英雄伝説 異能の軌跡Ⅱ   作:ボルトメン

32 / 53
ドレックノール要塞

七耀暦1206年 8月24日

 

リィン、ユウナ、クルト、エリオット、アガットは貨物列車のコンテナの中に身を潜めていた。

 

「こんな方法、どこで……」

 

「言ったろ?軍事要塞への潜入は初めてじゃねぇって」

 

「なるほど。経験済みでしたか」

 

リィンとエリオットは脱帽した。

 

「「……………………」」

 

その隣でユウナとクルトは黙りこんでいた。

 

「大丈夫か?もしかして酔ったか?」

 

「い、いえ……」

 

「だ、大丈夫です……」

 

クルトとユウナは俯く。

 

「キツいなら無理せず言ってくれよ?」

 

「「は、はい……」」

 

(シュバルツァー………)

 

(察してあげなよ………)

 

アガットとエリオットはリィンの鈍感さに呆れた。

 

 

 

一方、キリコ、アッシュ、ミュゼ、アルティナ、クロウと残りの初代Ⅶ組と鉄機隊はドレックノール要塞付近の二ヶ所のポイントで待機していた。

 

「しかし、ホントに来んのか?」

 

「ミュゼさんの読みによると、衛士隊の魔煌機兵部隊が強襲してくるそうです」

 

「そこを利用させてもらうことに致しましょう」

 

「Ⅶ組が今の帝国で立ち回るなら、先手に拘る必要はない」

 

「こういう喧嘩は先に動いた方が敗けるからな」

 

「まあな。にしても、いいのかよ?フェンリールで」

 

クロウはキリコに聞いた。

 

「こちらの方が都合が良い」

 

「都合?」

 

「俺が独自に動いていることにすれば、その分教官たちが動きやすくなる」

 

「キリコさん……」

 

「そりゃまあ、そうだけどよ……」

 

「……様子を見てくる」

 

ミュゼたちが無言になる中、キリコは双眼鏡を持って、北サザーラント街道方面に偵察に出た。

 

 

 

リィンたちはドレックノール要塞内の貨物駅に降り立った。

 

「上手くいきましたね」

 

「すごいですね、その装置」

 

「昔、ラッセルの爺さんが作ったモンだ。たいていの導力検知器はこいつで誤魔化せる」

 

「だ、大丈夫なんですか?」

 

「今回は要人救出がメインだ。レイストン要塞んときと同じだ」

 

「レイストン要塞……」

 

「リベール王国最大の軍事要塞ですね」

 

「まあ、長くなるから後回しだ。それじゃ、行くぞ」

 

リィンたちはドレックノール要塞に突入した。

 

 

 

「アルティナ、悪いが来てくれ」

 

偵察から戻ったキリコはアルティナについて来るよう呼び掛けた。

 

「何かありましたか?」

 

「機甲兵が隠してあった」

 

「機甲兵が?」

 

「気になるな。でも衛士隊はいなかったのか?」

 

「まだ来ていない」

 

「とりあえず急ぎましょう」

 

キリコたちはもう一つのポイントに連絡を入れ、機甲兵が隠されている場所へと向かった。

 

「こいつは……!」

 

アッシュたちが見たのは、12アージュはあろうかという、巨大な機甲兵だった。

 

「ゴライアス・ノア!?」

 

「なんでこんな所に……?」

 

「おそらく……陽動作戦に用いるための機体でしょう。私たちの来訪を予知している第四機甲師団の」

 

「前面に集中させて、背後からズドンってか」

 

「気づいてよかったな」

 

「……腑に落ちないな」

 

キリコは顎に手をやる。

 

「あ?」

 

「腑に落ちない?」

 

「隠蔽工作が稚拙過ぎる。まるで初めから発見させようとしているみたいにな」

 

「待てよ、てこたぁ……」

 

「罠、ですか」

 

「一応、調べてみましょう」

 

アルティナはクラウ=ソラスを使ってゴライアス・ノアを調べだした。

 

「………………」

 

「ど、どう?」

 

「……細工などは確認できませんでした」

 

「ますますわかんねぇな」

 

「やはり俺たちを試そうというのかもな」

 

「そうですね。ではそろそろ──」

 

ミュゼが言い終わらないうちに、警報が鳴り響いた。

 

「これは……!」

 

「動いたか」

 

「じゃあ、あたしたちも──」

 

「お前たちは要塞に行け。俺はここで身を潜めておく」

 

キリコはユウナたちにそう告げた。

 

「キリコ………」

 

「アルティナ、フェンリールを頼む」

 

「…………わかりました」

 

アルティナはクラウ=ソラスを出し、ゴライアス・ノアとフェンリールを入れ替えた。

 

「ここからは一切、俺に呼びかけるな。あくまでもⅦ組とは無関係だと装え」

 

「キリコさん……」

 

「わかった、気をつけろよ。後輩ども、急ぐぞ!」

 

クロウの号令に、新Ⅶ組は走りだした。

 

 

 

リィンたちがドレックノール要塞に足を踏み入れた瞬間、突然アラートがけたたましく鳴り響いた。

 

「えっ……!?」

 

「チッ、コイツは……!」

 

『来たようだな、Ⅶ組。遊撃士も一緒のようだ』

 

『エリオットも……来ると思っていたぞ』

 

『久しぶりね、エリオット』

 

混乱するリィンたちをよそに、天井から二人の男性と優しげな女性の声が響いてきた。

 

「父さん!それに姉さんも!?」

 

「その声はナイトハルト中佐……!」

 

エリオットは父と姉の、リィンはかつての教官の声に声を上げる。

 

『リィンさんっ!』

 

『アガットさんも……!』

 

今度は二人の女性の声が響いてきた。

 

「この声……アルフィン殿下ですね!?」

 

「ティータも一緒か!?」

 

『はい……!ああ、リィンさん、皆さんもよくぞご無事で……』

 

「殿下の方こそ……!」

 

「心配しておりました……!」

 

聞こえてきたアルフィン皇女の声に、リィンとクルトは安堵した。

 

『グスッ、アガットさん……本当に来てくれるなんて……!』

 

「ハッ、たりめぇだ。言ったろ、絶対に駆けつけるって」

 

アガットはティータの無事を知り、内心ホッとした。

 

『殿下たちの事なら安心して。こっちで丁重に保護させて頂いているわ』

 

『うむ、あくまで要塞の客人としてな』

 

ドレックノール要塞の司令室からモニター画面を見ながら、フィオナとクレイグ将軍は口を開いた。

 

『最上階の司令室にて待つ。殿下たちを解放したくばここまでたどり着き、己の手で勝ち取ってみせよ』

 

『ただし我ら第四機甲師団の本拠地──不本意だが人形兵器を哨戒させている。乗り越えたくば君たちの全力をもって挑むことだ』

 

「ハッ、上等じゃねぇか!」

 

アガットは重剣を握りしめる。

 

「必ずや乗り越えてみせます!」

 

「待っていて、父さんに姉さん、ナイトハルトさんも!」

 

「僕たちも負けません……!」

 

「うん──絶対に!」

 

Ⅶ組も闘志を燃やす。

 

『フッ……』

 

『楽しみにしているぞ、我が息子よ』

 

『待っているわ、トールズⅦ組のみんな』

 

『き、気をつけてください、皆さん!』

 

『どうか女神の加護を……!』

 

アルフィン皇女の声を最後に、通話は途切れた。

 

「ふう、無事がわかって良かったけど、こんなに早くバレちゃうなんて……」

 

「どうやら要塞へ来ること自体読まれていたみたいですね」

 

「ああ、さすが俺たちⅦ組をよく知る人たちということだろう。まさかフィオナさんもいるとは思わなかったが」

 

「多分、父さんが呼んだんだと思う。ほら、双龍橋の一件もあったし」

 

「そうか、それもそうだな」

 

「双龍橋の一件、ですか?」

 

「兄上から聞いたことがあります。フィオナさんという方は貴族連合軍に人質にされたとか」

 

「ああそうだ。それで俺たちが救出に乗り出したんだ。あの時の二の舞は将軍も是が非でも防ぎたいんだろう」

 

リィンはクレイグ将軍たちの手腕を素直に評価した。

 

「それにしても、まさか人形兵器を要塞の哨戒に運用しているなんて……」

 

「衛士隊のゴリ押しもあったんだろうな」

 

「断ることは出来なかったんでしょうか……?」

 

「クレイグ将軍は根っからの軍人だ。個人の疑問云々よりも、政府の決定には従わざるを得ないんだろう」

 

「君たちがサザーラントで演習をした時も、父さんたちは動けなかったんだ」

 

「そうだったんですか……」

 

ユウナは胸に手を当てた。

 

「帝国軍最強の師団に人形兵器が加わるとなると、厳しい戦いになりそうですね」

 

「後は外の奴らに任せるしかねぇな」

 

「ええ、そうですね……」

 

リィンは外へ通じるゲートを見た。

 

「大丈夫、リィン。僕たちの仲間を信じよう」

 

「何だかんだ言って、ここまでついて来たんだ。簡単にやられるタマじゃねぇのはお前さんが一番よく知ってることだろう?」

 

エリオットとアガットは諭すように言った。

 

「アルにキリコ君、アッシュにミュゼ。みんな教官に鍛えられたんですよ」

 

「あの四人なら大丈夫ですよ。もちろん僕たちも足手纏いになるつもりはありませんが」

 

新Ⅶ組も続いた。

 

「……そうだな。エリオット、二人とも、宜しく頼む!」

 

「うん!」

 

「「はいっ!」」

 

「アガットさんも改めて宜しくお願いします……!」

 

「おう!任せな!」

 

リィンたちは円陣を組む。

 

「行くぞ──これより、ドレックノール要塞の攻略を開始する!」

 

リィンたちは改めて突入した。

 

 

 

【食らえや!】

 

【怯むな!第四機甲師団の底力を見せつけろ!】

 

ドレックノール要塞の外では、機動兵器同士の戦闘が繰り広げられていた。

 

【よう、アラン。久々だな!】

 

【クロウ先輩……本当に生き返ってたんですね】

 

【まあな。リィンから聞いたが幼馴染を射止めたんだってな!】

 

【ど、どうも──】

 

【少尉、無駄口を叩くな!ここは戦場だぞ!】

 

【っ!……すみませんクロウ先輩。ここで倒させてもらいます!】

 

【来な!】

 

クロウが乗るオルディーネは10機の機甲兵を相手取っていた。

 

 

 

【アンタ、確かキリコの……】

 

【元第九機甲師団員にして、元上官だというライル・フラット大尉ですね】

 

ヘクトル弐型・改とケストレルβⅡは4と9が描かれたシュピーゲルSとドラッケンⅡ2機と対峙していた。

 

【そうか、君たちはキリコの同級生か。それと今は少佐だよ】

 

【昇進なされたんですね。いえ、こういう時だからこそ】

 

【君、いや貴女がカイエン公か。ええ、戦時特例という形でですね】

 

ライル少佐はゆっくりと答えた。

 

【にしても、嫌なもんですな】

 

【息子と変わらない年頃の相手と戦わなくてはならんとは】

 

【ダミアン准尉、コンラート中尉。私語は慎め】

 

【【イエッサー】】

 

ライル少佐の言葉に二人は姿勢を正す。

 

【一応聞くけどよ、目溢ししてくれたり……】

 

【それは出来ない。理由はどうであれ、君たちは侵入者だ】

 

ライル少佐はきっぱりと言った。

 

【では、ここは力づくでということで……!】

 

ヘクトル弐型・改とケストレルβⅡは得物を構える。

 

【いいだろう。では行くぞ!】

 

シュピーゲルSとドラッケンⅡも構えた。

 

 

 

「殿下……」

 

ドレックノール要塞司令室では、クレイグ将軍とナイトハルト中佐がアルフィン皇女とティータに詫びていた。

 

「此度の一件、誠に申し訳ありません。皇族である貴女を人質に取るような無礼を、どうか……!」

 

「かのラッセル博士の身内であるティータ君にも申し訳ない」

 

クレイグ将軍とナイトハルト中佐は頭を下げた。

 

「お父さん……」

 

「はわわっ……!?」

 

ティータは思わず狼狽えた。

 

「頭を上げてください、将軍閣下」

 

アルフィン皇女は首を横に振る。

 

「私たちを保護してくださったのは、衛士隊の手中に囚われることを恐れてのことでしょう。現に、お母様がジュノー海上要塞に軟禁されていたとか」

 

「ええ。その後の調査の結果、Ⅶ組によって解放され、今はオルディスにてレーグニッツ暫定的統括官と共におられるそうです」

 

「レーグニッツ氏なら安心ですわ」

 

アルフィン皇女は母の行方に安堵した。

 

「クレイグ将軍……今回のこと、手を引いて頂くわけには参りませんか?」

 

「それは出来かねます」

 

クレイグ将軍はきっぱりと言った。

 

「ナイトハルトさん……」

 

「フィオナさん、申し訳ありませんが私も閣下と同意見です」

 

ナイトハルト中佐も目を瞑りながら言った。

 

「この帝国で〝第三の道〟を往かんとする彼らの覚悟、見定めねばならん。殿下、もうしばらくお待ちください」

 

「……わかりました」

 

アルフィン皇女は顔を伏せた。

 

 

 

(集結しつつあるか)

 

ミュゼたちと別れたキリコは再び偵察に出た。

 

(ずいぶんと大掛かりな兵器を持ち込んでくるようだな。あの形状、どこかで見たような……)

 

キリコは双眼鏡で魔煌機兵が運搬している大型の兵器を見つめる。

 

(おそらくあの兵器は後方に配置される)

 

キリコは地図を取り出した。

 

(第一陣はミュゼたちや第四機甲師団に任せて、俺は先に背後から第二陣を叩く。それが終わればそのまま第一陣を奇襲し、撤退。それでいこう)

 

キリコは作戦プランを練り上げ、フェンリールの所に戻った。

 

 

 

突如、ドレックノール要塞司令室の通信が入った。

 

「この通信暗号は……」

 

ナイトハルト中佐は訝しげに通信を開く。

 

モニターにどことなく不機嫌そうな肥満体の軍人が映った。

 

『こちら衛士隊のクレープス大佐である』

 

「こちらは第四機甲師団のナイトハルト中佐です。クレープス大佐、何かご用でしょうか?」

 

『単刀直入に言う。貴公らの元にいる皇女殿下とリベールの留学生を即刻引き渡してもらおう』

 

「引き渡せ、とは?お二人はこちらで丁重に保護しておりますが」

 

『元々は我々衛士隊がお迎えするはずだったのだ。まあ、貴公らは音に聞こえし第四機甲師団。引き渡せば此度の嫌疑はなかったこととしよう』

 

「嫌疑?いったい我々に何の嫌疑が?」

 

『決まっているであろう。皇女殿下と留学生の誘拐だ』

 

「誘拐ですと!?先ほどもお伝えしたとおり、お二人は我々第四機甲師団が──」

 

『図に乗るな、青二才が!』

 

クレープス大佐は怒りを露にした。

 

『気をつけることだ。貴様の物言いが、第四の今後を左右するということを忘れるな』

 

「クッ!」

 

ナイトハルト中佐は拳を握りしめ、悔しさを滲ませる。

 

その時──

 

「……我が部下を侮辱するのは止めてもらおう」

 

クレイグ将軍はモニターを睨み付ける。

 

『ク、クレイグ将軍……!』

 

さしものクレープス大佐も焦る。

 

「……一度しか言わんからよく聞け」

 

クレイグ将軍は姿勢を正す。

 

「我々第四機甲師団は、現在保護している皇女殿下とリベールからの留学生の引き渡しは拒否するっ!!」

 

「な……!?」

 

「お父さん……!」

 

『じ、自分が何を言っているのか、わ、わかっておられるのでしょうな!?』

 

「やかましい!」

 

クレイグ将軍は右手を叩きつける。

 

『ヒッ!?』

 

「皇妃様をジュノーに軟禁しただけにとどまらず。あまつさえ皇女殿下を手中に納め、皇室の権威を笠に着ようとしている貴様らの言えた義理かあっ!!」

 

「閣下……」

 

(モルガン将軍よりすごいかも……)

 

『ぐぐっ……!ならばよかろう!正義は我らにありだっ!』

 

通信は唐突に切れた。

 

「……………………」

 

クレイグ将軍は頭を押さえる。

 

「申し訳ありません。どうやら、衛士隊と一戦交えることになるようです」

 

「いいえ将軍。私も腹を括ります。正義などとおっしゃっていましたが、彼らのどこに正義があるのでしょう?」

 

「殿下……」

 

「いざとなれば、私が呼びかけます。ご自分を責めないでください」

 

「あ……」

 

「お父さん」

 

フィオナは父の肩に触れる。

 

「……お強くなられましたな」

 

「帝国を蝕む黄昏の呪いは見て見ぬ振りをしていたアルノール家の失態です。いつまでも花よ蝶よとはいられません。ですが──」

 

アルフィン皇女はティータの方を向く。

 

「ティータさんだけは──」

 

「大丈夫ですよ。私もここにいます」

 

「でも……」

 

「アガットさんやリィン教官たちがきっと来てくれますから」

 

ティータは精一杯はにかんだ。

 

「ティータさん……」

 

アルフィン皇女はティータの隣に座った。

 

「むう……」

 

「我らの敵う相手ではありませんでしたな」

 

「ええ(急いで、エリオット、みんな……)」

 

 

 

「そこまでです!」

 

ドレックノール要塞司令室を目指すリィンたちは第四機甲師団の兵士たちと対峙していた。

 

「灰色の騎士殿、ここを通すわけにはいきません」

 

「エリオット坊っちゃんも、退いて頂けませんか?」

 

兵士たちは剣を構える。

 

「フィーから聞いていたが、本当に坊っちゃんて呼ばれてんだな」

 

「もう……フィーってば」

 

エリオットは顔をしかめる。

 

「申し訳ありませんが、退くわけにはいきません。押し通らせてもらいます!」

 

リィンたちは得物を構える。

 

「いいでしょう。私たちにも意地があります」

 

「あなた方の覚悟、見極めさせて頂きます!」

 

第四の兵士たちはリィンたちに斬りかかった。

 

 

 

【カオスセイバー!】

 

【ぐはっ!?】

 

オルディーネの10機目のドラッケンⅡを倒した。

 

【これが……蒼の騎神………】

 

【くっ!抜かった……!】

 

【悪いな。さてと……】

 

クロウはアラン少尉に呼びかけた。

 

【おいアラン。生きてるか?】

 

【と、とりあえずは……】

 

【まだ動けんなら備えといた方がいいぜ。もうすぐ衛士隊の奴らが来る】

 

【衛士隊が!?】

 

アラン少尉は仰天した。

 

【どうも奴ら、第四がお姫さんを誘拐したとかで、奪取しに来るみてぇなんだと】

 

【む、無茶苦茶だ……!】

 

【我々は断じて誘拐などしていない!】

 

【衛士隊の連中、いよいよ俺たちが目障りになってきたとでもいうのか!】

 

クロウからもたらされた情報に、兵士たちは殺気立つ。

 

【………色々あるみてぇだな】

 

【ええ。ここ最近、我が物顔に振る舞う連中が多いんです】

 

【特に指揮官のクレープスってブタ野郎が──】

 

【中尉。思っていても口には出すな】

 

奥からライル少佐の乗るシュピーゲルSとヘクトル弐型・改とケストレルβⅡが歩行してきた。その隣にアルティナもいた。

 

【ライル少佐……】

 

【へえ?現行機でその二機を抑えたのかよ?】

 

【いや、ひたすら防御に徹した結果さ。連絡が来なかったら負けていたよ】

 

【連絡?】

 

【先ほどナイトハルト中佐殿から連絡がきた。要塞に迫り来る衛士隊を抑えろとのことだ】

 

【大丈夫なのでありますか?衛士隊を敵に回して】

 

【まあ、第四は明日以降から政府の言いなり状態になるだろうな】

 

【ライル少佐……】

 

「そのようなことになってもいいんですか……?」

 

【上からの指示だからね。何より──】

 

ライル少佐は操縦捍を握りしめる。

 

【皇女殿下誘拐などと第四の金看板に泥を塗ってくれた衛士隊には思い知らせてやらなければならない。いったいどこの誰に喧嘩を売ってきたのかをね】

 

【アンタ……意外に熱血だな】

 

【第九機甲師団にいたからね。亡きゲルマック閣下なら大隊を率いてカチコミをかけていたんじゃないかな】

 

【ハハ、言えてますね】

 

【コケにしくさりおって!とか言いそうですな】

 

元第九機甲師団に所属していた者たちは笑みを浮かべた。

 

【スゲェ……】

 

【さすがは白兵戦において、最強と言われた第九機甲師団ですね】

 

【ハハ、頼もしいねぇ】

 

クロウはライル少佐たちを見つめる。

 

【では布陣を組み直す。コンラート中尉らは前衛で魔煌機兵を食い止めろ。アラン少尉も戦列に加われ。クラム大尉らは射撃戦で前衛の支援。旧式戦車隊も加われ。一刻の猶予も無い、急げ!】

 

【イエス・サー!!】

 

ライル少佐の指揮の下、兵士たちは動き始めた。

 

【俺らは?】

 

【君たちの出る幕はない】

 

【なぜでしょう?】

 

【私たちの務めは民間人を守ることも含まれています】

 

「しかし……」

 

【私たちだって死にに行くわけじゃありません。もっとも、共和国との全面戦争が始まったらどうなるかわかりませんが】

 

【…………………】

 

ミュゼは顔を伏せる。

 

【じゃあ、そろそろ行きますね。機会があればまたどこかで】

 

シュピーゲルSは北サザーラント街道方面へと向かった。

 

【どうすんだよ?】

 

【要塞ん中に行くか、加勢に行くか、だな】

 

「街道ではキリコさんが控えていますが」

 

【………私たちは先輩方の加勢に参りましょう。アルティナさんの言うように、向こうにはキリコさんが控えていらっしゃいますのでそちらは大丈夫でしょう。それと……】

 

【それと?】

 

【少々マズイことになりそうです】

 

ミュゼがおもむろに口を開いた。

 

「ミュゼさん……?」

 

【どうかしたのかよ?】

 

【……なんか視えたのか?】

 

【はい、衛士隊はどうやら新兵器を投入してきます。問題はその新兵器により……】

 

【何が起きんだ?】

 

ミュゼは躊躇いつつも、顔を上げた。

 

【……第四機甲師団とドレックノール要塞………どちらも崩壊します】

 

 

 

「待っていたぞ」

 

リィンたちはドレックノール要塞司令室に到達、一気に突入した。

 

執務用のデスクの前に、クレイグ将軍とナイトハルト中佐が、その斜め後ろにフィオナとアルフィン皇女とティータが立っていた。

 

「父さんに姉さん……ナイトハルトさんも!」

 

「アルフィン殿下!」

 

「ティータ、無事か!?」

 

「リィン、さん……皆さんも………やっと………やっと会えた………!」

 

アルフィン皇女は胸に手を当てる。

 

「……本当にお久しぶりです。ご心配をおかけしました」

 

「グスッ、私たちは平気です!アガットさんは……!?」

 

ティータの目から熱いものが流れる。

 

「へっ、見ての通りだっての。……元気そうで何よりだぜ」

 

「感謝します。将軍、中佐も。二人を丁重に扱って頂いて」

 

「なに、皇族に留学生ならば礼を尽くすのは当然のことだ」

 

「窮屈な思いをさせたのは間違いないだろうがな」

 

「あはは……侯爵のオジサンとずっと一緒よりはマシのような」

 

「……さすがにバラッド侯が不憫になってくるんだが………」

 

クルトは少しだけバラッド侯に同情した。

 

「コホン──改めてよくぞ来た。Ⅶ組、リベールの遊撃士よ。屈強なる第四の師団兵たちを越え、無事にここまでたどり着くとはな」

 

クレイグ将軍はエリオットに目をやる。

 

「エリオット、可愛かったお前の逞しい成長、父としてこれほど嬉しいことはない」

 

「立派になったわね、エリオット。お姉ちゃん嬉しいわ」

 

「ふう、後輩たちの前で可愛いとかそういうの止めてほしいな。──乗り越えるよ、どんな壁でも。僕たち自身が決めたことだから」

 

エリオットはしっかりと自身の想いを家族に告げた。

 

「エリオット……」

 

「そうか……」

 

「フッ、かつての戦術教官としても、以前からの知り合いとしても嬉しい限りだ。シュバルツァー、ミュラーの弟も──迷いを断ち切りつつあるようだな?」

 

「ええ……多くの人たちが支えてくれたおかげです。その想いに応えるためにも、ここで貴方たちを越えてみせます」

 

「兄上の盟友にして戦友──《剛撃》のナイトハルト中佐。未だ未熟な剣ではありますが、届かせてもらいます……!」

 

リィンとクルトは抜刀した。

 

「教官、クルト君……そうだね!」

 

「ハッ、上出来だぜ」

 

ユウナとアガットも得物を構える。

 

「皆さん……」

 

「アガットさんも……」

 

アルフィン皇女とティータはリィンたちの姿を目に焼きつける。

 

「フフ……見よ、ナイトハルト。あれが獅子心皇帝から脈々と受け継がれてきたものだろう」

 

「ええ──新たなⅦ組も確かに。ならばこちらも全力で応えるべきでしょう……!」

 

クレイグ将軍は斬馬刀を、ナイトハルト中佐は大剣を構える。

 

「これが最後の試練だ──今こそ確かめさせてもらうぞ!絶望と破滅に向かいつつある帝国におぬしらが示す力と意志を!」

 

「分かりました……!行くぞ、エリオット!Ⅶ組として、トールズとして!」

 

「うん、奏でてみせる──僕たちだけの調べを!」

 

「俺らにとってもお隣さんだ……!問答無用で助太刀させてもらうぜ!」

 

リィンたちはクレイグ将軍らに斬りかかった。

 

 

 

【ぐわっ!?】

 

「クッ……行かせるなぁっ!!」

 

【………………】

 

一方、北サザーラント街道では熾烈な戦いが展開されていた。

 

「我らが同胞を幾人も屠った憎き《蒼き災厄》め!なぜ我らの邪魔をする!!」

 

【………………】

 

キリコは構うことなく引き金を引く。

 

【ここは我らが止める!早くその新兵器を………!】

 

「りょ、了解!!」

 

命令を受けた衛士隊兵士は運搬車のスピードを加速させる。

 

【ここから先へは行かせん!】

 

【我らの大義、貫かせてもらう!!】

 

二機のゾルゲはフェンリールに斬りかかる。

 

【遅い】

 

フェンリールは二機の足元にマシンガンの銃撃を撃ち込む。続け様に大型アイアンクローでゾルゲの装甲を抉る。

 

【ぐ……ぐふっ………】

 

【こ……これで良い………これで大義が…………】

 

ゾルゲは崩れ落ちた。

 

【急ぐか】

 

キリコはフェンリールをドレックノール要塞に向けて走らせる。

 

 

 

要塞司令室でも、戦闘は激化していた。

 

「ジェミニブラストⅡ!」

 

「真・双剋刃!」

 

ユウナとクルトはクラフト技を叩き込む。

 

「ぬうっ!」

 

クレイグ将軍は斬馬刀で易々と受け止める。

 

「甘いわっ!サイクロンレイジ!」

 

「きゃあっ!?」

 

「ぐっ!」

 

クレイグ将軍のクラフト技を受けたユウナとクルトは吹っ飛ばされた。

 

「二人とも、大丈夫?ホーリーソングⅡ!」

 

エリオットが二人をクラフト技で回復する。

 

「あ、ありがとうございます──」

 

「よそ見をするな!エクスクルセイド!」

 

隙を突くように、ナイトハルト中佐は空属性アーツを放つ。

 

「させない!」

 

クルトがユウナの盾になった。

 

「クルト君!?」

 

「だ、大丈夫………それより教官!」

 

「わかった!螺旋撃!」

 

リィンがナイトハルト中佐に接近して斬りつける。

 

「ぐっ……!」

 

「ナイトハルト!」

 

「悪ぃが付き合ってもらうぜ!ドラグナーエッジ!」

 

クレイグ将軍はアガットのクラフト技を真横から受けた。

 

「ぬうっ!流石はA級遊撃士と言うべきか……!」

 

「まだ終わってないよ!ブルーオラトリオ!」

 

続け様にエリオットのクラフト技が叩き込まれる。

 

「くっ!ティア──」

 

「させない!クロスブレイクⅡ!」

 

ユウナのクラフト技が回復アーツの発動を防ぐ。

 

「しまった!?」

 

「クルト、行くぞ!」

 

「了解です!」

 

リィンとクルトのラッシュ攻撃が放たれた。

 

「くっ……さすがだな……!」

 

直にくらったナイトハルト中佐は大剣を落とし、膝をついた。

 

「やるな、ならば!」

 

クレイグ将軍は斬馬刀を構える。

 

「やべぇのが来るぞ!」

 

「遅い!デストラクトハンマー!」

 

クレイグ将軍渾身のクラフト技がリィンたちに叩き込まれた。

 

その威力に、リィン、ユウナ、クルト、アガットは膝をついた。

 

「くっ……!」

 

「デタラメ過ぎでしょ……!」

 

「どうした、もう終わりか!それがおぬしらの限界か!」

 

「まだだよ!」

 

エリオットが魔導杖を掲げる。

 

 

 

「いざ、幻想の世界へ!ここからが本番だよ!レメディファンタジア!ご静聴、ありがとうございました……」

 

 

 

「これは……!」

 

「傷が治っていく……」

 

エリオットのSクラフトを受けたリィンたちは完全に回復した。

 

「さあ、今度は僕たちの番だよ!」

 

「ああ!行くぞみんな!」

 

『おおっ!』

 

「よかろう……来い!」

 

クレイグ将軍も得物を構える。

 

「先陣は僕が!レインスラッシュⅡ!」

 

「続くわ!ブレイブスマッシュⅡ!」

 

ユウナとクルトが突っ込む。

 

「ぬうっ!?」

 

「お次はこいつだ!ダイナストゲイル!」

 

続け様にアガットは重剣で薙ぐ。

 

「無月一刀!」

 

アガットと入れ代わり、リィンの強化されたクラフト技が炸裂。

 

「ぐっ……!」

 

クレイグ将軍の体勢が崩れる。

 

「これで最後!みんな、行くよ!」

 

『応!』

 

エリオットの号令と共に、バースト攻撃が放たれる。

 

バースト攻撃を受けたクレイグ将軍も遂に膝をついた。

 

「フフフ……見事だ……!」

 

リィンたちはクレイグ将軍たちの試しを乗り越えた。

 

 

 

「総員、準備を急げ!」

 

その頃、衛士隊は新兵器の準備を急いでいた。

 

「……前衛は如何致しますか?」

 

「捨て置け。時間を稼げればそれで良い。帝国に命を捧げられて本望だろう」

 

「それにしてもこんな兵器、いったいどこから……」

 

「余計な詮索は後回しにしろ。それより連結コネクターに問題はないだろうな?」

 

「無論です」

 

(ククク……ゾルゲ一機分のエネルギーと引き換えに放たれる砲撃。機甲兵など物の数ではない)

 

「どうやら準備が整いつつあるようです」

 

「そうか。いよいよだな」

 

「あの蒼い災厄は如何致しましょう?」

 

「せっかくだ、例の対機動兵器用の兵装を試してみろ」

 

「分かりました。さっそく配置に着かせます」

 

「それと、言うまでもないことだが、くれぐれも司令室は外せ。そこ以外なら吹っ飛ばしても構わん」

 

「ハッ!」

 

衛士隊兵士は前線に戻って行った。

 

(まあ、死んだら死んだで言い訳は効くし、いくらでもやりようはあるがな)

 

部隊長はほくそ笑んだ。

 

まもなく砲撃が始まる。

 




次回、フェンリールが……?

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。