英雄伝説 異能の軌跡Ⅱ   作:ボルトメン

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第三章 相克篇始まります。

今年最後の投稿です。


第三章 相克篇
鬼気


七耀暦1206年 8月19日 早朝

 

二代目Ⅶ組は一足先にエリンの里の空き地に集まっていた。

 

「こ、これって……」

 

「僕たちがクロスベルで戦った魔煌機兵に似ているが……」

 

「…………………」

 

キリコを除く二代目Ⅶ組はいつの間にか置いてあった蒼い機甲兵に驚きを隠せなかった。

 

もっともキリコは、ロッチナが置いていったものだということをローゼリアから知らされていた。

 

「キリコさん……もしかしてこれは………」

 

「フェンリール。黒の工房で造られた実験用機甲兵だそうだ」

 

「フェンリール……確か北方の神話に登場する魔獣の名前ですね。神をも殺める牙を持つとされています」

 

「牙ねぇ。確かに左腕はゴツいけどよ」

 

「それより、あれって魔煌機兵じゃないの?」

 

「お前たちが見たのは装甲に細工を施した、言わば紛い物だ」

 

「紛い物……」

 

「……私たちは紛い物に大敗したということですか」

 

「お前たちがそう思うならそういうことだな」

 

「うう……はっきり言うわね」

 

「総合力と継戦能力ではフルメタルドッグは勿論、現行の機甲兵のそれを上回る。ついでにリミッターも最初から外してあった。いくら経験を積んでいようとも、万が一にも敗けることはない」

 

「てんめっ……!」

 

「ですが、事実であるのは否めないかと……」

 

「夕べ見たキリコの前世もそうだが、今の僕たちと圧倒的な差がある。この機甲兵の総掛かりでも敵わないだろう」

 

クルトはフェンリールとフルメタルドッグと共に並ぶドラッケンⅢ・プロトタイプ、シュピーゲルSS試作型、ヘクトル弐型・改、ケストレルβⅡを眺める。

 

「でも諦めたわけじゃない。いずれ、キリコに比肩できるくらい強くなってみせるさ」

 

「勿論、あたしもよ!」

 

「負けっぱなしは我慢ならねぇんでな」

 

「キリコさんのお隣は私の定位置ですので♥️」

 

「ミュゼさんだけは違うような気がしますが……」

 

二代目Ⅶ組はさらなる研鑽を誓った。

 

「………………………」

 

キリコにはその姿勢が羨ましくも感じた。

 

 

 

「そういえば、キリコ君はどっち使うの?」

 

「……おそらく今回はあのクロウ・アームブラストと蒼の騎神との戦闘になるだろう。実力を考慮すると、フェンリールだろうな」

 

「それにしても、フェンリールというのは凄そうだな」

 

「キリコさん。もしかしてあの爪は……」

 

「ああ。ゼムリアストーンでできているらしい」

 

「ゼムリアストーン……!」

 

「ヴァリマールの太刀にも使われている伝説の鉱石ですね」

 

「コストもばかにならないでしょうに、よく開発できましたね」

 

「言っておくが、俺は設計にも開発にも一切関わっていない」

 

「そうなのか?」

 

「ロッチナとシュミット博士は間違いないだろうがな」

 

「容易に想像できるわね」

 

ユウナはげんなりとした表情を浮かべる。

 

(それに、全てが終われば即座にスクラップにするつもりだしな)

 

「キリコさん?」

 

「どうかしたのかよ?」

 

「何でもない。それより、来たようだ」

 

キリコの視線の先には、初代Ⅶ組らが歩いて来た。

 

「すまない。待たせた」

 

「いえ、大丈夫です」

 

「とにかく、これで全員揃いましたね」

 

「まず、魔の森を抜けてエイボン丘陵に出よう。そこに迎えが来る手筈になっている」

 

ガイウスはⅦ組メンバーに向けて言った。

 

「迎え、ですか?」

 

「……なるほど、星杯騎士と言えばあれね」

 

「あ?知ってんのか?」

 

サラの物知りようにアッシュは聞き返す。

 

「ま、自分の目で確かめることね」

 

(何かあるようだな)

 

「そろそろ出発しよう。アルティナ」

 

「了解しました」

 

アルティナは機甲兵を収束させる。

 

「こうやって運んでいたのか」

 

「あ、そっか。キリコ君は知らなかったんだっけ」

 

「というより、この一ヶ月間お前たちが何をしていたかも知らない」

 

「そういえばその辺りの説明をしてなかったな」

 

「では、僭越ながら私の方から説明させて頂きます」

 

ミュゼが説明役を名乗り出た。

 

 

 

キリコは魔の森を歩きながらⅦ組の足跡を聞いた。

 

「里で目覚めた後、サザーラント州に向かい、ハーメルの廃村で西風の旅団と交戦。次にラマール州へ行き、オスギリアス盆地で鉄血の配下に宣戦布告。そしてクロスベルか」

 

「猟兵王や鋼の聖女から動いていたことは聞いてはいたが、よく無事だったな」

 

「いや、それを言うならむしろ君の方がよく無事だったな」

 

「まさかノーザンブリア州にまで行っていたとは」

 

「D∴G教団……あの外道共のロッジがあったなんてね」

 

サラは腕を組んだ。

 

「それにユミルにも行っていたんだ」

 

「話を聞く限り、内戦の時に顕れた霊窟とは別物のようですね」

 

「その翌日、黒竜関に出向いてほとんど一機で陥落させたそうですが……」

 

「帝国時報では、オーロックス砦解放作戦と銘打って第五機甲師団による功績だと報じられていたんだが、間違いないなくあのルスケ大佐が裏から手を回したんだろうな」

 

マキアスは先日読んだ内容を思い返す。

 

「黒竜関襲撃は謎のテロリストによる自爆テロだと報じられていたわ。実際犯行に使われた機動兵器は不明、というかここにあるんだけど……」

 

アリサは複雑そうな表情を浮かべる。

 

「混乱や闘争をもたらすことで呪いの根源を引きずり出すためというのはわかった。だがキリコ、それでは君は……」

 

「世界最悪のテロリスト、というレッテルが貼られることになるな」

 

「だったら……!」

 

「こうなることは最初から覚悟の上だ」

 

「キリコさん……」

 

「どうにも……ならないのか………?」

 

「どうにもならないな。それが俺の運命なら」

 

『…………………………………』

 

Ⅶ組は沈黙に包まれる。

 

 

 

しばらく歩き、Ⅶ組は石碑の前に到着した。

 

「これは里の空き地にあった物と同じか」

 

「ええ。この石碑はエイボン丘陵に繋がっているんです」

 

「ちなみにもう一つはイストミア大森林に通じているわね」

 

「そうか」

 

「あんたねぇ、もう少し何かリアクションはないわけ?」

 

「まあまあ」

 

ミュゼがセリーヌを宥める。

 

「では、参ります」

 

エマの一言と共に、キリコの視界は一瞬真っ白になる。

 

その直後には、景色が変わっていた。

 

「ここがエイボン丘陵か」

 

「キリコ君は来たことはあるの?」

 

「ない。話には聞いたことはあるが」

 

「岩が風化などの影響を受けて、長い時間をかけて姿を変えた物はエイボンの奇岩と呼ばれていますね」

 

「まさに自然の奇跡だな」

 

「それにしても、本当に広いな」

 

「導力バイクを受けて走らせたらさぞや気持ちいいだろうな」

 

「ああ。っと、どうやら先客が来たな」

 

Ⅶ組の目の前に魔獣の群れが駆けて来た。

 

「迎えとやらが来るまでの暇潰しにはなりそうだな」

 

「数は多いけど、私たちならやれる」

 

「行きましょう、教官!」

 

「よし!Ⅶ組総員、戦闘準備!」

 

『おおっ!』

 

Ⅶ組はそれぞれに分かれ、戦闘を開始した。

 

 

 

「螺旋撃!」

 

「ジェミニブラスト!」

 

リィンとユウナのクラフト技が大型の猪型魔獣を撃破する。

 

「行くぜクルト!」

 

「ああ!」

 

アッシュとクルトが狼型の魔獣の群れを連携で一網打尽にする。

 

「ブルーアセンション!」

 

「カルバリーエッジ!」

 

ミュゼとアルティナのアーツがドローメの群れを一掃する。

 

「アーマーブレイクⅡ」

 

キリコのクラフト技がアーツの余波を受けた怪鳥型魔獣を撃ち落とす。

 

 

 

「相変わらず強いな」

 

「私たちもそれなりにレベルアップしているはずなのですが」

 

「本当に遠い背中ね……」

 

「無駄口を叩いている暇があるなら次に対処しろ」

 

「キリコの言うとおりだ。まだまだ来るぞ!」

 

「わかってるっつの」

 

「では、第二部と参りましょう」

 

 

 

リィンたちは襲いかかってくる魔獣の群れを次々と倒していく。

 

その光景に痺れを切らしたのかは不明だが、小型の猪型魔獣が群れを成して接近してきた。

 

「フレア・デスペラード」

 

間髪入れず、キリコはSクラフトで返り討ちにした。

 

これを最後に、魔獣の群れは完全に全滅した。

 

 

 

「終わったか」

 

「はぁ…はぁ……なんとかなったね」

 

分かれていた初代Ⅶ組メンバーも集まる。

 

「ユウナたちは勿論だが、キリコも強くなっているな」

 

「確かに。以前より洗練されているね」

 

「相当な修羅場を潜り抜けているだけあるわね」

 

「やっぱり、普通にしてても強くなれないのかな?」

 

「なんなら、今からグレンヴィルにでもカチコミかけるか?」

 

「極端過ぎます」

 

「下手したらテロリストの汚名を被ることになるぞ」

 

(必要なら俺が出ればいいだけだがな)

 

キリコは腕を組み、そう思った。

 

「来たか」

 

ガイウスが空を見上げた。

 

その直後、何もない所に飛行挺が現れた。

 

「ええっ!?」

 

「急に現れた!?」

 

「そ、それよりあれって……!」

 

「七耀教会の紋章……」

 

「守護騎士に与えられる専用の飛行挺……《メルカバ》だったかしら?」

 

「ええ。サラ教官もご存知か」

 

「星杯騎士とは縄張り争いになることもあるのよ。勿論、基本的には共闘関係だけどね」

 

「なるほど……」

 

話を聞いていたラウラは頷いた。

 

「当面の移動手段というわけか」

 

「そういうことになる。とりあえず、全員乗ってくれ」

 

ガイウスはⅦ組と共に、メルカバに乗艦した。

 

 

 

「ようこそ、メルカバへ」

 

ブリッジで待っていたのはシスターのロジーヌだった。

 

「久しぶりだな、ロジーヌ」

 

「リィンさんもご無事で何よりです」

 

「メルカバにいるってことは、あんたがガイウスの副官なの?」

 

「いえ、ウォーゼル卿は守護騎士を叙任して日が浅いので、私がライサンダー卿の元から出向という形で乗艦しているんです」

 

「彼女には色々と助けてもらっている。勿論、皆にもな」

 

ガイウスの言葉に他の星杯騎士たちも頷く。

 

「すごいですね、ガイウスさん」

 

「うん。僕たちも想像してなかったよ」

 

Ⅶ組は仲間の、或いは先輩の姿にため息が出る。

 

「キリコさん、お久しぶりですね」

 

ロジーヌはキリコに話しかけた。

 

「ロジーヌとも会っていたのか?」

 

「ブロン通りに身を潜めていた時に。騎士団の副長とも会っています」

 

「ブロン通り……」

 

「まあ隠れるにはうってつけだろうが……」

 

エリオットとマキアスの表情が暗くなった。

 

「お二人は知ってるんですか?」

 

「ユウナが知らないのも無理ないかもね。帝都市民なら誰もが知っている区画だよ」

 

「ヘイムダルの掃き溜めなんて言われるくらいの悪所でね。ブロン通りを訪れれば未解決事件も解決するなんて言われてるんだ」

 

「そ、そんな場所があるんですか……」

 

ユウナはため息をついた。

 

「その話はいずれ聞くとして、そろそろ出発しよう」

 

「わかりました。場所はブリオニア島ですね」

 

「ああ」

 

ガイウスが艦長席に座り、ロジーヌは星杯騎士たちに指示を飛ばす。

 

「メルカバ………発進!」

 

ガイウスの号令と同時に、メルカバはブリオニア島に向けて発進した。

 

 

 

[キリコ side]

 

ブリオニア島に着くまでの間、俺は得物のチェックをしていた。

 

まさか工房まであるとは思ってもみなかった。

 

「キリコさん、こちらに居られたんですね」

 

「ずいぶんと熱心なんじゃない?」

 

エマ・ミルスティンとセリーヌがやって来た。

 

「ブリオニア島は独自の魔獣の巣になっている。その上クロウ・アームブラストが待っている。戦いになるのは火を見るより明らかだ」

 

「そのための準備ですか」

 

「……なんなら、その魔導杖も見ておくが?」

 

「良いんですか?」

 

「こちらはほとんど終わっているからな」

 

「すみません、お願いしていいですか」

 

「わかった」

 

俺は魔導杖のチェックに取りかかる。

 

目立った不調は見受けられなかった。これなら問題はなさそうだな。

 

「問題ない」

 

「ありがとうございました」

 

「なかなか器用じゃない?」

 

「こんなことぐらいしか出来ない」

 

「なら、向こうもどうにかしてあげれば?」

 

セリーヌの視線の先にはユウナが立っていた。

 

「どうした?」

 

「えっと……キリコ君……あたしのも見てくれる?」

 

「見せてみろ」

 

ユウナからガンブレイカーを預かる。

 

「………………」

 

あまり手入れをしていないようだ。

 

「……手入れくらいきちんとしろ」

 

「ギクッ……」

 

「いざという時、泣きを見るぞ」

 

「はい……」

 

「特にお前の得物は銃器としての面を持つ。手入れを怠れば照準は間違いなく狂う。肝に命じておけ」

 

「うう……すみません………」

 

どうやらぐうの音も出ないようだ。だが整備不足が原因で命を落としたなど、笑い話にもならない。

 

「そっちは良いのか?」

 

ユウナの後ろにいたミュゼに聞いた。

 

「すみません、私もお願いします」

 

ミュゼから魔導騎銃を預かる。

 

こちらは手入れを怠っていないようだ。

 

「……問題ない」

 

「ありがとうございます」

 

「ミュゼはちゃんと手入れしてるのね」

 

「はい。何かあった時には大変ですから」

 

「そっか、そうだよね」

 

ユウナもわかってくれたようだな。

 

その後、俺はメルカバのラウンジで到着を待った。

 

その間、リィン教官とクルトとマキアス・レーグニッツとコーヒーを片手に雑談していた。

 

[キリコ side out]

 

 

 

メルカバはブリオニア島西側の海岸に着陸した。

 

「着いたな」

 

「二ヶ月ぶりくらいですね」

 

「あの時はミリアムさんを追って島に上陸したんでしたね」

 

「アル……」

 

「大丈夫です。それはそうと、クロウさんはどちらに?」

 

「おそらく、あそこだろうな」

 

リィンは陽霊窟のある方角を指さす。

 

「教官?」

 

「分かるんですか?」

 

「なんとなく、だがな」

 

「なんだそりゃ?」

 

「やはり、贄であるリィンさんは感じるんですね?」

 

「ああ……」

 

リィンは腰に差した太刀を握りしめる。

 

「とにかく、行きましょう」

 

「そうですね。おそらく、クロウさんだけじゃないはずです」

 

「あの鉄機隊の三人も一緒でしょう」

 

「覚悟はできてます」

 

「行こうぜ」

 

「……………」

 

二代目Ⅶ組は顔を上げる。

 

「よし。行こう!」

 

Ⅶ組は陽霊窟目指して歩き出した。

 

 

 

「あれは……」

 

一行の目の前には魔獣の群れが待ち構えていた。

 

「ここで倒すしかなさそうだな」

 

「チッ!面倒な……」

 

Ⅶ組は得物を構える。

 

「……待ってくれ」

 

リィンが待ったをかける。

 

「リィン……?」

 

「どうかしたのか?」

 

「……試すには絶好の機会だと思ってね」

 

「!?まさか……」

 

「鬼の力を……?」

 

「だ、大丈夫なんですか……!?」

 

「里で修復したペンダントがあるからある程度は抑え込めるかもしれないわ」

 

「ですが、それ以上は……」

 

「わかっている。だが、ここで怖れていては前には進めない。頼む……!」

 

「教官………」

 

「……わかりました。ですが、無理と判断した場合は止めます」

 

「すまない……!」

 

リィンは太刀を正眼の位置に構える。

 

「鬼気解放!!」

 

リィンは鬼の力を解放する。

 

「行くぞ!」

 

戦闘が開始された。

 

 

 

「滅・緋空斬!」

 

リィンの太刀から赤黒い斬撃が飛ぶ。鬼の力も手伝ってか、その威力は通常時を上回る。

 

魔獣の何体かは、斬撃に飲み込まれる。

 

「滅・弧月一閃!」

 

赤黒い太刀が岩石型の魔獣に叩き込まれる。破壊を伴った太刀の一閃は魔獣を粉々にする。

 

「す、すごい……!」

 

「なんという威力だ……」

 

「だが、これは……」

 

「はあっ!」

 

リィンが近くにいた最後の魔獣を斬る。

 

「ぐっ……うおおおおおっ!!」

 

鬼の力がリィンの全身を覆う。戦闘は既に終わったが、リィンは太刀を構えた。

 

「いけない!」

 

「暴走するのか!?」

 

「キュ、キュリア!」

 

エリオットが治療アーツをかけるも、効果はなかった。

 

「そんな!?」

 

「アーツでは効かないのか!」

 

「チッ!止めんぞ!」

 

アッシュは得物を構える。

 

「シャアッ!」

 

「!?」

 

リィンは離れていたキリコに猛然と斬りかかる。

 

「なっ!?」

 

「キリコさん!」

 

「手は出すな」

 

キリコは大型ナイフを取り出す。そしてリィンの太刀を受け止める。

 

「キリコ!」

 

「ここは俺がやる」

 

 

 

[キリコ side]

 

リィン教官は他には目もくれず、俺だけを狙っている。

 

リィン教官の鬼の力は帝国に撒き散らされた呪いに起因しているらしい。

 

となれば、ワイズマンに起因しているとも解釈できる。

 

俺だけを狙うのもそこら辺が関係しているのかもしれない。

 

ならば、俺が止める……!

 

 

 

「オオオオッ……!」

 

「ぐっ!」

 

鍔競り合いの形になったが、依然として劣勢だった。

 

「ホロ……ビヨ………」

 

「お断りだな……!」

 

太刀を弾き、隙ができる。

 

その隙を狙って腹部に蹴りを入れる。

 

だが、リィン教官は自分から後方に跳んだ。ダメージはほとんど無いだろう。

 

「シャアアアッ!」

 

リィン教官は再び斬りかかって来た。

 

(得物さえ奪えば……!)

 

俺はリィン教官に接近し、振り下ろされる前に腕を掴み、万力の力を込める。

 

「グウッ……!」

 

さすがに痛みを感じたのか、太刀を手離した。

 

隙を突いて、そのまま教官を投げ飛ばす。

 

「ハンタースロー」

 

矢継ぎ早にナイフを投げる。

 

これはかわされたが、一気に距離を詰めて、大型ナイフで斬りかかる。

 

剣士なら得物を失った時点で勝負は決まったようなものだ。

 

だが俺はその認識は間違っていたと思い知らされた。

 

「餽潰拳!!」

 

リィン教官は黒いオーラを纏った掌底突きを放ってきた。

 

咄嗟に腕を交差させてガードしたが、突きの重さに後方へと吹っ飛ばされる。

 

「八葉一刀流・八の型《無手》……!」

 

ラウラ・S・アルゼイドの呟きが聞こえた。

 

どうやらリィン教官の扱う八葉一刀流とやらには、徒手空拳の心得があるらしい。

 

やむを得ず、俺はアーマーマグナムを構える。

 

「グッ……!ウオオオッ……!」

 

すると突然、リィン教官が苦しみ出した。

 

「教官!?」

 

「鬼の力に抗っている……!?」

 

「今だ、エマ!」

 

「はいっ!」

 

エマ・ミルスティンとガイウス・ウォーゼルが魔術と聖痕の力でリィン教官を正気に戻す。

 

色々と疑問が残るが、とりあえず終了だな。

 

[キリコ side out]

 

 

 

「キリコさん!大丈夫ですか!?」

 

ミュゼがキリコに駆け寄る。

 

「俺はいい。それより教官は?」

 

「なんとか落ち着いたようです。本当に大丈夫なんですか?」

 

「問題ない」

 

キリコは立ち上がり、リィンに近づく。

 

「キリコ、すまない……」

 

「気になさらず。それより、あれは?」

 

「八葉一刀流・八の型《無手》。得物を失った時に行う技さ……かつてユン老師に徹底的に叩き込まれたんだ。だが……」

 

「?」

 

「それは決して教え子に向けるためじゃなかったはずだっ……!」

 

「リィン……」

 

「皆にもすまない。もうこの力は絶対に使わない。それは約束する」

 

『…………………』

 

Ⅶ組は言葉をかけることが出来なかった。

 

「…………………」

 

キリコは腕を組み、何かを考えていた。

 

 

 

その様子を高台から見つめる者たちがいた。

 

「ったく、一度のまれたくらいでビクつきやがって」

 

「仕方ないでしょう。それにしても鬼の力、あそこまでとはね」

 

「シュバルツァーは北方戦役の折り、制御が効かなくなり、力を抑え込んでいたそうだが」

 

「フン。ただの先延ばしでしょうに」

 

「とりあえず、あいつらが来るのを待つ。そんときに決着つけてやりゃあいい」

 

「特に誰かさんには色々と返すもんもあるしな」

 

「……本当に良いんですの?」

 

「ん?」

 

「どちらが勝つにせよ、貴方は……」

 

「いいや、違うな」

 

「え?」

 

男は刃が二つ付いた武器を担ぐ。

 

「勝つのは………あいつさ」

 

 

 

リィンは全員に詫びた後、太刀を拾いに行った。

 

「それじゃ、行こうか──」

 

「帰らせてもらう」

 

『!?』

 

突然のキリコの言葉にⅦ組に動揺が走る。

 

「キ、キリコ君!?」

 

「じょ、冗談を言っている場合じゃ……」

 

「冗談なんか言っていない」

 

キリコは毅然としていた。

 

「なぜだ?ここまで来て」

 

「いちいち言わなければわかりませんか?」

 

「っ!」

 

リィンはキリコの言葉に押し黙る。

 

「……ビビって腰引けた教官様には従えねぇってか?」

 

アッシュが前に出る。

 

「……そうだな」

 

「ヘッ、こういう時は気が合うな」

 

「俺が……ビビっている………?」

 

リィンは何を言われているのか分からなかった。

 

「鬼の力というのはあんた自身の力だろう」

 

「…………………」

 

「その力に怯えたままこの先の戦いに勝てるのか?」

 

「…………………」

 

「そんなに怖いか?」

 

「え……?」

 

キリコは一呼吸置いて言った。

 

「……ミリアム・オライオンの二の舞が」

 

「っ!」

 

リィンは両の拳を握りしめる。

 

「今のままなら、確実に同じ事が起きる。それが初代Ⅶ組か二代目Ⅶ組か、それとも両方か」

 

「いずれにしても、あんたが原因になるのは目に見えているが」

 

「ちょっと!キリコ君!」

 

「黙っていろ」

 

キリコは憤慨するユウナを制した。

 

「どうなんだ?」

 

「…………怖いさ」

 

リィンは震えながら答える。

 

「あの時、俺は力にのまれて……ミリアムを見殺しにしてしまった……。今だってそうだ……俺は……また………」

 

「教官……」

 

「……見損なうな」

 

「え………?」

 

「何ヵ月あんたの下で学んだと思っている」

 

「キリコ……」

 

「あんたは言ったはずだ。教官と生徒というだけでなく、仲間として共に汗をかき、切磋琢磨していこうとな」

 

「それって……」

 

「僕たちが初めて会った時の……」

 

「この言葉は協力して障害に立ち向かえとも読み取れる。それを最初に言い出したあんたが守らないと言うのか?」

 

「あ……」

 

「そ、そうですよ!こういう時こそ、みんなで立ち向かうべきですよ!」

 

「一人で抱えこまないでください。それに、ミリアムさんだって、見殺しにされたとは思っていないはずです」

 

「…………………」

 

二代目Ⅶ組の言葉にリィンは顔を伏せる。

 

「それは我らとて同じだ」

 

「僕たちだってⅦ組の仲間でしょ?」

 

「どんな難題だって僕ら全員で乗りこえてきただろう」

 

「そんなことも忘れたか」

 

初代Ⅶ組もリィンに声をかける。

 

「………………………」

 

リィンは一言も発しないまま下を向いた。

 

 

 

『もう~~、しっかりしなよ!』

 

『え!?』

 

突然、輝く根源たる虚無の剣が現れ、懐かしい声が響く。

 

「これは……!」

 

「根源たる虚無の剣が……」

 

「いや、それよりこの声は……」

 

『ミリアム!!』

 

『そうだよ!ボクだよ!』

 

「ど、どうして……」

 

『どうしても何も、この剣はボクの魂そのものから出来てるからね。よーやく意識を取り戻せたんだ』

 

「なんだそりゃ……」

 

「この……阿呆が……!」

 

ユーシスは拳を握りしめる。

 

「ミリアム……その………」

 

『あっ、それよりリィン?ボクを見殺しにしたとか言ってたけど、何言ってるの?』

 

「え……?」

 

『ボクはリィンやアーちゃんを守りたいから黒の聖獣に飛び込んだんだよ。リィンの言うようなことなんか何一つしてないよ?』

 

「それは……」

 

『ボクは剣になっちゃったけど、みんなを守れたってだけで嬉しいんだよ』

 

「ミリアム……!」

 

『だから……負けないで』

 

「ああ…………ああっ!」

 

リィンは涙を流しながら頷く。

 

『えへへ……あっ、ごめん。そろそろ限界かな……』

 

根源たる虚無の剣は輝きを失う。

 

「ミリアム……」

 

リィンは根源たる虚無の剣を握りしめる。

 

「……すまない、キリコ。また君に教えられた」

 

「気になさらず。それに……」

 

「?」

 

「俺が言えた義理じゃない」

 

「キリコさん……」

 

「ったく。めんどくせぇんだよ、てめぇは」

 

「まあまあ。教官も大丈夫ですか?」

 

「……確かなことはまだ言えない。とにかく、クロウに会ってみよう。多分それが……」

 

リィンは根源たる虚無の剣を腰に差す。

 

「贄である俺がやるべきことなんだろう」

 

「わかりました」

 

「僕たちもお供いたします」

 

「勿論、俺たちもな」

 

Ⅶ組も頷いた。

 

「それとキリコ、君に頼みたいことがある」

 

「なんです?」

 

「これをしばらくの間、預かってほしい」

 

リィンは愛用の太刀をキリコに渡した。

 

「なぜ俺に?」

 

「俺がそうしたいと思ったからさ。それじゃ不満か?」

 

「……わかりました。ですが、もし同じようなことがあれば」

 

「ああ。その時は遠慮なく叩き折ってくれて構わない……!」

 

リィンは毅然と答えた。

 

「リィン……」

 

「それが、リィンの覚悟か」

 

「………………」

 

キリコは一旦アルティナにフェンリールを出してもらい、太刀をコックピット内に無造作に置いた。

 

「それじゃ、行きましょう」

 

「ああ、行こう」

 

(蒼の騎神と蒼の騎士……内戦では幾度となく聞かされた名前。その実力は半端ではないはずだ。なぜ精霊窟を指定してきたかはわからないが、おそらく、オズボーンの言っていた闘争というのに関係があるのだろう。ならばやることは変わらない)

 

Ⅶ組は陽霊窟目指して歩き出した。

 

 

 

『まったくもう、世話がやけるなぁ~~。でも、もう大丈夫かな』

 

根源たる虚無の剣に宿るミリアムの思念はそう呟いた。

 




次回、第一相克が始まります。投稿は年明けになると思います。

原作やり直して思ったけど、長い。サブイベントなんかも入れると大分回り道になるけど気長に頑張ります。

大変な世の中ですが、皆さん良いお年を。

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