英雄伝説 異能の軌跡Ⅱ   作:ボルトメン

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あのキャラが登場します。


攻城②

フルメタルドッグから降りたキリコはオーレリアと対面した。

 

「先日、ミルディーヌ様からそなたの生存の事を聞いた時はとても信じられなかったが、まさか本当に生きていたとはな」

 

「………………」

 

「しかも不死身の異能を持った異界からの転生者だと?まったく、そなたはどこまで私を楽しませるつもりだ?」

 

「………………」

 

(キリコ君に黄金の羅刹殿を楽しませるつもりは毛頭ないと思うけれど)

 

オーレリアの発言にエンネアは呆れる。

 

「そして、蒼の騎士に槍の聖女の弟子たちも加わるとはな。これもひとえにシュバルツァーの人徳か?」

 

「さあな」

 

「まあよいわ。それより行かんのか?」

 

「行くって、貴女もジュノー海上要塞に?」

 

「ああ。ここに皇妃様とハーシェルが囚われているそうだからな」

 

「トワ教官が?」

 

「知らなんだのか?カイエン公爵家城館にいるのはオルディス暫定統括者となったレーグニッツ帝都知事だけだ」

 

オーレリアは意外と言わんばかりの顔をした。

 

「……………………」

 

「キリコ君は初耳……のようね」

 

エンネアはキリコの横顔を見て苦笑いを浮かべる。

 

「まあミルディーヌ様にも何かしらお考えがあるのであろ。それよりそこの、出てこい」

 

「アハハ、見つかっちゃった☆」

 

赤い髪の派手な女がジュノー海上要塞の門の陰から現れた。

 

「貴女は、紅の戦鬼殿……!?」

 

「……シャーリィ・オルランドか」

 

「そういうこと。久しぶりだね、キリコ」

 

「そういえば、戦鬼殿はキリコ君とノーザンブリアにあったD∴G教団のロッジを崩壊させたのよね?」

 

「ほう、そのようなことがあったのか」

 

「まーね。魔弓のお姉さんはともかく、黄金の羅刹もいるなんてね。みんなで要塞に突っ込むんでしょ?」

 

シャーリィはジュノー海上要塞の天守を指さす。

 

「我らは皇妃様とハーシェルの救出のためだ。だがオルランドよ、そなたはなぜここに?」

 

「イプシロンって奴のフォローでだよ」

 

「イプシロンがここにいるのか?」

 

キリコは顔を上げた。

 

「キリコ君、知ってるの?」

 

「………古い付き合いだ」

 

「アストラギウスとやらのか?」

 

「ああ……」

 

キリコは天守を見つめる。

 

「ならばそなたは我らの敵のはずではないのか?」

 

「ここんとこ、あのアルベリヒのネチネチべっとりした指示がずっと続いててさ。ストレスが溜まりまくってて何でもいいから憂さ晴らししたいんだよね~」

 

「なるほどな……」

 

オーレリアは少し考えた。

 

「良かろう。そなたも戦列に加わるがよい」

 

「羅刹殿!?」

 

「腹に一物抱えている者より信用できる。それにキュービィー、そなたならば分かるだろう?」

 

「この先は人数が多い方がいい」

 

「そーなんだ?」

 

「以前、我が居城に新旧Ⅶ組と共に突入した際、主攻と副攻に別れていてな。これ以上は言わぬでも分かるであろ?」

 

「もっちろん♪」

 

シャーリィはニヤリと笑みを浮かべる。

 

「とりあえず、班分けする必要がありますね」

 

「手っ取り早くジャンケンで良いんじゃない?」

 

「………………」

 

「良かろう。では……」

 

ジャンケンの結果………

 

「頼むぞ、紅の戦鬼よ」

 

「はいは~い!」

 

オーレリア・シャーリィ組と

 

「よろしくね、キリコ君」

 

「………………」

 

エンネア・キリコ組が決定した。

 

 

 

「では次に、主攻と副攻を決めねばならぬな」

 

ジュノー海上要塞に入った四人は、二つのルートをどちらかが行くことを話合っていた。

 

「……主攻でいい」

 

「そっちに行くんだ?まあ、キリコが良いならそれでいいけどさ」

 

「イプシロンとやらと戦うためか?」

 

「ああ」

 

「その前に我らが倒してしまうやもしれんぞ?」

 

「それはない。いくらあんたたちでもイプシロンに勝つことは難しい」

 

キリコは断言した。

 

「……なんだと?」

 

「あんたはコンピュータより速く動けるのか?」

 

「キリコ君、それどういう意味?」

 

「奴は普通の人間じゃない。戦うために生まれたPSだ」

 

「PS?」

 

「完全なる兵士、パーフェクトソルジャーの略称だ」

 

「完全……」

 

「そうだ、奴は………」

 

キリコはオーレリアたちにPSについてのことを余すことなく語った。

 

「何……それ………」

 

「脳に手を加えて、能力を強化された人間兵器!?」

 

「おぞましいものだな。よもやそのようなものまで生み出すとは……」

 

オーレリアたちは顔をしかめた。

 

「これでわかっただろう。わかったら奴とは戦わな──」

 

「……面白い。ますます戦ってみたくなったわ」

 

「なんだと……?」

 

「異世界の完全なる兵士、我が剣にて調伏させてみせようぞ」

 

「あたしも戦ってみたいなぁ。なんか面白そうだし」

 

「よせ。敵う相手じゃない」

 

「フフフ、だからこそ燃えるのだ。武人故の性かな」

 

オーレリアはニヤリと笑みを浮かべ、戦意を露にする。

 

「最近、歯応えのない敵ばっかでさ~。思いっきり暴れたいんだよね~♪」

 

シャーリィは得物であるテスタロッサを取り出す。

 

「そういうわけで、我らに主攻は譲ってもらうぞ」

 

「……わかった。好きにしろ」

 

キリコは副攻のルートに向かって歩き出した。

 

「ま、待って!」

 

エンネアはキリコの後を追いかける。

 

「さて、我らも行くとしよう」

 

「オッケー。な・に・が現れるかな~?」

 

オーレリアとシャーリィも出発した。

 

 

 

「あの二人、大丈夫かしら?」

 

「イプシロンに出会わなければな」

 

キリコとエンネアは衛士隊や人形兵器を蹴散らしながら、副攻を突き進んでいた。

 

「そんなに強いの?」

 

「身体能力は勿論、思考速度と情報処理は常人のそれをはるかに超える。更にはっきり言えば、俺より上だ」

 

「キリコ君以上……」

 

エンネアの背中に冷たいものが流れる。

 

「そう言えば、キリコ君の記憶に出てきた……」

 

「ああ。デライダ高地のレッドショルダー基地で目覚めたあいつこそがイプシロンだ」

 

「なるほど……」

 

「奴は強い。もし出くわしたら先に行っててくれ」

 

「キリコ君……」

 

「奴は俺との決着を望んでいる。機甲兵はないが、やるしかない」

 

「………わかったわ」

 

キリコとエンネアは速度を上げた。

 

 

 

「何者だ、貴様は」

 

一方、副攻と同じように敵を蹴散らしながら主攻を進んでいたオーレリアとシャーリィは銀髪の男と対峙していた。

 

「やあ、イプシロン」

 

「紅の戦鬼殿か。持ち場を離れられては困る」

 

「ほう、そなたがイプシロンか」

 

「黄金の羅刹か……戦鬼殿、これは貴女が裏切ったとみて良いな?」

 

「裏切ったわけじゃないけどさ。ただ、ちょっと味見したくてさ♪」

 

シャーリィは得物を取り出す。

 

「イプシロンとやら。キュービィーの言うPSとやらの力、試してくれよう」

 

オーレリアも宝剣を抜く。

 

「……良かろう」

 

イプシロンは穂先が湾曲した長槍を構える。さらに人形兵器も二体現れる。

 

「紅の戦鬼に黄金の羅刹。相手に取って不足なし。パーフェクトソルジャーの力、受けてみろ」

 

 

 

一方、カイエン公爵家城館では……

 

「待っていたよ。Ⅶ組の諸君」

 

饗応の間でⅦ組は紫色の髪の女と対峙していた。

 

紫色の髪の女は仮面を被っていた。

 

「へっ……やっぱりお前が出張ってやがったか。ゼリカ──いや今は《紅のロスヴァイセ》だったか」

 

「フフ、元ジークフリード君だったか。確かに私の存在は再規定されている。いかなる温情も通用しない。まあ、麗しき公女殿を連れてきたのは個人的にはグッジョブと言いたいが」

 

「ふふ、恐れ入ります」

 

「アンゼリカさん……本当に………」

 

「フッ、金髪の君も青髪の君もワガママボディの君も妖精のごとき君も紫電の貴女もピンク派の君も黒兎の君も今宵の獲物にふさわしい。後で存分に語り合おうではないか!」

 

『アンゼリカ(さん)!?』

 

新旧Ⅶ組女子は一斉につっこむ。

 

「……ふふ、しかし久しぶりだ。リィン君にトールズⅦ組の諸君」

 

紅のロスヴァイセが一旦下がり、眼鏡をかけた男性が口を開いた。

 

「レーグニッツ知事……」

 

「そして良く来たな、マキアス。だがな、これはいかん。司法監察官の権限を逸脱した越権行為が過ぎるようだが?」

 

「ああ、百も承知だ。だが司法監察官には緊急時のための超法規捜索手順が存在する。プリシラ様だけでなく、民間人のハーシェル先輩。お二人がジュノー海上要塞に軟禁となっている時点で行政への強制監禁案件にはなるんだ」

 

「そのとおり。その場合、帝都知事であろうと一切の権限は及ばない」

 

レーグニッツ知事は穏やかな表情で言った。

 

「……っ!」

 

マキアスはそんなレーグニッツ知事の態度に腹が立った。

 

「カール・レーグニッツ!それがわからない貴方じゃないだろう!それなのに何故、帝国政府の意向のまま、お二人の軟禁に手を貸している!?僕の知っている貴方ならば中央政府の意向など撥ね付ける気概くらい──」

 

「……逆らったからこそ閣下はオルディスへと異動させられたのです」

 

レーグニッツ知事の後ろで控えていたクレア少佐が進み出た。その表情はひどく辛いものだった。

 

「なっ!?」

 

「まさか……」

 

リィンたちは二の句が継げなくなる。

 

「私の立場から説明するのもおかしな話でしょうが……黄昏の日以来、知事閣下は信頼できる方々と共に様々な形で戦争に反対の道を歩まれました」

 

「国家総動員法への反対に、帝都庁を挙げての反戦キャンペーン、皇帝陛下の暗殺未遂が共和国の陰謀というのは誤りであるという指摘、ですね?」

 

ミュゼはクレア少佐の言葉に答える。

 

「そのとおりです。しかしそのどれもが実を結ばず、不自然なまでの失敗に終わりました。賛同者の突然の心変わり、もしくはあり得ない誤解と連絡不足。さらには事故に巻き込まれての関係者の入院。どれもまったくの偶然によって」

 

「………な………………」

 

「ま、まさか、まさかそれまでもが………」

 

「巨イナル黄昏の呪い……」

 

「因果律操作機能とでも言うべき、強制力ですね」

 

「みなさんもご覧になってきたと思います。戦争に懐疑的だった方々が一転して開戦を望むようになってしまう様を」

 

「ですが、そういった分かり易い変化以上に〝見えない力〟が帝国の在り方を歪めている。特に軍や行政の現場においてそれは顕著……違いますか?」

 

ミュゼはレーグニッツ知事に鋭い視線を向ける。

 

「……そこまでか………」

 

「父さん……本当なのか?」

 

「肯定するつもりはない。私は私の政治信条で動いたまでだ。そしてそれが裏目に出たとしてもそれは政治家としての私の力量不足」

 

対するレーグニッツ知事は毅然とした態度を示す。

 

「国家総動員法の下に帝都の行政管理が一時的に統合され、代わりに海都の行政管理に回されたのも全ては私自身の限界によるものだろう」

 

「知事閣下……」

 

「その見えない力でいつの間にか底に填め込まれてたってことか」

 

「貴方は……それで良いんですか?」

 

「結果を受け止めるのも政治家であり、更には行政担当者というものだ。そして今の私は海都の暫定統括者。統括府であるこの城館並びに要塞の管理も任されている」

 

「では、ここにプリシラ皇妃様とトワ教官が居られないのは……」

 

「──二人を解放したくば『強制監察』及び『保護』の名目で挑んできたまえ。ただしこちらも職務を全うさせてもらう」

 

レーグニッツ知事が右手を挙げると、控えていたTMP隊員たちがⅦ組を囲む。

 

「職務……ですか」

 

「父さん、貴方は……」

 

「……知事閣下の思惑と私の責務は異なりますが」

 

クレア少佐は導力銃を取り出す。

 

「元より衛士隊主導の軟禁……ですが見過ごすわけにはいきません。鉄道憲兵隊として、既に手配されたⅦ組を捨て置くことも──何よりも呪いの依代でもある、《鉄血の子供》としての使命のためにも!」

 

クレア少佐の瞳の色が変わった。その瞬間、TMP隊員たちに何かが伝播する。

 

「あれは……!?」

 

「ブレイブオーダー!?」

 

「いえ、何かが違います!」

 

Ⅶ組に動揺が走る。

 

「──総員、戦闘体勢に移行!」

 

『!』

 

リィンの号令で平静さが戻る。

 

「良いでしょう。ですが、こちらにも譲れないものがあるんです!」

 

「これより、強制監察を開始する!」

 

新旧Ⅶ組は戦闘を開始した。

 

 

 

「どうした。この程度か?」

 

「はぁ…はぁ…はぁ……」

 

「あはは……こりゃわりとピンチかもね……」

 

オーレリアとシャーリィはイプシロンに追いつめられていた。

 

「人形兵器はともかくパーフェクトソルジャー、これほどとは」

 

「当然だ。如何に黄金の羅刹と言えど、PSである私には及ばない」

 

「くっ!」

 

「キリコの忠告……聞いとくべきだったか……」

 

「だが、引くわけにはいかん……!」

 

オーレリアが斬りかかる。

 

「遅いな」

 

イプシロンが一瞬速く動き、長槍で払う。

 

「うぐっ!?」

 

防御が遅れたオーレリアは下がらざるを得なかった。

 

「斬り刻んで──」

 

「ハアッ!」

 

イプシロンはシャーリィの懐に飛び込み、テスタロッサの軌道を変える。

 

「嘘っ!?」

 

「ぬぅんっ!」

 

「カハッ!?」

 

長槍の連撃を受けたシャーリィは後方へとふき飛ばされる。

 

「そろそろ楽にしてやろう」

 

イプシロンは二人に止めを刺そうと長槍を構える。

 

「じょ、上等じゃん……!」

 

「できるものなら、な!」

 

シャーリィとオーレリアも死力をふりしぼる。

 

「フッ、良い覚悟だ──」

 

突然、イプシロンのARCUSⅡに通信が入る。

 

「チッ、こんな時に……」

 

イプシロンはARCUSⅡを開いた。

 

「どうした。………そうか」

 

イプシロンは通信を切り、長槍をしまう。

 

「既にキリコは軟禁場所に到達した。遺憾ながら、撤退させてもらう」

 

イプシロンは転移して行った。

 

「「………………」」

 

残された二人は得物をしまった。

 

「フーーッ!」

 

「あれが完全なる兵士パーフェクトソルジャー……ぬかったわ」

 

「正直、撤退してくれて良かったかもね……」

 

「うむ。あのまま続けていれば、こちらが危うかった。もっと精進せねばならんな」

 

「あたしもいずれ借りは返さなきゃね」

 

二人の闘志は萎えるどころか、さらに燃え上がる。

 

「とにかく急ぐぞ。既にキュービィーたちは皇妃殿下たちの元へとたどり着いたようだ」

 

「んじゃ、行こっか!」

 

二人は走り出した。

 

 

 

「本当に……キリコ君なの?」

 

「はい」

 

少し前、キリコはプリシラ皇妃とトワとの再会を果たしていた。

 

エンネアは部屋の外で待機していた。

 

「陛下を撃った罪で公開処刑されたって……」

 

「あの日、公開処刑されたのは別の死刑囚による身代わりだったそうです。俺自身は薬で仮死状態にされ、ヘイムダル監獄から逃がされました」

 

「身代わり……そうだったんだ………」

 

トワはキリコの話をしっかりと聞いた。

 

「キリコさん……」

 

プリシラ皇妃はキリコを見つめる。

 

「…………………」

 

キリコの表情も険しくなる。

 

「良かった……本当にご無事で何よりです」

 

プリシラ皇妃は憤怒でもなく悲壮でもなく、安堵の表情を浮かべる。

 

「っ!」

 

キリコは予想外の言葉に顔を上げる。

 

「俺はあんたの夫を撃った」

 

「はい……」

 

「罵らないのか……?」

 

「……貴方はエレボニアを覆う呪いに囚われたご友人を救うために身代わりになったと聞きました。それなのに、真実も明らかにされないまま処刑されたと聞き、心を痛めていました」

 

「…………………」

 

「皇妃様はね、ずっと悩んでおられたの。キリコ君を死なせたのは、自分たちなんじゃないかって」

 

「…………………」

 

「でも……本当に良かった。皇妃様、どうかキリコ君を──」

 

「トワ教官、許していただく必要はありません」

 

キリコはきっぱりと断りを入れる。

 

「キリコ君!?どうして……!」

 

「なぜですか……?」

 

「たとえ許しを得ても、この国の人間が納得するはずがない」

 

「キリコさん……」

 

「下手をすれば、皇族の茶番劇だと言われるのがオチだ」

 

「それは……」

 

トワは言葉が見つからなかった。

 

「……それはアルノール家の落ち度です」

 

プリシラ皇妃はキリコをまっすぐ見つめる。

 

「全ての原因は、呪いの存在を知りながら放置していたアルノール家の責任です。たとえキリコさんが関わっていたとしても、それを責めるのは筋違いだと思います」

 

「キリコ君が呪いに?」

 

「ロッチ……ルスケ大佐辺りから聞かされたか」

 

「はい。キリコさんが異世界から転生したこと、不死の異能を持つこと、そして呪いの根源たる存在と因縁を持つことを」

 

「ど、どういうこと……?」

 

「それは……」

 

キリコはトワに自身についてのことを説明した。

 

「………………………………」

 

トワは茫然自失となった。

 

「一応、新旧Ⅶ組と一部の人間は知っています」

 

「そ、そうなんだ………」

 

トワはやっとこさ言葉を絞り出す。

 

「俺がここに来たのは二人を救出することと、ジュノー海上要塞を陥落させることです」

 

「どうして……!」

 

「俺の目的は呪いの根源たる存在を引きずり出すこと。これまで帝国各地で混乱を引き起こしたり要所を潰してきた理由もそれです」

 

「帝国各地の要所……」

 

「クロスベル、オーロックス砦、黒竜関。トワ教官も聞いたことがあるはずです」

 

「も、もしかして謎の蒼い機甲兵!?」

 

「はい」

 

「…………………」

 

トワは二の句が継げなくなる。

 

「リィン教官たちは七の相克を勝ち進むことで呪いの根源に迫る姿勢ですが、その根源が俺が知っている存在であるなら呪いを俺自身の手で加速させなくてはなりません」

 

「で、でもキリコ君……それじゃあ………」

 

「たとえ世界最悪のテロリストのレッテルを貼られようとも、俺にはこの道しか存在しない」

 

「どうにも……ならないの………?」

 

「それが、俺の運命なら」

 

「さだめ……」

 

プリシラ皇妃はキリコの背負う宿命を垣間見た気がした。

 

「そろそろここを脱出する」

 

「脱出するのはいいけど、どこに行くの?」

 

「現在、オルディスには教官たちがいます。カイエン公爵家の城館に連れて行きます」

 

「キリコ君はリィン君の指示でここに?」

 

「ここに来たのは俺の独断です」

 

「え……」

 

「とにかく、ここを出ましょう」

 

「う、うん。そうだ──」

 

突如、キリコたちの近くに魔法陣が顕れた。

 

「やはり来ていたか、キリコ」

 

「イプシロン……!」

 

キリコとイプシロンは互いに殺気を放つ。

 

「キュービィー!」

 

後ろの扉が開き、オーレリアとシャーリィが入って来た。

 

「分校長!?それに貴女は……!?」

 

「オーレリア将軍……」

 

「皇妃殿下、ご無事で何よりでございます。ハーシェルも変わりないな?」

 

「は、はい。そ、それより分校長、その傷は……」

 

「そこにいるイプシロンにつけられたものだ。キュービィーの忠告を無視した結果よ」

 

「強いなんてもんじゃないね。根っこの部分からして違うんだからさ」

 

「そんな相手が……」

 

トワは思わず後退りした。

 

「キュービィー」

 

「……………」

 

「任せて良いのだな?」

 

「ああ。だがその前に」

 

キリコは懐から封筒のようなものを取り出し、オーレリアに渡した。

 

「これは──」

 

「書いてあるとおりだ」

 

「えーと、退学……届け?」

 

横から覗きこんだシャーリィは封筒に書かれた文字を読む。

 

「キリコ君!?」

 

思わぬ言葉にトワは狼狽えた。

 

「理由は言わなくても分かるはずだ」

 

「……………………」

 

キリコの目を見たオーレリアは一瞥した後、懐にしまった。

 

「一応、預かっておく」

 

「すまない」

 

「礼などいらん。さっさと倒して帰って来い」

 

「キリコ、また会おうね」

 

「では参りましょう」

 

「は、はい……」

 

「……わかりました」

 

プリシラ皇妃とトワはオーレリアとシャーリィとエンネアに連れられて出ていった。

 

「やるべきことは終わった」

 

「そうか。なら……!」

 

イプシロンは長槍を構える。

 

「ああ」

 

キリコもアーマーマグナムをイプシロンに向ける。

 

 

 

一方、カイエン公爵家城館では決着がついていた。

 

アンチオーダーと呼ばれる特殊な機能の前にⅦ組は苦戦を強いられたが、ブレイブオーダーと似たものと理解し、反撃に転じた。

 

最終的には、クレア少佐率いるTMP隊員たちと紅のロスヴァイセは膝をつくことになった。

 

「フッ、なかなかに熱い……!さすがは氷にヒビを入れた──」

 

突如、紅のロスヴァイセは頭を抑え、苦しみ出した。

 

「ア、アンゼリカさん!?」

 

「……………ト……ワ…………クロ、ウ…………ジョル、ジュ……………!?」

 

紅のロスヴァイセはたどたどしく、名前を絞り出す。

 

「あ……!」

 

「まさか、記憶が戻りかけてんのか!?」

 

「やっぱりあの仮面か……!」

 

クロウは前に出る。

 

「おいゼリカ──アンゼリカ・ログナー!しっかりしやがれ!!」

 

「ア………アンゼリカ…………?」

 

「そうだろ!お前はログナー家の鼻つまみで、オンナばっかのハーレム作って、俺らと1年間好き勝手しまくっただろうが!」

 

「………ち………違う………………私、は…………紅のロス………」

 

「いいえ、それは仮初の役割です……!」

 

「先輩、自分を強く持ってください!そうすれば、きっと……!」

 

「お前にはまだやることが残ってんだろ!戻ってこいや!ゼリカァァァァッ!!」

 

「グッ……うあぁぁぁぁっ!!」

 

次の瞬間、仮面は完全に砕けて地面に落ちた。

 

「……………………………」

 

「あ……………」

 

クレア少佐は安堵したような表情を浮かべる。

 

「せ、先輩……!!」

 

「アンゼリカさん!」

 

リィンたちは膝をつくアンゼリカに駆け寄る。

 

「っ………はは…………」

 

アンゼリカは微笑みを浮かべる。

 

「………頼みがあるんだ………アリサ君たち。

……もう少しだけ近くに寄ってくれないか………?

……その可愛い顔は仮面越しじゃ………堪能出来なかったからね」

 

「ゼリカ、お前……!」

 

「記憶が戻ったんですね!?」

 

「アンゼリカさん……良かった………!」

 

ユウナは涙を拭う。

 

「フフ、ユウナ君。君には涙は似合わないよ。ラウラ君にサラ教官、凛々しい姿はどこにいったのかな?フィー君にアルティナ君にセリーヌ君、このまま抱き締めても良いかい?それとも、アリサ君とエマ君の胸の中で溺れてしまおうか……!」

 

「ったく、アンタって娘は……!」

 

「空気ってものを読みなさい」

 

「つーかこのパイセン……一気に元に戻り過ぎだろ」

 

「ふふ、元々の記憶や人格はそのままだったみたいですし。あの仮面で強制的に役割を与えていたに過ぎないんでしょう」

 

「俺の時とは事情が違うってか。ヘッ……ジョルジュの野郎、妙にツメが甘いっつうか」

 

クロウは自身の経験と比較した。

 

「……それが彼に僅かに残った〝隙〟なのかもしれませんね。………いいえ、きっと私も…………」

 

「クレア少佐……」

 

「………まだ、戦いますか?」

 

「いいえ。残念ですが……任務は失敗のようですね」

 

クレア少佐は導力銃をしまう。

 

「リーヴェルト少佐……」

 

レーグニッツ知事はクレア少佐を見つめる。

 

「どうやら区切りはついたようだな」

 

饗応の間に、眼帯をかけた軍人が入って来た。

 

「貴方は……!」

 

「……お疲れ様です、将軍閣下」

 

「叔父上!?」

 

新旧Ⅶ組は眼帯をかけた軍人を驚愕の目で見つめる。

 

「初めての者もいるようだ。第三機甲師団司令ゼクス・ヴァンダールという。久しぶりだな、シュバルツァー君。そしてⅦ組の諸君」

 

「……お久しぶりです。中将──いえ、将軍閣下」

 

「自分たちを捕まえに……というわけでもなさそうですが」

 

「うむ──事態の収拾に来ただけだ。それよりもⅦ組の諸君、久闊を叙している場合ではない。一刻も早くジュノーに向かうのだ」

 

「ジュノーに?」

 

「そうだった!ジュノー海上要塞には皇妃様とトワ先輩がいるんだ!」

 

「衛士隊がわんさかいるらしいんだがな」

 

「その付近にも戦力が集結していることは間違いないだろう」

 

「いや、既に壊滅状態であった」

 

『!?』

 

Ⅶ組とクレア少佐は言葉を失う。

 

「か、壊滅!?」

 

「精鋭揃いの衛士隊が……!?」

 

「部下に遠目から偵察させた。要塞付近で大規模な戦闘が確認された。いや、もはや戦闘とは呼べぬ。一方的な蹂躙であろう」

 

「し、しかし、いったいどこと……!」

 

「分からぬ」

 

ゼクス将軍は断言した。

 

「リーヴェルト少佐、後のことは……」

 

「はい。お任せいたします、将軍閣下」

 

クレア少佐は頭を下げた。

 

「現時刻を以て鉄道憲兵隊は城館から撤退、リーヴス方面へと戻ります」

 

「リーヴス……」

 

「そういや、リーヴスにはあの皇太子が本校生徒ごと入っているんだったな」

 

「セドリック殿下が?」

 

「東リーヴス街道で魔煌機兵が暴走する事態が起きたろ。元々は衛士隊が住民を脅しつけるために侵攻したものだったみてぇだが」

 

「なんですって!?」

 

「はい。その後、事態を重く見た殿下がトールズ本校生徒と共にリーヴスに入り、皇太子権限でTMPを置き、衛士隊は一人たりとも入らせない措置を取ったんです」

 

「殿下……」

 

「なぜそのようなことを自分たちに?」

 

「こう言ってはなんですが、僕たちは追われる身です。何か策謀があると考えるのが自然です」

 

「……現在、あなた方にかけられている指名手配が通用するのは鉄道憲兵隊と帝都憲兵隊、そして衛士隊に限られています。あなた方が上手く立ち回るためにはそういった〝隙〟を突いていくしかないようです」

 

「隙……」

 

「では、失礼いたします」

 

クレア少佐はTMP隊員たちと共にⅦ組らに敬礼をして去って行った。

 

「クレア教官……」

 

「あの人にも色々あるのでしょう」

 

「そう……だよね」

 

「とりあえずシュバルツァー、行くんだろ」

 

「ああ、とにかくジュノーに行こう!」

 

『おおっ!』

 

「何が起こるか分からぬ。十分に気をつけるのだぞ」

 

新旧Ⅶ組は饗応の間を飛び出して行った。

 

 

 

一方、キリコとイプシロンの戦闘は激化していた。

 

「ハアッ!」

 

イプシロンが長槍で斬りかかる。

 

「っ!」

 

キリコは刃をギリギリでかわす。

 

「クリアブラスト」

 

返す刀でキリコはクラフト技を放つ。

 

「くっ!」

 

イプシロンは横っ飛びでかわす。

 

「ハンティングスロー」

 

キリコは強化された投げナイフをなげる。

 

「甘いっ!」

 

イプシロンは投げナイフを長槍ではたき落とす。

 

「アーマーブレイクⅡ」

 

続けてリミッターを外したアーマーマグナムの一撃を放つ。

 

「無駄だっ!」

 

イプシロンは最小限の動きでかわし、突きを放つ。

 

「クッ!」

 

キリコは回避した際に体勢を崩した。

 

「もらった!」

 

イプシロンは長槍を振り下ろそうとした。

 

「………………」

 

キリコは体勢を崩しながらも、天井のスプリンクラーをアーマーマグナムで撃ち抜いた。スプリンクラーから大量の水が流れ落ちて、イプシロンがそれを被る。

 

「しまっ……ぐはっ!?」

 

キリコが死角からイプシロンを殴りつける。イプシロンは吹っ飛ばされた。

 

「いくらPSでも、見えなければ何もできん」

 

キリコは起き上がるイプシロンを見つめる。

 

「確かにな。今のは効いたぞ」

 

イプシロンは長槍を取り、構え直す。

 

「やはり立ってくるか」

 

「当然だ。貴様を殺すことで、私の存在を証明できるからだ」

 

「イプシロン……」

 

「無駄話は終わりだ。行くぞ、キリコ!」

 

イプシロンはキリコめがけて斬りかかる。

 

「……………………」

 

キリコは微動だにしなかった。

 

「臆したかぁっ!!」

 

キリコの首に長槍の刃が迫る。

 

「っ!」

 

キリコは寸前でかわした。刃はキリコの髪の毛先を斬っただけだった。

 

「なっ!?」

 

イプシロンは一瞬硬直した。

 

「これで……!」

 

キリコは大型ナイフを抜き、イプシロンの心臓に狙いを定め、一気に突き刺す。

 

「!?」

 

だが大型ナイフが突き刺したのは、人形だった。

 

「これは……っ!?」

 

人形から硝煙の臭いが漂い、キリコは大型ナイフを手放す。

 

床に落ちた瞬間、人形は爆発した。

 

「人形を利用したトラップか。出てこい」

 

「フフフフ……」

 

女の笑い声が響いた。

 

 

 

空中に魔法陣が顕れ、その上に金髪の女が現れた。

 

「ごきげんよう。貴方が不死の異能者ですわね」

 

「……あんたは?」

 

「これは失礼。私は結社身喰らう蛇の使徒第三柱《根源の錬金術師》マリアベル・クロイス。以後見知りおきを」

 

「……………………」

 

マリアベルは優雅に挨拶をしたが、キリコには慇懃無礼にしか感じなかった。

 

「それにしても妙ですわね。あの人形に仕込んだ爆薬は突き刺した瞬間起爆するようになっているはずですのに」

 

「偶然、粗悪品だった。そういうことだろう」

 

「なるほど。やはりダブルチェックは欠かせませんわね」

 

「それで、いったい何の用だ」

 

「黒のアルベリヒの指示で、イプシロンの回収に来ましたの」

 

「待て!私はまだ………」

 

「…………………」

 

マリアベルはフィンガースナップを鳴らした。イプシロンは糸の切れた操り人形のように崩れ落ちた。

 

「な……!」

 

「フフ、これくらい造作もないこと。それにしても貴方……」

 

「?」

 

マリアベルはキリコを見据える。

 

 

 

「私の造ったお人形の相手にはもう少し進歩していただかないといけませんわね」

 

 

 

「人……形………?」

 

「フフ。そう、《F》という名前のね」

 

「なんだと!?」

 

キリコは必死に心を落ち着かせる。

 

「……《F》は黒のアルベリヒが造ったのではないのか?」

 

「あの男がやったのはあくまでも調整。あの《F》は私の作品の一つ」

 

「………………………」

 

「まあ、愛しのローゼンベルク人形には遠く及ばない駄作ですが」

 

「………………………」

 

キリコはマリアベルを怒りの表情で見据える。

 

「何ですの?その目は」

 

「なぜあんなものを造った」

 

「うーん、そうですわねぇ。強いて言えば気まぐれでしょうか」

 

「気まぐれ?」

 

「そう、気まぐれ。ですから、どこぞの誰かさんに負けた時はスクラップにしてしまおうと思ったんですけど、あの男がねだるものですから仕方がなく譲ったんですの」

 

マリアベルはいくつかのローゼンベルク人形を取り出した。

 

「ああ、私の可愛い子たち。やっぱりあなたたちさえいればいいわ♥️」

 

「…………………」

 

キリコはマリアベルめがけてアーマーマグナムの引き金を引く。

 

「!」

 

マリアベルは障壁を張って防御する。

 

「あらあら。どういうつもりかしら?」

 

「この場で殺す」

 

「フフフ、出来るかしら?」

 

マリアベルは魔導杖を掲げる。

 

すると天井に巨大な魔法陣が描かれる。

 

「これは……!」

 

「ではごきげんよう」

 

マリアベルはイプシロンを連れて、転移して行った。

 

(色々と言いたいことはあったが、今は脱出が先か)

 

キリコは頭を切り換え、部屋を出ようとした。だが扉は何らかの力が加わっていてびくともしなかった。

 

「チッ!」

 

キリコは窓側へと走る。

 

その瞬間、魔法陣が輝き出す。その数秒後……

 

ジュノー海上要塞は大爆発を起こした。

 

キリコは爆風を浴び、窓の外に吹き飛ばされた。

 

 

 

「なっ……!?」

 

「ジュノーが……!」

 

「な、なんなのよ!あの爆発は!?」

 

Ⅶ組は、ジュノー海上要塞が大爆発を起こした瞬間を目撃した。

 

「セリーヌ、今のは!」

 

「一瞬だけど、魔術の反応があったわ。まさかあの女………」

 

「残念だけど、深淵のお姉さんとは違うよ」

 

「なっ!?」

 

「き、君は……」

 

「シャーリィ・オルランド……!」

 

新旧Ⅶ組は歩いて来たシャーリィの存在に驚愕し、フィーは双銃剣を構える。

 

「……何しに来たの?」

 

「まあまあ落ち着きなって。別に戦いに来たんじゃないんだから」

 

「どういうつもりかしら?」

 

「フフ、こういうためだ」

 

シャーリィの後ろからプリシラ皇妃を連れたオーレリアが歩いて来た。

 

「ぶ、ぶ、分校長!?」

 

「それに皇妃殿下!?」

 

Ⅶ組は驚きを隠せなかった。

 

「ど、どうしてこちらに……」

 

「どうしてもこうしてもない。皇妃殿下の危機に駆けつけたまでよ」

 

「ご、ご無事で何よりです……」

 

「そなたらも無事で何よりである。それとアンゼリカ嬢」

 

「なんでしょう?」

 

「貴女にお会いしたい者がおりまする」

 

「へ………」

 

オーレリアは脇に逸れる。

 

「え………」

 

「あ……!」

 

「……ト……ワ………?」

 

「マジ……かよ………」

 

「アン………ちゃん…………」

 

トワの両目から大粒の涙が溢れる。

 

「アンちゃあんっ!!」

 

トワはアンゼリカの首元に抱きつく。

 

「ぐすっ、よかった……!アンちゃんがいなくなってから………いっぱいいっぱい心配してたんだからね!?」

 

「すまない、トワ。もうどこにも行かないよ」

 

アンゼリカはトワの頭を撫でる。

 

「グスッ……本当によかった……」

 

「ああ」

 

リィンは改めてプリシラ皇妃の方を向く。

 

「皇妃様、ご無事で何よりです」

 

「ありがとうございます。リィンさんにⅦ組の皆さん。ですが、急を要します」

 

『!』

 

Ⅶ組はプリシラ皇妃の言葉に顔を上げる。

 

「何かあったんですか!?」

 

「あの要塞には、キリコさんがおられるのです」

 

「キリコが!?」

 

クルトは驚愕した。

 

「なんでも、皇帝を撃った責任を取るためにお妃様を助けに来たんだってさ」

 

「責任……」

 

「なんという無茶を……」

 

「あのクソ真面目野郎が……!」

 

「ウォーゼル卿、そなたは飛行挺を持っているな?」

 

「無論です。メルカバを出すぞ!」

 

『おおっ!!』

 

「皇妃殿下は私が城館にお連れしよう」

 

「はい。父さ──レーグニッツ暫定統括者なら大丈夫でしょう」

 

「それにゼクス将軍閣下もいらっしゃいます」

 

「わかりました。皆さんもお気をつけて」

 

プリシラ皇妃は頭を下げ、その後ゼクス将軍に引き渡された。

 

「シャーリィ、君はどうするんだ?」

 

「あたしもそろそろ行くよ。それじゃ、ランディ兄に会ったらよろしく伝えといて~」

 

シャーリィは手を振りながら去って行った。

 

「やっと嵐が去って行ったわね」

 

「まだ一つ残っていますけど」

 

「とにかく、いってみよう」

 

Ⅶ組は出発した。

 

 

 

「こ、これは……!」

 

「まさに戦場だな」

 

「やれやれ。目視できるだけでも二百機近くはいやがるな」

 

「城門付近でスクラップがなっているのは主力戦車か。三十台はあるな」

 

「これ全部……」

 

「あり得ねぇ……」

 

「はい……」

 

二代目Ⅶ組は眼前の光景に言葉をなくす。

 

(キリコさん……)

 

ミュゼはキリコの安否を祈る。

 

「…………………」

 

リィンはそれを複雑な目で見た。

 

「ッ!生命反応あり!城門付近です!」

 

「よし!着陸体勢!」

 

メルカバは城門付近に着陸した。

 

「この近くに……」

 

「アル、どう?」

 

「………そちらです!」

 

アルティナは近くの崖を指さす。

 

「これは……」

 

そこには、崖に突き刺さったナイフを握りしめるキリコの姿があった。

 

「発見しました!」

 

「よし!ロープを持ってきてくれ!」

 

「了解しました!」

 

ユウナが持ってきたロープをリィンは腰に巻き付ける。

 

「頼むぞ」

 

「任せてください!」

 

「こっちもオーケーだよ!」

 

「行ってくる!」

 

リィンは少しずつ崖を降りて行った。

 

「キリコ、大丈夫か!?」

 

「……ええ………」

 

「まったく。君も大概だな」

 

リィンは上に合図した。

 

合図を受けたⅦ組はロープを引っ張り上げる。

 

先にキリコが上がり、リィンも続いた。

 

 

 

「まあ、色々と言いたいことはあるが……皇妃様とトワ先輩の救出、ご苦労だった」

 

「いえ」

 

「ただ、一つ教えてくれ。あの爆発は君が?」

 

「いえ、マリアベルとか言う金髪の女の仕業です」

 

「えっ!?」

 

マリアベルの名前を聞いたユウナに動揺が走る。

 

「キリコ君、それホント!?」

 

「知っているのか?」

 

「うん!マリアベル・クロイス!ディーター元大統領の娘さんよ!」

 

「あのクロスベル事変の首謀者か……」

 

「確か、結社の使徒クラスの大物よ」

 

「そんな相手がやったってのか……」

 

「これでまた、混乱が広まるわね……」

 

「キリコ君……」

 

「これでいい」

 

「キリコ……」

 

「………………………」

 

キリコは崩壊したジュノー海上要塞を見つめる。

 

「とにかく、まずはエリンの里に戻ろう。アルティナ、フルメタルドッグの回収を頼む」

 

「了解しました」

 

アルティナはクラウ=ソラを出して、フルメタルドッグを回収した。

 

「エンネア、あれは買ったか?」

 

「ええ。金額通りにね」

 

「あれ?」

 

「またコーヒーか?」

 

「いや、ローゼリアに頼まれたものだ」

 

「エンネアさん……どういうことでしょう?」

 

「それは──」

 

エンネアはキリコとローゼリアのやり取りを説明した。

 

「なんだそりゃ……」

 

「上手いこと丸め込んだものだな……」

 

Ⅶ組は呆れた。

 

「それでわざわざ買いに来たのか?」

 

「それが里を出るための交換条件だからな」

 

「まったく。ですが、キリコさん──」

 

「大丈夫だ。文句は言わせない」

 

「は、はぁ……」

 

「いやいや、エマ君。そこで引き下がってどうする」

 

「とにかく戻ろう。ガイウス」

 

「うむ。そうだな」

 

一行はメルカバに乗り込み、エリンの里へと帰還した。

 

 

 

「のう、キュービィー」

 

「約束は守った」

 

エリンの里に戻ったⅦ組はローゼリアに報告を入れた。

 

そしてキリコが買ってきた菓子を渡されたローゼリアはご機嫌ななめだった。

 

「確かに妾は言うた。甘くて色とりどりで最後まで飽きさせない菓子が食べたいと」

 

「条件に合うのはこれだ」

 

「なんでよりによって野菜チップスなのじゃ!!?」

 

ローゼリアはテーブルを思いきり叩く。

 

「あんたには同じ質問を三回も聞いたはずだ。そしてあんたは三回全て構わないと言った。違うか?」

 

「妾は菓子を買ってこいと言ったはずじゃぞ!?」

 

「だから菓子だ」

 

キリコはコーヒーを啜りながら受け流す。

 

「こんなことだろうと思ったわよ……」

 

セリーヌは呆れるしかなかった。

 

「でも、この野菜チップス美味しい」

 

「確かに色とりどりね。ニンジンのオレンジ色にタマネギの白、カボチャの黄色にパプリカの赤。紫色なのはビーツかしら?」

 

「エンドウ豆の緑もありますね。黄金色のはサツマイモチップスですね」

 

「王道のポテトチップスも少な目だが入っているな。それにしてもこのクオリティで850ミラとは思えないな」

 

「この甘味は野菜本来の甘味なのかな?」

 

「おそらくな。それにしてもこれは美味い。しかも最後まで飽きさせぬ」

 

「野菜だから後味が軽いのかもしれないね」

 

「ジャンクフードとは思えねぇな。もう食っちまったぜ」

 

「うーん、ビールのツマミにピッタリね♪」

 

ローゼリアとは対照的に、Ⅶ組には好評だった。

 

「キリコ君ってこういうのも食べるんだ」

 

「どうしても昼が取れない時はな」

 

「確かに腹には溜まるが……」

 

「……やっぱりある意味一番偏っていますね」

 

「もう……ちゃんとしたお昼ご飯食べなきゃだめだよ」

 

「やはり……ここは私の愛情こもった手作りランチを……!」

 

「はいそこ離れるー」

 

ユウナはキリコにすり寄るミュゼをひっぺがす。

 

「ズルいぞキリコ君!そうだミュゼ君、私にも愛情こもった手作りランチを!」

 

「あんたはいい加減にしなさい」

 

サラはアンゼリカを抑える。

 

「しかし、よく野菜チップスなんて思いつきましたね」

 

「………あれだけ野菜野菜と毎日聞かされていてはな」

 

『ああ………』

 

リィンたちはキリコの言いたいことを見抜く。

 

「正直、鬱陶しかった」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

エマは申し訳なさそうに頭を下げた。

 

(だからって野菜チップス贈る?)

 

(善意の欠片どころか悪意しか感じないな……)

 

(しかもそれをあのポーカーフェイスでやってのけますからね……)

 

(やっぱエゲつねぇ……)

 

(本当に敵に回らなくて良かったです……)

 

二代目Ⅶ組メンバーはなんとも言えない顔つきでキリコを見る。

 

「少し横になります」

 

「わかった。ゆっくり体を休めるといい。後、明日の巡回には君も参加してもらう」

 

「了解」

 

キリコは部屋に戻って行った。

 

「末代まで貴様を恨むぞ~~!!キリコ・キュービィィィィーッ!!」

 

ローゼリアの呪詛が聞こえたが、キリコは完全に無視した。




次回、キリコも巡回に出ます。


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