英雄伝説 異能の軌跡Ⅱ   作:ボルトメン

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最終試験②

「これって……」

 

新Ⅶ組の目の前には鉄柵で囲まれていた。

 

その先は、ブロック状の床が全てせり上がっていた。

 

『これより、アインヘル小要塞LV.X地形変化の試験を始めます』

 

「いよいよか」

 

「いつでもいけます!」

 

「ここにあるコントロールパネルを操作すれば良いんでしょうか?」

 

『はい。なお、そこにありますコントロールパネルを起動した瞬間にタイマーが動き出します。制限時間内にクリアを目指してください』

 

「制限時間があんのか」

 

「試験ですから至極当然かと」

 

『では、スタートしてください』

 

「わかりました」

 

アルフィンの指示に従って、リィンはコントロールパネルの解除ボタンを押した。

 

すると、鉄柵の一部といくつかの床が下がっていった。

 

『起動を確認しました。頑張ってください』

 

通信は途絶えた。

 

「よっしゃ、行こうぜ」

 

「焦らないで行くぞ。不合格にはなりたくないだろう?」

 

「もちろんです」

 

「参りましょう」

 

新Ⅶ組は最奥目指して歩き出した。

 

 

 

[キリコ side]

 

「………………………」

 

「え、えっと……」

 

「ユ、ユウナさん……」

 

ユウナから不穏な気配を感じる。

 

エリゼとアルフィンのサポートの元、俺たちは順調に進んでいた。

 

床の切り替えにより、変化したルートを踏破するために遠回りすることになったが、奥まで進むと、行き止まりだった。

 

アルティナとミュゼが壁を調べるとダクトの出入口を発見した。

 

ダクトを潜り抜けて進めというアルフィン皇女の指示に、ユウナの機嫌は悪くなった。

 

思えばユウナとダクトは相性最悪だったな。

 

だがいつまでも留まってはいられない。

 

「教官」

 

「わかってる。俺たちが先に入るから君たちたちは後から来てくれ。だがなるべく急いでな」

 

そういってリィン教官がダクトに入り、俺、アッシュ、クルトが続いた。

 

「…………………」

 

「ユ、ユウナ。気持ちはわかるがその殺気をしまってくれないか?」

 

「クルトさんに一票です」

 

「同じく」

 

会話の距離からして、ユウナ、アルティナ、ミュゼか。

 

確かに妙な感じがするな。

 

何度か角を曲がり、ようやくダクトを出た。

 

「うーし、この調子で進むか」

 

「あったり前よ!」

 

ユウナの我慢も限界のようだ。

 

「その気持ち、あれにぶつけろ」

 

「え?」

 

俺が指さす方向から、道化師のような人形兵器がやって来た。

 

「あれは……」

 

「奇襲・暗殺用のバランシングクラウンですか」

 

「数は……三体か」

 

「上等じゃない!」

 

ユウナはガンブレイカーを構えた。

 

「あの時よりはるかに強くなってるってこと、思い知らせてあげるんだから!」

 

「そうだな……!」

 

「はい……!」

 

クルトは双剣を構え、アルティナはクラウ=ソラスを出した。

 

「当然、俺らもな」

 

「参りましょう、キリコさん。教官!」

 

アッシュとミュゼも得物を構える。

 

「行くぞ、キリコ」

 

「了解」

 

俺たちはバランシングクラウンと戦闘を開始した。

 

[キリコ side out]

 

 

 

「クロスブレイクⅡ!」

 

「テンペストエッジⅡ!」

 

「フラガラッハⅡ!」

 

「ムーランルージュⅡ!」

 

「ヴォイドブレイカーⅡ!」

 

ユウナたちはそれぞれのクラフト技を叩き込む。

 

「クリアブラストⅡ」

 

キリコのクラフト技がバランシングクラウンに炸裂した。

 

「秘技・裏疾風!」

 

疾風を進化させたリィンの新たなクラフト技が止めとなった。

 

バランシングクラウンは機体に電流が走り、爆発した。

 

「やったか」

 

リィンは肩で息をしつつ、納刀した。

 

「教官、今のは……」

 

「アリオスさんが使っていた……」

 

「風の剣聖アリオス・マクレインの最も得意とする剣技、裏疾風。ようやくその呼吸を掴めた」

 

「お見事です」

 

(最初に敵を連続で斬りつけ、止めに背後からの横凪ぎの一閃。まともに食らえばタダでは済むまい)

 

キリコはリィンの一連の動きを思い返した。

 

「で?剣聖とやらになれたのかよ?」

 

「いや。そもそも剣聖の位は老師か他の剣聖の立ち会いの元に決められる。上伝クラスくらいに成れれば嬉しいんだけどな」

 

「ふふっ……!」

 

ミュゼは陰で意味深に微笑んだ。

 

「さあ、行こう。最奥はまだ先だからな」

 

「油断せず進みましょう」

 

息を整えた新Ⅶ組は攻略を再開した。

 

 

 

「お見事です」

 

「さすがリィンさんですね」

 

オペレーター室では先ほどの戦闘の様子を細かくチェックしていた。

 

「アリオスのおっさんの剣技か、またリィンに差ぁつけられちまったな」

 

「そういう割には嬉しそうじゃねぇか?」

 

「確かに、ランディさん嬉しそうですね」

 

「ふふ……」

 

「……フム」

 

シュミット博士は顎に手をやり、思案していた。

 

「博士?」

 

「剣聖とやらに匹敵する力、興味深いな」

 

「また何か企んでるんすか?」

 

「なに、新プロジェクトに関することだ」

 

「新プロジェクト?」

 

「なるほど、新しい機甲兵についてのプロジェクトですか」

 

「新しい機甲兵!?」

 

「そうだ」

 

シュミット博士はティータたちを見据えた。

 

「これまで小要塞でのデータに加え、キュービィーからもたらされた戦闘データを元に全く新しい機甲兵を造り出す」

 

「その名も《プロジェクト・ティルフィング》」

 

「ティルフィング……それが新しい機甲兵の名称ですか」

 

「その時は元弟子二号と弟子四号、手伝ってもらうぞ」

 

「俺もですか?」

 

「あやつ亡き今、貴様以外誰がいる」

 

「……そうですね」

 

(あやつ……?)

 

(誰のことでしょう?)

 

「ぼやぼやするな。まだ最終試験は終わっておらん」

 

「「は、はいっ!」」

 

エリゼとアルフィンはモニターに集中した。

 

「博士……」

 

「皇女様にも容赦ねぇな……」

 

トワとランディは呆れかえった。

 

 

 

「これは……?」

 

LV.X攻略中、キリコは人形のようなものを宝箱の中から入手した。

 

「これって、身代わりパペット?」

 

「持っていると、甚大なダメージを受けた際に破壊され、文字通り身代わりになってくれるアクセサリだな」

 

「ならこいつは……」

 

「あん?てめえが持ってろよ」

 

アッシュが待ったをかける。

 

「なに?」

 

「現在、わたしたちⅦ組で最も負傷率が高いのはキリコさんです」

 

「よくよく見ると、キリコは強化系アクセサリは着けているが、防御系アクセサリは着けていないからな」

 

「……………………」

 

「こういうのは理屈じゃなくて、一発逆転を狙えるんですから着けていた方が絶対良いですよ」

 

ミュゼはキリコに力説する。

 

「………わかった」

 

キリコは懐に身代わりパペットを入れた。

 

「改めて先に進もう。そろそろ何かあってもおかしくない」

 

「教官」

 

キリコはリィンに話しかけた。

 

「どうした?」

 

「さっそく何かあるようです」

 

キリコは通路の先を指さした。

 

 

 

「なんだこりゃ?」

 

新Ⅶ組は道が左右に分かれた場所にたどり着いた。

 

「片方はそのままコントロールパネルに行けるけど……」

 

「もう片方はシャッターで閉じられていますね」

 

「段階を踏んで解除する仕組みなのは分かるんだが……」

 

「……あの博士がただ設置するはずがない」

 

「だよな」

 

新Ⅶ組は怪訝な表情を浮かべる。

 

(かなり疑っているな。もしかしてこれが狙いか……?)

 

リィンは頬を掻きながらそう思った。

 

「……埒が開かない。シャッター付近で待機しててくれ」

 

キリコは一歩前に出た。

 

「だ、大丈夫なの?」

 

「止まっていても進めない。ユウナとミュゼは備えていてくれ」

 

「わかった。ガンナーモードにしておくね」

 

「いつでも撃てるようにしておきます」

 

ユウナとミュゼは不測の事態に備えられるよう準備した。

 

「……よし」

 

キリコはコントロールパネルに近づき、起動させる。

 

「…………………」

 

キリコは慎重に操作し、解除した。

 

その瞬間──

 

「ッ!?」

 

キリコの頭上から柱状の光が降り注ぐ。

 

光を浴びたキリコはいきなりうつ伏せになった。

 

「なんだ!?」

 

「おい!」

 

「来るなっ!」

 

キリコは吼えた。

 

『それは研究中の重力波装置だ』

 

シュミット博士の声が響く。

 

「重力波装置……?」

 

『現在、キュービィーに普段我々が受けている倍の重力の波を流している。理解出来るとは思っていないから詳細は省くが、キュービィーは体感的に自身の体重の二倍の負荷をかけられている』

 

「に、二倍……!?」

 

『さっさと逆側の装置で解除せんと、重力波は通路全体を覆う。貴様らもキュービィーと同じようにじきに指一本動かせなくなる』

 

『ちょ、ちょっと博士!?』

 

「急げ!」

 

「はいっ!」

 

ユウナたちは急いでコントロールパネルに駆け寄る。

 

だが──

 

「うぐっ!?」

 

「なんだこりゃ!?」

 

クルトとアッシュは重力波を浴びてしまい、うつ伏せになった。

 

「か、体が……」

 

「ピクリとも動きません……!」

 

ユウナとミュゼも四つんばいになった。

 

「くっ!こうなったら……」

 

「任せてください、教官」

 

鬼気解放を行おうとしたリィンを留め、アルティナはクラウ=ソラスを出した。

 

「ふうんっ!」

 

アルティナはクラウ=ソラスを操作し、ユウナたちの真上に障壁を張る。

 

「これは!」

 

「い、今です!」

 

「わかった!」

 

クルトがコントロールパネルに駆け寄り、重力波を止めた。

 

「成功……したみたいですね………」

 

アルティナはフラフラと座りこむ。

 

「アル!大丈夫!?」

 

「はい……少し休めば」

 

「上手くいったようだな」

 

反対側からキリコが歩いて来た。

 

「キリコさん!」

 

「お疲れ。大丈夫だったか?」

 

「ええ」

 

「あのジジイ、フザけた真似しやがって」

 

「ホントよ!アルがいなかったらどうなってたか!」

 

「……それも計算の内だとしたら?」

 

思案していたミュゼが顔を上げた。

 

「計算の内……?」

 

「アルティナがやった方法が乗り越えられる唯一の正解、そういうことか」

 

「おそらくは。あのまま教官が焦って出ていれば、全員捕まっていたと思われます」

 

「確かに俺にも焦りがあったことは事実だからな。ありがとう、アルティナ」

 

「いえ。それより、休息も十分です。後は進むだけでしょう」

 

「大丈夫なの?」

 

「無理すんなよ」

 

「大丈夫です。皆さんがいますから」

 

アルティナは微笑んだ。

 

「アルティナさん……」

 

「……念のため、後方にいろ」

 

「はい。ありがとうございます」

 

「では、行きましょうか」

 

「ああ。行くぞ、みんな」

 

『イエス・サー!』

 

LV.X攻略も終盤を迎えた。

 

 

 

「はぁ~~っ!」

 

気を張っていたマカロフは脱力した。

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

「ああ、大丈夫だ。博士、あんなもんどっから持ってきたんです?」

 

「黒の工房でだ」

 

「ええっ!?」

 

「やはりですか……」

 

驚くエリゼを横に、ティオは納得した。

 

「もしかして、今巷で噂になっている蒼い災厄というのは……」

 

「フン、そんな名前に興味はないが、確かにフェンリールは私が設計した」

 

「やっぱり……」

 

「キリコ君も疑ってましたし……」

 

「でもよ、何で黒の工房はフェンリールをブッ壊しに来ねぇんだ?」

 

「そもそも、あれだけの機体をどうやってバレないように造ることが出来たんですか?」

 

「知らん。大方、道化師が絡んでいるのだろう」

 

「カンパネルラさんですか……」

 

「ティータさんはご存知でしたね」

 

「はい。原理はわからないんですが、色々と不思議な技を使う人です」

 

「もしかすると、特定の人物だけに認識させないようにしたのかもしれません」

 

「んなバカなっ言いてぇが、奴らの実力を見ちまうとなあ……」

 

ランディはため息をついた。

 

「でも、認識というなら、ヴィータさんの方が得意分野では?」

 

「あのお姉さんは結社抜けたんだろ?」

 

「雑談はそこまでにしろ。Ⅶ組はそろそろ最奥に到達する」

 

シュミット博士が場の空気を引き締める。

 

「っ!いよいよですね」

 

「ここでリィンさんたちの評価が決まるということですね」

 

「ここが正念場です」

 

「頑張れよ、リィン。Ⅶ組も」

 

オペレーター室に一気に緊張が走る。

 

 

 

「やっと着いた……」

 

「ここが最後の休憩場所か……」

 

「ちっと休もうぜ……」

 

「さすがに大型魔獣の三連戦は堪えます……」

 

新Ⅶ組は最上回復装置を囲むように座った。

 

「みんなお疲れ。ここまでよく頑張ったな」

 

「後は、この先で待つ方々を倒すだけですね」

 

「簡単に言うけどよ、一筋縄じゃいかねえだろ」

 

「赤い星座の副団長と連隊長、格上なのは言うまでもない」

 

「エイダとフリッツ君も侮れないもんね」

 

「……どちらも倒せばいい」

 

キリコは口を開いた。

 

「キリコ……?」

 

「俺たちは赤い星座にも本校にも借りがある。その両方を返すチャンスだ」

 

『あ……!』

 

ユウナたちはキリコの言葉を飲み込んだ。

 

「そっか……そうよね!」

 

「確かに、サザーラントでの借りを返すにはまたとないチャンスかもしれないな」

 

「分校と帝都での一件に決着をつける必要がありますね」

 

「こりゃますます負けるわけにゃいかねえな!」

 

「ふふ、リベンジと参りましょう……!」

 

ユウナたちの士気に火がついた。

 

「よし!Ⅶ組特務科、行くぞ!」

 

『おおっ!』

 

新Ⅶ組は最奥へと足を踏み入れた。

 

 

 

「待ってたよ~」

 

最奥に足を踏み入れた新Ⅶ組を、シャーリィは笑顔で迎えた。

 

「タイムもまずまず。どうやら不合格にはなりそうもありませんな」

 

ガレスは懐に懐中時計をしまった。

 

「それはどうも……」

 

「ここまで来るのにだいぶ苦労されたみたいですね」

 

「佇まいでわかる。LV.Xとやらの内容の凄まじさを」

 

エイダとフリッツは新Ⅶ組に対し、笑みを浮かべる。

 

「ま、そんなのはどうでもいいんだけどね」

 

シャーリィはテスタ・ロッサを取り出す。

 

「紅の戦鬼の得物……!」

 

「相変わらず凶暴そうな造りですね」

 

「あはは。褒め言葉として受け取っておくよ。それよりさ……」

 

「?」

 

「この勝負にあたしが勝ったら……」

 

「……勝ったら?」

 

新Ⅶ組は身構えた。

 

 

 

「キリコちょーだい♪」

 

 

 

シャーリィは満面の笑みを浮かべた。

 

「「「「……は?」」」」

 

「はあ~~っ!?」

 

ユウナたちは呆然とし、ミュゼはあり得ないものを見たような表情を浮かべた。

 

「な、な、何を言ってるんですか!?」

 

「だってキリコなら直ぐにでも部隊長にはなれるくらいの実力持ってるんだよ?その気になれば連隊長にも特殊部隊の総隊長にもね」

 

「ずいぶんキリコさんを買っているんですね」

 

「そりゃそうだよ。それにね……♥️」

 

シャーリィは頬に手をやりながらキリコを見つめる。

 

(こっちが本音みたいだな……)

 

(キリコ君ってモテるよね)

 

(教官のように不埒なことをすることはありませんし)

 

(オンナの方から寄って来んだもんな)

 

ユウナたちは声を落とした。

 

「そ、そんなこと認められるわけないでしょう!?」

 

「ん~?なんでカイエン公が出て来るのさ?」

 

「爵位は関係ありません!だいたい貴女は二度も断られているでしょう!」

 

「欲しいものがあったら力を示すのが猟兵の流儀だもん。それにあたし、キリコが好きだもん」

 

「ふぬぬ……!」

 

ミュゼはシャーリィを睨む。

 

「悔しければ勝ってみればぁ?」

 

「キリコさんを貴女などに渡しません!」

 

ミュゼとシャーリーの間に火花が飛んだ。

 

「…………………」

 

当のキリコは目を閉じ、二人のやり取りを無視していた。

 

「……お嬢、その辺りで」

 

見かねたガレスがシャーリィを止める。

 

「ゴ、ゴホン……」

 

「………………………」

 

エイダは顔を赤らめ、フリッツは顔をしかめる。

 

「ミュ、ミュゼも落ち着いて。どっちみちここで負けたら終わりなんだから」

 

「私たちの最終目的は試験の合格です。戦闘そのものではないはずです」

 

「………そうですね」

 

ミュゼは平静さを取り戻した。

 

「なら、始めようか」

 

「とりま、勝てば良いんだしな」

 

「へえ?」

 

「ふむ……」

 

シャーリィとガレスに闘気が宿る。

 

「お二人には及びませんが」

 

「舐めてもらっては困る……!」

 

エイダとフリッツは得物を構える。

 

「舐めてなどいない」

 

クルトは双剣を構える。

 

「勝つのは俺らだ」

 

アッシュはヴァリアブルアクスを肩にかける。

 

「これから戦わなくちゃいけないもののために」

 

ユウナはガンブレイカーの銃口を向ける。

 

「この世界に終焉をもたらさないためにも」

 

ミュゼは魔導騎銃の銃身を撫でる。

 

「わたしたちは負けません」

 

アルティナはクラウ=ソラスを出した。

 

「勝たせてもらう」

 

キリコはアーマーマグナムに弾丸を籠める。

 

「行くぞ、トールズ第二分校Ⅶ組特務科!この戦いを制して合格点を掴むぞ!」

 

『イエス・サー!!』

 

戦闘が始まった。

 

 

 

「くらいなさいっ」

 

エイダのアサルトライフルが火を噴いた。

 

「ジェミニブラストⅡ!」

 

ユウナも負けずに応戦する。

 

「ブリューナクⅡ、照射!」

 

横からアルティナのクラフト技が放たれる。

 

「まだですっ!」

 

エイダはクラフト技を射線から離れる。

 

「さすがですね」

 

「負けられない。行くわよ、アル!」

 

「はい!」

 

 

 

「ぬうっ!」

 

フリッツはサーベルを振り下ろす。

 

「はっ!」

 

クラフトは双剣で受け止める。

 

「クルトっ!」

 

「おおっ!」

 

クルトがサーベルを弾き、姿勢を低くした。それに合わせてアッシュが大鎌で薙ぐ。

 

「くっ!」

 

フリッツはバックステップで回避した。

 

「やるな!」

 

「当たり前だ。お前たちに勝つために修練を重ねてきたのだからな!」

 

「面白ぇ、来いや!」

 

 

 

「マーダーストレイフ!」

 

「無月一刀!」

 

シャーリィとリィンのクラフト技がぶつかり合う。

 

「オワゾーブルーⅡ!」

 

リィンの後ろからミュゼのクラフト技が放たれた。

 

「リードスナイプ」

 

「…………………」

 

一方でキリコとガレスは射撃戦を演じていた。

 

(さすがに向こうが上か)

 

(以前は近~中距離を得意としていたが、長距離狙撃を扱えるようになっていたとはな)

 

「へえ~?ガレスに合わせられるなんてやるじゃん」

 

(まだ習得して間もないだろうに、器用に使いこなしている。デュバリィさんたちの言うように、剣術を教えればそれなりの使い手になれるかもな)

 

「教官!来てます!」

 

「ッ!ああ!」

 

リィンは根源たる虚無の剣でテスタ・ロッサの刃を受け止める。

 

「ハンティングスロー」

 

一瞬の隙を突いて、キリコが投げナイフを投げる。

 

「!」

 

ガレスが立ちはだかり、狙撃銃で防ぐ。

 

「戦術リンクか……!」

 

「当然だ」

 

「ならば、ムーランルージュⅡ!」

 

ミュゼのクラフト技がガレスに襲いかかる。

 

「ぐっ!」

 

ダメージを受けたガレスは一旦下がる。

 

「ブラッディクロス!」

 

今度はシャーリィのクラフト技がリィンに放たれた。

 

「くううっ!」

 

リィンは根源たる虚無の剣で防ぐも、後方へと押しやられた。

 

「フフ、行くよ!」

 

シャーリィはテスタ・ロッサを手にキリコに襲いかかる。

 

「クリアブラストⅡ」

 

キリコはサブマシンガンで応戦する。

 

「おっと!」

 

シャーリィはギリギリで回避し、ガレスの隣に戻る。

 

「そっちは?」

 

「問題ありません」

 

「ならガンガン行くよ!」

 

「御意!」

 

シャーリィとガレスは闘志を燃やす。

 

「こちらも行くぞ!」

 

「はい!」

 

「了解」

 

 

 

「ソードダンス!」

 

クルトはクラフト技で自身を活性化させる。

 

「おらぁ!」

 

アッシュはフリッツにヴァリアブルアクスを振り下ろす。

 

「ぐっ!まだだっ!」

 

フリッツはサーベルで受け流した。

 

「チッ!やるじゃねぇか!」

 

「ならこれはどうだ!業刃乱舞!」

 

アッシュと入れ代わったクルトが連撃を仕掛ける。

 

「なんのっ!」

 

フリッツは双剣の連撃を食い止めた。

 

「これも防ぐか」

 

「当然だ!殿下の剣たるこの俺が負けていられるか!」

 

「そうか、君も殿下の剣たらんとしているのか……」

 

「そうだ!さも当然と言わんばかりに殿下の側に立っていたお前ではなくだ!」

 

「それについては反論は出来ない。だが!」

 

クルトの目は決意に満ちていた。

 

「僕はもう迷わない!この先何が待っていようと殿下の、アルノールの剣であり続ける!」

 

クルトは双剣を構える。

 

「受けよ。獅子心皇帝以来、アルノール家を支え続けたヴァンダールの剣を!」

 

 

 

「我が全霊の以て、降魔の一撃を成す!光よ、滅せよ!こおおおっ!奥義・天眼無双!!」

 

 

 

クルトの決意を乗せたヴァンダール流双剣術の奥義がフリッツに叩き込まれる。

 

「さ、さすがだ………ヴァン……ダール………!」

 

フリッツはクルトの剣技を称賛しながら気絶した。

 

 

 

「くらいなさいっ!」

 

エイダはユウナめがけて発砲した。

 

「クラウ=ソラス!」

 

クラウ=ソラスの障壁が銃弾を阻んだ。

 

「ブレイブスマッシュⅡ!」

 

「きゃあっ!」

 

ユウナのクラフト技がエイダを吹っ飛ばす。

 

「はあ…はあ…はあ……!」

 

ユウナは肩で息をするほど消耗していた。

 

「と、とにかく教官たちと……」

 

「ユウナさん!」

 

「え──」

 

一瞬の隙を突かれて、ユウナはエイダの攻撃を受けた。

 

「く……うぅ……!」

 

ユウナのガードは間に合ったが、ダメージは決して低くなかった。

 

「回復します。ティア!」

 

アルティナはユウナに回復アーツをかける。

 

「あ、ありがとうアル……」

 

「大事ないようで何よりです。それよりも……」

 

「ええっ!」

 

ユウナは気を引き締めた。

 

「ふう……ふう……ふう………!」

 

エイダは肩で息を切らせていた。

 

「…………………」

 

ユウナは息を整え、エイダを見つめる。。

 

「あたし、負けられない」

 

「!」

 

「初めて会った時にあんなこと言われて、すっごく悔しかった。あの日以来かな、エイダに負けたくないって」

 

「……それは私もです」

 

エイダは眼鏡のブリッジを上げた。

 

「過去の歴史を鑑みて、属州となったクロスベル出身のユウナさんに後れを取るわけには参りませんもの」

 

「言ってくれるじゃない」

 

「フフ……」

 

ユウナとエイダは笑みを浮かべる。

 

「なら、行くわよ!」

 

ユウナはガンブレイカーを構えた。

 

 

 

「さあ、行くわよ!エネルギー充填!シュート!まだまだぁっ!GO!ヴァリアントチャージ!!」

 

 

 

ユウナのSクラフトがエイダに炸裂した。

 

「フフ……参りました………」

 

エイダは笑みを浮かべつつ、気を失った。

 

 

 

「はあっ!」

 

「くっ!」

 

シャーリィのテスタ・ロッサをキリコはギリギリでかわした。

 

「アーマーブレイクⅡ」

 

振り向きざまにアーマーマグナムの引き金を引いた。

 

「おっと!これくらい──」

 

「ペンタウァショット!」

 

間髪入れずに、ミュゼがクラフト技を放つ。

 

「チッ!」

 

シャーリィは後方に下がる。

 

「お嬢!ならば──」

 

「させるか!鬼気解放!」

 

リィンは鬼の力を解放した。

 

「極・無月一刀!」

 

黒い焔を纏った根源たる虚無の剣でガレスに斬りつける。

 

「ぐうっ!ま、まだだ……!」

 

ガレスはダメージを負いつつ引き金を引く。

 

「遅い!」

 

リィンは銃口の角度から弾丸の軌道を見抜き、射線ギリギリでかわした。

 

「秘技・鬼疾風!」

 

荒々しい斬撃がガレスに炸裂した。

 

「ぐっ……申し訳ない、団長……」

 

ガレスは膝をついた。

 

 

 

「後はお前だけだ……」

 

キリコはシャーリィにアーマーマグナムの銃口を向ける。

 

「一対七……ちょっとピンチかな」

 

「悪いが加減は出来ない」

 

「わかってる……だからさ」

 

「っ!」

 

キリコはシャーリィから発せられた殺気に隙を見せてしまった。

 

「遠慮なくイカせてあげるっ!」

 

「下が──」

 

「もう遅いよ!ディザスター・オブ・マハ!!」

 

シャーリィの放ったSクラフトで、新Ⅶ組は甚大なダメージを受けた。

 

「ぐ……っ!」

 

「そ、そんな……」

 

「こんな、ところで……」

 

「限界です……」

 

「ク、クソが……!」

 

リィン、ユウナ、クルト、アルティナ、アッシュは膝をついた。

 

「うぅ……」

 

ミュゼはボロボロになった魔導騎銃を支えに片膝をついていた。

 

「はあ……はあ……!」

 

大技を放ったシャーリィもその反動で疲労がピークに達した。

 

「こ、これ…で……!?」

 

シャーリィは目を見開いた。

 

そこには、Sクラフトを受けたはずが両足で立っているキリコがいた。

 

「…………………」

 

キリコの懐から何かの破片がこぼれ落ちる。

 

「ハハ………」

 

シャーリィは力なく笑う。

 

「…………………」

 

キリコはシャーリィとの距離を一気に詰める。

 

「……負けちゃった………」

 

「!」

 

キリコは大型ナイフの柄頭をシャーリィの首筋に叩きつけた。

 

シャーリィは意識を手放し、ゆっくりと倒れた。

 

(済まない。助かった………)

 

キリコもゆっくりと崩れ落ちた。

 

 

 

『キリコ(君)(さん)!』

 

僅かながら回復した新Ⅶ組はキリコの元へと駆け寄る。

 

「………………」

 

キリコは肩で息をしながらゆっくりと立ち上がった。

 

「大丈夫か!?」

 

「……こいつのおかげで助かった」

 

キリコは懐から破片を取り出す。

 

「これって身代わりパペットの?」

 

「そのようだ」

 

「やっぱ持ってて良かったろ?」

 

「ああ」

 

キリコはミュゼの方を向く。

 

「お前の進言のおかげで助かった」

 

「キリコさん……」

 

「礼を言う」

 

「い、いえそんなお礼なんて……キリコさんご無事だっただけでも本当に良かったです……!」

 

ミュゼ心から安堵した。

 

「フフ……」

 

「今回は俺たちの完敗だ」

 

エイダとフリッツが握手を求める。

 

「ありがとう。僕たちこそ、強くなれた」

 

「これからもよろしくね」

 

「いつでも来な」

 

「今度は武器は無しということで」

 

「エイダさんも素質がありそうですし」

 

「そ、素質?」

 

エイダは頭にハテナを浮かべた。

 

「いずれな」

 

「わかった」

 

フリッツはキリコと固い握手を交わした。

 

(はは……時は移ろってもトールズはトールズ、か)

 

リィンは満足げに微笑んだ。

 

 

 

「……で、そちらは?」

 

アルティナはシャーリィたちに声をかける。

 

「あ~~、負けた。せっかくキリコをお婿さんにしようと思ってたのにさ」

 

シャーリィは大の字に寝転がっていた。

 

「まだそんな世迷い言を……」

 

「まあまあ。それであなたたちはどうするんですか?」

 

「とりあえず帝国周辺で仕事になるかな~。キリコの言う呪いの根源って奴もわかんないし」

 

「そう言えばシャーリィさんはキリコとノーザンブリアで会ったんですよね」

 

「D∴G教団とか言う薄っ気味悪い連中のロッジをブッ潰したって聞いたぜ」

 

「厳密にはブッ潰したのはマリアベルお嬢さんだけどね」

 

「あのパツキンドリル女か」

 

「……いくら敵とはいえ、その言い方はどうなんだ?」

 

「ま、とりあえず今んところは出てこないでしょ。それじゃ、そろそろ行くね」

 

「失礼する」

 

シャーリィとガレスは去って行った。

 

「私たちも失礼します」

 

「また会おう」

 

エイダとフリッツも続いた。

 

 

 

「そう言えば教官。この戦いは俺たちの勝ち、それで良いんですね?」

 

「ああ、それは──」

 

リィンはここで言葉を止める。

 

『ああっ!?』

 

新Ⅶ組の声が重なった。

 

「そっか!試験!」

 

「そうだった。忘れていたな……」

 

「それだけ集中していたということなんでしょうが……」

 

「おいジジイ!どうなってんだ!」

 

『落ち着け。今から合否を発表する』

 

シュミット博士の声がため息とともに響く。

 

『今回の攻略、結果としては上出来と言えるだろう。また、何名かに与えた課題もクリア出来ていた。よってⅦ組全員合格とする』

 

「や、やったぁぁぁっ!」

 

「ああ。やった!」

 

「全員無事クリアですね」

 

「おっしゃ!」

 

「やりましたね」

 

「ああ」

 

新Ⅶ組は差異はあれど、喜びを露にした。

 

『これにてLV.Xを終了とする。とっとと戻って来い』

 

シュミット博士はそれだけ言って、通信は切れた。

 

「よし。それじゃあ戻るぞ」

 

『イエス・サー!』

 

新Ⅶ組はエレベーターに乗り込むべく、歩き出した。

 

 

 

「兄様っ!」

 

「エリゼ──!」

 

エントランスに戻ってきた新Ⅶ組はオペレーター室からエリゼたちが出てくるのを目にした。

 

その中でリィンの姿を見たエリゼは涙目になり、リィンに駆け寄った。

 

「ああ、よくぞご無事で……!わたし……ううっ………わたし………!」

 

「エリゼ……良かった………少し痩せたみたいだな。済まない、心配ばかりかけて。この髪や、目のことも」

 

「ぐすっ。関係ありません……!兄様がどんな風になろうと……!兄様は戻ってきてくださいました……!こうして私のもとに来て………抱きしめてくれました……!それだけで、私は………!」

 

「……ありがとう。俺の方だって同じだ。本当に……本当に良かった」

 

リィンはエリゼを力強く抱きしめた。

 

「ふふっ……」

 

「ぐすっ……良かったね、エリゼさん」

 

「はい……」

 

ミュゼたちはシュバルツァー兄妹の再会に安堵した。

 

「クルトさん、本当にお疲れ様でした」

 

「いえ。殿下こそ、よろしいのですか?」

 

「ふふ、今日のところはエリゼに譲らなきゃ」

 

アルフィン皇女は優しく見守る。

 

「キリコさんとアッシュさんもご苦労様でした」

 

「ああ」

 

「ようやく帰れそうだな」

 

「その前に、ささやかながら懇親会があるみたいだよ」

 

「懇親……?本校と分校でですか?」

 

「ああ。わざわざ準備してたみたいだぜ」

 

「リィンさんたちが不合格だった場合、どうなってたんでしょう?」

 

「そりゃあ、がんばりましょう会になってたんじゃね?」

 

「…………………」

 

ランディの軽口にキリコは思わず呆れた。

 

(ここでの研究は完了──もうひとつの方も大詰めか)

 

(……心置き無くアレの見届けに取りかかれそうだな)

 

シュミット博士はどこか遠くを見つめる。

 

「とにかく、みんな学生食堂に集まってほしいって」

 

「わかりました」

 

リィンは全員を引き連れ、学生食堂へと向かった。

 

 

 

学生食堂はさながら立食パーティーのようだった。

 

本校食堂の料理人ラムゼイに学生食堂の店員ジーナやルセットの店主リーザも加わり、新Ⅶ組を出迎えた。

 

ユウナたちが本校生徒たちと親交を暖めている中、キリコは一人屋上で景色を眺めていた。

 

「…………………………」

 

「こちらにいらしたんですね」

 

「……ミュゼか」

 

「はい」

 

ミュゼはキリコの隣に立った。

 

「懇親会とやらには行かないのか?」

 

「ちょっと疲れちゃいまして」

 

「そうか……」

 

キリコは視線を変えずに言った。

 

「キリコさん……」

 

「ん?」

 

「やっぱり……辞めてしまわれるんですか……?」

 

「もう決めたことだ」

 

「そうですか……」

 

ミュゼは目を伏せる。

 

「黄昏の呪いを解くだけではダメなんですか……?」

 

「呪いを解いたとしても、そこで終わりじゃないだろう。帝国内に留まらず、周辺諸国からもやっかみを受けるのは目に見えてる」

 

「特にカルバード共和国からは顕著だろうな」

 

「………………」

 

「そもそも俺自身は呪いに突き動かされているわけじゃない。全て自分で決めた上でのことだ」

 

「……それなら………」

 

「………………………」

 

「それならキリコさんは……全てが終わった後は、いったいどうなさるんです……?」

 

「エレボニア帝国とクロスベル自治州から永久に去る」

 

「っ!!」

 

ミュゼの体が一瞬震える。

 

「幸い、俺の生存を知る人間は限られている。口さえつぐんでおけば事実が表沙汰になるのは防げる。少なくとも分校には及ばないだろう」

 

「分校に……そうですね」

 

「なら、俺に出来ることは一つだ」

 

「それで、良いんですか……?」

 

「それがこの世界の平穏につながるならな。異物でしかない俺に出来る、精一杯の償いだ」

 

「そう…………ですか」

 

ミュゼは顔を上げた。

 

「良かったです。キリコさんのお心が聞けて」

 

ミュゼは精一杯笑顔を作った。

 

「先に……行っています」

 

ミュゼは涙をこらえ、立ち去った。

 

「……………………………………………」

 

キリコは振り返らなかった。

 

「……何を一人でたそがれているんだい」

 

「お前は……」

 

キリコが振り向くと、そこにはセドリックが立っていた。

 

「……少し顔を貸してくれないか」

 

「………………………」

 

キリコは黙ってセドリックについて行った。

 




次回、キリコとセドリックの正真正銘最後の戦いです。

戦後76年。戦争は小説の中だけにしたいですね。

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