七耀暦1206年 8月27日 午前8:00
新旧Ⅶ組はガラ湖周遊道を脇に逸れた場所にある月霊窟へとやって来た。
「こんな場所にあったとはな」
「それ以前はただの空き地だったらしいぜ」
「ユウナたちは来たことがあるのよね?」
「はい。あの時はガラ湖周遊道が通行止めになってて、引き返そうとしたら顕れたんです」
「入ってすぐの所で大型の魔獣が現れて、倒すと不思議な光景が頭の中に流れて……」
「不思議な光景?」
「どうやら、過去の出来事のようでね。晩年のドライケルス大帝に〝名状しがたい闇〟が這い寄って来ていたんだ」
「名状しがたい闇……?」
「…………………………」
リィンはそれが何なのか半ば確信めいていた。
(ローゼリア曰く、ここには帝国の呪いの最後の真実があるというが……)
キリコはカレイジャスⅡでの会合を思い返した。
8月26日 午後7:00
リベール組、特務支援課、新旧Ⅶ組は会議室に集められていた。
『お初にお目にかかる。ローゼリア・ミルスティンじゃ』
会議室の大型モニターにローゼリアの姿が映った。
『帝国の魔女の眷属が長にして、そこのエマやヴィータの師でもある。よろしく頼むぞ、オリヴァルト殿下。リベール、クロスベルの子らも』
「フフ、初めまして。噂と伝承だけは伺っていたが。初代アルノールが帝国を興すのを見守ってくれた存在だそうだね?」
『フフ、それは〝先代〟じゃな。じゃが、800年前のヘクトル帝やドライケルス皇子とは懇意にしていた。ふむ、彼らの面影は余り無いがヌシはヌシで規格外なようじゃの?』
「ハハ、これは光栄の至りだ」
(うーん、レンから話は聞いていたけど……)
(800歳か……この目で見ても実感はないな)
エステルとロイドはローゼリアとオリヴァルト皇子の談笑を見つめていた。
『フフ、こちらもヌシらのことは少しばかり聞いておるぞ?レグナートに、ツァイトからな』
「ええっ、レグナートから!?」
「って、そうなのかよ!?」
「ツァイトもあれ以来姿を現していませんが」
『まあ、彼らが姿を消す前に少々言葉を交わしたくらいじゃ。行方については妾にも分からぬが』
「そうですか……」
「カシウス先生にもわからないそうだけど……」
「そのレグナートやツァイトというのは?」
キリコが口を開いた。
「古竜レグナートに神狼ツァイト……かの大地の聖獣と同じく、空と幻それぞれの至宝を見届けるために女神から遣わされた聖獣のことですね」
会議室に入って来たトマスがキリコの疑問に答えた。
「貴方は……」
「星杯騎士団副長、トマス・ライサンダーです。エステルさん、ロイドさんたちのお噂はかねがね。ふふ、オリヴァルト殿下はトールズ本校以来となりますね?」
「はは、まさか歴史学教官の貴方が星杯の守護騎士だったとはね。ケビン君との縁があったのに見抜けなかったのは少々悔しいな」
「そっか、あたしたちの噂もケビンさんとリースさんから……」
「俺たちの方はワジから聞いていたみたいですね?」
「ええ。両者とも帝国以外で動いてもらっている状況ですね。巨イナル一のため暗躍する他の結社勢に対抗するために」
「動いているのは第一柱、第四柱、第五柱……さらに帝国に来ていない執行者たちですか」
「あの博士は裏でこそこそしてるみたいね。面白い研究対象でも見つかったかしら?」
レンはいたずらっ子のような視線をキリコに送った。
「………………」
「レ、レンちゃん……」
「……続けるぞ。更に帝国軍情報局も国外で本格的に動いているみたいだな。それと……赤い星座の本隊──闘神シグムント・オルランドも」
「叔父貴が動き出しやがったのか……」
「おっかしいなぁ~、パパってば今回の一件は静観するって言ってたのに」
シャーリィは首をかしげた。
「そ、そうなんですの!?」
「叔父貴は理由もなしに動くような人間じゃねぇ。何企んでやがる……」
「逆に言えば動く理由があるということ……」
「不気味ですね……」
「あの……それで他の皆さんは……」
ユウナはおそるおそるエリィに問いかけた。
「アリオスさんとリーシャさんはそうした動きに対応すべく動いているわ……」
「ノエルさんにセルゲイ課長、ダドリーさんも同様ですね……」
「そうだったんですか……」
ユウナはほっとした。
「……………………」
その横でキリコはエリィとティオの言葉尻が引っかかった。
「それで、状況はどうなってるんですか?」
「正直苦しい状況ですね。そんな中、僧兵庁も独断専行で千の陽炎に協力するようですし」
「……やはり………」
「……主導権争いをすべき時ではない筈ですが」
ガイウスとロジーヌはため息をついた。
(宗教組織というのはどの世界も同じだな。所詮、神というお題目にすがっているような連中か)
キリコの目が鋭くなった。
(キリコ……?)
『まあ、200年前の眷属事件ですら僧兵庁とやらの横槍はあったからの。それはともかく、本題に入ろう』
『──七の相克についてじゃ』
『!!』
ローゼリアの言葉に会議室の空気は一変した。
『六日後に大地の竜が動き始めると改めて宣言されたこと──それに対抗する千の陽炎とやらが合意されたこととの関連は不明じゃが………帝国全土の霊脈の乱れが今日の夕刻から更に高まり始めた』
「あ……」
「それって、今日あった出来事が影響して……!?」
「団長たちが動き始めたのも関係してるのかもね」
「ああ、それに聖女殿も……」
「母様やシャロンたちも関係してるかもしれない……」
「……ベルもそうね。RFと協力しているみたいだし」
フィー、ラウラ、アリサ、エリィがそれぞれ身内や知己の名前を挙げた。
「原因は色々ありそうですが、もう一つ由々しき状況があります──時を同じくして、帝国だけでなく大陸全土の霊脈が活性化し始めました」
「おい、そいつは……!」
トマスの言葉にアッシュが反応した。
「……まるで〝世界大戦〟の予兆をそのまま反映しているようですね」
「ああそれこそが黄昏──その中で行われるのが相克だろう」
「いよいよ本格的な〝錬成〟の準備が整い始めたのかもしれませんね……」
「ど、どうしたら……」
『……………………………………』
会議室は沈黙に包まれた。
「……だったら話は早い。この艦を自由に使ってくれたまえ」
オリヴァルト皇子の一言が沈黙を打ち破った。
「どうやら七の相克こそが宰相や地精たちの目的のようだが──逆に言えば、そこに破滅を回避できる唯一の光明があり得るんじゃないかな?」
「……!」
「そいつは……」
「確かに、巨大な呪いが発動する中、目に見えぬ何かに全てが導かれる……そんな状況で戦争を阻止するのは正攻法では不可能でしょう」
「だからこそ父さんやクローゼも千の陽炎に協力したんだろうしね。でも──そもそも呪いって何なのかな?」
「へ……」
「ふむ……」
エステルの言葉にセリーヌは弾かれたように顔を上げ、トマスは顎に手をやった。
(皇帝曰く、巨イナル一が二つの眷属の闘争本能の影響を受けて、それを呪いという形で植え付けたという。だが確かに呪いそのものについては考えたことはなかったな)
(ワイズマン、これもお前の策略か……?)
キリコは腕組みをして思案した。
「僕たちはリベールの異変で至宝を巡る災厄と向き合いました。そこでは、1200前の人の業と……現代の僕たちをつなぐ問題がありました」
「……私たちも同じですね。人の業で喪われた至宝を再現して現代に続く宿業を解決しようとする……」
「うん……もしかしたらキーアは取り返しのない事をしてたかも。でも、ロイドたちが来てくれて……間違いをちゃんと正してくれた」
「リベールでは願いを叶える環、クロスベルでは因果を書き換える樹。どちらも祝福であると同時に呪いでもある存在だったけど……エステルたちや警察のお兄さんたちはそこから目を背けずに向き合ったわ」
「ならば、真実の見極めこそ君たちが何よりも優先すべき事だろう。エステル君やロイド君たち、無論、我々も出来ることではない」
「帝国と、それを取り巻く地域の様々な表と裏の問題……それに粘り強く関わり続けたお前さんたちにしか出来ないんじゃないか?」
「あ………」
「……俺たちにしか、か………」
新旧Ⅶ組はエステルたちの言葉を受け止めた。
「無論、各地の第三勢力のために動くという使命も果たすつもりだが……中破したメルカバの代わりに、君たちの翼を務めることくらいは出来るだろう。先代より大型化したことで騎神3体に機甲兵6機なら積めるしね」
「お兄様……」
「……ご配慮、感謝します」
『さて、厳しいが光は見えてきたか。ならば──いよいよ妾も最後の役割を果たすとしようか』
『!?』
ローゼリアの言葉に会議室にいた者たちは一斉にモニター画面を見る。
「お婆ちゃん……?」
「最後の役割……?」
『うむ……。聞け、Ⅶ組の子らよ』
『先程言ったように、帝国全土の霊脈がかつてないほど乱れ活性化しておる。相克の舞台たる霊窟もしかり──我ら魔女たちが唯一、古来より管理してきた月霊窟もな』
「月霊窟……」
「ミルサンテの近くにある……?」
(そんなものがあるのか……)
『うむ、代々の巡回魔女が穢れを祓ってきた水鏡の霊窟……真実を映し──黒の史書の本体とも繋がっていると思しき場所じゃ』
「……!?」
リィンはビクリと反応した。
「その名をここで聞くとは……」
「ええ、私もつい先日、教えてもらったばかりでして」
『帝国の呪いについての最後の真実が知りたければ来るがよい。我が真名と使命に賭けてヌシらの疑問に答えてみせよう。必要なのはⅦ組全員の試練、それ以外はセリーヌくらいか』
『そしてキュービィー、ヌシが求めている真実も掴めるやもしれぬぞ?』
「…………………………」
キリコの腕組みする手に力がこもる。
(キリコさん……)
(異世界の神──ワイズマン……)
(キリコとは浅からぬ因縁があるというが……)
『ああ、それともう一つ。ヌシには人型になってもらうからそのつもりでな』
「はああっ!?」
「あのお可愛らしい姿ですわね」
「一気にあざとくなるやつだよな」
「う、うるさいっ!」
セリーヌが吠えた。
「フフ、セリーヌ君の艶姿も興味深いが真実を映す水鏡はタイムリーだろう。明日、エステル君たちを降ろした後、ガラ湖に向かうとしようか」
「ミルサンテからある程度離れた場所に着水するといいだろう。光学迷彩による潜行モードと静音モードを使いこなしてみてくれ」
「心得ました」
アンゼリカは笑みを浮かべる。
『ともかく、待っておるぞ。Ⅶ組の子らよ』
ローゼリアとの通信が切れた。
「帝国の呪いの最後の真実か……」
「いよいよ大詰めを迎えてきたってわけだね」
「はい」
「さてと、あたしたちも動き出さないとね」
「俺たちもだ。明日、山猫号Ⅱで送ってもらう」
エステルとロイドが立ち上がった。
「……それぞれギルドと支援課として動くんだな?」
「ああ、帝国東部やノーザンブリア、ジュライ特区方面もカバーするつもりさ」
「レマン総本部への連絡もあるしな。シェラザードたちも降りるんだろ?」
「ええ、艦の引き継ぎが終わり次第にね」
「サラ、フィー。カレイジャスⅡの事は頼んだぜ」
「ええ、任せておいて」
「要請とかあったら連絡して」
「それじゃあティオ先輩にエリィ先輩、キーアちゃんも……」
「ええ、一度クロスベルには戻っておく必要がありますので……」
「またすぐに会えるわ……お互い頑張りましょう」
「がんばろー、ユウナ!」
「うんっ……!」
ユウナははにかんだ。
「……フフ、どうやら各方面で分担できそうですね。ガイウス君……ゴホン、ウォーゼル卿──メルカバ捌号機はロジーヌ君に任せるといいでしょう。近場での修理を手配しますから」
「かたじけない、副長。ロジーヌもどうか頼む」
「はい、ガイウスさんも皆さんのことをお願いします」
ロジーヌは頭を下げた。
「ではこれで決まりだね」
「はい……!」
リィンは新旧Ⅶ組メンバーの方を向いた。
「では明日、月霊窟の探索を行う。Ⅶ組メンバーはゆっくり休んで準備を整えてくれ」
リィンの言葉を最後に会合は終わった。
(真実……俺が求めている真実をこの場所で得られるというのか)
キリコは月霊窟を見つめる。
「月霊窟……前も通りかかったけど」
「確かに……明らかな違いを感じるな」
「ああ……」
「そうなのか?」
「はい。不思議な気配はしましたが、ここまでは」
「ロゼさんの仰っていた霊脈の活性化でしょうか……?」
「ええ……そうみたいね」
「僕もようやく霊気なんかを感じられるようになったが……」
「だが、この霊窟の気配はまだ抑えられているようだな?」
ガイウスはエマに問いかけた。
「ええ、代々の巡回魔女が管理してきた唯一の霊窟……私の母も穢れを払いに何度か訪れたと聞いています」
「そうか、話に聞いた……」
「エマが小さい頃に亡くなったお母さんだよね?」
(そして、朧気ながらも呪いの根源に、ワイズマンにたどり着いたという……)
「優秀な巡回魔女だったって聞いているわね。まあ、アタシが生まれる前だから話くらいしか知らないけど」
「ふふ、私も小さかったからほとんど覚えていないけど………でも祖母からこの霊窟のの話は聞いています。祭壇の先にある霊場──そこに全てを映す水鏡があると」
「はは、ドンピシャじゃねぇか」
「するとブリオニア島とは違い、祭壇の更に奥に隠された場所が?」
「ええ、たぶん祖母が既に開いて待っていると思います。行ってみましょう、皆さん」
「ああ──だが、ちょっと待ってくれ」
「来てくれ──ヴァリマール」
リィンは歩き出そうとした新旧Ⅶ組を引き止め、ヴァリマールを呼び出した。
ヴァリマールの手には、根源たる虚無の剣が握られていた。
「あ……」
「なんだ、用心のためかよ?」
「いえ、ひょっとして──」
「……Ⅶ組全員ということで〝連れて〟きたということか」
「ああ、何があるか分からないし待機してもらう価値はあるだろう。殿下やミントたちにも話しておいた」
「ふふ、そっか……」
「うん、これで全員だね」
「…………はい」
アルティナは微笑んだ。
「そんじゃあ、入るとするか」
「ええ。まずは祭壇の所までね」
「?」
サラの言葉にキリコが反応した。
「そうか、キリコは知らなかったんだな」
「祭壇の所まではちょっとしたダンジョンになっているんです」
「そうか……」
キリコは所持している弾薬を確認した。
「そういえばセリーヌ、人型にならなくていいの?」
「ま、まだいいでしょ!?ロゼから話を聞いてからよ!」
新旧Ⅶ組は月霊窟に足を踏み入れた。
(フフフ……)
新旧Ⅶ組の様子を陰から伺っている者たちがいた。
「面白くなってきたな」
「まあ、退屈にはなりそうもないですが」
「Xデイまで後数日……それまでに片付けなくてはならないことが多いからな」
「そうですねぇ………例の脱走者たちの処理はどうします?」
「聞くまでもない。Ⅶ組に、キリコにやらせよう。そのように調整してくれ、アランドール少佐」
「了解しました、ルスケ大佐」
レクター少佐は敬礼をし、去って行った。
「フフフ……」
ロッチナは軍帽を被り直した。
(人の運命は女神が遊ぶ双六だとしても、あがりまでは一天地六の賽の目次第。さて、いかなる結果になるやら)
「ここが祭壇か」
一方、新旧Ⅶ組は月霊窟最奥の祭壇にたどり着いた。
(こんな造りになっているのか。いや、それよりも……)
「な、なんか前より魔獣が強くなってるような……」
ユウナはガンブレイカーをしまいながら言った。
「やはり霊脈の活性化が原因でしょうか……?」
「間違いないと思います」
「このまま活性化とやらが進めばどうなる?」
「活性化のあおりを受けた魔獣はより狂暴に、魔物はより残酷な存在になり、人の手には負えなくなる危険性があります」
エマはそう断言した。
「そんなことが……」
「戦争よりそっちの方が厄介だね」
「それも含めて世界の終焉か……」
「絶対に止めないと……!」
「ああ、その通りだ」
「その呪いの真実がこの先にあるというが……」
「とにかく、行ってみようぜ」
「そうだな……」
新旧Ⅶ組は祭壇の奥へと進む。
『!?』
新旧Ⅶ組は目の前の光景に思わず立ち止まった。
「こ、ここが……」
「月霊窟の奥……いえ、本体ですか」
「ええ、亜空間にある霊的な場……」
「内戦時の精霊窟とはちょっと違うね」
「ああ……夢幻回廊や暗黒竜の寝所の方が似ているな」
「確かにそうだな……」
「よく見れば、魔物の反応もあります」
「それを含めての試練とやらなんだろう──」
「にゃ……!?」
リィンが言い終わるか言い終わらないうちに、セリーヌの体がひかりだした。
「!?」
「これは……!?」
「ちょ、何なのよ……ニャアアアアアアッ……!?」
セリーヌは人型へと変化した。
「おおお~っ……!」
「へえ、なんか手品でも見ている感じねぇ」
(これも魔女の力なのか……?)
初めて見る者たちは興味深げにセリーヌを見つめる。
「サービスいいじゃねぇか。チビクロネコ」
「誰がチビクロよプリン頭っ!──じゃなくて!アタシの意思とは関係なく勝手に……」
「ここは月の霊場──真実を映し出す聖域じゃからの」
新旧Ⅶ組の目の前に、ローゼリアが現れた。
「ロゼ……!?」
「お祖母ちゃん、その姿は……」
「なんだって……!?」
「それじゃあ、この人が……」
「ローゼリアさんの元の姿というわけか……」
「ええ、あたしたちは何度かお目にかかってますけど……」
「フフフ……」
新旧Ⅶ組の前に、幼児然とした姿ではなく、本来の姿のローゼリアが現れた。
「……………………」
キリコはほとんど興味を示さなかった。
「どうじゃ?なかなか〝ないすばでぃ〟じゃろ?」
ローゼリアは妖しげな視線をキリコに送った。
「……そんなものを見せるためだけに、俺たちを呼び出したのか」
『…………………………………』
周囲の空間は一気に固まった。
「…………………………………」
ローゼリアは三角座りをして分かりやすく落ち込んだ。
「す、すみません!!」
「キリコ!!今すぐ謝るんだ!!」
「キ、キリコ君はその、おべんちゃらが言えないというか……」
「ユウナ!!」
「あ……!?」
ユウナは思わず口に手を当てた。
「よいよい………妾も少々戯れが過ぎた……グスン………」
ローゼリアが立ち直るまで、時間を要した。
その間、キリコはリィンたちに小言をもらうこととなった。
「待たせたの」
改めて、ローゼリアは新旧Ⅶ組と向かい合った。
「この姿のことじゃが、霊場の活性化によって元の姿を取り戻しておるわけじゃ。そして〝真の姿〟も……」
「へ……」
「真の姿……?」
(まだ何かあるのか……)
「──最奥にあるのが水鏡。代々の巡回魔女が管理した遺物じゃ。皇帝家の黒の史書とも連動する帝国の裏の歴史を映し出す神具……黄昏に至った今ならば全てを垣間見ることができよう」
ローゼリアは一呼吸置いて告げた。
「──ただし起動するためには大いなる試練が必要になるが」
「お、大いなる試練……?」
「煌魔城やら陽霊窟と同じ理屈ってワケか……」
「重要な儀式の前に必要となる闘争による準備段階……」
「どうやら同じ流儀で全て成り立っているようだな」
「フフ──ようやくその認識に至ったみたいね?」
ローゼリアの隣にヴィータが現れた。
「ね、姉さん……!?」
「クロチルダさん!」
「どうしてアンタが……昨日別れたばかりでしょ!?」
「ふふ、そもそも昨日外していたのは婆様の手伝いをしていたからでね。今回の試練の前座、まずは私が務めさせてもらうわ。加えてサプライズゲストも呼んだからせいぜい愉しんでちょうだい」
「サプライズゲスト、ですか……」
「ま、まさか……」
(聞くまでもないか……)
キリコはサプライズゲストが誰なのか確信した。
「あ、それとキリコ君?あんまり婆様からかっちゃダメよ?」
「からかってなどいないが……」
キリコは真顔で答えた。
「キリコさん……」
「悪意が一切感じられません……」
「ある意味善人なんだろうけど……」
「マキアス、善人って何?」
「僕も分からなくなってきた……」
フィーからの問いにマキアスは額を押さえた。
「コホン……」
ローゼリアは咳払いをし、新旧Ⅶ組の意識を自身に向ける。
「そちらは想定外じゃが存分に役割は果たしてくれよう──それではの。死ぬ気で最奥に辿り着くがよい」
そう言ってローゼリアはヴィータと共に転移して行った。
『………………………』
残された新旧Ⅶ組は立ち尽くした。
「これは……大変な試練になりそうだな」
「だがこちらもⅦ組全員──誰であれ負けるわけにはいかぬ」
「ああ、その通りだ」
ユーシスは一歩前に出た。
「俺も、今こそ義務を果たす時だろう。帝国の表の歴史の一角を担ってきた四大貴族の末裔の一人として……彼女に救われ、託された道をどう歩むべきか、見極めるためにも」
「あ………」
アルティナは彼女という言葉に反応した。
「はいっ、力を合わせて真実を掴み取りましょう!」
「このクソッタレなお伽噺を終わらせるためにもな!」
(待っていろ……ワイズマン!)
キリコは拳を握りしめる。
「新旧Ⅶ組、これより月の霊場の攻略を開始する。エマ、セリーヌ、ユーシスもよろしく頼んだぞ!」
「はい……!」
「任せるがいい……!」
「ああもう……こうなったら破れかぶれよ!」
新旧Ⅶ組は月の霊場へと足を踏み入れた。
『……………………………………………』
新旧Ⅶ組が進んだ直後、ローブを纏った者が現れた。
『……………………………………………』
ローブを纏った者は新旧Ⅶ組の後を追うように、進み出した。
次回、深淵の魔女と対決です。