英雄伝説 異能の軌跡Ⅱ   作:ボルトメン

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会議②

[キリコ side]

 

その後、会議が再開され、千の陽炎作戦はまとまっていった。

 

主宰はあくまでもミュゼだったが、軍の顔役とも言える最高司令官はブライト中将が引き受けることになった。

 

過去の功績もそうだが、これはブライト中将なりの配慮だろう。

 

いくら異能を持っていようと所詮は貴族の子女。

 

何十、何百万人の犠牲が出るであろう戦争を間近で見れば平静ではいられるはずがない。

 

下手をすれば心が壊れるだろう。

 

それは二代目Ⅶ組にも言えるだろうが。

 

[キリコ side out]

 

 

 

「てっきりアンタが引き受けると思ったが」

 

「フフ、この場において、彼以上の適任者はおるまい」

 

会議が終わり、会食の準備が進む中、キリコはオーレリアと話していた。

 

「それはそうと、ミルディーヌ様の心の壁を取り去ったこと、褒めてやろう」

 

オーレリアは笑みを浮かべた。

 

「褒められる謂れはない」

 

「そういうな。そなたの生存が確認出来ぬ間はあまりに張り詰めていた。この会議そのものが頓挫するやもしれなかったのだ」

 

「そうか……」

 

キリコは会食前に雑談するゲストたちを見回した。

 

「……キュービィー」

 

「なんだ」

 

「そなた、本気でこの地を去るつもりか?」

 

「それで丸く収まるならな」

 

「イーグレット伯爵閣下にも言われたそうだな。ミルディーヌ様から離れるなと」

 

「俺にそんな資格はない」

 

キリコは別の場所へと行こうとした。

 

「F……フィアナ、だったか」

 

「…………………………」

 

「そなたの前世の恋人らしいが、やはりそちらを選ぶのか?」

 

「……フィアナは死んだ。いや…………」

 

キリコは振り返った。

 

「………俺が殺した…………」

 

「!?」

 

予想外の言葉にオーレリアは硬直した。

 

「………………………………」

 

キリコはそのまま行った。

 

「……………………」

 

オーレリアは呼び止めることすら出来なかった。

 

 

 

その後、各国首脳を含めた客人全員が饗応の間に集い、カイエン公爵家主宰によるささやかだが豪華な会食が始まった。

 

遅めの昼食だったが、参加者全員が舌鼓を打ちつつ会話に花を咲かせ、こういう機会でもなければ縁がないような出席者同士の交流も深められた。

 

楽しかった会食も終わり、とうとう今回の会議の目玉である千の陽炎作戦の内容が明かされた。

 

 

 

「以上が、大地の竜に対抗する千の陽炎の概要となります」

 

『………………………………………………』

 

遂に明かされた千の陽炎作戦の内容に会議の出席者以外は言葉をなくした。

 

「……やはり……………」

 

「大方、予想通りだけど……」

 

「こうして見てみると……凄まじい内容の作戦になりますね」

 

「おそらくゼムリア史上、類を見ないものとなるでしょう」

 

「……状況は把握しているからこうなった事情も理解はできます。でも、本気なんですか?」

 

エステルは会議の出席者たちに問いかけた。

 

「……大規模な徴兵によって帝国軍の兵力は激増しています。現時点でおよそ120万……開戦までもう少し増えるでしょう」

 

「対して共和国軍はどんなにかき集めても80万……対抗して徴兵しようにも先の選挙で政権自体が不安定だ」

 

「……っ!」

 

ランディの指摘にカエラ少尉は奥歯を噛んだ。

 

「加えて兵器の性能差に圧倒的な物量の差もありますね。飛行戦艦や主力戦車の性能差も現時点ではエレボニアが有利。機甲兵の存在も大きいでしょう」

 

「ええ……ヴェルヌ社の生産ラインが追いついていないということもあるけど。それ以上に、帝国はこの数年の積み重ねを全て戦争のために投入できる………」

 

「そうなると、2年前の戦争も布石だった可能性があるわけね」

 

レンはアリサの話から仮説を立てた。

 

「ええ、間違いないでしょう。4年前の我が国での異変、14年前の百日戦役すら……大地の竜の遠大な布石であったとわたくしたちは結論しています」

 

「ッ……」

 

「…………………………………」

 

「クソッたれが………」

 

アッシュ、ヨシュア、アガットは百日戦役という言葉に複雑な想いを抱いた。

 

「その大地の竜を制するのがミルディーヌ公女の千の陽炎。共和国軍、リベール軍、レミフェリア軍、ヴァイスラント決起軍。さらにレマン、オレドの義勇軍にクロスベル、ノーザンブリアの抵抗勢力」

 

「それら全てを連携させる対帝国軍・各個撃破作戦ですか」

 

「うむ、その通りだ」

 

ユーシスの指摘にロックスミス大統領は頷いた。

 

「先ほど出たように我がカルバードの総兵力は80万人。そこに決起軍10万人が協力する形となります」

 

「さらにレミフェリア公国軍の総兵力が8万人、リベール王国軍の兵力がおよそ12万人となりますね」

 

「加えてレマンとオレドの義勇軍が合わせて2万、クロスベルやノーザンブリアから1万が見込まれている」

 

カエラ少尉、ルーシー秘書官、アルバート大公はそれぞれの兵力を挙げた。

 

「他にも、非公式ながら教会の騎士団や典礼省直属の僧兵庁も動く段取りになっているのだろう」

 

「僧兵庁とやらはどれくらいが見込める?」

 

「3万だな。法国の治安維持全般を任されているから、数はかなりのものだ」

 

ガイウスは事情を知らない者たちに説明した。

 

「大小様々な猟兵団か。おおよそだけど4万は見込めるかな?」

 

「そんなに……」

 

「当然、あたしたちも入ってるよ」

 

「……星座はどれくらい投入する?」

 

「大隊一個ぐらいだから……1200人くらいかな」

 

「指揮は?」

 

「ガレスに任せるつもり。あたしはキリコとお坊っちゃんについてくから」

 

「本当に叔父貴は来ねぇんだな?」

 

「どっちが勝っても世の中荒れるだろうからって静観決め込むみたい」

 

『っ!』

 

シャーリィの遠慮のない言葉に、何人かが奥歯を噛む。

 

「それが戦争というものだ。あの百日戦役後、リベールも帝国もかなり荒れたと聞く」

 

見かねたカシウス中将が口を開いた。

 

「父さん……」

 

「………………」

 

エステルとアガットは複雑そうにカシウス中将を見た。

 

 

 

「続いて、人事に参りたいと思います」

 

ミュゼは全員に聞こえるように告げた。

 

「人事……」

 

「元々別個の軍事組織を連携させるのは至難であることは承知しています。そのため、会議で決定したのが本作戦の要となる人事です」

 

(それなら分校長なんじゃ……)

 

「リベール王国軍、カシウス・ブライト中将閣下に千の陽炎作戦の最高司令官をお願いすることになりました」

 

「……!」

 

「………な……………」

 

リィンとデュバリィは言葉をなくす。

 

「……クク。凄まじい手を考えやがる」

 

「カシウス・ブライトといえば教団掃討作戦でも総指揮を執った………」

 

「おまけに過去、帝国軍を破った当代最高の軍略家ですか……」

 

「……やっぱりそうなるのか」

 

「それを、父さんも引き受けたのね?その作戦が何をもたらすのか全部わかった上で」

 

ヨシュアとエステルは父を見つめる。

 

「ああ……史上最大規模の戦争……莫大な数の戦死者に民間人の被害も相当でるだろう。数十万、場合によっては数百万の犠牲者が出るかもしれん」

 

「だったら……!」

 

「……言うまでもなく最悪と言える選択肢だと思います。ですが、共和国侵攻の真の狙いが2つの至宝に関係するもの、そして帝国が呑み込んだ地域が呪いに侵されるとなれば話は別です」

 

クローディア王太女はエステルを制止しつつ、言葉を発した。

 

「あ…………」

 

「それは……」

 

「表と裏の連動………」

 

「そうだ。このままでは帝国は共和国を呑み込み、全土を呪いで染め上げるだろう。そうなれば最後、周辺諸国、そして大陸全土を呑み込んで行くはずだ。巨イナル一、だったか。究極の存在を生み出す目的のために」

 

(だとしたら、ワイズマンの目的はなんだ?)

 

キリコは宿敵の狙いを掴みあぐねた。

 

「それだけは避けなくてはならない。最悪の選択を撰んだとしても、世界を終わらせないために」

 

「……両殿下もご了承されたのですね?」

 

「……はい。元をたどれば帝国に端を発する話ではありますが」

 

「賛成はとても出来ませんが……皇帝家の人間として了承いたしました」

 

セドリックとアルフィンは毅然と答えた。

 

「……姫様………」

 

『……………………………………………』

 

リィンたちは複雑な表情を浮かべた。

 

 

 

「これが今回の会議の結論だ。我々が集まったのも理解してもらえたのではないかね?」

 

「その上で諸君らに問いたい。本作戦に同意するか否か。更に協力してもらえるかどうかを」

 

「当然、相談すべき相手が他にいるなどの事情もあるだろうが、時間がない。この場をもって返答をもらいたい」

 

「遊撃士協会、特務支援課。そしてトールズⅦ組メンバーを含む、トールズ士官学院の三者にな」

 

ロックスミス大統領らの言葉を受け、リィン、エステル。ロイドが代表してそれぞれ頷いた。

 

最初にロイドが前に出た。

 

「自分たち特務支援課はあくまでも旧自治州警察の一部署です。各国の方針に反対できる立場でもなく、事態の深刻さも理解しているつもりです」

 

ロイドは顔を上げた。

 

「ですが到底、作戦には同意出来ません。この事態を何とかするための可能性──あくまでそれを探っていきたいと思います。いつかクロスベルが自治と独立を堂々と取り戻せるようになるためにも」

 

「……!」

 

「……そうか………」

 

続いてエステルが前に出た。

 

「遊撃士協会も、作戦に同意は出来ません。あたしたちは支える籠手──民間人の安全と保護を第一とします。と言っても、首脳の皆さんがその結論に至った理由も分かるから……」

 

エステルは胸に手を当てた。

 

「だからレマン総本部に掛け合って民間人の避難準備はしてもらいます。同時に、ロイド君たちと同じく、あたしたちなりに他の解決の糸口を探る──それが遊撃士協会の総意です」

 

「エステルさん……」

 

「………フフ…………」

 

最後にリィンが前に出た。

 

「いまだ行方不明者も多いため、トールズ全体としてではありませんが……トールズのⅦ組として改めて意思表明をさせていただきます」

 

「《世の礎たれ》──思えばその言葉が自分たち全員の根底にずっとありました。無論、大戦の果てに呪いを制し、荒廃の中に礎を見出だす方法もあるにはあるでしょう」

 

「ですが、呪いは絶対ではありません。目に見えぬ大きな流れに翻弄されながらも懸命に抗い、手を繋ごうとする人々は大勢いる……自分たちはそれを確信しました」

 

「世界にとって保険は必要でしょう。そちらは千の陽炎にお任せします。ですが自分たちもギルドや特務支援課同様、第三の道を見出だしたいと思っています。呪いが引き起こした事件への対処、そして異界の干渉が混じり合った七の相克にどう向き合うか」

 

リィンは胸に手を当てた。

 

「残された時間はあまりに少なく、可能性があるのか動画すらわからない………ですが一歩一歩踏みしめつつ、前へ」

 

「それが亡きオリヴァルト殿下が目指していた道でもあるでしょうから」

 

「……あ………」

 

「……リィンさん………」

 

リィンの言葉はセドリックとアルフィンの胸に深く染み渡った。

 

「……グス……そうね………」

 

エステルは目尻をこすった。

 

「……オリヴァルト殿下が目指していた道、か」

 

ロイドは感慨深げに腕を組んだ。

 

「……ふふっ………」

 

ミュゼは微笑んだ。

 

 

 

「やれやれ……甘いというか、若いのう。だがいつの時代も世を変えるのは若者に馬鹿者か。そう思わんか、カエラ君」

 

「はい……100年前に革命を起こしたシーナ・ディルクも、うら若き乙女だったとか」

 

「加えてよそ者という説もありますな。いずれも枠組みに囚われぬ存在……考えてみればオリヴァルト殿下は全ての条件を満たしていらっしゃったのか」

 

「ハハ……そうですな。そしてその精神は確実に次の世代へと受け継がれている」

 

「皆さんのご意志、拝聴しました。千の陽炎は既に動いていますが、互いに配慮できればと思います」

 

「作戦の参加は不要──だが出来る範囲の協力はお願いしたい。情報共有や民間人への配慮などな」

 

「少なくとも大地の竜よりは互いに協力し合える余地は多かろう。リベール遊撃士協会に特務支援課、かつての大事件を解決した英雄たちが何をやってくれるか興味深くもある」

 

「……恐縮です」

 

「英雄なんて面映ゆいですけど、協会できそうな所はお願いします!」

 

ロイドとエステルの言葉をもって、今後の方針が固まった。

 

「ふう……一時はどうなるかと思ったが」

 

マキアスは肩を竦めた。

 

「厳しい状況も再認識したが、果たすべき使命も見えてきたな」

 

ラウラは腕を組んだ。

 

「はい、戦争開始までに出来ること──ううん、たとえ戦争が始まってもやれることはあるはずですよね!」

 

「ああ。それもⅦ組やトールズとしてどう動くか……教官たちの相克と合わせて見極めていく必要があるだろう」

 

「デッケェ借りもあることだしな」

 

「はい……!」

 

「………………」

 

二代目Ⅶ組は決意を固めた。

 

「ハハ……調子出てきたじゃねぇか」

 

クロウは笑みを浮かべた。

 

「まあ、少しばかり楽観的すぎる気もしますけど」

 

「良いんじゃない?これくらいは」

 

デュバリィの横でシャーリィが手を頭の後ろで組んだ。

 

『ウフフ、同感だよ』

 

不意にモニターが消え、スピーカーから音声が流れた。

 

 

 

「今のって……!?」

 

「この声、以前聞いた……」

 

「現れやがったか……!」

 

(奴か……)

 

キリコは頭を切り換えた。

 

「身喰らう蛇が執行者No.0──」

 

「カンパネルラ、お出ましね!」

 

『アハハ、やってるみたいだねぇ』

 

モニターにカンパネルラが映った。

 

「出たか、道化師……!」

 

『お久しぶりだねぇ、クローディア王太女にカシウス中将。こうして見るとそうそうたるメンバーが揃ってるじゃないか』

 

『ウフフ、そうでしょう?』

 

モニターに新たに金髪の女性が映った。

 

「ベル!」

 

「蛇の使徒第三柱、根源の錬金術師か……」

 

『公女殿下ならびに各国の首脳方もごきげんよう。初めての方も、お久しぶりの方もいらっしゃいますわね?』

 

(マリアベル・クロイス……!)

 

「ディーター氏のご令嬢か……噂には聞いていたが」

 

「今や犯罪組織の最高幹部か。いやはや、大胆不敵な娘だのう」

 

「あはは、それは同感だけどね」

 

『いやいや、お前さんも人のことは言えないんじゃねぇか?』

 

モニターに中年の男が映った。

 

『西風の旅団、参上するぜ』

 

「あれが西風の猟兵王……戦死したと聞いていたけど」

 

「団長……ゼノとレオもいるみたいだね」

 

『まあな。カシウスのとっつぁんも久しぶりだな」

 

「そうだな。娘をほったらかしにしてるとは思わなかったが」

 

『それについちゃあ、反論できねぇな』

 

ルトガーは頭を掻いた。

 

「カシウス中将もご存知とは……」

 

「かつては大陸に4人しかいないS級遊撃士の一人。遭遇しててもおかしくない」

 

「ちなみにランディさんはご存知でした?」

 

「噂でしか聞いたことねぇ。ただ親父と叔父貴には関わるなって聞かされたぜ」

 

「ま、ヤバいオジサンだってのは一目瞭然だしね」

 

「化け物呼ばわりはよしてもらいたいな……」

 

カシウス中将はため息をつくも、すぐに真顔に戻った。

 

『ハハ、それだけじゃないぜ』

 

『工房本拠地の時と同じとは思わないことだ』

 

『……失礼します』

 

さらに三人がモニターに追加された。

 

「シャロン……!」

 

「ジョルジュ君!」

 

「ここで来たか……」

 

「……先輩………」

 

「……レクター………」

 

『よっ、二人とも久しぶりだな』

 

レクター少佐は、クローディア王太女とルーシー秘書官を見た。

 

「ええっと、お二人はご存知なんですか?」

 

「ええ。彼とはリベールのジェニス王立学園の同窓でした」

 

「私の先輩にもあたります……」

 

「そうだったんですか……」

 

ユウナは府に落ちた。

 

『お嬢様、皆様も。ご無礼をお許しください』

 

「シャロン……貴女は……!」

 

アリサはキッとシャロンを見つめる。

 

『アン──あのまま枷に嵌められていれば良かったものを』

 

「あいにく、枷に嵌められるのは嫌いでね。それは君も知っているだろう?」

 

アンゼリカはジョルジュを睨んだ。

 

 

 

「これで揃ったということか?」

 

カシウス中将はカンパネルラに問いかけた。

 

「いや~、本当はもっといるはずだったんだけど何人か抜けちゃってさ。仕方ないから三人ほど連れてきたんだ」

 

カンパネルラがフィンガースナップを鳴らすと、モニターにミント色の髪の毛の青年と顔に包帯を巻いた女性が映った。

 

『ごきげんよう、皆様。僕は《棘(ソーン)》のメルキオル。よろしくね♪』

 

『お初にお目にかかります。私は《金色(アウルム)》のオランピア』

 

メルキオルとオランピアは挨拶をした。

 

『っ!?カンパネルラ、なぜこの二人を!』

 

シャロンはカンパネルラに対し、怒りの表情を見せた。

 

『そういえば、君ん所とは繋がりがあるんだよねぇ?言ってみれば、親戚じゃないの』

 

『メルキオル、あまり喋り過ぎるのは』

 

「な、何この人たち……!?」

 

「棘に金色だと……?」

 

「まさか……あなたたちは……!」

 

ヨシュアは最悪の答えにたどり着いた。

 

『さすがだねぇ、漆黒の牙♪君とは一度殺り合いたかったんだ♥️』

 

「な、なんだ……?」

 

「無邪気なまでの邪悪……!」

 

『ふう……それくらいで。もう一人は動き出しているだろうし、とりあえず君たちはここで果ててもらうよ』

 

「なんだと……!」

 

『それじゃ、後でね』

 

モニターが暗くなった。

 

 

 

「今のはハッキングか……」

 

「ええ。結社お得意の、《星辰(アストラル)コード》による介入かと」

 

ティオはキリコの言葉に続いた。

 

「ヨシュアはあの二人を知っているの?」

 

「顔を見るのは初めてだ。だが《庭園(ガーデン)》と呼ばれる組織に、棘や金色という幹部がいるのを思い出したんだ」

 

エステルの質問にヨシュアはそう答えた。

 

「庭園……」

 

「結社以上に謎と言われる暗殺組織ね」

 

「噂では、あの教団と月光木馬團という組織が合流してできた組織だという」

 

「あの教団……」

 

(月光木馬團……確かシャロンさんの……)

 

ロイドとリィンはそれぞれ思案した。

 

すると突然、アラートが鳴り響いた。

 

「これって……!」

 

「まさか、帝国の飛行艦隊か!?」

 

「いや──違う!」

 

『こちらブリッジ、緊急連絡します!9時方向から真紅の飛行艇が8隻接近!そ、その後方には280アージュ級の巨大飛行船を確認!』

 

スピーカーからパンタグリュエルクルーの焦りの声が響いた。

 

(真紅の飛行艇に280アージュ級の巨大飛行船だと……)

 

「チッ、そいつは──」

 

「まさか……リベールの異変で表れたっていう!?」

 

「ええ身喰らう蛇が所有する史上最大の戦闘飛行空母……」

 

「紅の方舟、グロリアスよ」

 

 

 

レンがいい終えると、モニターに真紅の戦闘空母が映った。

 

「あ、あれが……!?」

 

「なんて大きさだ……」

 

グロリアスのあまりの大きさに、ユウナとクルトは言葉を失う。

 

「なるほど……予告通りとなったか」

 

「しかも帝国の艦隊などではなく、結社の戦闘空母とはなぁ」

 

周囲に反して、アルバート大公とロックスミス大統領は落ち着いていた。

 

「ど、どういう意味ですか?」

 

「まるでこの事態を予期していたかのような……」

 

「……会議の最後、公女殿下がある一つの予言をされたんです。この空域に帝国の飛行艦隊か結社の戦闘空母が現れるだろうと」

 

クローディア王太女が説明した。

 

「帝国の飛行艦隊ならばある意味、戦争の抑止力にはなった。この空域は国境上空。各国の首脳が乗っていると伝えれば帝国軍も無理に攻撃はできまい」

 

(たとえ拿捕されてもあくまで国家間の交渉となるだろうからな)

 

「そ、そうなれば一旦、戦争どころじゃなくなる……その可能性に賭けてたんですね?」

 

「……ですが、彼らはそうせずに結社の戦闘空母を繰り出してきた。首脳方をこの地で葬り、更なる開戦の薪とするために……」

 

「あ………」

 

エリィの言葉にティータの顔が青くなった。

 

「クソが……事が成ったら共和国軍の仕業にするつもりかよ!?」

 

「冗談じゃないわ!そんなにこと認められない!」

 

「ええ──支える籠手の名に賭けて!」

 

エステルとサラは闘志を燃やす。

 

「にしてもあんたら……こうなるのをわかってて俺たちを呼んだんだな?」

 

「はい。丁度良いので当てにさせていただきました」

 

「クク、心配せずともゲストの脱出路は確保している。それぞれの手勢を半分に分けて格納庫まで同道してもらおうか」

 

「甲板から敵部隊から多数入り込んでいる。残り半分はそちらの対処を頼みたい。右舷と左舷、二手に分かれてくれ」

 

「そこまで織り込み済みかよ!」

 

オーレリアたちの手腕にランディが思わず突っ込んだ。

 

「良いように使ってくれる……!」

 

「時間がない……!とにかく分担を決めましょう!」

 

「了解です──!」

 

リィンは右舷か左舷に向かう人員を決め始めた。

 

「キュービィー、その格好では戦えまい。急いで支度を整えよ」

 

「ああ」

 

キリコは近くの部屋に入り、準備を整えた。

 

 

 

右舷と左舷に行くメンバーが決まった。

 

右舷はリィンやロイドなどの男性チーム、左舷はエステルやエリィの女性チームとなった。

 

「──フフ。では行くとしようか」

 

「兄様、皆さん、ご武運を……!」

 

「キリコ君も気をつけてね!」

 

「了解です」

 

「シャーリィさん、お願いしますね」

 

「任せなよ」

 

キリコとシャーリィははカシウス中将、ユリア少佐、オーレリア、ウォレス少将、カエラ少尉らと共にゲストの護衛に回った。

 

「エステルたち、ロイド君たち──そしてリィンたちもよろしく頼んだぞ!」

 

「うん……!」

 

「ええ!」

 

「お任せを!」

 

エステル、ロイド、リィンは頷いた。

 

その隣ではティオたちが分析を行っていた。

 

「現在、結社の強化猟兵部隊と西風の連隊長が突入しているようです」

 

「ゼノとレオが来てるんだ。一筋縄じゃいかないね」

 

「強化猟兵ならギルバートたちか……練度はともかく人形兵器は厄介ね」

 

フィーとエステルはそれぞれを分析する。

 

「さらに、二名ほど、別の箇所から入り込んでいるようです」

 

「やれやれ、気の早いことだ」

 

「では行くとしましょう」

 

カシウス中将の一声でそれぞれが向かう場所へと出発した。

 

 

 

「なぁ、道化師さんよ」

 

グロリアスの船内では、ルトガーがカンパネルラに詰めよっていた。

 

「お前さん、正気か?」

 

「正気って、彼のこと?」

 

「ああ。よりによってあの化けモンを連れてくるなんてよ……!」

 

「やっぱり知ってたか……」

 

カンパネルラはため息をついた。

 

「一応、脱出路だけを通る者だけを相手にしてって言い含めてるんだけどね」

 

「そういう問題じゃねえ。あいつが動くってことが何を意味するのかってことだ」

 

「……《姿無き災厄(インビジブルテンペスト)》。あらゆる国や組織の部隊を屠っては目撃者さえ出さない徹底したやり口からこう呼ばれているんだっけ?」

 

「団を立ち上げる前、とある猟兵団にいた俺はあいつ一人に部隊を全滅させられたからな」

 

ルトガーは苛立ちまぎれに言った。

 

「はっきり言ってただじゃ済まねぇだろう。たとえカシウスのとっつぁんや黄金の羅刹がいてもな」

 

「………キリコがいても?」

 

「おそらく………」

 

カンパネルラとルトガーはパンタグリュエルを見つめる。

 

 

 

[キリコ side]

 

「来たか」

 

「待ちくたびれたぜ」

 

俺たちの目の前に、イプシロンと古風な甲冑に身を包んだ男が立ちふさがった。

 

「イプシロン……」

 

「ジュノー以来だな……パーフェクトソルジャー」

 

「既に知っていたか。なら私に勝てないのは分かっているだろう」

 

「フッ、負けぬ自信があるから言っておるのだ。もっとも、そちらの方が幾分かそそるがな……」

 

「ククク……分かってるみてぇだな」

 

「私語はここまでとしよう。いったい何者だ」

 

カシウス中将の目付きが険しくなる。

 

確かにこいつはただ者じゃない。

 

「俺はアリオッチってもんだ。《鏖殺》なんて呼ばれ方もするがな」

 

「……なんだとっ!」

 

カシウス中将は舌打ちをした。

 

「カシウス殿、ご存知か」

 

「大陸東部では〝戦場で絶対に遭遇したくない存在〟の一人と恐れられている存在です。まさか結社と繋がりがあったとは」

 

「戦場で絶対に遭遇したくない存在、ですか……」

 

「この状況なら、結社の一員と言われても不自然ではないようですね」

 

「あ~~、生憎だが俺は結社の関係者じゃねぇ。外部の助っ人ってやつさ」

 

(助っ人だと?)

 

「大統領さんなら知ってるんじゃねぇか?《A》をよ」

 

「A……!」

 

「まさか……」

 

ロックスミス大統領とカエラ少尉が顔をしかめる。

 

どうやらこいつは共和国方面から来たようだ。

 

「ご用件は、私たちの命でしょうか?」

 

ミュゼが毅然と言い放った。

 

「まあな。ついでにこの艦を沈めることだな」

 

アリオッチは笑いながら言った。

 

「くっ……!」

 

「戦いに悦びを覚えるタイプですか……!」

 

ユリア少佐はレイピアを、ルーシー秘書官は小型拳銃を抜いた。

 

「ならせっかくだ」

 

カシウス中将が前に出た。

 

「ここには俺を含め、腕利きが数人いる。多対一だが、やり合ってみるか?」

 

カシウス中将は棒を構える。それにオーレリア、ウォレス少将も続く。

 

「キリコ君、君はそちらの彼とも因縁があるんだろう?紅の戦鬼共々そっちを頼む」

 

「了解……」

 

「ジュノーでの借り、ここで返すね♪」

 

俺とシャーリィはイプシロンと対峙した。

 

「僕を忘れてないかい?」

 

セドリックが隣に立つ。

 

「セドリック……」

 

「最後までよろしくと言ったはずだよ」

 

……そうだったな。

 

「お坊ちゃんのくせに見上げたもんだね」

 

「お坊ちゃんはやめてくださいってば」

 

「無駄口はそこまでだ。あいつは強いぞ」

 

「わかるよ……尋常じゃないってことくらい……!」

 

「1ミリジュの油断も許されないと思え」

 

「上等──!」

 

セドリックはサーベルを構える。

 

「待たせた」

 

俺もアーマーマグナムを抜く。

 

「構わん……死ね!」

 

イプシロンが一気に踏み込んで来た。

 

「っ!」

 

俺はアーマーマグナムの引き金を引いた。

 

[キリコ side out]

 




次回、イプシロン&アリオッチとの激闘です。

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