陸の外から来たんじゃないかということだ。だが、君はエレボニア帝国の出身であることには間違いないんだろう?」
「ああ」
「そうなってくると異界という言葉の意味合いが変わってくる。大陸の外の世界を指すのではなく、文字通り異なる世界を指す。勿論これは俺の推測にすぎないし突拍子もないことは百も承知だ。だがこれは……」
「何一つ間違っていない。俺は前世の記憶と異能を引き継いだままこの世界に転生してきたようだ」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
ユウナが待ったをかける。
「さっきから聞いていれば……!そんな馬鹿げたことを信じろって言うんですか!?」
「ユウナの言うとおりです。信じろという方が無茶ですよ」
「キリコさんの思い込みとしか考えられません」
「異世界からの転生だぁ?オカルトにも程があんだろが」
ユウナたちはリィンとキリコのやり取りに大きく反発する。
(キリコさんの言葉が真実だと言うならば、私の異能でも見通せない理由に辻褄が合います。……でも、そんなことあるはず………)
ミュゼは否定しようとするも、それが無駄だということも理解していた。
「残念だけど、そいつが転生者ってのは本当らしいわよ?」
「セリーヌ、知ってるの!?」
「あんたたちも知ってるだろうけど、あたしは暴走したシュバルツァーと一緒に星杯に残ったでしょ。その時にオズボーン宰相から聞いたのよ」
「そんな大事なことをなんで言わなかったの!」
「仕方ないでしょ。昨日まで死んだと思ってたんだもの。ちなみに、その場にいた騎神の乗り手は全員知ってるわ」
「では、クロウや皇太子殿も知っているということか」
「それに猟兵王や槍の聖女 、勿論兄上もご存知か」
「それだけなら良いんだけどね……」
「まだ何かあるの?」
「あんた、人が犯す最大の罪……神殺しを成し遂げたそうじゃない?」
『は………………?』
Ⅶ組は再び言葉を失った。
「神……殺し……じゃと………?」
ローゼリアも頭が真っ白になった。
「フフフ……」
ロッチナはただ、可笑しそうに笑っていた。
「何が可笑しい」
キリコはロッチナを睨む。
「いや、予想通り過ぎてな。とはいえ、全て真実だ」
「真実って……」
「あ、貴方はいったい……」
「……こいつも転生したらしい」
「はぁ!?」
「ルスケ……いえ、ロッチナ……大佐?」
「ルスケで構わんよ。ロッチナという名前は前世、つまりアストラギウスでの本名だからな」
「なるほど、こちら側とはそういうことですか……」
「理解が早くて助かる」
「ということは貴方もキリコさんと同じ……」
「それはない」
ロッチナは即座に否定した。
「あの……そもそもなんですけど……」
「何かな?」
「異能者ってなんなんですか?」
「異能者……アストラギウスにおいて、特別な存在。あらゆる機械への適応性、生まれ持った高い反応速度、どんな重傷をも短期間で回復する強靭な生命力、戦場における異常ともいえる生存確率、そして強力な戦闘力を発揮することにある。それは超人と言っても過言ではない。君たちも覚えがあるんじゃないかな?」
「そ、それは……」
「そしてキリコの場合、異能生存体と呼ばれる特別な遺伝子を有している」
「遺伝子って確か……」
「最近レミフェリアで研究が始まった分野ですね。何でも、生命の謎を解き明かす鍵だそうですが」
「間違っていない。遺伝子は人間を含めたあらゆる動植物が有しているもので、生命の設計図と言い換えてもいい」
「生命の設計図……」
「例えば、レーグニッツ監察官」
「はい?」
「君とお父上は揃って視力が悪いだろう?」
「え、ええ……」
「それが遺伝だよ。子が親に似るというのは女神がそう決めたわけじゃない。ちゃんと理由があるのさ」
「な、なんだかとんでもないことを聞いてしまったような……」
「教会関係者が聞いたら怒りだしそうね………あ!?」
「ガ、ガイウス!?」
「大丈夫だ。正直、俺もさっぱりだ」
ガイウスは苦笑いを浮かべる。
「話を戻そう。キリコの持つ異能生存体はある一定の確率でしか誕生しない、一種の突然変異なのだ」
「ふん。その確率とやらがどれほどかは知らんが、妾には及ぶまい」
ローゼリアは胸を張る。
「あれ?確か黒の工房で……」
「キリコは皇族や四大名門、魔女、地精、騎神の起動者すら及ばない特別な存在だって言ってたけど……」
「何を言うか。妾の方が上じゃろうに」
「何張り合ってんのよ」
「……ルスケ大佐はご存知なんですか?」
「ああ。知っている。とある科学者が研究の末に発見した、異能生存体の誕生の確率──」
「それはおよそ、250億分の1とされている」
『………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………』
遂に全員の思考は止まった。
「……………………………………」
ローゼリアに至っては、何とも言えない表情になっていた。
「に……250億分の1………?」
「ほとんど奇跡じゃないか……」
「突然変異と言っても限度というものがあるのかと……」
「ごめんなさい……なんて言っていいか……」
「気にしなくていい」
キリコは首を横に振る。
「そうだな。気にすることではないな」
「教官……?」
「いや、正直俺も頭が全く追い付いていないんだが。だが、キリコはキリコだろう?」
「それは……」
「そうかもしれませんが……」
「君たちに聞くが、例えばアルティナがホムンクルスだと聞いて態度は変わったか?」
「別に変わんねぇな」
「アルはアルですから!」
「だろう?なら、答えは決まっているんじゃないか?」
「……そうですね!」
「ええ、最初から決まっていたんでしょう」
「あと、済まないアルティナ。君を例に使ってしまって」
「気にしないでください。それがⅦ組だと思います」
「なんだかんだでいい加減だよな」
「だがそれが我らの美点だろう」
「だね」
「考えてもみると、僕たちって色んな生まれなんだね」
「初代Ⅶ組出身者は地方貴族の養子の俺に、帝国最大の重工業メーカーの令嬢のアリサ、帝国最強の師団長の息子のエリオット、光の剣匠の息女のラウラ、帝都知事の息子のマキアス、魔女の眷属であるエマ、アルバレア公爵家の御曹司のユーシス、元猟兵のフィー、蒼穹の地からの留学生のガイウス、白兎のコードネームを持つミリアム、蒼の騎士でジュライ出身のクロウだな」
「改めて聞くと壮観ね……」
「よく纏まっていったものだな……」
アリサとユーシスは呆れた。
「一方、二代目Ⅶ組メンバーはクロスベル警察志望の留学生のユウナ、帝国の名門ヴァンダール家の次男のクルト、黒兎のコードネームを持つアルティナ、ラクウェルの悪童にしてハーメルの遺児のアッシュ、カイエン公爵家の継承者であるミュゼ。そして異界より来たりし不死の異能者キリコ」
「あ~、教官辞めといて良かった♪こんなのもう面倒みきれないわよ」
「サラ、ぶっちゃけ過ぎ」
フィーはジト目を向ける。
「凄い濃いメンツね……あたしたち……」
「あらゆる意味でね……」
「私の後は特に……」
「いや、チビウサも相当だろ」
二代目Ⅶ組メンバーは構成メンバーにため息が出た。
「………………………」
「フフフ……」
「なんだ?」
「なかなか良い縁に巡り会えたじゃないかと思ってな」
「……そうだな」
(キリコさん……)
「キリコ」
ガイウスが唐突にキリコに問いかける。
「………………………」
「キリコは神殺しを成し遂げたという。そのことについて教えてもらえないだろうか」
「あ………」
「それがあったか……」
周りは不安そうにキリコを見つめる。
「それは……」
「それについては私から説明しよう」
「ルスケ大佐……」
「だがそれを語るにはアストラギウスについて語らねばならない。時にローゼリア殿──」
「……何じゃ?」
隅でいじけていたローゼリアはロッチナの方を向く。
「この建物の地下に開かずの扉があるとか?」
「貴様なぜ………いや、言わんでも良い。どうせあやつが喋ったのじゃろう?」
「まあ、そういうことです」
「おばあちゃん、そんなものがあったの?」
「うむ。古くよりこの地下に扉がある。じゃが特殊な護りがかけられておっての。先代の里長でさえ解けなかったが故、開かずの扉として長らく放置されとったのじゃ」
「先代の里長って、相当昔からあったってことですよね」
「少なくとも、800年以上前だな」
「それとキリコと何の関係が?」
「もしかして……」
ミュゼはあることを思いつく。
「キリコさんならば開けられる、ということでしょうか?」
「その可能性はある」
「ま、待てい!どうしてそうなるんじゃ!」
「私の予想が正しければ、ですがね。さあ、案内して頂けますか?」
「ぬぐぐぐ………まあ良い。ついて来るが良い」
ローゼリアは地下へと通じる階段を降りる。
新旧Ⅶ組は戸惑いながらも、ついて行った。
一行は大きな扉の前に来た。
扉の隙間から何かが漏れていた。
「なんだこりゃ?」
「おそらく、この先は空間が歪んでおるのじゃろう」
「空間が?」
「それよりキュービィー、お主の出番じゃぞ」
「………………………」
キリコは前に出て、扉を調べる。
「ふふん、妾を含めた住民全員の魔力でさえ開かなかった扉がそうそう……」
(これか)
キリコは扉に彫られた窪みに手を合わせる。
ゴゴゴゴ…………
扉は輝いた後、ゆっくりと開いていく。
『……………………』
Ⅶ組とローゼリアは呆気にとられた。
「やはり私の予想は正しかった。異能者であるキリコこそが鍵だったな」
「………………………」
キリコは顔色ひとつ変えなかった。
「なんなんじゃ………お主は…………」
「?」
「妾は魔女の長じゃぞ!普通ここは妾の出番じゃろ!?それを……!」
「あ~あ、癇癪起こしたわね……」
「いいの?」
「良いんです。ああなると長いので放っておくしかないんです」
「そ、そうか……(ローゼリアさんの扱いを完全に心得ているな……)」
リィンは苦笑いを浮かべる。
「………………………」
キリコは歪んだ空間に足を踏み入れる。
「ちょ、キリコ君!?」
「大丈夫なのか!?」
「問題ない」
キリコは進んで行った。
「お先に失礼するよ」
ロッチナもキリコに続く。
「……行くか」
「はいっ!」
Ⅶ組も後から続く。
「………………………………」
ローゼリアは目に涙を浮かべながらとぼとぼと入って行った。
扉の先は白一色の空間が広がっていた。
その真ん中には台座のような物が置かれていた。
「これは?」
「おそらく、お前の記憶を読むための装置だろうな」
「つまりこれは……」
「お前の想像している通りだろう」
「……………………」
キリコの目付きが険しくなる。
「な、なにここ……」
「なんて広さだ……」
「おそらく、空間が歪んでいるからかもしれません」
「まさかこんな場所につながっていたなんてね」
Ⅶ組メンバーは次々と入って来た。
「……フン!」
最後に不機嫌な表情のローゼリアが入って来た。
「いつまで拗ねてるのよ」
「拗ねてなんかおらんもん!」
「はぁ……」
子どもじみた様子のローゼリアにエマは大きくため息をつく。
「これに触れば良いのか?」
「見る限りな。だが……」
ロッチナは光っている数字を指さす。
「ここにⅠとあるように、段階を踏んでいく仕組みなのかもしれん」
「……………………」
キリコは台座に触れようとした。
「ちょっと待って!」
ユウナが待ったをかける。
「どうした?」
「いや、さすがに心の準備ってものが……」
「これから僕たちは何を見るんだい?」
「説明を願います」
クルトとアルティナもキリコに問いかける。
「……俺がアストラギウスで戦ってきた記憶だろう」
「記憶?」
「つまり……前世のキリコさんということですか……」
「おそらくな」
「そもそもアストラギウスってのはどんな所なんだよ?」
「……………………」
キリコは黙った。
「オイ?」
「まあ、それは嫌でも分かることさ。百聞は一見にしかず、という諺があるように」
「……そうですね」
リィンは台座の方に視線をやる。
「キリコ、本当に良いんだな?」
「俺にとっては遠い過去でしかない。皆は良いのか?」
『(コクン)』
Ⅶ組は揃って頷いた。
「……わかった」
全員の意志を確認したキリコは台座に触れた。
「こ、これは!?」
「星空……?」
キリコが台座に触れた瞬間、Ⅶ組の周りは星空のような光景に変わった。
「何もねぇぞ?」
「当然だ。ここは宇宙だからな」
『宇宙!?』
Ⅶ組は仰天した。
「天の彼方にある、空の女神が住まうとされる聖なる場所……」
「だが、これは……」
「当たり前だ」
「え……?」
「空の上には天国など存在しない。あるのは、暗く冷たい闇がどこまでも広がる地獄しかない」
キリコはまるで吐き捨てるように言った。
「キリコさん……」
「ねぇ、みんな!あれを見て!」
エリオットが指さす方向には巨大な戦艦があった。
「嘘……だろう?」
「戦艦が飛行している……?」
「初めに言っておくが、アストラギウスの科学力はゼムリアのそれを遥かに超越している。さすがのラインフォルトでも、大気圏突破まで100年はかかるんじゃないかな?」
「そこまでは……ううん。それ以上かもしれませんね」
「そもそも空の上に行こうという発想がないからな」
「ああ。人の身では許されざる所業とされているからな」
「人の身では許されざる所業、か……」
ロッチナはそう呟く。
「ルスケ大佐?」
「では見るがいい。その所業を嫌というほどな」
ロッチナがそういうと、場所が変わった。
「なんだ、あれは……」
ユーシスが指さす方向には、巨大な球体があった。
「あれは惑星サンサ」
「惑星……」
「宇宙には何も星が一つしかわけではない。むしろ何万何億と集まって銀河を形成している。これら全てを総称してアストラギウス銀河と呼ばれている」
「では、あのサンサという星もその一つなのですね?」
「そうだ」
「見た所、変わった様子はないが……」
「では降りてみようか」
そういうと、また景色が変わる。
「なっ!?」
「こ、これは……」
Ⅶ組は目の前の景色に驚きを隠せなかった。
誰も彼もが逃げ惑っていた。周りの家々は炎を上げて燃えていた。
「アストラギウス銀河では二つの軍事星系、ギルガメス連合とバララント同盟の間で戦争が起きていた」
「第三次銀河大戦。通称《百年戦争》」
「百年……だと!?」
「それも百年間ずっと戦い通しだ」
「しょ、正気じゃないわ!」
「そう。開戦の理由も大儀も忘れ去られ、ただ今日という日を生き延びるために殺し合う。アストラギウス銀河には常に炎と硝煙と死臭が立ち込めているのだ」
『………………………』
Ⅶ組は言葉を失った。
「これでわかったかな?アストラギウスがどのような世界か」
「ひどい……」
「ただ生き延びるためだけに刃を向け合う。まるでそれは……」
「獣、だね」
「獣か。だが本当におぞましいのはやはり人だろうな」
「まだ何かあるんですか!?」
「みたまえ、あの少年を」
『え!?』
ロッチナの指さす方向から、青い髪の少年が走って来た。
「キリコ……さん……?」
「……………………」
キリコはじっと見つめる。
すると、少年の目の前にフルメタルドッグを小さくしたような機動兵器の大軍が歩行してきた。
「あれって、フルメタルドッグ?」
「あれはアーマード・トルーパー。百年戦争が産んだ最高にして最低の兵器。ATとも略されるが、そのコンセプトからボトムズとも呼ばれている」
「ボトムズ、最低な人たちという意味ですか……」
すると、機動兵器は手に持った銃のような物を構えた。
「まさかっ!」
その瞬間、銃のような物から炎が吹き出し、少年は炎に包まれた。
「いや……いやああああああああっ!!?」
あまりに凄絶な光景にユウナは悲鳴を上げる。
「あ…あ…あ……」
ミュゼは顔面蒼白になり、後退った。
「……………………」
キリコは拳を握りしめる。
「なんなんだ……」
「教官……」
「なんなんだこれはっ!!」
リィンはロッチナに掴みかかる。
「落ち着きたまえ」
「ふざけるなっ!!」
「それについて説明しよう。まずは離してくれるかね?」
「………クッ!」
リィンはロッチナの胸ぐらから手を離した。
「あの軍人が見えるかな?彼の名はヨラン・ペールゼン。サンサを襲撃した部隊レッドショルダーの創設者にして総司令だ」
「ペールゼン……」
「そして彼は異能生存体の発見者でもある。彼は死なない人間の研究を行っており、この作戦もある種の実験だったというわけだ」
「ふざけないでよっ!こんなこと、許されるわけないでしょ!?」
「では少し時間を早めて見るか」
ロッチナが言うと、景色は変わった。
「あれは……?」
「多分、難民キャンプだね。昔団の作戦で見てことある」
「難民キャンプ……」
「皆さん!見てください!」
アルティナの指さす方向には、あの少年がいた。
全身を焼かれたはずだが、頭髪は生え揃い、火傷の跡一つなかった。
「嘘……」
「生きてるってか………」
「まさか、これも……」
「そうだ。これもキリコの異能だ。もっとも、な」
「ああ」
「キリコ……?」
「しばらくの間、俺は過去のことは何一つ思い出せなくなった。同時に重い神経症も患っていた」
「当然でしょうね。あんな目に遭えば……」
「だとしても、とんでもないわね。アンタの異能ってのは──」
「ちなみに記録によると、後にキリコは全身火傷、頭蓋骨陥没、脊椎損傷、内臓破裂、大腿骨の複雑骨折等の重傷をいくつも負いながらも生存し、僅か十日ほどで病院周辺を歩き回れるようになったらしいが?」
『………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………』
Ⅶ組は再び思考が止まる。
(確か……テイタニアと初めて交戦した時か)
キリコは自身の記憶をさかのぼる。
「あ、あは、あははははははは…………」
「理解……不……能………」
「ユウナさん!アルティナさん!お気を確かに!!」
「マジもんの不死身じゃねぇかよ!?」
「ふ、普通死んでるか一生寝たきりじゃなければおかしいぞ!?」
二代目Ⅶ組は半ばパニックになる。
「凄まじいものよの。じゃが、考えようによってはそれは──」
「好きで持っているわけじゃない……!」
「!」
ローゼリアの言葉にキリコは怒りを孕んだ口調で答える。
「すまぬ……」
ローゼリアはキリコに詫びる。
「その後、お前は記憶をなくしたまま、サンサからメルキアに渡り、軍に志願したんだったな?」
「……確か14歳ぐらいだと思ったな」
「14歳!?」
「アルティナちゃんとほとんど変わらないのに……」
「少年兵……いえ、それにしても若すぎる……」
「百年戦争の末期は凄惨かつ凄絶を極めた。倫理も道徳も何もかも二の次三の次になり、キリコのような少年兵が次々と前線に送られ死んでいった。誰も彼もが終わりの見えない泥沼の戦いに疲れきっていた」
「もう、戦争じゃないわね……」
「軍に志願したキリコはATのパイロット─装甲騎兵となり、前線を転々としたそうだ。17歳になる頃には曹長にまでなっていたんだったな?」
「ああ」
「曹長……」
「軍隊における、下士官のトップね。ベテランの曹長ともなると、兵士の代表として一個師団の団長とサシで話ができるとまで言われているわね」
「新任の将校なんかじゃ及ばない影響力を持ってるらしいよ」
「よくそこまで出世できたな……」
「別に特別なことじゃない」
「?」
「上も下も関係なく死んでいく。生き延びられれば欠員の補充という形で昇進できるというわけだ」
「これも百年戦争末期だからこそだな。もっとも、実力がなければ屍の仲間入りだが」
ロッチナもキリコに続く。
「……………………」
リィンはロッチナの方を向く。
「そろそろ教えてもらえませんか?」
「?」
「なぜ貴方はそこまで詳しいんですか?」
「そ、そういえば……!」
「……私はある方の命令で、キリコの追跡と異能者の研究をしていた。それだけさ」
「ある方?」
「それはあの──」
「いや、ペールゼンではない。もっと大物だよ」
「大物?」
「いずれこの台座が教えてくれるだろう。では続きといこう。むせるほどに炎と硝煙と死臭にまみれたアストラギウス銀河の地獄を生き抜いた男の物語を」
ロッチナはⅦ組に背を向けた。