英雄伝説 異能の軌跡Ⅱ   作:ボルトメン

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2023年初投稿です。

 かなり遅くなってしまいましたが、今年もよろしくお願いします。


捕縛①

『………………………………………………』

 

キリコの発した〝ワイズマン〟という言葉に新旧Ⅶ組は固まってしまった。

 

『……………………………』

 

一方のワイズマンも一言も発することなく、立ち尽くすのみだった。

 

「こ、こいつが……」

 

「キリコ君の宿敵……」

 

「そして……異世界の神……!」

 

新旧Ⅶ組はやっことさ言葉を絞り出した。

 

「そうか……先ほどから感じておった気配はヌシか。人ならざるものと思っておったが、とんだモノが紛れ込んでおったわ」

 

いち早く平静さを取り戻していたローゼリアは魔力を滾らせ、ワイズマンに語りかける。

 

「して、ワイズマンとやら。いったい如何なる用でこの場所に来おったのか」

 

『……………………………』

 

「言っておくが、妾は一切の容赦はせぬぞ……」

 

『……………………………』

 

ワイズマンは一言も発しなかった。

 

「ならば……受けよっ!」

 

ローゼリアは魔力を収束し、巨大な火球を形成した。

 

そしてワイズマンの頭上へと落とす。

 

『……………………………』

 

ワイズマンは微動だにしなかった。

 

「フ、如何に神と言えど……」

 

「倒せてはいないようだ」

 

キリコが前に出る。

 

煙が晴れると、そこにはワイズマンが立っていた。

 

「ば、バカな……!?」

 

「あれを避けたっての……!?」

 

(避けた……違う。おそらく……)

 

『……………………………』

 

キリコが思案していると、ワイズマンは両手を広げた。

 

そして先ほどのノイズを発した。

 

「っ!!」

 

「ま、またか……!」

 

「うう……気持ち悪い……!」

 

「や、止めて……」

 

新旧Ⅶ組はノイズに苦しみ悶える。

 

「い……いい加減にしやがれ!」

 

アッシュはヴァリアブルアクスを振り上げ、ワイズマンに飛びかかった。

 

「くらえや!!」

 

アッシュはそのまま振り下ろした。

 

『……………………………』

 

「何ぃ!?」

 

ヴァリアブルアクスはワイズマンの身体を透過した。

 

「ど、どうなってやがる!?」

 

(……ホログラムか)

 

キリコはため息をつき、ワイズマンを睨む。

 

『……………………………』

 

ワイズマンはそのまま姿を消した。

 

 

 

「………………………」

 

キリコはワイズマンがいた地点を見つめる。

 

「ううう……」

 

ノイズから解放されたリィンがよろよろと立ち上がった。

 

「大丈夫ですか?」

 

「あ、ああ何とか……」

 

(俺以外には聞こえないどころか、こんな結果になるとはな)

 

キリコはまだ青い顔をした新旧Ⅶ組の方を見る。

 

「ううう……」

 

「頭ん中ぐちゃぐちゃにされたみたい……」

 

「クソッ、流石にキツ過ぎんだろ……」

 

よろよろとしつつも新旧Ⅶ組は全員立ち上がった。

 

「それで、何故キリコさんは効かないんですか?」

 

「あの音波は異能者である俺にだけ通じるように出来ているらしい」

 

「キリコにだけ……」

 

「や、やっぱりキリコ君が特別な存在だから……?」

 

「特別……どうだっていいことだ」

 

「キリコさん……?」

 

「と、とにかくキリコ。いったいワイズマンは何を伝えたんだ?」

 

リィンの言葉が場の空気を変える。

 

「……お前には期待していない、だそうです」

 

『……は?』

 

新旧Ⅶ組は唖然となった。

 

「ど、どういうこと?」

 

「君とワイズマンは因縁があるんじゃなかったのか?」

 

「俺にも分からない」

 

キリコは腕を組んだ。

 

 

 

「……色々と気になるが、一先ずおいておこう。それよりヴァリマールとオルディーネは……」

 

「「……………………」」

 

ヴァリマールとオルディーネは変わらず片膝立ちをしていた。

 

「いったいどうしてそんな風になっちまったんだ?」

 

「我ニモ分カラヌ……」

 

「だが、絶対に逆らえぬような気がするのだ……」

 

「逆らえぬ……?」

 

「騎神ってのは起動者に従うもんじゃねぇのかよ?」

 

「アタシに聞かないでよ!こんなこと、聞いたこともないわ」

 

「もしかすると……」

 

思案していたミュゼが顔を上げた。

 

「ミュゼ?」

 

「黒の史書に出てくる賢者があのワイズマンだとして、賢者は二つの種族を争わせたんですよね?」

 

「ああ。黒の史書の片隅に書かれておる事が事実ならばな」

 

「ということは、騎神の誕生にも関わっていることも考えられますね」

 

「まあ、そう考えられなくは………!?」

 

「ちょっと待って──」

 

「ミルディーヌ公女、つまりそれは……」

 

 

 

「……ワイズマンはある意味、騎神の創造主というわけか」

 

 

 

キリコはミュゼの真意を掴んだ。

 

「なるほど、それなら……」

 

「ヴァリマールとオルディーネの行動も辻褄が合うってことか」

 

「あのノイズを受けながら推察していたとはな……」

 

「ふう、流石ね……」

 

「ふふ、恐れ入ります」

 

ミュゼは微笑んだ。

 

「………………………」

 

キリコは何か引っかかるようなものを覚えた。

 

 

 

ワイズマンが姿を消して数分後、ヴァリマールとオルディーネはようやく動けるようになった。

 

「心配ヲカケタ」

 

「ローゼリアさんたちでも知らなかったんだ。気にしないでくれ」

 

「うむ。カイエンの公女の推察通りならば、致し方あるまい。にしても……」

 

ローゼリアは腰に手を当て、ため息をつく。

 

「妾たちの想像以上の大敵のようじゃの」

 

「確かにな……」

 

「あのノイズが厄介だね。特に僕は……」

 

エリオットは顔をしかめる。

 

「だ、大丈夫ですか……」

 

「耳なんかやっちまったら引退じゃねぇか?」

 

「アッシュ!」

 

クルトがアッシュを叱責した。

 

「ミリアムは大丈夫なのか?」

 

『うん……一応、今のボクは精神体だから……』

 

「そうか……」

 

ユーシスは安堵した。

 

「それで教官、奴のことは?」

 

「ああ、一旦置いておこうと思う。確定したわけではないが、ワイズマンの狙いがキリコではない以上、な」

 

「分かりました」

 

キリコはそれ以上の追及をしなかった。

 

 

 

 『あ……』

 

 ミリアムの体は徐々に透明になっていた。

 

 「ミリアム!?」

 

 『アハハ……ゴメン、もう時間みたい』

 

 ミリアムは苦笑しながら言った。

 

 「ま、待てミリアム――」

 

 「待ってください!まだ話したいことが……」

 

 『大丈夫。もしかしたらすぐに会えるかもしれないし』

 

 「それってどういう……」

 

 『とにかく、ボクはいつでもみんなと一緒だから……!頑張ろうね!ユーシス、アーちゃんたちも!』

 

 そう言ってミリアムは根源たる虚無の剣に戻っていった。

 

 「ソロソロ我モ限界ノヨウダ……」

 

 ヴァリマールは呟いた。

 

 「ヴァリマール!?」

 

 「案ズルナ。我モマタ、りぃんノ側ニイル。暫シノ……別レ……ダ………」

 

 ヴァリマールの両眼から光が消えた。

 

 それを最後に、月の霊場最奥は静寂を取り戻していった。

 

 「あ………」

 

 「夢じゃ……なかったんだね……」

 

 「ああ……」

 

 新旧Ⅶ組は少しずつ現実を受け止めていく。

 

 「……………………………」

 

 「そうか……ちゃんと居てくれたのか」

 

 「…………お姉ちゃん………………」

 

 「グス……良かったね」

 

 ユウナは思わず涙ぐんだ。

 

 

 

 「お祖母ちゃん、今のって……?」

 

 エマはローゼリアに問いかける。

 

 「月冥鏡が用意した場……夢と現実の狭間の邂逅じゃろう。妾が先代から役割と使命を継いだ時も同じ状況じゃった」

 

 「こんなオマケもあるとは……長らく守った甲斐があるものじゃ」

 

 「そうね……本当に」

 

 「ありがとう、ローゼリアさん。エマにセリーヌも」

 

 リィンは魔女たちに深々と礼をした。

 

 「ヴィータに羅刹も含めて随分と世話になっちまったな」

 

 「ヴァリマールは再び沈黙し、ミリアムも喋るわけではないが……彼らの魂は確実に存在している」

 

 「ならば、今こそⅦ組は全員が揃い、もはや迷う必要狭間何処にも無いだろう」

 

 「ええ……光まとう翼の一員としても!」

 

 クルトは力強く言った。

 

 「ま、アンタら魔女の助けが無ければ詰んでたかもしれねぇしな」

 

 「……一応、礼は言っておくぜ」

 

 「私も――父やシャロンの事、改めてちゃんと向き合えると思う」

 

 「サンクス。全部エマたちのおかげ」

 

 フィーは微笑んだ。

 

 「ふふっ……」

 

 「ア、アタシは別に……跡目の話みたいだったし」

 

 「……でもまあ、良かったわね」

 

 セリーヌは素直になりきれずとも、成果に喜んだ。

 

 「フフ……妾にとっても長年の肩の荷が下りた心地じゃ。ここで得た新たな真実――妾からヴィータや星杯の副長にも伝えておくとしよう」

 

 「ああ、お手数だがお願いする」

 

 ガイウスはローゼリアの言葉に感謝した。

 

 「……私も当代の巡回魔女として真実を伝える手助けができてよかった。お母さんや姉さんたち……お祖母ちゃんが護り続けたこの地で」

 

 エマはローゼリアの手を取った。

 

 「……ありがとう。ずっと私たち魔女を導いてくれて。それからありがとう――私を一人前の魔女に育ててくれて」

 

 エマは師であり育ての祖母でもあるローゼリアに感謝を伝えた。

 

 「ちょっ、何をいきなり……ババアは涙もろいんじゃ!そういう不意打ちをするでない!」

 

 ローゼリアは赤面し、そっぽを向いた。

 

 「……やれやれ」

 

 「グス……あははっ!」

 

 「ふふっ……この上ない成果ね」

 

 アリサはエマとローゼリアのやり取りを見て微笑む。

 

 

 

 「でも、キリコさんは……」

 

 「少なくとも帝国を覆う呪いが何を齎してきたのかの真実は知れた。不満など無い」

 

 心配そうに窺うミュゼに、キリコは己の本心を告げた。

 

 「キリコ君……」

 

 「だがワイズマンは……」

 

 「ワイズマンに限らず、真実は自力で追う」

 

 「自力でって……」

 

 「随分と気の長い話だな」

 

 「ずっとそうしてきた」 

 

 「キリコ……」

 

 「それより、艦に戻るのでは?」

 

 「……ああ、そうだな」

 

 リィンは出口の方を向く。

 

 「戻ろう、俺たちの新たな翼……カレイジャスⅡへ――!」

 

 『おお!!』

 

 新旧Ⅶ組は歩き出した。

 

 

 

 カレイジャスⅡに戻った新旧Ⅶ組はブリーフィングルームに集まった面々に月冥鏡が齎した真実の内容を語った。

 

 「……生まれ変わりか。宰相殿が、あのドライケルス帝の。運命の悪戯というか――色々なものが繋がった気分だ。父上がどうして彼にあそこまでの采配を託したのかもね」

 

 オリヴァルト皇子は驚きつつも、冷静に思考をまとめる。

 

 「はい……」

 

 「アリサ君の御父上やジョルジュ君にも複雑な事情があったようだね」

 

 「…………はい………………」

 

 「その三人を繋ぐは黒の工房……そして黒の騎神か……」

 

 「……想像していた以上に、凄まじい存在だったんですね………」

 

 ティータは怖れと共に言った。

 

 「極めつけは黒の史書に登場する賢者。その正体は異世界の神にして、キリコ君の宿敵ワイズマン」

 

 「……こちらもとんでもない相手でした………」

 

 「異能者であるキリコさんと違い、私たちは全くの無力でした……」

 

 「ふうむ―――キリコ君」

 

 「?」

 

 オリヴァルト皇子からの視線にキリコは顔を上げた。

 

 「君の知るワイズマンの力はどれほどのものなんだい?」

 

 「……少なくともあんなものじゃない」

 

 『!?』

 

 キリコの一言はブリーフィングルームの空気を変えた。

 

 「あ、あれ以上だっていうの……!?」

 

 「おそらく、今回のは顔見せかもしれない」

 

 「顔見せって……」

 

 「……奴の真意は読めん」

 

 キリコは再び目を瞑った。

 

 

 

 「とにかく――宰相たちの真意はともあれ、帝国の呪いたる元凶は見えて来た」

 

 ユーシスは話題を逸らすように口を開く。

 

 「そうだな……それが分かったのは途轍もないなく大きな収穫だろう」

 

 「……七の相克を通じて逆にその元凶を何とか出来れば……」

 

 「ああ――ローゼリアさんたちのおかげで俺も相克への覚悟を固められた。ミリアムとヴァリマールの想いに応えるためにも、今は前に進むだけだ」

 

 「はいっ、そうですね……!」

 

 「全力を尽くします、最後まで」

 

 「……そうね――Ⅶ組として」

 

 新旧Ⅶ組はさらなる前進を誓った。

 

 「フフ……色々な意味で有意義な時間だったようだね。かの獅子心皇帝まで絡んでいた話だ。ボクも今まで以上に力を尽くそう」

 

 「もちろん、僕とテスタロッサも最後まで尽くします」

 

 オリヴァルト皇子とセドリックは微笑んだ。

 

 「ええ――わたくしたちもようやく役目も見つけられたことですし」

 

 アルフィンはエリゼと共に前に出る。

 

 「その……大丈夫なのか?トワ先輩のサポートだなんて」

 

 リィンは心配そうにエリゼを見つめる。

 

 「ご心配なさらず――女学院で端末の操作も勉強していましたし」

 

 「ええ、マニュアルも叩き込みましたし多少はお力になれると思います」

 

 「あはは、畏れ多いけど二人ともあっという間に慣れちゃったし。エリゼちゃん、皇女殿下も。どうかよろしくお願いしますっ」

 

 「「はいっ……!」」

 

 二人は笑顔で返事をした。

 

 「しかし……いつの間にマニュアルの勉強なんてしたんだい?」

 

 「フフ、キリコさんのおかげよ」

 

 「へ……」

 

 セドリックは呆気に取られた。

 

 「キリコの、ですか?」

 

 「実は今朝、キリコさんにお願いして初心者用の設問を用意していただいたのです」

 

 「よくそんなモンあったな」

 

 「分校の授業でやったものを丸々アップロードしただけだ」

 

 「ふう、いつの間に……」

 

 リィンはため息をついた。

 

 「ふふっ、第Ⅱのみんなも頑張ってるし、僕たちもうかうかしてられないね」

 

 「フフ、さっそく移動計画を立てるとしよう。ただ……」

 

 オリヴァルト皇子の表情が暗くなった。

 

 「オリヴァルト殿下……?」

 

 「何かありましたか?」

 

 「まあそういうことになるんだが……入ってくれたまえ」

 

 「フフ、失礼するよ」

 

 『!?』

 

 ブリーフィングルームに入って来た人物を見た新旧Ⅶ組は呆気に取られた。

 

 「…………………」

 

 キリコは露骨に不機嫌になった。

 

 「キリコ、そしてⅦ組諸君。まずは話を聞いてほしい」

 

 人物――ロッチナは新旧Ⅶ組を前に語り始めた。

 

 

 

 「……という訳なのだが、理解してもらえたかな?」

 

 「……共和国の特殊部隊――ハーキュリーズが破壊工作を………」

 

 「まさかそんな事をしでかそうとしてるとはな」

 

 ロッチナの話を聞いた新旧Ⅶ組は動揺しつつも受け入れつつあった。

 

 「で、それを兄上は小事と切って捨てたと……」

 

 ユーシスの顔つきは苦々しいものへと変わった。

 

 「ユーシス……」

 

 「こんな大事なことを小事って……自分の生まれた国のピンチなのに何とも思わないの!?」

 

 ユウナは憤慨した。

 

 「止めるんだユウナ」

 

 「気持ちはわかるけど、一番辛いのはユーシスさんだよ」

 

 クルトとセドリックはユウナを止める。

 

 「……それで」

 

 キリコは顔を上げた。

 

 「ハーキュリーズの拘束又は排除。それを俺たちがやれと?」

 

 「そういうことになるな」

 

 「引き受けないと言ったら?」

 

 「近隣のミルサンテとグレンヴィルに血の華が咲くことになるだろう」

 

 「そうなった場合、彼らはこう思うだろう。我々は帝国の英雄たちに見捨てられたと。そうなればⅦ組や決起軍のこれからにも支障をきたすのではないかな?」

 

 「「………………………」」

 

 キリコとミュゼの顔は険しいものになった。

 

 「……ルスケ大佐」

 

 リィンはロッチナを見つめる。

 

 「どうやら最初から自分たちに持ってくるつもりだったようですね。自分たちが断れないことを見越して」

 

 「その通りだ」

 

 ロッチナは悪びれもせずに答えた。

 

 「今思えば、ルーファス・アルバレア総督が小事だと決定したのも君たちに当たらせようとするためのものなのかもしれないな」

 

 「……チッ!」

 

 「やってくれましたね……」

 

 「それで?どうするのかね?」

 

 ロッチナはリィンを見据える。

 

 「教官……」

 

 「リィン……」

 

 新旧Ⅶ組はリィンの答えを待つ。

 

 「その要請、我々Ⅶ組が引き受けます」

 

 リィンは真っ直ぐ答えた。

 

 「そう言うと思っていたよ」

 

 ロッチナは笑みを浮かべ、懐から地図を取り出した。

 

 「詳細はここに記してある。また、とある協力者が私の部下と共にオルディスにいるから合流してくれたまえ」

 

 「了解しました」

 

 「では私は戻る。実を言うと、この場にいること自体が既に軍令違反なのでね。それとキリコ」

 

 ロッチナは軍帽を整えた。

 

 「私は期待しているぞ」

 

 ロッチナはそれだけ言ってカレイジャスⅡを降りた。

 

 

 

 「はぁ………」

 

 リィンから大きなため息が出た。

 

 「だ、大丈夫ですか?」

 

 「ああ、大丈夫だ」

 

 「それにしても破壊工作か……」

 

 「愚かな……」

 

 「ええ、脱走したそうですが人数はそう多くはないはず。そんな状況で事を起こしても得られる成果は微々たるものですわ」

 

 「何か切り札でも持っているのかしら?」

 

 「いえ……」

 

 ミュゼはエンネアの推測を否定した。

 

 「じゃあカイエン公は何だっていうのさ?」

 

 「それは――」

 

 「……呪いか」

 

 「ま、そうだわな」

 

 キリコとアッシュは既に確信していた。

 

 「それって……!」

 

 「彼らも呪いの強制力に動かされていると?」

 

 「帝国人も共和国人も関係ないはずだ」

 

 「いちいち選んでるワケでもねぇだろうしな」

 

 「どうなの?」

 

 「ええ。お二人のおっしゃる通りでしょう」

 

 ミュゼは微笑むも、直ぐに真剣な表情には変わった。

 

 「そして、一刻も早く向かうことを進言いたします」

 

 「彼らの行動が混乱のさらなる火種となる。その火種を消すという意味でも急がなくてはならないな」

 

 リィンは一呼吸置く。

 

 「アンゼリカ先輩、西ラマール街道のポイントまでお願いします」

 

 「了解だ。ステルスモードを展開しつつ向かう!」

 

 アンゼリカはブリッジへと向かった。

 

 「初代Ⅶ組や他の人たちは要請を担当して下さい」

 

 「うん、任せて」

 

 「魔獣退治ならアタシたちがやっとくよ」

 

 「……て何で私たちも含まれてるんですの!?」

 

 「さて、どうなることやら」

 

 「……………………」

 

 キリコは静かに牙を研ぎ始めた。

 

 

 

 8月27日 午後1∶30

 

 「遅かったな」

 

 「……………………」

 

 西ラマール街道に降り立った二代目Ⅶ組はトワとガイウスと共に導力バイクでオルディスへと向かった。

 

 待ち合わせ場所であるホテル《オルテンシア》で待っていたのはテイタニアとカエラ特務少尉だった。

 

 「テイタニアさんはともかく……」

 

 「まさか貴女が居られるとは……」

 

 二代目Ⅶ組はカエラ特務少尉を見つめる。

 

 「どんなワケがあるか知らねぇが、アンタら敵同士なんだろ?」

 

 (確かに普通ならありえない状況だな)

 

 「……………………」

 

 「そろそろ話したらどうだ?」

 

 テイタニアは俯くカエラ特務少尉に促す。

 

 「………弟から極秘裏に連絡があったのよ」

 

 「弟さん……?」

 

 「コーディ・マクミラン准尉。脱走したハーキュリーズの05部隊に所属しているの」

 

 「それが脱走した連中か」

 

 「ええ。問題は部隊長のリーガン大尉が状況打開のために非人道的な破壊工作を計画していること」

 

 「やはり呪いによる強制力でしょうか?」

 

 「十中八九そうでしょう。私の知る限り、リーガン大尉は思慮深く指揮官としては有能です」

 

 カエラ特務少尉は断言した。

 

 「それでなぜ、テイタニア特務中尉と?」

 

 「偵察を行っている所を私が発見したというだけだ」

 

 「ええ……それにしても貴女何者なの?反撃しようと思ったら既に勝負がついているなんて」

 

 (いくら共和国軍の特殊部隊で腕を鳴らしたと言っても、人間兵器であるネクスタントには敵うまい)

 

 キリコは驚きを隠せないカエラ特務少尉を見て思った。

 

 「それはそうと、敵戦力は分かるか?」

 

 「ああ、敵は総勢12名。それと共和国軍虎の子のガンシップが一艇ある」

 

 「その内、防衛班と哨戒班がそれぞれ四人一組で編成されているそうよ」

 

 「では、作戦内容は――」

 

 「こちらは2チームに分かれて、片方はガンシップの奪取。もう片方はその陽動といった所でしょうか?」

 

 ミュゼは情報を整理し、全員に聞こえるように言った。

 

 「では、チーム分けはどうしましょう?」

 

 「ガンシップ奪取チームにはカエラさんとテイタニアさん、後は封鎖エリア全体の観測を目的としたオペレーター、そして奇襲に備えてもう一方必要かと」

 

 「なら、オペレーターは私が担当するね」

 

 トワが挙手をした。  

 

 「ではもう一人は……」

 

 「いや、こちらはこれで良い」

 

 「え、ですが……」

 

 「本人がそう言うならそれでいいだろう」

 

 見かねたキリコが待ったをかけた。

 

 「では、俺は陽動チームに加わろう」

 

 ガイウスは陽動チームに決定した。

 

 「ハッ、せいぜい派手に暴れてやるぜ」

 

 「それにしてもこの短時間でここまで………」

 

 「流石はカイエン公、というべきか」

 

 「ふふ、お粗末さまです」

 

 

 

 「もう一つ聞きたいことがあります」

 

 アルティナが挙手をした。

 

 「マクミラン特務少尉、貴女の行動は政府は把握しているのでしょうか?」

 

 「それは確かに……」

 

 「まさか無断なわけねぇよな……?」

 

 二代目Ⅶ組はカエラ特務少尉の言葉を待った。

 

 「それに関しては大丈夫よ。帝国政府特任のジャン大尉との交渉で今回の作戦は了承済みよ」

 

 「……ジャン大尉?」

 

 キリコは顔を上げた。

 

 「そいつは金髪で慇懃無礼な奴じゃなかったか?」

 

 「え、ええ。慇懃無礼というか何というか……」

 

 「あ、あたし解っちゃったかも……」

 

 「おそらく該当するのは一人だろうな……」

 

 「え、知っているの?」

 

 二代目Ⅶ組の反応にカエラ特務少尉は目を丸くした。

 

 「その人、帝国軍情報局長のルスケ大佐だと思います」

 

 「いや百パーそうだろ」

 

 「ええっ!?」

 

 カエラ特務少尉はふらふらと後退る。

 

 「気づいていなかったんですか!?」

 

 「それは迂闊というか、なんというか……」

 

 「特殊部隊としては致命傷ですね」

 

 「何らかの交渉材料に用いられるかは明白かと」

 

 「あのオッサンのこったろうからな」

 

 「あんたは奴の掌の上らしい」

 

 「……………癪だけどそのようね」

 

 二代目Ⅶ組から追及を受けたカエラ特務少尉は頭を左右に振る。

 

 「コ、コラ!」

 

 「す、すみませんカエラさん!」

 

 リィンとトワは慌てて謝罪した。

 

 「……もう大丈夫です。ではそろそろ行きましょう」

 

 「それとカエラさん、ルスケ大佐は排除も視野に入れていますが、自分たちは保護若しくは拘束を考えています」

 

 リィンはⅦ組としてのプランを告げた。

 

 「……ありがとうございます。せめて本国で裁きを受けてもらいたいというのが私の本音です」

 

 「それであの……弟さんは……」

 

 ユウナは恐る恐る聞いた。

 

 「……あの子も軍人よ。覚悟は出来ているでしょう」

 

 カエラ特務少尉は迷いを振り切るように言った。

 

 「では、参りましょうか」

 

 「ええ、行きましょう」

 

 二代目Ⅶ組らは出発した。

 

 

 

 「……ここまでは予定通りですね」

 

 「ああ……」

 

 新旧Ⅶ組らの背中を見つめる者たちがいた。

 

 「残るⅦ組の者たちもそれぞれの場所へと向かい、こちらに目は向かないでしょう」

 

 「大した手腕だな、アランドール少佐」

 

 複数の書類を手にロッチナは笑みを浮かべた。

 

 「この要請がよもや、故意に作り出されたとは思うまい」

 

 「いや〜……実際苦労しましたよ」

 

 レクター少佐は腕を組んだ。

 

 「魔獣の巣を突いて大物を誘き出したり、工作員を使って開戦気運を煽動したり……」

 

 「フフ……」

 

 「……とりあえずこれで時間は稼げたとは思います」

 

 「ご苦労。君は通常業務に戻ってくれたまえ」

 

 「はっ」

 

 レクター少佐は敬礼をして去って行った。

 

 (ガルガンチュア級戦艦……キリコ相手ならば十分に役立ってくれるだろう。その後に待ち受ける猟兵王と鋼の聖女の前座としてな)

 

 ロッチナはニヤリと笑みを浮かべ去って行った。

 

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