英雄伝説 異能の軌跡Ⅱ   作:ボルトメン

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第1章放浪篇ということに変更します。


ノーザンロッジ

異形の存在は群れを成して襲って来た。

 

彼らは元をたどれば、ノーザンブリアや帝国西部から拐われて来た子どもたちや教団の狂信者だった。

 

それがD∴G教団の非道なる人体実験の末、失敗作の烙印を押されたばかりか、このような姿へと変貌させられた。

 

 

 

「くらえっ!」

 

怒りに燃えるテイタニアは異形の存在に弾丸を撃ち込む。急所は普通の人間と変わらないのか、頭部や心臓にあたる部分を撃たれた異形の存在は倒れていった。

 

「フレイムグレネード」

 

異形の存在がひとかたまりになった所にキリコのクラフト技が炸裂する。異形の存在は吹き飛ばされ、塵になった。

 

「さすがだな」

 

「…………」

 

戦闘を終え、キリコはアーマーマグナムの弾を補充した。

 

「それにしても、なぜこんなにいる?」

 

テイタニアはロッチナに詰め寄る。

 

「私にも分からん。かつての殲滅作戦であの者どもは全滅したはずだ。だがまだ生き残りがいるのかもしれん」

 

「……………」

 

「とにかく出発しよう。先は長いぞ」

 

「わかった」

 

キリコたちは探索を開始した。

 

 

 

「待て」

 

先行していたテイタニアが待ったをかける。

 

「どうかしたか?」

 

「どうやら我々だけではないようだ」

 

「ふむ?では少し急ぐか。この先は広い造りになっている。そこで様子を伺うとしよう」

 

ロッチナの言葉にキリコとテイタニアは同意し、一気に駆け抜ける。

 

そこでキリコたちは足を止めた。

 

(あれは……)

 

(赤い星座か)

 

キリコの指摘どおり、赤い星座の猟兵たちがいた。キリコたちは瓦礫の陰に隠れて様子を伺う。

 

「やれやれ。こんな場所に何があるって言うんだろうな?」

 

「さあな。連隊長によると、あの錬金術師のお嬢さんからのオーダーらしい」

 

「無駄口叩くな。俺らは怪しいやつが来ないように見張るのが仕事だ。団長にどやされるぞ」

 

「了解です、部隊長」

 

大剣を持った部隊長の男が二人の隊員を諌める。

 

(六人、内一人が部隊長クラスか)

 

(瓦礫を迂回して背後から奇襲をかける)

 

(わかった)

 

キリコとテイタニアは得物を抜き、猟兵たちに奇襲をかけた。

 

「なっ!?」

 

「奇襲!?」

 

「チッ!迎え撃つ!」

 

猟兵たちも得物を構える。

 

だが奇襲をかけたキリコたちに分があった。隊員三人はあっという間に失神させられ、残った隊員たちも追い詰められていた。

 

「クソッ………ん?その髪の色……」

 

一瞬、部隊長の男が動きを止めた。それを異能者とネクスタントが見逃すはずがなかった。

 

「合わせろ!」

 

「わかった」

 

テイタニアとキリコのリンクアタックが部隊長の男と残りの隊員たちに叩き込まれる。

 

「がはっ……!」

 

リンクアタックを受けた部隊長の男は膝をついた。

 

「お……お前………」

 

「?」

 

「副長に知らせ……なきゃな………」

 

部隊長の男はそのまま気絶した。

 

「赤い星座が入り込んでいるとはな」

 

瓦礫の陰からロッチナが出てきた。

 

「先ほどこいつは団長と言ったが、あの闘神も来ているということか?」

 

「おそらくはな。どうする?キリコよ」

 

「このまま進む」

 

キリコは気絶した猟兵たちを脇にどかした。

 

「そうか。なら腹を括るしかあるまい」

 

テイタニアも銃に弾丸を装填する。

 

「フッ、頼もしくて何よりだ。では行こう」

 

ロッチナはまた歩きだした。

 

 

 

その後、キリコたちは分かれ道へと出た。

 

「分かれ道になっているのか」

 

「二手に分かれるしかないな」

 

「なら俺は左に行く」

 

「わかった、我々は右に進む。テイタニア、構わんな」

 

「わかった。キリコ、気をつけろ」

 

「ああ」

 

キリコは一人で左に進み、ロッチナはテイタニアを護衛に右に進んだ。

 

 

 

(だんだん見張りが目立つようになったな)

 

キリコは極力戦闘をかわしながら進んでいた。

 

その甲斐あって、キリコは弾薬を消費することなく、広い場所に出た。

 

(そろそろテイタニアたちと合流しても良さそうだが………ッ!)

 

頭上から殺気を感じたキリコはバックステップでかわす。

 

「チッ!」

 

敵は舌打ちをし、ライフルとチェーンソーが一体化した武器を構える。

 

「その武器……シャーリィ・オルランドか」

 

「ふーん?テスタ・ロッサを知ってるんだ?ならさっさ……と…………」

 

テスタ・ロッサを振り上げたシャーリィは固まった。

 

「………え……………?」

 

「?」

 

「……な……なんで………!?」

 

「悪いが相手している暇はない。先に……」

 

「キリコーー!!」

 

「!?」

 

シャーリィはテスタ・ロッサをしまい、キリコに抱きついた。

 

「夢じゃないよね!?ホントにキリコだよね!?」

 

「いいから離れろ」

 

「あははは♪ホントにキリコだぁ!」

 

「どうしたシャーリィ?何を騒いで………」

 

奥からシャーリィと同じ赤毛の偉丈夫がやって来た。

 

そして凍りついた。

 

「あっ、パパ!」

 

(シャーリィの父親……赤い星座の団長か)

 

シャーリィはキリコから離れ、父親の元に行った。

 

「……………………………………」

 

「パパ?どうしたの?」

 

「……シャーリィ………その男は何だ?」

 

「ああ、そう言えば会うの初めてだよね。彼がキリコだよ」

 

「そうか………お前が………」

 

シャーリィの父親は顔を伏せる。

 

「パパ?」

 

「………………さんぞ」

 

「はい?」

 

 

 

「断じて許さんぞ!!キリコ・キュービィィィィィッ!!!」

 

 

 

広間に憤怒と悲壮の叫びが響いた。

 

「パ、パパ!?」

 

シャーリィは呆気にとられた。

 

 

 

シャーリィの父親──シグムント・オルランドは双戦斧と呼ばれる得物を手に強い殺気をキリコに放つ。

 

キリコは今まで感じたことのない殺気にも係わらず、シグムントを見据える。

 

「ほう。一応、胆は据わっているようだな」

 

「あんたに用はない。そこを退いてもらおう」

 

「貴様……筋というものを知らんようだな?」

 

「?」

 

「挨拶にも来ず、手土産も持たぬ。そんなしれ者の分際で……」

 

シグムントはキリコに接近する。

 

「娘をたぶらかしよってぇぇぇっ!!」

 

シグムントは双戦斧を振り下ろす。

 

「何の話だ」

 

キリコは攻撃をかわし、アーマーマグナムを撃ち込む。

 

「ぬうっ!どこまでもふざけた奴だっ!」

 

シグムントはアーマーマグナムの弾丸を防ぎ、双戦斧を投げつけた。双戦斧はキリコの周りを旋回し、ブーメランのようにキリコに襲いかかる。

 

(話の通じる相手じゃないな)

 

双戦斧をかわしたキリコはシグムントから一旦距離をとる。

 

「臆したかぁっ!!」

 

シグムントは双戦斧を両手で振り下ろす。

 

振り下ろされた双戦斧から衝撃波が放たれた。

 

「グッ……!」

 

衝撃波を受けたキリコは背後の壁に叩きつけられた。

 

さらにその衝撃は天井を崩し、瓦礫がキリコにふりそそいだ。

 

「フン、他愛のない……」

 

「ちょっと、パパ!」

 

「お前は黙っていろ」

 

シグムントはシャーリィに背を向け、後から駆けつけて来た猟兵たちを迎える。

 

「大丈夫か、ザックス」

 

「面目ありません」

 

「まあいい。奴も仕留めた所だしな」

 

「あいつがあのキリコ・キュービィーだったとして、なんで生きているのでしょうか?」

 

「さあな…………?」

 

シグムントは気配を感じて振り向いた。

 

「だ、団長……」

 

「何だと!?」

 

シグムントとザックスが見たのは、瓦礫の中から立ち上がるキリコの姿だった。

 

「なぜ立ち上がれる!?あれだけの瓦礫を全て避けたとでも言うのか!?」

 

「キリコはほとんど動いてないよ」

 

シャーリィが口を挟む。

 

「パパが破壊した天井なんだけどね、ヒビがキリコの所にはしらなかったんだよ」

 

「な、なんて悪運の持ち主だ……!」

 

(悪運?違う!)

 

シグムントは冷や汗をかいた。

 

「だ、団長……?」

 

「確実に息の根を止めてやる。食らうがいい!クリムゾンフォー……!?」

 

シグムントが必殺技を繰り出そうとした瞬間、足元が崩れ、バランスが乱れる。

 

それにより、シグムントのSクラフトは狙いが逸れ、地面を破壊した。

 

「くっ!」

 

キリコはそのまま地割れにのみこまれた。

 

「キリコ!」

 

シャーリィはキリコを追って飛び込んだ。

 

「あっ、副長!」

 

「もういい!!」

 

「団長!?」

 

ザックスはシグムントの驚愕の表情から目を離せなかった。

 

「奴の背後と天井の岩盤は周りに比べて硬い。それにより周りだけが破壊され、瓦礫は一発も命中しなかった」

 

シグムントは先ほど自分が立っていた場所を見る。

 

「俺が技に入る瞬間、足元が崩れた。それにより狙いが大きくずれた。爆風でダメージは負うが、死ぬことはない」

 

シグムントは穴が空いた地面に目をやる。

 

「おそらく、地下に落ちただけで死んではいない。地割れにのみこまれることで死ぬ確率は格段に減ったわけだからな」

 

シグムントは天井を見上げた。

 

「これが全て偶然か!?まるで何かがあの男を生かそうとしているかのようだ!」

 

シグムントは双戦斧を握りしめ、吼える。

 

「さすがの闘神でもキリコを殺せませんでしたか」

 

シグムントの後ろからロッチナとテイタニアが歩いて来た。

 

「お前らは、確か帝国政府の……」

 

「お初にお目にかかる。私はジャン・ポール・ロッチナ。こちらはテイタニア・ダ・モンテ=ウェルズ」

 

「………………」

 

「フン。いったい何の用だ」

 

「我々はこの研究所の地下に用があるのです。通していただけると」

 

「別に構わん。さっさと行け」

 

「では」

 

「待て」

 

シグムントは先に進もうとしたロッチナたちを呼び止める。

 

「何か?」

 

「あのキリコ・キュービィーというガキはいったいなんだ?」

 

「フフ。人を、神を超えた存在と言えば満足ですかな?」

 

「……さっさと行け」

 

シグムントは猟兵たちの元へと向かった。

 

 

 

一方、地下

 

「はぁ…はぁ…はぁ……」

 

キリコは息も絶え絶えになりながら歩いていた。

 

(あれが大陸最強の猟兵団の団長……。さすがに危なかった……)

 

キリコはシグムントから逃れられたことに安堵した。

 

(しかし、かなり下に落とされたな。まずは上がれる所を……)

 

「お~い、キリコ~!」

 

キリコの後方からシャーリィが駆けつけて来た。

 

「………………」

 

「やっぱり無事だったね」

 

「そうだな」

 

シャーリィはキリコの全身を見渡す。

 

「何をしている」

 

「やっぱりすごいよね。なんであんなに怒ったか知らないけど、パパと殺り合って五体満足で生き残れるんだから」

 

「たまたま偶然が重なっただけだ」

 

「運も実力の内って言うじゃん」

 

「……………………」

 

「それはそうと、キリコ」

 

「?」

 

「なんで生きてるの?ボロボロで監獄に連行されて行ったのは見てたし、処刑の瞬間だって見届けたよ」

 

「……………………」

 

「教えてよ、キリコ」

 

「………わかった」

 

キリコはシャーリィに自身がロッチナの手で密かに監獄から出されたこと、処刑されたのはすり替えられた別人であることを告げた。

 

「そうだったんだ………」

 

シャーリィは感嘆した。

 

「でも良かった……キリコが生きてて……。あんなみっともない最期、本気で失望したし」

 

「みっともない?」

 

「知らなかったんだ?処刑の時のキリコ……じゃなかった、ニセモノは涙と鼻水垂れ流して、往生際がほんっとに悪かったんだから」

 

「……………………」

 

「じゃあさ、本物のキリコは何してたの?」

 

「……クロスベルにいた」

 

「へぇ、クロスベル。じゃあ、特務支援課のお兄さんたちに会った?」

 

「そこまではわからない」

 

「そっかぁ」

 

シャーリィは両手を頭の後ろで組んだ。

 

「そろそろ行くぞ」

 

「はーい。あっ、それでなんだけどさ」

 

「なんだ?」

 

「さっき向こうに扉があったんだけど、変てこな文字が書いてあってさ。進めないんだよね」

 

「……どこだ?」

 

「こっちだよ」

 

シャーリィに案内され、キリコは大きな扉の前に立った。

 

「変てこな文字とは?」

 

「ここだよ」

 

「………………」

 

キリコはシャーリィが指さす場所を見た。

 

(これは……!?)

 

キリコは驚愕した。見覚えがあるどころか、完全に理解できる文字だった。

 

「どしたの?」

 

「……扉を開くプロセスのようだ」

 

「え!?読めるの!?」

 

「…………………」

 

キリコは書かれている文字の通りに側にあった機械を起動させる。

 

(まさか……この世界で標準アストラーダ語を見ることになるとはな。ロッチナの言うとおり、ワイズマンと何かしら関わりがあるようだな)

 

「…………ねえ、キリコ」

 

「なんだ?」

 

「異能者って、何?」

 

「……………」

 

キリコの手が止まる。

 

「………ロッチナか?」

 

「ううん………。鉄血のオジサンが言ってた」

 

「………俺は普通の人間じゃない」

 

「え……」

 

「さて、開くぞ」

 

キリコの言葉どおり、扉が開いた。キリコはそのまま入って行った。

 

「あっ、ちょっと待ってよ!」

 

シャーリィはキリコを追って行った。

 

 

 

「何ここ……」

 

「………………」

 

そこには巨大な水槽のようなものが並んでいた。

 

「前に行った黒の工房に似てるなぁ」

 

「黒の工房?行ったことがあるのか?」

 

「うん。猟兵団なんかにも武器を卸しててね。あたしのテスタ・ロッサやランディ兄のベルゼルガーも黒の工房製だよ」

 

「そうか(ロッチナやあの道化師の話だと、フルメタルドッグのような実験用機甲兵。そしてアルティナやミリアムを造った所らしいが)」

 

「でもカラッポだね。何容れてたんだろ?」

 

「……どうせろくな物じゃない」

 

「そだね」

 

キリコたちはさらに奥へと進む。

 

 

 

「ここは……」

 

「本がたくさんあるね」

 

キリコたちがたどり着いたのは、資料室のような部屋だった。

 

「遅かったな」

 

ロッチナとテイタニアが本棚の陰から現れた。

 

「ほう、紅の戦鬼も一緒とはな」

 

「まあね」

 

「まあいい。それよりキリコ。お前を連れてきた目的はここだ」

 

「………ここはやつの息がかかっているんだろう?」

 

「なぜそう思った」

 

「この世界に標準アストラーダ語が存在するわけがないだろう」

 

「標準……アストラーダ語?」

 

「お前はキリコや私たちが転生したというのは知っているか?」

 

「うん……鉄血のオジサンが言ってたけど……」

 

「その転生してきたアストラギウス銀河で使われている言語が標準アストラーダ語だ。キリコは勿論、私やロッチナも解読できる」

 

テイタニアはシャーリィに説明した。

 

「なんだか難しいね」

 

「すぐに理解しろとは言わん。キリコ、そこの分厚い本があるだろう。読んでみるといい」

 

「…………………」

 

キリコはロッチナの指す分厚い本を本棚から取り出す。

 

古い机に広げ、ページをめくる。

 

「!?」

 

キリコは目を見開く。

 

「さすがに驚くか」

 

「キリコ、何が書いてあるのだ」

 

テイタニアも横から本を覗き込む。

 

「……………………………………」

 

テイタニアは沈黙した。

 

そこには、キリコの顔が挿し絵として載っていた。

 

「D∴G教団……」

 

ロッチナはおもむろに口を開く。

 

「大陸各地から子どもを拐い、秘薬や機械を用いて人体実験を繰り返してきた。その目的はそこにあるように異能の開発。そして目指したのは超人を作り出すことだった」

 

 

 

「すなわち、異能者キリコ・キュービィーを作り出すことだ」

 

 

 

「…………………………」

 

話に追いつけないシャーリィは絶句するしかなかった。

 

「用いられたグノーシスという秘薬は人間のあらゆる感覚を何倍にも引き出すという。だが強すぎる力に耐えきれず自我を失い、失敗作として怪物となった。その末路があの異形の存在なのだ」

 

「連中は異能生存体を作ろうとしていたのか?」

 

「そうだろうな。だがお前も知るとおり、異能生存体は確率250億分の1で誕生する遺伝子だ。突然変異とも呼べるものをこの世界のレベルで作り出すことなど不可能だ」

 

「……にもかかわらず、連中はそんな妄想に駆られていたのか」

 

「言っただろう。頭のおかしい連中のことは理解できんと」

 

 

 

「あのさぁ」

 

シャーリィが口を開いた。

 

「何かな?」

 

「連中の頭がおかしいってのはとっくに知ってるけどさ。なんでキリコが関わってくるのさ?」

 

「ほう?」

 

「だって連中は幻の至宝の復活が目的でしょ?まあ、特務支援課のお兄さんたちに食い止められちゃったけど」

 

「それはクロイス家に近い、言わば本流のことだろう。我々がいるノーザンロッジはそこから分派したロッジなのだ」

 

「へぇ」

 

「私が調べたところによると、ここの連中は幻の至宝復活に早々に見切りをつけたようだ。その後、一人の錬金術師が啓示を得たらしい。そこから連中は死なない人間の研究を始めた」

 

「死なない人間………」

 

「お前も知っているだろう。弾丸を何発受けても死なず、僅かな間で復活した人間を」

 

「それが……キリコ……?」

 

「………………」

 

キリコは黙ったまま、ページをめくっていた。

 

「死なないと一口に言っても、それは強靭な生命力によるものだったり、偶然起こり得ることだったりするがな」

 

「先ほど闘神の足元が崩れただろう?」

 

「うん。も、もしかしてあれはキリコが起こしたの!?」

 

「いや、異能者にそんな力はない。そもそも異能の発動条件は死の一歩手前でなくてはならんようなのだ」

 

「死の一歩手前……」

 

「そうだ。逆に言えば、そのレベルでなければ発動はしない」

 

「以前、私はキリコと戦ったことがある。第三者の手が入ったとはいえ、私はキリコを瀕死にまで追いつめた。その時だ、意識も朦朧となっているキリコの放った弾丸が私の乗る機動兵器の亀裂の僅かな隙間を抜け、私に着弾した」

 

「なにそれ……」

 

テイタニアの話にシャーリィは茫然自失となった。

 

「キリコの意志とは無関係に発動し、因果すらねじ曲げる。それがキリコの異能なのだ。だから死なないというより、むしろ死ねないといった方が適切だな」

 

「すごいな………キリコ…………」

 

「忌々しいだけだ」

 

キリコの言葉に怒りがこもる。

 

「え……?」

 

「俺は死ぬことが許されない。永遠にな」

 

「キリコ……………!?」

 

突如、背後の壁が崩れる。

 

「副長、ご無事ですか!?」

 

「あ、ザックス」

 

「やれやれ、時間切れか」

 

「そう言えば、お前たちはなぜここに?」

 

テイタニアはシャーリィに聞いた。

 

「うん。マリアベルお嬢さんからの依頼でさ。ここを跡形もなく破壊してきてって」

 

「根源の錬金術師、マリアベル・クロイスか。では脱出しよう。キリコ、その本はお前が持っていろ」

 

「………ああ」

 

「そんじゃ、行こっか!」

 

キリコたちは赤い星座と共にノーザンロッジを脱出した。

 

 

 

その後、ノーザンロッジは赤い星座により跡形もなく破壊された。

 

生存していたキリコを見たシグムントは憤怒の形相で詰め寄るが、シャーリィの「パパのこと、嫌いになっちゃうよ?」の一言で硬直し、すごすごと引き下がる。

 

「これからどうするの?」

 

「さあな」

 

「あのさ……」

 

シャーリィはキリコの目を見る。

 

「キリコ、あたしと契約しない?」

 

「契約?」

 

「キリコって呪いの根源ってやつと戦うんでしょ?」

 

「そのつもりだ」

 

「その時にあたしも協力するってのはどう?」

 

「ちょ!?副長!?」

 

「みんなも聞いて。このままだと、世界が終わるんだって。そしたらあたしたちどうなる?」

 

「そりゃあ……」

 

「戦いがなくなったら、ゴハン食べられなくなるよ?」

 

「まあ……そうですね」

 

「まっ、西風のオジサンの受け売りなんだけどね」

 

「つまり、その呪いの根源とやらを倒すことがウチにとってもメリットになるということですか?」

 

「そういうこと」

 

シャーリィは懐から蠍座のペンダントを取り出す。

 

「これは契約の証ね」

 

「? 返した覚えはないが」

 

「リーヴスに行った時に衛士隊が押収したのを手に入れたの」

 

「衛士隊が?」

 

「リーヴスは衛士隊が接収してるの。そんで第Ⅱ分校は今、衛士隊の基地になってるの」

 

「セドリックも許したのか?」

 

「やむなくって感じでね。でも少し前に衛士隊の一人が振る舞いに抗議した町長だか住民だかに暴行したらしくてね。それであの皇子様もプッツン寸前なの」

 

「そうか……」

 

「副長、そろそろ出発するそうです」

 

「はーい。それじゃ、またね♪」

 

シャーリィはキリコにペンダントを握らせ、去って行った。

 

 

 

(ノーザンブリアに連れて来られたと思ったら、面倒なことになってきたな)

 

「紅の戦鬼との契約か。少なくともこちらにメリットはあると思うがな」

 

「………………」

 

「それより、行くのか?リーヴスに」

 

「………………」

 

キリコは無言で頷く。

 

「なら、魔煌機兵を取り寄せよう」

 

「魔煌機兵、だと?」

 

「その方がギリギリまで気づかれないだろうし、向こうも暴走したと認識してくれるはずだ」

 

「暴走……」

 

「魔煌機兵はその特性上、パイロットの精神汚染をきっかけに暴走を引き起こしかねん。お前の精神力ならのみ込まれる心配はないだろうがな」

 

「………………」

 

「私とテイタニアは表向きの仕事でルーレに行かねばならん。東リーヴス街道まで連れて行ってやろう」

 

「わかった」

 

キリコたちは軍用飛行挺に乗り込んだ。

 

 

 

(どこもかしこも戦いばかり。これもワイズマンが望んでいることだろう。やつを殺すために大きな戦いが必要なら俺は喜んでその引き金を引こう。全てに憎まれようとも戦い続けよう。そして、いつかは……)




次回、リーヴスが震える。

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