英雄伝説 異能の軌跡Ⅱ   作:ボルトメン

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乱雲

七耀暦1206年 8月4日 早朝

 

近郊都市リーヴスに赤黒い機動兵器の一団が向かっていた。

 

【後少しですね】

 

【ああ。それにしても、あの町の人間はどうなっている。我々を軽んずるようなあの態度は】

 

【リーヴスの町長はかつて有った男爵家の家臣らしいですが】

 

【その男爵というのは?】

 

【なんでも、詐欺師に騙されて何もかも無くした挙げ句、犯罪者にまで落ちぶれたとか】

 

【フン、そんな家の関係者なら礼儀がなっていないのも頷けるな。伝統あるトールズの二番煎じの者共を含め、ろくでもない街だ】

 

【全くですね】

 

一団の隊長格と副官はそんな話をしながらリーヴスに向かっていた。

 

【そう言えば隊長】

 

【なんだ?】

 

【あの新入りのことですが】

 

【ああ、上からの推薦らしいが、どうかしたのか?】

 

【妙だとは思いませんか?】

 

【妙、とは?】

 

【作戦開始のギリギリで参加が認められたということです。しかも顔中傷だらけのためとはいえ、覆面で顔が見えないときました】

 

【確かにな。だが我々の任務はリーヴスを制圧し、反乱分子を根こそぎ捕らえることだ。時間が惜しい今、そちらのことは後回しだ】

 

【……分かりました】

 

【よし、後少しで到着する。総員、気を……【隊長!】どうした!?】

 

【新入りの動きに異変が!】

 

【なんだと!?】

 

隊長格の乗る魔煌機兵メルギアが振り向いた瞬間、後方で爆発が起きた。

 

 

 

【もう少しか】

 

ロッチナから回された魔煌機兵ゾルゲに乗り込んだキリコは二十機の魔煌機兵の一団の最後尾にいた。

 

【ロッチナによると、こいつらはリーヴスに乗り込んで数の暴力で住民を纏めあげるつもりらしいが……】

 

キリコはモニターと地図を見ながらプランを組み立てる。

 

【暴走に見せかけるなら…………今だ!】

 

キリコは前方のゾルゲに狙いを定め、操縦捍のトリガーを引く。

 

【な、なんだ貴様!?うわぁぁぁっ!?】

 

前方のゾルゲがエンジンを撃たれ、爆発した。

 

【始めるか】

 

キリコは一度深呼吸をし、頭を切り換える。

 

 

 

[キリコ side]

 

【クソッ、冗談じゃないぞ!】

 

【リーヴスは目と鼻の先だってのに!】

 

【隊列を乱すな!囲んで一気にねじ伏せろ!】

 

魔煌機兵の一団は混乱を極めた。

 

俺は手当たり次第に銃撃を叩き込む。周囲の魔煌機兵は反応が遅れ、次々に倒れていく。

 

魔煌機兵の武器は特殊な造りになっており、念じるだけで威力が上がるらしい。ただし、それをやればやるほど精神が乗っ取られ、暴走に至るとのことだ。

 

もっとも、俺には必要のないことだが。

 

【た、隊長!半数以上がやられました!】

 

【チィ!仕方ない、リーヴスとグレンヴィルから援軍を要請しろ!】

 

【グ、グレンヴィルからもですか!?】

 

【さっさとしろっ!ここで挟み撃ちにするっ!】

 

【りょ、了解しました!】

 

チャンネルがオープンになっているのか、会話がだだ漏れだ。どうやら援軍が来るようだ。

 

【なら、ここでかたをつける】

 

俺はゾルゲのアサルトライフルを交換し、隊長格のメルギアに狙いを定める。

 

【クソッ!】

 

メルギアも応戦の構えをとるが、あまりにも遅い。

 

【させるか!】

 

数機のゾルゲがメルギアの前で壁になる。

 

【お前たち!?】

 

【下がってください!ここは我々が!】

 

【コントロールも出来ず、暴走するような役立たずは……ここで!】

 

ゾルゲの機体から黒いオーラが噴き出す。

 

【こいつらもイプシロンと同じか……】

 

相手が何をしようと関係ない。

 

立ちはだかるなら叩き潰すまでだ。

 

俺は数機のゾルゲを相手取った。

 

[キリコ side out]

 

 

 

「それは本当ですか!?」

 

「うん。衛士隊の分隊がリーヴスを無理やり従わせようと魔煌機兵で乗り込むとか」

 

「なんということを………」

 

「さ・ら・に・今、東リーヴス街道で魔煌機兵同士ドンパチやってるんだって。しかも演習とかじゃなく、魔煌機兵の暴走が原因みたいだって」

 

「…………………………」

 

少し前、近郊都市トリスタにあるトールズ士官学院本校。

 

生徒会室にてシャーリィからの報告を聞いたセドリック・ライゼ・アルノールはその内容に頭を抱える。

 

「で?どうすんの?」

 

「………仕方ありません。彼らはここで切るしかないようです」

 

「切るったってどーすんの?」

 

「幸い準備は整ってます。エイダ、フリッツ」

 

「「はっ」」

 

セドリックの言葉に、エイダ・グラントとフリッツ・ガイトナーが生徒会室に入って来た。

 

「後三十分以内に全生徒をアイゼングラーフ号に。これよりリーヴスに向かう!」

 

「「イエス・ユア・ハイネス!」」

 

エイダとフリッツは生徒会室を飛び出して行った。

 

「なるほどね。自分の肩書きを使って直接乗り込むってわけか。お坊ちゃんにしてはなかなかやるじゃん」

 

「あはは……お坊ちゃんはよしてください」

 

セドリックは思わず苦笑いを浮かべる。

 

「それよりさ、あれは使うの?」

 

シャーリィは険しい顔をセドリックに向ける。

 

「………緋の騎神テスタ=ロッサですか」

 

「どーなの?」

 

「……以前の僕なら躊躇いなく召喚していたでしょう。ですが、それでは意味がない。あくまでも僕自身が出なければなりません」

 

「ふーん?」

 

「僕は近い将来、リィンさんを含むⅦ組と刃を交えなくてはならない日が来ます。それまではテスタ=ロッサは使いません。そう決めました」

 

「へぇ、わがままいっぱいのお坊ちゃんだと思ってたけど、そう言うこと言えるんだ?」

 

「はぁ、僕をなんだと思ってたんですか……」

 

「調子こいて大口叩いて分校に乗り込んでって逆に返り討ちに遭ってズタボロにされたお坊ちゃん」

 

「………そこまで言わなくても良いじゃないですか。まあ、あれがなかったら僕も成長できなかったのも事実ですが」

 

「やっぱキリコのおかげ?」

 

「ええ」

 

「そっか。じゃ、あたしも行くね」

 

シャーリィは生徒会室を出ていった。

 

(シャーリィさん、ノーザンブリアにあったという教団のロッジから帰って来て妙に機嫌が良いんだよな。何かあったんだろうか……)

 

セドリックは首をかしげながらも、トリスタ駅を目指した。

 

 

 

【ば、馬鹿な……】

 

一方、東リーヴス街道。

 

隊長格の男は目の前の光景が信じられなかった。

 

魔導の力を発揮したゾルゲが素のゾルゲに一機残らず倒された。

 

【あ、あり得ぬ……!こ、こんなことが……!】

 

【…………………】

 

キリコの乗るゾルゲはメルギアに狙いを定める。

 

【ク、クソッ!こんなはずでは……】

 

メルギアはキリコの乗るゾルゲの銃撃を受け、爆発した。

 

【……………?】

 

キリコが一息ついた瞬間、モニターに敵影の反応が映る。

 

【早いな。リーヴスからの援軍か】

 

キリコはゾルゲを操作し、近くに落ちていた未使用のアサルトライフルを装備する。

 

その僅か数分後、三十機の魔煌機兵がキリコの乗るゾルゲを囲うように陣形を形成する。

 

【チッ、役立たずのウスノロ共が】

 

【たかだか一機のゾルゲに手間取るとはな。恥を知れ、恥を】

 

【まあいい、くだらない騒ぎもここまでだ。叩き潰してやれ!】

 

周囲を囲っていたゾルゲが一斉に襲いかかった。

 

【…………………】

 

危機的状況にもかかわらず、キリコは冷静だった。

 

キリコは左右の操縦捍を互い違いにし、機体をスピンさせる。そして操縦捍のトリガーを引く。

 

【ぐわっ!?】

 

【おのれ……!】

 

第一陣のゾルゲの隊列が乱れる。キリコはその隙を逃さず特攻する。

 

【なめるなっ!】

 

数機のゾルゲが大剣を振るい、キリコの乗るゾルゲに襲いかかる。

 

だが掠りもしなかった。

 

キリコの乗るゾルゲはローラーダッシュで回り込むように避け、背部エンジンに銃撃を叩き込む。

 

間髪入れず、アサルトライフルを構えていたゾルゲの脚部を撃ちこみ、転倒させる。

 

さらに、ブレーキを巧みに使い、ゾルゲの同士討ちを発生させた。

 

【馬鹿な……】

 

【こうも易々と……】

 

【ば、化物か……!】

 

リーヴスからの援軍として駆けつけた部隊にもはや戦意などなかった。

 

【………………………】

 

だがキリコは手を抜かなかった。

 

茫然とするゾルゲの背中に容赦なく銃撃を浴びせる。

 

一機、また一機とゾルゲが倒れていった。

 

【粗方片付いた。後は………いや、まだか】

 

リーヴスの方向から三十機の魔煌機兵の一団が向かって来た。

 

【前から三十。方向からしてグレンヴィルからか。そして……】

 

キリコの乗るゾルゲの後方からさらに二十機の魔煌機兵の一団が到着する。

 

【おのれ……!ふざけた真似をしよってからに!】

 

【……………………】

 

【見たところ暴走してはいない。貴様、初めから……!】

 

【……………………】

 

【全機、攻撃開始!絶対に殺せ!!】

 

『ハッ!!』

 

メルギアから発せられた怒りの号令に魔煌機兵が動き出した。

 

 

 

「へえ?朝っぱらからドンパチやってるんで様子を見に来てみりゃ……」

 

キリコが戦っている場所から少し離れた場所から白髪の男が戦いの様子を窺っていた。

 

「まさか魔煌機兵同士で殺り合ってるとはな。しかし……」

 

白髪の男は倒れている魔煌機兵を見つめる。

 

「今戦ってんのが五十、いや四十機。んで倒れてんのが六十機。このまま最後までやりゃトータル百機か」

 

白髪の男は思わずニヤリと笑う。

 

「素のゾルゲに乗ってんのは間違いなくアイツだな。やれやれ、リィンの奴もとんでもない野郎を生徒に持ったもんだな」

 

「そうね」

 

白髪の男の背後から蒼いドレスの女が現れる。

 

「よぉ、久しぶりだな、ヴィータ」

 

「本当にね………クロウ」

 

ヴィータは白髪の男──クロウ・アームブラストを見つめる。

 

「記憶、戻ったのね」

 

「まあな。しかし、大したモンだよな」

 

「ええ。まさかここまでとは思わなかったけど」

 

ヴィータは魔煌機兵を次々に仕留めていく光景にため息をつく。

 

「にしても、だ。アンタ、あのカイエン公の協力者なんだろ?なんだってここに?」

 

「キリコ君の存在は貴方が考えているより重要なのよ」

 

「確かに……あれだけの腕なら引く手あまただろうよ。だが大丈夫なのか?どう見てもアイツは人の下に付くタイプじゃねぇだろ。いくらカイエン公や決起軍とやらが欲しがっててもムズいだろ」

 

「クロウ、貴方大事なことを見落としてるわ。今代のカイエン公爵は女よ?」

 

「女?……………マジで?」

 

クロウは女という単語からある答えを導き出す。

 

「フフフ、カイエン公はキリコ君に恋しているのよ。先日、やっとデートに誘えたようだけど」

 

「………なるほどな。だが連れてってどうするつもりだ?俺は二年前に緋の騎神に殺られてるし、アイツも公開処刑されたことになってる。言わば公的には存在しない人間だ。会わせたところでハッピーとは限んねぇだろ。むしろバッドエンドだろうよ」

 

「今は置いといていいの。私が聞きたいのはキリコ君の目的。呪いの根源が何なのかよ」

 

「ちょうど良い機会かもな。俺も同行する」

 

「クロウも?」

 

「ああ。オルディーネに関係あることかもしんねぇしな」

 

「……わかったわ」

 

クロウとヴィータは頷き合い、再びキリコの方向を見た。

 

 

 

【あ…あ…あ……】

 

メルギアに乗る指揮官は震える。

 

彼の目には魔煌機兵が悉く破壊された光景が映っていた。

 

【あり得ん、あり得ん!こ、こんなことが……!】

 

【…………………】

 

【なぜ……このようなことを……。我々は帝国の、正義を成そうと……】

 

【…………………】

 

【なぜ……だ……】

 

【知るか】

 

【な……に……?】

 

【命令を疑うことなく遂行するお前たちは軍人としては正しい。だが、全部が正しいわけではない】

 

【貴様……!】

 

【これで終わりだ】

 

キリコはゾルゲのアサルトライフルの銃撃を浴びせ

、メルギアに接近する。そのままショルダータックルと右アームのパンチを叩き込む。

 

反応が遅れたメルギアはなすすべなく攻撃に晒される。

 

【こ、この戦法……どこかで……まさか……】

 

指揮官はゾルゲの一連の動きから絶対にあり得ない結論を導き出す。

 

キリコの乗るゾルゲはメルギアの背中に回り、狙いを定める。

 

そしてトリガーを引く。

 

【貴様は……キリコ・キュービ………!】

 

確信した指揮官はその名を呼ぼうとした。

 

だが言い終わる前に機体は爆発し、彼の意識は途絶えた。

 

 

 

【…………………】

 

キリコはゾルゲの自爆装置をセットし、機体から降りようとした。

 

【待て!】

 

【!?】

 

響いてきた声にモニターを見ると、そこには赤いシュピーゲルSがサーベルを手に突進してきた。

 

ゾルゲはローラーダッシュで辛うじて回避した。

 

【トリスタからアイゼングラーフ号で駆けつけてみれば、こんなことになっていたなんてね】

 

赤いシュピーゲルSに乗るセドリックが周囲を見渡した。

 

【君がどこの誰かはこの際問わない。大人しく投降してもらいたい】

 

セドリックは投降を呼び掛けた。

 

【……………………】

 

キリコは敢えて無視した。

 

【答える気はないか。ならば、仕方ない】

 

シュピーゲルSは得物のサーベルを目の前に掲げる。

 

【エレボニア帝国皇位継承者、セドリック・ライゼ・アルノールの名の下に拘束する!】

 

そしてサーベルを構えた。

 

【自爆装置は既にセットしている。十分以内にかたをつける】

 

キリコは操縦捍を握りしめる。

 

 

 

【ハアァァァッ!!】

 

シュピーゲルSはゾルゲに突きを連続で撃ち込む。

 

【クッ!】

 

サーベルの連続突きを集中的に受けたゾルゲの右アームは破壊される。

 

メルギアを含めた魔煌機兵百機を相手にしたゾルゲは限界だった。

 

そこでキリコは回避に専念し、来るべきチャンスを待っていた。

 

【何か狙っているな。だが関係ない!】

 

シュピーゲルS追撃の手を緩めることなく、ゾルゲの装甲を削る。

 

【後少し……】

 

装甲のほとんどが削られ、裸同然となったゾルゲだが、キリコは諦めてはいなかった。

 

【これで最後だ!メルトスライサー!】

 

シュピーゲルSは焔を纏わせたサーベルの斬撃をゾルゲに浴びせる。

 

【今だ!】

 

ゾルゲは突き刺さっていた大剣を引き抜き、シュピーゲルSの頭部めがけて特攻する。

 

【クッ!】

 

セドリックもゾルゲのカウンターアタックにも構わず操縦捍を握りしめる。

 

ゾルゲの大剣がシュピーゲルSの頭部をはね飛ばす。

 

【うおぉぉぉっ!】

 

頭部を失ったにもかかわらず、シュピーゲルSのサーベルがゾルゲのコックピットを貫く。

 

【!?】

 

その直後、ゾルゲは爆散した。

 

【自爆!?】

 

セドリックは目を見開く。

 

ゾルゲは完全に判別がつかなくなっていた。

 

【愚かな……自爆して果てて……そんなことして何になるというんだ!】

 

セドリックはシュピーゲルSのパネルに両手を叩きつけた。

 

(あの魔煌機兵の動き、やっぱり来てたんだね。それにお坊ちゃんは気づいてないようだけど……)

 

シャーリィは自爆寸前にゾルゲから青い光が発していたことを見逃さなかった。

 

その後、リーヴスはセドリック率いるトールズ本校の指揮下におかれた。

 

セドリックはリーヴスの住民全員の前で謝罪し、衛士隊は一人たりとも街に入れないこと、地理的重要性からTMPを置くことを表明した。

 

 

 

「…………?」

 

キリコは気がつくと、違和感を覚えた。

 

「よお、元気そうだな」

 

「……………………」

 

キリコは声の主を見つめる。

 

「ったく、本当にギリギリだったんだぜ?ヴィータが転移の秘術を使わなきゃあのまま死んでたんだぞ?」

 

「……………………」

 

「とりあえず、立てるか?」

 

声の主は手を差し出した。

 

「……………………」

 

キリコは無言で立ち上がる。

 

「返事くらいしても良いだろうが。ったく、リィンはどんな教育してたんだ?」

 

「……じゃあな」

 

「おう、元気で……って、違ぇよ!人の話くらい聞けや!」

 

「……確か蒼のジークフリード、だったか」

 

「あ~~~、それは忘れてくれ。何気に黒歴史なんでな」

 

「あら、私は良いと思うわよ」

 

岩陰からヴィータが出てきた。

 

「クロウよりカッコよかったりしてね♪」

 

「だぁっ!マジでハズイんだって!」

 

「…………………」

 

キリコは二人のやり取りを見せられ、呆れていた。

 

 

 

「それで、何の用だ?」

 

しびれを切らしたキリコが口を開く。

 

「ああ、そうだったな。まあ、まずは自己紹介といくか」

 

クロウは前に出る。

 

「一応、はじめましてだな。クロウ・アームブラストだ。よろしくな」

 

「ああ。それでここは?」

 

キリコは辺りを見渡す。そこは東リーヴス街道のだだっ広い平原ではなく、鬱蒼とした森林地帯だった。

 

「ここはクロイツェン州にあるルナリア自然公園よ。ここは霊力が集まりやすいから転移してきたのよ」

 

「……そうか」

 

「さっそくなんだがよ、お前さんの知ってることを話してもらえねぇか?」

 

「…………………」

 

「キリコ君、君がこの帝国の呪いの根源と戦おうとしていることは知ってるわ。そのために君があのアッシュ・カーバイド君の身代わりになったってこともね」

 

「………聞いてどうする」

 

キリコは二人を見据える。

 

「私たち魔女の眷属はね、大昔から呪いについて学んできた。そして呪いに突き動かされて、多くの人々が愚行を犯してきたのも知っている。でも、誰も手出しはできなかった。手を出せば、さらに大きな悲劇を生むから……」

 

「…………………」

 

「でも、その負の流れを断ち切る唯一の可能性を持つ君の力が必要なのよ。この国を……いえ、この世界を終わらせないためにも」

 

「……あんたは?」

 

「俺にとっても無関係じゃねぇ。コイツの起動者に選ばれたからな」

 

「……あの蒼い機影か?」

 

「おお。ちょっと離れてな」

 

クロウはキリコとヴィータが離れたのを見計らい、右手を高く突き上げる。

 

 

 

「来な、蒼の騎神オルディーネ!」

 

 

 

クロウの背後に蒼い騎士人形が顕れる。

 

「さて、そろそろ話してもらえるか?」

 

「…………………」

 

「キリコ君」

 

「……わかった」

 

キリコはクロウとヴィータに知っていることを全て話した。

 

「…………………」

 

オズボーン宰相からある程度聞いていたクロウと違い、初めて聞くヴィータは口を開けなかった。

 

「一応、これで全てだ」

 

「予想外にもほどがあるわね……。異世界から転生を果たしたってこと、不死身の異能を宿していること。そして人の犯す最大の罪……神殺しを為し遂げるなんてね」

 

「鉄血の野郎も言ってたが、そいつが全部関わっているんだな?」

 

「確証はないがな」

 

「……わかったわ。ありがとう、話してくれて」

 

「別にいい」

 

「ただ、これだけは答えて」

 

「?」

 

「キリコ君は、後悔しない?全てに憎まれ、怨まれながら生きることに」

 

「俺は戦いから逃れることも安息を得ることも許されない。生きている限りな」

 

「そう………」

 

ヴィータは顔を伏せる。

 

そしてキリコの左頬を思い切り叩く。

 

「!?」

 

「ヴィータ!?」

 

「これはあの子の分よ。残りは本人から受けなさい」

 

「………………」

 

「君が公開処刑されると聞いた時、あの子、本当はすぐにでも君を助けに行きたかったでしょう。でもできなかった。世界の終焉に立ち向かうために、最悪にして最低の一手を打つために動くことができなかった」

 

「その後………泣いてたわ」

 

「………………」

 

「キリコ君がワイズマンと戦うのは運命かもしれない。それは全てとひきかえにしなくちゃ為し遂げられないのかもしれない。でもね……」

 

ヴィータはキリコの目を見る。

 

「君のことを本当に想っている子がいる。それだけは忘れないで」

 

ヴィータはキリコに背を向けてどこかへ転移して行った。

 

「………とりあえず、よ。お前さんは一人じゃねぇってこった」

 

クロウはオルディーネに乗り込む。

 

【じゃあな】

 

クロウを乗せたオルディーネもどこかへ飛び去って行った。

 

 

 

[キリコ side]

 

(本当に想っている……か)

 

ヴィータに言われたことを反芻した。

 

(あいつの、ミュゼの態度はそういうことなのだろう。俺は感情がわからないわけじゃない。だが……)

 

俺は空を見上げた。

 

(俺は誰かを幸せにすることはできない。生きている限り、戦いから逃れられず、一時の安らぎすら許されない俺には………)

 

俺は歩き出した。

 

その先にやつが、ワイズマンがいることを確信して………。

 

[キリコ side out]

 




次回、キリコの元に……?

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