英雄伝説 異能の軌跡Ⅱ   作:ボルトメン

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連載開始から1年越えました。早くコロナが終息してほしいです。


餓狼

七耀暦1206年 8月24日 午前7:30

 

「すごい……機体の性能がこんなにも……!」

 

「見た限り、全ての能力が向上している。魔煌機兵すら相手にならないほどにな」

 

ローゼリアのアトリエの一階では、ティータとキリコが昨日の戦いの映像を見ていた。二人はフェンリールに起きた現象の解析に取りかかっていた。

 

「キリコさんから頂いたフェンリールのスペック表と現行の機甲兵データ、そして魔煌機兵の映像と見比べてみても、おそらく最大値をマークしているでしょう」

 

「それほどにか」

 

「はい。この機能の名称を〝最大値への転換〟という意味から、『V-MAX』と呼ぶことにします」

 

「そこは任せる」

 

「分かりました。ただ問題が……」

 

「発動条件か」

 

「はい………おそらくV-MAXを発動するには、機体の損傷率を80、いえ90%台にまでにしなければならないかもしれません」

 

「あの時はフェンリールの四肢から高圧電流を流されて行動不能にまで陥った。それが発動条件に叶ったんだろう」

 

「……本当によく生きてられましたね………」

 

「ああ……」

 

呆れ顔のティータにキリコはそっけなく返す。

 

「それはそうと、なぜこうなったか分かるか?」

 

「映像を見る限り、フェンリールそのものから蒼い光が出ているようですね。後Ⅶ組の皆さんの戦術リンクが鍵となっているみたいです」

 

「だが戦術リンクを繋いだのは初めてじゃない。何か別の要因があるはずだ」

 

「うーん………レンちゃんなら何か知ってると思うんですけど」

 

「レン・ブライトが?」

 

「はい、その………」

 

「どうした?」

 

「レンちゃんは元々結社に所属していたんです」

 

「何?」

 

キリコは関心を抱いた。

 

「……執行者ナンバーⅩⅣ《殲滅天使》。そいつがレンの過去だ」

 

アガットが歩いて来た。

 

「それはわかった。だがそれとどう繋がる?」

 

「少し前に大破しちまったが、レンはパテル=マテルという神機並みの人形兵器を操ってた。そいつに使われていたのもクルダレゴン合金だって話だ」

 

「………なるほどな」

 

「パテル=マテルと同じ材質ならある程度説明はつきますね。もう少し調査は必要でしょうが」

 

「それで彼女はどこにいる?」

 

「それが、なかなか連絡が取れなくて……」

 

「もうとっくにエステルたちと合流してると思うんだがな……」

 

ティータとアガットは揃ってため息をついた。

 

「そこは追々詰めていくしかないな。とりあえず、そろそろ片付けるとしよう」

 

「そうですね。それにしても、現物があれば良かったんですけど」

 

「おそらく回収されただろう。近いうちにロッチナから連絡が来るはずだ」

 

キリコとティータは片付けを始めた。

 

 

 

午前8:00

 

キリコはリィンに解析の報告をしていた。

 

「そうか。解析ご苦労だったな」

 

「いえ。それで教官、新機能のV-MAXは……」

 

「ああ。当然、使用は厳禁とする」

 

リィンは毅然とした態度で言った。

 

「一応、君は現時点ではまだ第二分校生徒だ。担当教官である以上、そんな自殺同然の力の使用は認められない」

 

「分かりました」

 

「やけに素直じゃない?」

 

猫のセリーヌはキリコを見上げる。

 

「不合理極まりないからな」

 

「そういう意味で言ったんじゃないが、とにかくそういうことだ」

 

「分かりました(もし勝手に発動した場合はその限りではないがな)」

 

キリコはリィンの目を見つつ、密かにそう思った。

 

「教官はこれから巡回ですか?」

 

「ああ。ジュノー海上要塞とドレックノール要塞の一件もあって、リーヴス周辺が手薄になりつつあるらしい。そこで、哨戒と情報収集を兼ねた巡回に出発することになった」

 

「なるほど……」

 

「キリコは何人かと里に残ってほしい。昨日のダメージも抜けきっていないだろう」

 

「分かりました。ですが……」

 

「わかっている。リーヴス及び第二分校奪還の時には参加してもらうつもりだ。ただ、キリコ……」

 

「………………」

 

「本当に退学するつもりなのか……?」

 

「理由は話すまでもないでしょう」

 

「分校のことなら何も心配する必要はないんだぞ。それに、君と陛下とのやり取りはいずれ陛下御自身がご説明してくださるだろうし」

 

「仮に分校に復学したところで、またいらん所で争いになる。落とし所にもっていくにはこれが最適です。教官とてそう思っているはずですが」

 

「それは……」

 

「これでいい」

 

キリコはそう言ってリィンに背を向ける。

 

「キリコ………」

 

リィンは思わず、顔を伏せた。

 

 

 

午前9:00

 

キリコはミュゼ、ティータ、アガット、アンゼリカ、ガイウス、デュバリィ、アイネス、エンネアらと魔の森を巡回していた。

 

「それにしても、ガイウスさんは行かなくてよろしかったんですか?」

 

「要塞の一件でメルカバがかなり目立ってしまったのでな。今回は出動を控えさせてもらった。それに……」

 

「それに?」

 

「……アルテリア方面で事が起こった、だろ?」

 

言いづらそうなガイウスを見かねたアガットは口をはさむ。

 

「アルテリア法国が!?」

 

「結社、ですね?」

 

「ふう、やはりわかってしまうか」

 

「ふふふ……」

 

ガイウスは苦笑しながら口を開いた。

 

「黄昏が起こって以来、結社との衝突が増えつつあるそうだ。ロジーヌたちにはそちらに行ってもらった」

 

「教会と結社は、俺ら以上に因縁を抱えている。本来ならお前さんも呼んで然るべしなんだろうが」

 

「副長から命令が下りまして、法国よりもⅦ組を優先せよとのことです」

 

「なるほどな」

 

「まあ、法国には守護騎士もいるでしょうから、一人や二人抜けても問題はないのでしょう」

 

「フフ、まあ新米の出る幕ではないと言いたいのかもしれんが」

 

一行は話しつつも警戒を怠らないように魔の森を進んで行った。

 

 

 

午前9:20

 

「こ、これは……」

 

一行の目の前には、夥しい数の魔獣の死体が転がっていた。

 

「惨いですね……」

 

「ウッ……」

 

ティータは思わず顔を背けた。

 

「……………………」

 

キリコは構わず死体に近づいた。

 

「何かわかった?」

 

「………全て撲殺されている」

 

「えっ!?」

 

「撲殺って、素手で魔獣を……?」

 

ティータとミュゼは驚きを隠せなかった。

 

「ほとんどが肉を潰され骨を砕かれている。それに硝煙の匂いを全く感じない」

 

(こんなことができるのは……)

 

(うむ。だが……)

 

(確か、アルテリア方面に………)

 

デュバリィたちは魔獣の死体を見つめた。

 

(まさか………)

 

アガットは重剣を握りしめる。

 

「…………………」

 

キリコはアガットたちの態度が気になりつつも、周囲を調べた。

 

「……血の跡はこの先に続いているようだ」

 

「わかった。キリコ、悪いがティータやお嬢さんたちを連れて里に戻ってくれるか」

 

「アガットさん!?」

 

「コイツらをこんな風に出来る奴は俺の知る限り一人しかいねぇ。何でこんな所に来てるのか分からねぇが」

 

「……相当なお相手というわけですね?」

 

「ええ。ここからは私たちと重剣で参ります。貴女方は里に戻ってくださいな」

 

「で、でも……」

 

「………師匠の言っていた、狼殿のことでしょうか?」

 

黙っていたアンゼリカが口を開いた。

 

「なぜそれを……」

 

「そういやお前さん、キリカの弟子らしいな」

 

「キリカさんの!?」

 

「知っているのか?」

 

「確か《飛燕紅児》と呼ばれるほどの名うての泰斗流拳士だとか?」

 

「そうだね。一時期、遊撃士ギルドの受付をしてたらしいしね」

 

「はい!ツァイス支部で受付をしてました」

 

「まあな。それで、奴とも?」

 

「いえ、顔を拝見したことはないですね。ただ師匠からは「拳は正しく使うこと。さもなくば魔道に堕ちる」と教わりましたが」

 

「なるほどな……」

 

アガットは顎に手をやる。

 

「わかった。お前さんも加われ。その代わり──」

 

「私も行きます!」

 

ティータは思わず叫んだ。

 

「あのな、お前も知ってんだろ。あいつの拳の威力はただでさえやべぇってことを」

 

「だからこそです!アガットさんや皆さんだけ危険を所に行かせるわけにはいきません!」

 

「あのなぁ……」

 

「まあまあ。アガットさんがティータさんをお守りすれば良いじゃないですか」

 

「フフ、ティータ君にはナイトが付いているんだしね」

 

ミュゼとアンゼリカが微笑む。

 

「ほら、行くなら行きますわよ」

 

「ったく、わかったよ。その代わりティータ、俺の側を離れんなよ」

 

「ふえっ!?は、はい!」

 

「まあ♥️」

 

「重剣殿は少々過保護ではないか?」

 

「なんかあったらコイツの母親に俺が殺される」

 

アガットは断言した。

 

「キリコさん、何かあったら守ってくださいね♥️」

 

ミュゼはキリコの左腕にすり寄る。

 

「動きづらいから離れろ」

 

キリコは何ら態度を変えることはなかった。

 

「ああん……キリコさんのいけず♥️」

 

「くううう………なんて羨ましいっ!」

 

アンゼリカは歯ぎしりをしながらキリコとミュゼのやり取りを見つめる。

 

「キリコ君は相変わらずの鉄面皮ね」

 

「ああもう、早く行きますわよ!」

 

緩んだ空気にデュバリィが一喝した。

 

 

 

「こ、これって………」

 

「すさまじいな……」

 

血の跡を追って、一行はサングラール迷宮に着いた。

 

迷宮の入口が破壊され、その周りは魔獣の死体が散らばっていた。

 

「……先ほどの死体より温かい。やはり奥か」

 

キリコは死体に触れ、点々とひかる血の跡を見つめる。

 

「よく平気でいられますわね」

 

「こういう臭いは嗅ぎなれている。それだけのことだ」

 

「キリコさん………」

 

「アストラギウス……とんでもねぇ場所だったみてぇだな」

 

「何度聞いても信じられません」

 

「…………………」

 

キリコは血糊を拭い、アーマーマグナムに弾丸を込める。

 

「そろそろ教えてくれ。その狼というのは?」

 

「ああ……」

 

アガットは腕を組んだ。

 

「薄々は察してるだろうが、そいつは結社の執行者だ。執行者No.Ⅷ《痩せ狼》ヴァルター》

 

「痩せ狼……」

 

「私と同じ泰斗流の使い手にして、武術の暗黒面である殺人拳の求道者だという」

 

「そうか」

 

「怖くはないのか?」

 

「あいにくそちらについてはからっきしだからな。それに武術というからには暴力や殺生は当然だろう」

 

「ったく、頼もしいもんだな」

 

「では参りましょう」

 

一行は得物を取り出し、サングラール迷宮に突入した。

 

 

 

「こんな所に連れてきて何させようってんだ?」

 

サングラール迷宮の最奥では、サングラスをかけた男が金髪の女を見据えていた。

 

「フフフ、貴方は不死と戦ってみたくはあって?」

 

「不死?ああ、カンパネルラが言ってたっつう」

 

サングラスの男は首を鳴らしながら言った。

 

「その不死の力を持つ方がまっすぐここを目指してやって来るでしょう。貴方にはその方々を叩きのめしてほしいんですの」

 

「ヘッ、それでわざわざダミーをばら撒いたってのか」

 

「フフ、それに貴方がリベールで会ったという赤毛の遊撃士の他、星杯の守護騎士もおられるようですわ」

 

「ほー、少しは楽しめそうだな」

 

サングラスの男は指を鳴らし、笑みを浮かべる。

 

「では、お任せしましたわ」

 

「待ちな。あんたはここに何の用があるんだ?」

 

「フフ、ちょっとした戯れですわ」

 

金髪の女はどこかへ転移して行った。

 

「ククク……まあいい。法国では〝銀〟とも〝風の剣聖〟とも満足に殺り合えなかったしな……」

 

血に餓えた狼は闘志を研ぎ澄ませる。

 

 

 

「かなり奥まで来たな」

 

キリコたちはサングラール迷宮内に施された仕掛けを解きながら着実に進んでいた。

 

「それにしても霊体型の魔獣しか見ませんね」

 

「……実体がある魔獣はほとんどを狩り尽くされたのかもね」

 

アンゼリカは反吐を見るような目付きで言った。

 

「ログナーのお嬢さんじゃなくても反吐が出るぜ。あの野郎……!」

 

「戦いそのものに悦びを覚えるタイプか……」

 

「戦闘狂という点においては、あの戦鬼殿と肩を並べるほどでしょう」

 

「いずれにしても、強敵なのは間違いないでしょうね」

 

「そういうこった。気合い入れろよ」

 

一行は覚悟を決め、最奥へと歩を進める。

 

 

 

「遅かったなぁ?」

 

サングラスの男──ヴァルターはキリコたちを見据える。

 

「こいつが……」

 

「ああ。さっき話したヴァルターだ」

 

「痩せ狼という異名にふさわしい気を纏っているな」

 

「師から聞いていたとおりの御仁だね」

 

ガイウスとアンゼリカは得物を構える。

 

「痩せ狼殿……確か貴公はアルテリア法国に出向いていたはずでは?」

 

「ああ、錬金術師に連れて来られてな。てめえらを叩き潰せだとよ」

 

「錬金術師って……」

 

「マリアベル・クロイスとか言う女か」

 

「面倒くせぇったらありゃしねぇんだがなるほど、そこそこ歯ごたえがありそうじゃねぇか」

 

ヴァルターは一人一人を値踏みするように見る。

 

「リベールで殺り合った二人に鉄機隊のオンナ共。守護騎士に不死身の異能者。そこのガキ二人は知らねぇが」

 

「ふふ、現カイエン公爵を襲名致しました、ミルディーヌ・ユーゼリス・ド・カイエンと申します」

 

ミュゼは不敵な笑みを浮かべる。

 

「ログナー侯爵が息女、アンゼリカ・ログナーだ。そしてキリカ・ロウランの弟子を名乗らせて頂いている」

 

アンゼリカは泰斗流独自の構えをとる。

 

「へぇ?あいつの弟子か……前言撤回だ。こいつは楽しめそうだ……!」

 

ヴァルターから赤いオーラが迸る。

 

「くっ……!?」

 

「やる気十分というわけか」

 

「気合い入れていきますわよ!」

 

『おおっ!!』

 

戦闘が始まった。

 

 

 

「はっ!!」

 

ヴァルターの拳が石柱を撃ち抜く。

 

「これは……!」

 

「頸か。それもかなり練っているね」

 

「チッ!相変わらずふざけた威力だ!」

 

アガットは降ってきた石を払いながらヴァルターを睨み付ける。

 

「こんなもんじゃねぇだろ?てめえらの実力はよぉっ!」

 

ヴァルターはオーバルギアⅢに乗るティータに殴りかかる。

 

「ゼロ・インパクト!」

 

ティータの前にアンゼリカが飛び出し、寸頸を叩き込む。

 

「ほう?」

 

ヴァルターは拳でアンゼリカの拳を受け止める。

 

「か弱いレディにずいぶんな振る舞いなのでは……?」

 

「ここは修羅の庭……女子供もねぇだろうがよ」

 

「くっ……!」

 

「なかなか大した頸だ。だがな!」

 

ヴァルターの拳からすさまじい力は放たれた。

 

「がっ……!?」

 

アンゼリカは後ろに吹っ飛ばされた。

 

「同じ頸でも、俺の方が上だ」

 

ヴァルターは拳の埃を払う。

 

「そこですわっ!」

 

「くらうがいい!」

 

デュバリィとアイネスが両方向から仕掛ける。

 

「ふんっ!」

 

ヴァルターは剣を手刀で制し、デュバリィに膝蹴りを当てる。

 

さらに体を回転させハルバードを蹴りで弾き、アイネスに拳を叩き込む。

 

「ぐっ……!?」

 

「相も変わらずか……」

 

「へっ……レイザーバレット!」

 

だめ押しのクラフト技が二人に放たれる。

 

「がっ……!?」

 

「ぐうっ……!?」

 

「鋼仕込みの技か、悪かねぇ。だがもう少し──」

 

「オワゾーブルーⅡ!」

 

「メデューサアロー!」

 

ヴァルターが言い終わらないうちに、ミュゼとエンネアの技が放たれる。

 

「……フン」

 

ヴァルターは体を反らすように避ける。

 

「水差すんならもう少し上手くやれや──」

 

「ええ。ですからお願いします」

 

「心得た!」

 

「あ?」

 

ヴァルターは上を見た。

 

 

 

「絶空鳳翼の力、思い知るがいい。我が深淵にて煌めく金色の刻印よ。その猛き咆哮を以て、我が槍に無双の力を与えたまえ!吼天鳳翼衝!!」

 

 

 

聖痕の力を引き出したガイウスがヴァルターの頭上からSクラフトを仕掛ける。

 

「チッ!」

 

不意を突かれたヴァルターは後方へ回避し、直撃は免れたが、爆風を浴びた。

 

「動くな」

 

キリコがヴァルターのこめかみにアーマーマグナムの銃口を突きつける。

 

「ようやく捕まえたか。ティータ、いつでも撃てるようにしとけ」

 

「は、はい!」

 

オーバルギアⅢの砲身はヴァルターに狙いを定めた。

 

「ククク………」

 

危機的状況にもかかわらず、ヴァルターは笑みを浮かべる。

 

「何がおかしい?」

 

「おかしいだと?ああ、おかしくてたまらねぇ……」

 

ヴァルターから笑みが消える。

 

「てめぇらの歯ごたえの無さになぁっ!!」

 

ヴァルターがオーラを爆発させる。

 

「しまっ……!」

 

オーラに弾かれ、キリコに隙が出来る。

 

その瞬間、キリコの腹部に衝撃が走る。

 

「キリコさん!?」

 

「てめえ!」

 

アガットが重剣を振り下ろすも、ヴァルターは悠々とかわす。

 

「ツイン・インパクト!」

 

ヴァルターはガイウスとアガットに諸手突きを放つ。

 

ガイウスとアガットは得物で防御するも、こらえきれず吹っ飛ばされた。

 

「レイザーシュート!」

 

威力を上げたクラフト技がミュゼとエンネアを襲う。

 

「このっ……!」

 

「遅ぇんだよ!」

 

ヴァルターの裏拳がアイネスの顔面をとらえる。

 

「アイネス!」

 

「はっ!!」

 

続けざまにデュバリィに延髄打ちを叩き込む。

 

「ヘ、ヘヴィアクセル!」

 

オーバルギアⅢがヴァルターに突っ込む。

 

「フン!」

 

ヴァルターは激突寸前に真上に飛ぶ。

 

そのまま落下の速度に乗せた踵落としを叩き込む。

 

踵落としを受けたオーバルギアⅢは一撃で中破した。

 

僅かな間に、キリコたちは叩き伏せられた。

 

「そ、そんな………」

 

「これが痩せ狼の実力………」

 

「いや、前より上がってやがる……」

 

「無茶苦茶ですわ……」

 

「……………………」

 

周りが肩で息をする中、キリコは呼吸を整え、ゆっくりと立ち上がる。

 

 

 

「ほう?ちっとばかしホネがあるじゃねぇか」

 

「キ、キリコさん……!」

 

「……………………」

 

キリコはヴァルターをジッと睨む。

 

「良いねえ良いねえ。追い込まれても一切怯まないっつーその眼。いい感じにムカつかせてくれるじゃねぇか」

 

「や、やべぇ……!」

 

「と、とにかく回復………」

 

ガイウスは息もたえだえながら、回復アーツを使おうとした。

 

「無駄に足掻きやがって。まあいい……竜神功」

 

ヴァルターから力が溢れ出す。

 

「死んどけ」

 

ヴァルターはキリコに突っ込む。

 

「アルティメットブロー!!!」

 

ヴァルターはキリコめがけて、正拳突きを叩き込む。

 

爆発音が響き、キリコとヴァルターは舞い上がった煙に包まれた。

 

「痩せ狼の正拳突き……」

 

「リベールの王都の城門を破壊したという……」

 

突然、ドサッという音がした。

 

「そんな……」

 

「まさか……」

 

「キリコさん………キリコさん!!!」

 

ミュゼの悲痛の声が響き渡る。

 

やがて、視界が晴れた。

 

「え…………?」

 

「なっ!?」

 

そこには、キリコではなくヴァルターが膝をついていた。

 

「ぐっ……!」

 

「はぁ……はぁ……はぁ……!」

 

キリコの左手にはアーマーマグナムが握られており、銃口から白い煙がたちのぼっていた。

 

ヴァルターは脇腹を撃たれたのか、血を流していた。

 

「ぐぐっ………このガキ………!」

 

『キリコ(さん)!!』

 

ある程度回復したミュゼたちが駆け寄る。

 

「ど、どうして……!?」

 

「あのタイミングでカウンターを取ったと!?」

 

「いや、こいつは完全に遅れたはずだ」

 

「………ガードしただけだ」

 

キリコの右腕がだらんとなった。

 

「キ、キリコさん……?」

 

「ククク……!」

 

ヴァルターが嗤った。

 

「イカれた野郎だ。まさか……右肘を盾にしやがるとはな」

 

「右肘!?」

 

「っ!キリコ君、借りるぞ!」

 

アンゼリカがキリコの腰のナイフで耐圧服の右の袖を切った。

 

「あ………」

 

「こ、こいつは……」

 

キリコの右腕はおそろしいほどに紫色に変色していた。

 

「す、すぐに治療します!」

 

ミュゼとティータがキリコの右腕に回復アーツをかけ続ける。

 

「右肘を突きだしながら俺に接近して、俺の腕が伸びきる前に右肘に当てさせた、か。技の勢いと威力を殺しつつ俺の右拳を割るとはな。だがてめえの右腕もただじゃ済まないはずだが」

 

「これくらい安いものだ。お前を確実に殺せるならな」

 

キリコはヴァルターの眉間にアーマーマグナムを突きつける。

 

「面白れぇ……このまま──」

 

「残念ですがここまでですわ」

 

突然、ヴァルターの後ろに魔法陣が顕れた。

 

「なんだ!?」

 

「フフフフ………」

 

「この笑い声は……」

 

「………その耳に障る笑い方、貴女でしたか。根源の錬金術師殿」

 

「そのとおりですわ」

 

魔法陣から根源の錬金術師マリアベルが現れた。

 

 

 

「ごきげんよう、皆さん」

 

「この方がユウナさんのおっしゃっていた……」

 

「根源の錬金術師マリアベル・クロイスさんですね」

 

「フフフ、カイエン公爵におかれましてはご機嫌麗しゅう」

 

マリアベルは恭しく挨拶をした。

 

「これはご丁寧に。ここに来られた目的はなんです?」

 

「ちょっとした戯れですわ」

 

「戯れ、と言うには度が過ぎませんか?」

 

「フフ……」

 

マリアベルは微笑み、杖を取り出した。

 

「端的に言えば、ここで消えてもらいたいんですの。これ以上、我々の計画を邪魔されないようにね」

 

「この人数を相手に戦うおつもりですの?」

 

デュバリィが得物を構える。

 

「待てや」

 

ヴァルターが立ち上がる。

 

「いきなり出て来て何ぬかしてやがる」

 

「これは失礼。ですが、お楽しみもそろそろお開きにしていただかないと」

 

「……チッ!」

 

ヴァルターは転移の魔法陣を出した。

 

「あら?」

 

「興が削がれた。それとお前」

 

「?」

 

ヴァルターはキリコを見つめる。

 

「名は?」

 

「キリコ・キュービィー」

 

「キリコ、そのツラは覚えとくぜ」

 

ヴァルターはどこかへ転移して行った。

 

「貴方も厄介なのに目をつけられましたね」

 

「どうでもいい。それより……」

 

キリコはマリアベルに目をやる。

 

「こいつをなんとかする」

 

「フフフ、試してみますか?」

 

マリアベルは杖を携えた。

 

 

 

「ダイナストゲイル!」

 

「影技・剣帝陣!」

 

「兜割り!」

 

アガット、デュバリィ、アイネスがクラフト技で仕掛ける。

 

「フフフ……」

 

マリアベルは微笑みながら障壁を張る。

 

「これは!?」

 

「魔導の障壁か……!」

 

アガットたちのクラフト技はマリアベルに届かなかった。

 

「………………」

 

キリコがアーマーマグナムの引き金を引くが、弾丸は弾かれた。

 

「これもダメか」

 

「でしたら、エアリアル!」

 

「シルバーソーン!」

 

「ゴルトスフィア!」

 

ミュゼ、エンネア、ティータがアーツを放つ。

 

「あらあら」

 

マリアベルは杖を振り、色の違う障壁を出した。

 

放たれたアーツは全て跳ね返された。

 

「キャアッ!?」

 

「物理無効にアーツ反射の障壁ですか……!」

 

「なら話は簡単だ。全員で──」

 

「させませんよ」

 

マリアベルは五体の人形を出した。

 

「に、人形!?」

 

「気を抜くな。おそらく自立型の兵器だ」

 

「さすがですわね。ですので」

 

マリアベルが杖を振ると、人形たちは一斉にキリコに襲いかかる。

 

「させるか!」

 

アンゼリカが人形たちを蹴りでなぎはらう。

 

人形たちはさっさと後退した。

 

「……チッ」

 

アンゼリカは舌打ちをした。

 

「人形の分際で……!」

 

「フフフフ………破れますか?」

 

マリアベルは不敵な笑みを浮かべた。

 

「上等……!」

 

「お遊戯会もたいがいにしとけや」

 

「ここで倒させていただきます!」

 

ミュゼたちは闘志を燃え上がらせた。

 

 

 

「ドラグナーエッジ!」

 

「エアリアル!」

 

「タービュランスⅡ!」

 

「カルバリーエッジ!」

 

「ハードストレイフ!」

 

アガットたちはクラフト技とアーツを交互に放つ。

 

「ッ!」

 

(やはり一度に二つは張れないようだな)

 

マリアベルは平静を装っていたが、キリコは戦術の穴を見逃さなかった。

 

「行きますわよ」

 

「心得た」

 

「合わせるわ」

 

「「「デルタ・ストリーム!!」」」

 

鉄機隊が星煌陣の合わせ技でマリアベルの人形たちを完全に破壊する。

 

「私のかわいい人形たちを……!」

 

「それなら使わなければいいでしょう。ブルーアセンション!」

 

ミュゼが水属性のアーツは発動した。

 

「甘いですわ!」

 

マリアベルはアーツ反射の障壁を張った。

 

「これで……っ!」

 

ミュゼは反射されたアーツをまともに受ける。

 

「ミュゼちゃん!!」

 

「フフフ、無駄なことを──」

 

「無駄じゃない」

 

「なっ!?」

 

マリアベルの背後からキリコが現れた。

 

「くっ!」

 

「遅い」

 

キリコはアーマーマグナムの引き金を引いた。

 

「フフ!」

 

が、間一髪マリアベルの方が早かった。

 

弾丸は障壁に弾かれた。

 

「これでチェックメイトですわ──」

 

「ファイアボルト」

 

キリコは以前から持ち歩いていた旧式の戦術器から火属性のアーツを放った。

 

「ぐっ!?」

 

マリアベルの視界が真っ赤に染まる。

 

「終わりだ」

 

キリコは万力の力を込めて、マリアベルの顔面に右フックを叩き込む。

 

「があっ!?」

 

マリアベルは地面に転がった。

 

「…………………」

 

キリコは激痛が走る右腕に構うことなく、倒れたマリアベルを見下ろした。

 

 

 

「やったか……」

 

「ようやく一矢報いたな」

 

「それはいいんだけど……」

 

エンネアは手当てを受けるミュゼを見る。

 

「だ、大丈夫、ミュゼちゃん」

 

「は、はい……大したことは」

 

「ふう、あまり心配させないでください」

 

アンゼリカは空属性の回復アーツを発動させた。

 

「くっ………!」

 

マリアベルは顔をおさえながら立ち上がった。

 

「女の顔によくも……!」

 

「……痩せ狼ではないが」

 

キリコはアーマーマグナムの銃口を向ける。

 

「戦場に女も子供もない。俺たちの攻撃に耐えられなかったお前が弱かった。それだけだ」

 

「~~~~ッ!!」

 

マリアベルは憎々しげにキリコたちを睨む。

 

「同感ですわね」

 

「強い者が勝つのではなく、勝った者が強い。戦闘の鉄則だ」

 

「貴女は確かに強いけど、こちらが上回った結果ね」

 

鉄機隊がキリコに続く。

 

「その減らず口、二度と──」

 

「追いついたぞ!」

 

「!?」

 

「時間切れのようだな」

 

キリコたちの後ろから、巡回に出ていたリィンたちが走って来た。

 

「キ、キリコ君!?」

 

「それに皆さんも……」

 

「それもだけど、まさか根源の錬金術師がここにいるなんてね」

 

サラはマリアベルを睨み付ける。

 

「………どうやらここまでのようですわね」

 

マリアベルは魔法陣を出した。

 

「ですが、覚えておくことです。あなた方がいくら足掻いても結果は変わらないということを」

 

マリアベルはそれだけ言って、転移して行った。

 

「……………………」

 

キリコは疲労から、膝をついた。

 

「キリコさん!」

 

「な、何あの腕!?」

 

「濃い紫色に変色しています!」

 

「おいパイセン!」

 

「わかってます。エリオットさん!」

 

「わかった!」

 

エマとエリオットは新Ⅶ組と共にキリコに駆け寄る。

 

 

 

その間、リィンたちはアガットから事の詳細を聞いた。

 

「そんなことが………」

 

「痩せ狼……ジンから聞いていた以上にヤバいね」

 

「ジン?知っているのか?」

 

「うん。前に仕事で一緒になった」

 

「《不動》の異名を持つ、カルバードのA級遊撃士よ。確かリベールの異変にも関わっていたのよね?」

 

「ああ。エステルたちやスチャラカ皇子とも顔見知りだ」

 

「オリヴァルト殿下とも……」

 

「本当なら、でばって来てもおかしくはねぇんだが……」

 

「何かあるんですか?」

 

「そのブライト兄弟と同様、帝国入りが難しいとか?」

 

「いや、というより……」

 

「もしかして……」

 

リィンの頭にあることが浮かぶ。

 

「共和国側が認めていない、とか?」

 

「…………………」

 

アガットは仏頂面になった。

 

「ア、アガットさん……!?」

 

「やっぱりそうなのね……」

 

「シュバルツァーの指摘通りだ。数日前、選挙でロックスミス大統領率いる与党が大敗してな。野党第一党の党首が遊撃士ギルドに対して圧力をかけてやがんのさ」

 

「バカな……!」

 

「帝国とは似ているようで違うね。こちらはギルドとして活動は停止していても、遊撃士としては認めている」

 

「だがその野党第一党のやり方は遊撃士として活動するなと言っているようなもの」

 

「そういうことね。現に、レマン自治州の本部は正式に抗議を出しているわ」

 

「それでも効き目がなかったと?」

 

「ああ。政権移行によるゴタゴタで国内に集中させたいってのが新政権の回答らしい」

 

「遊撃士が国のゴタゴタに巻き込まれるのは珍しくない。でも……」

 

「ここまで露骨なのはそうそうあるもんじゃねぇ」

 

『……………………』

 

アガットの言葉に、リィンたちの表情はすぐれない。

 

「教官!」

 

リィンが振り向くと、ユウナが立っていた。

 

「ん?ああ、そっちは終わったのか」

 

「はい。エリオットさんとエマさんとセリーヌがキリコ君の腕の治療を行ってくれたんです」

 

「そうか。しかし、右腕の粉砕骨折とはな」

 

「あのヴァルターって執行者にやられた時はかろうじてくっついていたみたいなんですが……」

 

「が?」

 

「どうも……マリアベルさんを殴打した時の衝撃で完全に折れたみたいで……」

 

「………後で説教だな」

 

「あははは………」

 

ユウナは頬を掻いた。

 

 

 

午後6:30

 

「………………」

 

キリコは妖精の湯に浸かっていた。

 

(痩せ狼……あれだけの手練れがいるとはな。なめていたつもりはないが……)

 

キリコは腕をさすった。

 

「やあ、隣良いか?」

 

「ははっ、湯治の真っ最中ってとこか」

 

キリコの隣にリィンとアガットが座る。

 

「今日は悪かったな」

 

「腕のことならいい。まだくっついている」

 

「ったく、口が減らねぇな」

 

「………………」

 

キリコは左手で顔を拭った。

 

「それでキリコ。明日の作戦、行くのか?」

 

「これもけじめですので」

 

「けじめ、ね」

 

アガットは髪をかきあげる。

 

「お前が背負ってるモンは俺にはきっとわからねぇ。けどよ、全部背負い込むことはねぇんじゃねぇか?」

 

「俺の問題だ」

 

「肩肘張るのも結構だけどよ。それじゃ、求めてるモンにはたどり着けやしねぇんだぜ?」

 

「アガットさん……」

 

「ま、頭ん中に留めておけや」

 

「………………」

 

キリコはもう一度、左手で顔を拭った。

 

 

 

「あら、先客がいらしていたんですね」

 

「「「?」」」

 

声のする方向にはアルフィン皇女が立っていた。

 

その後ろにはミュゼとティータ、トワとアンゼリカが立っていた。

 

「お前さんらか」

 

「ふふ、お邪魔しますね」

 

アルフィン皇女たちはキリコとアガットの隣にミュゼとティータが座れるようにして、円を描くように座った。

 

((………………………))

 

ミュゼとティータは俯いていた。

 

「ふう。気持ちいいです」

 

「エルモの温泉とは違うが、これはこれで悪くねぇ湯だな。───って、何やってんだ、ティータ?気分でも悪いのか?」

 

「い、いえ、そんなことは……」

 

(……ううっ、2年くらい前まではお姉ちゃんやお祖父ちゃんたちと一緒にアガットさんとも温泉に入っていたのに………な、なんであんなことが出来ちゃってたんだろ、わたしっ!?)

 

ティータは過去の自分を責めていた。

 

(それは思っていましたよ?お祖父様とお祖母様とセツナさんとリーファさんと温泉に行きたいと。出来ればキリコさんとも行ってみたいと妄想してはいましたよ?)

 

(ですが………こんなに近くにいるなんて予想しているわけないでしょ~~~っ!?)

 

ミュゼは半ばパニックになっていた。

 

(うんうん。初々しい反応だねぇ♥️)

 

アンゼリカは頬を赤らめていた。

 

「そ、そう言えばアガットさんはティータちゃんとは4年前からのお知り合いなんですよね?」

 

隣から不穏な空気を察したトワがアガットに話しかける。

 

「ああ。当時は12かそこらのチビスケだったからな。ただ……」

 

アガットはティータを見る。

 

「……なんつーか眩しいくらい年頃の娘らしくなってきたと思うぜ。俺にも妹がいたから、生きていれば似たような感じだったかもしれねぇ」

 

「あ……」

 

「そう……ですか。少々伺ってはいますが」

 

(アガットさんにも色々あるみたいだな……)

 

「…………………」

 

「ですが……」

 

アルフィン皇女が口を開く。

 

「それは〝同じような感じ〟ではなくあくまで〝似たような感じ〟なのですね?」

 

「……!」

 

「ああん……?そりゃ妹とティータは違うしな。そもそも見た目も性格も全然違うし、まあ愛嬌はある方だったがこんな美人なってたかといやあ………──って何言わせやがる!」

 

アガットがつっこむ。

 

「~~~っ~~~………!」

 

「うふふ、援護射撃成功ですね♥️」

 

「援護射撃じゃねぇんだよ。つまんねえとこばっか似やがって」

 

「アガットさんのことはお兄様から聞いておりましたので」

 

「あのバカ皇子……!」

 

(世界広しといえども、オリヴァルト殿下をそう呼べるのはリベールの異変を経験したメンバーだけなんだろうなぁ)

 

リィンは苦笑いを浮かべた。

 

 

 

「…………………」

 

ミュゼは伺うようにアガットたちのやり取りを見ていた。

 

「どうかしたか?」

 

キリコはミュゼに問いかける。

 

「ふえっ!?い、いえなんでも……」

 

「そうか」

 

キリコは空を見上げる。

 

「………キリコさん」

 

ミュゼが口を開く。

 

「?」

 

「いいお湯、ですね」

 

「ああ」

 

「も、もう少し、腕を浸けてはいかがですか。ここの温泉は骨折にもよく効くとか……」

 

「らしいな」

 

「あ、あうう……」

 

ミュゼは顔を伏せる。

 

「……また無茶をすることになるな」

 

「キリコさん……」

 

「こんな茶番、さっさと終わらせたいものだな」

 

「はい……」

 

ミュゼはキリコの顔を見上げた。

 

「どうした?」

 

キリコはミュゼの方を見た。

 

「い、いえその……わ、わたし………」

 

「?」

 

(ミュゼちゃん………)

 

いつの間にか離れていたティータは見守っていた。

 

「わ、わたし──」

 

「ぎょえーーーっ!!」

 

突如、遠くから奇声のようなものが聞こえてきた。

 

「きゃあ!?」

 

ミュゼは動転してしまった。

 

「ふえっ!?」

 

「こ、これは……!」

 

「あ、あらあら……」

 

「リ、リィン君はダメ!」

 

トワはリィンの目と耳を塞ぐ。

 

「ト、トワ先輩!?」

 

「あ…………………」

 

「……………………」

 

ミュゼはキリコに抱きつき、唇がキリコの顔に触れる手前まで接近していた。

 

「!!!!!????」

 

ミュゼは耳まで真っ赤になった。

 

「……………………」

 

キリコは何も言わず目を瞑り、空を見上げる。

 

「ご……………」

 

「……………………」

 

「ごめんなさぁぁぁぁいっ!!!」

 

ミュゼは叫んで走って行った。

 

「……………………」

 

キリコは無言で脱衣場に向かった。

 

 

 

ちなみに奇声の原因はあまりのワガママさに怒りの焔を燃やしたエマとセリーヌの幻術を受けたローゼリアによるものだった。

 

原因を知ったユウナらによって、ミュゼは一晩中宥められることになった。

 




次回、リーヴスに突入します。

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