長くなりそうなので二つに分けます。
七耀暦1206年 8月25日
「……………………」
キリコは自室で軽いストレッチをしていた。
(少し違和感を感じるが、なんとかなりそうだな)
「キリコ、ここにいたのか」
クルトがキリコに声をかける。
「もう、いいのか?」
「ああ」
「本当に呆れた回復力だな。それより来てくれ。教官が呼んでる」
「わかった」
キリコはクルトと共に一階に降りた。
キリコが一階に降りると、リィンとアッシュがいた。
「やっと来やがったか」
「腕はもういいのか?」
「はい」
「わかった。それなら大丈夫だな」
「では……」
「ああ。今日、リーヴスへと向かう」
「……構成は?」
「俺たちⅦ組特務科にティータとトワ教官が加わる。残りのメンバーはメルカバで待機することになっている」
「わかりました。では準備に取りかかります」
「キリコ」
リィンはキリコに真剣な眼差しを向ける。
「自主退学の件だが、正直俺は考え直してほしいと思っている。アルフィン殿下も君の名誉回復のために動こうとなさっているしな」
「…………………」
キリコは立ち止まるも一瞥することなく、アトリエを出た。
「キリコ……」
「チッ!」
クルトとアッシュは背中を複雑な目で見ていた。
「あ、キリコ君」
「おはようございます」
キリコが万屋レムリックで道具を見繕っていると、ユウナとアルティナが声をかけてきた。
「お前たちは準備はいいのか?」
「うん。だいたいは出来てるかな」
「後はアクセサリくらいですね」
「そうか」
キリコは見繕った道具の会計を済ませる。
「いよいよだね」
「そうだな」
「あれから一月以上経ちましたか」
「あたし、絶対に取り戻したい。捨て石とか言われながらも、みんなで切磋琢磨して笑っていられるあの場所を」
「わたしもです」
「……そうだな」
キリコはユウナが眩しく映った。
「あ、そうそう」
「?」
「昨日のことだけどね。原因はローゼリアさんらしいけど、ミュゼにちゃんと言っとかなきゃダメだからね」
「俺がか?」
「ミュゼさんはティータさんと工房にいましたよ」
「わかった後で伝えておく──」
「ダーメ!ギクシャクする前に済ませること!」
「とにかく行ってください」
「お、おい……」
キリコはレムリックから閉め出された。
(……仕方ない)
キリコはガンドルフの工房に向かった。
(あわわわ………!)
ミュゼは一気に赤くなった。
「……………………」
キリコは工房でARCUSⅡの調整を頼んでいた。
(ど、どどどどうしましょう……!?)
(大丈夫だよ、ミュゼちゃん。キリコさんだって怒っているわけじゃなかったよ)
(で、ですけど……!)
「ミュゼ」
「ひゃいっ!?」
ミュゼの声は思わず裏返る。
「あ、あの……」
「夕べはすまなかったな」
「ふえっ……!?」
「いらん恥をかかせてしまった」
「い、いえ、お気になさらず。わ、私の方こそすみませんでした。はしたない真似をしてしまって」
「すまない」
「だ、大丈夫です……」
「………………」
「そ、それよりもキリコさん、調整が終わったみたいですよ?」
「あ、ああ」
キリコはガンドルフからARCUSⅡを受けとる。
「キ、キリコさんも行かれるんですよね?」
「リーヴスにはセドリックがいるらしいからな。これもけじめだ」
「そう、ですか……」
「最後までよろしく頼む」
「キリコさん……」
ミュゼは胸をおさえた。
(この戦いが終わったら、キリコさんはいなくなってしまう……その時は私は………)
(ミュゼちゃん?)
ティータは不穏な空気を察した。
「それとティータ」
「はい?」
キリコはティータに話しかける。
「悪いとは思っているが、技術部は解散ということになる」
「キリコさん……」
「許せとは言わん」
「いえ。ただキリコさん……」
「…………………」
「あの博士の説得はどうするんです?」
「会って話すしかない。それに説得材料はある」
「もしかして、これまでの戦闘データですか?」
ティータはキリコの言う説得材料を思い浮かべた。
「そうだ。それにミュゼたちの機甲兵のデータも合わせてな」
「周到ですね」
「これぐらいはしなければなるまい」
「やっぱりキリコさんは」
「クソ真面目、ですね♪」
ティータとミュゼは互いに微笑む。
「…………………」
キリコはミュゼとティータと共に、空き地にやって来た。
「これで揃ったな」
「キリコ君もちゃんとミュゼと話せたみたいだしね」
「ああ」
「へ?」
「ああ、ミュゼさん。実は……」
アルティナはミュゼに説明した。
「な、ななな……!」
ミュゼは赤くなった。
「お節介も大概にしろっての」
「ユウナさんの美点なので致し方ないかと」
「ちょっとアル!それどういう意味!?」
「そのまんまの意味だと思うけど」
「あははは………」
クルトのストレートな言い方にティータは苦笑いを浮かべる。
「なんでもかんでも首をつっこんだ挙げ句、事態を良くも悪くも変える。美点と言われれば美点かもしれないな」
「も~~!キリコ君まで!」
(ククク、皮肉ってやがる)
アッシュはほくそ笑んだ。
「全員、揃っているみたいだね」
「気負いはなさそうですね」
トワとリィンが歩いて来た。
「教官……」
「そちらも準備は終わったようですね」
「ああ。それじゃ、時間も惜しいから出発しよう」
『イエス・サー!』
リィンたちは転位石を使って、転移して行った。
[キリコ side]
魔の森を抜け、エイボン丘陵を越えた俺たちはミルサンテで小休止していた。
「ここにシドニーが?」
「うん。宿酒場のご主人がシドニー君の叔父さんなんだって」
「そうか」
話を聞く限り、元気そうだ。となると気になることがある。
「そういえば、他のメンバーとはどこで会った?」
「あ、私も聞きたいです」
ティータも気がかりのようだ。
「最初にセントアークでカイリ君、パルムの町でパブロ君とタチアナに会ったのよね」
「次にオルディスでレオノーラとマヤ、アルスターでグスタフとサンディと会ったんだったな」
「最後にクロスベルでルイゼさんとフレディさんとスタークさんとヴァレリーさんに再会しました」
ユウナ、クルト、アルティナがそれぞれ答えた。
「なるほどな」
見事に散り散りだな。
「では残っているのはゼシカとウェインか」
「そうですね。お二人は先ほど挙げたどの街にもいらっしゃいませんでした」
「二人とも、どこにいるんだろ?」
「あ?んなの一つっきゃねぇだろ」
「……リーヴスか」
「ああ。おそらくそうだろう」
リィン教官も大きく頷く。
「他の皆さんも来ているのでしょうか?」
「それは行ってみないとわからない。だがクロスベルにいる三人は厳しいだろう」
「僕たち第二分校は指名手配されているらしいから現状、クロスベルを出る手段がない」
「特にヴァレリーさんは聖ウルスラ病院で看護師をなさっていますからなおさらでしょう」
「う~~~ん」
ユウナたちは顔を伏せている。
不安なのは分からなくもない。
「大丈夫だ」
空気を察したリィン教官が口を開く。
「ゼシカは自分の迷いを振り切って修練に励んでいたようだし、ウェインは第二分校でも一二を争う根性の持ち主だ。それは君たちがよく知っているんじゃないか?」
「教官……そうですね」
「確かに、私たちが知っていることでしたね」
「心配なんざいらねぇだろ」
ユウナたちの表情が変化した。
「それじゃ、そろそろ行こうか」
『イエス・マム』
俺たちはミルサンテからガラ湖周遊道に下りて行った。
[キリコ side out]
「「…………………………………」」
キリコたちはガラ湖周遊道で独自の魔獣を蹴散らしながら進んでいた。
そこで意外な人物と再会した。
Ⅷ組戦術科教官のランディと第二分校主任教官のミハイル・アーヴィングだった。
二人はⅦ組特務科との再会にホッとする一方、皇帝暗殺未遂の罪で処刑されたはずのキリコを見て思考が止まった。
慌てた二代目Ⅶ組が二人にこれまでの経緯を話した後、二人はなんとか冷静さを取り戻した。
「……なるほどな。キリコが皇帝サンを撃ったのは合意の上でなんだな?そんで処刑されたってのは他の死刑囚だったと」
「ま、まさかルスケ大佐とそんな繋がりがあったとは。どおりで分校での活動レポートを回せとおっしゃるわけだ……」
(ロッチナ……)
キリコは怒りを通り越して呆れた。
「にしても、不死の異能者ねぇ………さすがにブッたまげたぜ」
「……正直、まだ混乱しているが」
ミハイルはキリコの方を向く。
「俺を捕らえますか?」
「……今の私は教官という立場故、軍からは離れている。君はもちろん、Ⅶ組特務科を捕らえる権限はない」
「ミハイル教官……!」
「だがリーヴスに常駐しているTMPは別だ。もっとも、今は街から離れているがな」
「ど、どういうことでしょう?」
「各地の鎮圧のためにな。戦争目前ということもあるが、西部での騒動を切欠に各地で不安が暴発しているのだ」
「無理もない。立て続けに事が起これば……」
「なあキリコ、こいつも」
「ああ。ワイズマンの目論見どおりだろう」
「異世界の神様ねぇ……とんだモンを背負ってたんだな」
「いまさらどうこう言っても仕方ないので。それよりランディ教官」
「ん?」
「謝らなければならないことが」
「え……?」
キリコはクロスベルでの出来事を話した。
「……マジかよ?」
「はい」
「少し前にティオすけがクロスベルでの情報を持ってきたことがあったが、まさかそれがキリコだとはな」
「あたしもキーアちゃんから聞いた時はびっくりしましたけど」
「それとランディ教官。アレックス・ダドリーとノエル・シーカー。この二人に覚えは?」
「ああ。もちろん知ってる。ノエルは元警備隊で特務支援課に出向しててな。ダドリーはクロスベル警察捜査一課のエリートだ」
「そうでしたか」
「……ほんとーに無茶苦茶ね………」
「相変わらず人間離れしていますね」
「さすがは元兵士」
「脱走兵の間違いだろ?」
「異能者では?」
「とにかく」
ミハイルは全員を向き直らせた。
「分校に行くならば用心することだ。現在、本校生徒たちが君たちを迎撃すべく待ち構えている」
「本校生徒が……」
「セドリック殿下を筆頭に、トールズの矜持を示さんがためにな」
「矜持、ですか」
「ならこちらも同じですね」
「ああ」
リィンたちはミハイルの方を向く。
「わざわざのご忠告、感謝します」
「礼には及ばない。君たちの武運を祈る」
ミハイルはそれだけ言って、去って行った。
「まさかミハイル教官と会うなんてね」
「まったくだよな」
「そういえば、ランディ先輩はどうしてここに?」
「っと、いけねぇ。大事なことがあんだった」
ランディは思い出したように顔を上げた。
「しっかりしろや」
「大事ことですか?」
「ああ。今分校にゃティオすけがいるんだよ」
「ティオ先輩が!?」
ユウナは弾かれたように驚く。
「それだけじゃねぇ。リィン、お前の妹もいるらしいぜ」
「エリゼが……」
「ですが何のために……」
「……ティータ」
「……たぶん」
キリコとティータはあることが頭に浮かんだ。
「キリコ君?ティータちゃん?」
「何かあんのか?」
「それは──」
「……シュミット博士、ですね?」
キリコが言う前にミュゼが口にした。
「あの博士がか?」
「これまで色々な場所を訪れたが、博士だけは見つからなかった」
「となると、残るはリーヴスくらいしかなくて」
「分校にはアインヘル小要塞があったな。おそらく、ティオ主任とエリゼさんはそこに……」
「まあ、あの博士ならひどいことはしないだろう。おそらく、自分の研究の手伝いとかをさせているんだろうな」
「あり得ますね」
「ミッションが増えちまったな」
「問題ない」
「とにかく、まずは街に行こう。ランディさんもよろしくお願いしますね」
「おお、任せろ!」
ランディを加えたリィンたちはリーヴス目指して走り出した。
「帰って……きたんだ」
「あ………」
「はい……」
「そんなに離れていないのに、なんだか懐かしいような……」
「そうですね……」
「ああ……」
ユウナたちはリーヴスの街並みに感動さえ覚えた。
「…………………」
キリコもまた、街を見渡した。
「みんな……」
「ここがあいつらの場所だもんな」
「ええ……!」
リィンはかつての自分と重ね合わせた。
「まずは学生寮ですね」
「もしかしたら、本校生徒が使っているのかもしれないな」
「とにかく、入ってみようよ」
「そうだな」
キリコたちは学生寮の扉を開けた。
学生寮の中はガランとしていた。
キリコたちはそれぞれ手分けして寮の中を見てまわった。
「うーん……」
「どうやら、ここは使われていないみたいですね」
「確かに、人がいた形跡がないな」
「部屋も荒らされた感じはしねぇ。ただ……」
「清掃されていた、か」
「そうですね。床も埃一つ落ちていません」
アルティナは床を指でなぞる。
「……たぶん、殿下の指示だと思う」
「セドリック殿下の?」
「いつでも俺たちを迎えられるようにか」
「うん。殿下はわかってらっしゃったんだと思う。僕たちと本校が雌雄を決する日がくることを」
「皇太子殿下なりの礼節なのでしょう」
「なら話は早ぇ。正面からやっちまおうぜ」
「コラコラ。行動を起こすのはまだ早計だぞ」
リィンたちが降りてきた。その中でランディが一人だけ肩を落としていた。
「ランディ先輩?」
「どうかしたんですか?」
「やってくれたぜ………」
「え?」
「シャーリィのヤツ、俺の部屋で寝泊まりしてたみたいなんだが、私服は脱ぎ散らかすし私物は出しっぱなし、大荒れだった」
(シャーリィはセドリックに付いていたらしいが……)
「なんでアイツの脱ぎ散らかした下着を片付けなきゃいけねぇんだ………」
「そ、それは……」
「御愁傷様です……」
ユウナたちはランディを慰める。
「それより、そちらの調査はどうでしたか?」
「う、うん。結論から言うと、ティオ主任もエリゼちゃんも寮にはいないね。たぶん、分校内で寝泊まりしているんだと思う」
「確かに、仮眠スペースもありますから」
「学校に仮眠スペース……」
「そういえば以前、リィン教官とランディ教官は分校に寝泊まりしたことがありましたね」
「書類が多過ぎてとてもじゃないが帰れなくてな……」
「残業代にその他諸々はきちんと出てたけどな……」
リィンとランディは揃って額をおさえる。
(教官、先輩……)
(労働形態が悪すぎるだろう……!)
(うちの工房より大変かも……)
(今巷で聞く、ブラック企業とでも言うんでしょうか……)
(ぜってぇーここには就職しねぇ……)
(……分校長に掛け合ってみましょうか)
ユウナたちはリィンとランディに同情した。
「あはは、ユウナちゃんたちが心配することじゃないよ。各地での功績が認められたとかで来年度は人を増やすみたいだから」
「そ、そうですか……」
「とりあえず次行こうよ」
「ならナインヴァリに寄ってくれますか?」
「ナインヴァリに?でもジンゴちゃんは……」
「母親が来ているらしい。これを渡せと」
キリコは懐から一通の封筒を取り出した。
「いつの間に……」
「しゃーねーな」
「では参りましょう(お二人の反応が楽しみですね)」
キリコたちは人目を避けながら、ナインヴァリに向かった。
(誰かいるな)
ナインヴァリの扉に手を掛けかけたキリコは気配を感じた。
キリコは即座に静かにするようハンドサインを出した。
「どうかしたの?」
「気配を感じた」
「間違いなくお二人でしょう」
「なら入ろうか──」
「待てよ。とりあえずキリコは呼ぶまで待ってろ」
アッシュが待ったをかける。
「アッシュさん?」
「その方が面白ぇだろ」
「面白いって……」
「まあ、いきなり会ったらパニックになるかもしれないしな。悪いがキリコ──」
「分かりました」
キリコは入り口付近の壁に寄りかかる。
「それじゃ、入ろう」
リィンたちは先にナインヴァリに入った。
数分後、ユウナが呼びに来た。
キリコはナインヴァリに足を踏み入れた。
「「…………………」」
店内にいたゼシカとウェインは現れた人物に固まった。
「ゼシカ?ウェイン?」
「「ゆ………」」
「ゆ?」
「「幽霊!?!?」
ゼシカとウェインは仰天した。
「……………」
「やっぱりビビるよな、そりゃ」
(予想通りですね)
「落ち着いてください。幽霊ではありませんよ」
「とりあえず話を聞いてくれ」
ゼシカとウェインはユウナたち、そしてキリコの話を聞いて唖然とした。
「正直、理解が追いつかないけど………」
「ま、まさかそんな事情があったとは………」
「そう思うのも当然だ」
「帝国を覆う呪い……そしてキリコ君はその根源と浅からぬ因縁が……」
「そ、それもそうだが、陛下を撃ったのは合意の上だとは……」
「まあ、それが一番の驚きだろうな。俺でさえすぐには納得しなかったからな」
「教官……」
「とにかく、生きていたんだな」
ウェインはキリコの背中に腕を回す。
「この大馬鹿が……俺やスタークがどれだけ悲しんだと思うんだ」
「ウェイン君……」
「ウェインさんもスタークさんもある意味、キリコさんとのお付き合いも長かったでしょうから」
「男の子の友情ってやつね」
ユウナは腕組みをして微笑む。
「許せとは言わん」
「ああ、わかってる……」
「……それはそうと」
ゼシカは咳払いをした。
「ユウナたちもやっぱり分校を取り戻すために?」
「うん。そうよ」
「やっぱりね」
「TMPも騒動の鎮圧で出払っている今こそ、好機と思っていたんだ。もしかしたらⅦ組が来るかもしれないからな。
「まさかキリコが生きていて加わっているとは思わなかったが」
「でもキリコ君、大丈夫なの?」
「何がだ」
「校舎には皇太子殿下もおられるのに……」
「これもけじめだ」
「けじめって……」
「どちらにせよ、俺が分校に戻ることはない」
「え!?」
「な!?」
「キリコ……」
「ああ、実は──」
リィンは二人に説明した。
「自主退学……」
「本気なのか……!」
「既に分校長に渡してある」
「で、でもそれでいいの!?」
「丸く納めるにはこれが最善だ。下手をすれば分校そのものが無くなる」
「それは……」
「これでいい」
キリコはゼシカたちをまっすぐ見た。
「他の連中は?」
「昨日までは連絡は取れていたんだけど、今日になってから繋がらなくて」
「そうか……」
キリコは腕組みをした。
「そちらも気になるが、そろそろ行動に移る頃合いだろう」
リィンはⅦ組を向かせた。
「そう、ですね」
「ぐずぐずしている時間はありませんね」
「ならチームを二つに分けるぞ。リィンたちⅦ組をA班、残りをB班ってぐあいにな」
「B班の方が少なくないですか?」
「俺らは正門から仕掛けて引き付ける囮だ。本命のA班は分校の裏っ側から入ってもらう」
「分かりました。それで行きましょう」
リィンたちはランディの案に賛成した。
「けどよ、こいつはどうすんだ?」
「キリコはA班とは独立して動いてもらう。先にあの皇子様んとこを目指してもらうぜ」
「了解」
キリコは迷うことなく返事した。
「俺たちは分校各所を解放しつつ、ティオ主任とエリゼを救出に向かいます」
「それなら教官、プラトー主任とエリゼさんはアインヘル小要塞にいるみたいです」
「わかった。でもどうしてそれを?」
「数日前、私のARCUSⅡにメッセージが。すぐに削除されてしまいましたが」
ゼシカは自身のARCUSⅡを見せながら言った。
「そうかわかった。では行動を開始しよう──」
「どうやら決まったようだね」
店の奥からジンゴの母親のアシュリーが出てきた。
「ア、アシュリーさん……」
「お久しぶりですね。帝都ではお世話になりました」
「別に構わないよ。それよりキリコ・キュービィー、ジンゴからの届け物ってのがあるんだろ?」
「ああ」
キリコはアシュリーに手紙を渡した。
「ご苦労。それはそうと何か入り用かい?」
アシュリーは封筒をしまい、カウンターに立つ。
「ワイヤーガンをくれ。後、アーマーマグナム用の弾丸もだ」
「いいけど高いよ?」
「いくらだ?」
「ざっと50億」
『高っ!?』
アシュリーの提示した値段にリィンたちは仰天した。
「クックック………あんたの賞金と同額だね」
「しょ、賞金……?」
「いったい何のことだ……?」
「まあ、気にしないことだな」
クルトはゼシカとウェインに釘を刺した。
「知っているようだな」
「闇ブローカーの中でも相当深く精通しているみたいですね」
「あんたほどじゃないさ、カイエン公爵さん?」
「カ、カイエン公!?」
「ミュゼが!?」
ウェインとゼシカはまたも仰天した。
「あ、そういえば二人は知らなかったんだ」
「私たちも最初はお二人みたいに驚きましたが」
ユウナとアルティナは落ち着きをはらっていた。
「それで、渡すのか?」
「良いだろう。持ってきな」
アシュリーは戸棚からキリコの注文の品を取り出した。
「それでいくらだ?」
「ワイヤーガン一丁と弾丸60発分。しめて3万ミラってとこだね」
「3万ミラか……」
「それでも高いわね……」
「こいつはとある場所から仕入れた特注品でね。これ以上は信用に関わるから下げられないね」
「わかった」
キリコは財布から一万ミラ紙幣を三枚取り出して、渡した」
「毎度あり」
「よ、良かったの?」
「モノは確かだ。悪くない買い物と言える」
キリコはワイヤーガンを手に取り、ユウナの疑問に答えた。
「そ、そうなんだ」
「ではそろそろ出発しよう。ではランディさんたちもお気をつけて」
「ああ。こっちは任せな」
「みんなも気をつけてね」
「はい……!」
「いって参ります」
A班は分校の裏側を目指して、ガラ湖周遊道へ出た。
「あっそ、なら任せといて。そっちはパパの所に戻るんでしょ?」
同時刻、第二分校屋上でシャーリィはどこかと通信していた。
「うん、うん。それじゃあねぇ」
「シャーリィさん」
「ん?どしたの?」
「どうしたはこっちの台詞ですよ。リィンさんたちが来たんですか?」
「みたいだよ。リーヴスで張ってた斥候から通信が来たから」
「そうですか。正門には手配しておいて良かったですよ」
「それがどーもさ、正門にはランディ兄たちが来てて、灰のお兄さんたちは周遊道に行ったってさ」
「なるほど、裏側に回るつもりか……」
セドリックは顎に手をやる。
「どーする?そっちにも回す?」
「いえ、その必要はないでしょう。分校各所には生徒たちが張っていますから、わざわざ配置を変えることはないでしょう」
「甘くみてる……ってわけじゃなさそうだね。安心したよ」
「リィンさんたちを相手にそんなこと出来ませんよ。それはそうとシャーリィさん……」
セドリックの顔が険しくなる。
「本当に彼が、キリコが来ていると?」
「うん。途中でお兄さんたちと別れたみたいだから単独で動くつもりなんじゃない?」
「貴女にキリコの生存を教えられた時は驚きましたよ。しかも以前起きた魔煌機兵の暴走はキリコが原因ですって?」
「正確には、暴走に見せかけたキリコの襲撃だけどね」
「その結果、リーヴスの街は衛士隊に接収されることなく、アルノール家の名の元に保護されるようになったと」
「教えたのはあたしだけどね」
「まあ、その点は感謝してますよ。彼らは衛士隊の中でも血の気が多い者が多かったらしいですし。もっとも、これも黄昏の呪いが原因でしょうが」
「ふーん、まあいいや。それじゃあたしはランディ兄を抑えに行って来るよ」
「キリコのことは良いんですか?」
「キリコとは契約を交わしてるしさ。それは知ってるでしょ?」
(話を聞く限り、キリコは同意してないような……?)
セドリックは苦笑いを浮かべた。
「それじゃ、行ってくるね」
「分かりました。お気をつけて」
シャーリィは屋上から飛び降りた。
「じゃあ、そろそろ僕も」
セドリックは腰のサーベルを抜いた。
(キリコ、君には母上やアルフィンを助けてもらった恩がある。アルノール家の問題に巻き込んでしまった負い目がある。だが、それとこれとは別物だ)
(リィンさんやクロウさんとの相克のこともあるが、まずはキリコ。君と決着をつける!)
セドリックはサーベルを高く掲げ、決意を露にした。
次回、リィンたちは本校生徒たちと、キリコはセドリックと一戦を交えます。