英雄伝説 異能の軌跡Ⅱ   作:ボルトメン

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閃Ⅰのラスダン?の攻略です。


決意

「こ、これって……!?」

 

新Ⅶ組が目にしたのは、暗黒竜の寝所にも似た光景だった。

 

「教官、ここは?」

 

「かつて、本校の旧校舎地下に存在した試しの場。その最下層にあたる第七の回廊、巨イナル影の領域」

 

「以前おっしゃっていた、ヴァリマールが眠っていたという……?」

 

「ああ。だがあの時とは何かが違う」

 

「教官や先輩方が攻略された巨イナル影の領域とは異なると?」

 

「上手くは言えないが、あの時のような感じがしない」

 

「その領域そのものではないと?」

 

「おそらくな」

 

リィンは腕を組んだ。

 

「どうでもいいけどよ、何でそんな所に飛ばされたんだよ」

 

「たぶん、あの声なんじゃねぇか?」

 

「えっ!?」

 

ユウナが振り向くと、そこにはクロウが立っていた。

 

「クロウさんも転移させられたのですね?」

 

「ああ。東リーヴス街道の方で動きが見られてな。降りようと思ったら声が聞こえてきてよ、気づいたらここにいた」

 

「僕たちと同じように……」

 

「それで?どうすんだリィン」

 

「とにかく進むしかないだろうな。キリコによると、殿下も転移させられたそうだ」

 

「あの皇太子も、ね。なあリィン、ひょっとしたらこいつぁ……」

 

「断定は出来ないがな」

 

「ええっと……」

 

ユウナがゆっくりと挙手した。

 

「さっきから何の……」

 

「アホかお前」

 

「何よ!」

 

アッシュの言葉にユウナは憤慨する。

 

「あの皇子は緋の騎神持ってんだろ?ならやるこたぁ一つだろが」

 

「それは……」

 

「第二の相克……」

 

「だがわざわざここに転移させるだろうか」

 

「ここで時間を浪費しても仕方ない」

 

キリコは前に出た、

 

「まずはセドリックに会うことだ」

 

「キリコさん……」

 

「そうだな。おそらく殿下はここの最奥だろう」

 

「決まりですね」

 

新Ⅶ組とクロウはリィンを見る。

 

「では教官、お願いします」

 

「とちるなよ」

 

「ああ……」

 

リィンは前に出る。

 

「トールズ第二分校・Ⅶ組特務科、これより攻略を開始する。ここは暗黒竜の寝所に勝るとも劣らない難所だ。各々全力を尽くしてくれ!」

 

『イエス・サー!』

 

「クロウもよろしく頼むぞ!」

 

「任せな!」

 

新Ⅶ組とクロウは攻略を開始した。

 

 

 

新Ⅶ組一行が攻略を開始した頃──

 

「…………………………………」

 

「もう~、いい加減機嫌直してよ」

 

「…………………………………」

 

セドリックは腕を組み、懇願するカンパネルラに背を向けていた。

 

「邪魔したのは悪かったってば。でもそろそろ相克をやってもらわないと──」

 

「そんなことはわかってますよ。そちらのやり方に問題があるって言ってるんです」

 

「やっぱり拉致はマズかった?」

 

「当たり前です」

 

セドリックは断言した。

 

「それより、ここは何なんです?霊窟みたいな雰囲気ですが」

 

「ここはかつてⅦ組が受けた試練の場、巨イナル影の領域だよ」

 

「この場合、キリコたちⅦ組特務科ではなく、リィンさんたち旧Ⅶ組ですね?」

 

「そうなるね。ただ、全部の試練を乗り越えて、灰の騎神を目覚めさせたから領域は消えて無くなっているはずだから、ここはその幻影ということさ」

 

「なぜそんなものが顕れたんですか?」

 

「それはわからないなぁ。騎神は時に人智の及ばない力を起こすことが出来るらしいけど」

 

「……まあいいでしょう」

 

セドリックは完全には納得しなかったが、今はそれで良しとした。

 

「それじゃあそろそろ行くね。で、勝てるの?」

 

「……どうでしょうね?」

 

「ま、いーや。頑張ってね~」

 

カンパネルラはどこかへと転移して行った。

 

(やっと行ってくれたか。結社や政府の思惑がどうあれ、この闘いだけは邪魔されたくないしね)

 

セドリックは新Ⅶ組がいるであろう方角を見つめた。

 

 

 

「なんだこりゃ?」

 

攻略を開始して数分後、新Ⅶ組とクロウの一行は結果が張られた門で足止めをくらっていた。

 

辺りを捜索すると、輝く宝玉を発見した。

 

「何か彫ってありますね」

 

「これは……斜めに斬ったような形だな」

 

クルトは宝玉に彫られている意匠を見ながら言った。

 

「リィン、こいつは確か……」

 

「ああ。キリコ、ちょっと撃ってみてくれないか?」

 

「了解」

 

キリコはアーマーマグナムを抜き、宝玉めがけて撃った。

 

「!?」

 

宝玉は弾丸を弾き、ヒビすら入らなかった。

 

「う、嘘!?」

 

「オイオイ、どうなってやがる」

 

「……そういうことか」

 

周りが戸惑う中、キリコはからくりに気づく。

 

「教官やクルトの剣でなくては壊せないらしいな」

 

「その通りだ。クルト、やってみてくれ」

 

「は、はい……!」

 

クルトは双剣を構え、宝玉に斬りつけた。

 

宝玉はまるでガラスのように簡単に砕けた。

 

宝玉が破壊された直後、門に張られた結界が消滅した。

 

「こ、これは……!?」

 

「この宝玉は斬撃に対応した武具でなければ壊せない、特殊なスイッチの役割をしている。キリコの言うとおり、俺の太刀やクルトの双剣、後クロウの双刃なんかが適役だな」

 

「なるほど」

 

「斬撃以外にも存在するということですか?」

 

「そうだな。君たちの武具を鑑みるに、ユウナのガンブレイカーは射撃と突撃、クルトの双剣は斬撃と突撃、アルティナのクラウ=ソラスとキリコのアーマーマグナムは剛撃と射撃、アッシュのヴァリアブルアクスは斬撃と剛撃を兼ねている。ミュゼの魔導騎銃は射撃に特化しているようだな」

 

「ふふ、そう言われればそうかもしれませんね」

 

ミュゼは魔導騎銃を手に微笑む。

 

「とりあえず、宝玉が出てきた時は彫ってある意匠を確かめないとな」

 

「メンドくせぇな」

 

「文句言わないの」

 

「さっさと切り抜けるぞ」

 

新Ⅶ組とクロウの一行は攻略を再開した。

 

 

 

「………………………」

 

「………………………」

 

セドリックは緋の騎神テスタ=ロッサと向かい合っていた。

 

「テスタ=ロッサ……」

 

「………………………」

 

セドリックは物言わぬテスタ=ロッサに話しかける。

 

「僕は勝ちたい。キリコにも、リィンさんにも」

 

「………………………」

 

「だけど……未だ背中が見えない」

 

セドリックが顔を伏せる。

 

「理由ははっきりしてる。僕だって道化じゃない。いくら君が凄かろうと………肝心の僕は二流だってことだ」

 

「………………………」

 

「宰相閣下やアリアンロードさんは言うに及ばず。クロウさんやルトガーさんのように実戦に揉まれてきたわけでもなし。リィンさんやルーファスさんのように実力でのしあがってきたわけでもない」

 

「僕はエレボニア皇族という恵まれた地位に生まれた。それこそが僕の実力だと錯覚し、当然の権利だと言わんばかりに他人に強要してきた。そんなものは、本当の実力とは呼べないのにね……」

 

セドリックは自嘲という笑みを浮かべる。

 

「僕はいったい……何なんだろうね………」

 

「……私も道化ではない」

 

突然、テスタ=ロッサが声を発した。

 

「テスタ=ロッサ……」

 

「ずっとそなたを見てきた」

 

「あの異能者に敗れてから、表でどれほど優雅に振る舞おうとも、陰では独りで壮絶な修練を重ねてきた」

 

「………………………」

 

「案ずるな。私の役目は相克の完遂。だがそれ以上にそなたを護ることだ」

 

「護る……」

 

「これも我が友……ヘクトルとの約束ゆえに」

 

「ヘクトルⅠ世と……?」

 

「いまわの際に託された。我が子孫が迷い、苦しみもがく時、友として手を差し伸べてくれとな」

 

「あ………」

 

セドリックの目から熱いものが流れた。

 

「今はただ待とう。我らが好敵手の到着を」

 

「うん……うん!」

 

セドリックは初めて、緋の騎神テスタ=ロッサと心を通わせることが出来た。

 

 

 

「業刃乱舞!」

 

「ディスペアースロー!」

 

「起動、フラガラッハⅡ!」

 

「ブレイブスマッシュⅡ!」

 

「ペンタウァショット!」

 

「無月一刀!」

 

「クイックバーストⅡ!」

 

数々の障害を突破した新Ⅶ組とクロウの一行は、行く手を阻む大型の魔獣と戦っていた。

 

岩石を削り出したような魔獣は、その圧倒的なタフネスを武器に暴れ回る。

 

だが知力とスピードが欠けていると見抜かれ、新Ⅶ組とクロウの一行はバラけて攻撃を仕掛けることで的を絞らせないようにしていた。

 

策は効を奏し、魔獣の攻撃は当たることはなかった。

 

「リードスナイプ」

 

キリコの新しいクラフト技が放たれた。

 

攻撃を受けた魔獣のバランスが崩れる。

 

「ここだ」

 

『おおっ!!』

 

キリコの合図と共に、新Ⅶ組とクロウは一斉攻撃を叩き込む。

 

一斉攻撃を受けた魔獣が断末魔の悲鳴とともに消滅した。

 

 

 

「はぁ~……」

 

戦いを終え、ユウナは疲労から思わず座りこんだ。

 

「さすがにしんどいですね……」

 

「さっきから中型~大型の魔獣が多いですね」

 

「俺たちもそうだったよ。進めば進むほど今みたいな魔獣が待ち受けていた」

 

「マジで勘弁しろよ……」

 

アッシュはげんなりした表情を浮かべる。

 

「それはそうとキリコさん、先ほどの狙撃お見事でした」

 

「確かに。あの距離で仕留めるとは」

 

「50アージュはあったんじゃないか?」

 

「大した距離じゃない。ジオフロントの方が倍以上あった」

 

「単純に言って100アージュ以上ですか」

 

「確か、マヤに教わったんだっけ?」

 

「ああ」

 

キリコはスナイパーライフルを折り畳む。

 

「これでキリコは近・中・遠距離どれも対応できるというわけか」

 

「死角なしですね」

 

「ケッ!」

 

「まあまあ。そろそろ出発しよう」

 

「いよいよ皇太子殿下にお目見えというわけですね」

 

「いや?まだまだ奥だぞ?」

 

『え!?』

 

クロウの言葉にユウナたちは一斉に振り向く。

 

「残念ながらクロウの言うとおりだ。この先は今までとは異なった造りになっている。気を引き締めて………大丈夫か?」

 

『………………………』

 

ユウナたちは呆然となった。

 

「どうせ奥に行く。なら進むだけだ」

 

キリコは軽く体を捻り、出発の準備を完了させる。

 

「さ、さすがキリコ君……」

 

「この切り替えの速さは見習わないとな……」

 

「ドライ過ぎかと」

 

ユウナたちは苦笑いを浮かべた。

 

「ま、行くしかねぇか」

 

「そうですね」

 

「それじゃあ、行こう」

 

新Ⅶ組とクロウの一行は出発した。

 

 

 

「よお、元気そうだな」

 

「……今度は貴方ですか」

 

セドリックは転移してきたマクバーンに話しかけられた。

 

「何睨んでやがる」

 

「睨みたくもなりますよ。突然連れて来られたんですから。貴方のお仲間にね」

 

「……正直あいつの仲間扱いは心外なんだが、まあいい。それより気づいてるか?」

 

「さっきから感じる鼓動のようなものですか?」

 

「ああ。闘争の気配がビンビンきやがる」

 

マクバーンの体から焔が漏れだす。

 

「ストレス発散なら他でやってもらえるとありがたいんですけど」

 

「ああ。ここじゃやらねぇ」

 

「え……?」

 

セドリックは意外そうな顔をした。

 

「鋼からもキツく言われてんだよ。相克には関わるなってよ」

 

「そうだったんですか。でもそれって逆に言えば……」

 

「ああ……それ以外ならな……!」

 

「っ!」

 

マクバーンから焔が噴き出す。

 

「ま、今回は手は出さねぇ。気分も乗らねぇしな」

 

「……ふう………」

 

セドリックは安堵のため息をついた。

 

「貴方も狙いはキリコですか?」

 

「クク、否定はしねぇ。あの根源から相当怨まれているみたいだしな」

 

「根源……そうですか」

 

セドリックの眼は冷ややかなものになる。

 

「聞けば、あの人はキリコから怒りを買っているそうじゃないですか。単なる逆怨みでしょう」

 

「ハハハ、だな」

 

マクバーンは可笑しそうに嗤った。

 

「んじゃ、そろそろ行くわ」

 

「帰られるんですか?」

 

「ああ。殺り合うなら……もっと楽しめる所でな……!」

 

「っ!」

 

セドリックは再び息をのむ。

 

「ククク……」

 

マクバーンは転移して行った。

 

「ふう……本当に何しに来たんだろ?」

 

セドリックは冷や汗を拭った。

 

 

 

「ったく、メンドくせぇったらありゃしねぇ」

 

新Ⅶ組とクロウは中盤に差し掛かろうとしていた。

 

その途中、結界が四つの分割されて張られた門の前で止まった。

 

さらに奥へと進むべく、新Ⅶ組とクロウは

 

「文句を言うな。四つの障壁を解かなくては先に進めないんだ」

 

「わーってるつーの」

 

「二人とも、言い争ってる場合じゃないでしょ」

 

ユウナがクルトとアッシュを窘める。

 

「今度はあの蛇みたいな魔獣か」

 

「そのようですね。動きは速くありませんが」

 

「分析結果、水と風属性が弱点です」

 

キリコとミュゼとアルティナはスイッチの前で立ちはだかる大蛇型の魔獣を分析する。

 

「教官、さっさと倒しちゃいましょう」

 

「ああ。行くぞ、Ⅶ組特務科」

 

『イエス・サー!』

 

「元気だねぇ」

 

新Ⅶ組とクロウは戦闘を開始した。

 

 

 

一方、その頃

 

「……遅い」

 

アインセル小要塞には、本校生徒たちをあらかた無力化させたB班、ベアトリクスを始めとする本校教官、そしてG・シュミット博士が顔を合わせていた。

 

その中で、シュミット博士が不機嫌な顔をしていた。

 

「元弟子2号」

 

「……ウス」

 

マカロフが頭を掻きながら返事した。

 

「貴様は本当にシュバルツァーらと戦ったのだな?」

 

「ええまあ。突然消えましたが」

 

「フン、魔女か結社かは知らんがやってくれたな」

 

(何で説明だけでそう読めるんだ?)

 

(さ、さあ……?)

 

「さて、オルランドとハーシェル」

 

「「!」」

 

ランディとトワは姿勢を正す。

 

「シュバルツァーらが見つかるまで好きにしているがいい」

 

「好きに……ですか?」

 

「LV.Xの調整がまだ済んどらんのでな。それと──元弟子2号」

 

シュミット博士は再びマカロフの方を向く。

 

「何をぐずぐずしておる。さっさと配置につかんか」

 

「やれやれ、相変わらずですな」

 

マカロフは苦笑いを浮かべる。

 

「い、良いんですか?」

 

「ぶっちゃけ、ティオすけとエリゼちゃんとティータが居りゃあ事足りるんじゃないっすか?」

 

「LV.Xは色々と細かい調整がいる。忌々しいが、奴の手腕が必要なのでな」

 

「い、忌々しいって……」

 

「あ~、良いんだ良いんだ。付いてけなかったのは事実だからな」

 

マカロフはオペレーター室に向かった。

 

「それにしても、マカロフ教官とメアリー教官、それにベアトリクス教官にお会いするなんて」

 

「ふふ、ハーシェルさんもお久しぶりですね」

 

「貴女を教えていたことが昨日のように感じられます」

 

「学院長さんはキリコに会ったんすね?」

 

「ええ。殿下にぜひ連れて来てほしいと頼まれましたので」

 

「その後、キリコ君と殿下が戦い、そして消えたということでしょうか」

 

「はい……」

 

ベアトリクスは自身の胸に手を当てる。

 

「リィンたちと合流できてりゃ良いんだが」

 

「とにかく、今は出来ることをやりましょう」

 

「はい。私たちは小要塞でリィン君たちを待ちます」

 

「衛士隊が来ないとは言え、ブラブラしてるわけにもいかねぇしな」

 

「わかりました。気をつけてくださいね」

 

「ええ。ただ……」

 

ベアトリクスは困ったような顔をした。

 

「どうかしましたか?」

 

「実は、教頭も来ているのですが……」

 

「教頭が?」

 

「貴女たちが来る少し前に報告を受けたのですが、クラブハウス棟で失神していたとそうなのです」

 

「さ、さあ……?」

 

「俺らにはわかんないっすね……?」

 

「そうですか。今は保健室で寝かされているようなので様子を見に行ってきましょう。メアリー教官、貴女は生徒たちにアイゼングラーフ号に集まるよう呼びかけてください」

 

「わ、わかりました……!」

 

ベアトリクスとメアリーは小要塞を出て行った。

 

「ランディさん……」

 

「十中八九あいつだな……」

 

 

 

「や、やっと揃った……」

 

「さすがに疲れました……」

 

ユウナとアルティナとミュゼの顔に疲れが見てとれた。

 

「お疲れ。少し休んでいこうか?」

 

「いえ、大丈夫です」

 

「まだ動けますので」

 

「時間も惜しいですので」

 

三人は呼吸を整え、笑みを浮かべる。

 

「無理はしないようにな。キリコたちも大丈夫か?」

 

「ええ」

 

「大丈夫です」

 

「後、ちっとだろ?」

 

「ああ。みんなも良く頑張ってくれた。クロウもお疲れ」

 

「おう。リィンも鬼の力のコントロールも出来つつあんじゃねぇか?」

 

「前に比べればな。それでも暴走状態に陥ってしまうが」

 

「対策は万全なんですが……」

 

「まあとにかく、今は置いておいていいだろう。それよりそろそろ行こう。もう一踏ん張りだ」

 

「ええ。急ぎましょう」

 

クルトは闘志を燃やす。

 

「クルトさん、気合いが入っていますね」

 

「ヴァンダール家の誇りとやらか?」

 

「ああ。でもそれだけじゃない」

 

クルトはキリコの方を向く。

 

「殿下がキリコを追うように、僕は殿下の背を追ってきた。あの方の隣に立つために」

 

「クルト君……」

 

「なら急がないとな」

 

「教官……」

 

「その想いの丈をぶつけるといい。殿下もきっとわかってくださるだろう」

 

「っ!はいっ!」

 

「んじゃ、行くか」

 

新Ⅶ組一行は最後の攻略にのり出した。

 

 

 

[クロウ side]

 

(なーんか懐かしいな……)

 

リィンと後輩どもと一緒に影の領域もどきの攻略を開始してからそれなりに経つが、俺の胸に懐かしさがこみ上げてきやがった。

 

あん時は周りにバレねぇように素性を悟られないようにしてたが、ヴァリマールが出てきた時はさすがにおったまげた。

 

黒のアルベリヒ曰く、ヴァリマールは俺のオルディーネと猟兵王のゼクトールと同レベだと言う。

 

俺が二度もリィンに勝てたのは経験の差があったからだ。

 

だが、あの内戦ですさまじい戦いを経て、成長したリィンとヴァリマールが最後に勝った。

 

まあ、それについては文句はねぇ。

 

(問題はあの皇子か……)

 

クルトによると、皇子が変わったのは内戦の後らしい。

 

煌魔城の最上階で千の武器を持つ魔神となったテスタ=ロッサに最後の一撃をくらわせるために、俺はリィンの道を拓いた。

 

その最中、テスタ=ロッサの尾がオルディーネを俺ごと貫いた。

 

その時点で皇子はまだいたはずだ。

 

つまり、意識がなかったにせよ、俺は皇子に殺されたことになる。

 

(もしかすると、その罪悪感かもしれねぇな。強くなりてぇってのは)

 

だとするなら、俺にも責任は降りかかることになっちまう。

 

それもいい。どーせ最後は消えるんだからよ。

 

でもよ………

 

どこまでも往生際が悪ぃこいつらを見てっと、決意が揺れちまいそうになる。

 

(ああ……ちきしょう………!)

 

やっぱ……消えたくねぇなぁ………

 

そんなことを思ってると、俺らの前に魔甲兵が二体顕れやがった。

 

仕方ねぇ、ここは……!

 

「来な、オルディーネ!」

 

リィンやこいつらはまだまだ温存してもらわねぇとな!

 

俺はオルディーネに乗り込み、魔甲兵を得物ごと吹っ飛ばす。

 

(最期まで付き合わせてもらうぜ!リィン!)

 

[クロウ side out]

 

 

 

「待ってましたよ、リィンさん。それにⅦ組特務科のみんな」

 

最後の回廊を抜けた新Ⅶ組とクロウは、最奥でテスタ=ロッサと並び立つセドリックと対峙していた。

 

「まさかクロウさんもいらっしゃるとは思いませんでしたが」

 

「ああ。今の俺はリィンの眷属って扱いらしいからな」

 

「眷属?」

 

「ええ。実は──」

 

リィンはセドリックに第一相克の出来事を語った。

 

「そんなことが……」

 

セドリックはなんとか飲み込んだ。

 

「ですが僕は不死者ではありません。その場合、どうなるんだ?テスタ=ロッサ」

 

「仮に敗北した場合、我は灰の一部として取り込まれる。その瞬間、そなたは起動者の資格を喪失する」

 

セドリックの問いにテスタ=ロッサはゆっくりと答えた。

 

「資格を喪失……」

 

「つまり負ければ殿下は……」

 

新Ⅶ組は二の句が継げずにいた。

 

「まあ、負けなければいいだけの話さ。場の空気は温まりきっているしね」

 

「うむ」

 

テスタ=ロッサがそう口にした途端、足元が輝き出した。

 

「なっ!?」

 

「闘ってもいないのに!?」

 

「……そういうことでしたか」

 

狼狽えるクルトたちとは対照的に、リィンは落ち着きを払っていた。

 

「闘争の熱気は俺ん時以上………なるほど、こいつぁ……」

 

「既に済んでいたか」

 

クロウとキリコもリィンと同じ結論に達していた。

 

「す、済んでいたって……!」

 

「いったい何時……」

 

「なるほど……」

 

答えが視えたミュゼは微笑んだ。

 

「私たちがこれまで戦ってきた魔獣。それらが闘争の場を温める役目をしていたのでしょう」

 

「マジかよ」

 

「ミルディーヌさんの言うとおりさ。出来ることならリィンさんたちの立場に立ちたかったけどね」

 

「それこそ陛下やアルフィン殿下に会わせる顔がありませんよ」

 

リィンはセドリックの言葉に冷や汗をかいた。

 

「フフ、もう少し冷や汗をかいていただきましょう」

 

セドリックはフッと笑い、テスタ=ロッサの中に入る。

 

「殿下……」

 

「やはりこうなりますか……」

 

【リィンさん、いやリィン・シュバルツァー!そしてⅦ組特務科!貴方たちに決闘を申し込む!】

 

セドリックは毅然と吼えた。

 

「……やるしかねぇか」

 

「それしかないみたいね……!」

 

「アルティナさん、機甲兵を──」

 

「待ってくれ!!」

 

アルティナがクラウ=ソラスを出し、機甲兵を出そうとしたところをクルトが止めた。

 

「クルトさん……」

 

「僕に、行かせてほしい……!」

 

クルトの表情は真剣そのものだった。

 

「出来んのか?」

 

アッシュはクルトの顔を睨む。

 

「……………………」

 

クルトは頷いた。

 

「……へっ、前みてぇなツラ見せたらブン殴ってたぜ」

 

アッシュは頭の後ろに手をやり、ニヤリと笑った。

 

「決まりですね」

 

ミュゼは微笑んだ。

 

「頑張って!」

 

ユウナは胸の前で拳に握る。

 

「任せる」

 

キリコはクルトを真っ直ぐ見た。

 

「では、クラウ=ソラス!」

 

クラウ=ソラスからシュピーゲルSS試作型を出した。

 

「後はリィンだな」

 

「クロウはやはり……」

 

「ああ。ちっとばかし無理し過ぎた」

 

「すまない……」

 

「んなこと気にする暇があんなら呼べよ。お前こそ油断すんなよ」

 

「わかった。来い、ヴァリマール!」

 

リィンは拳を高く掲げる。

 

その瞬間、リィンの目の前にヴァリマールが顕れる。

 

リィンはヴァリマールに乗り込んだ。

 

 

 

【どうやら揃ったようですね】

 

セドリックはヴァリマールとシュピーゲルSS試作型を見る。

 

【ええ。ここは俺とクルトで行かせていただきます!】

 

【クルト、ですか。良いんですか?彼一人で】

 

【以前の僕と思わないでください】

 

クルトはセドリックの挑発とも取れる言葉を受け流した。

 

【以前の僕は、ただ貴方の後ろで控えるだけで満足感を得ていました】

 

【………………】

 

【ですが、それは僕自身の力じゃない】

 

【………………】

 

【多くの経験の経て、僕は剣の在り方を見出だすことが出来ました。この世界の危機において今こそ、ヴァンダール流双剣術の、僕自身の剣の在り方を見せる時だと!】

 

【………………】

 

【セドリック・ライゼ・アルノール!ヴァンダール家のクルトとしてではなく、只のクルトとして、貴方に勝つ!】

 

迷いを振り切ったクルトはセドリックを真っ直ぐ見る。

 

【……ありがとう、クルト】

 

【殿下……】

 

【僕はその言葉を、ずっと待っていたのかもしれないな】

 

セドリックは一瞬微笑み、直ぐに真剣な顔に戻る。

 

【もう言葉はいらない。行くぞ!!】

 

テスタ=ロッサはサーベルを構え、突進する。

 

【行きましょう、教官!!】

 

【ああ!!】

 

シュピーゲルSS試作型とヴァリマールも双剣と根源たる虚無の剣を構え、突進した。

 

第二の相克の火蓋が切って落とされた。

 




次回、第二相克です。


リードスナイプ

CP50

スナイパーライフルによるクラフト技。キリコのクラフト技の中で最も射程が長い。

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