英雄伝説 異能の軌跡Ⅱ   作:ボルトメン

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短めです。


矜持②

リィンたちA班はガラ湖周遊道を回り、分校の裏側にたどり着いた。

 

「今のところはバレていないみたいね?」

 

「いや……」

 

キリコはユウナの言葉を否定した。

 

「さすがキリコ。感じたか」

 

「ナインヴァリを出た辺りでしょうか?」

 

「え?え?それって……」

 

「どうやら斥候がいたようですね」

 

「本校のやつらじゃねぇよな」

 

「おそらく、赤い星座だろう」

 

「なるほど。シャーリィさんが本校に属している以上、星座の存在は十分に考えられますね」

 

「ちょっと待って、それじゃ……」

 

「ああ。僕たちのことは伝わっているだろう」

 

「今さら中止なんざ出来ねぇぞ」

 

「わかってる。今が絶好のチャンスだってことくらい」

 

ユウナは闘志を燃やす。

 

「では先に」

 

「気をつけてくれ。なるべく急ぎ足で行く」

 

「それまで時間を稼いでおきます」

 

キリコは先に農園内に足を踏み入れた。

 

「私たちも急ぎましょう」

 

「真正面から行くのか?」

 

「いや、このまま線路をつたってホームから入る。そこから校舎に突入しよう」

 

「分かりました」

 

「行きましょう!」

 

リィンたちはホームを目指して走り出した。

 

 

 

[キリコ side]

 

(ここまでは順調だな)

 

一足先に潜入した俺はワイヤーガンを使ってクラブハウス二階に入った。

 

クラブハウスはあまり重要視されていないのか、人の気配はあまり感じない。

 

(まずは屋上に出ることが先決か……!?)

 

階段の下から足音が聞こえてきた。

 

やむを得ず、文芸部の部室に身を潜めた。

 

「まったく、侵入者ごときにオタオタしよって。誉れ高きトールズの看板に傷をつける気かね」

 

神経質そうな男の声が聞こえてきた。

 

「しかも分校などという下等な場所を護れだの、もう少し皇族の威厳というものを……」

 

他に声が聞こえない以上、男の独り言のようだ。

 

だがスルーする気はない。

 

俺はわざと物音を立てた。

 

「ん!?誰かそこにいるのかね!?」

 

素頓狂な声を上げた。どうやらかなりの小心者らしい。

 

男は部室に飛び込んで来た。

 

俺はドアの陰で息を殺す。

 

「な、なんだ空耳か……まったく私ともあろ──」

 

「寝てろ」

 

「ぐう……」

 

男が背を向けた瞬間を狙い、絞め落とした。

 

男は悲鳴を上げずに気絶した。

 

俺は部室に引っ張りこんだ。

 

(身なりからして、貴族のようだな。それにしてもどこかで………ん?)

 

男の懐から何かが落ちた。

 

(これは……?)

 

落ちていたのは写真の束だった。写っていたのは踊り子のような衣装を着た女だった。

 

(ユウナが以前話していた、確かリーシャ・マオとか言う舞台女優か)

 

俺は男の体の上に写真の束を放り、屋上へと向かった。

 

[キリコ side out]

 

 

 

その頃、A班はホーム内で二人の男女と対峙していた。

 

「よお、リィン。久しぶりだな」

 

「卒業式以来ですね、リィン君」

 

「お久しぶりですね、マカロフ教官、メアリー教官」

 

リィンはかつての教官であるマカロフとメアリーに頭を下げる。

 

「教官、ということはトールズ本校の?」

 

「ああ。本校で導力学を担当されているマカロフ教官と音楽芸術を担当されているメアリー教官だ」

 

「そいつらがお前さんの教え子か。ミントが言ってた博士の弟子四号ってのは?」

 

「ティータならこちらにはいませんよ」

 

「そうか。あのラッセル博士の身内って言うから会ってみたかったが、仕方ないか」

 

マカロフは残念そうに煙草を吹かす。

 

「ミントさんともお知り合いのようですね」

 

「ああ、あいつの叔父になる。どうなんだ?あの暴走娘は」

 

「大丈夫ですよ。二日に一度はシュミット博士の雷を落とされていますが」

 

「そのとばっちりは助手や弟子に降りかかっているみたいだぜ?」

 

「はあ………」

 

アルティナとアッシュの言葉にマカロフは額をおさえる。

 

「まあまあ」

 

「それで教官、メアリー教官とはもしやアルトハイム伯爵家の?」

 

「クルト君、でしたね。やっぱり知ってるみたいですね」

 

「は、はい。アルトハイム伯爵家と言えば、セントアーク指折りの名家ですから」

 

「そ、そうなんだ……」

 

「アルトハイム伯爵閣下とお祖父様は共通の趣味のご友人だとか」

 

「あの多趣味の爺さんな」

 

「ふふ、イーグレット伯爵閣下もお元気そうで何よりです」

 

メアリーは微笑む。

 

「教官、そろそろ」

 

アルティナがリィンを促す。

 

「ああ。お二方、どうかそこを通していただけませんか?」

 

「そいつは出来ねぇ相談だな。ある人から壁の役目を任されてっからな」

 

「ある人……?」

 

「やはりシュミット博士でしょうか?」

 

「半分だけ正解です」

 

「半分……?」

 

「なるほど……」

 

リィンは納得したように笑みを浮かべる。

 

「博士とあの方による課題ですか」

 

「そう思ってくれて構わねぇ。そろそろ始めるぞ」

 

マカロフがリモコンで操作すると、二体の人型兵器が歩行してきた。

 

「なっ!?」

 

「機甲兵……!?」

 

「いえ、あれは……」

 

「魔煌機兵だ!」

 

魔煌機兵はマカロフたちの近くで停止した。

 

「新型の魔煌機兵でな、重装甲と馬力に優れるハンニバルと、高い機動力と短時間ながら飛行能力を持つモルドレッドだ」

 

「ハンニバルとモルドレッド……」

 

「ヘクトル系とケストレル系それぞれの流れを汲む機体のようですね」

 

「まあそういうわけでな」

 

マカロフは懐からカードキーを出した。

 

「アインヘル小要塞へのカードキーはここにある。欲しかったら実力を見せてみな。Ⅶ組特務科」

 

「あなた方の想い、見せてください」

 

マカロフはハンニバル、メアリーはモルドレッドに乗り込んだ。

 

「………………」

 

ユウナたちは互いに頷きあった。

 

「教官」

 

「ここは僕たちに任せてくれませんか?」

 

ユウナとクルトが決意を秘めた目をリィンに向ける。

 

「君たち……」

 

「あいつは一人で破ったらしいしな」

 

「そろそろあの人に追いつきましょう」

 

アッシュは闘志を燃やし、ミュゼは笑みを浮かべる。

 

「私のは少々運用しづらいので、皆さんのサポートをさせていただきます」

 

アルティナはクラウ=ソラスをスタンバイさせる。

 

【ほう?なかなか良い気概だな。リィン、お前さんはどうなんだ?】

 

「そうですね……」

 

リィンはユウナたちの顔を見渡す。

 

「止める理由はありません。それにもしかしたら……」

 

「教官……?」

 

(まさか……)

 

【では、決まりですね】

 

ハンニバルはメイスを、モルドレッドはライフルを構えた。

 

「アル、お願い!」

 

「了解しました」

 

アルティナはクラウ=ソラスから、ドラッケンⅢ・プロトタイプ、シュピーゲルSS試作型、ヘクトル弐型・改、ケストレルβⅡを顕現させた。

 

【行きますよ!】

 

【乗り越えさせてもらいます!】

 

【ブッ潰させてもらうぜ!】

 

【参ります!】

 

四機はそれぞれ向かった。

 

 

 

「来ましたね」

 

「……………」

 

少し前、キリコは屋上へとたどり着いた。

 

だが、そこにはセドリックではなく、本校の学院長であるベアトリクスが立っていた。

 

「セドリ……皇太子は?」

 

「殿下はこちらです。それと、いつもの通りで構いませんよ」

 

ベアトリクスは微笑みながら言った。

 

「……本校の学院長までいるとはな」

 

「殿下を始めとする生徒たちの想いに乗っただけですよ。いずれ訪れる分校生徒の皆さんの代わりにこの分校と街を守りたいというね」

 

「そうか……」

 

「では、時間もないようですし、ついてきてください」

 

「………………」

 

キリコはベアトリクスの後を黙ってついて行った。

 

 

 

「待っていたよ、キリコ」

 

「……………………」

 

キリコは練武場でセドリックと対峙した。

 

「ありがとうございます、学院長」

 

「いいえ、礼を言われることではありませんわ」

 

ベアトリクスはキリコとセドリックの間に立つ。

 

「僭越ながら、見届けさせていただきます」

 

「分かりました。キリコは?」

 

「異存はない」

 

キリコはまっすぐセドリックを見つめる。

 

「わざわざここを選ぶとはな」

 

「ギャラリーは不要だよ。君と決着をつけるにはね」

 

「あの二人もか?」

 

「ああ。エイダとフリッツは正門の方に行かせたよ」

 

セドリックもキリコを見つめた。

 

「キリコ……」

 

「………………」

 

「君には感謝しかない」

 

「………………」

 

「皇族の地位に胡座をかいて自惚れて、性根まで傲慢だった僕を、強く正しくしてくれた」

 

セドリックは微笑んだ。

 

「今思えば、呪いに侵されつつあったんだろう。もしかしたら唾棄するほど嫌なヤツになってたかもね」

 

「そうかもな……」

 

「母上とアルフィンを助けてくれてありがとう」

 

「これもけじめだ」

 

「けじめ、か。君らしいな」

 

セドリックはフッと笑い、再びキリコを見つめる。

 

「そして……本当に済まない。真実を見抜くことも出来ず、大罪人の汚名を着せてしまって………」

 

「気にしなくていい。これも俺の運命だ」

 

「キリコ………」

 

セドリックは顔を伏せる。そしてゆっくりと上げる。

 

「だが、それとこれとは別だ」

 

セドリックはサーベルを抜いた。

 

「キリコ・キュービィー!」

 

「………………」

 

「今日こそ、君を倒す。そして、君という最大の壁を越えてみせる!」

 

セドリックはサーベルを構えた。

 

「……わかった」

 

キリコは腰のホルスターからアーマーマグナムを抜く。

 

「気が済むまで付き合ってやる」

 

キリコはアーマーマグナムの銃口をセドリックに向ける。

 

「…………………………」

 

「…………………………」

 

暫し、互いに睨み合う。

 

「………………」

 

ベアトリクスは無言で手を振り下ろす。

 

「「!!」」

 

キリコとセドリックは同時に動いた。

 

 

 

[キリコ side]

 

「メルトスライサー!」

 

「くっ!?」

 

焔を纏った斬撃が胸の辺りを掠めた。

 

「ッ!」

 

「ぐっ!?」

 

隙を突いて、アーマーマグナムの引き金を引く。

 

弾丸はセドリックの肩を掠めただけだった。

 

「はあああっ!」

 

セドリックはサーベルを斜めに振り下ろす。

 

「っ!」

 

咄嗟に大型ナイフで受け止める。

 

「くっ!やるな……!」

 

「もらった」

 

「まだっ!」

 

そのままアーマーマグナムの引き金を引くが、セドリックは転がりながら回避した。

 

床を転がったためか、セドリックの制服は埃にまみれていた。

 

(やはりふっ切れている。以前のセドリックは死んだと考えるべきか)

 

「君と出会ってわかったことがある。恥や外聞なんて気にしてられないってね」

 

「あいにく、誇りや騎士道などとは無縁だからな」

 

「そうかい!」

 

セドリックはサーベルを手に突っ込んでくる。

 

俺はセドリックの動きに合わせてナイフで薙ぐ。

 

だが、それは間違いだった。

 

「かかった!!ファイアボルト!」

 

「なっ!?」

 

セドリックは至近距離で火属性アーツを発動した。

 

右腕でガードするが、爆風をまともに受けた。

 

「ぐ……!」

 

俺は回復アーツを詠唱しようとした。

 

「させない!!」

 

セドリックは連続してサーベルで切りつけてきた。

 

「ティ……ティアラ」

 

手傷を負ったが、なんとか回復に成功した。

 

「まだ終わってない!メルトスライサー!」

 

セドリックは続けて突っ込んできた。

 

俺もただでやられるつもりはない。

 

「ハンティングスロー」

 

投げナイフで反撃に出る。

 

「うっ!?」

 

五本投げたナイフの内、四本がセドリックを掠め、一本が左腕に刺さった。

 

その隙を突いて、セドリックの胸部に蹴りを叩き込む。

 

「がっ……!」

 

セドリックの体はくの字に曲がる。

 

だめ押しにセドリックの頭部を殴りつけた。

 

「がはっ……!?」

 

セドリックは大きく吹っ飛んだ。

 

「……………………」

 

俺は一旦距離を置いた。

 

「ぐっ……ま、まだだ………!」

 

セドリックはゆっくりと立ち上がる。

 

「……………………」

 

さすがと言うしかないな。

 

「まだ………終わらないっ!」

 

「来い」

 

俺は再びセドリックに接近した。

 

[キリコ side out]

 

 

 

一方、B班はランディの指揮の下、本校生徒たちの攻勢を凌いでいた。

 

「そりゃっ!」

 

「くっ!?」

 

「はあっ!」

 

「きゃっ!?」

 

ウェインとゼシカは先陣を切り、迫り来る本校生徒を押し返して行く。

 

「ティータちゃん!行って!」

 

「はい!」

 

トワとティータは後衛から二人をサポートする。

 

そしてランディは──

 

「あっはははは!さすがだねぇ、ランディ兄!」

 

「シャーリィィィィィッ!!」

 

愛用のブレードライフルのベルゼルガーを手に、シャーリィを抑え込んでいた。

 

「良いじゃん良いじゃん。ベルゼルガーも復活だねぇ!」

 

「んなこたぁどうだっていい。どうやってあの皇太子に取り入りやがった?」

 

「別に取り入ったわけじゃないよ。政府がパパと契約結んだから、その流れでね。まー派遣だよハ・ケ・ン」

 

「チッ!………それならどうして皇太子と一緒じゃねぇんだ?」

 

「お坊ちゃんがキリコと決着つけるんだってさ」

 

「なるほど、そういうことか」

 

ランディはシャーリィの言葉を飲み込む。

 

「それでさ、ランディ兄」

 

「あ?」

 

「義理の従兄弟って欲しくない?」

 

「あ!?」

 

ランディは仰天した。

 

「ふふふ、キリコならすぐにでも連隊長クラスになれるだろうしね。それとも団長直轄の特殊工作班かな?」

 

「………叔父貴はこのこと知ってんのか?」

 

「まだだよ。それよりもキリコすごいんだよ!なんか知らないけど怒ったパパの攻撃から生き延びたんだから!」

 

「マジか……」

 

ランディはキリコの能力に舌を巻いた。

 

「まあ今はいいや。そろそろ続きといこうよ、ランディ兄」

 

「ああ。曲がりなりにもここの教官だからな。力ずくでも取り戻させてもらうぜ!」

 

ランディとシャーリィは再びぶつかった。

 

 

 

B班の戦いが激化する中、A班の戦いも終盤を迎えていた。

 

【クロスブレイクⅡ!】

 

【真・双剋刃!】

 

【ランブルスマッシュⅡ!】

 

【オワゾーブルーⅡ!】

 

新Ⅶ組の乗る機甲兵の攻撃が次々と魔煌機兵にも叩き込まれる。

 

「シャドウライズ!」

 

「ロードフレア!」

 

アルティナとリィンのEXアーツが追撃する。

 

【ぐっ!】

 

【うう……】

 

ハンニバルとモルドレッドはたたらを踏む。

 

魔煌機兵の強みは黄昏の呪いを源とする魔導の力にある。

 

無尽蔵に溢れ出る魔導のによるは攻撃力の上乗せは勿論、いかなるダメージも回復させる。

 

スペックだけ見れば、機甲兵ではとても及ばない。

 

だがそれはあくまで机上のことに過ぎない。

 

魔煌機兵に対抗するために開発された、オーダーメイドの機甲兵の性能と乗り手の経験則。

 

それらが組み合わされば、たとえ格上の相手だろうと凌駕する。

 

そしてそれはキリコを含めた新Ⅶ組が体現し続けてきたことだった。

 

【みんな!これで最後よ!】

 

【【【応!】】】

 

【エクセルバースト!!】

 

ドラッケンⅢ・プロトタイプを皮切りに、シュピーゲルSS試作型、ヘクトル弐型・改、ケストレルβⅡが連携技が炸裂する。

 

連携技を受けたハンニバルとモルドレッドは後退し、膝をついた。

 

【ったく、やりやがる……】

 

【ここまでですね……】

 

マカロフとメアリーは笑みを浮かべ、操縦捍から手を離した。

 

 

 

「はあ…はあ…はあ……!」

 

「ふう……ふう……!」

 

A班が戦いに決着をつけた頃、二人の戦いもクライマックスを迎えていた。

 

セドリックは満身創痍の中、刀身にヒビが入るサーベルを強く握る。

 

キリコは疲労困憊の中、最後の弾丸をアーマーマグナムに装填した。

 

そして互いに見つめ合う。

 

(これが最後のようですね)

 

見届け人のベアトリクスは二人の動きから、限界に達していることを悟った。

 

(キュービィー君の技量は言うまでもありませんが、殿下がこれほどまでに成長なされていたとは。私もまだまだね)

 

ベアトリクスは目を瞑り、セドリックの成長を心から喜んだ。

 

 

 

(これ……で……最後……!)

 

先に動いたのはセドリックだった。

 

「っ!」

 

キリコはアーマーマグナムの銃口を向けるが、僅かにタイミングが遅れた。

 

「うああああっ!!」

 

セドリックはサーベルを斜めに斬り上げた。

 

サーベルはキリコの胸元を斬りつけた。その際に、血がキリコの目に入る。

 

「ぐっ!」

 

キリコは思わず後退した。

 

「う、うおおおっ!」

 

キリコは無我夢中でアーマーマグナムの引き金を引いた。

 

放たれた弾丸は床で弾かれた。

 

跳弾はサーベルの刀身を砕き、セドリックの肩を撃ち抜いた。

 

「ぐ……ああっ!」

 

セドリックは倒れこんだ。

 

「く……っ!」

 

キリコは目に入った血を拭い、胸元を抑えながらセドリックに一歩ずつ近寄る。

 

「………………………」

 

セドリックは肩を抑えながらキリコを見上げる。

 

「………………………」

 

キリコも同じようにセドリックを見つめる。

 

二人の顔に戦意はなかった。

 

「ここまでのようですね。この勝──」

 

 

 

『ハハハ、それはまだ早いんじゃないかなぁ?』

 

 

 

ベアトリクスが決闘の終わりを宣言しようとした瞬間、練武場に声が響いた。

 

「こ、これは……!?」

 

(この声は………まさか!?)

 

キリコが声の主を口にしようとした瞬間、キリコとセドリックの真下に魔法陣が顕れた。

 

「くっ!?」

 

「しまっ……!?」

 

キリコとセドリックは何処かへと転移して行った。

 

 

 

「……くん………くん!」

 

「うう………」

 

「……コ……リコ………」

 

「ううう…………」

 

「キリコさん!!キリコさん!!」

 

「う……あ………」

 

キリコはゆっくりと目を開けた。

 

「あ!」

 

「気がつきましたか……」

 

「お前たちか……」

 

キリコは自身を見つめる新Ⅶ組を確認した。

 

「よ、良かった~~!」

 

ユウナは安堵した。

 

「突然転移させられたかと思ったら、ここに傷を負ったキリコが倒れていたからね」

 

「転移……?」

 

「ああ。そうなんだ」

 

リィンがキリコに近寄る。

 

「教官……」

 

「応急手当ては済ませたから、とりあえずは大丈夫そうだな」

 

「はい……」

 

「セドリック殿下と戦ったんだな?」

 

「わかりますか」

 

「君の体に刻まれていたのはほとんどが刀傷だ。それも相当な手練れと戦ったことが分かる」

 

「治療は教官が……?」

 

キリコは体に巻かれた包帯を見ながら言った。

 

「いや、ユウナたちだ」

 

「そうですか。済まなかったな」

 

「ううん、気にしないで」

 

「キリコさんもⅦ組の仲間です」

 

「放っておくなんて出来ませんもの」

 

ユウナ、アルティナ、ミュゼは微笑みながら言った。

 

 

 

「それよりも、お前たちもここに転移させられたのか?」

 

キリコは周りを見渡した。

 

全体が石造りの部屋のようだった。

 

「ああ。僕たちは分校のホーム側から潜入したんだけど、そこで本校教官のマカロフ教官とメアリー教官と戦ったんだ」

 

「そいつらに勝って、シュバルツァーが小要塞に入るためのカードキーを受け取った瞬間、突然足元にな」

 

「魔法陣が顕れたというわけか」

 

キリコは顎に手をやる。

 

「そういえば、キリコさんの方はどうしたんですか?」

 

「ああ、それは──」

 

キリコはリィンたちに転移させられるまでの事を報告した。

 

「なるほど。そのようなことが」

 

「ベアトリクス学院長までいらしていたなんてな」

 

「ああ。あの神経質そうな貴族の男はわからんが」

 

(神経質そうな貴族………まさかな)

 

リィンはとある人物を思い描いたが、首を横に振った。

 

「そんで、あの皇太子と決闘したと」

 

「ああ」

 

「勝ったのか?」

 

「いや。本校の学院長が言う前に転移させられた」

 

「では、決着はついていらっしゃらないんですね?」

 

「少なくともセドリックは納得してはいないだろう」

 

「また決闘する羽目になったな」

 

「何面白そうに言ってんのよ」

 

ユウナはケラケラ笑うアッシュを咎める。

 

「その時はその時だ」

 

(僕も……いつか……!)

 

クルトは心の中で決意を固めた。

 

 

 

「それはそうと、ここはどこだ?」

 

キリコは本題を切り出した。

 

「まさか、またここに来ることになろうとはな」

 

リィンは懐かしそうに石の壁に触れる。

 

「なんだよ、来たことあんのかよ?」

 

「ですが、このような場所は帝国で該当しませんが……」

 

「アルティナが知らないのも無理はない。何しろここに来たのは君と出会う前なんだからな」

 

「アルと会う前って………結局ここはどこなんですか?」

 

「というか何で分かるんですか?」

 

「感じるんだ。姿形が変わっても」

 

『は?』

 

ユウナたちはリィンの答えに唖然とした。

 

「……どうやら答えはあそこをあるみたいですよ?」

 

ミュゼが石造りの扉を指さす。

 

「あれか」

 

「そうだな。なら聞いてくれ」

 

リィンは新Ⅶ組を向き直らせる。

 

「この先は複雑な造りになっていて、戦闘も予想される。覚悟が決まったなら──」

 

「それなら出来ていますよ」

 

「何やらおかしな気配がします」

 

「というか、こんな場所で戦闘がないなんてあり得ないでしょう」

 

「さっさと行こうぜ」

 

「私たちならば大丈夫ですよ」

 

「ああ」

 

新Ⅶ組は笑みを浮かべながら言った。

 

「そうか。わかった」

 

リィンは新も笑みを浮かべる。

 

「なら、あの扉を開けるから手伝ってくれ」

 

『はいっ!』

 

新Ⅶ組全員は力を合わせて扉を引いた。

 

扉の奥はまるで、時空がねじれているようだった。

 

「これは……」

 

キリコが何か言う前に、新Ⅶ組は吸い込まれて行った。




次回、あのダンジョンの攻略です。

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