英雄伝説 異能の軌跡Ⅱ   作:ボルトメン

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加筆します。




七耀暦1206年 8月5日

 

リーヴスの戦いから一夜明けた。

 

キリコはクロイツェン州は交易都市ケルディックにいた。

 

 

 

[キリコ side]

 

ヴィータ・クロチルダの手によりクロイツェン州に飛ばされた俺は近隣にあるケルディックで身を休めることにした。

 

ここ、ケルディックは交易が盛んで月に一度開かれる大市が有名らしい。

 

だが2年前の内戦で先代のアルバレア公爵の私兵のクロイツェン領邦軍と北の猟兵の焼き討ちにより灰となった。

 

その後、領主代行のユーシス・アルバレアの尽力により、元の状態にまで戻ったという。

 

「ねぇ、知ってるかい?バートラーさん」

 

「?」

 

ちなみに俺は今、エイジ・バートラーと名乗っている。

 

「なんかリーヴスってとこで、テロリストが好き勝手してたんだってさ」

 

「……テロリスト?」

 

連中はれっきとした衛士隊だったはずだ。

 

「それを皇太子様がトールズの子たちを引き連れて乗り込んで行って、鎮圧したんだよ」

 

「……そうなのか」

 

「あんたねぇ、帝国時報くらい読まなきゃダメよ。今にあたしの知り合いみたいにだらしない人間になっちまうよ」

 

「……………………」

 

「まあ、読んでみなよ」

 

風見亭の女将から渡された帝国時報に目を通す。

 

そこには女将の言うような内容が書かれていた。

 

なお、魔煌機兵百機全てをセドリック率いるトールズ本校生徒たちが鎮圧したことになっている。

 

「そういやあんた、ここいらじゃ見ない顔だね。どっから来たんだい?」

 

「……帝都からだ」

 

「ふーん?まあいいさ。それにしても……」

 

女将は窓の外を見る。

 

窓の外では比較的若い者たちが決起集会のようなものをやっていた。

 

「困ったもんだよ。戦争が始まるかもってなってからああなんだ」

 

「戦争を知らない。そんな感じだな」

 

「そりゃそうだよ。百日戦役の時はあの子たちががきんちょの頃だもの。2年前の内戦の時だって逃げ隠れしてたんだから」

 

「……………………」

 

呪いというのはここまで人を駆り立てるようだ。

 

「まったく……元締めが生きていれば……」

 

「元締め?」

 

「おいおい、兄ちゃん。元締めっつったら、オットー元締めに決まってんだろ」

 

横から農夫のような男が話しかけて来た。

 

かなり飲んでいるらしく、酒臭い。

 

「生きていればということは……」

 

「ああ……焼き討ちの時にね……」

 

「そうか」

 

「何もかも貴族が悪いっ!」

 

農夫の男がジョッキを叩きつける。

 

「あいつらは俺らを苦しめることしか頭にないのさ!到底払えないような税をかけたり、商売を邪魔するし、オットー元締めのような人格者だって平気で殺せるんだ!」

 

「……………………」

 

「跡を継いだっていうのも同じさ!そのうち先代と同じことをするだろうさ!貴族様ってのは産まれた時から神様なんだからな!」

 

「ちょっと!あんた飲み過ぎだよ!ほら、そこの部屋貸してあげるから横になりな!」

 

「……ヒック。元締めぇ……」

 

農夫の男はそのままカウンターに突っ伏して寝た。

 

「悪いね。この人は元締めを尊敬してたから。でもアルバレアの若殿様だって直々に謝罪に訪れてくれたし、今までの税やらなんやらも全て清算してくれたしね。さすがサラちゃんが率いていたトールズⅦ組だよ」

 

「……………………」

 

俺はミラをカウンターに置く。

 

「あら、もう良いのかい?」

 

「コーヒー、旨かった」

 

俺は風見亭を出た。

 

 

 

その後俺は決起集会を行っている連中を横目に、大市で薬や食糧を調達した。

 

「へぇ、兄ちゃん帝都から来たんか」

 

「ああ」

 

「せやったら兄ちゃん、うちの娘を知らんか?」

 

「娘?」

 

「ベッキー言うてな。この間の夏至祭から行方が知れんねや」

 

「さすがにわからないな」

 

「そうか……。兄ちゃん、もし会うことがあったら心配してたって伝えてくれへんか?」

 

「わかった。会うことがあればな」

 

「すまんな兄ちゃん。このフルーツバー?とか言うのおまけにつけるさかい」

 

「悪いな」

 

「そう言えば兄ちゃん、どこかに行くんか?」

 

「……バリアハート方面だ」

 

「そうか。ま、気ぃつけてな」

 

俺は店主にミラを払い、東口からケルディックを後にした。

 

[キリコ side out]

 

 

 

ケルディックを出たキリコは、東にある翡翠の公都バリアハートを目指していた。

 

(やはり馬を借りて正解だったな。それにしても……)

 

キリコは先ほど戦闘を行った魔獣が気になっていた。

 

(さっきの魔獣はそれほど強くはない。むしろ弱小の部類に入る。だが先ほどの戦闘では少してこずった。まるで突然強くなったかのようだ。これも呪いによるものなのか)

 

キリコは地図を見ながら推測をした。

 

(……とにかく、バリアハートに行ってみるか。休憩をはさみながらなら1時間と少しで行けるはずだ)

 

キリコは馬に跨がり、バリアハートに向けて走らせた。

 

 

 

午後 2:00

 

2時間後、キリコは魔獣の襲撃に遭いながらも、バリアハートに到着した。

 

元々、バリアハートでは貴族でさえあれば誰もが権勢を奮っていて、平民は平身低頭を強いられていた。

 

だが2年前の内戦でバリアハートに住むほとんどの貴族が落ち目になり、貴族街を除くほとんどの区画で平民とのトラブルが起きていた。

 

「ふざけるな!私を誰だと思っている!?」

 

キリコは職人街にある喫茶店で遅い昼食を取っていた。その横で貴族の男が店主に食ってかかっていた。

 

「ふざけてなんかいませんよ。店で飲食をしたらミラを払う。子どもでも知ってることですよ」

 

「私は伯爵だぞ!平民ごときが楯突くつもりか!」

 

「伯爵ったってあなたは内戦で悪どいことやって財産のほとんどを差し押さえられたそうじゃないですか。まさかワインのボトル一本の料金も支払えないとは思いませんでしたが」

 

「黙れ黙れ黙れ!こんな店、潰すことなぞ簡単なのだぞ!」

 

「やれるものならどうぞ。その前に罰せられるのはあなたですよ。私たちにはユーシス様がついておられるんですから」

 

「グッ……!」

 

ユーシスの名前を聞いた伯爵はそのまま頭を垂れた。

 

(バリアハートのトラブルはオルディス以上だな。パワーバランスは今や完全に平民の方が上だ)

 

「……代金はここに置く」

 

「毎度。いやぁ、お客さんはわかってるね。ミラを払うことは子どもでも知ってるってのに。それがわからないってのは不幸だよ、そう思わないか?」

 

「……………………」

 

キリコは顔を真っ赤にした伯爵を尻目に喫茶店を出ていた。

 

 

 

「?」

 

突然キリコのARCUSⅡに通信が入る。

 

「もしもし?」

 

『キリコか』

 

「……ロッチナか」

 

『今どこにいる?』

 

「バリアハートだ」

 

『バリアハート?一応、報告してもらおうか』

 

「……………………」

 

キリコは現在に至るまでのことを話した。

 

『なるほど。蒼の騎士と深淵の魔女に会ったのか。それにしてもバリアハートとはな』

 

「?」

 

『実は今、オーロックス砦付近に来ていてな。今から来れるか?』

 

「何のためにだ」

 

『ジギストムンドは覚えているな?』

 

「そいつは確かヘイムダル監獄に収容されたはずだ」

 

『栄光にしがみつく愚か者、現実を直視できない馬鹿はどこにでもいるということだよ』

 

「……………………」

 

『地図を送信する。馬か何かを使えば30分ぐらいで着けるはずだ。待っている』

 

そう言って通信は切れた。

 

「……………………」

 

キリコは近くの商業施設で装備を整え、オーロックス峡谷道へと向かった。

 

 

 

午後 3:30

 

「来たか」

 

「……………………」

 

「まあいい。こっちだ」

 

キリコとロッチナは峡谷道外れの高台へと移動した。

 

「いったい俺に何をさせるつもりだ」

 

「単刀直入に言う。オーロックス砦を落として来い」

 

「砦を?」

 

「本来ならば、オーロックス砦には第五機甲師団が入る手筈だった。だが領主代行不在の隙を突いて貴族派が要塞を占拠したのだ」

 

「ユーシス・アルバレアの政策に反発する貴族が、か?」

 

「その通り。既に関与した貴族はリストアップされ、捕縛されている頃だろう。問題はオーロックス砦には今、先代アルバレア公爵ヘルムート・アルバレアと腰巾着の貴族たち、さらに領邦軍のあぶれ者や落ち目になった正規軍貴族派が居座っているのだ」

 

「そいつらの拘束と兵士の排除か。正規軍は動けないようだな」

 

「ああ、開戦が迫る今、余計な出費は避けたいというのが本音のようだな」

 

「……………………」

 

「どうだ?利害は一致すると思うが?」

 

「……………わかった」

 

キリコは黙考し、頷いた。

 

「そう言ってくれると信じていたよ」

 

「心にもない言葉より機甲兵なりなんなり寄越せ」

 

「わかってるさ。こっちに来てくれ」

 

「………………………」

 

キリコはロッチナについて行った。

 

そして大型のコンテナの前にやって来た。

 

「これは……」

 

「お前へのささやかなプレゼントだ」

 

ロッチナはコンテナにパスワードを打ち込み、扉を開く。

 

「さあ、受け取ってもらおう」

 

「………貴様…………」

 

キリコはロッチナを睨む。

 

コンテナの中に入っていたのは蒼い機甲兵だった。

 

頭部のターレットレンズは形状が変わり、回転式から固定式になっていた。

 

左腕は三つの爪で構成されたアイアンクローになっており、さらに銃口が覗かせていた。

 

「ラビトリードッグ。かつてワイズマンから与えられ、惑星クエントに押し寄せたギルガメス、バララントの大軍を震撼させたAT。そのノウハウを生かし、完成したのがこの機体だ」

 

「その名も『フェンリール』北方の神話に登場する、神をも殺す牙を持つ魔獣から取ったものだ。今のお前にぴったりじゃないか?」

 

「……俺が諸手を挙げて喜ぶとでも思ったか?」

 

キリコは苛立ちを隠さずに言った。

 

かつてキリコはワイズマンを欺くためとはいえ、仲間たちや愛する女性に銃口を向けた。その記憶は未だ風化されず、キリコにとってラビトリードッグは因縁のある機体だった。

 

「文句なら後で聞こう。さあ、行け」

 

「………………………」

 

有無を言わさないロッチナに苛つきながらも、キリコはフェンリールに乗り込む。

 

【コックピット内部はフルメタルドックとほとんど変わらない。問題は……】

 

キリコは計器類をチェックする。

 

【やはりフルメタルドックよりも活動限界時間は長い。せいぜい使わせてもらうが、いずれは……】

 

キリコはフェンリールの右手を操作し、バズーカ砲のような武器──ハンディソリッドシューターを掴む。

 

「どうかね?」

 

【機体に問題はない。それより、このままオーロックス砦へ乗り込めばいいんだな?】

 

「そうだ。だがオーロックス砦は天然の要害でもある。真正面から行くほかないぞ」

 

【それで行く】

 

「武運を祈っているよ」

 

【………………………】

 

キリコはオーロックス砦目指してローラーダッシュを加速させた。

 

 

 

「いよいよですな。閣下」

 

「うむ」

 

一方、オーロックス砦ではユーシスの実父であるヘルムート・アルバレアがバリアハート方面を見つめていた。

 

ヘルムートは内戦後、領民虐待、騒乱、放火の罪で裁判が始まるまで屋敷に軟禁されていた。

 

その間もしぶとく権力の座に返り咲こうと根回しや画策をしていた。

 

だが帝国政府の決定に全て灰塵に帰した。

 

頼りにしていた偽りの長男のルーファスに見捨てられ、さらに平民の血が流れていると疎んじていた次男のユーシスが領主代行の地位に着いたことで見通しが完全に狂い、一気に老け込んでしまった。

 

そんな中、突如として帝都で起きた異変。そして領主代行の失踪。

 

これ幸いにと、ユーシスの政策に反発していた貴族たちがどさくさ紛れにヘルムートを連れ、オーロックス砦に立て籠った。

 

これに呼応し、統合地方軍にも入れなかった元領邦軍兵士や百日戦役以来冷遇が続く正規軍貴族派も加わり、一個師団並みの兵力を持つに至った。

 

「中央がごたついている今、我ら真なる貴族が立ち上がる時です」

 

「領主代行による蛮政も終わりです」

 

「我ら貴族から税を取ろうなどと、烏滸がましいというものだわい」

 

「税とは平民の者どもから搾り取ると大昔から決まっているものですからな」

 

彼らにとって、ユーシスの政策は受け入れ難いものだった。

 

領主代行に就いたユーシスは焼き討ちに遭ったケルディックの再建に着手した。

 

そのため先代の政策を廃止し、領民寄りの政策を次々に打ち出していった。

 

決定的だったのは、貴族からの徴税だった。

 

ユーシスはケルディック再建のための資金源として貴族たちに税を払うことを打診。

 

特に内戦以前から悪どい所業をしていた貴族には重い税が科された。

 

ユーシスの手腕を高く評価する貴族たちは最初から従ったが、大半の貴族たちは一斉に反発した。

 

だが帝国貴族の階級で最高位の公爵の意向に逆らえる者などおらず、従うほかなかった。

 

だが彼らの不満は燻り続け、件の異変をきっかけにそれが悪い方向に動き出した。

 

 

 

「閣下!大変です!」

 

「騒々しい。いったいなんだ?」

 

「機甲兵です!機甲兵が現れました!」

 

「なんだと!?」

 

兵士からの報告に貴族たちは慌てだした。

 

「敵ははどれほどの数だ!」

 

「そ、それが……」

 

兵士が言いかけた瞬間───

 

「ぐわぁぁぁぁぁっ!!」

 

砲撃音が響き、叫び声が轟いた。

 

「な、なんだ!?」

 

「まさか、砲撃してきたのか!?」

 

貴族たちは窓の外を見た。

 

そこには、蒼い機甲兵らしき機動兵器が戦車隊と交戦していた。

 

「たった一機だと!?」

 

「おのれ!」

 

「落ち着くがよい」

 

ヘルムートは狼狽える貴族たちを落ち着かせる。

 

「正規軍は余程余裕がないと見える。砦の全兵力を持って殲滅せよ。徹底的にな」

 

「わ、わかりました!全兵士に伝えろ!」

 

「イ、イエッサー!」

 

連絡役は司令室を出ていった。

 

(さて…………)

 

ヘルムートは紅茶の入ったカップを啜った。

 

 

 

[キリコ side]

 

「ば、馬鹿な……」

 

「そんな………」

 

オーロックス砦付近に配備されていた戦車や装甲車を軒並み破壊した。後は機甲兵くらいだろう。

 

【落ち目になったとはいえ、一個師団並みの兵力は持っているようだな。しかし……】

 

俺は蒼い機甲兵フェンリールの操作性能の高さに違和感を覚えた。

 

【気味が悪いくらいにしっくりくる。おそらくフルメタルドックのデータと俺が書き上げたレポートを基に設計されたのだろう。あのシュミット博士も噛んでいるはずだ】

 

そんなことを考えていると、旧式のドラッケンが襲って来た。やはり新型は手に入れてないようだ。

 

【我ら貴族の捲土重来を邪魔する愚か者よ、くたばれぇぇっ!】

 

【遅い】

 

フェンリールのマシンガンでドラッケンの脚部を撃ち抜く。

 

ドラッケンがぐらついたところにアイアンクローでコックピットの表面を抉る。

 

【あ、ががが……】

 

【……………………】

 

俺は一瞥することなく、要塞の壁に砲撃した。

 

【貴様!ここをどこだと思っている!】

 

『消し炭にしてくれる!』

 

罵声を響かせながらシュピーゲルと飛行挺が仕掛けて来た。

 

だが関係ない。

 

俺は即座にシュピーゲルの両手足にハンディソリッドシューターを撃ち込む。

 

それと同時に飛行挺の真下へ移動し、エンジン部分を銃撃。

 

【うわぁぁぁぁぁっ!?】

 

『そ、そんな馬鹿な……!?』

 

シュピーゲルは爆発し、飛行挺はそのまま谷底に墜落していった。

 

【いずれ償う】

 

俺はそんなことを思いながら、新たにやって来たシュピーゲルとドラッケンを相手取る。

 

[キリコ side out]

 

 

 

「さすがだな、キリコ」

 

「まったくだよなぁ」

 

「ほう、これは珍しい」

 

ロッチナが振り向くと、西風の旅団団長のルトガー・クラウゼルが歩いて来た。

 

「確か、サザーラント方面の予定では?」

 

「なあに、ちょっとした野暮用さ。あんたこそ何してんだ?」

 

「あの機体のテストですよ」

 

「あの連中はモルモットってわけかい。まさかあんたがお膳立てしたのか?」

 

「まさか。連中の暴走は計算外でした。だが嬉しい誤算というだけですよ」

 

「……なるほどな。しかし……」

 

ルトガーは数の差をものともしないフェンリールを見つめる。

 

「ゼクトールとガチンコで勝負が出来そうだな。薄い装甲っつう剥き出しの弱点を腕でカバーしてやがる。あれだけの腕を身につけられるってこたぁ、アストラギウスってとこはとんでもない場所のようだな」

 

「さすがの洞察力ですな。ただのごろつきとはわけが違う」

 

「ごろつき上がりなのは間違いないんだがなぁ」

 

ルトガーは頭を掻いた。

 

「まあ、いいさ。それじゃ、後でな」

 

「もう帰られるのですか?」

 

「決まりきった勝負なんざ面白くも何ともねえだろ」

 

「………確かに」

 

「それにあっちにはあっちで面白そうなガキがいるんでな」

 

「ガキ?もしや……」

 

「ククク………来な、ゼクトール!」

 

ルトガーの呼び掛けに、紫の騎神ゼクトールが顕れる。

 

【またな】

 

ルトガーを乗せたゼクトールは飛び去って行った。

 

「……確かに決まりきった勝負は面白くも何ともない。だが、主演がキリコであるならば……」

 

ロッチナは再びオーロックス要塞を見つめる。

 

 

 

【ば……化物………】

 

【………………………】

 

キリコの乗るフェンリールはオーロックス砦に配備されていた機甲兵の四分の三を破壊した。

 

【た、頼む………こ、殺さないで………】

 

【死にたくなければ降りろ】

 

【は、はい………!】

 

キリコは兵士が降りたドラッケンを破壊した。

 

【……………………】

 

キリコはだめ押しと言わんばかりに、オーロックス要塞にハンディソリッドシューターの砲撃を次々に撃ち込む。

 

ハンディソリッドシューターの砲撃に恐れをなした兵士たちの士気はもはやがたおちになり、一人、また一人と武器を捨てて投降し始めた。

 

【後は首謀者だという先代アルバレア公爵を………?】

 

その時、不意に上を向いた。

 

【あれは………】

 

 

 

少し前──

 

貴族たちはフェンリールの圧倒的、ひたすら圧倒的な力に平静を失っていた。

 

「そんな………!?」

 

「あれだけの兵士たちは何をしている!?」

 

貴族の一人が連絡役に食ってかかる。

 

「へ……兵士の大半は戦死。残っている者も銃を捨てて投降して……」

 

「馬鹿な……」

 

食ってかかった貴族は崩れ落ちた。

 

「と、とにかく私は逃げるぞ!ただ連れて来られただけだからな!」

 

「ふざけるな!一人だけ助かるつもりか!貴公とてミラを出しただろう!」

 

「あ、あんな化物が来ることなど聞いてない!ミラは返してもらう!」

 

「今さら一抜けなど許さん!それに知っているのだぞ!貴公は他所に平民の女を囲っていることをな!」

 

「黙れ!貴公こそ、召し使いに暴力を振るい自殺させただろう!しかも事故に見せかけてな!」

 

「あんな役立たずはいらん!そちらもそうだろう、娘を聖アストライアに裏口入学させようとして、赤っ恥掻いたそうじゃないか」

 

「き、貴様ぁ!男爵と子爵の分際で!」

 

(……誇りも何もない……我が身可愛さに……自己保身しか頭になく……罵り合う………)

 

貴族たちが掴み合い、互いを罵っている光景をヘルムートは黙って見ていた。

 

(終わったな…………こんなものが………帝国貴族だとは………)

 

ヘルムートはフラフラと屋上の階段へ歩いて行った。

 

そのことに貴族たちは気づいてもいなかった。

 

 

 

【あれは………】

 

キリコは屋上に立つ人影を見つめる。

 

【?】

 

すると、ARCUSⅡに通信が入る。

 

【どうした?】

 

『聞こえるか、キリコ。あれが先代アルバレア公爵だ。出来れば無傷で拘束してほしい』

 

【無傷で?】

 

『落とし所に持って行くためのな』

 

【やつだけ捕らえればいいんだな?】

 

『ああ。他の雑魚は放っておいて構わん』

 

【わかった】

 

キリコは通信を切ると、屋上に立つヘルムートを見る。

 

 

 

「さてと……?」

 

ロッチナが通信を終えると同時に何者かが転移してきた。

 

「ほう。これまた珍しい客人だ」

 

「お初にお目にかかります。鉄機隊が一人、魔弓のエンネアと申します」

 

「帝国軍情報局大佐ルスケという」

 

「出来れば、本名をお願いします」

 

「フフ。ジャン・ポール・ロッチナ。これで満足かな?」

 

「はい」

 

エンネアは恭しく頭を下げる。

 

「……キリコにかね?」

 

「はい。我らがマスターが呼ぶようにと」

 

「ほう、鋼の聖女のご指名とはな。それでどこに連れて行けば良いのかな?」

 

「……明後日にユミルだそうです」

 

「ユミルか、遠いな。まあいい、飛行挺でも使えば行けるだろう」

 

「確かに伝えました」

 

「わかった」

 

「………それと一つだけ」

 

立ち去ろうとしたエンネアは、ロッチナに問いかけた。

 

「?」

 

「彼は、あの教団の……」

 

「D∴G教団とは直接は関係ない」

 

「………………」

 

「だが、教団の異能の開発の切欠になったのは間違いない」

 

「………失礼しました」

 

エンネアは転移していった。

 

「フフ……」

 

ロッチナは思わず口角を上げる。

 

 

 

「……私のやってきたことは……無意味だったのか……」

 

ヘルムートはこれまでのことを思い浮かべる。

 

「妻と追放した弟の不義の子を……貴族と公爵家の名誉のためにと受け入れたが……見捨てられ………平民の女の血を引く実子に………片隅に追いやられ……臣下もほとんど去った……此度の件も……貴族同士で……醜く自滅した………」

 

ヘルムートにはもう何も残っていなかった。

 

(……もう……疲れた………)

 

ヘルムートは目を閉じ、屋上から飛び降りた。

 

【……………………】

 

キリコはフェンリールを操作し、落ちてきたヘルムートを掴む。

 

「……………………」

 

体を打ったのか、ヘルムートは完全に気絶していた。

 

【悪いな】

 

キリコはヘルムートと共にオーロックス砦を脱出した。

 

 

 

【連れて来た】

 

「ご苦労。降りて来い」

 

キリコはヘルムートを降ろし、ロッチナはヘルムートを丁重に拘束した。

 

「それとキリコ、お前に明後日行ってもらう所がある」

 

「何?」

 

「実は先ほどとある人物から連絡が来てな。来てもらいたいそうだ」

 

「どこにだ」

 

「ノルティア州北方のユミルだ」

 

「ユミルだと!?」

 

キリコは呆気にとられる。

 

「明日の昼まで私はここにいなければならん。ホテルを取っておいたから休むといい」

 

「行くとは一言も言っていない。それに呼び出したのは誰だ?」

 

「鉄機隊の一人。魔弓からだ」

 

「鉄機隊の?つまり俺を呼ぶのは」

 

「そうだ。結社身喰らう蛇、蛇の使徒第七柱鋼の聖女だ」

 

「………………………」

 

キリコは思わず、拳を握りしめた。

 

 

 

その後、オーロックス砦は第五機甲師団に接収され、罵り合ってた貴族たちやわずかに生き残った兵士たちは全員捕らえられた。

 

なお、帝国時報ではオーロックス砦解放作戦と銘打たれ、全て第五機甲師団の手柄とされた。

 

無論、情報局が手を加えたことは言うまでもない。

 

首謀者のヘルムートは屋敷に連れ戻され、常に監視下に置かれる状態になった。もっとも、今のヘルムートは無気力そのものだった。

 

さらに、この件に関与していない貴族たちも見て見ぬふりをしてたとして優先的に徴兵に回され、財産も没収された。

 

これをもって、バリアハートの貴族勢力は完全に息の根を止められることになった。

 




次回、ユミルにて……
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