七耀暦1206年 8月15日
ミシュラム湿地帯
【………………………】
悠然と佇む蒼と黒の機甲兵の眼前には、大破したドラッケンⅡ、シュピーゲルS、ヘクトル弐型、ケストレルβが転がっていた。
「皆……さん……」
目の前の光景に白い髪の少女はただ、膝を落とすしかなかった。
三日前 8月12日
(やはり衛士隊の数が少ない。動きからして、ミシュラム方面に集まっているようだ)
キリコはクロスベル市港湾区で衛士隊の動きを探っていた。
現在、クロスベルにおける駐留軍や衛士隊の動きが妙に静かだという情報を手にした。
不審に思ったキリコはオリヴァルト皇子の後押しを受けてクロスベルに潜入することにした。
(噂ではルーファス総督はミシュラムの湿地で何かやろうとしているらしい。どうせろくでもない何かだろうが。ん?)
キリコのARCUSⅡに通信が入る。
「(この番号は……)なんだ?」
『ごあいさつだな。キリコ、今どこにいる?』
「どこだろうと構わないだろう」
『フム、クロスベル市の港湾区あたりかな?』
「……………………」
『フフ、種明かしすると私もクロスベルに来ているのだよ』
「総督府の手伝いか」
『まあそれはさておき、直に話がしたい。中央広場にあるレストランで待っている。ではな』
「おい!………チッ」
キリコは舌打ちし、中央広場へと向かった。
レストランに到着したキリコはウェイトレスに案内され、二階の奥のテーブルに通された。。
「待っていたよ」
「…………………」
キリコは憮然としながらロッチナの座るテーブルについた。
ロッチナは気にも留めず、料理を注文した。
「さて、話というのは他でもない。お前に足止め役をしてほしい」
「足止め?」
「Ⅶ組のことだ」
「……なんだと?」
「彼らの足取りを追ってみたところ、サザーラント州、ラマール州で霊脈とやらを静める活動をしていることがわかった。帝国東部の警戒が厳しい今、次にクロスベルに来るのは明白だろう」
「それはわかった。だがなぜだ」
「騎神は知っているな?」
「ああ」
「騎神は灰、蒼、緋、紫、銀、金、黒と全部で七体存在するのだが、その内の一体である金がここクロスベルにあるらしい」
「……ルーファス総督の狙いはそれか」
「間違いなくな。さらにクロスベルの霊脈の動きが活発になっているらしい。彼らが来る理由は言うまでもないだろう?」
「…………………」
「それで?受けるか?」
「…………………」
キリコは顎に手をやり、黙考する。
「……いくつか条件がある」
「言ってみたまえ」
「それは──」
キリコはロッチナに二代目Ⅶ組の足止め役の交換条件として、あることを告げる。
「……良いだろう。とりあえず、まずは……」
「ああ……」
翌日 8月13日
「……失礼」
「なっ!?なんです!あなたたちは!」
クロスベル市西通りにあるアパルトメント・ベルハイム。そこの一室に銀髪の女軍人が押し込む。
「リナ・クロフォードだな?」
「ええ、そうよ!軍人がいったい何の用なの!?」
「あなたには国家非協力罪の疑いがある。そちらの子ども共々来てもらおう」
「国家非協力罪!?いったい何の証拠があって……!」
「ごねるならさらに罪が重くなるが?子どものためを思うなら賢明な判断を求める」
「………………………」
リナはケンとナナの兄妹を見る。
「…………………わかりました」
「おかーさん!」
「どこ行くの!?」
「……大丈夫よ。こんな疑い直ぐに晴れるから」
「さっさと来ることだ」
女軍人はリナたちを連行した。
「こちらだ」
「?」
リナたちは西クロスベル街道入り口に連れて来られた。
「彼から話があるそうだ」
「…………………!」
リナは警戒心を露にするが、歩いて来た青年を見て驚きを隠せなかった。
「わざわざ来て頂き、ありがとうございます」
「あなたは……キリコ君………」
「おねーちゃんのおともだちだ~!」
「カッコいいおにーちゃんだ~!」
ケンとナナはキリコに駆け寄る。
「こんな形で呼び出してしまったこと、お詫びします」
「キ、キリコ君……どうして………」
「落ち着いて聞いてください。近いうちに、衛士隊による人狩りが始まります」
「人狩り……?」
「国家非協力罪などとイチャモンをつけて連行し、タングラム要塞に送る。要するに体のいい徴兵です」
「そんなことが……」
「特に、Ⅶ組の一人であるユウナの家族ともなれば真っ先に狙われるでしょう。こう言ってはなんですが、人質としては最高のカードと言えます」
「………………」
「その前に帝国へ脱出してください。あなたのご主人もいずれ俺が脱出させます」
「そういうことだったの………」
リナは目を伏せる。そして顔を上げる。
「キリコ君の気持ちは嬉しいわ。でもね、私たちは残るわ」
「なぜです?」
「私の役目はね、夫や子どもたちが帰って来る家を守ることなのよ。特にユウナはたくさん食べるから、ご飯をたくさん作っておかないと」
「…………………」
「大丈夫よ。それにクロスベルの女はね、これくらいのことでへこたれたりしないわ」
リナの精一杯の笑顔の前に、キリコは折れるしかなかった。
「……わかりました。ですが、くれぐれも」
「ありがとう。どうする?キリコ君もご飯食べていく?」
「せっかくですが、俺もやることがあるので。後、俺のことは内密に」
「わかったわ。キリコ君も気をつけてね」
「はい……」
「ケン、ナナ。行くわよ」
「は~い!」
「またね~!」
リナたちは戻って行った。
「……失敗だな」
「ああ」
「ユウナ・クロフォードの家族を帝国西方へ脱出させる。それがロッチナとの交換条件の一つだったな。だがああも言われては折れるしかないか」
銀髪の女軍人──テイタニアはキリコを労う。
「それで、どうするつもりだ?」
「……こうなった以上、他に手段はない。あいつらを止める」
「例え……殺してでも………」
「……そうか」
キリコの昏い目を見たテイタニアは去って行った。
二日後
(あの飛行艇はカプア宅急便の。わざわざ空からやって来るとはな)
キリコはロッチナからの情報で、東クロスベル街道外れにある場所へとやって来た。
(Ⅶ組は全員いるな。無事で何よりだ。だが……)
(……あいつらと会うのも今日までかもな)
キリコは二代目Ⅶ組の姿を確認し、去って行った。
「なんだか騒がしいですね」
「息苦しいような感じがしますね」
「うん……どこか慌ただしいというか……」
ユウナは故郷の空気に違和感を覚える。
「そういえば、ユウナの実家もこの近くだったな」
「うん。心配だし、ちょっと寄り道しても良いよね?」
「もちろんです」
「んじゃ、行こうぜ」
ユウナたちはアパルトメント・ベルハイムへと急いだ。
「ただいま!」
「まあ、ユウナ!」
「お母さん……良かったぁ……!」
ユウナは母親の顔を見るなり安堵の表情を浮かべる。
「大丈夫!?ケガとかない!?」
「大丈夫よ。あなたのお母さんはこんなことじゃめげないわ」
「それは何よりです」
「………………」
アルティナは部屋の中を見渡し、黙った。
「どうかしたのかよ?」
「いえ、何でも」
「?」
(軍靴のような跡が見受けられますね。おそらくは……)
「さ、今からお茶を淹れるわ。あまり時間は取れないでしょうけど、少し休んでいきなさいな」
「お心遣い、感謝します」
「どうも」
「ここはお言葉に甘えるとしましょう」
「ありがとう、お母さん」
ユウナたちはしばしの休息を取り、ベルハイムを後にした。
「それよりよ」
ベルハイムを出た直後、アッシュは口を開く。
「なんかあったんだろ?」
「…………………」
「な、何かって何よ?」
「……先ほど、ユウナさんのご実家の床に多数の同じ足跡が見受けられました」
「大きさと形状から言って、軍靴の類いかと」
「ぐ、軍靴って、何でそんなのがウチにあるのよ!?」
「おそらく、衛士隊辺りがユウナさんのご実家にやって来たのかもしれません」
「な、なんで……」
「今のところ、僕たちⅦ組はお尋ね者扱いだ。多分、その家族であるユウナのお母さんは……」
「そんな………」
ユウナはうなだれた。
「そこのガキ共、何してる」
「なっ!?」
背後からの声にクルトたちは身構える。
「セ、セルゲイ課長!?」
「よう、ユウナ」
セルゲイと呼ばれた男はニヤリと笑う。
「ユウナさんのお知り合いですか?」
「う、うん。この人はセルゲイさんって言って特務支援課の課長だった人よ」
「よろしくな、Ⅶ組」
「僕たちのこともご存知でしたか」
「おそらく、プラトー主任かランディ教官からお聞きになったんですか?」
「まあな。とりあえず、ここじゃなんだ。駅前のジオフロントAを通ってジオフロントBに来い。話はそこからだ」
「大丈夫なのか?」
「罠、ではなさそうですね」
「アルってば、何言ってるのよ」
「罠だったらブチのめせばいいだけだしな」
「アッシュも!」
「ハハハ、企みがあるなら回りくどい真似はしねぇよ。待ってるぜ」
セルゲイは去って行った。
「とにかく、行きましょ」
ユウナたちはセルゲイの言うとおりに、ジオフロントAに向かった。
「おっ!来たな」
「……久しぶり」
「ヨナ!それにシュリさんも!」
ジオフロントBにある端末室についたユウナは眼鏡をかけた少年と青い髪の少女に駆け寄る。
「知り合いか?」
「ヨナ・セイクリッド。確かエプスタイン財団の研究員ですね。一時期はハッカー兼情報屋として活動していたとか」
「さすがは黒兎。ボクのこともご存知か」
「へぇ?大したガキだな」
「限りなく黒に近いグレーなんだけどね」
「そちらの方は?」
「シュリ・アストレイドさん。アルカンシェルのアーティストなのよ」
「……よろしく」
「あのアルカンシェルの……!」
「ユウナさんは顔が広いんですね」
「ほとんどはロイド先輩たちを通じてなんだけどね」
ユウナは苦笑いを浮かべる。
「ククク、ずいぶんと打ち解けたみたいだな」
セルゲイが歩いて来た。さらにその後ろに二人の男女もいた。
「ダドリー警部!それにノエルさん!」
「騒がしいぞ、クロフォード」
「良いじゃないですか。ユウナちゃん、久しぶりだね」
「お二人もユウナさんのお知り合いなんですね」
「ああ、アレックス・ダドリー。元クロスベル警察捜査一課のエースと言われた凄腕だ。あっちがノエル・シーカー。元クロスベル警備隊若手のホープって言われてる」
「セ、セルゲイさん!」
「あはは、改まって言われると恥ずかしいです……」
「事実だろう。とりあえず、そっちの名前も聞かせてくれ」
セルゲイに促され、二代目Ⅶ組も自己紹介をした。
「んで?話ってなんだよ、おっさん」
「ちょっと、アッシュ!」
「別に構わん。さて、そろそろ情報交換といくか」
セルゲイの言葉にその場にいる全員の顔つきが変わる。
「まずはユウナ、お前らの話を聞かせてくれ」
「わかりました。良いよね、みんな」
「ああ」
「はい」
「まっ、良いんじゃね?」
「お味方のようですし、信じても良いかと」
「わかった。では報告します」
ユウナたちは黄昏が発現してから今日までのこと、クロスベルを訪れたことを語った。
「………なるほどな」
「信じられん……」
「まさか、帝国でそんなことが起きたなんて……」
セルゲイは瞠目し、ダドリーとノエルは驚きを隠せなかった。
「マジかよ……!」
「黄昏……」
パソコンで作業していたヨナとそれを見ていたシュリは二の句を継げずにいた。
「そしてこのクロスベルの霊脈ってのが荒れているからそれを静めに来た、そうだな?」
「そうです」
「よしわかった。この件はお前らに任す」
「セルゲイさん!?」
「若いモンの可能性を信じるってのが俺らオヤジどもの特権でな」
「実はめんどくせぇだけじゃねぇの?」
「ククク、そうとも言うな」
「あ、あはは……」
「まあ俺らも自由に動けないってのが本音でな。今こうしてる間も衛士隊の連中の目を欺いている。それも長くは続かん」
「やはりそうですか……」
「衛士隊のほとんどは帝都憲兵隊から選抜された精鋭。彼らがその気になればクロスベルを武力制圧することも容易いかと」
「大人とガキの喧嘩みてぇなもんだな」
「……その喧嘩にもなれれば良いんだがな」
「課長……」
ユウナは不安そうにセルゲイを見つめる。
すると──
「おいアンタたち!やべぇぜ!」
ヨナが大慌てでユウナたちの方を向く。
「どうした!?」
「どうやら見つかったみたいだ。衛士隊の連中がジオフロント内に入って来てる!」
「チィ!仕方ない!霊脈の件、お前たちに任せる!」
「ダドリー警部……」
「お優しいのですね♪」
「カカ、ツンデレかよ」
「やかましい!」
ミュゼとアッシュの軽口にダドリーは憤慨する。
「まあまあ。とにかく、ここは私たちが時間を稼ぐから君たちは脱出して!」
「大丈夫なんですか……?」
「大丈夫。それよりユウナちゃん、二人を頼むわね」
「ノエルさん……わかりました!任せてください!」
ユウナたちはヨナとシュリと共にジオフロント脱出を開始した。
「気持ちの良いガキ共だな」
「ユウナちゃん、良い仲間に巡り会ったようですね」
「さすがはバニングスの後輩なだけはある」
「あいつら、第Ⅱ分校ってことはランディの教え子でもあるみてぇだしな」
「ランディ教官か~、見てみたい気もしますね」
「想像は出来んがな」
殿を買ってでた三人は二代目Ⅶ組の背中を見つめた。
「……それにしても、どうしてここが」
「まさか、密告者が?」
「考えたくはないが、その可能性はある」
セルゲイたちは得物を構えつつ、不安に駆られた。
だが衛士隊は一向に現れなかった。
一方、ジオフロントAに展開していた衛士隊員たちは奥に進めずにいた。
「くっ!またやられた!」
「奴はスナイパーライフルを使っているぞ!」
「まさか、レジスタンスの奴らなのか!?」
「わからん!まずはぐわっ!?」
「おのれ!卑劣な真似を!」
次々と味方をやられていく光景に、衛士隊員の一人が吠える。
(長距離狙撃……以前マヤからコツを聞いていて良かったな。シドニーの説明は何一つ理解しきれなかったが)
偶然、二代目ⅦがジオフロントAに入って行くのを見かけたキリコは嫌な予感を覚えた。
テイタニア経由でスナイパーライフルを入手し、ジオフロントで待ち構えていると、予感は的中し、衛士隊が突入。
キリコは迷うことなくゲリラ戦を展開、衛士隊の一方的な足止めに成功。
(そろそろ移動するか)
キリコは最後の狙撃を行い、ジオフロントを脱出した。
「ふう。何とか脱出できたわね」
「途中、魔獣や人形兵器と鉢合わせたけどね」
「とりあえず、ミシュラムを目指すか」
「いや、止めておいた方がいい」
シュリが口を挟む。
「え?どうして……」
「今ミシュラムへの船は一便も出てない。このまま行っても捕まるだけだぜ」
「そんな……!」
「ずいぶんと警戒しているみたいですね」
「ちょっと前にジオフロントに侵入した奴がいてさ。なんでも、タングラム門とベルガード門両方を混乱させようとしたらしいんだ」
「そんなことがあったの!?」
ヨナの言葉にユウナは驚きを隠せない。
「しかもさ、その侵入者ってのがジオフロントの排水パイプを通って海に逃げた。ちなみに死体は上がってない」
『………………………』
ユウナたちは言葉を失う。
「とにかく、それ以来港湾区の警戒は強まっているのさ」
「ならどうすれば……」
「可能性があるとすれば、南のウルスラ間道かな」
「確かに、ウルスラ間道からならミシュラムの湿地帯に繋がっています。ですが」
「向こうも対策しているだろう」
「とにかく、行ってみましょう。結論を出すには早計かと」
「そうね。行ってみよっか!」
「話は決まったな」
「うん。二人とも、ありがとう」
「そんじゃ、ボクは行くよ」
「またな」
ヨナとシュリは去って行った。
「あたしたちも行きましょ」
「…………………」
「クルトさん?」
「いや、上手く行き過ぎてると思ってね」
「え?」
「いくらジオフロントが複雑な造りをしてると言っても、相手は精鋭揃い。どこかで鉢合わせする可能性はあった」
「ですが、鉢合わせすることはなかった」
「偶然じゃないの?」
「アホかてめぇ」
「何よ!」
「脱出路だけ開いてて他は全部閉まってました、んな偶然あるかよ」
「しかも、ジオフロントA区域方面の扉はもれなく閉まってましたね」
「そ、そういえば……!」
「偶然にしては不自然です」
「……僕たちは誘き出されたのかもしれない」
「でも、何のために……」
「それが分かれば苦労はねぇよ」
「ミュゼさん、何か分かりませんか?」
「……………………」
ミュゼは目を瞑り、異能を発動する。途中でフラりと倒れこんだので、ユウナが支える。
「大丈夫?」
「はい、ありがとうございます」
「何か分かったのかい?」
「………分かりません。ただ……」
「ただ?」
「まるで……決められた盤面が何かに歪められているような感じがします」
「歪められている……?」
「それも呪いが原因か?」
「分かりません………」
「とにかく、そろそろ移動しましょう」
「だな」
「ミュゼ、歩ける?」
「はい、大丈夫です」
ユウナたちは移動を開始した。
(あの人はもう居ない……なのに……この気持ちはいったい………)
「フフ、衛士隊も事態の収束に大混乱だ。上手くやったな」
「成り行きだ」
ジオフロントを脱出したキリコはロッチナの手引きでミシュラムのホテルにいた。
「Ⅶ組はどうやってこのミシュラムに来ると読む?」
「どうにかして来るだろう」
「まあ、十中八九ウルスラ間道を通って来る。そのために湿地帯手前には中隊が陣を張っている。衛士隊もさらさら怠りない」
「…………………」
キリコは腕を組み、瞠目する。
「フェンリールだが、お前の言っていた仕掛けは施してある。まあ、初見で気づかれることはないだろう」
「そうか。それで、他は?」
「直ぐに出来ることではないのはわかっているだろう。まあ、データは揃っているし、近いうちにお披露目できるよ」
ロッチナは紅茶を啜る。
「……………………」
キリコはコーヒーを飲み干し、席を立った。
「矛盾しているな」
「?」
「口で言っていることと実際にやっていること。今のお前はまるで天秤のようだ」
「……………………」
キリコは振り返ることなくホテルを出ていった。
「フフフ……」
ロッチナは紅茶のお代わりを注文した。
ユウナたちはウルスラ間道を通り、湿地帯を目指していた。
だが手前で陣を張っている衛士隊に足止めを食っていた。
「やはり警戒されているな」
「いよいよ手詰まりですか」
「いや、そうとも限らない」
「諦めるのは早いよ~」
「えっ!?」
ユウナたちが振り向くと、そこにはⅨ組主計科生徒のスタークとルイゼがいた。
「ルイゼ!」
「スターク!君もクロスベルに来てたのか!」
「うん。ユウナちゃんも久しぶりだね」
「君たちなら来ると思ってたよ」
「ったく、どいつもこいつもしぶてぇな」
「ふふふ、それも第Ⅱ分校の美点かと」
「はは、言えてるかもね」
「とにかく、一度聖ウルスラ医科大学に行こう。もう一人クロスベルに来ている分校生徒がいるんだ」
「へぇ、誰だろ?」
「じゃあ、出発だね」
新Ⅶ組はスタークとルイゼの先導で聖ウルスラ医科大学を目指す。
「まさかヴァレリーさんも来てたんですね」
「しかも医科大学の看護師見習いとしてですか」
新Ⅶ組はナース服を着た主計科生徒のヴァレリーに再会した。
「ククク、コスプレかと思ったぜ」
「……やめてくんない?その言い方」
ヴァレリーはジロリとアッシュを睨む。
「セシルさん、お久しぶりです」
「ユウナちゃんもね。そしてはじめまして、Ⅶ組のみんな。看護師のセシル・ノイエスよ」
「はじめまして」
「ふふ、綺麗な方ですね」
「セシルさんもユウナさんのお知り合いでしたか」
「うん。近所に住んでて、昔から知ってるの」
「そうね。おっと、積もる話はあるけれど、そろそろ行かなくちゃ」
「患者さんの所にですか」
「ええ………」
セシルは階段を上がろうとしたが、ユウナたちの所へ戻る。
「セシルさん?」
「……あなたたちも会っておくべきかもしれないわね」
「え?」
「ほんとは守秘義務違反になるんだけどね。この医科大学には特別病棟があってね。そこにある人が入院してるの」
「入院……」
「!?まさか……」
「ええ。エレボニア帝国皇帝ユーゲントⅢ世陛下よ」
「……………………」
アッシュは拳を固く握った。
「では、我らはこれにて」
「陛下も今は御身のことをお考えください」
「うむ……」
ルーファス総督とヴァンダイク名誉元帥との面会を終えたユーゲントⅢ世は窓の外を見つめていた。
(世界は刻一刻と戦乱へと動いている。これを止められるのはⅦ組を冠する若者たちか、それとも……)
次回、第一章は終わりです。