英雄伝説 異能の軌跡Ⅱ   作:ボルトメン

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隠された力が目を覚まします。

タグに高橋作品ネタを追記しておきます。


流星

「エリオット……本当に逞しく成長してくれた。フフ、よもやこんなにも早くこの父を越える日が来ようとはな」

 

戦いを終え、クレイグ将軍は穏やかに息子を見つめる。

 

「あはは……越えただなんて。そんなこと少しも思っちゃいないよ。でも……」

 

エリオットは父の顔をしっかりと見る。

 

「成長できたのはリィンたちと、父さんのおかげかな」

 

「わ、私の……?」

 

「だって今の僕の足場を作ったのは間違いないなくトールズだろうから。色々あったけど士官学院に入れてくれた父さんには感謝してる──今でも」

 

「エリオット……!」

 

「坊っちゃん……ハハ、大きくなりましたね」

 

フィオナとナイトハルト中佐は微笑む。

 

「っ……!」

 

クレイグ将軍はエリオットたちに背を向けて顔を上げた。そして肩を震わせる。

 

「………母さんも、女神の下でさぞ喜んでいるであろうな」

 

(あ……)

 

(素敵なお父さんね)

 

(ああ、人間的にも大きな人物だな)

 

「……ゴホン、まあそれはともかく。じきに──」

 

ズガァーーーーーン!!!!

 

突如、いくつもの爆音が鳴り響いた。

 

「なあっ!?」

 

「きゃあああっ!?」

 

同時に、司令室に緊急通信が入る。

 

「こちらナイトハルト!いったい何が起きた!?」

 

『衛士隊です!衛士隊の新兵器と思われます!!』

 

「新兵器!?」

 

「バカな!?ここには皇女殿下たちがおられるんだぞ!?」

 

「チッ!形振り構わねぇってか!」

 

「何としてでも新兵器とやらを潰せ。こちらからも大隊を出動させる。それまで──」

 

『りょ、了解しま………!!』

 

突然ノイズが流れ、通信が途絶した。

 

「くっ、ジャミングか……!」

 

ナイトハルト中佐は両手を叩きつける。

 

「──どうやら一刻の猶予もない。トールズⅦ組よ、二人と娘を連れて脱出してくれ」

 

「将軍!?」

 

「お父さん!?」

 

「此度の一件の総ての責任は私にある。激情に任せて衛士隊と事を構えるべきではなかったのだ」

 

「ですが将軍、それは……!」

 

「そうですよ!アルフィンさんを引き渡さないようにしたためじゃないですか!」

 

ティータが反論した。

 

「……やはり殿下たちを引き渡せと言ってきたんですね?」

 

「ええ。お父さんたちが殿下たちを誘拐したと言ってね。貴方たちが来る前にきた通信を聞いていたんだけど、大義はこちらにあるって」

 

「そんな!?」

 

「どこまで腐ってやがる……!」

 

フィオナの言葉にユウナは信じられないといったように顔を歪ませ、アガットは怒りの形相を表した。

 

「とにかく、ここからは我らの領分。あくまでも民間人であるおぬしらの手を借りるわけにはいかんのだ」

 

『………………』

 

クレイグ将軍の毅然とした態度に、リィンたちは何も言えなかった。

 

「……私は残るわ」

 

フィオナは前に進み出た。

 

「姉さん!?」

 

「このままついて行ってもエリオットたちの足手纏いになりそうだもの」

 

「フィオナ……」

 

「ごめんなさい、ナイトハルトさん。でも帝都にいた頃から心配だったの。連絡のつかないお父さんと、貴方が。意に沿わない政府の命令を受けて無理しているんじゃないかって」

 

「それは……」

 

フィオナとナイトハルトの距離が縮まる。

 

「…………………」

 

クレイグ将軍は背を向ける。

 

(もしかしてお二人って………?)

 

(いい雰囲気なのは聞いていたけどね……)

 

「………わかった。確かにここに居た方が安全やもしれぬ。では改めて、トールズⅦ組よ。殿下たちを連れて離脱するがよい」

 

「………分かりました。ですが、将軍」

 

「?」

 

「……今回のことはどう考えも政府の意に沿うとは思えません。旧都に運ばれるはずだった殿下たちを留め、その上、要塞で奪われたとなれば……」

 

「格好の失点となるのは間違いねぇだろう。共和国との戦争が激化した状況で遠慮なく戦線投入されるくらいのな」

 

「「……………」」

 

リィンとアガットの言葉にクレイグ将軍とナイトハルト中佐は無言になった。

 

「あ………」

 

「やはり、そうなんですね……?」

 

「……ああ、我々第四機甲師団は帝国政府からある意味一目置かれている存在だった。だがこれで──《大地の竜》作戦における、重要な駒として使われることになるだろう」

 

「そんな……!」

 

「ではなぜ──」

 

「それでも我々はおぬしらに〝試練〟を与えると決めた。そしておぬしらは見事に乗り越え、力と意志を示してくれた。帝国、いや世界最悪の大戦が始まろうとしている中、それでも光はある──それがわかっただけでも十分だろう」

 

「将軍閣下……」

 

「父さん………ありがとう。必ずそれに応えてみせるから。父さんや中佐、第四のみんなをこれ以上血に塗れさせないためにも……!」

 

「……うむ」

 

「健闘を祈る、シュバルツァー。他の者たちも。どうか君たち自身の征くべき道を絶望の中に見出だしてみてくれ……!」

 

「はい……どうかお任せを!」

 

「私も皇族の一員として、最後まで足掻いてみせます。リィンさんたちと一緒に!」

 

リィンたちはアルフィン皇女とティータと共に要塞離脱に向かった。

 

「お父さん……」

 

「彼らなら大丈夫だ」

 

「ええ、きっと……!」

 

クレイグ将軍とナイトハルト中佐は満足げにリィンたちを見送った。

 

 

 

一方──

 

【止まるなっ!なんとしてでもここで抑えろっ!】

 

【この新型魔導砲、貴様の好きにはさせんぞぉ!】

 

【………………】

 

要塞付近では激闘が繰り広げられていた。

 

 

 

[キリコ side]

 

【新型魔導砲………】

 

俺は衛士隊兵士が豪語していた兵器から目が離せなかった。

 

【見た目は完全にアストラギウスのロッグガンだな。基地などからエネルギーを供出し、発射する対戦艦兵器】

 

破壊したロッグガン擬きの形状から、用途を割り出す。

 

おそらく、機甲兵または魔煌機兵とコネクターを繋ぎ、そのエネルギーを打ち出す。その威力は見てのとおり、要塞の外壁に大きなダメージを与えるほどで、機甲兵などひとたまりもないだろう。

 

欠点を挙げるなら使われた魔煌機兵はしばらく使い物にならなくなるぐらいか。

 

だが魔煌機兵を主戦力とする衛士隊は物量をカバーできるほどの生産拠点を持っているはず。だからその欠点は無いと同義だ。

 

【とはいえ、配備されているのは僅か。さっさと叩き潰す】

 

俺は他のロッグガン擬きを破壊しながら、さらに前進した。

 

だが撃ってくることはなかった。

 

【攻撃が止んだ……既に移動したのか?】

 

このまま行けば展開しているはずの第四機甲師団とかち合うことになる。

 

【その時はある程度損害を与えて撤退すればいいか】

 

この時俺は不覚にも、ここが何でもありの戦場だということを忘れていた。

 

「今だっ!」

 

【!?】

 

突如、四方からワイヤーのようなものが飛んできた。

 

下がろうとしたが既に遅く、フェンリールの両腕と両脚がワイヤーのようなものに捕まっていた。

 

「ククク……かかったな」

 

【チッ!】

 

「散々辛酸を舐めさせてくれた蒼き災厄めが。どこまで耐えられるかな?」

 

ターレットレンズ越しに見ると、衛士隊の隊長格がスイッチのリモコンを持っていた。

 

【まさか……!】

 

「フンッ!」

 

衛士隊の隊長格がスイッチを入れた。

 

その瞬間、電流が流れた。

 

【ぐっ……ぐぐぐ………!】

 

耐圧服を着ている俺は多少は耐えられる。だが向こうはさらに電圧を上げる。

 

【ぐぐっ………ぐあぁぁぁぁっ!!】

 

もはや操縦捍すら握れなかった。

 

「ハハハ!そうだ苦しめ!我らに楯突いた報いを受けろぉっ!!」

 

【!!!!!!...........】

 

俺の目の前が真っ暗になっていった。

 

[キリコ side out]

 

 

 

「……どうやら油断したか」

 

「キリコに限ってそれはないと思ったが……」

 

近くの高台からフェンリールが動かなくなる光景を見ていた者たちがいた。

 

「このところ、キリコは格下相手ばかりだったからな。本人も気づかぬ内に緩慢になっていたのだろう」

 

「キリコめ……」

 

「フフ、かつての想い人が心配か?」

 

「口に気をつけろ。首を刎ねられたいか?」

 

女は目に殺気を宿す。

 

「おっと失礼」

 

男は肩を竦める。

 

「まあ、奴のことだ。我々の予想を超える何かを見せてくれるだろう」

 

「だといいがな」

 

 

 

【しょ、少佐……あれはいったい………】

 

【おそらく、高圧電流を流し込むことで機甲兵を乗り手ごと破壊する兵装だろう】

 

【まさか、あんなものを持ち込むとは……】

 

【いくら蒼き災厄だからといって……】

 

魔煌機兵部隊を突破したライル少佐たちが見たのは、巷で噂されている蒼き災厄が両腕両脚を封じられ、大量の煙を上げている光景だった。

 

「ククク、こんなものでは済まさんわ。だがまずは裏切り者の第四機甲師団の処罰が先だ。一応弱い電流を流したままにしておけ。まあ、あれだけの電流を受けた以上、もう死んでるだろうがな」

 

次に衛士隊の隊長格はライル少佐の乗るシュピーゲルSを睨み付ける。

 

「貴様ら……我々衛士隊に弓引くとは。皇女殿下誘拐にあきたらず、蒼き災厄まで囲っていたとはな」

 

【その蒼き災厄と我々は無関係だ。それよりも、皇女殿下誘拐などという発言、取り消してもらいたい】

 

「フンッ!盗人猛々しいとはこのこと。貴様らがセントアークに護送中だった皇女殿下を無理やり留め、要塞内に監禁していたのは明白。この上さらに皇女殿下を売り渡そうなどと……畜生にも劣る不届き者共がっ!!」

 

【なんだと……!?】

 

【お前たちこそ、ジュノーに皇妃様を閉じ込めていたそうじゃないか!】

 

【しかもそれを盾にして、第三機甲師団を冷遇してたくせに!】

 

【お前たちの魂胆はわかってんだ!】

 

ライル少佐の部下たちは口々に叫んだ。

 

「フッ、いくら戯れ言を並べ立てようと正義は我々にある。さあ、裏切りは死を以て償ってもら──」

 

 

 

『何を身勝手なことを言っているのです!!』

 

 

 

突如、上空から声が響いた。

 

直後、一台の飛行挺が姿を現した。

 

「なっ……!?」

 

【あ、あれは……】

 

【あの紋章は確か教会の……】

 

戦場に戸惑いが走る。

 

『私はユーゲントⅢ世が娘、アルフィン・ライゼ・アルノールです』

 

【おおっ!あの声は……!】

 

【間違いない!アルフィン皇女殿下だ!】

 

【リィンたち、やったんだな!】

 

第四機甲師団はアルフィン皇女の声を聞き、歓喜した。

 

『衛士隊に命令します。今すぐ兵を退きなさい。クレイグ将軍閣下が私とリベールから参られたティータさんを匿ったのは何を隠そう、私の命令です』

 

「な、なんですと!?」

 

【殿下……】

 

【我々を庇って……】

 

『あなた方衛士隊の魂胆はわかっています。私を祭り上げ、戦争に疑問を持つ方々への牽制にすること。違いますか?』

 

「ま、祭り上げるとは滅相もない!皇族のあるべき姿にすることが……」

 

『……要塞の中に閉じ込め、不本意な方々を無理やり従わせるための飾り物。それのどこが皇族のあるべき姿だと?』

 

「ぐぐぐ………!」

 

衛士隊の隊長格は歯ぎしりをした。

 

そしてとんでもないことを言い出した。

 

「総員、耳を貸すな!これは少しでも罪から逃れたいという第四の浅ましい作戦だ!本物の皇女殿下ならばあのような発言をなさるはずがないっ!!」

 

『な……!?』

 

「おのれ第四機甲師団!総員突撃!裏切り者たちに鉄槌を食らわせてやれい!」

 

『ハッ!!』

 

【こ、こいつら!】

 

【そこまで堕ちたか!】

 

【少佐、ご指示を!】

 

【仕方ない……!迎え撃て!】

 

再び戦闘が始まった。

 

 

 

「そんな……」

 

アルフィン皇女は眼前の光景に項垂れた。

 

「殿下……ご立派でした」

 

トワがアルフィン皇女を労った。

 

「だがどうする。このままでは撃破されるのも時間の問題だ」

 

「ここからだとわかんないけど、フェンリールは動けないみたい」

 

「それは………」

 

トワはチラリとフェンリールを見る。

 

「……ご存知なのですか?あの蒼い機甲兵を」

 

「見たこともない機種です。もしや新型の……?」

 

「トワ……」

 

「うん……」

 

アンゼリカに促されたトワは深呼吸をして、口を開く。

 

「あの機体は黒の工房で製作された実験用機甲兵で機体名をフェンリールといいます」

 

「黒の工房製の……」

 

「フェンリール………確か北方の神話の」

 

「そしてあれに乗っているのは…………キリコ君です」

 

「「…………え……………?」」

 

アルフィン皇女とティータはの思考が止まる。

 

「落ち着いて聞いてください」

 

トワは二人に知っている限りのことを全て話した。

 

「「…………………………………………」」

 

二人は呆然となった。

 

「俺もフィーとサラから聞いた時も驚いたけどよ。どうも本当のことらしいぜ」

 

「キリコさんが…………」

 

ティータは二の句が告げずにいた。

 

「…………………」

 

アルフィン皇女は顔を伏せる。

 

「殿下……」

 

「その………」

 

「………大丈夫です」

 

アルフィン皇女は深呼吸をした。

 

「本当なんですね……キリコさんがお母様を救出したというのは……」

 

「はい。キリコ君は単身ジュノーに乗り込み、プリシラ皇妃様と私を助けに来てくれたんです」

 

トワはジュノーでの一件をアルフィン皇女に話した。

 

「……ならば迷うことはありません。一刻も早くキリコさんをお助けしましょう!」

 

『その御言葉、待っていました』

 

『あたしたちに任せてください!』

 

突如通信が入り、クルトとユウナの声が響いた。

 

『ったく、拒絶されたらとか考えなかったのかよ?』

 

『そうなったら別の手段を考えてました。残念ながら不発になりそうですが♥️』

 

『……ゴホン。そこまでにしてくれ。みんな、わかっているとは──』

 

「くどいぞ、リィン」

 

「キリコも私たちⅦ組の一員じゃない」

 

「そして僕たちの後輩の一人だからな」

 

「脛に傷があるのは同じ」

 

「フィ、フィーちゃん……」

 

初代Ⅶ組の面々はリィンの背中を押す。

 

『……わかった。ではこれより、キリコ救出に向かいます』

 

「分かりました。お気をつけて」

 

『イエス・ユア・ハイネス!』

 

新Ⅶ組の返事とともに通信は切れた。

 

「……ああは言ったものの」

 

「はい?」

 

「キリコを憎んでいるわけではないのですか?」

 

ラウラはアルフィン皇女に問いかけた。

 

「………最初はラウラさんの言うとおり、憎かったです。ですが、セドリックから呪いのこと、アルノール家が抱えてきた秘密を告げられた時、全てが繋がりました」

 

「皇太子殿下とお会いになられたのですか!?」

 

エマは驚いた。

 

「いえ、通信越しにだけです。キリコさんはただ、巻き込まれただけ。本当の黒幕はそれを利用せんとする者たちです」

 

「宰相や兄上……ですね」

 

「…………………」

 

アルフィン皇女は前に出る。

 

「とにかく今は、全員でここから離脱することが先決です。皆さん、よろしくお願いいたします」

 

「分かりました。アンゼリカ先輩、北サザーラント街道ポイントXまで」

 

「ヨーソロー!」

 

アンゼリカは舵を切った。

 

 

 

【そらよっ!】

 

【はあああっ!】

 

ヘクトル弐型・改とシュピーゲルSS試作型が魔煌機兵部隊に切り込む。

 

【ジェミニブラストⅡ!】

 

【ムーランルージュⅡ!】

 

ドラッケンⅢ・プロトタイプとケストレルβⅡがクラフト技を放つ。

 

「ノワール・バリア!」

 

【閃光斬!】

 

アルティナのサポートを受けたヴァリマールがクラフト技でゾルゲを斬り伏せる。

 

【くっ!?貴様ら……!】

 

【トールズのⅦ組!何をしているのか分かった上でのことなのだろうな!】

 

【笑わせるな……】

 

リィンは静かに怒りをたたえた。

 

【自分たちのことは棚に上げ、身勝手な正義を振りかざすあんたたちこそ、何をしているのかわかっているのか】

 

【さらにプリシラ皇妃様やアルフィン皇女殿下を私利私欲のために祭り上げようなどという蛮行、ヴァンダールに連なる者として……見過ごすわけにはいかない!】

 

クルトは操縦捍を握りしめる。

 

【くっ!】

 

【貴様ら……!】

 

魔煌機兵部隊は苦々しげにⅦ組の機甲兵を睨む。

 

【き、君たち……】

 

【ライル少佐、ここは自分たちも加勢します】

 

【し、しかし……!】

 

【そんなボロボロな機甲兵じゃ無理だろ。ここは俺らが引き受けてやっからよ】

 

【ここで果てるのは本望ではないはずです】

 

【………わかった】

 

ライル少佐は目を伏せながら言った。

 

【動ける者はトールズⅦ組と協力して敵を押し返す!】

 

『イエス・サー!!』

 

動ける機甲兵はⅦ組の機甲兵と並ぶ。

 

【リィン!】

 

【アランか。魔煌機兵に乗っていたんじゃないんだな】

 

【ああ。フラット少佐が転属願いを出す寸前に止めてくださったからな。でなきゃ今頃、連中みたいにおかしくなってただろうな】

 

【そうか。それじゃ、行くか!】

 

【ああ!後輩たちに負けてられないからな!トールズ魂を見せてやろうぜ!】

 

『おおっ!!』

 

再び戦闘が始まった。

 

 

 

「くっ!どうなっている!」

 

高台の近くから戦闘を見ていた者がいた。

 

「トールズⅦ組は政府から指名手配されていたはず!なのにどうして第四が協力するんだ!?」

 

「それはそちらの情報不足というものだ」

 

「な……!」

 

眼鏡をかけた男に、二人の男女が近寄る。

 

「クライスト商会営業部長のワッズだな?」

 

「ル、ルスケ大佐……!」

 

「トールズⅦ組の指名手配はあくまで衛士隊と鉄道憲兵隊と帝都憲兵隊に限定される。ましてや身内のいる第四機甲師団が無条件に引っ捕らえるはずがなかろう」

 

「ば、ばかな……」

 

「数字にしか真価を見出だせない商人ならではの浅知恵だな。少し調べれば第四のクレイグ将軍がⅦ組を評価していることは分かるものを」

 

「な、ならば情報局はどうです!?」

 

ワッズはロッチナに懇願するようにすり寄る。

 

「何?」

 

「情報局の力を以てすれば、忌々しいⅦ組をテロリストに仕立て上げることぐらい──」

 

「呆れて物が言えない」

 

「ハッ………?」

 

「彼らは既に帝国で名をいくつも揚げている。こんな世の中でも彼らを英雄視する者はいる。当然その中には権力を持つ者がいる。そういった者に無駄金を遣えと?」

 

「で、ですが……!」

 

「いい加減悟りたまえ。君のくだらん詐欺じみた事業など破綻している。君の個人的な復讐に手を貸すほど暇をもて余しているわけじゃないんだ」

 

「わ、私はただ──」

 

 

 

「失せろ。この寄生虫め」

 

 

 

「……………………」

 

ロッチナに冷徹に寄生虫と言われたワッズは愕然となった。

 

「行くぞ」

 

「あれはいいのか?」

 

「捨て置いていい」

 

ロッチナとテイタニアは歩き出した。

 

「う、うああああああっ!!」

 

ワッズは隠し持った拳銃でロッチナを狙った。

 

「!」

 

だが一瞬早く、テイタニアが撃ち落とした。

 

「フッ」

 

ロッチナは勝ち誇った笑みを浮かべる。

 

「後はお任せしますよ。ヒューゴ支社長」

 

「………お手数おかけします。ルスケ大佐」

 

歩いてきたのはヒューゴ・クライストだった。

 

「わ、若!?」

 

「ワッズ………お前には失望した」

 

「ま、待ってください!私は……!」

 

「商会の看板に泥を塗ったお前に居場所はない。お前は今日付けでクビだ」

 

「ク……クビ……?この私が………クビ?」

 

ワッズは呆然となった。

 

「若が小さい頃から商会に仕えた私がクビ……クビ……クビヒ……ヒヒ………ヒヒヒ………」

 

ワッズは四つん這いになり、その場で嗤っていた。

 

「………………………」

 

ヒューゴはそれを哀しげに見つめていた。

 

 

 

「くっ……!おのれ第四機甲師団!おのれトールズⅦ組!」

 

部隊長格の兵士はサーベルを握りしめる。

 

魔煌機兵部隊のおよそ4分の3は討ち取られていた。

 

【既に勝負はついた。今すぐ撤退してください】

 

リィンは交渉役を買って出た。

 

「撤退だと!?」

 

【そちらの士気はもはや落ちている。我々としてもこれ以上血を流すことは望みません】

 

「……ククク………」

 

部隊長格の兵士は笑い出した。

 

【な、何がおかしいのよ!】

 

「ハッハッハァッ!まさかもう勝った気でいるとはなぁ!」

 

【なにっ!?】

 

「ならば見るがいい。魔煌機兵の恐ろしさを!」

 

すると、討ち取られたはずの魔煌機兵が黒いオーラを纏って立ち上がった。

 

【これは……!?】

 

【まさか……魔導の力で無理やり動いて……!?】

 

「ッ!来ます!」

 

【オオォォォォッ!】

 

一機のゾルゲがシュピーゲルSS試作型に斬りかかる。

 

【くっ………!?】

 

双剣で受け止めるが、シュピーゲルSS試作型は後方に押しきられる。

 

【なんてパワーだ!】

 

【改修前ならまじでイカれてたかもな!】

 

【そ、そうだ!キリコ君は……?】

 

「ユウナさんから見て11時の方向、フェンリールです!」

 

『!?』

 

リィンたちはアルティナの言う方向を見て唖然とした。

 

フェンリールは両腕両脚にワイヤーが巻かれ、あちこちから煙が吹いていた。

 

【そんな………】

 

【負けたってのか!?】

 

ユウナとアッシュは思わず言葉が漏れた。

 

だがこれがいけなかった。

 

「む?奴を知って…………そうか。蒼き災厄は貴様らと繋がりがあったのだな?」

 

【あ、蒼き災厄……?】

 

「しらばっくれても無駄だ。なるほど……罪人同士結び付いていたとはな」

 

【な、何この人……】

 

「どうやら、思い込みの激しい方のようです」

 

【マズイ……!こうなってくると……】

 

「スイッチを入れろ!見せしめにしてやれっ!!」

 

部隊長格の兵士が言い終わるか言い終わらない内に、フェンリールに高圧電流が流される。

 

【止めろ!】

 

「くぁはははは!」

 

【てめぇっ……】

 

ヘクトル弐型・改は斬り込もうとしたが、数機のゾルゲに阻まれる。

 

【離しなさいよっ!】

 

【くっ!どけぇっ!】

 

「ククク……どれ、最大を試してみるか……」

 

「させません!ブリューナク、照射!」

 

クラウ=ソラスから放たれた光線がスイッチを撃ち抜いた。

 

「チッ!だがもう手遅れよ!」

 

部隊長格の兵士はニヤリと嗤う。

 

フェンリールからは煙が立ち上ぼり、もはや誰が見ても行動不可の状態だった。

 

【そ……そんな…………】

 

【バカ、な………】

 

ユウナとクルトは震えが止まらなかった。

 

【フザ……けんなっ!】

 

アッシュは両手を叩きつける。

 

【ぐぐっ……!?】

 

リィンは湧き上がる力を必死に抑え込む。

 

「ふふふ、観念したか。増援が到着次第、全員処刑してやる」

 

部隊長格の兵士は勝ち誇った笑みを浮かべる。

 

【………まだです】

 

だがまだ諦めていない者がいた。

 

【ミュゼ………】

 

【まだ………終わってなど!】

 

ミュゼはARCUSⅡを取り出し、キリコのARCUSⅡに通信をかける。

 

【キリコさん……!】

 

【…………………………………………】

 

ARCUSⅡからは何も応答がなかった。

 

【貴方にはまだやるべきことが残っているはず。それを終わらせずして死ぬつもりですか………?】

 

【ミュゼっ!?】

 

【貴方は………私たちに黙って行動していました。また同じことを……繰り返すおつもりですか?】

 

「ミュゼさん……」

 

【ですが貴方はⅦ組の一員。もう自己中心的な考えは……通用しないんですよ……?だから……だから………】

 

ミュゼはここまでが限界だった。

 

【だから……お願い………目を……目を開けてぇっ!!】

 

ミュゼの両目は涙で溢れた。

 

【てめぇ……さっさと目を開けやがれっ!てめぇはこの程度じゃ死なねぇんだろ!!】

 

【人にあれだけ偉そうに言ってきたんだ!最後まで責任を取れっ!!】

 

【女の子泣かしといて、無視決め込んでんじゃないわよっ!!】

 

「まだやるべきことはまだ何も終了していません!死んで終わりにしないでください!!」」

 

新Ⅶ組もARCUSⅡを開き、必死呼び掛ける。

 

『キリコォォォォッ!!!!!』

 

【………………………………………】

 

ほんの僅か、指が動いた。

 

 

 

[キリコ side]

 

もう……耐えられそうにない

 

高圧電流を浴びせられ、俺の気力も限界だった。

 

僅かに動かすだけで激痛が走り、呼吸をしようとしても酸素が入っていかない。

 

(たとえ生き延びても……俺に待つのは廃人か………)

 

それも悪くないとさえ思えてくる。

 

肉体はもう楽になることを選んでいるのか、力が入らない。

 

後は受け入れるだけだ。

 

そんな時、ポーチが焼き切れたのかARCUSⅡが落ちた。

 

偶然、蓋が開いたようだがもう考える力もない。

 

目を閉じようとした時、ミュゼの叫びが聞こえた。

 

その直後、アッシュ、クルト、ユウナ、アルティナの叫びも聞こえた。

 

【…………そうだ。まだ……俺、は…………】

 

激痛が走るのも構わず、操縦捍を掴む。

 

動かないのはもうわかっていた。それでも動かさずにはいられなかった。

 

【まだ………終わって………いない…………!】

 

まだ……まだ……まだ………!

 

【俺は……死ねないっ!!】

 

突如、不思議な何かを感じた。

 

[キリコ side out]

 

 

 

【な……なんだと………!?】

 

部隊長格の兵士は目の前の光景が信じられなかった。

 

既に動かなくなったはずのフェンリールがゆっくりと立ち上がった。

 

さらに、フェンリールの全身は蒼いオーラのようなもので包まれていた。

 

「くっ……!そんな虚仮落としにぃっ!」

 

部隊長格の兵士は攻撃命令を出した。

 

【キリコさんっ!】

 

ミュゼは援護しようと、ゾルゲの背後に狙いをつけた。

 

【………………………】

 

フェンリールは真正面からゾルゲに向かって行った。

 

だがそのスピードは先ほどとは桁違いだった。

 

【なっ……!?】

 

思わず動きが鈍ったゾルゲの右肩をフェンリールの大型アイアンクローが炸裂した。

 

ゾルゲは右肩を斬り裂かれたばかりか、そのまま地面に叩きつけられた。

 

【なんだとっ……!?】

 

近くにいたゾルゲは盾を構えて防御の姿勢を取った。

 

【………………………】

 

フェンリールはお構い無しにショルダータックルをぶちかます。

 

【ッ!?】

 

ゾルゲはまるで砲弾を当てられたかのように吹っ飛ばされて動かなくなった。

 

【………………………】

 

立ち尽くすゾルゲに、ハンディソリッドシューターの砲撃が叩き込まれる。

 

【がっ……!】

 

砲撃をまともに受けたゾルゲのコックピット付近に風穴があく。

 

【こ、これなら……】

 

数機のゾルゲはアサルトライフルを構える。

 

フェンリールはすぐさま狙いを定め、ゾルゲに突っ込む。

 

ゾルゲ数機はすれ違いざまに吹っ飛ばされ、大きく損傷した。

 

【バ、バカな……!?】

 

【ど、どうなっている……!?】

 

衛士隊に次第に恐怖に似た感情が広がりつつあった。

 

 

 

【す、すごい……!】

 

【力も速さも、僕たちの知る以上だ……!】

 

新Ⅶ組も驚きを隠せなかった。

 

「これは……!」

 

【なんだよ、チビウサ】

 

「フェンリールから、霊的な反応が感知されました!」

 

【霊的な……?】

 

【フェンリールは黒の工房製というが、もしかしたらまだまだ知らない何かがあるのかもしれないな】

 

リィンは押さえつけにかかったゾルゲを制しながら言った。

 

【それにしても、綺麗ですね】

 

【ああ。アタックする時のあの蒼い軌跡……】

 

【まるで……流星】

 

 

 

「なんだあれは………」

 

テイタニアは立ち尽くした。

 

「お前は知らないのか?」

 

「私も驚いている……。あのような機能などなかったはずだ」

 

ロッチナはフェンリールの動きを目に焼き付けるように身をのり出す。

 

「………そちらも知らないようだな?」

 

「まあね……」

 

ロッチナの隣に魔法陣が顕れ、カンパネルラが姿を現した。

 

「道化師か……」

 

「やあ、確かテイタニア・ダ・モンテ=ウェルズだったね」

 

「……気安く呼ばれる筋合いはない」

 

テイタニアはカンパネルラを睨んだ。

 

「おっとっと、これは失礼」

 

カンパネルラは恭しくテイタニアに謝罪した。

 

「先ほどの問いだが、そちらは知らないんだな?」

 

「………ひょっとすると」

 

「?」

 

「クルダレゴン合金が作用してるのかも」

 

「クルダレゴン合金が?」

 

「知ってのとおり、フェンリールは装甲とフレームがクルダレゴン合金で造られた、言わばフル・クルダレゴンマシーン。そして知ってのとおり、クルダレゴン合金は神機の装甲にも用いられている」

 

「うむ。だが神機と関係があるのか?」

 

「クロスベル事変の時もそうだったように、クルダレゴン合金は精神感応が著しく高い。とはいえ、それは碧の御子がいたからなんだけど」

 

「精神感応………キリコの意志、というより生存本能が感応したと?」

 

「彼らが必死に呼びかけてたでしょ?不死の異能者が持つ生存本能に戦術リンクの繋がり、それらが意志の力としてクルダレゴン合金に感応した結果、ああなった。おまけに機体の全能力も向上しているみたいだ」

 

「ずいぶんと強引な解釈だな」

 

「仕方ないでしょ。神機に比べて規模が小さいとは言え、あんなの1リジュも想定してなかったんだから」

 

「小さい器に水を注げばすぐに満杯になるように、機甲兵サイズなら工夫次第で常人でも感応させられる、か」

 

「あ~、どうしよう……」

 

「どうした?」

 

「こんなイレギュラー、ノバルティス博士にどう報告しよう……」

 

「ほう、あのマッドサイエンティストで有名な御仁か。展開次第では十三工房がキリコに潰されるな。それはそれで面白そうだ」

 

「……他人事だと思って」

 

カンパネルラは肩を竦めた。

 

「これでキリコは強力な武器を手にしたということか」

 

「とても武器とは言えんさ。私の見立てでは、あれを発動させるにはキリコとフェンリールをかなり追い込まなくてはならない。それを許すⅦ組ではないだろう」

 

「ずいぶんと気にいっているんだね。彼らをさ」

 

「フフフ、そちらほどでもない」

 

カンパネルラとロッチナは互いに不敵な笑みを浮かべる。

 

(キリコ………)

 

テイタニアは無双するフェンリールを見つめる。

 

 

 

「あり得ん……あり得ん……あり得ん!?」

 

部隊長格の兵士はその場で動けなくなった。

 

【………………………】

 

フェンリールの猛攻により、ゾルゲやメルギアは次々に討ち取られていった。

 

増援としてセントアーク方面から魔煌機兵の小隊が駆けつけたがまるで意味を成さず、僅かな間に全滅した。

 

結果、フェンリールの周りには魔煌機兵の残骸が山となっていた。

 

「くっ………くそぉっ!」

 

部隊長格の兵士は一目散に逃げ出した。

 

【あっ!?】

 

【放っておいていい。それよりも……】

 

リィンはヴァリマールから降りて、動かなくなったフェンリールに近寄る。

 

すると、コックピットが開き、中からあちこちが黒焦げになったキリコが滑り落ちるように降りてきた。

 

「キリコ!」

 

「キリコさん!!」

 

新Ⅶ組もキリコに駆け寄った。

 

「きょ、教官……!」

 

「待て。もしかしたら……」

 

リィンはヘルメットを取り、耐圧服の焼け焦げた部分を剥がす。

 

キリコは軽い火傷程度で、ほとんど傷を負っていなかった。

 

「これは……」

 

「どうやら耐圧服を着ていたことにより、電流のダメージは見た目ほど負ってはいないようです」

 

「よ、よかった~!」

 

ユウナは心から安堵した。

 

(キリコさん………!)

 

ミュゼは涙を拭う。

 

「喜ぶのもその辺にしとけ。そろそろ来んぞ」

 

「撤収しましょう。教官」

 

「ああ。ポイントXに急ぐぞ」

 

リィンたちは急いでドレックノール要塞から脱出した。

 

(まさかとは思ったが、本当にキリコだったなんてな)

 

(せっかく生きていたんだ。もう二度と死ぬんじゃないぞ)

 

(Ⅶ組の皆さん……パルミス孤児院の弟を、元部下をよろしくお願いいたします!)

 

陰で見ていたライル少佐は去っていく新Ⅶ組に敬礼で見送った。

 

 

 

「さてさて、僕もそろそろ行こうかな」

 

「面白いものは見れたかね?」

 

「まあね。それよりテイタニア特務中尉は?」

 

「呼んだか?」

 

テイタニアは下から歩いて来た。

 

「始末は?」

 

「問題ない」

 

「やれやれ。まあ、敵前逃亡は重罪だろうからね」

 

「それに今回の失態でクレープスは降格の上、閑職に回されるだろう。部下の躾も出来んなら尚更だ」

 

「細かいねぇ。まあ、それが軍人なんだろうけど」

 

「君たち執行者が羨ましい。我々からしたら、行動の自由など夢のような話だ」

 

「ハハ……そりゃどうも」

 

カンパネルラは両手を頭の後ろで組んだ。

 

「それで、フェンリールはどうするの?」

 

「とにかく持ち帰るしかあるまい。頼めるかな?」

 

「わかった。頃合いを見てやっておくよ」

 

「すまないな。では私は第四と交渉といこう」

 

ロッチナはテイタニアと共に、ドレックノール要塞へと向かった。

 

「フフフ………」

 

カンパネルラは意味深な笑みを浮かべ、転移していった。

 

 

 

「…………………………」

 

夜、キリコはローゼリアのアトリエのキッチンで水を飲んでいた。

 

北サザーラント街道から脱出したⅦ組は一目散にエリンの里へと飛んだ。

 

ユウナたちは比較的軽傷だったが、キリコは一時昏睡状態に陥った。

 

時計の針が11時を差す頃に目が覚め、起き上がった。

 

(教官やユウナたちが言うには、フェンリールが蒼いオーラに包まれ、鬼神のような強さで魔煌機兵部隊を圧倒したという。だが正直言って何も覚えていない)

 

(まだ死ねない。そう思った瞬間、何かが起きたのはわかった。だが同時に気を失って、気づいたらベッドの上だった)

 

キリコはグラスの水を飲み干し、グラスを流しで洗う。

 

「キリコ……さん………?」

 

キリコが振り向くと、そこには寝間着姿のアルフィン皇女がいた。

 

「アルフィン皇女か……」

 

「も、もうお怪我はよろしいんですか?」

 

「ああ……」

 

「そうですか……。リィンさんたちからお聞きしましたが、本当にお強い体をお持ちなんですね」

 

「聞いたのか……」

 

「はい………そしてキリコさんがお母様をお助けしてくださったことも」

 

「………………………」

 

アルフィン皇女はゆっくりと椅子に座り、キリコもそれに倣う。

 

「改めまして、お久しぶりです」

 

「ああ……」

 

「それにしても、異世界から転生された異能者だなんて。まるでお伽噺ですね」

 

「………………………」

 

キリコはグラスの水を飲む。

 

「……俺はあんたの父親を撃った」

 

「はい………」

 

「怨み辛みくらいあるはずだ」

 

「……正直、複雑な思いです」

 

「………………………」

 

「ですが、黄昏が起きた翌日にセドリックから全て聞きました。なぜ貴方がお父様を撃ったのかを」

 

「セドリックからか……」

 

「はい。それに、リィンさんたちにも申し上げましたが、私はキリコさんが全ての元凶などと思ってなどおりません。ですから……」

 

アルフィン皇女はキリコの目を見ながら言った。

 

「もうご無理をなさらないでください」

 

「………………………」

 

キリコはグラスの水を飲み干した。

 

「それでも……俺は進まなくてはならない」

 

「キリコさん……」

 

「それが俺に出来る精一杯の償いだ」

 

「……不甲斐ないです」

 

「?」

 

「本来、その責は私たちが負うべきもの。それを他の誰かに押しつけてしまうなんて……」

 

「それが定めだった。そう思うしかない」

 

「……………………」

 

「だからこそ、終わらせる」

 

「キリコさん……そうですね。終わらせましょう」

 

アルフィン皇女に少しだけ笑顔が戻った。

 

 

 

「それともう一つ、お聞きしたいことがあります」

 

「?」

 

「キリコさんはミルディーヌを、あの子をどう想っていらっしゃるんですか?」

 

「ミュゼ?」

 

「はい♪」

 

アルフィン皇女はニコニコしだした。

 

「あの子とは聖アストライア初等部からの付き合いになるのですが、あの子はキリコさんといる時が一番素直に見えるんです」

 

「………………」

 

「夏至祭の時も、キリコさんと一緒にいる時だけ、あの子は心の底から嬉しそうでした。ちょっぴり妬けてしまいそうです♥️」

 

「………………」

 

アルフィン皇女は身をのりだした。

 

「それを踏まえてお聞きしたいのですが、キリコさんはあの子のことを──」

 

「ひ~め~さ~ま~?」

 

アルフィン皇女の後ろでミュゼが真っ赤になりながら立っていた。

 

「あらミルディーヌ、こんばんは」

 

「こんばんはじゃありません!いったい何をしているんですか!」

 

「何ってキリコさんとのお話に決まってるじゃない。お母様の一件と今日のことについて」

 

「明日、というか昼間でもいいではないですか!」

 

「ちょうどキリコさんがおられたんだし、ゆっくりお話ができるいい機会だと思ったんだもの」

 

「うう……」

 

(それに聞いておきたいこともあったしね♪)

 

「もう~~!」

 

ミュゼはアルフィン皇女を軽く睨んだ後、キリコに向き直る。

 

「キリコさんもキリコさんです!貴方は重傷者なんですよ!何ベッドを抜け出しているんですかっ!?」

 

「喉が渇いた」

 

「ならば早くベッドに戻ってください!今すぐに!」

 

「………わかった」

 

キリコはグラスを洗い、自室へと向かった。

 

「ふふふ♪」

 

「何が可笑しいんですか」

 

「だってミルディーヌったら、あんなに必死な顔をしてるんだもの」

 

「そ、それは……!」

 

「それに気づいてる?貴女、キリコさんのことになると性格が変わってるって」

 

「ううう………」

 

「やっぱり恋する乙女の力は偉大ね♥️」

 

「知りません!」

 

真っ赤になったミュゼはアルフィン皇女を引っ張りながら、二階へと上がった。

 

 

 

「これは素晴らしい!カンパネルラ君、この若者にぜひ会わせてくれ!いやいっそ、執行者に取り立てたまえ!ううむ、我が研究のサンプルとして申し分ない!それにしてもクルダレゴンをダウンサイジングするとこのような現象が発現するとは。さっそく実験に移してみるか。乗り手は研究中のアレを試すか。いやまずは本人を造ってから……ああ、そうだ。その前にデータを取らねばならんな。さあ、愉しくなってきたぞ………」

 

(あ~あ、はじまった………)

 

カンパネルラは嘆息した。

 




次回、リーヴス奪還の前に……


ちなみにフェンリールに人工知能を搭載させる予定はありません(笑)
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