英雄伝説 異能の軌跡Ⅱ   作:ボルトメン

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三度目の記憶の部屋です。




クメン①

「ここは……!」

 

「な、なんて広い……」

 

「これだけの人数が丸々入ってしまいました……!」

 

「こりゃたまげたぜ……」

 

セドリック、エリゼ、アルフィン、ランディは記憶の部屋の規模に圧倒された。

 

「霊的なエネルギーに満ちています。それになんでしょう?何か映像のようなものが流れ込んで……?」

 

「そ、そういえば私も……」

 

「炎に、フルメタルドッグみたいな機動兵器が……」

 

ティオの指摘に、トワとティータが戸惑う。

 

「理屈は分かりませんが、ここで見たものは部屋の中にいる者全員に共有されるみたいなんです」

 

リィンは記憶の部屋の仕組みについて話した。

 

「変わった仕組みだよな」

 

「ですが、いったいなんのために……」

 

「それについては私にも掴みかねております。我々に出来るのは、ここでキリコの前世の記憶を見ることだけでしょう」

 

「キリコさんはよろしいんですか……?」

 

「別に問題はない。三回目ともなればなおさらだ」

 

キリコは中央の台座を見る。

 

「やはり〝Ⅲ〟となっているな」

 

「本当に相克が鍵になっているのか……」

 

「とにかくさ、見てみようよ」

 

シャーリィはキリコを促す。

 

「前回はデライダ高地までで、次はクメン王国だな」

 

「ああ」

 

キリコは台座に触れた。

 

 

 

[キリコ side]

 

デライダ高地でレッドショルダー残党を壊滅させてから数ヵ月。

 

レッドショルダー基地での出来事を忘れるため、俺は戦う場所を探し求めた。

 

そこで俺はクメン王国の内乱に傭兵として参加することにした。

 

クメンは惑星メルキア内にありながら、親バララント派だったため、メルキア政府との軋轢が絶えなかった。

 

それに加えて、クメンの支配層と住民が集まって神聖クメン王国を樹立、内乱が勃発した。

 

自国の兵だけでは賄いきれなくなり、俺のような傭兵が必要になるのは必然だったのだろう。

 

俺は他の傭兵たちと前線基地となる場所にボートで向かっていた。

 

他の傭兵たちは文句たらたらで、見張りでさえ気を抜いていた。

 

その時だった。

 

岸辺から銃撃を受けた。

 

突然の奇襲で何人かが命を落とした。

 

俺は弾幕を掻い潜り、ボートの舳先に移動した。

 

舳先にはガスボンベがいくつかあり、俺は火炎放射器にセットし、岸辺に向かって放射した。

 

辺りは火に包まれ、そこかしこで悲鳴が響く。

 

ある程度焼いた後、反対側に火炎放射器を向ける。

 

気も狂う暑さと湿気。死や熱病を運ぶ虫たち。

 

緑に塗り込められているが、ここは地獄に違いない。

 

だが俺には天国に感じられた。

 

俺は戦うため、忘れるためにここに来たのだ。

 

[キリコ side out]

 

 

 

「なかなかハードだな……」

 

「て言うか、あんなの卑怯じゃないの!?」

 

「ゲリラ戦なんてあんなもんだよ。ボサッとしてる方が悪いんじゃん」

 

シャーリィは呆れたようにユウナに言った。

 

「し、しかし……今度の相手は……」

 

「俺が戦うことになる相手は兵士ではない」

 

「え!?」

 

「そ、それって……!」

 

「彼らはビーラー・ゲリラと呼ばれ、元々は現地の農民だったのだが、神聖クメン王国の支配層と共に武器を手に立ち上がり内乱を起こした。キリコを含めた傭兵たちはそんな連中を相手に殺し合いをえんじることになる」

 

「い、一般人を相手にだって……!?」

 

「こちらの世界でも珍しくはない。大陸中央部では似たような状況下にある国や地域は多い。女神を恨むばかりで自ら立ち上がろうとしないことが異常だ」

 

『……………………』

 

ロッチナの言葉に何人かが目を逸らした。

 

「事実、俺は多くのビーラー・ゲリラを殺した」

 

『ッ!!』

 

キリコの言葉に一部の除いた多くの者が大きく反応した。

 

「……別に見ることは強制ではないようだ。耐えられそうにないなら、すぐに部屋を出るといい」

 

キリコは全員に聞こえるように言った。

 

「大丈夫だ……最後まで見るよ」

 

セドリックは毅然と顔を上げる。

 

「セドリック……」

 

「……私も大丈夫です」

 

アルフィンも毅然とした。

 

「皇女殿下も……」

 

「私も残ります」

 

エリゼはアルフィンの側に立った。

 

「大丈夫なのか?エリゼ……」

 

「はい。帝国を覆う呪いを晴らすヒントがあるかもしれないなら、見て見ぬふりは出来ません」

 

「エリゼさん……」

 

「大丈夫です。万が一何かあれば、私とセリーヌが術を使って対処しますから」

 

エマは魔導杖を手に言った。

 

「わかった。他の人は……」

 

「俺は大丈夫だ」

 

「私も大丈夫です」

 

「わ、私も……!」

 

「ティータには俺がついてる。問題はねえ」

 

「私も残るよ」

 

「ここで尻尾巻くわけないだろう?」

 

ランディ、ティオ、ティータ、アガット、トワ、アンゼリカは残ることを選択した。

 

「決まりのようだな」

 

「キリコ、続きを」

 

「はい」

 

リィンに促されたキリコは台座に触れた。

 

 

 

[キリコ side]

 

ビーラーゲリラの襲撃を振り切り、俺は前線基地であるアッセンブルEX―10に到着した。

 

ここは他の基地と比べてビーラー・ゲリラの攻撃は激しい。

 

にもかかわらず、敵の襲撃を何度もはねかえしてきた実績がある。

 

基地内に通された俺は熱病のワクチンを接種し、レントゲン検査の他に身体を、それこそ尻の穴まで徹底的に調べられた。

 

この世界での兵役検査はどういうものかは知らないが、たぶん同じだろう。

 

それが終わると、部隊長のカン・ユー大尉と基地司令のゴン・ヌー将軍の演説を聞かされた。

 

演説が終わり、指定された宿舎へ向かっていると、俺は意外な人物と会った。

 

ウドの闇商人のゴウトだった。

 

身に着けていた服からかなり羽振りが良さそうだった。

 

なんでも、クメン政府軍や俺のような傭兵を相手に武器やATを売ることで富を築き上げ、今やクメンの名士になっていた。

 

宿舎に荷物を置き、俺はゴウトと共にATを見繕いに行った。

 

そこには、新型のATがいくつも並んでいた。

 

短時間ながら潜水機能を持つ、ダイビングビートルは湿地が多いクメンの環境にもってこいだろう。

 

だが俺は使い慣れている方が良いと、スコープドッグを湿地戦用に改修した、通称マーシィドッグを注文した。

 

ドックを出ると、俺たちは兵士に囲まれた。

 

カン・ユー曰く、俺はメルキアのスパイだと言う。

 

多勢に無勢ということもあり、俺は基地に連行された。

 

俺は妙な機械に拘束され、レーザーのようなものを当てられた。

 

その後すぐに拷問が始まった。

 

鞭やゴム製の警棒で容赦なく打たれた。

 

何の証拠があるんだと聞くと、意外な答えが返ってきた。

 

俺の体内にはメルキア軍のビーコンが埋め込まれていたという。

 

俺はようやく、あの時に射たれたものが何なのかわかった。

 

暫しの間耐えていると、ゴウトとゴン・ヌーが入ってきた。

 

ゴウトが動いてくれたようだ。

 

司令室に連れてこられ、俺はゴン・ヌーからいくつか質問された。

 

その中で俺はPSを見たからだと言った。

 

PSを知っているらしいゴン・ヌーは目の色を変えたが、何も知らないカン・ユーにはおふざけに聞こえたようだ。

 

俺の胸ぐらを掴んできたが、ゴン・ヌーが止めた。

 

俺とゴン・ヌーのやり取りにカン・ユーが口を挟んできた。

 

何も知らなかったことを棚に上げ、カン・ユーはなぜ言わなかったと凄んできた。

 

何も知らない奴にペラペラ喋るほど俺はお人好しじゃない。だから分かる相手になら話していたと返した。

 

とりあえず俺はそこで解放された。

 

この後ゴウトにカン・ユーは蛭のような奴だと聞かされ、後に目の上の瘤だと思い知ることになる。

 

[キリコ side out]

 

 

 

「またなんか一癖のありそうな野郎だな。あのゴン・ヌーってハゲは」

 

「酸いも甘いも噛み分けた歴戦の将だということは分かるな」

 

「それに引き換え、カン・ユー大尉は大物という感じはしないね」

 

「むしろ小物」

 

「ああいう威張ってるのはだいたいそうだもんね~」

 

「人の上に立つには役不足感が否めませんわね」

 

「とりあえず着いていきたいとは思わないな」

 

カン・ユーに対する評価は辛辣そのものだった。

 

「みんな言いたい放題だな。キリコ、君はどうだ?」

 

「バーコフ分隊にいたコチャックの方がはるかにマシだ」

 

「そ、そこまでなの……?」

 

「最後まで見ていれば分かる」

 

「ま、そうだな」

 

「ルスケ大佐はキリコさんがクメンに入ったことはご存知だったんですか?」

 

「無論だ。だがクメンとメルキア政府は長らく対立してきた歴史がある。そんな国に潜り込まれたともなれば、我々とて強硬策は取れんさ。ま、今は置いておいていいだろう」

 

ロッチナは薄ら笑いを浮かべた。

 

 

 

[キリコ side]

 

俺はゴウトに連れられ、補給地としての顔を持つ都市ニイタン来た。

 

そしてとある酒場に着いた。

 

看板にはファンタムクラブと書かれていた。

 

知らない人間なら良いかもしれないが、名前が気に食わない。

 

店内に入ると、傭兵らしい男たちで溢れていた。

 

誰も彼もがジョッキを片手に昼間の愚痴に興じていた。

 

俺はゴウトとカウンターに座った。

 

そこでバーテンとしてグラスを拭いていたバニラと再会した。

 

その直後、白鳥をモチーフにした衣装を着たココナが俺の隣に座った。

 

俺はバニラに何か食べる物とコーヒーを注文した。

 

そこで俺はゴウトたちからウドを出てからのことを聞かれたが、俺は忘れるためにここに来た、と答えた。

 

ゴウトたちが怪訝な顔を浮かべていると、カン・ユーが部下を連れてドカドカと入ってきた。

 

軍の命令で酒場の営業は17時までと決まっているらしい。

 

カン・ユーはコーヒーを飲み終えた俺に絡み始めた。

 

その時、爆発音が響いた。

 

どうやらビーラー・ゲリラの夜襲のようだ。

 

俺はゴウトたちに別れを告げ、宿舎に戻った。

 

基地近くにはトータス系のATが展開していた。

 

一機ずつ確実に落としていくと、奥から青のカラーリングのトータス系ATが現れた。

 

俺は青いATに狙いを定め、攻撃を仕掛ける。

 

だが一発も当たらなかった。

 

この反応速度は間違いなくPSだ。PSなら彼女以外考えられない。

 

俺はATから降りて、青いATに直接呼びかけた。

 

だが青いATは容赦なく撃った。

 

俺はなんとか脱出して難を逃れた。

 

だが、なぜだ。

 

[キリコ side out]

 

 

 

「なかなかスリリングだな」

 

「見る限り、キリコはともかく他は押されてたよね」

 

「土地勘や地形を利用した戦法はビーラー・ゲリラの方が上だ。中には偽装撤退戦術を使う者もいたらしい」

 

「偽装撤退戦術……」

 

「負けた風に見せかけて、引き寄せて一気に皆殺しにする戦術だね。西風なんかがたまにやってたよね?」

 

「そっちは基本的にイケイケドンドンだからね。だからカルバード近郊で負けたんでしょ?」

 

「レミフェリアの時はこっちが勝ったじゃん。誰かさんがランディ兄にムキになったせいで」

 

「そういうシャーリィだって団長に絡んで返り討ちに遭ったでしょ?」

 

「言っちゃうんだ?それ?」

 

「事実じゃん」

 

「もう一回泣き見たい?だんちょおおって」

 

「…………………」

 

フィーは無言で双銃剣を抜く。

 

シャーリィもテスタロッサに手をかける。

 

「落ち着け!フィー!キリコ、この後は!?」

 

「シャーリィも止めろっての!なるべく急ぎで頼む!」

 

リィンとランディはいがみ合う二人を押さえながらキリコに続きを促す。

 

「………………………」

 

キリコはため息をつきながら台座に触れた。

 

 

 

[キリコ side]

 

翌日、俺はゴン・ヌーに呼び出され、カン・ユーの尋問を受けた。

 

ある意味当然だろう。殺してくれと言っているようなものだ。

 

俺はあれは思いつきで、普通の人間なら戸惑ってくれると思ったからだと答えた。

 

この言葉にゴン・ヌーは戦った相手がPSではないかと睨んだ。

 

数枚の写真を出し、ここ数ヵ月前から謎のATにやられるケースが増えたと言った。

 

写真の精度は悪いが、間違いなくあの青いATだ。

 

PSの対処方は何かと質問された時に俺は有効な手立ては思いつかなかった。

 

カン・ユーは重装甲のAT特別部隊の編成を主張したが常人をはるかに上回る反応速度を持つPSにそれは逆効果だ。

 

俺は出会ったら速やかに撤退することだと告げた。

 

カン・ユーは軍法を盾に異論を唱えたが、ゴン・ヌーはカン・ユーを制し、満足げな表情を浮かべた。

 

 

 

尋問が終わり、俺はファンタムクラブに足を運んでいた。

 

すると、俺と入れ替わりになにやら怪しげな男が黒いトランクをカウンターの下に置いて出ていった。

 

単なる忘れ物だと思った。

 

だがそれは最悪の忘れ物だと直感で気づいた。

 

俺はトランクを手に外に駆け出そうとした。

 

だが一人の傭兵に阻まれた。

 

こいつはこのトランクの中身が何なのか気づいていない。

 

俺は傭兵を振り切って店の外に出た。

 

そこでトランクを思いきり投げた。

 

傭兵が俺を取り押さえた瞬間、放り出されたトランクが爆発した。

 

周りが呆然とする中、俺は再び店に入った。

 

傭兵は礼は言わないと言ったが、俺は店のためにやっただけだ。

 

俺はようやくコーヒーと食事にありつけた。

 

その帰りに俺はゴウトから内乱の成り立ちについて聞いた。

 

だが俺にはただの内乱とは思えなかった。もしかしたら、組織の実験が絡んでいるのかもしれない。

 

そこで俺はゴウトの事務所のコンピュータを借りて、対PS専用のミッションディスクの製作に取りかかった。

 

[キリコ side out]

 

 

 

「よく見抜いたものだね」

 

「これ見よがしにトランクを置いていけばな。そういえば、帝国では似たような話はあるのか?」

 

キリコはマキアスの方を見た。

 

「ホテルや空港に爆弾が仕掛けられた事例は多い。どれも表沙汰にならないよう防がれたからあまり知られていないのも無理はない」

 

マキアスはブリッジを上げながら言った。

 

「クロスベルにも似たような事例はありますよ。隠蔽されることも多いみたいですけど」

 

「クロスベルは各国から良くも悪くも注目されているからな。市民感情の悪化を鑑みるに、隠蔽するしかなかったんだろう」

 

「遊撃士にもそうせざるを得ねぇ時がある。臭い物に蓋じゃねぇが、そうした方が良い場合もある。ハーメルの一件もな」

 

「………………………」

 

アッシュは苦い顔をした。

 

「アガット……」

 

「………一応、あの一件は呪いのせいらしいが、とんでもねぇクソ野郎が絡んでやがったとだけ伝えとくぜ」

 

「とんでもない……?」

 

「《白面》かね?」

 

ロッチナが口を開いた。

 

「やっぱ知ってやがったか」

 

「結社身喰らう蛇、元第三柱ゲオルグ・ワイスマン。敵だけでなく身内からも嫌われていたらしいな?」

 

「……ええ」

 

「マスターから聞いたことですが、リベールの異変で命を落としても、盟主以外から何の同情もなかったそうです」

 

「なんだそりゃ?」

 

「よっぽどだな」

 

「……………………」

 

アッシュの胸にやりきれない思いが募った。

 

「なかなか興味深い話だが、今はこちらを優先しよう。キリコ」

 

「…………………………」

 

キリコは何か引っかかるものを感じたが、台座に触れた。

 

 

 

[キリコ side]

 

明くる日、俺は対PS専用ミッションディスクが完成しないまま、エアポートに集合していた。

 

俺を含めた数人が輸送部隊護衛の任務に就くことになった。

 

そこで俺は理知的な雰囲気を持つ傭兵ポル・ポタリアと、ファンタムクラブで突っかかってきた傭兵ブリ・キデーラと挨拶を交わした。

 

そして、後に俺の終生の戦友となるクエント人傭兵のル・シャッコと出会った。

 

シャッコのあまりの体格に当時の俺だけでなく、教官たちも驚いている。

 

このクエントという言葉が俺の運命に深く関わってくるとはこの時は夢にも思わなかった。

 

俺たちはATに乗り込み、さらにATをハングマンと呼ばれる輸送ヘリにドッキングさせる。

 

ハングマンとは絞首人を意味し、吊るされている間は対空砲火に滅法弱い。つまり絞首台に吊るされたも同然というわけだ。

 

幸い、対空砲火を受けずに指定の場所まで来ることが出来た。

 

ここからは輸送ボートの両側にATを二機ずつ固めて出発する。

 

ここからは我慢比べだ。

 

敵はいつ、どこから襲ってくるのかわからない。

 

ATのレーダーを頼りに、いつ終わるかわからない緊張感を宿し、進んでいた。

 

その時、シャッコが何か捉えたと言った。

 

カン・ユーはレーダーの故障だと言ったが、ポタリアの言うようにクエント製レーダーはピカイチの性能を誇る。

 

そうこうしているうちに、カルデの沼に着いた。

 

そこからムナメラ川本流へと向かう時にアクシデントが発生した。

 

ボートが浅瀬に座礁してしまったのだ。

 

そこでカン・ユーは俺に前方の岩にボートのウインチのケーブルを結び付けてこいと命令した。

 

俺でなくてもと思うが、文句を言っても受け付けるはずがない。

 

マーシィドッグにケーブルを引かせ、岩に結び付けた。

 

合図と同時にボートが動き出し、ムナメラ川に無事入った。

 

その直後、ビーラー・ゲリラが奇襲をかけてきた。

 

俺はケーブルを結んだ地点から移動し、例のブルーのATを探しながら応戦した。

 

ある程度撃破すると、遂に姿を現した。

 

俺は対PS専用のミッションディスクを挿入した。

 

まだ未完成ではあったが、それでも効果を発揮した。

 

そうこうしているうちに、ビーラーのATは大半が撃破されていった。

 

不利を悟ったのか、ブルーのATは撤退していった。

 

[キリコ side out]

 

 

 

「………………………」

 

キリコはシャッコを懐かしそうに見つめる。

 

「あのル・シャッコという人物とも何かあったんだな?」

 

「シャッコとは後に惑星クエントで共闘することになる。それ以降もだがな」

 

「キリコさんにとっても大事な方なんですね」

 

「そうだな」

 

「それにしても大きな方ですね。クエント人、でしたか」

 

「巨人みてぇだよな」

 

「惑星クエントの原住民だ。クエント人の男は普通らしい」

 

「あ、あの大きさで普通なんだ……」

 

「寿命も普通の人間より長く、平均で200年生きると本人から聞いたことがある」

 

「ほう。それは興味深いのぉ」

 

ローゼリアは腕を組んだ。

 

「そういえばあんたは差別などはしないんだな?」

 

キリコはエマに聞いた。

 

「はい。魔術は使えるけれど、私たちは人間ですから」

 

「エマ……」

 

「ある意味、俺たちの中で一番フラットな目線を持っているからな」

 

「そんなエマだからこそ、俺たちの委員長が務まったんだろう」

 

「さすがですね」

 

「すごいですよね、エマさん!」

 

「あ、あはは……そんなに持ち上げられても」

 

エマは苦笑いを浮かべた。

 

「それはそうと、次はどうなったのよ?」

 

セリーヌはキリコに問いかけた。

 

「ビーラーの攻撃は激しさを増していった」

 

キリコは台座に触れた。

 

 

 

[ロッチナ side]

 

輸送部隊護衛の任務から数日後、基地はビーラー・ゲリラの夜襲を受けた。

 

キリコはアサルトライフルを手に応戦した。

 

ほとんどは射殺されたが、数人のゲリラは取り逃してしまった。

 

ある程度見回りを終えた後、ゴウトが奢ると言って傭兵たちに酒を振る舞っていた。

 

そんな中、キリコはポタリアの態度が気になっているようだな。

 

翌朝、キリコたち傭兵は広場に集められた。

 

ビーラー・ゲリラの拠点とみられる、ムナメラ川上流のゾンム村を潰すための先発隊を発表するということだった。

 

カン・ユーの口からブリ・キデーラ、ポル・ポタリア、ル・シャッコ、そしてキリコの名前が告げられた。

 

彼らはそれぞれのATに乗り、エアポートから出発した。

 

 

 

1時間後、ゾンム村を発見した。

 

カン・ユーは二機の爆撃機に爆撃の命令を出した。

 

ポタリアは異を唱えるが、カン・ユーは意に介さない。キデーラなどは報償金しか目が映らないのか、呑気に眺めていた。

 

爆撃が終わり、ゾンム村周辺から炎と黒煙がもうもうと上げている。

 

新Ⅶ組から抗議の視線を受けたが、これが戦争だ。

 

ゾンム村に降り立ったカン・ユーは村長を呼び出し、質問した。

 

村長は無関係を主張したが、カン・ユーには通じなかった。

 

カン・ユーは歩兵に村を徹底的に捜索するよう命じた。

 

結局、ビーラー・ゲリラと結びつくものは出てこなかった。

 

さらにカン・ユーは村長や先ほどの捜索で見つかった女を含めた5人を横一列に並べた。

 

そして拳銃の弾を一発だけ残して渡した。

 

所謂ロシアンルーレットか。

 

村長から始まり、一人ずつトリガーを引いていく。

 

空の薬室を打ち抜き、虚しい音を立てた時、皮肉にも生への充足が歓喜となって肉体に溢れる。

 

こんな遊びこそ、この世に似合うのかもしれんな。

 

最後の一人──モニカという女はポタリアの制止を振り切り、こめかみに銃口を当てた。

 

その時、キリコの機体からへヴィマシンガンの火が吹いた。

 

モニカの手を離れた拳銃は暴発し、銃声が鳴った。

 

キリコは拳銃遊びだと吐き捨て、キデーラとシャッコは村の祭壇に発砲した。

 

祭壇の奥から、ビーラー・ゲリラのAT部隊が姿を現した。

 

村は阿鼻叫喚に包まれた。

 

他の連中がAT部隊に目がいく中、キリコは村の裏手にある岩山の麓に来ていた。

 

待機していたATを倒したキリコは青いブルーのATから攻撃を受けた。

 

キリコはメルキア軍で使用されている信号を送り続けている。確かにフィアナなら理解できるだろうな。

 

ブルーのATは動きを止め、コックピットが開いた。

 

そこにいた人物にキリコは立ちすくむ。

 

プロトツーこと、イプシロンだったからだ。

 

そのままキリコはビーラー・ゲリラたちに拘束された。

 

[ロッチナ side out]

 

 

 

「今の人……」

 

「トワ教官、知っているんですか?」

 

「うん……プリシラ皇妃様とジュノー海上要塞にいた時に」

 

「え!?」

 

「どういうことだ?キリコ」

 

「理屈はわからないが、奴も転生したようです」

 

「ルスケ大佐は知りませんか?」

 

「奴はクロスベルの湿地帯で倒れているところを私が保護した。虫の息だったところを黒の工房に預けておいたのだ」

 

「あいつ、めちゃくちゃ強いよ」

 

「シャーリィさん?」

 

「戦ったことあんのかよ?」

 

「黄金の羅刹とタッグを組んで殺り合ったんだけど、実質負けていたしね」

 

『な………!?』

 

リィンたちは絶句した。

 

「ほう、あの黄金の羅刹でさえ手に余るか。キリコ、やはりPSに勝るのはお前くらいだな」

 

「………………………」

 

「いったい、何なんです?PSって」

 

「……ここで私が言うのは簡単だが」

 

ロッチナは帽子を被り直した。

 

「それだと面白くないだろう?」

 

ロッチナはニヤリと笑みを浮かべる。

 

「さあ、まずは囚われの身になったキリコを見よう」

 

「………………………」

 

キリコは台座に触れた。

 

 

 

[キリコ side]

 

ビーラー・ゲリラに捕らえられた俺はクメン奥地にあるカンジェルマン宮殿へと連行された。

 

俺は内乱の首魁カンジェルマンの前に引きずり出された。また、その両隣にフィアナともう一人のPSイプシロンが控えていた。

 

周りからの罵詈雑言が響きわたる中、イプシロンはクメン伝統の武術バランシングで決着を着けるとカンジェルマンに申し出た。

 

クメン出身でない俺はバランシングなどやったことも、ましてや聞いたこともない。

 

体の良い見世物だが、ここは素直に受けるしかなかった。

 

イプシロンの長槍の穂先をかわすが、石畳に足を引っかけてしまい、バランスを崩して転がった。

 

たちまち嘲笑に包まれたが気にしてられない。

 

なんとか立ち上がったが一本も入れられず、逆に負傷した。

 

いよいよ止めという時に、フィアナが止め役を申し出た。

 

フィアナは長槍を手に、俺の肩の一撃を入れた。

 

余興はここまでとして俺は地下牢にぶちこまれた。

 

その夜、牢番が誰かと話している。

 

音がする方を見ると、そこにフィアナがいた。

 

やはり俺の知るフィアナだった。

 

フィアナは俺に肩を貸し、カンジェルマン宮殿の裏手に連れて行ってくれた。

 

そこにはゾンム村にいたモニカとかいう女がいた。

 

俺はフィアナに一緒に来るように言ったが、ヂヂリウムが手に入らないという理由から奴らの元にいるしかない。

 

俺はフィアナに暫しの別れを告げ、モニカの用意したボートで脱出した。

 

フィアナが無事だった。

 

それだけで俺は満足だった。

 

[キリコ side out]

 

 

 

「こんなことがあったのか……」

 

「キリコはどう思っていたんだ?その……フィアナさんに……」

 

「……正直、信じられなかった」

 

「やはり……」

 

「だが目を見た時、殺気がまるでなかった」

 

「それで見抜いたんだな。彼女に何かあると」

 

「はい」

 

(キリコさん……)

 

ミュゼは少し下がった。

 

(大丈夫よ)

 

アルフィンはミュゼの肩に手をおいた。

 

(姫様……)

 

(これはあくまでキリコさんの過去だもの。きっと貴女の想いは届くわ)

 

(はい………)

 

ミュゼはなんとか自分を納得させた。

 

 

 

「そういや、他の連中は何してたんだ?」

 

「俺が拘束された時には、撤退していたらしい」

 

「はぁっ!?」

 

「キュービィーがまだいるのにですの!?」

 

「後日、聞いた限りではな。カン・ユーの命令らしい」

 

「なんだそのふざけた命令は」

 

「どう考えても逆恨みだろう……!」

 

「無能にも程があるでしょ!?」

 

「……………………」

 

キリコ自身も辟易していた。

 

「私も報告は聞いていたが、ここまでとは思わなかったな。さあ、キリコ。続きを」

 

「キリコはこの後どうなるんだ?」

 

「一応、ビーラーのテリトリーからは逃れられた」

 

 

 

[キリコ side]

 

テリトリーから逃れた俺はヘリ部隊に保護され、アッセンブルEX-10の医務室に運ばれた。

 

そこで俺はいかにも重病人のようにチューブをいくつも付けられた。

 

ゴウトたちが見舞う中、カン・ユーが特別尋問だと言ってやって来た。

 

カン・ユーは俺がビーラーと何らかの取引をしたと宣い、ゴウトたちに病室を出るように強く言った。

 

対してゴウトは一歩も引くことなくカン・ユーが俺を見捨てたことを強く咎めた。

 

そんな時、ゴン・ヌーが止めた。

 

ゴン・ヌーはカン・ユーに俺に指一本たりとも触れるなと厳命した。

 

カン・ユーはしぶしぶながらも返事し、病室を出ていった。

 

そこで俺はようやく落ち着けた。

 

俺はビーラーは想像以上の軍勢であること、組織の奴らがいたことを話した。

 

そんな時、あるニュースを耳にした。

 

クメンの首都ザイデンにメルキアの使節団が来たという。

 

これまで争ってきたメルキアとクメンが手を結べばこの内乱は終わるだろう。

 

商売に影響が出るのか、ゴウトもザイデンに向かった。

 

俺としてもやはり気になる。

 

俺は病室を抜け出し、ゴウトの事務所で連絡を待っていた。

 

ゴウトから連絡がきたのは日付が変わる頃だった。

 

メルキアとの停戦合意が決まり、傭兵の立場は危うくなるらしい。

 

電話を切ると、事務所にカン・ユーと兵士数人が入ってきた。

 

カン・ユー曰く、俺はビーラーと何らかの取引を行ったスパイで、今の電話もそのためだという。

 

俺が何を言っても聞く耳持たず、俺は基地に連行された。

 

Ⅶ組の方を見ると、完全に呆れかえっている。

 

特に帝国軍最強と言われる第四機甲師団長を父に持つエリオットは何とも言えない顔をしていた。

 

 

 

俺はカン・ユーから尋問を受けていたが、あまりにも馬鹿馬鹿しかった。

 

改めて見るまでもないほど視野が狭すぎる。そのくせ思い込みは超一流。

 

ゴン・ヌーの審美眼はかなりイカれているようだ。

 

すると隣にいた兵士が変わると言い出した。

 

前から俺を殴ってみたかったと宣った。

 

俺は上体を後ろに倒し、おもいっきり蹴りあげた。

 

兵士は壁に叩きつけられ失神したようだ。

 

その直後、ノックの音が聞こえた。

 

カン・ユーは必死で隠そうとしたが、ポタリアとキデーラに乗り込まれた。

 

二人は縄をほどいてくれた。

 

さらに立て続けに兵士が入ってきた。

 

基地周辺でビーラー・ゲリラが出たらしい。

 

カン・ユーは尋問の途中だと言ったが、ポタリアの説得もあり、出動することになった。

 

ATに乗って出動したはいいが、敵の数があまりにも少ない。ましてやATの反応が一機もない。

 

今のところ見つかったのは高射砲くらいだ。

 

そのとき俺はこれは罠だと悟った。

 

一応、顔を立ててカン・ユーに報告するが聞く耳持たずだった。

 

基地防衛も重要だがニイタンは補給地として重要な拠点だ。

 

何よりあそこにはバニラとココナもいる。

 

俺は単独でニイタンに向かうことにした。

 

さらにポタリアとキデーラも続いた。

 

カン・ユーは軍法会議にかけると吠えたが何事にも例外はある。

 

ポタリアの言うように指揮官が無能の場合はだ。

 

途中カン・ユーの配下が道を塞いだが、シャッコの乗るトレーラーに吹き飛ばされた。

 

俺たちもトレーラーに乗り込み、ニイタンへと急いだ。

 

俺たちが到着すると、ニイタンは既に炎に包まれていた。

 

俺はビーラーのATを撃破しながら店へと急いだ。

 

だが無情にも店は焼け落ちていた。

 

俺はバニラとココナを逃がし、応戦した。

 

敵を全滅させたのは空が白くなってきた頃だった。

 

基地の方向から数台のヘリが飛んでくるのが見えた。

 

キデーラの言うように、ようやく事態に気づいたらしい。

 

あの時素直に応じていれば少なくとも、ニイタンが全て灰にならずに済んだだろう。

 

もっとも、あの無能に期待するのは無駄だろうが。

 

[キリコ side out]

 

 

 

「ほんっとに腹立つわね!何なのよあれ!」

 

「マジでクソだな」

 

「僕もそう思う。キリコ、本当にあれで指揮官なのか?」

 

「あれでも一応、功績を立てた上でのものらしい」

 

「……軍の規律を疑わざるを得ませんね」

 

「まったく!自分の無能ぶりを棚に上げてキリコさんにあんな態度を取るなんて!」

 

新Ⅶ組はカン・ユーの独善ぶりに憤慨した。

 

「み、みんな……」

 

「いや、これはユウナ君たちが正しいね」

 

「こいつぁ自分が無能だって気づかない無能だな」

 

アンゼリカとクロウは新Ⅶ組に同調した。

 

「クロスベル警察のキツネさんも似た感じですけど……」

 

「いやティオすけ、そりゃピエールのオッサンがかわいそうだろ」

 

ティオとランディはクロスベル警察副署長を思い出していた。

 

「まさかあの執事崩れと似たような無能が存在していたとは」

 

「組織において何の得ももたらさぬ愚物か」

 

「キリコ君、本当にお疲れ様ね」

 

鉄機隊はため息が止まらなかった。

 

「あんなタイプは猟兵団ならどうなるんだ?」

 

「ん~、即射殺かな?」

 

「団長だったら、上手いこと言い含めて鉄砲玉に仕立て上げるかもね」

 

「北の猟兵なら有無を言わさず私刑も考えられるわね」

 

アガットの質問にシャーリィ、フィー、サラはそれぞれ答えた。

 

「……キュービィーに同情せずにはいられんのぉ」

 

ローゼリアは終わったら月影亭でキリコにコーヒーを奢ることを決めた。

 

「フフ。この世界でも彼の無能ぶりは堪えるようだな」

 

「ルスケ大佐、彼に指揮官の地位は分不相応過ぎませんか?」

 

「まあ、我慢して最後まで見ることだ。それに君たちの溜飲が少しでも下がるようなことを教えよう」

 

「なんですか?それは?」

 

「フフ。とにかく、今はキリコの足跡を追うとしよう」

 

ロッチナはキリコを促した。

 

「…………………」

 

キリコは一度身体を伸ばし、台座に触れた。


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