英雄伝説 異能の軌跡Ⅱ   作:ボルトメン

45 / 56
遅くなりましたが、2022年最初の投稿です。


鏖殺

「死ねっ!キリコ!」

 

イプシロンは長槍を振り回し、キリコを執拗に狙っていた。

 

「っ!」

 

キリコはギリギリでかわした。

 

「メルトスライサー!」

 

セドリックがクラフト技でイプシロンの背後から斬りかかった。

 

「甘い!」

 

「がっ!?」

 

セドリックの攻撃を見切っていたイプシロンは即座に反撃に出た。

 

セドリックは長槍の石突きで腹部を打たれ、体勢が崩れた。

 

「マーダーストレイフ!」

 

イプシロンの真横からシャーリィのクラフトが飛んできた。

 

「チッ!」

 

イプシロンは回避を優先した。

 

「アーマーブレイクⅡ」

 

その隙を狙ってキリコがクラフト技を放った。

 

「当たらん!」

 

イプシロンには命中しなかった。

 

(この反応は……?)

 

キリコはセドリックに薬を渡しながら、違和感を感じていた。

 

「す、すみませんシャーリィさん……」

 

「次は助けないからね」

 

「分かりました……!」

 

シャーリィの喝にセドリックはさらに気合いを入れた。

 

(今まで殺し合ってきた俺だから分かる。イプシロンの反応速度は以前と全く変わらない)

 

(黒の工房で調整を受けてなかったのか……?)

 

(それとも、わざとか?)

 

 

 

「ククク、大したタマじゃねぇか」

 

アリオッチはオーレリアの宝剣を受け止めながら、セドリックを横目で見た。

 

「いやマジで恐れ入った。普通なら萎縮しちまって無様な面になるもんだが、皇族ってのも捨てたもんじゃねぇな」

 

「将来、帝国の頂点に立つ御方だ。侮辱は止めてもらおう!」

 

オーレリアは一旦下がり、宝剣を振り下ろした。

 

「おっと!」

 

アリオッチは回避し距離を置いた。

 

「もらったっ!!」

 

先回りしていたウォレス少将が槍を打ち込んだ。

 

「ふっ……」

 

アリオッチは落ち着きを払い、槍の柄を掴んだ。

 

「ぐっ……!」

 

ウォレス少将は槍を押し込もうとするが、びくともしなかった。

 

「良い読みだったが、ちと強引だな」

 

(この力……なんだこいつは!)

 

「さてと、ぼちぼち反撃といくかね」

 

アリオッチは槍を振り払い、戦斧をでウォレス少将に襲いかかる。

 

「くっ!」

 

ウォレス少将は身体を逸らして回避しようとした。

 

「甘ぇ!」

 

アリオッチはさらに踏み込んだ。

 

(この速さは!?)

 

「でやっ!」

 

カシウス中将が戦斧に棒を叩きつけ、軌道をずらした。

 

「大丈夫か!」

 

「カシウス中将!かたじけない!」

 

「オーレリア将軍!」

 

「応!」

 

カシウス中将の動きに合わせ、オーレリアが宝剣を振り下ろした。

 

「ぐおっ!?」

 

アリオッチは風圧で胸部を斬られた。

 

「合わせろ少将!」

 

「了解!」

 

さらにウォレス少将が槍を打ち込んだ。

 

「うおっ!?」

 

アリオッチは脇腹に被弾した。

 

「ちいっ!」

 

アリオッチはオーレリアらから距離を取った。

 

「これが鏖殺か……!」

 

「絶対に遭遇したくない存在……これほどのものとは……!」

 

「それでも臆するわけにはいかない。ここで倒れれば、千の陽炎そのものが潰滅する」

 

「さらに気合いを入れねばな!」

 

「無論です!」

 

カシウス中将らは最大限に集中した。

 

 

 

「くらえっ!」

 

イプシロンは長槍の連続突きを放った。

 

「は、速い……!?」

 

「ああ、うざったい!」

 

「防御に徹しろ。俺が抑える」

 

キリコはイプシロンの攻撃が止んだと同時に接近した。

 

「焦ったか!エアストライク!」

 

イプシロンは平静を保ちつつ、風属性のアーツを放った。

 

「くっ!」

 

キリコはギリギリで受け流し、アーマーマグナムの銃口を向けた。

 

「遅いっ!」

 

イプシロンはアーマーマグナムを長槍で払い、キリコに長槍を突き立てた。

 

「っ!!」

 

キリコの脇腹に長槍の穂先がかすり、出血した。

 

だがキリコも脇を締めて長槍を押さえた。

 

「キリコさん!」

 

「もらったっ!」

 

シャーリィがイプシロンの背後に回り、襲いかかった。

 

「甘いっ!」

 

イプシロンは長槍を離し、体を捻る。

 

「い゛!?」

 

そのままトラース・キックで反撃した。

 

「うぐっ!」

 

イプシロンのトラース・キックは腹部を正確に貫き、シャーリィの動きを鈍らせた。

 

「その程度の奇襲が通じる私ではない!」

 

「なら……これはどうよ?」

 

シャーリィはイプシロンの脚が離れる前に掴んだ。

 

「何!?」

 

「ここまで段取ったんだから決めてよね……!」

 

「ええ!!」

 

シャーリィの後ろからセドリックが飛び出す。

 

「タリスマンソード!」

 

セドリックのクラフト技がイプシロンに炸裂した。

 

「ぐはっ!?」

 

完全に不意を突かれたイプシロンは体勢を大きく崩した。

 

「クリアブラストⅡ」

 

キリコのクラフト技が追い打ちをかける。

 

「くっ!キリコォォォッ!!」

 

イプシロンの表情は苦悶に歪む。

 

如何にパーフェクトソルジャーと言えど、ダメージを受ければ隙が生まれる。

 

その隙を察知したキリコはイプシロンに接近する。

 

「終わりだ……!」

 

大型ナイフをイプシロンの腹部に突き刺した。

 

「キ、キリ……コ……!!」

 

「…………………………」

 

イプシロンは血を吐いて倒れた。

 

 

 

「これほどとは……!」

 

「闇の相場にて、小国の国家予算並みの懸賞金がかけられたという突拍子もない噂がたてられたが、信じるしかなさそうですな」

 

「……閣下もその事を………」

 

「ええ。長いこと政治屋をしていると、ほの暗いモノは嫌でも耳にすることもあります」

 

ミュゼの言葉をロックスミス大統領はそう返した。

 

「しかし、腕利きであることには変わりない。彼らも苦戦するわけだ」

 

「……ええ。認めざるを得ないようです」

 

カエラ少尉は複雑そうにキリコを見た。

 

「大統領閣下、今は良いのでは?」

 

「ピンチであることに変わりはありませんし……」

 

クローディア王太女とアルフィンは心配そうに身構えた。

 

「これから国務を担う貴女方に一つ助言をさせていただきます」

 

ロックスミス大統領は二人の方を向いた。

 

「分の悪い勝負こそ、己の直感を信じることです」

 

「直感……」

 

「私は彼らに勝利を託しました。後は後ろで構えていればよいのです。ミルディーヌ公女殿下、貴女もそうなのでは?」

 

「…………………」

 

ミュゼは一旦、間を空け、顔を上げた。

 

「はい。私も、彼らに託しました」

 

「ミルディーヌ……」

 

「お強くなられましたな。ご両親も草葉の陰で喜ばれておられるでしょう」

 

「ふふ、ありがとうございます」

 

ミュゼはアルバート大公に礼を言い、キリコの方を向く。

 

(……キリコさん………)

 

 

 

「やったか、キュービィー」

 

「閣下と紅の戦鬼を真っ向から破ったというパーフェクトソルジャー……恐ろしい相手でしたな」

 

(なんという男だ……追い込まれても顔色一つ変えずに。こりゃとんでもない奴が現れたな……)

 

カシウス中将はキリコの力量に、フッと笑みを浮かべる。

 

「ククク、やるじゃねぇか」

 

アリオッチはイプシロンを倒したキリコを見て、ニヤリと笑う。

 

「18のガキってハナシだが、あの風格はかなりの修羅場を潜ってねぇと出せねぇ」

 

「…………………」

 

「ただ、ちと真面目過ぎるな」

 

「何?」

 

オーレリアは怪訝な顔をした。

 

「もっと殺し合いを楽しめよ。んな突っ張ったツラじゃ息が詰まるだろうよ」

 

アリオッチは笑みを浮かべる。

 

「…………………」

 

「へぇ?」

 

シャーリィは不敵に微笑んだ。

 

(ギリッ……!)

 

ウォレス少将は奥歯を噛む。

 

「悪いがそんな余裕はない」

 

キリコはアーマーマグナムに弾丸を装填した。

 

「さっさと倒す」

 

「フッ、そう来なくてはな」

 

「こっからは喰い合いだよ……!」

 

オーレリアとシャーリィは獰猛な笑みを浮かべる。

 

「殿下、参りましょうぞ」

 

「無論です、少将……!」

 

セドリックとウォレス少将は得物を構える。

 

「これも若さか。俺もまだまだ負けられんな」

 

カシウス中将は前に出た。

 

「引退するつもりはないようだな?」

 

「君たち若者を時に導き、時に壁として立ちはだかるのも、年長者の務めだからな」

 

キリコの問いにカシウス中将は泰然と答えた。

 

「ハハハ、良いねぇ。とりあえずは」

 

アリオッチはイプシロンに近づき、懐から水晶のようなものを取り出した。

 

そして魔法陣を形成し、イプシロンを転移させた。

 

(イプシロン……)

 

「そちらも持ってたんだ、ソレ」

 

「生憎、俺は魔術なんかは使えねぇんでな。そんじゃ、始めるとするかね……!」

 

アリオッチの表情が変わり、凄まじい闘気が溢れ出る。

 

「っ!?」

 

「なんという気当たり……!」

 

「ここからが正念場か」

 

「そんじゃ、行こっか!」

 

「行くぞ!!」

 

カシウス中将の指揮の下、キリコたちはアリオッチに挑む。

 

 

 

「イプシロンがやられたみたいだね」

 

パンタグリュエルの甲板でカンパネルラが呟く。

 

「彼、でしょうか」

 

「間違いないだろうね。やっぱり学習プログラムだけじゃあ、無理みたいだ」

 

「じゃあ、どうすんだ?」

 

「ロッチナ、つまりルスケ大佐曰く、イプシロンには身を焦がすほどの憎悪が必要らしい。意地になって何もしなかった工房長には気の毒だけど、勝手に進めさせてもらおうかな」

 

「……どうだっていい」

 

黒のアルベリヒの名を聞いたレクター少佐は顔をしかめた。

 

「OZシリーズの片割れだっけ?大層なお人形らしいけど、それこそどうだって良くない?もう死んじゃったんだからさ」

 

「っ!」

 

クレア少佐はメルキオルに怒りの視線を向ける。

 

「アハハ、怒った?ゴメンね~、僕って結構壊れちゃってるからさぁ~♪」

 

「この……!」

 

「メルキオル、お戯れはそこまでで。そちらもどうかお静まりください」

 

オランピアが止めに入った。

 

「聞きしに勝る人たちのようだね」

 

「僕だって本当は呼びたくなかったよ。だけど他にいなくて」

 

「あのお二人は?元月光木馬團の」

 

「破戒と黄金蝶は別件でノーザンブリアに行ってもらったよ。何より、聖女さんが猛反対してさ」

 

「あのお二人の力を考えるなら、至極当然かと」

 

クルーガーは顔をしかめながら言った。

 

(やれやれ……こりゃ負け戦になりそうだな)

 

ルトガーは嘆息した。

 

その数分後、遊撃士協会、特務支援課、新旧Ⅶ組が到着した。

 

 

 

「ククク……こんなもんか?」

 

「チッ!」

 

「しぶとい……!」

 

オーレリアとウォレス少将は舌打ちをした。

 

オーレリアたちは数の差を以て、相手を圧倒していた。

 

だがアリオッチの桁外れのタフネスと身に纏う甲冑の不可思議な力の前に疲労が蓄積されていった。

 

「あの甲冑がなんかアヤシイよね……」

 

「ああ。もしかすると、人外の代物なのかもしれん……」

 

「人外……古代遺物、か?」

 

「ああ。そのとおりだ」

 

キリコの指摘にアリオッチは笑った。

 

「《羅喉の牙》っつってな、甲冑と戦斧を合わせて一つの古代遺物なのさ」

 

「羅喉の牙……」

 

「ハハ、冗談であってほしいな……!」

 

セドリックは軽口を叩き、揺れかけた闘志を持ち直させた。

 

「クク、あいにく冗談じゃあねぇのさ。お前さんなら分かるだろ?」

 

アリオッチはカシウス中将を見た。

 

「……先ほど打ち込んだ箇所が修復しつつある。その奴の言うとおり古代遺物なのだろう」

 

「だ、そうだぜ?」

 

「それってブッ叩いたらその都度治ってくってこと?」

 

(加えてこのタフさ、これほど面倒な敵は記憶にないな……)

 

「だが絶望するには早計だ。治っていくというなら、修復力を上回る攻撃に出ればいい……!」

 

「ふ、リベールの剣聖殿は随分とスパルタですな……!」

 

「だが、真理ではあるな!」

 

「そんじゃ、次行ってみよっか!」

 

「行きましょう!」

 

ウォレス少将、オーレリア、シャーリィ、セドリックに闘志がみなぎる。

 

「君はどうだ?キリコ君?」

 

「言われるまでもない」

 

キリコは集中力を高める。

 

「ハッハッハ!来な!」

 

アリオッチは戦斧を構えた。

 

 

 

「フレイムグレネードⅡ」

 

キリコの先制攻撃を皮切りに、カシウス中将たちは動き出した。

 

「ブラッディークロス!」

 

「メルトスライサー!」

 

シャーリィとセドリックが先陣を切った。

 

「ハアッ!!」

 

アリオッチは構わず突っ込んだ。

 

「コイツ……!?」

 

「ハンティングスロー」

 

キリコはオーレリアらに紛れて投げナイフを放った。

 

「甘えっ!」

 

アリオッチは兜の鉢金で投げナイフを防御した。

 

「なら……」

 

キリコは冷静にアーマーマグナムの引き金を引いた。

 

「続くよ!ゼルエル・カノン!」

 

セドリックは火属性の最上級アーツを放った。

 

「チッ!」

 

視界を遮られたアリオッチは真横に飛ぶ。

 

「良い仕事をしてくれる……!」

 

予め待機していたカシウス中将はアリオッチに連続突きを叩き込んだ。

 

「かはっ!?」

 

アリオッチは体勢を崩し、隙を見せた。

 

「四耀剣!」

 

「光牙一閃!」

 

オーレリアとウォレス少将がクラフト技を放つ。

 

「ぐおっ!ハ、ハハハ……!良いぜ、それでこそ殺しがいがある!!」

 

アリオッチは戦斧に闘気を纏わせ、薙ぎ払った。

 

「「っ!?」」

 

オーレリアとウォレス少将は防御したが、あまりの衝撃に後退させられた。

 

「まだまだぁ!!」

 

アリオッチはさらにキリコとセドリックに狙いを定めた。

 

「このっ!」

 

シャーリィがカウンターを取るべく斬りかかった。

 

「無駄だっ!!」

 

「っ!?」

 

アリオッチのクラフト技を受けたシャーリィは吹っ飛ばされた。

 

「シャーリィさん!?」

 

「余所見するな!」

 

キリコはセドリックを突き飛ばした。

 

「おらぁっ!!」

 

そのままアリオッチの一撃を受けた。

 

「っ!?」

 

キリコは吹っ飛ばされ、鉄柵に激突した。

 

「く……!」

 

「キリコさん!」

 

「まだ終わってねぇぞ!!」

 

アリオッチはキリコを追撃する。

 

「させん!!」

 

カシウス中将がアリオッチの戦斧を棒で受け止めた。

 

「邪魔するんじゃねぇ!!」

 

アリオッチはさらに力を加えた。

 

「くっ!」

 

カシウス中将は徐々に押し込まれる。

 

「カシウスさん!」

 

「中将!ならば──」

 

「手出しは無用だ!」

 

カシウス中将は飛び出そうとするユリア少佐を押し留めた。

 

「中将……」

 

「まだ負けていない!」

 

「ハッ!痩せ我慢なら止めときな!!」

 

アリオッチはさらに戦斧を押し込む。

 

「くっ…………こんなものか……」

 

「なにぃ………ぐおっ!?」

 

アリオッチの右腕が何かに弾かれた。

 

「て、てめえ……!」

 

「………………………」

 

アリオッチの右腕を撃ったのはキリコだった。

 

「ゼルエル・カノン!」

 

「イクシオン・ボルト!」

 

セドリックとウォレス少将の火と風の最上級アーツがアリオッチを襲った。

 

「ぐあっ!?」

 

「ディザスター・オブ・マハ!!」

 

「奥義 剣乱舞踏!!」

 

立て続けにシャーリィとオーレリアのSクラフトが炸裂した。

 

「ぐ、ああああっ!?こんなんじゃ……俺は……!」

 

「なら終わらせる。キリコ君、行くぞ!」

 

「ああ……!」

 

カシウス中将とキリコがアリオッチに突っ込む。

 

「奥義 鳳凰乱舞!!」

 

「フレア・デスペラード」

 

カシウス中将とキリコのSクラフトはアリオッチに叩き込まれた。

 

「ぐおおおおっ……ぐっ!!ハハ……沁みたぜ………!」

 

甲冑にヒビが入り、アリオッチは膝をついた。

 

カシウス中将たちはようやく、強敵アリオッチを倒した。

 

 

 

「はぁ……はぁ……はぁ……た、倒した……?」

 

「油断めされるな、殿下」

 

「最後まで気は抜かない……!」

 

オーレリアとシャーリィはセドリックを窘めつつ、動かないアリオッチを注視し続ける。

 

「キュービィー、まだ動けるなら一気に仕留めるぞ……!」

 

「…………………」

 

キリコは頷き、アーマーマグナムの銃口をアリオッチに向けた。

 

「ククク……やっぱ面白ぇな」

 

アリオッチはゆっくりと立ち上がった。

 

『!!』

 

一気に緊張が走った。

 

「十分に楽しめた。これ以上は野暮ってもんだろ」

 

アリオッチは笑みを浮かべながら言った。

 

(化け物か……)

 

(コイツ……!)

 

キリコとセドリックはアリオッチのタフネスに閉口した。

 

「ならば早々に立ち去るがよい。武人の誇りが残っているな」

 

「クク……仕方ねぇ──!?」

 

『!?』

 

突如、激しい揺れに見舞われた。

 

「これは……!?」

 

「爆発音!?」

 

「既に仕掛けていたか……」

 

「チッ!あの野郎……!」

 

アリオッチは背後を睨みつけた。

 

「……どうやら意図していなかったようだな?」

 

「ああ。本来ならお前ら全員ブッ殺して一気にカタをつけるつもりだったんだがな」

 

「我々に敗れることも計算に入れていたか。どこの誰かは知らないが、侮れんな」

 

カシウス中将は軍服の埃を払った。

 

「それで?引くのか?」

 

「仕方ねぇな。今回は引いてやるよ」

 

アリオッチは戦斧を肩にかけた。

 

「それにしても千の陽炎ね………。絵空事にしちゃ上出来だな」

 

アリオッチはVIPたちを見据える。

 

「絵空事だと……?」

 

「ああ。どんなに取り繕おうと、戦争を起こすことに変わりねぇ。てめぇの手を一切の血で染めずにな」

 

「っ!」

 

「まあ、戦争をやりたい連中ってのはそんなもんだろうよ。今回はガキらしいが」

 

「何が言いたい」

 

「振り回すだけ振り回す身勝手なガキに付き合わされる苦労にゃ同情しちまうぜ」

 

「黙れ!」

 

オーレリアはアリオッチに斬りかかった。

 

「っと。じゃあな」

 

オーレリアの斬撃を回避したアリオッチは転移して行った。

 

(ここまで……ですか)

 

ミュゼは気づかれないよう少しずつ下がり、甲板とは真逆の方角に歩いて行った。

 

この時、ミュゼの胸にあったのは後悔と悲嘆と諦観だった。

 

(これで……良いんです。世界を振り回した身勝手な小娘、それが私に似合う姿です)

 

ミュゼは振り返ることなく、姿を消した。

 

 

 

「どうやら危機は脱したようですな」

 

ロックスミス大統領は胸を撫で下ろした。

 

「ええ、そのようです」

 

アルバート大公は疲労を感じていた。

 

「では参りましょう。一刻も早く──」

 

「待ってください!」

 

アルフィン皇女が声を張り上げた。

 

「アルフィン?」

 

「ミルディーヌが!」

 

「何!?」

 

カシウス中将らは辺りを見回すが、影も形もなかった。

 

「まさか……!」

 

「戻られたのか……!?」

 

「…………………」

 

キリコはアーマーマグナムを腰のホルスターに戻した。

 

「……行ってくれるか?」

 

「すぐ戻る」

 

キリコは出発しようとした。

 

「「キリコさん!」」

 

アルフィン皇女とエリゼが引き止めた。

 

「?」

 

「あの子をお願いします!」

 

「どうか!どうか!」

 

「わかった」

 

二人の懇願を聞いたキリコは走り出した。

 

「……彼は大丈夫なのか?」

 

「キュービィーならば大丈夫でしょう。奴には散々手を焼かされましたから」

 

「フム……帝国の貴族軍が一機の機動兵器に手こずったという噂は本当のことだったのだな」

 

「生身でも強く、機甲兵に乗ればさらに強い。戦いにおいて奴ほどの大駒はおりますまい」

 

「まったくだ。まあ、あの愛想の無さは珠に傷だがな」

 

「そうか……(先ほどの動き、おそらくあばら骨を痛めている。何事もなければ良いのだが)」

 

カシウス中将らは先を急いだ。

 

 

 

[キリコ side]

 

(さすがに隠せないか……)

 

イプシロンと鏖殺から受けたダメージは確実に残っていた。

 

呼吸をする度に痛みがはしり、目も眩みそうになる。

 

だが止まるわけにはいかなかった。

 

俺の予想が正しければ、ミュゼは命を絶つつもりだろう。

 

会議が始まる前から不安定なのはわかっていた。

 

どれだけ気丈に振る舞おうと、修羅場に身を置いたことのない少女に過ぎない。

 

一つ一つの言動や決断で誰かが死ぬとなれば、誰だって追いつめられる。

 

それに加え、鏖殺の去り際の言葉が引き金になったのだろう。

 

自分が死ねば後は何とかなるとでも思っているんだろうが、こんな所で無駄死にさせるわけにはいかない。

 

(ミュゼ、お前は俺とは違う。お前は死ぬべきじゃない)

 

 

 

(どうやら予め仕掛けてあったようだな)

 

あちこちから爆発音が響き、火の手が上がっている。

 

だが簡単に墜ちないような配置になっているようだ。

 

いくら大型艦と言えど、エンジン部分をやられれば簡単に墜ちる。

 

真綿で首を締めるようにじわじわと夥り殺しにするのが道化師の目的かもしれないな。

 

(急がなくては……)

 

俺は速度を速めた。

 

 

 

ようやく、俺は貴賓室のドアの前にたどり着いた。

 

「………………」

 

ドアを開けようとしたが、鍵が掛けられていた。

 

「離れていろ」

 

俺はアーマーマグナムでドアノブを破壊し、ドアを蹴破った。

 

「ッ!」

 

「………………」

 

俺はミュゼに、銃を向けられた。

 

[キリコ side out]

 

 

 

遠くから爆発音が響く中、キリコとミュゼは向かい合っていた。

 

「来ないでください……!」

 

「………………」

 

キリコは一歩踏み出そうとした。

 

「来ないで!」

 

ミュゼの銃を握る手に力が加わる。

 

「もう……これしかないんです………」

 

「死ぬことがか?」

 

「貴方だってわかっているんでしょう!?私のやっていることは……ただの身勝手だって!」

 

「お前がそう思うならそう思えばいい」

 

キリコはさらに一歩踏み出す。

 

「だが、他人を巻き込んだ責任をどう取る?」

 

「だからっ!ここで死んで──」

 

「そんなものに意味はない」

 

キリコは切り捨てた。

 

「お前のはただの無駄死にだ」

 

「ッ!貴方に何がっ!」

 

「お前は俺と違う。背負っているものは他にもあるはずだ」

 

「ッ!」

 

ミュゼは目を瞑った。

 

「それに……」

 

「それに……?」

 

「アルフィン皇女とエリゼ・シュバルツァーから頼まれている。お前を絶対に連れてこいとな」

 

「あ………」

 

ミュゼは目を逸らした。

 

「ここもじきにもたなくなる。早く決めろ」

 

「わ、わたしは……」

 

ミュゼは銃を下ろす。

 

「ッ!伏せろ!」

 

突如、爆発が起こり、キリコはミュゼを庇うように覆い被さった。

 

それと同時に窓が割れ、爆風が襲った。

 

 

 

「う、うーーん………」

 

ミュゼはゆっくりと目を開けた。

 

「無事か?」

 

「は、はい………!?」

 

ミュゼは目を見開いた。

 

「キ、キリコさん!」

 

「……かすり傷だ」

 

「な、なに言って……」

 

キリコの肩や背中にはガラス片が多数突き刺さっていた。

 

「大したことじゃない」

 

キリコは立ち上がった。

 

「立てるか?」

 

「せ、せめて治療を……ぁ痛っ!」

 

回復アーツを唱えようとしたミュゼは足首の痛みに目を瞑った。

 

「捻ったか」

 

「すみません……」

 

「なら……」

 

キリコはミュゼの足首に木片を当て、白い布で縛った。

 

「歩けるか?」

 

「ゆ、ゆっくりなら……」

 

「(……仕方ない)悪いが我慢してくれ」

 

キリコはミュゼを抱え上げた。

 

「ふえっ!?」

 

所謂お姫様抱っこをされたミュゼの顔は一気に真っ赤になった。

 

「嫌だろうが、甲板まで我慢してくれ」

 

「い、いいいい嫌じゃないです!ととと突然のことででで……(あうう……お姫様抱っこなんて、私……!)」

 

ミュゼの頭の中は大混乱に陥った。

 

「あまり動くな」

 

「は、はいいいいいっ………」

 

ミュゼはキリコの言うことを素直に従った。

 

「行くぞ」

 

キリコはミュゼを抱えたまま、甲板を目指して走り出した。

 

 

 

「あらあらうふふ……♥️」

 

キリコとミュゼが立ち去った貴賓室に、一人の女性が現れた。

 

「なかなか面白い状況になってるじゃない。あの子……自殺しようとしたことも忘れているみたいだし、やっぱり愛に勝るもの無しね」

 

「ちょっとサービスしておこうかしら」

 

女性は青い扇を取り出し、呪文を詠唱した。

 

「癒しを……」

 

女性は青い扇で払った。

 

「後は君次第よ、キリコ君」

 

女性はキリコの名を呟き、どこかへ転移した。

 

 

 

「ずいぶん派手にやったようだな、鏖殺殿」

 

「ハハハ、それくれぇは多目にみてくれよ。そもそも爆弾を仕掛けたのはメルキオルだろうぜ」

 

パンタグリュエルから少し離れた空域にて、ロッチナとアリオッチは様子を眺めながら談笑していた。

 

「棘か……噂に違わぬ狂人、いや凶人と言うべきか」

 

「実際間違っちゃいねぇな。共和国のクソガキどももションベン垂れ流して逃げ出すくれぇだ」

 

「半グレだったか。本物の裏の人種に敵うはずがないだろう」

 

ロッチナは呆れ顔になった。

 

「こっちはクソガキどもはいねぇんだな?」

 

「人口のほとんどが帝国人で占めているからな。共和国のように様々な人種が集っているわけではない」

 

「なるほどな」

 

アリオッチは納得した。

 

「そろそろ行くぜ」

 

「現時刻をもって、契約は終了とする。ご苦労だったな」

 

「構やしねぇさ。じゃあな」

 

アリオッチはどこかへ転移して行った。

 

 

 

「………………」

 

ロッチナは黙ってパンタグリュエルを眺めた。

 

「やっと行ったか」

 

飛行船のブリッジからテイタニアが降りてきた。

 

「ずいぶんと嫌っているようだな」

 

「当然だ。あの教団と関わり合いがあるというだけでも十分だというのに、犯罪組織も絡んでいるとなれば尚更だ」

 

「《アルマータ》か。狭量かつ無能な先代首領を追い落として就任した現首領《ジェラール・ダンテス》の手腕により、共和国で勢力を増大させつつあるという犯罪組織。そして棘、金色、鏖殺はそのアルマータの幹部だとか」

 

「キリコを試すのにずいぶん回りくどいことをしたものだな」

 

「仕方あるまい。キリコを試すとなると、生半可な手段では意味がない」

 

「それについてはいい。だが開戦まで時間がないぞ」

 

「フフ、物語は加速していくだけさ。キリコを中心にしてな」

 

ロッチナは愉快そうに笑いながら、空域を離れるよう指示した。




次回、復活の……
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。