帝都の鬼姉妹。 ふぉっくすらいふ!外伝   作:百合道いおりん

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12話 糸引き

 

 

『戦闘突入、敵は動く屍、正体不明。』

花鈴、狂骨、化け猫の三人チームに蟷螂坂の妖力による連絡が入る。

昔は客室に使われていたのであろう、風呂の設置された一部屋を探索していた一向はその言葉に顔をしかめる。

「動く屍…てっきり餓鬼辺りかと思っていたが。」

聞いたことのない敵の正体に狂骨が首をかしげる。

「てかさ、妖怪も生き物なんでしょ?まだ見てないけど死体が動くなんてあんの?」

「普通はあり得ないわよ…だからびっくりしてるの。」

「流石に実際その相手を見てみないと分からないね。」

花鈴の言葉に化け猫と狂骨も困ったように目を細めた。

妖怪とはいっても実際に臓器や神経が存在するれっきとした生き物である。

常人には感知ができない故に一般的に認知されてはいないが本質的にはそうであった。

「てことはなに?誰かが人形みたいに死体を操ってるってことかな。」

「まぁそう考えるのが自然だが…。」

何かこの怪異に関する手掛かりはないかと、狂骨が妖力の痕跡を探しつつ言う。

その時、ゾッとずる妖力が放たれる感覚が三人を襲った。

ヒヤリとした水滴が背筋を通るような感覚に三人が身構える。

ザリ──

足を引きずるような音が響く。

それと同時にずり、ずり、と何かが這いずるような、そんな音が聞こえた。

狂骨と化け猫が部屋から通路につながる扉に身体を向ける。

ただ花鈴だけはその場に立ったまま、何かを考えるように顎に手を当てている。

「うーん。」

「おい花鈴!なにしてんのあんた!?」

「多分そっちだけじゃなくて──」

化け猫の言葉に花鈴が天井を見上げながら呟く。

天井には換気に使われていたのだろう大型のダクトがあり、そこにもうけられた格子戸は衝撃を与えれば壊れそうな程朽ちていた。

ドン、と部屋の扉を突き破り、動く屍たちが部屋の中に雪崩れ込む。

同時に金属が破断する音と共にダクトの格子戸が落下し、その中からも屍たちが室内へと落下してきた。

「ほらね!」

花鈴が左手を鞘に見立てるように右手に添え、眼前に落下してくる屍に向かい抜刀術の様に横薙ぎに振るう。

次の瞬間には動く屍は動かぬ死体となり、地面に落下していた。

その右手にはいつの間にか発現していた姫斬りが握られている。

「挟撃か!?」

狂骨が声を上げながら目の前の屍に霊銃を発砲する。

その構えは真っすぐ銃器を前に突き出すような標準的な構えではなく、手と手を重ねるように銃を握り、両肘をまげて銃を眼前で構える近接戦に特化した構えをしていた。

霊銃の一撃で屍が吹き飛び、沈黙する。

餓鬼の様な下級の妖怪程度ならしっかり急所を狙えば一撃で粉砕するその威力は並ではなかった。

「やっぱり裏に糸引いてるやつがいるわね!」

化け猫も懐から大通しを抜き、鈴音とは違い柄の前後から両刃を発現させる。

そのまま化け猫は狂骨の射線を遮らぬように姿勢を低くすると腰のあたりに大通しを構え、屍の群れの中に突っ込んだ。

突っ込んだ群れの先頭にいた屍の腕をかいくぐり、瞬時に足──というより股関節の前後を入れ替えるように身体を反転させ、その力で屍の身体を半分にぶった斬る。

そして群れに背を向けるような姿勢になりながらも背後から掴みかかってきた屍に馬が蹴る様に後ろ蹴りを放って蹴り飛ばす。

更に群れに向かって身体を向きなおしながら回転する動きで一体、更にまた身体を転回させながら一体、一体、一体と舞う様に円を描きながら屍の群れを斬り刻んでいく。

狂骨の動きも尋常ではなかった。

近接専用の独特の構えのまま、銃を持ったまま自分に迫る大量の群れを捌ききっている。

目の前の屍の頭に霊銃を撃ちこみ、即座に側面から突き出された別の屍の腕を頭を伏せて避けつつ肘を突き出し、強烈なエルボータックルで屍を転倒させる。

床に倒れた屍にとどめを刺さずにすぐさま反転し背後から新たに掴みかかる屍の腕を銃を持たない左手で捌きつつ脳天に一発。

さらに振り向かずに右手を後ろに回し、倒れた屍に発砲し始末した。

今度は胴に向かってタックルの様に突っ込んできた屍の腕が腰に周る前に左手で襟をつかみ膝蹴り一閃。

その後頭部をハンマーで叩き割るように銃床でぶん殴り、力ずくで粉砕。

呼吸を止めた屍を盾にするように掴み上げると、前蹴りで前方に蹴り飛ばし怯んだ他の屍の脳天を複数、的確に撃ち抜いた。

数分後──

雪崩れ込んだ動く屍の群れは完全に沈黙し、床に折り重なるように倒れ伏していた。

「これで一旦全部っぽい?」

花鈴はべっとりと姫斬りの刀身についた腐臭のする血に顔をしかめ、ぱっぱと何度か血振るいをしてから己の肉体に姫斬りをしまった。

「そのようだね、しかしこの死体の正体は──!?」

狂骨が屍を調べようと膝をついた途端、妖力が霧散するように屍たちは消え去り、その場には戦闘によって荒らされた客室のみが残る。

「これ、妖力で作られたってことよね?本物の死体を操ってるわけじゃなくって。」

「そのようだね…これは。」

刃を収めた大通しを懐にしまいながら化け猫が言い、狂骨が頷く。

「ふーん。」

話を聞きながら花鈴が先ほどまで感じていた嫌な気配を探るべく目を閉じる、しかし上手く妖力を感知できなかったのか別の気配を感じたのか。

思案する狂骨と化け猫を尻目に部屋から出て通路を見渡し、ある何かを発見すると納得したように頷いた。

「あー、やっぱりかぁ~。」

「やっぱりって、何よ花鈴?」

「監視カメラ、あれ動いてるわ。」

花鈴が通路の天井を指さしながら、室内にいる二人に声をかける。

その言葉に狂骨と化け猫は一瞬顔を見合わせ、急いで通路に出ると花鈴の指さす方向にあった監視カメラを見る。

このビルが閉鎖された際に放置されたと思われていたカメラはよく見れば電源ランプのようなものが点灯しており、動いていた。

「上手く挟撃されたのはこのためか!?」

狂骨が霊銃を放ち、監視カメラを破壊する。

弾け飛んだ監視カメラにはコードが付けられておらず、バッテリー式のものでそれが個人で設置できるものだということを示していた。

 

 

 

 

寂れたビルの一室、カーテンもなくガラスは一部がひび割れ、壁紙や床板が使われていた当時の面影を残しながらも何もない殺風景な部屋。

その一室で床にクッションを置いて胡坐をかきながら、ノートパソコンを眺める女性が一人いた。

癖がありまともに手入されていない黒髪を乱雑に伸ばしており、瞳に昏い影を秘めているような女性は成人にはなっているだろうがどこか少女のような幼さが顔立ちに残っている。

おそらく化粧っ気のなさや顔つきにまだ大人らしさがないことが原因であろう。

人によってはまだ彼女を十代半ばに思うかもしれない。

服装もダルッとしたパーカーに着古されたスウェット姿であった。

女性はノートパソコンの画面を眺めながら顔をしかめ、傍らに置かれていたコンビニ袋から度数の高めなチューハイを取り出すとプシュッと炭酸の弾ける音を響かせながらプルタブを開け、口に含む。

さらにコンビニ袋をガサガサと探り中に冷たい缶の感触しかないことが分かるとさらに険しく顔を歪ませ、憂さ晴らしの様に袋を掴んで中身ごと部屋の隅に投げ捨てる。

「チッ、4階の二人はまだ気づいてないってのに…勘が良い奴が2階にいやがったか、てかなんだあの変な集団はよ。」

吐き捨てるように女性はそういうとさらにチューハイを口に含み、何かを確かめるようにスウェットのポケットをまさぐって中から黒ずんだ布切れを取り出す。

「まぁいっか、タネはまだまだあるし、あいつらも殺して使ってやるよ…前のあいつらみたいに。」

くひひ、と女性が笑う。

笑いながら胡坐を解いてクッションを枕にしながら地べたに寝そべり、野球の観戦でもするかのように画面を眺めながら缶を口に運んだ。

寝ながら缶を傾けたため口から中身がいくらかこぼれ、床に染みを作るが女性は気にせず、パーカーのそでで口を拭うと再度笑った。

「まっ、あがいてもらった方が楽しいかな~。」

 

 

 

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