「これは……」
アインセル小要塞に入った新Ⅶ組は、指定通りエレベーターの前に立った。
そこには、LV.Xという表示があった。
「LV.X?」
「またあからさまな名前だな」
「というより、いつの間にこんなものを……」
「キリコ君、知ってた?」
「いや、俺も知らなかった」
「私たちと合流する前もですか?」
「あの日以来、顔を合わせていなかったからな」
「あ………」
キリコのあの日という言葉に、ミュゼたちは何も言えなかった。
「そんな顔をするな。シュミット博士が何をしていようとどうだっていい」
「キリコさん……」
「まあ、そうですね」
「確かにどうだっていいわな」
「みんな言いたい放題だな。とにかく、行ってみよう」
新Ⅶ組はエレベーターに乗り込み、LV.Xの階層に降りる。
『遅い。予定時間の10分押しだ』
LV.Xの階層に降りて早々、新Ⅶ組はモニターに映ったシュミット博士の小言を受けた。
「仕方ないじゃないですか!こっちは相克の直後だっていうのに!」
『そんなことは私の預かり知らんことだ。さっさと準備しろ』
シュミット博士は不遜な態度を崩さずに言った。
「~~~ッ!」
ユウナ歯ぎしりするほどの怒りを覚えた。
『まあまあ。画面越しですが、お久しぶりですね、皆さん。それにユウナさんも来てくれてありがとうございます』
「そんなの当然じゃないですか!本当に、無事で良かった……!」
ユウナは涙ぐんだ。
『兄様、皆さん。ご無沙汰しております。ミュゼも無事で良かった……』
「エリゼさんもお久しぶりです」
「先輩もご無事で何よりです」
『そしてキリコさん、夏至祭以来ですね』
「………………」
『トワさんやランディさんから聞きました。危険を省みず、皇妃様や姫様を助けていただいたと聞いております』
「アルフィン皇女の件は教官たちがしたことだ」
『それでも、お礼を言わせてください』
エリゼは立ち上がり、キリコに頭を下げた。
「エリゼ……」
「………………」
『そろそろ始めさせてもらおうか』
突如、シュミット博士の声が響く。
『は、博士!?』
『Ⅶ組は速やかにLV.Xに入れ。これは最終的な試験になる』
「試験?」
『将軍からの言伝てだ。これより帝国を覆う呪いを撃ち破るならば、最終試験を突破し、Ⅶ組の意地と覚悟を示してみせよとのことだ』
「分校長……」
「わざわざ僕たちのために……」
『元弟子二号と弟子四号はルートのサポート。プラトーとシュバルツァーはバックアップだ』
『了解』
『は、はい……!』
『頼りにしてます、エリゼさん』
『よろしくお願いいたします』
四人はコントロールパネルに向かった。
『これより、アインヘル小要塞での最終試験を始める』
シュミット博士の言葉を最後にモニター画面が暗くなった。
「……行くか」
「ボサッとしてる暇ねぇなこりゃ」
「そうですね」
「文句言ってやんなきゃ気がすまないわね」
「幸い回復装置もある。これに触れてから行こう」
「ついでにARCUSⅡも見直しましょう」
新Ⅶ組はそれぞれ攻略の準備を進める。
[ユウナ side]
数分後、準備を終えたあたしたちは扉の前で整列した。
「準備万端のようだな?」
「はい!いつでも出発出来ます!」
「ユウナさん、その前に」
アルがリィン教官の方を向く。
「いつものお願いします」
「やはりあれがなくては始まりませんから」
ホントそうよね。
「頼むぜ、シュバルツァー」
「わかった」
リィン教官は咳払いをした。
「これよりアインヘル小要塞LV.Xの攻略を開始する。この最終試験で彼らに示すぞ──俺たちの〝意地〟と〝覚悟〟を!!」
『おおっ!!』
絶対にクリアしてみせるんだから!
[ユウナ side out]
「始まりましたね」
オペレーター室では、ティオたちがLV.Xの設定を組んでいた。
「以前オペレートした時とは比べ物にならないセッティングになっているみたいですね」
「確かに、学生にやらせるレベルじゃないな。まあ、Ⅶ組なら乗り越えられるというのが念頭にあるんだろうが」
「教官とキリコさんもいますし、無策でということはないと思います」
「……フン」
シュミット博士は鼻を鳴らす。
「博士?」
「確かにキュービィーでは少々物足りないか」
「はい?」
「弟子四号、今から言うデータを打ち込め」
「は、はい……」
ティータは言われるがままに、シュミット博士の言うデータをコントロールパネルに打ち込む。
「て、博士!?これって……!?」
「な、なんですかこれは……!?」
「よくこんなものを思いつきますね……」
「やれやれ、あいつら大丈夫か?」
[クルト side]
「これがLV.Xか……!」
「今までと比べ物になりませんね」
「徘徊している魔獣に人形兵器も手強い。みんな、薬の残数とEPには気を配るようにな」
「とにかく、進みましょ」
「待て」
キリコがユウナ待ったをかけた。何か感じたようだ。
「どうした?」
「この先を見てみろ」
キリコが前方を指さす。
そこは、広い造りになっており、さらに行く手を阻むようにシャッターが閉じていた。
「魔獣なんかは見えないけど……」
「ここは何でも疑え」
「おいおい、ビビっちまったのかよ?」
「……かもな」
どうやら本当に何かあるみたいだ。
「とにかく進みましょ。魔獣の出現に気をつけながらね」
「そうですね」
「……………………」
僕たちは広い部屋に足を踏み入れる。
「な~んだ、何もないじゃ──」
「待てユウナ!」
リィン教官が止めようとしたが遅かった。
突如、広い部屋全体が青い光の流れに包まれる。
「これは!?」
「トラップか!」
「それだけではありません!」
さらに奥から人形兵器の大群がやって来た。
「マズイな」
「ここで人形兵器かよ!」
「それだけじゃない。アルティナ、サーチしてみろ」
「は、はい」
キリコの指示でアルティナはクラウ=ソラスを出し、僕たちをサーチした。
「これは……!?」
「どうしたの!?」
「EPがどんどん吸いとられています!」
「なんだと!?」
なんて物を作ったんだあの人は!?
「早く解除しないと!」
「ですが、簡単にはいかないようです」
人形兵器たちは、コントロールパネル前を陣取っていた。
「コイツら……」
「倒さないといつまで経っても解除出来ないというわけか!」
「行くぞっ!」
『おおっ!』
僕たちは戦闘に突入した。
[クルト side out]
「シュミット博士!!」
オペレーター室では、トワがシュミット博士に食ってかかっていた。
「EP吸収フィールドなんて何を考えているんですか!?」
「これは最終試験の範囲内だ。これくらい突破出来なければそれまでだ」
「だからと言って……!」
「解除しない限りEPを根こそぎ吸い取っちまうのか。アーツが得意なやつにはキツいな……」
「ご、ごめんなさい……」
「ティータさんのせいではありませんよ。それに冷たいようですが、これも試験だと思います」
「ティオ主任……」
「大丈夫です。兄様や皆さんならばきっと乗り越えられます。これまで何度も窮地を乗り越えてこられた〝Ⅶ組〟なら……!」
「エリゼちゃん……」
「クク……シュバルツァーの妹の方がしっかりしてるな。おっ、解除に成功したみたいだな」
マカロフはモニター画面を見つめた。
[アルティナ side]
「はあ…はあ…はあ……!」
「どうやら解除出来たみたいだな」
「な、なんとか……」
「ユウナさん、お疲れ様でした」
「それにしても手の込んだ仕掛けだな……」
わたしたちが戦っている隙を突き、キリコさんがコントロールパネルを操作しようとしました。
ですが、画面には『ユウナ・クロフォード』という文字しか映らず、キリコさんでは操作が不可能でした。
急遽、キリコさんはユウナさんと交代し戦闘に参加しました。
人形兵器の増援が来ないうちにユウナさんは手こずりながらもコントロールパネルを操作し、特殊トラップをなんとか停止させました。
また、停止と同時にシャッターが開きました。
「操作する相手まで指定するとは……」
「それも含めての最終試験というわけか」
「と、とりあえず試験は合格かしら……?」
『ギリギリ及第、といったところだ』
広い部屋にシュミット博士の声が響きます。
『コントロールパネルまでの時間、解除までの時間。どれを取っても遅いと言わざるをえん。これが爆発物だった場合、全員死亡は十分に考えられる』
「そ、それは……」
確かに、シュミット博士の言い分は正しいのですが……
『まあいい。このような特殊トラップはいくつか用意されている。せいぜい一人の失格者を出さんことだな。次に期待する』
そう言ってシュミット博士の声は途切れました。
「まだあんのか……」
「何が出てきても不思議じゃない」
「ともかく、まずは回復いたしましょう」
ミュゼさんは持っていたEPチャージⅡを全員に渡しました。
「ありがとうございます」
「それにしても、解除者の指定は盲点だったな」
「キリコ君に頼っていたことが裏目に出たってわけね」
「おそらく、キリコさんは特殊トラップ解除要員には入っていないはずです。私たちで解かなくてはならないでしょう」
「ならその分、俺は戦闘に力を入れる」
「任せたぜ」
アッシュさんは両手を頭の後ろで組みました。
「いや、楽していいわけじゃないからな?」
「……チッ」
「その舌打ちはなんなのよ」
アッシュさんの感情が駄々漏れです。
「全員でクリアしてこそ、合格だと思いますよ?」
「わーってるよ」
「ほら、そろそろ出発するぞ。総員、くれぐれも見落としのないようにな」
わたしたちは攻略を再開することにしました。
[アルティナ side out]
しばらく進むと、新Ⅶ組はこれまでとは違った造りの宝箱を発見した。
宝箱を開けると中には、ゴーグルのような物が入っていた。
「何、これ?」
「暗視ゴーグル、か?」
「なんでこんなのがあんだよ?」
「おそらく、この先に暗闇のフィールドが仕掛けてあるんだろう」
「そのための暗視ゴーグルというわけですか」
「……いや」
キリコが待ったをかける。
「あからさま過ぎる」
「あからさま過ぎるって、まさか?」
「その気にさせといて全然別のトラップが待ってるってか?」
「ありそうですね……」
「ほんっと良い性格してるわ!」
「今さらですね」
アルティナはため息をついた。
「とりあえずコレ、誰がつけるの?」
「キリコとユウナとアルティナは外して良いだろうから、僕かアッシュかミュゼかな?」
「え、なんであたしも?」
「ユウナさんは既に終わられていますもの。アルティナさんは確か……」
「はい。クラウ=ソラスの暗視モードでどうにかなります」
「そっちは大丈夫だな」
「なら、ここは私がつけましょう」
ミュゼが挙手をした。
「確かに、魔導騎銃を使うミュゼなら対処しやすいか……」
「なら、最後尾で指揮してくれ」
「はい、お任せください!」
「決まったな。それじゃ、出発しようか」
『イエス・サー!』
リィンたちは歩き出した。
キリコの予想は外れた。
新Ⅶ組が広い部屋に入った瞬間、部屋は暗闇に包まれました。
ミュゼは即座に暗視ゴーグルを装備し、アルティナはクラウ=ソラスの暗視モードを起動した。
「ユウナさんとキリコさんは10時の方向に発砲、アッシュさんは1時の方向に仕掛けてください!」
「教官とクルトさん、12時の方向に向けて斬撃を放ってください!その方向にブリューナクⅡを撃ちます!」
「オッケー!ジェミニブラストⅡ」
「アーマーブレイクⅡ」
「真・緋空斬!」
「ディスペアースロー!」
「真・双剋刃!」
「ブリューナクⅡ、照射!」
ミュゼとアルティナの指揮の下、新Ⅶ組メンバーがそれぞれ動いた。
その結果、新Ⅶ組は視覚のハンデを物ともせず、人形兵器との戦闘に勝利しました。
「ふう、なんとかなったか」
「……………………」
キリコは腕を組んだ。
「キリコさんの予想、外れましたね」
「裏読みし過ぎたようだ」
「いえいえ、キリコさんが悪いわけではありませんよ」
「だが……」
「いいえ、博士が疑われるようなことをなさるからいけないんです。普段から謙虚に振る舞っていればこんなことにはならないんです」
(ミュゼ、ほんと容赦ないわね)
(キリコさんが少しでも関わるとこうですね)
(もっと女郎蜘蛛みてぇな掴みにくい奴だったと思ってたんだけどよ……)
(もしかしたら、こっちが素のミュゼなのかもな。それだけカイエン公の名は重いということか)
ユウナたちは黙ってキリコとミュゼのやり取りを見守る。
「二人とも、盛り上がってる所悪いがそろそろ行くぞ」
「あ、了解です教官」
(なんでこんな時だけ気づくんだこの人は……)
(本当に後ろから刺されそう……)
(該当者足り得る方は多そうですね……)
(たいがいにしやがれよマジで……)
ユウナたちは揃ってため息をついた。
[ミュゼ side]
その後、私たちは陣形を崩さないように暗闇の中を進み、数分歩いた末、コントロールパネルを発見しました。
画面には『ミュゼ・イーグレット』と表示されました。
忌憚なく操作し、特殊トラップの解除に成功しました。
解除した瞬間、部屋全体に明かりが灯りました。
「うーん、眩しい~」
ユウナさんは目をこすります。
「暗闇に目が慣れたところだったからね」
「目がチカチカします」
「とりあえず、ここは合格だろ」
『フン、まあ良いだろう』
シュミット博士のお声が響いてきました。
『解除にかかる時間も上々。戦闘時における動きも悪くない。合格点をやろう』
「お粗末様です」
ああ、あのお顔に往復の平手打ちをしたい気分です。
そんな思いを隠して、シュミット博士の話を聞きます。
『前半はここまでとする。次の中間は魔獣と人形兵器の戦闘レベルの向上、後半はさらに地形変化を盛り込む。せいぜい足掻いてみせろ』
通信は途切れました。
「敵はさらに手強くなるようだな」
「加えて地形変化か……」
「さらに頭を使う状況になりそうですね」
「ここまできたら何でも来いだろ」
「アッシュさんの言うとおりかと思います」
「ならさっさと行くか」
「よーし、待ってなさいよ!」
私たちは気合いを入れ、さらなる攻略に進みます。
[ミュゼ side out]
「ここまではベストタイムですね」
ティオは新Ⅶ組のタイムをまとめた。
「さすがⅦ組の皆さんですね」
「リィンも上手く立ち回ってるな。あくまで生徒主体での攻略になるようにな」
「兄様……」
「ふふ、リィンさんが心配?」
「え!?」
エリゼが振り向くと、聖アストライア女学院の制服を着たアルフィンが立っていた。
「ひ、ひ、姫様!?」
「ごめんなさい、エリゼ。リィンさんたちに無理を言って連れて来てもらったの」
「い、いえ……それはわかりましたが……」
「ふふ……」
アルフィンはエリゼを抱き締める。
「姫様……」
「本当に……無事で良かったわ………私の大切な親友……」
「……はいっ!」
エリゼも強く抱き締める。
「グスッ……良かった……!」
「うん。本当に良かったね」
ティータとトワは涙ぐむ。
「へへ……」
「エリゼさんにも笑顔が戻って良かったです」
「そうなのか?」
「どこか張りつめたような、無理をしている感じでした。ですが、これでもう安心ですね」
「なら皇女にも協力してもらおうか」
「え!?」
いつの間にかシュミット博士が立っていた。
「シュバルツァーの妹の補助に入ってもらう。作業効率は上昇するはずだ」
「いやいやいや!そりゃマズイんじゃ……!」
「そ、そうですよ!」
「わかりました」
「ええっ!?」
オペレーターを承諾したアルフィンにティータは驚く。
「決まりだな。さっそく作業に入ってもらう」
「了解しましたわ」
アルフィンはエリゼの隣に座る。
「ひ、姫様……」
「ここまで来て手ぶらじゃ帰れないもの。リィンさんや皆さんのお力になれるならなおさらよ」
「はあ……わかりました。ではよろしくお願いいたします」
「ええ、任せて」
「い、良いんですか?」
「こうなった姫様は梃子でも動かないんです」
「ふふ、わかってるじゃない」
「ご自分でおっしゃらないでください」
(なかなか飄々としてるな)
(さすがはオリヴァルト殿下の妹さんといった所ですね。でもエリゼさん、楽しそうですね)
(だな)
ティオとランディは二人の様子を見守った。
一方、その頃──
[アッシュ side]
「ああもう!いい加減にしなさいよ!」
「攻略中だ。集中しろ」
「そうは言ってもだな……!」
「さっきから手が痺れて得物が使えねぇんだよ!」
俺らは今、電流の流れる部屋で四苦八苦してる。
足を踏み入れた瞬間、全身が痺れるような感覚がしてうざってぇ。
「しかもこんな時に敵か」
キリコの言う方向を見ると、五体の人形兵器がいやがる。
「総員、距離を取れ!アーツ戦に移行する!」
『おおっ!』
それっきゃねぇか。
俺らは一斉にARCUSⅡを駆動させる。
アーツは正直苦手だが泣き言は言ってらんねぇ。
初~中級アーツを受けた人形兵器はたちまち爆散した。
「やりましたね」
「それにしても、いったいどこでこんな技術を……」
「……おそらく、黒の工房だろう」
「黒の工房が……?」
「フェンリールやお前たちの機甲兵の設計具合は既存の機甲兵と共通している。製作するついでに他の技術も吸収したんだろう」
なるほどな。あのジジイなら十分に考えられるわな。
「あり得ます」
チビウサも頷いていた。
「だからってここで試すことなくない!?」
「僕たちはモルモットなのか……?」
どーもそんな気がしてきたぜ。
「いや、そこまではないと思うぞ……?」
シュバルツァーは苦笑いを浮かべてやがる。最後は疑問形になってるしよ。
「とにかく、急いで解除装置を見つけましょう。解除さえしてしまえば、こちらのものです」
「それまでは無駄な戦闘は避けて行こう」
「うしっ、行こうぜ」
俺らは解除装置の探索を始めた。
途中、人形兵器の襲撃を受けたが相手なんざしてらんねぇ。
ユウナがひーこら言いながら解除装置を見つけた。
モニター画面には『アッシュ・カーバイド』とあった。
こんなもん屁でもねぇ。ちょいちょいと特殊トラップを解除してやった。
その直後、人形兵器が群れをなして襲ってきやがったから一体残らずブッ壊してやった。憂さ晴らしにはもってこいだな。
戦闘後、ジジイが合格点をやるっつった。
上から目線が気に食わねぇが、もらっといてやるかね。
[アッシュ side out]
「や、やっと休憩ね……」
ユウナは回復装置の前で座りこんだ。
「みんなお疲れ。大きなケガもなくてなりよりだ」
「教官が一番疲れているはずでしょう」
「影の領域攻略に第二相克の騎神戦に小要塞攻略。無理し過ぎかと」
「試験とはいえ、戦闘から離れても良いのでは?」
「ハハ、ありがとう。だが君たちが頑張っているのに、一人だけ楽するわけにはいかないさ」
「ったくよ……」
アッシュは呆れるしかなかった。
「それはそうと教官、地形変化というのは……」
「ああ。断言は出来ないが、端末か何かで床を切り替えるんだろう」
「前にやったやつか」
「正しい手順でやらないと、ずっと周り続けることになるんですよね」
「なんで嬉しそうに言うのよ……」
「だってそれは……♥️」
「離れなさい」
キリコとの距離をさりげなく縮めようとしたミュゼをユウナが押さえる。
「さて、そろそろ休憩も終わりだ──」
『お待ちください』
「え!?」
「この声は……」
「まさか……」
『はい、そのまさかです♪』
「ア、アルフィン殿下!?」
「なぜそこに……って聞くまでもありませんね」
「ごめんなさい。どうしてもエリゼに会いたくて……」
「お気になさらないでください。エリゼさんとも会えたんですよね?」
『はい。会えましたわ』
「では、皇太子殿下にも?」
『いいえ?』
「皇子はついでかよ」
『もう、姫様!皆さんにお伝えすることがあるのでしょう!?』
『あ、そうでした。実は──』
少し前──
「てめぇ何しに来やがった!」
アインヘル小要塞エントランスでは一触即発の空気に満ちていた。
オペレーター室にはリィンたちのいる階層の他に、エントランスの映像もリアルタイムに入るようになっていた。
たまたまランディが目を通していると、エントランスにシャーリィが意気揚々と入って来た。
これを襲撃と読んだランディはすぐさまエントランスに駆けつけ、得物を構えた。
また、トワはオペレーター室前の階段で導力銃を構えて身を潜めていた。
「何って、呼ばれたから来たんだよ?」
「嘘つけ!誰がお前なんかを呼ぶんだよ!」
「私が呼んだのだ」
「はあっ!?」
ランディは仰天した。
「は、博士!?」
「紅の戦鬼ならば十分にⅦ組の相手が務まる。後ろの狙撃手もな」
「ッ!ガレスも来てたか」
「はい。お久しぶりです」
「だがどういうつもりだ。ここはお前らみたいなのが来ていい所じゃ──」
「お言葉ですが若、これはG・シュミット博士からの正式な依頼です」
「そーそー!いくらランディ兄でも止められる謂れはないよ?」
「くっ!」
ガレスとシャーリィの言葉にランディは思わず歯ぎしりをした。
「それでさ、キリコたちと闘えば良いの?」
「そうだ。Ⅶ組の最終試験は紅の戦鬼、閃撃の撃破をもって終了とする」
「……我らが返り討ちにしても?」
「構わん。さらに、敗けた場合はそれまでの合格点を全て無効とする」
「そ、そんな……!」
「これくらい乗り越えられんで呪いとやらに打ち勝てるのか?」
「そいつぁ……」
「お前たちはエレベーターで先に行け。オルランド、ハーシェル。お前たちも戻って……」
「「お待ちください」」
「?」
「あ?」
「き、君たちは……」
エントランスに入って来たのは、本校生徒のエイダ・グラントとフリッツ・ガイトナーだった。
「その最終試験、私たちも加えてください!」
「実力不足は重々承知しています。ですが……!」
エイダとフリッツは揃って頭を下げた。
「ま、いーんじゃない?足さえ引っ張らなきゃ」
「……お嬢がそうおっしゃるなら」
「おいおい……」
「良かろう。ならば行くがいい」
「は、博士!?」
「じゃ、行こうか」
「くれぐれも邪魔だけはするな」
「「はっ!」」
シャーリィたちはエレベーターに乗った。
「良いんすか、博士?可哀想だがあの二人が加わったところで……」
「多くのデータが取れるならば何も文句はない。たとえかませ犬だろうとな」
「はあ……」
どこまでもマイペースなシュミット博士にトワは大きなため息をついた。
『ということがありまして』
「博士……」
クルトは頭を抱えた。
(まさかここで戦うとはな。リーヴスに来ていた時点で考えておくべきだったな)
「本校のお二人はともかく、赤い星座の副団長と連隊長ですか」
「何もこんな時じゃなくても……」
「超絶めんどくせぇ……」
「さらに気合いを入れなければなりませんね」
「わかりました。わざわざありがとうございます」
『いえ。それとリィンさん、この先の地形変化のフィールドは私とエリゼがサポートいたします』
「そうなんですか!?」
『は、はい!一生懸命サポートさせていただきます!』
「感謝する」
『はい。頑張ってください』
通信は切れた。
「ホントろくなことしないわね!!」
「思わぬ強敵の出現ですね」
「しかも負けたら全員不合格だあ?ナメやがって」
「こうなれば意地でも勝つしかないな」
「当たり前です!」
「とにかく」
リィンが口を開く。
「最後の相手のことは一旦置いといてくれ。俺たちはまだ完全に攻略したわけじゃない」
「あ」
「そうでした……」
「では改めて出発する。最後まで気を抜かないようにな」
『イエス・サー!』
新Ⅶ組は最後の攻略に向けて歩き出した。
次回、LV.X最後の攻略とシャーリーたちとの戦いです。