英雄伝説 異能の軌跡Ⅱ   作:ボルトメン

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創の軌跡、楽しみですね。

ようやく零の軌跡改と碧の軌跡改のクリアデータができました(汗)

タイトルを変更しました。


北方ユミル

七耀暦1206年 8月7日

 

キリコは飛行挺でバリアハートからルーレ、ルーレから導力ケーブルカーを乗り継いでユミルに着いた。

 

(ここがリィン教官の故郷か……)

 

「早かったな」

 

「待ってたわ、キリコ君」

 

キリコが周りを見渡していると、鉄機隊の剛毅のアイネスと魔弓のエンネアが歩いて来た。

 

いつもの甲冑ではなく、アイネスは青、エンネアは白を基調とした私服姿だった。

 

「あんたたちだけか?」

 

「マスターとデュバリィはあそこにある鳳翼館で待っている」

 

「では行きましょう」

 

「………………」

 

キリコはアイネスとエンネアについていった。

 

 

 

「お久しぶりですね、キリコ・キュービィー」

 

「ああ」

 

鳳翼館の最上級の部屋で待っていたリアンヌ・サンドロットは微笑みながらキリコを迎えた。

 

リアンヌもまた、甲冑ではなく私服姿だった。

 

「わざわざ来てくださったこと、礼を申し上げます」

 

「別にいい」

 

「ちょっと!マスターがわざわざお声をかけたのに、その口の聞き方はなんですか!?」

 

隣で控えていた神速のデュバリィはキリコの振る舞いを激しく咎めた。

 

「……………………」

 

「そもそも、あなたは何か言うことはないんですか!?あなたが足をブッ刺してくれたおかげで私は……」

 

「………首を切り落とした方が良かったか?」

 

「「「なっ!?」」」

 

鉄機隊の面々はキリコの言葉に驚きを隠せなかった。

 

「ふ、ふ、ふざけるのも大概にしなさい!この場で叩っ殺してもいいんですわよ!?」

 

デュバリィは大剣を取りだそうとした。

 

「やってみろ」

 

「っ!?」

 

デュバリィはキリコの静かな殺気に思わず硬直した。

 

「こ、この……!」

 

「デュバリィ」

 

「マ、マスター……」

 

「話が進まないでしょう。貴女は少し頭を冷やして来なさい」

 

「し、しかし……!?」

 

「二度も言わせる気ですか?」

 

「っ!………はい」

 

デュバリィは苦々しげに部屋を出た。

 

「…………………」

 

「申し訳ありません。醜態を見せてしまいましたね」

 

「こちらもすまなかった」

 

キリコはリアンヌに詫びた。

 

「なんというか、実直ではあるな」

 

「そうね」

 

アイネスとエンネアは二人のやり取りを眺めた。

 

 

 

「それで、鋼の聖女が俺に何の用だ」

 

キリコはリアンヌは問いかけた。

 

「貴方の力を借りたいからです」

 

「?」

 

リアンヌの答えにキリコは怪訝な顔をした。

 

「この里の裏手にそびえるアイゼンガルド連峰。先日、あの山頂に未知の霊窟が顕れたのです」

 

「霊窟……ブリオニア島にあるやつと似たようなものか」

 

「その通りです」

 

「俺がいなくても攻略ぐらいできるはずだ」

 

「それ自体ならば造作もないこと。問題はその霊窟に入るためには、奇妙な文字を解読しなくてはならないのです」

 

「文字……」

 

キリコは文字と聞いて、あるものを思い浮かべる。

 

「紅の戦鬼殿から聞きましたが、貴方はその奇妙な文字──標準アストラーダ語とやらを解読できるそうですね?」

 

「……………」

 

「協力して頂けますか?」

 

「……わかった」

 

キリコは一呼吸置いて、了承した。

 

「ありがとうございます。では準備がありますので、先に行っていてください」

 

「わかった」

 

キリコは部屋を出ていった。

 

 

 

(ここにも標準アストラーダ語。未知の霊窟とやらもワイズマンの息がかかっているんだろうか……)

 

キリコは雑貨屋で薬や弾薬等の準備を整え、アイゼンガルド連峰を見つめていた。

 

「ワン!ワン!」

 

「?」

 

すると、キリコの足元に猟犬と思わしき犬が駆け寄って来た。

 

(この犬は……)

 

「バド、どうした?」

 

「あ!男爵さまだ~!」

 

近くで遊んでいた子どもたちが猟銃を持った男に駆け寄った。

 

(男爵……そうか、リィン教官の……)

 

「君、すまないな。バド、離れなさい」

 

「クーン……」

 

バドは寂しげに離れる。

 

「ふむ、ずいぶんとバドになつかれたようだな」

 

「そのようですね」

 

「おっと、自己紹介がまだだったな。私はテオ・シュバルツァー。一応、ユミルの領主ということになっている。君は旅行者かな?」

 

「俺はエイジ・バートラー。ええ、そんな感じです」

 

「そうか、まあゆっくりしていくといい」

 

「アイゼンガルド連峰に行くにはどうすれば?」

 

「アイゼンガルド連峰か……。最近、魔獣の動きが活発していてな。領主として行かせるのはあまり勧められんが」

 

「連れがいるので。最低限の武装は持っているので大丈夫です」

 

「……そうか。ならあの坂を登って行くといい」

 

「どうも」

 

キリコはテオに礼を言い、アイゼンガルド連峰に向かった。

 

「…………………」

 

テオはキリコの背中を見つめる。

 

(エイジ・バートラーと名乗っていたが、おそらくリィンからの手紙にあった教え子の一人だろう)

 

(なぜ偽名を名乗りこの地に来たのかはわからないが、彼なりの理由があるのだろう。女神よ、彼の行く末に光を)

 

 

 

「遅いですわよ!」

 

アイゼンガルド連峰一合目に着いたキリコを、先に来ていたデュバリィが叱責した。

 

「いったいぜんたい何をしてらっしゃったのです!?」

 

「犬になつかれた」

 

「は!?」

 

デュバリィは開いた口が塞がらなかった。

 

「なるほどな。ユミルのシュバルツァー男爵家の飼い犬か」

 

「きっと、リィン君の匂いを嗅ぎ付けたのね」

 

アイネスとエンネアは犬という言葉から分析した。

 

「こ、この……!」

 

「さて、揃ったところで向かいましょう」

 

「マスター!?」

 

「デュバリィ、時を無駄にすることは無益。そう教えたはずですよ」

 

「うっ……」

 

リアンヌの言葉にデュバリィは引き下がるしかなかった。

 

「……少し急ぎましょう(どうしても彼に聞きたいこともありますしね)」

 

「「「イエス・マスター!」」」

 

「……了解した」

 

キリコたちはアイゼンガルド連峰を登り始めた。

 

 

 

「ねぇ、キリコ君」

 

山道を登るキリコにエンネアが話しかける。

 

「なんだ?」

 

「キリコ君は異能者?なのよね?」

 

「………………」

 

エンネアの言葉にキリコは立ち止まる。

 

「そうなのね……」

 

エンネアは顔を伏せる。

 

「まさか、あんたは……」

 

「ええ……キリコ君の予想通りよ……」

 

エンネアはキリコを見つめる。

 

「私はね……D∴G教団の実験体だったの」

 

「………………」

 

「教団の信者だった両親に差し出されて、異能の開発の実験体にされた。グノーシスと呼ばれる秘薬を投与され、訳のわからない機械に繋がれた。それが毎日続き、ある日私は異能を手にした」

 

エンネアは弓を握りしめる。

 

「放たれた物体の速度や軌道を正確無比にイメージできる。私が魔弓と呼ばれるのもそこからよ」

 

「……そうか」

 

キリコは目を瞑る。

 

「俺は……「何も言わないで」……?」

 

エンネアの言葉にキリコは顔を上げる。

 

「確かに異能を、こんな力を持つことは望んではいなかったわ。でもこの力を、あの地獄から救いだしてくれたマスターのために使えるんだから」

 

「たとえ、キリコ君が教団の異能の開発のきっかけだとしても、私は恨んでなんかいないわ」

 

「すまない……」

 

キリコはエンネアに詫びるしかできなかった。

 

 

 

キリコたちは開けた場所に到着した。

 

「これは?」

 

「かつての精霊信仰の名残でしょう(ヴァリマールとリィン・シュバルツァーはここを起点に活動していたらしいですが)」

 

「…………………」

 

「少し良いか?」

 

「?」

 

アイネスに呼ばれたキリコは振り向く。

 

「聞きたいことがある」

 

「聞きたいこと?」

 

「君は一週間ほど前に公開処刑されたという」

 

「…………………」

 

「ここにいる君は本当に本人なのかと思ってな」

 

「何?」

 

「たとえば……瓜二つの人形かもしれない」

 

「……俺がホムンクルスだとでも?」

 

「その可能性も捨てきれない」

 

「…………………」

 

キリコとアイネスは睨み合う。

 

「二人とも、そこまで。どうやら来たようです」

 

「ッ!?」

 

「……あそこか」

 

キリコが見つめる方向の空間が歪み、人馬一体の魔煌兵レグス=ザミエルが顕れた。

 

「これは……!」

 

「手強いのが出てきたわね……!」

 

デュバリィとエンネアが得物を構える。

 

すると、背後の空間が歪む。そこからもう一体のレグス=ザミエルが顕れる。

 

「騒ぎは控えたかったのですが、仕方ありません。デュバリィ、アイネス、エンネア。キュービィーと協力して仕留めなさい」

 

「「「イエス・マスター!」」」

 

「キュービィー、力を貸して頂けますね」

 

「ああ、わかった」

 

キリコは頷いた。

 

「キリコ君、ARCUSⅡは持ってる?」

 

「ある」

 

「なら使えるかもしれないわね」

 

「?」

 

エンネアは星光陣を発動し、キリコとエンネアの間に戦術リンクが結ばれる。

 

「……やはり同調しきっていない。最低限の働きしか期待できないな」

 

「それで十分よ」

 

「ちょっと!何を勝手に……!」

 

「それは後だ。キリコ、お前が本物だと言うならば、見せてもらうぞ!」

 

「ああもう!どいつもこいつも!」

 

戦闘が始まった。

 

 

 

「ピアスアロー!」

 

エンネアの一矢がレグス=ザミエルに命中した。

 

「クリアブラスト」

 

サブマシンガンの銃撃が畳み掛ける。

 

「剛裂斬!」

 

アイネスのハルバードから斬撃が飛ぶ。

 

「グオォォォッ!」

 

レグス=ザミエルが構えを変えた。

 

「させませんわ!神速ノ太刀!」

 

デュバリィの剣技がレグス=ザミエルの構えを崩す。

 

「アーマーブレイクⅡ」

 

だめ押しにキリコは強化したクラフト技を叩き込む。

 

レグス=ザミエルはたたらを踏んだ。

 

「さすがね」

 

「以前よりも強くなっているな」

 

「ごちゃごちゃ言ってないで集中なさい!」

 

デュバリィは二人を叱責する。

 

「グオォォォッ!」

 

レグス=ザミエルは大剣を振り下ろす。

 

「っ!」

 

キリコは後ろでも横でもなく、レグス=ザミエルの懐に潜り込む。

 

「フレイムグレネード」

 

「なっ!?」

 

デュバリィが呆気にとられる中、キリコはレグス=ザミエルの真下でグレネードを起爆させる。

 

レグス=ザミエルは予期せぬ攻撃に深手を負う。

 

キリコも爆風を受けたが、軽傷で済んだ。

 

「なんという胆力……!やはり本物か……」

 

「確かに敵の懐に飛び込むならダメージは最小限に抑えられるかもしれない……でも下手したら踏み潰されて一貫の終わりよ!?」

 

「自殺同然なのに一切の躊躇いのなさ、あの男には恐怖ってものがないんですの!?」

 

鉄機隊の面々はキリコの行動に驚愕する。

 

「合わせろ」

 

「え、ええ!メデューサアロー!」

 

キリコの攻撃にエンネアが石化の効果を持つ矢で合わせる。

 

「いきますわよ!豪氷剣!」

 

「兜割り!」

 

デュバリィの氷を纏った剣とアイネスの破壊に特化したハルバードの一撃が続く。

 

「グオォォォッ!」

 

ダメージを負ったレグス=ザミエルから黄金のオーラが吹き出す。

 

「高揚か」

 

「ということは、後少しかしら」

 

「面倒です。一気に決めますわよ!」

 

「承知!」

 

「了解、アーマーブレイクⅡ」

 

「「「デルタ・ストリーム!」」」

 

キリコのクラフト技を起点に、鉄機隊によるバースト攻撃がレグス=ザミエルに炸裂した。

 

「グオォォォ…………」

 

レグス=ザミエルは断末魔の叫びと共に消滅した。

 

 

 

「やったわね」

 

「うむ、手こずらされた」

 

「まあ、腹七分目と言った具合ですけど」

 

「…………………」

 

デュバリィたちが傷の手当てをする中、キリコはリアンヌの方を向く。

 

リアンヌは既にもう一体のレグス=ザミエルを撃破していた。

 

「どうやら、終わったようですね」

 

「マスター!」

 

「ご無事で何より」

 

「貴女たちも無事で何よりです。キュービィーもお疲れ様でした」

 

「ああ」

 

「先ほどの貴方の戦いを見せてもらいました。ずいぶんと無茶をしたようですね?」

 

「さっさと決着を着けたかったからな」

 

「ふう、ダイスを思い出しますね……」

 

「?」

 

「マスター、ダイスとは?」

 

「獅子戦役の時代、ドライケルス軍の歩兵隊長を努めた戦士のことです。切り込み隊長を自称し、いつも最前線に身を置いてました。当然、無茶ばかりでドライケルスの頭痛の種でした」

 

「あのドライケルス大帝の……」

 

「ただ、いつも明るく笑顔の絶えない人物で、兵士たちからは慕われていました」

 

「それで、その御仁は……」

 

「……最期はオルトロス軍の猛将と相討ちになり、戦死しました」

 

「そのような人物が居られたとは……」

 

「そのダイスの口癖が「早く決着を着ければ良いじゃないか」でした」

 

「…………………」

 

キリコは黙って聞いていた。

 

「フフ、詮なきことを言いましたね」

 

リアンヌは微笑む。

 

「……キリコ」

 

「?」

 

アイネスはキリコに近づき頭を下げる。

 

「すまなかった。先ほどの暴言を許してほしい」

 

「気にしてない」

 

「まったく、それならそうと……」

 

「ふふ、なんだかんだ言ってキリコ君を認めてるのね?」

 

「ば、馬鹿をおっしゃい!何でこんな男を……!」

 

「てっきり背後から斬りつけるかと思ったが、杞憂に終わったな」

 

「そ、それはマスターの教えだからですっ!」

 

「そういうことにしておきましょうか」

 

「だ、だから……!」

 

「それより、そろそろ出発しなくていいのか?」

 

「そうですね。目的地は後少しです。参りましょう」

 

リアンヌたちは再び歩き出した。

 

「っ~~~!!」

 

デュバリィは地団駄を踏んだ。

 

 

 

アイゼンガルド連峰山頂に到着したキリコたちの目の前には、古い寺院のようなものが建っていた。

 

「ここが……」

 

「ええ目的の霊窟です。キュービィー、お願いできますか?」

 

「……………………」

 

キリコは入り口に近づく。

 

そこには、人間の手の形をした窪みと標準アストラーダ語が彫られていた。

 

「なんと書いてあるのだ?」

 

「……俺でないと開けられないらしい」

 

キリコは膝をつき、窪みに手を置く。

 

すると、扉が光を放ち、ゆっくりと開いていく。

 

「あ、開いた……!」

 

「我らがどうやっても開かなかったのに……」

 

「やはり、特別な資質が必要のようね」

 

「…………………」

 

リアンヌがキリコを見つめる。

 

「なんだ?」

 

「……そろそろ教えて頂けますか?」

 

「マスター?」

 

「異能者、とやらにですか」

 

「ええ。そして、ワイズマンとやらについても」

 

「…………………」

 

キリコは眼を瞑る。

 

「キリコ君……」

 

「………わかった」

 

キリコは立ち上がり、リアンヌたちを見据える。

 

「わかっているとは思うが……」

 

「もちろん、他言無用を約束します」

 

「とっとと教えなさいな」

 

「…………………」

 

 

 

キリコは異能者がどういうものなのか、その力がなんなのか。

 

そして、自身とワイズマンの因縁についてをリアンヌたちに語った。

 

 

 

「…………………」

 

さすがのリアンヌも驚きを隠せなかった。

 

「……異世界アストラギウスにおいて、確率250億分の1で誕生する突然変異……?」

 

「……あらゆる機械類への適応力、生まれつき高い反応速度、どんな重傷も僅かな間に完治する強靭な生命力、異常とされる生存率、強力な戦闘力……?」

 

「……ワイズマンは全てを陰から支配していた神、そしてキリコ君はその後継者……?」

 

デュバリィたちは思考すら止まり、キリコの言葉を反芻するしかできなかった。

 

「ようやく分かりました。貴方が各地で混乱を引き起こしている理由が。ですが……」

 

リアンヌはキリコの眼を見る。

 

「貴方はそれで良いと本気で思っていますか?」

 

「……………………」

 

「貴方のしていることは闘争の誘発。言わば呪いを加速させているのと同じこと。呪いの根源が本当にワイズマンならば、彼らと共に戦うのが最善では?」

 

「皇帝を撃った以上、俺が戻る場所はない。仮に呪いのせいにしても、全員が納得すると思うか?」

 

「それは……」

 

「不可能、かもしれないな」

 

「ヴァンダール家の子は特に、ね」

 

「それに俺は死んだことになっている。なら俺にできることは呪い根源を引きずり出すことだ」

 

「たとえ、あいつらと殺し合うことになろうともな」

 

「……それが貴方の覚悟ですか」

 

リアンヌは顔を上げる。

 

「そろそろ向かいましょう。ですが、デュバリィ、アイネス、エンネアはユミルに戻りなさい」

 

「マスター!?」

 

「何故です?」

 

「風が変わりました。どうやら、招かれざる者たちがこの地に近づいているようです」

 

「分かりました。その者たちを追い払えばよいのですね?」

 

「行ってくれますか?」

 

「お任せください!」

 

デュバリィたちは魔法陣を出し、転移して行った。

 

「では、我々も行きましょう」

 

「ああ」

 

「キュービィー」

 

「?」

 

「貴方の想いはよく分かりました。ですが、覚えておくことです」

 

「貴方には帰れる場所があります」

 

「…………………」

 

キリコとリアンヌは霊窟に入って行った。

 

 

 

[キリコ side]

 

霊窟内部はヒンヤリとしていた。

 

魔獣の気配はほとんどしない。規模もそれほど大きいものではないようだ。

 

「帝国ではこういう場所は多いのか?」

 

「ええ。霊脈の流れの強い場所に建てられることが多いですね。ですが……」

 

「?」

 

「この場所は霊脈の流れはほとんど感じないのです」

 

「…………………」

 

抽象的なことはわからないが、本来ここに霊窟は顕れないというのは理解できた。

 

これもワイズマンの手によるものだろうか。

 

「どうやら終点のようです」

 

「ああ」

 

俺たちの前に大きな扉があった。

 

どうやらこれも入り口と同じらしい。

 

俺が手を触れると扉はゆっくり開いた。

 

「何かが待っているようです。気を引き締めましょう」

 

言われるまでもない。

 

俺はアーマーマグナムに弾丸を装填し、覚悟を決める。

 

 

 

扉を潜ると、かなり広い場所に出た。

 

(本当にわけのわからない場所だな)

 

「どうやら、これは試しの場のようですね」

 

「試し?」

 

「はい。おそらくは…………!」

 

急に鋼の聖女の顔が強ばる。

 

「これは……!」

 

「来ましたね」

 

前方の空間が歪み、影のようなものが顕れた。

 

「こいつは?」

 

「ロア=ファンタズマ。かつて私がアルグレオンと契約を交わす際に顕れた最終試練そのものです」

 

「アルグレオン……あの機影か?」

 

「ええ。ですが、これは紛い物。見せかけに過ぎません」

 

「どっちみち、倒すことに変わりない」

 

「参りましょう」

 

俺たちは戦闘を開始した。

 

[キリコ side out]

 

 

 

[リアンヌ side]

 

「アーマーブレイクⅡ」

 

「シュトルムランツァー!」

 

やはり紛い物の類。

 

対象者を胎内に取り込むあの厄介な戦法を一度も用いてきません。

 

何よりも、あの時より格段に弱い。

 

「アングリアハンマー!」

 

構えを変えた紛い物を我が一撃で狙いをそらす。

 

「ハンタースロー」

 

すかさずキュービィーがそれに合わせて追撃に出る。

 

「やりますね」

 

無駄のない足捌き、常に冷静沈着を保てる精神力。

 

ドライケルスの軍に合流した時の私でさえ、ここまでには至りませんでした。

 

「戦闘以外能がないからな」

 

「…………………」

 

キュービィーの言葉に私は考えさせられました。

 

アストラギウス銀河。

 

キュービィー曰く、炎と硝煙と死臭にまみれ、生きるために殺し合わなければならない。

 

そんな修羅畜生の世界がキュービィーの強さを作り上げたのでしょう。

 

(強さは認めます。ですが……)

 

彼はあまりにも危うい。

 

自分が戦い以外何もできないと本気で思い込んでいる。

 

私が言えた義理ではありませんが、他に生きる道もあったはず。

 

しかし、彼は戦場に身を委ねる道しか選べなかったのかもしれません。

 

それも、かけがえのないものを犠牲にしてでも成し遂げなくてはならない血塗られた道を。

 

手遅れになる前に、彼を元の居場所に返すことを考えなくてはなりませんね。

 

「来ているぞ」

 

「!」

 

紛い物の攻撃を捌き、逆に騎馬槍を撃ち込む。

 

「心配は無用」

 

「そうか……」

 

キュービィーはそのまま紛い物に攻撃を開始。

 

(キュービィー、貴方は人でありなさい)

 

[リアンヌ side out]

 

 

 

キリコとリアンヌはたたらを踏むロア=ファンタズマを見据える。

 

「キュービィー、行きますよ」

 

「わかった」

 

リアンヌの騎馬槍とキリコのアーマーマグナムの一撃がロア=ファンタズマに叩き込まれる。

 

ロア=ファンタズマはそのまま消滅した。

 

「終わったな」

 

「ええ」

 

だが、ロア=ファンタズマが消えても何も起こらなかった。

 

「ここまでか?」

 

「拍子抜けですが、そのようですね」

 

リアンヌはもう一度見渡すが景色は変わらなかった。

 

「戻りましょう。これ以上ここにいても無益です」

 

「そうだな」

 

キリコとリアンヌは出口目指して歩き出した。

 

『……………………………』

 

ローブを纏った者の存在に気づかずに。

 

 

 

霊窟を出た二人はユミル方面を見つめる。

 

「ユミルに来ているというのは衛士隊あたりか?」

 

「おそらく。彼らはリィン・シュバルツァーの故郷であるこの地を狙っているのでしょう」

 

「となると、ノルティア州の関所黒竜関か」

 

「………行くつもりですか?」

 

「そのつもりだ」

 

「先ほども言いましたが、貴方には帰れる場所があるのです。なぜ自ら捨てるような真似を?」

 

「俺にしかできないことだ。やつを殺すためなら、どれだけ血にまみれようがどうだっていい」

 

「それは己のためですか?それとも、仲間のため?」

 

「………………………」

 

「後者、でしょう?」

 

「………………………」

 

「一つ、助言します。Ⅶ組の名を冠する者たちもまた、動き出したようです」

 

「!?」

 

キリコ思わず振り返る。

 

「各地で活性化していた霊脈の流れが治まりつつあります。貴方の学友たちもその中にいるでしょう」

 

「………………………」

 

「……ともかく、一度ユミルに戻りましょう」

 

「………ああ」

 

キリコはリアンヌと共にユミルへ転移した。

 

 

 

七耀暦1206年 8月8日 早朝

 

「どうしても行くつもりですか?」

 

「悪いが、もう決めたことだ」

 

「キリコ君……」

 

早朝に荷物を纏めたキリコはリアンヌに、ユミルのふもとにある黒銀の鋼都ルーレまで転移してほしいと頼み込んだ。

 

「昨日も言ったとおり、俺は公的に存在しない人間だ。死人なら何をしようとあいつらには何の嫌疑も及ばない」

 

「仲間のために汚名を自ら被るか」

 

「そんな大層なものじゃない」

 

「………分かりました。止めても無駄のようですね。お望み通りルーレへと送りましょう」

 

「すまない」

 

「ですがキュービィー、心しなさい。次に会う時は貴方を討ちます」

 

「わかっている」

 

「では、これを」

 

リアンヌはキリコに鉱石のようなものを渡す。

 

「これは?」

 

「盟主の加護を得ていない者が使う転移石です。一度きりですが、任意の場所に転移することができます」

 

「……世話になった」

 

キリコは転移石を握り、転移して行った。

 

「マスター、これで良かったのですか?」

 

「彼はいかなる手段を用いてでも、目的を成し遂げるでしょう。己の身にどんな災いが降りかかろうとも」

 

「おそらく……」

 

「ですが、いくら孤独を望もうとも、彼の眼には仲間の姿があります。それに賭けましょう」

 

「「はい……」」

 

アイネスとエンネアはひざまづいた。

 

(キュービィー、貴方が死すら許されない境遇は分かりました。貴方がその流れを絶ちきろうとしていることも)

 

(ですが、それは傲慢に過ぎません。なればなおのこと、仲間を信じなさい)

 

(キュービィー、貴方は生きているのですから)

 

リアンヌはキリコの行く末を案じた。

 

 

 

「………ところで、デュバリィは?」

 

「……まだ寝ているようです」

 

「時々寝言を言ってます「まぁ~すぅ~たぁ~」と」

 

「……はぁ………」

 

リアンヌは"娘"の一人の様相に大きなため息が出た。




次回、黒竜門で戦います。
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