英雄伝説 異能の軌跡Ⅱ   作:ボルトメン

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仕事が忙しくて気づけば2ヶ月以上経ってました……


リターン

[キリコ side]

 

(どうなっている?)

 

ミュゼを抱えたまま、俺は甲板を目指していた。

 

通路を走っていたら、突然痛みが薄れていくのがわかった。

 

いわゆるアドレナリンではなさそうだ。

 

(今は思索している場合じゃないな)

 

「後少しで甲板に到着する。それまで我慢してくれ」

 

「…………………………………………………」

 

ミュゼは先ほどから一言も発しない。

 

爆発の振動で酔ったわけでもなさそうだ。

 

俺は走るスピードを速めた。

 

[キリコ side out]

 

 

 

「はーはっはっは!この艦の中にまだいたとはねぇ!」

 

猟兵風の男たちがキリコの行く手を阻んだ。

 

「………………………」

 

隊長格の男のあまりの隙の多さにキリコは無言になった。

 

「君がどこの馬の骨かは問わない!即刻投降したまえ!大人しくその少女を渡せば命は助けてやろう」

 

隊長格の男が偉そうにキリコに降伏を迫った。

 

「そこをどけ。構っている暇はない」

 

キリコは意に介さず、隊長格の男を睨み付けた。

 

「どけだとう?この僕が、結社身喰らう蛇の執行者カンパネルラ様の配下と知っての暴言か?」

 

「道化師の配下だと?」

 

「そうだ!もう一度言おう、即刻投降したまえ!」

 

「従うつもりはない。押し通る」

 

「フッ。いずれ執行者となるこの僕、ギルバート・スタインの実力、その身に刻み込むといい!」

 

ギルバートは決めポーズを取った。

 

「……大言壮語も甚だしいな」

 

キリコはポツリと呟いた。

 

「なんだとう!?」

 

「執行者になるというなら、一人くらい倒れていてもおかしくはないだろう。だが……」

 

キリコはギルバートたちの近くの残骸を見やる。

 

「見たところ人形兵器のようだが、既に敗北しているようだな」

 

「う、うるさい!多勢に無勢だっただけだ!」

 

「執行者クラスというなら、数の差くらいどうということはないだろうにか?」

 

「うるさいうるさいうるさい!君たち、構わないからコイツを痛めつけてやれ!」

 

ギルバートは真っ赤になって、部下たちに命令を下した。

 

「すぐ終わる。待っていろ」

 

キリコはミュゼを降ろした。

 

「は、はい…………」

 

ミュゼの目にはキリコしか映っていなかった。

 

 

 

「す、すみませんでしたーーっ!」

 

「…………………………」

 

決着はあっという間に着いた。

 

最初にキリコはギルバート以外の強化猟兵を潰していった。

 

強化猟兵と言えど、異能者には遠く及ばず、数分で倒された。

 

隙を見計らっていたギルバートが手榴弾を投げつけるも、安全ピンを外すのを忘れたため、不発に終わった。

 

キリコは当初フェイクと思い距離を取った。

 

だが、肝心のギルバートがアサルトライフルの安全装置を外さずに引き金を引いたが、当然弾は出なかった。

 

しかも何度も無理やり引っ張ったりガシャガシャ動かしたため、アサルトライフル自体が故障して使えなくなった。

 

キリコは一気に距離を詰めて、ギルバートの比較的整った顔が一変するまで叩きのめした。

 

ギルバートは堪らず、恥も外聞も捨てて泣きながら土下座して許しを乞うた。

 

結果、キリコの圧勝に終わった。

 

 

 

「く、くそう……今日は調子が悪かっただけなんだからな……!」

 

「…………………………」

 

キリコはギルバートなどもはや眼中になく、再びミュゼと向き合った。

 

その際、キリコはギルバートに背を向けた。

 

「一世一代の大チャ~~~ンス!」

 

ギルバートはナイフを取り出して、キリコに襲いかかった。

 

「…………………………」

 

素早く反応したキリコはギルバートを右の裏拳を当て、動きを止めた。

 

「ぶべっ!?」

 

そのままの勢いで左のミドルキックをいれる。

 

「あわびっ!?」

 

とどめに、右ストレートをギルバートの顔面に叩き込んだ。

 

「ま、待っで………」

 

ギルバートは鉄柵を乗り越え、下層に落ちて行った。

 

「ア、アイルビー・バアアアアック!!」

 

「…………行くか」

 

キリコは何事もなかったかのように、再びミュゼを抱え上げて走り出した。

 

 

 

「っ……何とかみんなと合流できたけど」

 

「完全に膠着状態だな……」

 

「フフフ、さあどうしようか?」

 

一方甲板では、リベール組と特務支援課と新旧Ⅶ組、結社と西風の旅団と鉄血の子供たちがそれぞれの得物を手にし、睨み合っていた。

 

リベール組と特務支援課が首脳たちを脱出船に送り届けている間、新旧Ⅶ組は敵の迎撃を突破すべく、立ち向かった。

 

だが、実力者揃いの敵の迎撃は激しく、雌雄を決することはかなわなかった。

 

そのため、リベール組と特務支援課が合流しても状況は好転することはなく、膠着状態に陥っていた。

 

「な、何とか首脳たちを脱出船まで送り届けられたみたいだけど……」

 

「この空域から離脱する隙を与えないつもりね……」

 

サラは横目で展開する飛行挺を見る。

 

「悪ィな。先手を打たせてさせてもらったぜ」

 

レクター少佐が通信機を片手に笑みを浮かべた。

 

「このかかし野郎が……!」

 

ランディがレクター少佐を睨み付ける。

 

(マズイな……こうしている間にも、状況が悪くなっていく……)

 

ロイドは得物を握りしめた。

 

「では、こちらは如何でしょう」

 

マリアベルが杖を掲げた。

 

「何をするつもりだ?」

 

「まさか──」

 

「教官!グロリアスに動きが!」

 

アルティナが声を張り上げた。

 

それと同時に、グロリアスの甲板に巨大な人型兵器がせり上がって来た。

 

「あれは……」

 

「3タイプの神機……」

 

「ク、クロスベルに現れたのと違うシルエットだけど……」

 

「タイプSⅡ!複数建造していたのか!」

 

「ああ、そっか。Ⅶ組と違って君たちは知らなかったのか」

 

カンパネルラは思い出したように言った。

 

「キーア・バニングスの力に頼らずともある程度コントロールできるようになってね。その分性能は落ちるけど、こんな芸当が出来るのさ」

 

「フフフ……」

 

マリアベルが手をかざすと、二体の神機はそれぞれ動き出した。

 

アイオーンtype-βⅡは高速モードに変形し、パンタグリュエルの周りを飛ぶメルカバや山猫号Ⅱに襲いかかる。

 

「な……!?」

 

「操ってやがんのか!」

 

「どうだい?手応えは」

 

「ええ。気に入りましたわ」

 

マリアベルは愉悦の笑みを浮かべた。

 

「おーおー、ド派手だねぇ」

 

「ったく、無茶苦茶しやがんなぁ」

 

ルトガーは腕を組み、レクター少佐は頭を掻いた。

 

「噂に聞く、帝国の騎神よりもパワーがあるっていうけど……」

 

「それを苦もなく操るとは、さすがは結社の第三使徒ですね」

 

メルキオルとオランピアはマリアベルの技量を称賛した。

 

 

 

「クロウっ!」

 

「ああっ!」

 

リィンとクロウが前に出た。

 

「教官!」

 

「呼ぶのか……!?」

 

「ああ!この場は頼んだ!」

 

「来い──灰の騎神ヴァリマール!!」

 

「来な──蒼の騎神オルディーネ!!」

 

リィンとクロウが同時に拳を突き上げた。

 

二人の背後にヴァリマールとオルディーネが顕れた。

 

「これが騎神……!」

 

「なんて見事な……」

 

騎神を初めて目にするエステルとヨシュアは息を飲んだ。

 

「ハッ、お出ましかい……!」

 

「だが、それも織り込み済み……!」

 

ゼノとレオニダスはルトガーを見た。

 

「来な──ゼクトール!!」

 

ルトガーは紫の騎神ゼクトールを呼び出し、乗り込んだ。

 

【錬金術師のお嬢さんよ、頼むぜ!】

 

「ウフフ、承りましたわ」

 

マリアベルはもう一体のアイオーンtype-γⅡを操作し、ゼクトールの隣に配置させた。

 

【ハーメル村で遭遇した神機……!】

 

【オッサンもやる気かよ!】

 

リィンとクロウは並び立つアイオーンtype-γⅡとゼクトールを見つめる。

 

「このまま相克へと参りましょうか?」

 

【条件が整ってねぇから無効みてぇなんだがな】

 

ルトガーは腕組みしながら言った。

 

「ならば、私たちはその他の皆様のお相手ですね」

 

「……致し方ありません」

 

クルーガーとクレア少佐はそれぞれの得物を構える。

 

「せいぜいお人形をあてにさせてもらうぜ?」

 

「言われるまでもない」

 

レクター少佐は皮肉るように言ったが、銅のゲオルグはあまり意に介してなかった。

 

「ティータ!レン!エリィさん!ティオちゃん!行くわよ!」

 

『ええ!』

 

「ランディ!ヨシュア!アガットさん!援護を!」

 

『おおっ!』

 

リベール組と特務支援課は闘志を燃やす。

 

「こっちも負けてられない!」

 

「ああ、行こう!」

 

「まだ負けていません……!」

 

「第2ラウンドといこうじゃねぇか!」

 

「後輩たちだけにいい格好はさせられないね……!」

 

「さあ、あたしたちも行くわよ!」

 

『おおっ!』

 

Ⅶ組も闘志を燃やした。

 

【いい感じに燃えてきたな……!】

 

【ああ!行こう!】

 

両勢力は再びぶつかった。

 

 

 

「……ダメか」

 

一方、キリコは舌打ちをしていた。

 

甲板を目指していたが、メルキオルの仕掛けた爆弾により、甲板に続く通路が瓦礫で塞がれていた。

 

(上に戻るしかないか……)

 

キリコは座っているミュゼの方を向いた。

 

「ここの瓦礫は人力では無理だ。一旦、上に戻る」

 

「………………………………………………」

 

「……聞いているのか?」

 

「はっ……はいっ!そ、そうですね!上に戻りましょう!」

 

「……………………」

 

キリコは再びミュゼを抱え上げた。

 

「もう少しだけ我慢してくれ」

 

「い、いいえ!も、申し訳ないのはむしろ私ですから!ご迷惑をおかけした上にキリコさんの足を引っ張ってしまってるんですから!」

 

「気にしなくていい」

 

キリコは上へ向かって走り出した。

 

(キリコさん……)

 

ミュゼは申し訳なさでいっぱいになった。

 

「それともう一つ……」

 

「?」

 

「あの二人にはきちんと謝っておけ」

 

「はい……」

 

ミュゼの頭にアルフィン皇女とエリゼの顔が思い浮かんだ。

 

「叱られて……しまいますね………」

 

「だろうな」

 

「許していただけるでしょうか……」

 

「知らん。自分で蒔いた種だろう」

 

「そうですね……」

 

ミュゼは自虐的に微笑む。

 

「……ミュゼ」

 

キリコは急に止まった。

 

「どうしました?」

 

「荒れるようだ」

 

「え………っ!?」

 

前方から多数の人形兵器が近づいて来ていた。

 

「突破する。俺に掴まれるか?」

 

「は、はいっ!?」

 

ミュゼはわたわたとなった。

 

「俺に掴まれるか?」

 

「え、ええっと……その………」

 

「無理ならそのままでいい。行くぞ」

 

キリコは走り出した。

 

「あ、あうう………」

 

「痛むか?」

 

「だ、大丈夫です………」

 

「わかった」

 

キリコは人形兵器の真横をすり抜けるように走る。

 

(うう……完全に機を逃してしまいました……でもはしたない女だと思われたくはないですし………)

 

ミュゼは羞恥と後悔の間で揺れていた。

 

 

 

「そろそろ例のポイントに到着かな?」

 

「ああ。現在、パンタグリュエルは結社と黒の工房の襲撃を受けているようだ」

 

「セドリックやアルフィン、クローゼ君にロックスミス大統領にアルバート大公の身柄が心配だね。まあ彼らがいるなら問題なさそうだけどね」

 

「カシウスさんに黄金の羅刹に黒旋風。あの三人がいる限り、全滅することはないと思いますがね」

 

「そしてエステルたちにクロスベル警察の特務支援課、そして貴方が手塩にかけて育てたっていう新旧Ⅶ組とやらね」

 

「フフ、設立に一枚噛ませてもらったというだけさ」

 

「それに彼も無事に合流できたようだね。風の噂では砲火を交えたとか」

 

「そうらしいね。彼らには悪いが、今の彼とでは相手にもならないだろう」

 

「たった二日とは言え、俺たちが鍛えたんですからね」

 

「最初から全力でいかなきゃならなかったけどね」

 

「それはそうとだ、彼らに事の次第を話しても良いのではないか?わざわざあの二人に口止めまでして」

 

「それを言うのは他でもない彼自身さ。私たちが口を挟めることではないよ」

 

「お前がそう言うなら俺は何も言わん。確かに俺たちが言うことではないな」

 

「わかってくれてなによりだよ、親友」

 

「フッ……」

 

「さて、急ぐとしよう。駆けつけて既に墜ちていましたではお話しにならないからね」

 

「わかっている。このまま全速前進だ」

 

『イエス・サー!』

 

「フフフ、愛しのユリア少佐の御身のためにもね♥️」

 

「……着いたら真っ先に叩き落としてやるからその時までの命と思え」

 

「すみません調子に乗りました」

 

「やれやれね……」

 

「にしてもあいつら、無事だろうな?」

 

「そういえば魔女殿はどちらに?」

 

 

 

[ミュゼ side]

 

(ここまではどうにか来られました……)

 

キリコさんに抱き抱えられたまま、私は上層の貴賓室へと戻って来ました。

 

「下から行けないとなれば、上から脱出するしかありません。ロープか何かを垂らしましょうか?」

 

「そうするしかない。ここで待っていてくれ」

 

キリコさんはロープを探しに離れました。

 

「キリコさん……」

 

私は椅子に座り、離れていくキリコさんの背中を見つめました。

 

「キリコさん……どうして貴方は私を………」

 

……その先が出てきません………。

 

単なる仕事上なのか、利用しているに過ぎないのか。

 

「怖い…………」

 

聞いてしまったら、壊れてしまう。

 

それがたまらなく怖い………!

 

「いっそ、会わなければ………こんなに辛い思いを抱かずに済んだのかな……?私が好きになったりさえしなければ………」

 

「心にもないことを口にするものじゃないわ」

 

「え……!?」

 

目の前に現れたのは、ヴィータさんでした。

 

「い、今までどちらに………」

 

「今はさほど重要じゃないわね。今は貴女が心に嘘をついているってことよ」

 

「嘘………」

 

「そう。彼の過去を知り、彼が愛した人との間で揺れるのは仕方ないわ。でもね、貴女の愛はそんなものなの?」

 

「愛………」

 

「そうよ」

 

「……………い」

 

「?」

 

「勝手なことを言わないでください!」

 

私は今までにないくらい、怒りに駆られました。

 

「所詮、私なんていないものだったんです!キリコさんの心に、私が入る余地なんて最初からなかったんです!どんなに想っていても、どうしようもないことだってあるんです!」

 

「どんなに……キリコさんが好きでも……好きで好きでたまらなくても……どうしようもないんです………」

 

私は涙が止まりませんでした。

 

「それは本人から聞いたの?」

 

「え………?」

 

ヴィータさんが真剣な表情を向けます。

 

「キリコ君の口からはっきりと聞いたの?」

 

「そ、それは…………」

 

「悲観するのは貴女の勝手。でもそれじゃ真実は永遠に闇の中。それで良いの?」

 

「…………………………………」

 

「……まあいいわ。それとお節介ついでに朗報があるわ。もうすぐ、新たな翼がやって来るわ」

 

「翼……?」

 

私は息を整えて、〝視る〟ことにしました。

 

「っ!?こ、これは……!?」

 

「フフ……」

 

ヴィータさんはニコリと笑いました。

 

「物語は佳境にさしかかったわ。人が勝つか呪いが勝つか。女神はどちらに微笑むのかしらね?」

 

そう言ってヴィータさんは転移して行きました。

 

キリコさんが戻って来たのはそれからまもなくでした。

 

[ミュゼ side out]

 

 

 

【くっ!】

 

【この、バケモノオヤジが……!】

 

リィンとクロウは肩で息をきらせていた。

 

【いや、こっちもギリギリさ。血も通っちゃいねぇマシナリィじゃ付け入る隙もあるだろうよ】

 

「フフ、手厳しいですわね」

 

ルトガーの言葉にマリアベルは微笑む。

 

「チッ……さすがにヤバいな」

 

「リィンたちに早く加勢に行きたいが……」

 

「こっちもギリギリかも……」

 

「死線のお姉さんに氷の乙女さんのタッグはさすがにキツいかもね……」

 

「これが金色……庭園の管理者の実力……!」

 

「その人形……戦術殻とは違うみたいだけど」

 

「というか、カンパネルラ!貴方がそっちにいること自体がおかしくないですか!?」

 

「細かいことは気にしないでよ」

 

カンパネルラは肩を竦める。

 

「さて。そろそろ終演かな?」

 

【なんだと?】

 

「メルキオルの爆弾もほとんどが爆発して、この艦も機動力を失った。後は勝手に沈んでいくだけだろうね」

 

「チッ!タイムアップかよ」

 

「だが、首脳たちは無事に脱出できたようだ」

 

「いざとなれば、私が皆さんを転移させます」

 

「我が聖痕の力を組み合わせれば、全員で離脱することも可能だろう」

 

「エマ、ガイウス……」

 

「帝国に伝わる善き魔女と星杯騎士の力……!」

 

「なんだか凄そうね!」

 

「つくづくとんでもねえ奴らを集めやがったな。あのスチャラカ皇子は……!」

 

「ふーん?それはどうかなぁ?」

 

カンパネルラは意に介さず、フィンガースナップを鳴らした。

 

すると、グロリアスを中心に陣形が変わった。

 

小型飛行挺はパンタグリュエルを威圧するかのように取り囲んだ。

 

「さあ、どうする?」

 

「特にお二方は、分かりますわね?」

 

【くっ!】

 

【やってくれるじゃねぇか……!】

 

「フフ、猟兵王。貴方は如何いたします?」

 

「夥り殺しは性に合わねえ。俺は降りるぜ」

 

ルトガーはそう言ってゼクトールから降りた。

 

「そういうことなら……」

 

「是非もない」

 

ゼノとレオニダスは下がった。

 

「ど、どうやら下がってくれたみたいだけど……」

 

「依然としてリィンたちは動けない……!」

 

「おい猟兵王、いったいどういうつもりだ!?」

 

ランディはルトガーに問いかけた。

 

「だから言ったろ。夥り殺しは性に合わねえって。まあ、俺らが抜けてもお前らのピッチにゃ変わりねぇ」

 

「やれやれ、フリーダムっつうか……」

 

「…………………」

 

「ま、いいでしょ。そろそろ終わらせようか」

 

『っ!!』

 

カンパネルラの言葉により、場の空気が一変した。

 

 

 

【……クロウ】

 

【ああ。わかってる】

 

リィンとクロウは冷静だった。

 

「リィン……?」

 

【ここは俺たちが引き受ける……!】

 

「リィン!?」

 

【お前らは転移で離脱しな!】

 

「クロウ……!」

 

「な、何言って……!」

 

【相克でない以上、殺されるってこたぁねぇはずだ!幸いオルディーネにもヴァリマールにも飛翔能力は備わってる。適当に相手して逃げ出すからよ!】

 

【俺たちのことは心配しなくていい!キリコとミュゼも脱出しているだろう】

 

現時点で、キリコとミュゼが艦内に残っていることを今のリィンたちは気づかなかった。

 

「で、でも……!」

 

「ざけんな!聞けるわけねぇだろが!」

 

「その命令は断固拒否します!」

 

二代目Ⅶ組は納得ができなかった。

 

【ハハ、良い教え子共じゃねぇか】

 

【だろう?さあ、急ぐんだ。ここからは命の保証は出来ない】

 

「っ……」

 

リィンの言葉にトワは目を伏せた。

 

「ううん。行く必要、ないんじゃないかな?」

 

キーアは空を見上げた。

 

「え……?」

 

「これは……」

 

突如、遠くから風斬り音が響いた。

 

「……?」

 

(………なんだ…………?)

 

「近づいてくる……」

 

「敵艦……いや──」

 

「あれは……」

 

「紅い……翼……?」

 

デュバリィの眼には、紅い機影が映った。

 

 

 

「晴れの初陣だ。全クルーの諸君、ヨロシク頼む」

 

「さあ、蒼穹の煉獄でダンスを踊るとしようか!』

 

「カレイジャスⅡ、接舷突入(アボルダージュ)する!乗り込んでくれたまえ!」

 

『イエス・キャプテン!!』

 

 

 

「こ、これは……!?」

 

予想だにしていなかった艦の登場に、パンタグリュエル甲板にいる者たちは呆然となった。

 

カレイジャスⅡはパンタグリュエルに向かって接近する。

 

「来るぞ!」

 

「まさか!?」

 

「アハハ!接舷突入か!!」

 

最接近したカレイジャスⅡから何人かがパンタグリュエルに乗り込んだ。

 

「やあ──真打ち登場といった所かな?」

 

レイピアを携えたパトリック・T・ハイアームズが微笑む。

 

【パトリック!?】

 

リィンはパトリックの姿を見て驚いた。

 

【オイオイ、見せつけてくれるじゃねぇの】

 

「ふふ、まさかの登場だね」

 

「僕だけではないですよ」

 

パトリックは後ろを見た。

 

「ハイ、良い子にしてた?」

 

「そ、それに……」

 

「シェラ姉!?」

 

「フフ、お邪魔するわね」

 

中東出身者を思わせる女性が鞭を構える。

 

「初めてのヒトはどうぞご贔屓に。リベール遊撃士官協会所属、《銀閃》シェラザード・ハーヴェイよ」

 

「行方不明だったというエステルさんたちの先輩の……」

 

「無事だったのか……」

 

「ええ。でもそれだけじゃなくて……」

 

「まさかここで貴方たちが揃い踏みとは……」

 

レンとヨシュアは高台を見た。

 

「ハッハッハ!最高の晴れ舞台のようだね?」

 

「ちょっと遅れちゃったかしら?まあ、帳尻は合わせましょう」

 

怪盗Bことブルブランとヴィータは高台に姿を現し、ナイフによる影縫いと魔法の拘束でゼクトールとアイオーンtype-γⅡの動きを封じた。

 

「か、怪盗B……」

 

「姉さん……」

 

【ハハ、まさかゼクトールもろともデカブツを封じるとはなぁ】

 

「流石は使徒としての先輩……ふふ、やはり興味深いですわね」

 

「ふふ、ゴメンなさいね?あんまりそういう気は無くて」

 

マリアベルとヴィータは互いに微笑む。

 

「何がなんだか……」

 

「理解しがたい世界ですね……」

 

「ああもう、色々突っ込みたいけどそれより何よりも……!」

 

「ああ、こればっかりは同じく突っ込みたい気分だよ」

 

カンパネルラはカレイジャスⅡを睨む。

 

「どうしてカレイジャス号に乗っていた君がそこにいるんだい?」

 

「まあまあ」

 

メルキオルが遮った。

 

「試してみればいいんじゃないかなぁ?」

 

メルキオルはカレイジャスⅡめがけて爆弾を放った。

 

「させるか!」

 

風属性のアーツが阻んだ。

 

「……ま、女神の導きと悪運の賜物ってヤツかねぇ」

 

「貴方は……!」

 

「教官の知り合いの……」

 

「久しぶりだな、リィン。エステルにヨシュアたちも。煉獄の底から這い上がって来たぜ」

 

【トヴァルさん!】

 

「あはは……夢じゃない、よね?」

 

「よくぞご無事で……」

 

リィン、エステル、ヨシュアは《零駆動》トヴァル・ランドナーの登場に目を見開いた。

 

「イシュタンティ……」

 

オランピアは天使型の傀儡をトヴァルに差し向けた。

 

「アーマーブレイクⅡ」

 

イシュタンティの頭部が何かに撃ち抜かれた。

 

「!?」

 

【ハハ、来やがったか】

 

「やれやれ、彼じゃ抑えられなかったか」

 

【キリコ!】

 

「ミュゼさんも一緒です」

 

ここでキリコとミュゼが合流した。

 

 

 

(来たか……)

 

キリコはアーマーマグナムを構えまま、カレイジャスⅡを見据える。

 

「さすがに気になるようだね?」

 

「……………………」

 

カンパネルラはキリコに問いかけたが、キリコはあまり意に介さなかった。

 

「キリコ、強化猟兵たちはどうしたんだ?」

 

「既に始末した。道化師の配下を名乗る奴共々な」

 

「あの執事上がりか……」

 

「今までの例を鑑みると、まだ生きているのかもしれないけどね……」

 

(確かに、あの男はあの無能と似通っている。ヨシュア・ブライトの言うように案外、生き延びているのかもしれないな)

 

「ま、今は置いておいていいでしょ。問題はあっちだね」

 

【零駆動共々、不死者として甦ったわけでもなさそうだな?】

 

【ああ。俺たちとは違う、生身の人間としての気配だ】

 

「さっきも言ったが、女神の導きと悪運の賜物ってヤツでな。いや、悪縁と言った方がいいか」

 

「…………………………………………」

 

銅のゲオルグの顔が僅かに沈んだ。

 

「あらあら。聞いていた話とずいぶん違いますわね?」

 

「あの時、爆散したカレイジャス号には他の方々も乗っていらっしゃった筈……」

 

シャロンは思案した。

 

「ま、まさかあの艦に乗っているのは……!?」

 

「ああ、みんなの想像通りさ」

 

「ちょっとばかりハンサムになってしまったが──間違いなくボクさ」

 

カレイジャスⅡの甲板にオリヴァルト皇子が姿を現した。

 

 

 

「あ、兄上……」

 

「お兄様……ご無事だったのですね……」

 

オリヴァルト皇子の姿を見たセドリックとアルフィンは安堵した。

 

「……ご無事で………ご無事でいらっしゃったんですね」

 

「うん……行方不明だったみんなも一緒に……」

 

(第Ⅱの連中も合流していたようだな。ゼシカとウェインが言っていたという当てとはこの事だったか)

 

「ヴァリマール共々、リィン君も久しぶりだ。お互い、少々様変わりしたね。無論、カッコいい方向にだが♪」

 

【オリヴァルト殿下……よくぞ、よくぞご無事で。でも、一体どうして……?】

 

「そうよ、心配かけてくれちゃって!リベールにいたあたし達がどれだけショックだったと思っているの!?」

 

「いや~、申し訳ない。これには海よりも深い事情があってね。しかし二人とも本当に久しぶりだ。エレボニアに来てくれてありがとう」

 

「ハハ、お互い様でしょう。しかしシェラさんが行方不明だったのはこの事が理由だったんですね」

 

「一切の情報が漏れないようにするため連絡を絶たせてもらったの。保険もきちんとかけていたけど、どうやら成功だったみたいね」

 

「ほ、保険って……ってごめんリィン君、割り込んじゃって」

 

【いやいや……でもご無事で何よりです。ミハイル少佐やミュラー中佐も驚きですが……】

 

「フフ、すぐに会えるというはこの事を指していたというわけだ」

 

「久しぶりだ、シュバルツァー君。クルトが世話になっているようだな。挨拶が遅れて済まない」

 

オリヴァルト皇子の後ろに立つミハイルとミュラー中佐はリィンたちに声をかけた。

 

「兄上……!」

 

クルトは思わず顔を上げた。

 

「よくぞご無事で!第七が解体させられたと聞いてどうしているものかと……!」

 

「久しいな、クルト。見ない内に逞しくなったようだ。だが、久闊を叙するのは少しばかり後回しにするとしよう」

 

「ああ……そのようだね」

 

オリヴァルト皇子の視線は、モニターに映る敵対者たちに注がれた。

 

 

 

「さて、ボクが──ボクたちがこのタイミングで現れた理由。それが何か分かるかな?」

 

「フフ、もしや千の陽炎に参加されるおつもりですか?」

 

「いや、そちらはミュゼ君や首脳方、カシウスさんに任せるつもりだ。ボクの目的はただ一つ、第三の道のための翼を提供することに他ならない」

 

「……!」

 

「……あ………」

 

(ノルドで聞かされた計画、動き出すか)

 

キリコはじっと耳を傾けた。

 

「大地の竜に千の陽炎……避けられぬ巨大な二つの流れ。その狭間にあっても諦めず、希望の光を見出ださんとする人々」

 

「リィン君たちにロイド君たち、そしてエステル君たち──彼らを助けようとする決して少なくない人々の存在。それとは別に──大陸各地で心ある人たちも動き始めている」

 

「それらの人々を繋ぐ翼にボクたちはなると決めた。太古の昔から帝国を蝕む呪いを乗り越えるため……何よりも手を繋ぎ合おうとする人々にお互いの光を届けるために」

 

「故にボクたちは名乗ろう──内戦時に名乗った紅き翼でもなく、帝国西部で名乗った自由への風でもなく……」

 

 「《光まとう翼》という、第三の名前を!!」

 

オリヴァルト皇子は高らかに宣言した。

 

「……殿下………」

 

「光まとう翼、ですか……」

 

「ふふっ……素敵な名前ね」

 

「ハハ……一瞬にして旨いところ全部持って行きやがったな……」

 

「フッ……流石は我が永遠のライバル」

 

「セドリック……」

 

「ああ、ここから始まるんだ」

 

アルフィンとセドリックは大きなうねりが起きることを確信した。

 

「なるほど……これは一本取られたよ」

 

カンパネルラは拍手した。

 

「さて、どうする?宰相?」

 

『──まあ、今回はここまでで良かろう』

 

「っ!」

 

「この声は……」

 

「やれやれ、お出ましのようだね」

 

上空に黒のアルベリヒの所有する黒い戦術殻が現れ、戦術殻の眼の部分から光が投影される。

 

投影された光が画面になり、オズボーン宰相を中心に、リアンヌ、黒のアルベリヒ、ルーファス総督が映し出された。

 

「オズボーン宰相……」

 

「マスター……!」

 

「………父様…………」

 

「……兄上も………」

 

(揃い踏みというわけか……)

 

キリコはARCUSⅡをしまい、オズボーン宰相らを見つめる。

 

 

 

『このような形で失礼──帝都より映像を送らせてもらっている。両殿下におかれましてはご機嫌麗しく』

 

「宰相閣下……」

 

「………………」

 

セドリックとアルフィンはジッと見つめる。

 

『首脳方にはご無沙汰しています。大統領閣下、大公閣下に王太女殿下も』

 

「ハッハッハッ、まさか貴方とこの場で挨拶できるとはなぁ」

 

「ご無沙汰している──こんな形で再会したくはなかったが」

 

「突然の訪問、お許し下さい」

 

『なに、その空域は三国にまたがる緩衝地帯。帝国政府の許可は必要ありません。──カシウス・ブライト中将、貴公とも久しぶりだな』

 

オズボーン宰相はカシウス中将に目をやる。

 

「三年前、閣下がリベールを電撃訪問されて以来ですな。何やらリベール五大都市で熱心に動かれているようですが」

 

『なに、R&Aリサーチなる貴国の民間団体には及ぶまい』

 

「R&Aリサーチ……?」

 

ユウナは戸惑った。

 

(それって帝国軍情報局との……)

 

(……リシャール大佐たちも必死に抵抗しているみたいだな)

 

事情を知るエステルとヨシュアは平静を装った。

 

『特務支援課の諸君も久しぶりだ。さぞ、うちのルーファスが迷惑をかけているのではないかな?』

 

『フフ、なるべく良い関係を築きたいとは思っていますがね』

 

(……どの口が、ですね)

 

「……ご無沙汰しています、閣下」

 

エリィは不満をおくびにも出さずに挨拶をした。

 

「二年前のオルキスタワーでのお話を今更ながら思い出しているところですよ」

 

『フフ、激動の時代における〝覚悟〟の話か……懐かしいものだ。そして──』

 

オズボーン宰相はカレイジャスⅡに目をやる。

 

『お久しぶりです、皇子殿下。貴方の器を計り損ねていた不明、何とお詫びしてよいものやら。恐らく公女がたも同じ想いでしょう』

 

「…………………」

 

「はい、所詮は小娘の浅知恵でした」

 

「世辞は無用だ、宰相」

 

オリヴァルト皇子は制した。

 

「──事ここに至って大きな2つの流れは止められまい。だが宣言した通り、ボクたちは最後まで翼となろう。リィン君やロイド君、エステル君たち……最後まで諦めずに光を見出だそうとする若者たちのために」

 

「殿下……」

 

「……心強いです」

 

「グスッ、格好付けすぎでしょ……」

 

『フフ、結構。最後まで足掻くとよろしい。6日後、大地の竜が動き出すまで』

 

「なに……?」

 

『作戦の共同立案者として、この場で発表させていただきます』

 

ルーファス総督は咳払いをし、眼下の者たちを見据える。

 

『来る9月1日の正午を以て、ヨルムンガンド作戦を発令する!』

 

そして高らかに宣言した。

 

 

 

「……!」

 

「それがXデイ──開戦日か」

 

『フフ、それに先駆けて興味深い兆しも顕れるでしょう。黄昏──世界の終焉に相応しい大陸全土の人間にも焼き付くような』

 

(地獄の釜の蓋が開かれようとしているのか……)

 

キリコは拳を握り締めた。

 

『それと同時に七の相克についても本格的に介入させてもらうつもりだ。猟兵王、ルトガー・クラウゼル殿』

 

【おうよ】

 

『そして結社第七柱、鋼の聖女、アリアンロード殿』

 

『ええ、異存はありません』

 

ルトガーとリアンヌは共に了承した。

 

『フフ、何故殿下たちがあの状況で無事だったのか……個人的には非常に興味深いが今は置いておきましょう』

 

「………………………………」

 

銅のゲオルグはそっと目を背けた。

 

(……やっぱり………)

 

(ああ……それとあの怪盗殿が何やら関わっていそうだが………)

 

トワとアンゼリカは銅のゲオルグの動きを見逃さなかった。

 

『とはいえ主よ。この状況において、敵の首魁を見逃すということはありますまい。ゲオルグ』

 

黒のアルベリヒが口を開き、銅のゲオルグに指示を出した。

 

(動くか……!)

 

キリコは咄嗟にミュゼの盾になった。

 

その瞬間、キリコらの周りを結界が覆った。

 

【しまった!?】

 

『ハァッハッハ!これだけではない。ゲオルグ、コード・ダブルだ』

 

「は、はい……」

 

銅のゲオルグがいくつかの操作を行った。

 

「これは……!?」

 

「……アインヘル小要塞のトラップと同じものか。やられたな」

 

ミュゼとキリコは手足の痺れとEPが休息に無くなっていく感覚を味わう。

 

「……父……様………」

 

「くっ、卑劣な!」

 

【待ってろ二人とも!今──】

 

「そうはさせへんで?」

 

「ここは戦場。些末なことに過ぎん」

 

ヴァリマールの行く手をゼノとレオニダスが阻んだ。

 

「もちろん、君たちもね♪」

 

メルキオルが爆弾を手のひらで玩ぶ。

 

「…………………」

 

オランピアがイシュタンティを配置させた。

 

「「「…………………」」」

 

レクター少佐とクレア少佐、クルーガーが無言で得物を構える。

 

 

 

「………ここまでか」

 

キリコは持っていた武装を全て捨てた。

 

「な……!?」

 

「おい……!!」

 

「もう打つ手はない。逃げてくれ。敵の目に映らないように逃げろ」

 

「な、何言ってるの!?」

 

「ヴィータ・クロチルダ、あんたの術なら逃がせるはずだ。俺たち以外を全員連れて転移してくれ。できるだけ遠くに、西に向けて」

 

「…………わかったわ」

 

「姉さん!?」

 

「ちょっとアンタ!!」

 

「私たちの方も限界よ」

 

ヴィータが言い終わるか言い終わらないうちに、アイオーンtype-γⅡの拘束が解けた。

 

【チッ!】

 

「………仕方ない。ここは言うとおりにしよう。ここで果てては何にもならないからね」

 

「兄上!?」

 

セドリックは兄の言葉に耳を疑った。

 

「深淵殿、頼めるかな?」

 

「承知しました……」

 

ヴィータは両手を目一杯広げた。

 

キリコたち以外の足元に魔法陣が顕れた。

 

【ま……!!】

 

キリコたち以外の姿が消えた。

 

それと同時にカレイジャスⅡは他の飛行船と共に西へ飛び去った。

 

 

 

「なんだか呆気ないものでしたわね……」

 

マリアベルは思わずため息をついた。

 

「皇帝暗殺未遂犯なんでしょ?仇を助ける意味なんてないないない」

 

『………………』

 

リアンヌはキリコを見続けていた。

 

(ホンマに諦めよったんか?)

 

【そんなはずはねぇ……こいつが簡単に投降するタマじゃねぇってことくらい承知の上だぜ。お前ら無闇に近寄んなよ】

 

ルトガーが部下にキリコに近づかないように命令を出した。

 

「……………………」

 

カンパネルラは疑惑の視線をぶつけた。

 

「ハッハッハッ!チェックメイトのようだね!」

 

キリコたちの後ろからギルバートが意気揚々とやって来た。

 

「おお!さすがは皆々様方!この憎き不埒者を捕らえたのですね!」

 

「やれやれ。遅刻だよ。後黙っててくれない?」

 

「は、ははぁっ!」

 

ギルバートは敬礼をした。

 

(キリコさん………)

 

ミュゼはキリコを不安げに見つめる。

 

「……………………」

 

キリコは膝をついたまま動かなかった。

 

『いい様だな。不死などと言うが、所詮戯言に過ぎんというわけだ。このまま例の場所に──』

 

「……………………時間だ」

 

キリコは呟いた。

 

 

 

その瞬間、甲板のあちこちで爆発が起こった。

 

 

 

『なっ!?』

 

「ぐっ!?」

 

爆風を浴びた銅のゲオルグはリモコンを離してしまい、キリコたちを覆っていた結界が消滅した。

 

【ハハ!そうこなくちゃな!】

 

ルトガーは笑みを浮かべた。

 

「ったく、やってくれるぜ……」

 

「どうやら、真下に仕掛けてあったようです……」

 

「大丈夫か?」

 

キリコはミュゼに手を差しのべる。

 

「な、なんとか(あれ?なんだか……)」

 

「コ、コラァ!勝手に動くばぁっ!?」

 

ギルバートはキリコのアッパーカットを受けてひっくり返った。

 

「やれやれ……時間稼ぎかい?そして彼らを逃がしたのは爆発に巻き込まないためって所かな?」

 

「想像に任せる」

 

キリコはミュゼを抱え上げる。

 

「あ、あのキリコさん……」

 

「文句なら後でいくらでも聞く。教官やあいつらの分もまとめてな」

 

「そ、そうではなくてですね……」

 

「迎えの当てはあるの?」

 

カンパネルラが結界を張り、自分以外を近づけないようにした。

 

「問題ない」

 

「そ。ま、元気でね」

 

「追撃はなさらないんですか……?」

 

「これ以上は蛇足でしょ。向こうも動かないみたいだし」

 

カンパネルラは後ろに視線を送った。

 

レクター少佐を始め、ほとんどに戦意はなかった。

 

「西に向かって飛ぶ。怖いか?」

 

「いいえ。大丈夫です(キリコさん、貴方と一緒なら……!)」

 

「行くぞ」

 

「はいっ……!」

 

キリコは左舷に向かって走り出した。

 

そして思い切り緣から大空へと飛び出した。

 

「ッ!」

 

ミュゼは目を瞑った。

 

その瞬間、キリコの足元に碧い魔法陣が顕れた。

 

キリコとミュゼは碧い魔法陣を潜り、転移した。

 

 

 

「どうやら彼の方が一枚上手だったようだな」

 

帝都ヘイムダルはバルフレイム宮の宰相執務室。

 

オズボーン宰相は満足げに笑みを浮かべた。

 

「君にとっても見過ごせないのではないかな?ルーファス総督」

 

「一応、貴族連合軍の旗艦ではありましたので。まあ、決起軍の士気を下げられたなら、それもよろしいかと」

 

「フフフ……ずいぶんとあっさりしているな」

 

「新型戦艦に比べれば是非もないかと」

 

「なるほどな。それはさておき……」

 

オズボーン宰相は隣で苦々しげにする黒のアルベリヒに目をやる。

 

「目先の勝利に酔い過ぎ、足元の謀略を見落としたな……アルベリヒ」

 

「……面目次第もございません」

 

「それより……例の二人はどうなっている?」

 

「既にいくつかの処置を終えております。いつでも出動させることができます」

 

「そうか……」

 

「奴らは霊窟に向かうはず、ならばそこを叩き一気に潰して……!」

 

「それはお前が決めることではない」

 

「ッ!?……申し訳ありません。出過ぎた真似を」

 

オズボーン宰相の言葉に黒のアルベリヒは頭を下げる。

 

「二人はあそこに配置させる」

 

「……そのように」

 

黒のアルベリヒはどこかへと転移して行った。

 

「紫と銀はそれぞれ霊窟に配置させます」

 

「万事任せる」

 

「御意……」

 

ルーファス総督は執務室を出ていった。

 

(いよいよ全てが決まる。阻むのは灰か銀か金のいずれかか。それとも不死の異能者か……)

 

オズボーン宰相は窓から空を見つめた。

 




次回、束の間の休息です。

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