「来たか」
オーレリアは新旧Ⅶ組を不敵な笑みで出迎えた。
「深淵殿と刃を交えたばかりのようだが、フフ──戦意は十分か」
オーレリアは宝剣を肩に担いだ。
「うう……やっぱり」
「ふふ、お忙しいでしょうにご苦労様です」
「というか付き合い良過ぎ」
「フフ、パンタグリュエルでの迎撃をそなたらに任せてしまったからな。もう一度聖女殿に挑みたくもあったが資格なき身では是非もあるまい。この場で試練の前座を務めるならまさに一石二鳥というものだ」
「クク……相変わらず痺れる姐さんだ」
「挑ませて頂きます、分校長」
「一対多数にはなっちまうがこちらも手は抜かねぇからな?」
(まだ見くびっているのか……)
アッシュの言葉にキリコは心の中で呆れ果てた。
「一対多数か………だから何だというのだ?」
オーレリアから黄金の闘気が迸る。
「なにぃ……!?」
「黄金の輝き……」
「我が異名は黄金の羅刹、それは剣や機甲兵が由来ではない。我が闘気と、用兵の鮮烈さを幻視した世人がいつしか称したもの。一剣士としてではなく──将としての輝きも含めてな」
「っ……!」
「そういうことか……!」
「キュービィー、それはそなたが一番よく解っているはず」
「ああ……」
「キリコ……」
「思えば内戦時、そなたは策を弄しつつもいつも真正面から挑んできおったな」
「用兵が鮮烈というが裏を返せば派手さ故に隙が大きい。そこを狙って仕掛ければいいだけのことだ」
「そのおかげでウォレス共々いつも手を焼かされた。終いにはいきり立つ兵たちの諫め役までさせられたのだぞ?」
「それも将というものだろう」
「フフ、確かにな」
オーレリアは笑みを浮かべた。
「え、えっと……」
「お二人だけで盛り上がられても……」
「おっと、そうであったな」
オーレリアは咳払いをし、改めて新旧Ⅶ組と向き合う。
「今一度思い出してみるがよい。そなたらがこれから相対する者たちを」
「俺たちが相対する者……」
「団長に槍の聖女……」
「我が兄ルーファス・アルバレア……」
「そして、鉄血宰相……」
新旧Ⅶ組はそれぞれの存在を思い浮かべた。
「思い出したようだな」
オーレリアは再び黄金の闘気を漂わせる。
「おそらく今のそなたらでは届かぬ猛者たち。ならばそなたらは全身全霊で我が試練を乗り越えるしかあるまい。かの猟兵王に槍の聖女──何よりも激動の時代に君臨する鉄血に挑むためにもな……!」
「確かにいずれも尋常ではない将の器の持ち主……!」
「彼らと同じ重みを受け止め、乗り越えるための試金石ってわけね……!」
「そして城将たる兄上にも通じる試練だ……!」
(そのさらに向こうには、奴が……!)
キリコはⅦ組よりもさらに先を見た。
「届かせていただく──オーレリア・ルグィン将軍!」
「最強の将にして剣士たる貴女に!」
ラウラとリィンが抜刀し、全員が続いた。
「意気やよし──我は羅刹、戦場を蹂躙する黄金の軍神!我が宝剣アーケディアの前に揃って跪くがよい──!」
黄金の羅刹による試練が幕を開けた。
「リィンさんたち、大丈夫でしょうか……?」
カレイジャスⅡのブリッジで待機しているアルフィンはオリヴァルト皇子に問いかけた。
「深淵の魔女殿に黄金の羅刹がいる以上、苦戦は必須だろう。新旧Ⅶ組の総力を結集してトントン、っていうのは甘いかな?」
「あの噂が間違いならな」
「噂?」
エリゼはミュラー少佐の方を向いた。
「黄金の羅刹──オーレリア・ルグィン将軍は未だ本気を出していないという噂だ」
『え……』
ブリッジにいる者たちの表情は凍りついた。
「あまりの強さに敵がいなくなり、何時しか加減しながら剣を振るっているという噂が存在するのだ。紅の戦鬼、お前は間近で戦いを見たそうだがどうだ?」
「ん~、そうだねぇ。イプシロンと殺りあった時は心なしか愉しそうだったよ。何て言うか、理想の敵と出会った感じ?」
シャーリィはジュノー海上要塞での戦いを思い出しながら言った。
「……どうやら噂は真実だったようだね」
「トントンでは済まなくなったな……」
(兄様……)
エリゼは両手を組み、懸命に祈った。
「エリゼ……」
アルフィンは親友の肩に手を置くことしか出来なかった。
[キリコ side]
「ぬうんっ!」
オーレリアの一振りが爆風を生む。
「くっ!」
「まるで手がつけられねぇ!」
俺たちは序盤から劣勢に追い込まれていた。
宝剣と呼ばれるだけあり、オーレリアの剣はかなりの破壊力を有していた。
あれにオーレリア自身の能力を重ねればこうなるのは当然か。
だが何か気にかかる。
生身の実力は知っているはずだが、それらを上回っているような気がする。
「アーマーブレイクⅡ」
動きが一瞬止まったのを機に狙いをつけて撃った。
だが既にいなかった。
「どうしたキュービィー?」
回避したオーレリアは一気に接近してきた。
「そんなものではないだろう。そなたの、いや貴様の力は!」
オーレリアは宝剣を振り下ろしてきた。
「っ!!」
アルゼイドが咄嗟に大剣で受け止めた。
「すまない」
「構わぬ……はぁっ!!」
アルゼイドがオーレリアの剣を払った。
「ほう……」
「まだまだ!」
「ならば受け取るがよい。四耀剣!」
「っ!?」
オーレリアの一撃がアルゼイドを吹っ飛ばした。
だがこれも策の内だ。
「ヴォイドブレイカーⅡ!」
「ゲイルストームⅡ!」
隙を突いてアッシュとウォーゼルが仕掛けた。
「フッ……」
オーレリアは宝剣の腹で受け止めた。
「チッ!」
「だが……!」
「ブルーアセンション!」
「エアリアル!」
「ガリオンフォート!」
二人が下がった瞬間、水、風、幻属性のアーツが襲いかかる。
「見事な連携だが、甘い!」
オーレリアは黄金の闘気を纏わせた宝剣でアーツを文字通り斬り裂いた。
『…………………』
追撃に移行しようとした者は勿論、俺でさえ動きが止まった。
どうやら俺も見くびっていたようだ。
オーレリア・ルグィンという化け物を。
[キリコ side out]
「嘘……でしょ……?」
「あり得ません……」
「物理攻撃ならまだしも、アーツまで防ぐとは……」
「い、いくら何でも……」
新旧Ⅶ組に動揺が広がった。
(全員……というわけではないが、オーレリアの迫力に飲まれつつあるな)
キリコは呼吸を整え、オーレリアを見据える。
「それにしても、先ほどの技はいったい……」
「フフ、亡き師父は良いものを授けてくれた」
「良いもの……?」
「ああ──」
オーレリアは宝剣に再び黄金の闘気を纏わせた。
「気を制御し、己が武器に纏わせる。魔剣と化したその剣は岩盤を切り裂き、アーツ等の魔を退ける。獲られる戦果は爆発的なものになるとな」
「な……!?」
「東方で言う気功術……」
「まさか会得しておられたとは……!」
新旧Ⅶ組は呆然となった。
「まさかこれを使わせられるとは思わなんだ。旧Ⅶ組の者たちは無論、Ⅶ組特務科の皆も成長したものよ」
「分校長……」
「……だからこそ、発揮できるというものだ」
オーレリアから先ほどとは比較にならないほどの黄金の闘気が溢れ出す。
『っ!?』
新旧Ⅶ組はオーレリアの迫力に気圧された。
「……そういうことですか」
リィンはゆっくりと口を開いた。
「貴女は未だ極みに達してはいなかった、違いますか?」
「え!?」
「な、何だと……!?」
「フフ……」
オーレリアは笑みを浮かべた。
「聖女殿と刃を交えたあの日から研鑽を積み、更なる境地へと進みつつある」
「成長しているのはそなたたちだけではないということだ」
「な……」
「未だ底があると……!?」
「チート過ぎるだろうが……!」
「……………………」
周囲が絶句する中、キリコはアーマーマグナムに弾丸を装填する。
「キリコ君……」
「やることは変わらない。こちらは数の利を最大限生かして倒す。それだけだ」
キリコはオーレリアを見据える。
「い、言うのは簡単だが……!」
「いえ、可能です」
ミュゼが顔を上げた。
「分校長がおっしゃるように、私たちも成長しています。それに──」
ミュゼはARCUSⅡを取り出した。
「私たちには、これがあるじゃないですか」
ミュゼが言い終えると同時に、ARCUSⅡが青く光だした。
「戦術リンクの光……」
「そ、そうですよ!まだ諦めるには早すぎますよ!」
「まだ逆転の目は尽きてはいないかと」
「僕たち全員の力を合わせれば、本気の分校長にだって届くはずです」
ユウナの叱咤にアルティナとクルトが続いた。
「決めるのはテメェだ」
アッシュはリィンに目をやる。
「……ああ、そうだな」
リィンは根源たる虚無の剣を構え一呼吸置く。
「Ⅶ組の、俺たちの強みをまだ見せていないな……!」
リィンが言い終えるや否や、新旧Ⅶ組全員に戦術リンクが繋がった。
「これって……!」
「僕たち全員に……」
「それだけじゃなさそうよ」
サラの視線の先で、根源たる虚無の剣が青く輝き出した。
「ミリアム……」
「彼女もⅦ組の一員である以上、当然かもしれません……」
(お姉ちゃん……)
アルティナは姉を想った。
「今こそ、真に一つとなる時だ!」
「ああ。クルト、アッシュ!」
「「!」」
二人はリィンの方を向いた。
「俺、ラウラ、ユーシス、ガイウス、クロウと共に前衛を務める。やってくれるな?」
「はい……!」
「任せろや」
「キリコとユウナはフィーとサラ教官と共に遊撃に回ってくれ!」
「了解」
「分かりました!」
「アルティナとミュゼはアリサ、エリオット、マキアス、エマと後方からの援護を担当してくれ!」
「了解しました!」
「お任せください!」
リィンは教え子たちに次々と指示を飛ばす。
「フフ、中々大したものだ。だが、そんな程度で我が宝剣を阻むつもりか?」
「ではお見せしましょう……Ⅶ組の底力を!」
Ⅶ組全員が得物を構えた。
「ならば──来い!」
両者は再び激突した。
「なるほど……それで貴女がここに」
Ⅶ組がオーレリアと刃を交えている同時刻、カレイジャスⅡのブリッジでは会談が行われていた。
「リィン君たちの力量は相当なものと判断しました。流石は殿下がお作りになられたクラスですわね」
「私は単なる発起人に過ぎない。貴女が目を見張るほどに成長を遂げたのは彼ら自身さ」
オリヴァルト皇子は微笑んだ。
「それで、リィン君たちは今……」
「分校長さんと死闘を繰り広げている頃かしらね」
「そう……ですか……」
トワの表情が暗くなった。
「心配することはないわ。初代が結成されて以来、ずっと近くで見てきたんだから。二代目の子たちも想像以上に強かったわ。ただ……」
ヴィータの表情が真剣なものに変わる。
「あの人の強さは文字通りの桁外れね」
「……だろうな」
『………………………』
ブリッジは沈黙に包まれた。
「それでも、私は信じる。彼らの絆の強さを」
オリヴァルト皇子は笑みとともに発言した。
「彼らは学生の時から戦ってきた。それも自分たちよりも強い相手にだ」
「初代Ⅶ組設立当時は、今よりももっと厳しい状況でしたからね」
「永きに渡る身分制度の弊害……それはトールズでも同じこと。身分に関係なく集められたクラスに風当たりは強かった。………当時の僕のように」
「パトリック君……」
「俺ら支援課も最初はギルドの猿真似だの何だの言われたけどよ、あいつらはあいつらで色々あったんだな……」
ランディは頭をガシガシと掻いた。
「その強い相手にどうやって抗ってきたか。たゆまぬ努力で得た力?師から教わった技?生まれついての異能?ARCUSの恩恵?どれも違う」
「仲間と手を取り合い、如何なる困難をも乗り越える唯一無二の力……絆だよ」
オリヴァルト皇子は力強く断言した。
「そしてそれは二代目の子たちに確実に受け継がれている。特にキリコ君は顕著だと私は思うね」
「キリコ君がですか……?」
「ああ」
オリヴァルト皇子の表情は確信めいていた。
「っ!」
オーレリアのクラフト技を受け、クルトは膝を付いた。
「使え」
キリコはセラスの薬をクルトに渡した。
「す、すまない……」
「早く飲め。一々待ってはくれない」
キリコはそう言って戦列に戻った。
「ああ、そうだな!」
クルトは一気に飲み干し、双剣を握りしめた。
(行くぞ……!)
クルトはオーレリアに斬りかかった。
「はあ……はあ……!さすがに……キツいわね……!」
ユウナは疲労困憊になっていた。
「キツいなら一旦下がれ。カバーならしてやる」
「ありがとう。でも大丈夫!」
ユウナは精一杯の笑顔で応えた。
「わかった」
キリコはそれだけ言ってアーツを詠唱した。
(ありがとう、キリコ君)
ユウナはガンブレイカーを構え、走り出した。
「おらぁ!!」
アッシュはオーレリアに特攻を仕掛けた。
「遅い!」
「うおっ!?」
反応したオーレリアの一振りにガードごと吹き飛ばされた。
「大丈夫か?」
キリコは身を挺してアッシュを受け止める。
「チッ、余計な真似しやがって……」
「文句は後で聞いてやる。アーマーブレイクⅡ」
キリコはアッシュを横目にクラフト技を放つ。
「チッ!」
(見てやがれ。必ずてめぇを追い越してやるぜ……!)
アッシュは闘志を燃え上がらせた。
「ブリューナクⅡ、照射!」
「メルティバレットⅡ!」
アルティナとミュゼは後方からクラフト技で前衛と遊撃役の援護に努めていた。
(ミルディーヌ様を巻き込んでしまいかねないが、致し方あるまい)
オーレリアは一足飛びに後衛に狙いを定めた。
(抜かれたか。なら背後を叩く……!)
キリコはオーレリアの背中を追う。
「フ、そう来ると思ったぞ」
オーレリアは反転してキリコを迎え撃つ。
「させません!」
ミュゼはオーレリアに狙いを定め、ARCUSⅡを起動させる。
「起動、フラガラッハⅡ!」
腕を刃に変えたクラウ=ソラスが横から攻める。
「タイミングは上々、だが!」
オーレリアは宝剣で受け止め、弾いた。
「クリアブラストⅡ」
防御した隙を狙い、キリコはクラフト技を放つ。
「ほほう……!」
オーレリアの口角が上がる。
「ミルディーヌ様やオライオンに当たらぬ位置からの発砲……万が一にも当たっていた場合はどうするのだ?」
「外さない。それだけだ……!」
キリコはアーマーマグナムに持ち替え、発砲した。
「フ……」
オーレリアは一足飛びに離れた。
「……無事のようだな」
キリコは薬を渡しながら言った。
「はい」
「ありがとうございました……!」
「アルティナはステルスを利用して奇襲を仕掛けてくれ。前衛が合わせてくれるはずだ」
「わかりました」
アルティナは透明になり、オーレリアの近くへと移動する。
(このオーダー、応えなくてはいけませんね)
アルティナは知らず知らずのうちに拳を握りしめていた。
「キリコさん……」
ミュゼはキリコを呼び止めた。
「どうした?」
キリコは弾丸を込めながら答えた。
「いえ……」
ミュゼは目を伏せた。
「ならミュゼ、俺の動きに合わせて撃てるか?」
「はい。キリコさんが仕掛けて離れた瞬間に合わせて撃つんですね?」
「あ、ああ……」
「ふふ、援護はお任せください♪」
「わかった。だが無理はするな」
「はいっ!」
キリコはミュゼの返事を聞いて離れた。
「キリコさん……」
ミュゼは得物を構えながらキリコを目で追った。
(いいえ、今は考えている場合ではありません。今は分校長──オーレリアさんに勝つことだけを考えねば……)
ミュゼは気を取り直すように、オーレリアに視線を向けた。
「秘技・鬼疾風!」
リィンは鬼気解放で強化させたクラフト技で斬りかかった。
「くっ!やるな……」
オーレリアは宝剣を盾にして二段構えの攻撃を凌ぎきった。
「ぐっ!?」
突如、リィンは膝をついた。
「どうやら限界らしいな。もらった!」
オーレリアは宝剣を振り上げた。
「ハンティングスロー」
すかさずキリコが妨害する。
「今だ!」
「ああ!」
「応よ!」
ガイウスの一声にユーシスとクロウが仕掛ける。
「チイッ!」
オーレリアは一旦下がった。
「ぐううっ!」
リィンから黒いものが発せられた。
「キュリア」
キリコが治療アーツをかけるとリィンは正気に戻った。
「済まない、キリコ」
「気になさらず」
キリコはそれだけ言って戦線に戻った。
(キリコ、君の働きに応えなくてはな……!)
リィンは教え子の心底を見抜き、再び立ち上がった。
(フフフ、なかなかやるな)
新旧Ⅶ組の連携の前に、オーレリアは徐々に押されていた。
(そしてキュービィー、どうやら杞憂だったようだな)
キリコの動きを見ていたオーレリアは肩の荷が下りたような気がした。
「ならば、一気に凋伏してくれよう……!」
オーレリアは闘気を放ち、宝剣を構えた。
「来るぞ!!」
『!!』
リィンが叫び、初代Ⅶ組はARCUSⅡを起動させた。
「み、皆さん……!?」
「今度は僕たちの番だよ!」
「我らが盾となり、そなたらへ繋げよう!」
「誰でもいい、止めは君たちが!」
「ったく!カッコつけやがって……!」
(勝負は一瞬……)
キリコは弾丸を込める。
「王技・剣爛舞踏!!」
凄まじい闘気と剣戟がⅦ組を襲った。
初代Ⅶ組は必死に堪えるが、一人また一人と膝を折っていった。
(ここだ……!)
それはほんの一瞬だった。
宝剣を引いた瞬間を狙い定め、キリコは引き金を引いた。
「ぐっ!?」
放たれた弾丸はオーレリアの脇腹を掠めた。
「ミュゼ!」
「参ります!」
ミュゼはオーレリアを見据えた。
「さあ、舞台の幕を開けましょう。レッツ・スタート!まだまだ、ここからが佳境です。ロード・ガラクシア!!ふふふ、ご満足いただけましたか?」
「……お見事………ですが!」
ミュゼのSクラフトを受けたオーレリアは宝剣を支えに倒れようとはしなかった。
「なら、これでは!」
ミュゼは小型拳銃を構え、引き金を引いた。
「くっ……!」
オーレリアは直撃は免れたが、体勢が崩れた。
「今です!」
『了解!』
キリコたち二代目Ⅶ組が総力を結集してバースト攻撃を放った。
「フフフ……抜かれたか………」
オーレリアは微笑みながら膝をついた。
新旧Ⅶ組は黄金の羅刹の試練を勝ち抜いた。
「や、やったのか……?」
「そ、そうみたいだが………」
ある程度回復を済ませた新旧Ⅶ組は膝をついたオーレリアを見つめる。
「見事也、Ⅶ組」
オーレリアは立ち上がり、宝剣を納めた。
「一度は折れかけるも持ち直し、逆転を成し遂げるとはな。そなたらの培われた絆、確かに見届けた」
「あ、ありがとうございます」
「うむ。だが──」
オーレリアは言葉を切り、新旧Ⅶ組を見据える。
「心することだ。これよりそなたらが挑む相手はその絆をも呑み込まんとするということを」
『っ!!』
新旧Ⅶ組の表情に真剣みが宿る。
「どれほどの絆を培おうと、強大な相手の前には塵と化すことさえある。それはそなたらが身を以て知っていることだろう」
『………………………』
新旧Ⅶ組はそれぞれ敗北の記憶を思い浮かべる。
「フフ……」
オーレリアは腕を組み、笑みを浮かべる。
「だがそなたらは私という壁を乗り越え、その絆の強さを証明した。そなたらならば、彼らに届くであろう」
「分校長……」
「どうやら認めてくれたみたいだね」
「かなり消耗させられたけどな……」
「では分校長……!」
リィンはオーレリアを真っ直ぐ見る。
「征くがいい、トールズⅦ組よ」
オーレリアは脇に逸れ、道を譲った。
「行こう、みんな」
新旧Ⅶ組はローゼリアの待つ最奥へと歩き出した。
「どうやら越えたようじゃな」
ローゼリアは新旧Ⅶ組がオーレリアの試練を突破したことを感じ取った。
「真の力を解放した妾でさえ苦労するであろう相手に届かせるとは……見事という他あるまい」
「イソラよ……お主の娘は強くなったぞい」
ローゼリアはエマの母を思い浮かべ微笑む。
「じゃが、妾とて手を抜くつもりはない」
「この帝国を覆う黄昏……呪いに立ち向かえるかどうかを見極めねばならん。最悪、女神の下へと逝かせてしまうやもしれぬ………」
「そうなりたくなければ、全力で来るがよい。ドライケルスの子らよ」
ローゼリアは新旧Ⅶ組が来る方向を見つめる。
「しかし──」
ローゼリアは顔をしかめた。
「先ほどから妙なものを感じる……」
ローゼリアは霊場入口の方を見る。
「闘争の気配に紛れてろくでもないものが入り込んだか……?」
『…………………………………』
新旧Ⅶ組が進み、オーレリアが去った試練の場に、ローブを纏った者が現れた。
『………ΦцΔ……ΥπВШЫД…………』
ローブを纏った者は不可思議な言葉を吐きながら新旧Ⅶ組をゆっくりと追いかけ始めた。
「!?」
キリコは後ろをバッと振り返った。
「どうした?」
「何か聞こえなかったか?」
「さあ?アルティナは?」
「いえ、何も感知していませんが」
「遂に耳までおかしくなったかよ?」
「アッシュ」
「冗談でも言わないの」
「いや、いい。何でもない」
「そ、そう?」
「よし、そろそろ魔獣が出てくる頃合いだ。最後まで気を抜かないようにな」
「ああ!」
「参りましょう!」
新旧Ⅶ組は歩き出した。
(先ほど聞こえたもの……どこかで………)
キリコは何か引っかかるものを感じながら、仲間たちを追いかけた。
次回、真のローゼリアの試練です。