英雄伝説 異能の軌跡Ⅱ   作:ボルトメン

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久しぶりにクエストをやります。ごちゃ混ぜなのはあしからず。


芝居

七耀暦1206年 8月23日 午前7:00

 

二代目Ⅶ組はエリンの里の空き地で待機していた。

 

「まずはメルカバで南サザーラント街道の空き地に移動し、セントアークに潜入するんでしたね」

 

「サザーラント方面はランディ先輩と一緒に行った時以来ね」

 

「ああ。アッシュが戻って来る前だな」

 

「カイリさんやパブロさん、タチアナさんもおられたんでしたね」

 

「タチアナなんかアッシュをさがしに、ハーメル廃道に入って行っちゃったのよね」

 

「そんなことがあったんですか。これもひとえに、アッシュさんを想う愛の力ですね♥️」

 

「アホか……」

 

アッシュは呆れたような顔をする。

 

「……そういえばアッシュ」

 

「ん?」

 

「俺が帝都から逃がした後、お前はどこで何をしていた?」

 

キリコはアッシュに問いかける。

 

「……チッ、そーいや話してなかったな」

 

アッシュは頭をガシガシと掻く。

 

「あの後、目が覚めたオレはしばらくぼーっとしてた」

 

「………………」

 

「けどよ、頭ん中かき乱すような声が聞こえなくなったのがわかった途端、自分が何をしようとしてたのかがどっと押し寄せてきやがってな。気づいたら帝都に背を向けていた」

 

「アッシュ……」

 

「逃げて、ひたすら逃げて、最終的にオレはあそこにいたんだ」

 

「ハーメルの廃村か」

 

「ああ……」

 

「そういえば、あの二人に見捨てられたと言っていたが」

 

「昔な、兄貴分が二人いたんだ。かすかにだが、覚えてはいる。確か……レーヴェとヨシュア、だったと思う」

 

「その方たちは……」

 

「結社の執行者《剣帝》レオンハルトとリベールのB級遊撃士ヨシュア・ブライトのことですね」

 

「ヨシュアさんなら知ってる。教団事件や碧の大樹の時に手を貸してくれたって、支援課の先輩方に聞いたことあるんだけど……」

 

「見捨てられた、というのは……」

 

「考えてみりゃわかんだろ」

 

アッシュは腕を組んだ。

 

「そもそも百日戦役は14年も前だぞ。ガキ二人に状況判断なんざつくかよ」

 

「ハーメルの遺児……ですか」

 

「その……アッシュはその二人のことは………」

 

「恨んでるのか?」

 

キリコはクルトの言葉を引き継ぐ。

 

「……わかんねぇ」

 

「そうか」

 

「復讐なんざ無意味ってか?」

 

「別に。復讐は否定しない」

 

「そうかよ……」

 

「キリコさん………」

 

「前に俺が聞いた時、お前から聞こえてきたのは無理やり言わされているような感じがしたのでな」

 

「無理やり……」

 

「おそらく呪いの強制力なのでしょう。キリコさんも陛下からお聞きになったはずです」

 

「……人の闘争本能や憎悪を強め、突発的に惨劇を巻き起こす。そう言っていた」

 

キリコはユーゲントⅢ世との会話を思い出しながら言った。

 

「なあ、キリコ」

 

アッシュはキリコに問いかける。

 

「?」

 

「オレの左目にあった呪い、お前が引き受けたんだよな」

 

「……あの時はそれが最善だと思った。呪いの根源が本当にワイズマンだというなら、俺が立ち向かわなくてはならない」

 

「そうかよ……」

 

アッシュは顔を背けた。

 

「キリコさん………」

 

「その……無理、しないで」

 

「ああ………」

 

キリコは腕を組み、目を瞑った。

 

 

 

その後、二代目Ⅶ組はメルカバで南サザーラント街道外れの空き地に移動。エリオット、ユーシス、アンゼリカとともに降り立った。

 

「潜入にはアンゼリカさんも来られるんですね」

 

「ああ。セントアークならパトリック君もいるはずだしね。もっとも、今いるのはあの人しかいないようだけど」

 

「あの人?」

 

「ヴィルヘルム・バラッド侯爵さ」

 

「ええっ!?」

 

「バラッド侯ですか!?」

 

「なんであの放蕩オヤジが統括者なんかやってんだ?」

 

「領邦会議でも話したが、彼がある意味、有能な人物なのは間違いない。特に己の財産と利益を守る事においては天才的と言ってもいいが──」

 

「目先の欲望に振り回され過ぎた挙げ句、結局は政府に良いように利用され尽くしている」

 

「その挙げ句の果てが、海都での取り返しのつかない大失態とカイエン公爵候補罷免という自業自得の結果というわけですか」

 

「アルティナ、言葉を選ぼうな」

 

リィンはアルティナを窘める。

 

「……その情報源はミュゼか」

 

「ふふ、さすがに分かりますか」

 

「ロッチナの言葉だけでは説明が足りない」

 

「恐れ入ります」

 

ミュゼはスカートの裾を軽く持ち上げる。

 

「なら、早く二人を助けないとね!」

 

「その通りだユウナ君。あの天使たちを放蕩好色オヤジの元から解き放たなければ!」

 

アンゼリカは目の色を変えた。

 

「……どーすんだシュバルツァー」

 

「アンゼリカ先輩におかしなスイッチが入っちゃったね」

 

「はぁ……」

 

リィンは深いため息をついた。

 

「とにかく行くしかない」

 

キリコはセントアークの方角を見つめる。

 

「ずいぶん積極的だな」

 

「まだけじめをつけていない」

 

「けじめ……皇室への償いか」

 

「キリコ君……」

 

(たとえ赦されることのない荊の道だとしても迷わず行くか)

 

(ああ。まるで、殉教者の如く……)

 

「……そろそろ出発しよう。とにもかくにも、まずはバラッド侯に会わなくてはならないからな」

 

「そうですね」

 

「では参りましょう」

 

リィンたち潜入班は出発した。

 

 

 

午前8:00

 

潜入班は南サザーラント街道を越え、セントアークの門の前にたどり着いた。

 

「さてと、ここからが本番だな。もっとも、第一関門はクリアのようだが」

 

「どうやら警備が手薄のようだ」

 

「誰かの手引きじゃねぇのか?」

 

アッシュはミュゼを見る。

 

「あいにく、私の存じ上げることではありません。本当に何かあったのかと」

 

(確かに街中が騒がしいな)

 

キリコは訝しげに門の奥を見つめる。

 

「さっさと入るとしよう。ここでは目立ちすぎる」

 

「そうだね。まあ、この後目立つことになるんだけどね」

 

「……憂鬱です………」

 

「アルなら大丈夫よ」

 

「ここは折れてくれないか?」

 

「………わかりました」

 

「すまないな。じゃあ、入ろう」

 

潜入班はセントアークに足を踏み入れた。

 

 

 

午前8:25

 

セントアークに入った潜入班は騒ぎの原因が何なのかを素性を隠して聞き込みを行った。

 

その後、フィーから紹介された臨時の遊撃士ギルドに身を寄せた。

 

「………確かに騒ぎになってはいたな」

 

「そりゃあ、ね」

 

「暫定的統括者が勝手に外に出ようとして………衛士隊に引きずられながら邸宅に連行されていればな」

 

「街の人曰く、大きな駄々っ子のようだとか」

 

「はぁ……情けない……本当に情けない………」

 

騒ぎの元を知った潜入班の士気は下がりに下がっていた。

 

特にミュゼはあまりにあんまりな内容にため息が止まらない。

 

「……本当に行かなきゃダメですか?」

 

「ユウナ、あそこにはアルフィン殿下とティータがいるんだよ」

 

「それがなかったら本当に帰ってるぜ」

 

「気持ちは十分に解る。だがここは堪えてくれ」

 

リィンは二代目Ⅶ組に懇願するように言った。

 

「とりあえず、第二段階を進めよう……と言いたいが、騒ぎが収まらないと難しいな」

 

「全く、余計なことをしてくれる……」

 

「今ごろなら、フィー君とサラ教官の知り合いが渡りをつけてくれた劇団と打ち合わせをしてたはずなんだが」

 

「知り合い?」

 

「なるほど、こういうことかよ」

 

『!?』

 

潜入班が振り向くと、赤毛の男が腕組みをして立っていた。

 

 

 

「貴方は……」

 

「お久しぶりですね、アガットさん」

 

「まーな。しかし……」

 

アガットはリィンとキリコの両方を見る。

 

「シュバルツァーは風貌が大分変わったのはいいとして。処刑されたはずのキリコ・キュービィーが生きてたなんてな」

 

「アガットさん、キリコは──」

 

「フィーとサラから大体は聞いてる。俺もぶっ飛んだ奴はたくさん見てきたが、お前さんがトップクラスだな」

 

アガットはニヤリと口角を上げる。

 

「………………」

 

「そ、そういえば、アガットさんが話をつけてくださったんですか?」

 

「いきなりサラから通信が来てな。セントアークに劇団が来ているかどうか調べてくれってな。加えて、エリオットの出演交渉をやっといてってな」

 

「あはは……ありありと浮かびますね」

 

「エリオットさんの出演については話が通ったんですね?」

 

「まあな。ぜひともお願いしたいそうだ。名前を出したら一発OKだった」

 

「やっぱりエリオットさんってスゴいんですね」

 

「レコードも数枚発売しているし、若き天才演奏家として評価されているからね」

 

「あはは、まだまだだよ。僕が目指す、理想の音楽家像はね」

 

エリオットは苦笑した。

 

「しかし何かあると思っちゃいたが、バラッド侯に会うためだったか」

 

「ええっと……」

 

「やっぱりマズかったですか?」

 

「いや。犯罪目的なら別だが、この場合はシロだ。お姫さんはもちろんだが、ティータは絶対に助け出さなきゃならねぇ」

 

「アガットさん……」

 

「これも愛の力ですね♥️」

 

「あんたはそれしかないの?」

 

ユウナは呆れた。

 

「とりあえずシュバルツァー、手配した劇団は聖堂前で待ってる。俺とエリオットで打ち合わせしてくる」

 

「そうですね。大人数で行っても目立つだけですからね」

 

「その代わりと言っちゃなんだが、これ受けてみないか」

 

アガットは懐から書類を数枚取り出す。

 

 

 

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パルム間道の手配魔獣

 

希少食材の回収

 

徴兵家族支援基金について

 

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「これって……」

 

「ギルドに寄せられた依頼ですか」

 

「演奏が始まるまで時間がある。だらだら待つよか良いだろ?」

 

「そうですね。皆はどうだ?」

 

「良いと思います」

 

「異論はねーな」

 

「ギブ&テイク、ということですね」

 

「同じく」

 

二代目Ⅶ組は揃って承諾した。

 

「私も構わないよ」

 

「時間潰しにはなりそうだな」

 

アンゼリカとユーシスも承諾した。

 

「決まりだな。アガットさん、引き受けさせていただきます」

 

「悪いな。そんじゃ、ぼちぼち行くか」

 

「ええ。ちょっと行って来るね」

 

アガットとエリオットは出ていった。

 

「では教官」

 

「あたしたちも行きましょう」

 

「よし、まずは……」

 

リィンたちも市内に向かった。

 

 

 

[クルト side] パルム間道の手配魔獣

 

僕たちはアガットさんから頼まれた依頼の一つである、魔獣討伐を行うことに決めた。

 

依頼書によると、モモイロヒツジンなる魔獣が群れを成して行商人などを襲い、その損害は計り知れないものとなっている。

 

セントアークに来ていた乗馬クラブの方から馬をお借りして、パルム間道へと向かった。

 

襲撃された場所に向かうと、そこだけがピンクに染まっていた。

 

僕たちはそっと近づき、先手を取ることに成功した。

 

だが厄介なのはここからだった。

 

単体なら対処出来たが、群れ単位で襲ってくる個体がいたのだった。

 

倒しても倒してもどこからか現れ、戦力が補充されていくというわけだ。

 

さらにモモイロヒツジンの群れによる拳打の威力は相当なもので、キリコでさえ手傷を負った。

 

それでも引くわけにはいかなかった。

 

(あの方の、殿下の隣に立つまで、僕は負けるわけにはいかない!)

 

「レインスラッシュⅡ!」

 

一段階進化させたクラフト技で起死回生の隙を作る。

 

「教官、お願いします!」

 

「わかった!」

 

教官とのラッシュ攻撃がモモイロヒツジンの群れを撃滅する。

 

これでもう被害に遭われる人はいなくなるだろう。依頼は達成だな。

 

パルム間道の手配魔獣 達成

 

[クルト side out]

 

 

 

[ユウナ side] 希少食材の回収

 

タイタス門で依頼人さんが待っていることから、セントアークに戻らず、そのまま行くことになったの。

 

タイタス門は南にあるリベール王国との国境で、すぐ近くにハーケン門という大きな門が見える。

 

以前ティータに聞いたところ、ハーケン門を守っているモルガン将軍って人は遊撃士嫌いで有名らしいんだけど、理由を聞いても半笑いで教えてくれなかった。

 

それはともかく、あたしたちは依頼を出したオーヴィッドさんに話を聞いた。

 

オーヴィッドさんはリベール王国から来た商人さんで、珍しい食材を専門に扱っているそう。

 

今回、オーヴィッドさんが探しているのは竜涎香という物。

 

ミュゼ曰く、東方ではお香に使われる物で、びっくりするほどの高額で取引されているらしいの。

 

その竜涎香が近くにあると睨んだオーヴィッドさんはギルドは依頼を出したというの。

 

そこであたしたちは回収できる可能性のあるパルム間道とアグリア旧道を探すことに。

 

オーヴィッドさんに見せてもらったサンプル品をアルが写真に撮って、それらしいのを探し出した。

 

探し出した物をオーヴィッドさんに鑑定してもらうと、確かに竜涎香だって。

 

お礼にと、オーヴィッドさんにいくつかの魔獣食材をもらった。

 

それにしても、学生服を着た見所のある若者って、まさかねぇ……

 

希少食材の回収 達成

 

[ユウナ side out]

 

 

 

[アルティナ side] 徴兵家族支援基金について

 

パルムに戻った私たちは、依頼人のガラート親方さんに会うことになりました。

 

親方さんは依頼書にもある、徴兵家族支援基金について調べてほしいそうです。

 

その名の通り、徴兵されて働き手を失い残された家族を支援するために発足されたものだそうですが、親方さんはどうも違和感が拭えないそうです。

 

教官とキリコさんもあまりに綺麗すぎるとして、調べてみようということになりました。

 

ちなみに私も疑っています。

 

パルムで聞き込みを続けるうちに、その違和感が現実のものになってきました。

 

徴収された金額の割りにミラの流れがかなり不透明であることが分かり、情報をまとめるべく親方さんの工房へと急ぎます。

 

すると、パルムの入り口に黒ずくめの導力車が停まっていました。

 

そこにいたのは以前、オルディスで会ったクライスト商会のハーマンさんでした。

 

どうやら彼が鍵を握っていると読んだ教官は導力車を追いますが、走り出してしまいました。

 

それでもなお導力車を追うべく、馬で追いかけることに。

 

途中で導力車は三体の魔獣の襲撃に遭い、足止めされていました。

 

私たちは導力車に気を配りつつ、魔獣と戦闘することになりました。

 

なんとか魔獣を倒すと、導力車の中からハーマンさんが出てきました。

 

さっそく聞き出そうとすると、セントアーク方面から一台の導力車がやってきました。

 

出てきたのは眼鏡をかけた中年の男性でした。

 

営業本部長を名乗るワッズさんに徴兵家族支援基金は詐欺行為に触れることだと声高に言うと、ワッズさんは失笑し、国家総動員法の名の元に行ったいる正当行為だと口にしました。

 

さらに衛士隊やTMPに通報する義務があると言いました。言うまでもなく脅迫行為ですが、国家総動員法の金看板を持ち出された以上、私たちは反論に窮しました。

 

ワッズさんは不敵な笑みを浮かべたまま、ハーマンさんと共に去って行きました。

 

ユウナさんは怒りに震えていました。

 

ですが、国家総動員法が悪法だとしても施行されている以上、罪には問えません。

 

その後、親方さんに報告して依頼は達成しました。

 

胸のモヤモヤが晴れず、ほろ苦い結果になりました。

 

徴兵家族支援基金について 達成

 

[アルティナ side out]

 

 

 

[キリコ side] おかしくなった愛馬

 

セントアークに戻り、馬を返そうとすると、乗馬クラブのアルベールとワンダーから相談を受けた。

 

なんでも、俺たちが戻る少し前に一頭の馬が怯えるように暴れ出し、北サザーラント街道に走って行ってしまったらしい。

 

正直、時間が惜しかったが教官が二つ返事で捜索を引き受けてしまった。

 

文句を言っても仕方ない。俺たちは北サザーラント街道に出た。

 

北サザーラント街道をくまなく探っていると、一頭の馬がいた。

 

足音を立てないように近づくも、馬は逃げてしまった。

 

ここで疑問が生まれた。

 

あの馬は異常なまでに怯えている。

 

だが周りを見渡しても魔獣の気配はない。

 

かなり繊細な馬なのかもしれないと、俺たちは慎重に追うことになった。

 

さらに進むと、俺たちが猟兵王と初めて会った場所に来た。

 

件の馬は木陰にいた。やはり怯えている。

 

原因がわからず馬を見つめていると、突然背中に冷たいものが走った。

 

アルティナが指さす方向を見ると、馬の幽霊のようなものが現れた。

 

アルティナが霊子反応と言っていたことから、あれは魔物の類いなのだろう。

 

教官、ユウナ、クルト、アッシュ、アンゼリカ・ログナー、俺を前衛に、アルティナ、ミュゼ、ユーシス・アルバレアを後衛に置いて、戦闘を開始した。

 

魔獣と明らかに違う攻撃パターンに苦戦したが、弱点のアーツとバーストアタックでなんとか撃破した。

 

その後、俺たちではどうにもならなかったので、乗馬クラブの二人を連れて来て馬をなだめた。

 

ドレックノール要塞の兵士に見つかると面倒なので、急ぎ足でセントアークに戻った。

 

時間を取られたが、まあいいだろう。

 

おかしくなった愛馬 達成

 

[キリコ side out]

 

 

 

午前10:25

 

「なるほど、そんなことがあったのか」

 

「みんな、お疲れ様」

 

リィンたちはアガットに報告し、エリオットはリィンたちを労った。

 

「とりあえず、一劇団員として目立たないようにバラバラに配置しとけ。白兎はこのままステージに立ってくれ」

 

「疲れているところ悪いけど、頼んだよ」

 

「……わかりました。覚悟はできています」

 

「いよいよ潜入作戦開始だな」

 

「アル、頑張って!」

 

「無事に成功したら教官がパンケーキを奢ってくださるそうですよ」

 

「いや待て。それは──」

 

「ホイップクリーム大盛、三種のベリーソース追加でお願いします」

 

アルティナの目の色が変わった。

 

「フルーツもつけてもらえよ」

 

「もちろんです。後、苺ミルクもお願いします」

 

「わ、わかった。つける、つけるから」

 

「言質は取りました」

 

アルティナは微笑みながらエリオットについて行った。

 

「……………………」

 

リィンは肩を落とす。

 

「まあまあ、リィン君」

 

「そうですよ。それに、アルが言ったメニューはリーヴスのベーカリーカフェのメニューですよ」

 

「そういえばそうですね」

 

「……そうだな。いずれリーヴスに戻ろう。Ⅶ組特務科全員でな」

 

『はい!』

 

「…………………」

 

キリコは少し離れた。

 

「ったく、眩しいな。後、言っとくがオレはもう少しティータたちの行方を探って来るからな」

 

「アガットさん……?」

 

「やはり騒ぎになりかねませんか……」

 

「まあな。遊撃士のランクってのは時に枷になることもあんだ」

 

「バラッド侯は政府ともつながりがありますから、多かれ少なかれ影響が出るんでしょう」

 

「それに帝国貴族の中には遊撃士を嫌う者もいるからな。帝国で遊撃士の活動停止処分には貴族派も関わっているらしい」

 

「既得権益者にとっちゃうるさいんだろうよ」

 

「……否定はしねぇ。とにかく、何かあったら連絡してくれ」

 

「わかりました。そろそろステージも始まるようですし」

 

「んじゃな」

 

アガットはギルドに戻って行った。

 

「何かドキドキしてきましたね」

 

(頼むぞ。アルティナ、エリオット)

 

リィンたちは演奏ステージを見届けた。

 

 

 

午後11:35

 

演奏ステージは無事に成功した。

 

作戦通り、退屈をもて余していたバラッド侯の目に留まり、潜入班は城館に招待されることになった。

 

城館の正面は衛士隊が守っていたため、横の出入り口からバラッド侯の私兵に案内され、バラッド侯が待つ執務室に通された。

 

バラッド侯は笑顔で出迎えたが、リィンたちの顔を見て固まった。

 

すぐさま、アルティナとエリオットが執務室全体を遮音フィールドを展開する。

 

「なあっ!?」

 

「即興ですが上手くいきましたね」

 

「ふふ、これでしばらくは外に一切声は漏れませんよ?」

 

エリオットは微笑んだ。

 

「な、なんじゃお前たちは……っ!?」

 

バラッド侯はリィンを見てハッと気づく。

 

「そなた……髪の色は違うが灰色の騎士か!?」

 

「ええ。よくお気づきに」

 

「それにユーシス君に行方不明のアンゼリカ嬢まで……!」

 

「領邦会議以来になりますか」

 

「フッ、行方知れずだった事くらいは知っていてくれたようですね?」

 

「そ、それよりだ!そ、そこのお主は……!」

 

バラッド侯は幽霊を見たかのような反応をした。

 

「………………」

 

「やはりご存知でしたか」

 

「あ、あ、当たり前だ!畏れ多くも陛下を暗殺しようとした大罪人だぞ!」

 

「っ!」

 

アッシュは奥歯を噛む。

 

「それについては極めて複雑な事情があるとだけお答えしておきましょう。それより挨拶が遅れました。2ヶ月ぶりですわ、大叔父様」

 

「ミ、ミルディーヌ………」

 

バラッド侯爵はミュゼと目が合った。そして冷静さを取り戻す。

 

「フン、どうやら完全に嵌められたようだな。ワシも焼きが回ったものよ。領邦会議での失脚以来まるで坂を転がり落ちるように………。ええい、本当に忌々しい」

 

バラッド侯はリィンたちに背を向け、遠くを見つめた。そして椅子に座り直した。

 

「それで、何の用だ?いまや次期公爵どころか政府の傀儡に成り下がったこのワシに」

 

「な、何を不貞腐れて……何の用じゃないでしょう!?」

 

バラッド侯の態度にユウナは腹を立てた。

 

「囚われたトールズ関係者、そしてアルフィン皇女殿下を解放して頂きます!」

 

「トールズに、皇女殿下ぁ……?」

 

クルトの言葉にバラッド侯は目を丸くした。

 

「──ワーッハッハ!それはまた間の抜けたことよ!」

 

バラッド侯ははじけたように笑い出した。

 

「なっ……」

 

(あの笑い、嘘やごまかしではないようだな)

 

「……どういうことでしょう?」

 

「どうもこうもない──そんな者たちは最初からここにはおらんわ。せめて皇女殿下をお迎えできていればここも華やいでいただろうがな」

 

「ではバラッド侯、二人は最初からいないと?」

 

「フン、元々はこちらで保護する予定だったのは間違いないわい。だが鉄路で帝都から来られる途中、急遽とある場所に留められたのだ。リベールの留学生とやらと共にな」

 

「ティータさん……!」

 

「鉄路の途中と言えば……」

 

「ドレックノール要塞か」

 

「そして父さんたち第四機甲師団が駐屯している場所だね」

 

 

 

「わかったであろう。ここには最初からワシしかおらん」

 

「どうやらそのようですね」

 

「フフ、分かればよい。さて、次はおぬしらじゃが……」

 

『!』

 

リィンたちは身構えた。

 

「これ以上関わり合いたくもない。見逃してやるから一刻も早く出ていってくれ」

 

「……事を荒立てるつもりはないと?」

 

「当たり前だ!おぬしたちに会ってからワシのツキが下がりっぱなしなのだ!」

 

「俺らのせいじゃねぇだろうが……」

 

(少なくともキリコさん以外は……)

 

アルティナは心の中でそう思った。

 

「ま、全く……イーグレット伯爵もとんだ酔狂な………こんな奴を……」

 

「………聞き捨てならないな」

 

「ヒイッ!」

 

キリコの鋭い視線にバラッド侯は顔を青くし、狼狽えた。

 

「俺のことはいい。だが、イーグレット伯爵には世話にはなったのでな」

 

「あ、あがが……」

 

キリコは殺気を纏い、バラッド侯を睨む。

 

「キリコさん、お祖父様はこのようなことでいちいち気分を害することはありませんよ。大丈夫です」

 

ミュゼはキリコの腕を掴む。

 

「……………………」

 

キリコから殺気が静まる。

 

(やれやれ……)

 

(ふふ、なかなかの義侠心じゃないか)

 

アンゼリカはキリコの内面を垣間見た気がした。

 

「と、とにかく!顔も見たくない!出ていってくれ!」

 

我に返ったバラッド侯は両手を机におもいっきり叩きつける。

 

「……とりあえず、ここは撤退致しましょう」

 

「そうだな。アガットさんやみんなにも報告しなくちゃな。では失礼いたします」

 

リィンたちは執務室から立ち去ることにした。

 

 

 

午後12:15

 

『なるほど、そんなことが』

 

『よくそこまで教えてくれたもんだな』

 

ハイアームズ侯爵城館から戻って来たリィンたちはメルカバに残る初代Ⅶ組メンバーらと話し合っていた。

 

「あのオジサンがすんなり教えてくれたのは意外でしたけど……」

 

「嘘を言っている様子でもなかったし、彼なりの僕たちに対する意趣返しなんだろう。それにしても、ルスケ大佐の読みはだいたい当たっていましたね」

 

「結局はドレックノール要塞にでしたが」

 

『なあ、キリコ。お前はどう思うよ?』

 

「……わざとああいう言い方をしたとしか思えない」

 

『わざと?』

 

「俺たちが城館に留まっているうちに何かを進めておく、とかな」

 

「つまり、何らかの策に私たちは利用されたということかい?」

 

『それくらいはやってのけるでしょうね。何しろ、権謀術数で大佐にまで登り詰めた手腕の持ち主らしいから』

 

「もちろん真っ当な手段なわけがない」

 

「くっ……!」

 

「なによそれ!」

 

「二人とも落ち着いてください」

 

「いちいち怒っていてもきりがない」

 

憤慨するクルトとユウナをミュゼとキリコが宥める。

 

『アルフィン殿下はともかく、ティータさんも一緒にいさせるのはどうしてでしょう?』

 

「……普通に考えたら国外退去させそうなものだが、例のブライト姉弟が帝国入りしたのとも関係がありそうだな」

 

『ええ。間違いなく、牽制材料でしょう』

 

「……父さんやナイトハルトさんと全く連絡がつかないのも頷けるね」

 

「エリオットさん……」

 

「なあパイセン、目的なんかはわかんねぇか?」

 

「うん。どうして殿下たちを要塞に留めたのかはわからないけど……多分──僕たちが来るのを読んでいるんじゃないかと思う」

 

「ああ、間違いないだろうな」

 

 

 

リィンたちが振り向くと、アガットが立っていた。

 

「アガットさん!」

 

『アガット、戻ったんだ』

 

「ああ。鉄道方面を調べてた。お前らの読みは当たってる」

 

「では、やはり……!」

 

「ティータと皇女は第四機甲師団の監視下で丁重に保護されている。そしてそれを鉄道関係者とバラッドに口止めしなかったのはそういうことだろうよ」

 

「まさか……」

 

「俺たちを試そうとしているのか」

 

『この状況下でⅦ組がどんな道を示そうとしているのか──といった所でしょうか』

 

「うん、多分ね。父さんらしいっていうか」

 

「ナイトハルト中佐も同じだろう」

 

「いずれにせよ、ドレックノール要塞は帝国南部における正規軍の最大拠点です。潜入、および殿下たちの奪還はかなりの難易度になることが予想されます」

 

『正直、旧都城館への侵入なんざ比べ物にならねぇだろうな』

 

クロウの言葉にⅦ組はしばし無言になった。

 

「だが、それでも退くわけにはいかない。殿下とティータが囚われているなら全力を尽くすまでだろう」

 

「うん、そうだね」

 

「海都の時も今回も上手くいったし、きっと次だって……!」

 

「簡単にはいかないだろうが、背を向ける理由がない」

 

「オレもアイツの保護者として同行させてもらうつもりだ」

 

アガットは前に出て、懐から小さな装置を取り出す。

 

「軍事要塞への潜入ってのも初めての経験じゃないしな」

 

「その装置は……」

 

「何か〝方法〟に心当たりがあるんですね?」

 

「ああ。だが色々と段取りが必要だ。さっそくお前さんたちにも手伝ってもらうぜ……!」

 

新旧Ⅶ組はアガットの指示の下、動き出した。

 

 

 

「……なるほど………話はわかりました」

 

「でしょう?ならばさっそく──」

 

「失せろ」

 

「は?」

 

「そんな与太話に付き合ってられるほど我々は暇ではないのでね」

 

「し、しかし現に……!」

 

「それはあなたが決めることではない。このルスケもなめられたものだ」

 

「お、お待ちください……!」

 

「テイタニア中尉、ワッズ氏がお帰りだ」

 

テイタニアはドアを開け、帰るよう無言の圧力をかける。

 

「くっ……!」

 

ロッチナとテイタニアの迫力に屈したワッズはすごすごと引き上げて行った。

 

「良いのか?」

 

「フフフ、これで良い」

 

ロッチナは笑みを浮かべた。

 

 

 

(おのれ……!このままですませるか……!)

 

ワッズはどこかへと通信をかけた。

 




次回、ドレックノール要塞で戦います。

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